残念ですが女帝との契約は見送らせていただきます 作:嘆きの大平原
妹分が退院して暫くの事。
「随分思い切った事をするもんだ……」
殺風景なトレーナー室に、正真の呟きが零れて消える。視線の先にあるのはノートパソコン。ディスプレイに表示されるのは、次回の選抜レースの出走予定リストだった。
正真が注目したのはただ一つ、メジロアルダンの出走予定のレースである。
「1200m……しかもダートね」
バ場も距離も不適正。どうしたって焦りはあるだろうが、しかし自棄を起こしたわけでもないだろうと、正真は判断する。
ウマ娘の本格化……アスリートとしての最盛期は、早遅長短の個人差こそあれど、確実に存在する。衰えの出る前に……己が最も輝ける時期を、入退院によって浪費している彼女にとって見れば、一見無謀な挑戦にこそ意味があるのかも知れない。
背もたれに身を預けながら、天井を睨むこと暫し。
彼の口をついて出た言葉は、ある意味最初から決まっていた答えだった。
「スカウトしても断るだろうしなぁ……アドバイスぐらいにしとくか」
悪し様に言えばトレセンにしがみついているが、正真からすれば生来の欠点に抗い食らいついていると言える。シスコンの自覚があるからこそ、せめて自分は応援だけでもしてやりたい。
「本格的なサポートはレースの後から……って、スカウト受けてくれるかまだ分からんかったな」
断られたら仕方ない、と独り言ちて椅子から立ち上がる。
すっかり冷めてしまったコーヒーを煎れ直そうと、キッチンへ足を向けた所でノックの音が聞こえた。
「入ってまーす」
「失礼する」
凛とした声と共に入って来たのは、ボブカットの黒髪に特徴的な流星の持ち主だった。
「失礼するなら帰ってやー」
「……そう言うのは他所でやってくれ。少し話がある」
他所も何も、ここは自分のトレーナー室なんだが。
そんな言葉を胸にしまいつつ、正真は怪訝な視線をエアグルーヴに向ける。
「飲み物要りそうなら用意するかい? コーヒー紅茶麦茶の三択になるけど」
「時間はさほど取らないが……折角だ、紅茶を頂こう」
「了解。市販のインスタントだから、味はまぁお察しと言う事で」
二人分の飲み物を用意する間、互いの間に沈黙と茶器を用意する音だけが響く。
「どうぞ。砂糖とミルクは好みでよろしく」
「感謝する」
会釈して紅茶を受け取ると角砂糖を一つ、ミルクを少々足してかき混ぜる。
「用件は次回の出走レースについてだ」
「アルダン絡みなら静観一択と言う前提で聞くけど、何で
カップを手にしたまま固まるエアグルーヴを横目に、正真はコーヒーに口を付けた。
「……後輩から相談されたんだ。メジロアルダンの意思は固いが、貴男の言葉なら或いは、と……そう聞いている」
「その後輩って
正真の問いに、エアグルーヴは頷きを以て返す。
「あぁ、メジロドーベルを知っているか?」
「あぁベルちゃん」
「ベル『ちゃん』……?」
「今のはオフレコで。まぁ確かに現在学園内にいる子らの中では兄貴分みたいな立ち位置だし、ベルt……ドーベルがそう思うのも分かるんだけどね。認識の齟齬があるみたいだ」
正真はそう言うと、軽く肩を竦めた。
「認識の齟齬とは?」
「俺がトレーナーを志すにあたって絶対のルールを、一つだけ定めているんだ」
彼女達には言ってないんだけど、と正真は人差し指を立てる。
「ウマ娘の意思を何よりも尊重する。それだけさ」
「心配じゃないのか」
「しないね。そんなのは『メジロアルダンの日常』だ。身内だろうと口喧しくするもんじゃない」
未来の女帝は翡翠を思わせる双眸に、いつかの強烈な輝きを垣間見る。
「彼女は生まれてから今日に至るまで、毎日怪我やら病気やらと
数秒の沈黙の後、エアグルーヴは静かに問いを投げかけた。
「貴男は次のレースでメジロアルダンが勝つと……信じているのか」
「勝つさ」
いっそ軽い調子で返された答えに、エアグルーヴは眼を丸くする。
「まぁ勝とうが負けようが、スカウトする心算なんだけどね。アーちゃんはアレで結構な負けず嫌いだし、メジロ家令嬢として、一人のウマ娘として実力の一つも見せないと、自分を納得させられないだろうから。だから見守るわけだ」
「アーちゃん」
「この話は止めよう、ハイ止め止め」
弛緩しきった空気を混ぜ返す様に手を叩き、正真はマグカップを手に取った。
「随分と高評価なのだな。やはりあの人の……メジロラモーヌの妹だからか?」
「いいや?
正真はそう言うと、不敵に笑うのだった。
エアグルーヴ:ベルちゃんとは、アーちゃんとは(宇宙猫みたいな顔)
メジロドーベル:ベルちゃんは止めて
浦河正真:鋼のシスコントレーナー(突如生えた設定)メジロになるにはまず彼を倒さねばならない……かも知れない。
作品名について
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別に変えなくてもいい
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定期的に女帝を出せばセーフ
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いっそ変える