「ハァ……ハァ……」
汗だくの俺と違ってルリは涼しい顔で浮遊している。
「ちょっと休憩させてくれ……」
「うん、わかった」
神社の参道脇に置かれた朽ちかけのベンチに腰掛ける。苔むした石灯籠が薄暗く照らし出す境内は、不気味というより神聖な雰囲気に包まれている。
「ここがルリの父さんがいる場所?」
「うん。母さんが言ってた」
ルリが小さく頷く。その瞳は微かに輝いていた。生まれてから一度も会ったことがない父親との対面——彼女の緊張が伝わってくる。
「よし……行こうか」
立ち上がり砂埃を払う。古びた鳥居をくぐると境内の中央に小さな拝殿が見えた。板葺きの屋根はところどころ剥がれ落ち、柱には蔦が絡みついている。
「本当に誰か住んでるのか?」
思わず呟いた時———
「来たか」
「来たか」
ヌッと姿を現したのは……
「ひっ!?」
ルリは思わず悲鳴を上げた。
真っ白な鱗に覆われた巨大な体躯。蛇のように長い胴体だが、四肢はしっかりと獣の骨格を持っている。各部を覆う鎧のような甲羅が陽光を浴びて煌めき——何より特徴的なのは額から前向きに突き出た角だ。まるで鬼のような威容を誇るそれが二対も生えていた。
「へぇ、あなたがルリのお父さんか」
「へぇ、あなたがルリのお父さんか」
俺は特に気にした様子もなく言った。そりゃ目の前の龍は見るからに強そうだし、甲羅や角も立派で迫力満点だけど——今までドラゴン三匹も身近で見てきた俺にとっては何というか「そういう個性」程度にしか思えなくなっていた。
「ふむ……」
ルリの父親が首を傾げる。長い髭がふわりと揺れる。
「このような姿を前にして臆する様子もないとは……なかなか肝が据わった若者よの」
「いやだってさ、うちのイルルやトールさんだって結構迫力あるじゃん?」
「そ……それは確かにそうだけど!」
ルリが頬を膨らませて割り込む。
「小林! 普通の人はね!? こんな立派な龍を見て平然としてられないの!」
「そうなのか? でもトールさん達だって初めて見たとき——」
「まぁ、それはねぇ!」
ルリがツッコミを入れたところで父親がククッと笑った。
「よいよい。わしも久方ぶりに人間と話せて嬉しいぞ」
そう言って巨体を縮めるように屈む。近くで見ると鱗一枚一枚が磨き上げられた宝石のようだ。
「それで父さん」
突然真剣な表情になったルリが前に進み出た。
「人間とドラゴンって……子供を作ることは可能なのですか?」
「ぶふぉっ!?」
白い龍が盛大に吹き出した。口から漏れた蒸気が湯気のように立ち昇る。
「なっ……何を突然言い出すのだ!」
ルリの父親は明らかに狼狽していた。長い胴体をもじもじさせながら、前向きに生えた二本の角をピクピク震わせている。
「だって、気になるもん、自分が生まれた方法が……」
ルリが頬を膨らませて抗議する。
「小林も気になるよね?」
「え!? えっと……まあ多少は」
俺まで巻き添えかよ!
「いやしかし……その……それは……」
父親は目に見えて慌てふためいている。爪先が地面をカリカリと引っ掻き、尻尾の先が忙しなく揺れていた。
「そ……それは一般的な生物としての繁殖と何ら変わりは無いのだ!」
「具体的にどうやって?」
「そ……それは……こう……なんというか……自然の摂理に従うというか……」
「具体的には?」
「だから……雄と雌が……その……一定距離以内に接近して……」
「距離ってどれくらい?」
「それは場合によりけりと言いますか……」
完全に追い詰められた父親が遂に両前脚で顔を覆った。
「お願いだルリ! それ以上は言及せんでくれ!」
その姿はまるで思春期の娘に質問攻めに遭う人間の父親そのものだった。
イルルは2人目のヒロイン?
-
あり
-
なし