雨音が窓ガラスを叩く音が強くなり始めた。梅雨特有の湿った空気が部屋にも染みていく。ルリは窓際で外を眺めていたが、その黒髪が微かに揺れ始めたのが見えた。
「……あれ?なんか髪が変……」
ルリが困惑した声をあげる。彼女の周りに小さな稲妻のようなものがチラつき始めた。バチバチッという静電気の音が聞こえる。
「ああ、始まったな」
俺はほとんど条件反射でそう言った。トールとの思い出話でちょうど放電のくだりを思い浮かべた矢先だったので、あまりにもタイミングが合いすぎて内心笑ってしまった。
「えっ?えええ!?なんか髪の毛浮いてる!指先がピリピリする!」
ルリが両手を広げて空中で踊るようにパニックになっている。彼女の周囲には青白い火花が散り始め、服の袖口まで静電気でふくらんでいる。
「小林君……? これって……?」
ユカが驚いた表情で俺を見た。当然だ。普通の女の子が突然放電するなんてSF映画でもそうそうない。
「まぁ、ドラゴンだから別に珍しくないか」
「ノリ軽っ!」
そんなルリとは別に俺は気にせずにお茶を飲んでいた。
「いやいや!小林!私、電気が出ているんだよ!」
「ああ、出ているなぁ。まぁその内、充電が切れるから大丈夫大丈夫」
「えっ、充電式だったの!?私は蓄電池でもないんだけど!?」
ルリが目を白黒させながら自分の掌を見つめている。指先からは火花が飛び散る。
「まぁ、どうしても難しかったら、今度カンナちゃんに聞くから安心して」
「また、知らないドラゴンの名前が出た」
「けれど、気になる」
周囲は髪が舞い上がり、机の紙が宙を舞う異常な光景だ。ユカも目を丸くしてルリを見つめている。
「カンナ?その子が電気担当のドラゴンなの?」
ルリが興奮して詰め寄ってくる。バチバチと放電してるのに全く気にしない熱心さだ。
「まぁ担当ってわけじゃないけどな。そもそもあいつは……」
俺は湯呑を置いて、指をくるくる回した。
「外見的にはピンク基調の民族衣装みたいな服着てるんだよ。こう、カラフルでフリル多くて」
「かわいい系?トールさんみたいに大人っぽくない?」
ユカが食いつく。女子って服装とかすげえ詳しいよな。
「全然違う。顔立ちも幼くて、本来の姿は白い羽毛に覆われたドラゴンなんだ」
「えっ鳥型なの!?」
「いや、普通のドラゴンだからな」
ここでルリが指をピクッとさせて言う。
「その子も強いの?トールさんみたいに」
「強いっちゃ強いけど……ドラゴンの中では弱いらしい」
俺は思い出し笑いを浮かべながら説明を続けた。
「あいつ感情を表情に出さないタイプでさ。普段は無表情で『ふむ』とか『おぉー』とか呟くだけなんだ。でも好奇心旺盛で、気になるもの見つけたら即追いかける」
「猫みたい」
「それな。しかもすげえ甘えん坊で、疲れたーって俺の背中に乗ってきてさ」
「・・・」
何やら、ルリの眼力が増した気がする。
「小林君、他には?」
「あと変な癖があって、カニとかセミとか小さい動物見つけると容赦なく捕食すんだよ」
「えっ可愛いのに狂暴?」
ユカが引く中、ルリが食い下がる。
「まだ何か特徴はある?」
「うーん」
俺は首をひねった。そういや決定的な台詞があったな。
「最後に一言添えるとすれば……」
ルリとユカがごくりと唾を飲む音が聞こえた。
「あいつ、何につけてもよく言うんだよ」
「『マジやばくね』って」
しばしの沈黙の後──
「「ええっ!?それだけ!?」」
二人揃って椅子から滑り落ちる勢いで反応した。
「いやいやいや!それまでの設定積み上げとんでもないギャップなんですけど!?」
「無表情キャラの口癖が現代JK語ってどういうこと!?」
ルリがテーブルをバンバン叩く。放電して危ないっての。
「そう言われてもなぁ…まぁ、放課後に会いに行くか?大体は姉さんの家にいるから」
「・・・まぁ、うん」
そう言いながら、ルリは、まだ見ぬドラゴンであるカンナにライバル心を抱いており。
「・・・・・・小林の周りにはドラゴンがいっぱいいる」
ユカは、これから起きそうな騒動に期待を寄せており。
「・・・なんでだろう、ちょっとだけ会ってみたいなぁ」
イルルは2人目のヒロイン?
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あり
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なし