梅雨のじめじめした空気を振り払いながら、俺は姉さんのマンションの前で立ち止まった。ルリとユカが物珍しそうに建物を見上げている。
「ここが小林君のお姉さんの家?」
「うん。カンナちゃんなら今、いると思う」
「ふふ、とうとう本物のドラゴンに会えるのね」
ルリは興奮気味に俺の背中を押す。
彼女の頭上には相変わらずバチバチと火花が散っていたが、今はそれどころではなさそうだ。
「どんな子かしら?トールさんみたいに大人びた美女?それともエルマさんみたいに清楚系?」
「いや、どっちとも違う」
エレベーターに乗り込みながら答えると、ルリが「じゃあどんな子?」と詰め寄ってきた。答えようとした瞬間、玄関のチャイムを押す手が止まる。家の中から元気な声が聞こえた。
「はーい!」
ドアが開くと──そこに立っていたのは、小学生くらいの小さな女の子だった。
ピンクを基調とした民族衣装風の衣装を着たその子は、腰まで届く白い髪をツインテールに結び、大きな翡翠色の瞳で俺たちを見上げている。背中には透き通るような純白の翼がちらりと見え隠れしていた。
「・・・え?」
ルリが完全に固まる。ユカも言葉を失っていた。
その女の子は無表情のまま小首をかしげると、鈴を振るような声で言った。
「いらっしゃいませ……あ、小林。この人たちが噂の半分ドラゴンのルリと、誰?」
「おう、カンナちゃん。よく覚えてたな」
「……当たり前。記憶力は自信ある」
淡々とした口調なのにどこか愛嬌のある仕草。これがカンナ──ルリが想像していたであろう「クールな美女」や「威厳ある大人ドラゴン」とはかけ離れた存在だった。
「え……?あの……カンナ……ちゃんですか?」
ルリがようやく声を絞り出す。声が微妙に裏返っていた。
「そうだけど……何?」
カンナが無表情で見つめる。背中の翼がかすかにパタパタと動いた。
「いやあの……もっと大人っぽい人だと思ってて……」
「ふん……人間の基準に当てはめようとするなんて……マジやばくね?」
──ぴたり。
場の空気が完全に止まった。
小さな口から零れたその言葉はあまりにも衝撃的だった。俺ですら最初に聞いたときは同じ反応だったことを思い出す。
「紹介するよ、この子が姉さんの所で居候しているカンナカムイこと小林カンナちゃんだ」
「小林カンナです」
改めて紹介すると、ルリとユカが放心状態で俺を見た。
「……ほんとに小林君の説明通り」
「無表情+古代民族ファッション+現代語JK語彙……完璧だ」
ユカが呆然としながらも分析結果を呟きながら、そのまま、ぷるぷると震えながらカンナに近づき……
「か……かわいい~~~!!!」
ぎゅっと抱きしめた。
「こっ小林!マジでこの子!ドラゴンなの!」
「だから言っただろ、ついでに数多くのドラゴン連中の中で間違いなくまともなドラゴンだ」
「えぇ!他のドラゴンさん達って結構個性的?」
「かなりな」
そうして、俺達が話していくと。
「という事でカンナちゃん、ルリに電気の事について教えてくれ。報酬は、これを」
「おぉ!」
それと共に、俺お手製のお菓子であるたい焼きを取り出すと。
カンナちゃんの無表情が和らぎ、尻尾を大きく振った。
「任せて」
イルルは2人目のヒロイン?
-
あり
-
なし