残念ですが女帝との契約は見送らせていただきます   作:嘆きの大平原

1 / 9
 手頃な杖を選んだと思ったら振られたでござるな女帝と、振った男の話。



第1話

「貴女の今後のご活躍をお祈り申し上げます……一応、理由言った方がいい?」

「……聞かせてもらおう」

 

 エアグルーヴは、自分に視線を向ける事なくターフを眺める男にそう答えた。

 男は肩を竦めると、右手を顔の横に上げて人差し指を立てる。 

 

「1つ、俺がトレーナーになったのは身内への義理だからだ。彼女達(・・・)を担当する事になるかは分からない。でもまぁ、兄貴分(・・・)として世話の一つも焼いておこうかなって。まぁ身内以外を担当してはいけない、なんて事は言われてないんだけど」

 

 続けて中指を立てた男は、こう続けた。

 

「2つ、君がダイナカールの娘さんだから。恐らく……いや、君はティアラ路線に進むだろう。あの人の娘なら、必ず樫の女王を……オークスを目指す。私情塗れなのは承知で言うけど、1ミリも協力したくない。絶対にだ」

 

 エアグルーヴが口を挟むよりも先に薬指を立てた男は、そこで初めて彼女を見据える。

 

「そして3つ、俺がメジロハイネの息子だからだ。俺には生まれた時点で芝に立つ資格がない。ぶっちゃけ君が妬ましい」

 

 翡翠を思わせる双眸に浮かぶのは、明確な拒絶だった。

 生まれて初めてとも言っていい強烈な敵意を感じ、エアグルーヴは思わず身を硬くする。

 男もそれに気付いたのだろう。眼を閉じ溜息を吐いて「すまん」と頭を下げた。

 

「改めて口にすると情けない事この上ないが……全部本音でね。1トレーナーとしては、君の夢や理想を応援する。けれど浦河正真(ウラカワショウマ)個人としては、協力出来ない。と言うか、しない」

「時間を取らせてすまなかった」

 

 言いながらウマ耳をぺたりと伏せるエアグルーヴに苦笑を浮かべ、浦河は踵を返す。

 

「こちらこそすまなかったね。まぁ君はきっと相応しい『杖』に出会えるよ」

 

 ──ここはそう言う場所だからね。

 

 その言葉は決して気休めではないだろう。何故だかエアグルーヴはそう感じた。

 

「……貴男が信頼に足るウマ娘に出会える様、私も祈らせてもらいたい」

 

 思わずと言った風に振り返った浦河は眼を瞬かせると、相好を崩す。

 

「ありがとう。まぁなんだ……お互い頑張ろう」

「あぁ」

 

 笑みを交わした二人は、それぞれの道へと歩みを進める。

 いつか、彼らの道は交わる事となる。それは親子二代の連覇がかかったレースかも知れない。或いは偶然が運んだ別のレースかも知れない。

 寄り添わず、しかし何処かでお互い意識し合う関係。

 この出会いが齎す未来とは、果たして。

 

  

 

 

 

 

 

 




 エアグルーヴ:みんな大好きたわけメーカー。この後頼りになる杖と出会える、たぶん。

 ダイナカール:ご存知樫の女王。

 浦河正真:実在馬『メジロセイシン』より。姓は生まれた牧場名から。名前はセイシンを別読みにしただけ。元馬の名は温泉名から名付けられたらしく、正しくは清心と思われる。競走馬データでは戦歴が見当たらず、名付けはされたもののデビューしなかった?……と言う所からウマ娘ではなくヒトムスコに。

 メジロハイネ:作中では浦河正真のカーチャン。史実でもメジロセイシンのカーチャン。史実のオークスにおいて三着で敗れるも、セントライト記念で雪辱を果たした。尚、件のオークスは一着~五着までの差がハナ・アタマ・ハナ・アタマと言う超接戦。当時の動画もあるので興味がある方は是非。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。