登山道に差し掛かると海さんは「疲れた」と宣言して大きな岩に腰掛けた。
「休憩しよー。ルリの父親は逃げたりしないから」
「おいおい……」
俺が呆れているとイルルがポンと肩を叩く。
「まぁいいんじゃない? 山道は楽じゃないし」
海さんの隣に座ったイルルは早速水筒を取り出し「ほら」と差し出した。
「おおー気が利くねぇ、それじゃ、私とイルルちゃんはここで待つから。二人は行ってらっしゃい」
「えっ!? 俺たちだけで行くんですか!?」
「だって山道歩くの面倒なんだもん~」
「もう……」
ルリが苦笑いする。
「仕方ないな。じゃあ俺たちで行こうか」
「うん」
二人で、狭い山道を登っていく。落ち葉が舞い、鳥のさえずりが聞こえる。
「あ、あの……海」
少し離れた岩に腰掛けたイルルが、モジモジしながら口を開いた。
「え? なに?」
海さんはペットボトルのお茶をグビッと一口。
「その……ドラゴンと人間って……恋愛とか……成立するの……?」
「ぶっ!」
海さんがお茶を吹き出した。慌ててハンカチで口元を押さえる。
「へぇ〜? なるほどぉ〜?」
意味深な笑みを浮かべる海さん。イルルは真っ赤になって俯いている。
「まーまー落ち着いて。若いっていいわねぇ」
「こっ、こここ告白するつもりじゃなくて! 純粋に生態学的な興味というか!というよりも年齢としては私の方が」
「生態学的な興味ねぇ……」
海さんはちらっと遠くを見た。すでに豆粒ほどの大きさになっている小林とルリの姿が見える。ルリは半分浮遊しているからか歩みが速い。
「そもそも私自身がドラゴンじゃないから、専門的なことはわからないわよ」
「そ、そうだよね……」
「でもさぁ」
海さんはニヤリと笑ってイルルの肩をポンと叩いた。
「人間同士だって好きになる原理なんてわかんないんだから」
「はぁ……」
「私と旦那も最初は全然タイプじゃなかったんだよね。でも何かこう……磁石みたいに惹かれちゃってさ。あっという間にゴールイン」
「そ、そうなの……?」
「まぁでも、恋愛にはルールなんてないんじゃないかな。大事なのは好きかどうか」
「す……好きかどうか……」
「小林くん、ルリがドラゴンだって知っても態度ひとつ変えなかったでしょ? イルルちゃんだって同じ。普通にしてれば大丈夫だよ」
「そうかな……」
イルルの尻尾が地面をスリスリする。どうやら自信なさげだ。
「それにしても」
海さんは急に真顔になった。
「イルルちゃんはルリの幼馴染である小林くんのこと、どう思ってるの?」
「えっ!? それは!」
「まさか恋のライバルになっちゃう……とか考えてないでしょうね? 娘の恋人を横取りするお義母さんとか勘違いされちゃ困るんだけど」
「そっそういう意味じゃなくてぇ!!!」
大声を出したせいでイルルの羽根がパタパタ揺れる。海さんはケラケラ笑っている。
「冗談冗談。でもさぁ……別世界で別々に結婚しちゃえばいいんじゃない?」
「…………」
「え?」
イルルがぽかんと口を開けた。それからしばらく考え込み———
「な……なるほど!」
唐突に目を輝かせるイルル。彼女の単純さに思わず海さんは吹き出した。
「はい決まり! これからは堂々と小林くんにアプローチすること!」
「えっでもそれって……」
「大丈夫大丈夫! 私が保証します! だって小林くん、そういうのに鈍感そうだし」
「だ、ダメだ!そんなこと言ったら……」
「はははっ! ほらほら早く追いかけて行きなさい!」
海さんに背中を押されて立ち上がるイルル。振り返ると海さんがウインクしていた。
「頑張りなよ? 恋する乙女よ」
イルルは2人目のヒロイン?
-
あり
-
なし