「ねえ小林、トールさんって一体いつからここにいるの?」
ある日曜の午後、ルリが唐突に切り出してきた。ドラゴン化が始まって以来、彼女は他のドラゴンの生態に興味津々だ。
特に強い興味を持っているのは、ドラゴンの火炎袋である。
「何時からって、あぁ、いつからだっけ」
「あれ、またドラゴンの話?」
そんな会話を行っていると、ユカも会話に入ってくる。
「うん、小林のお姉さんの所にもドラゴンがいたんだけど」
「あぁ、エルマさんと同じ」
「そう、おっぱいがやばかった」
「そんなに」
そう言われ、俺を見つめるルリに従うように画像を見せる。
「やべぇ、でけぇ」
「ドラゴンって、誰もがこんな感じなの?」
「いや?ドラゴンにも色々いる。トールとかもそうだし」
そう言うとルリがトールとの出会いの質問を再度してきたので答える。
そうして、少し前の出来事を思い出す。
その時は、まだ姉さんと一緒に暮らしており、姉さんの代わりに家事をやる事が多かった。
実家からこの高校に通うのは大変であり、保護者が必要という事で、こっちで働いている姉さんの所で居候する形で。
ルリとは昔から色々な縁で遠いが幼馴染みのような関係ではあったが。
「それにしても、また姉さんは無茶な飲み方をしていたな。昨日はなんか山から帰ってきたようだし」
俺は早朝に用事があってすぐに出掛けていた為、今朝に何が遭ったかは知らない。
だが、俺はそんな事よりも、もっと嫌な事があった。それは家の食材がほぼ尽きていた事だ。なので高校に行くついでにスーパーに行って、色々と買ってきた。
そして、高校から帰り、家に着いたのが夕方の6時半。
「ただいまーっと」
家に入り鍵を閉めて靴を脱ごうとした途端に違和感を感じる。玄関のタイルの上に誰かの靴があったからだ。
黒光りするエナメルのハイヒール。普段この家には有り得ない品だ。
「姉さん? 居るのか?」
声を掛けながらリビングに向かうとソファに座る人影が見えた。振り返ったその人物は見覚えのない女性だった。
「おかえりなさい」
柔らかな声とともに微笑む姿は絵画のように整った顔立ち。肩口で揃えた金色の髪と翡翠色の瞳が印象的だ。
だが何より目を引くのはそのスタイルだった。薄いシャツ越しでもわかる豊かな胸。くびれた腰。細く伸びた脚。
(なんだこの人……?)
脳裏に警報音が鳴り響く。
俺は鞄を床に落とし身構えた。
「どなたですか?」
平静を装いつつ質問する。女性は眉を寄せた。
「……? こばや……小林?」
一瞬首をかしげたあと女性の目が大きく見開かれる。
「え? あ、あなたが……弟?」
俺の表情が固まった。この部屋には今姉と俺しか住んでいない。
(まさか……姉さんが連れてきたのか?)
不安が胸を締めつける。だが女性の態度からは敵意が感じられなかった。
「はい……この部屋の者ですが」
慎重に答えると女性は。
「なるほど、小林さんから聞いていましたが、確かにそっくりですね」
「えっと、あなたは」
俺は思わず尋ねてしまった。
「初めまして!今日からこの家でメイドをする事になりましたトールと申します!あなたのお姉さんである小林さんとは愛し合う仲のドラゴンです!」
「・・・」
そう、突然、言われた言葉に対して、俺は理解が追いつかなかった。
確かに姉さんはメイド好きだ。
今年で婚期を逃しそうと言っていた。そんな姉さんが、メイド好きというのはよく知っている。
しかし、愛し合う仲のメイドとなれば、さすがの俺も驚愕するしかなかった。
「あのー」
「・・・状況はよく分からないけど、とりあえずは姉さんの事をお願いします」
「いや、混乱し過ぎてるよ!」
俺がそう返事をしていると、姉さんが帰ってきた。
「あっ、お帰りなさい!小林さん!今、弟さんから了承を貰いましたよ!」
「いや、この子、頭が混乱している所だから!」
「姉さん、大丈夫だよ」
俺はそう言いながら、指を立てる。
「世の中、愛があれば、どんな事でも乗り越えられる。俺は姉さんとトールさんの恋愛、応援しているから」
「弟さん!」
「いや、なんで弟は諦める方向になっているの!」
「だって、もう、結論は決まったし」
そうして、混乱しながらも、俺は姉さんから事情を聞く。
だが、その事情は。
「・・・酔っ払って、山に入ったら、山で傷ついていたトールさんを姉さんが助けて、そのまま恩返しっと」
「はいぃ♡どうでしたか?」
「姉さん、これは責任を取らないと駄目だなぁ」
「弟さん!」
「いや、納得しないの!あぁもぅ、だったらトール!」
「なんでしょうか?」
「家の弟に家事で勝ってみな」
「・・・良いでしょう、これも試練ならば、受けて立ちます!」
そうして、俺とトールさんの出会いは波瀾万丈な始まり方をした。
「・・・それで、聞くけど、今の所は」
「・・・全戦全勝」
「ドラゴン相手に全戦全勝って、色々と凄いのか、凄くないのか」
イルルは2人目のヒロイン?
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あり
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なし