残念ですが女帝との契約は見送らせていただきます 作:嘆きの大平原
シナリオにきっちり絡ませてくるサイゲいいぞもっとやれ
タイトルに関するアンケートのご回答ありがとうございました。
『ウマ娘じゃないから走らなくていいなんて思わない。持ってる子に言われたくない』
翡翠を思わせる双眸に漲る瞋恚の輝き。
それは幼き日の彼女が初めて受けた明確な悪意であり、また同時に真摯な祈りにも似た何かであった。
生まれながらターフに立つ事の叶わぬ身を憎み、逆に走る事を宿命づけられた自分達に憧れ、羨み、そして妬んだ少年。彼は抑えきれない不満をぶつけながら、それでも必死に懇願していたのだと……今ならそう思える。
彼女の燻っていた心に灯されたソレを、確かに彼から受け取り、自ら背負うと決めたのだ。
彼との最初の思い出から意識を浮かび上がらせたメジロアルダンは、ゆっくりと目を開ける。
未経験のダート、短距離と言う未知、加えて出走前からの豪雨による不良バ場。全てが自分へのハンデとなって伸し掛かる。だが、それが何だと言うのか。
「それら全て、勝利を目指さぬ理由にはなり得ない……ですよね?
常と変わらぬ笑みを浮かべ、しかし尋常ならざる決意を胸に。
メジロアルダンはゲートへ向かうのだった。
妹分は全てをねじ伏せて勝利を掴んだ。兄貴分として鼻が高い気分である。
とは言え、それに浸りきってるわけにもいかない様だ。
彼女をスカウトすべく、他トレーナ達が動き出している。その様子を見ながら、正真は足元のバッグを手に取って席を立った。
「貴男の見立て通り、と言ったところか」
「気配もなく背後に立つの止めてもらっていい?」
普通に怖いんだけど、と正真は声の主に視線を向ける。
「気配を消した覚えはない。そちらがレースに夢中だっただけだろう」
「それはそう。俺の責任だからね」
肩を竦める正真の顔に浮かぶ強い自嘲の色。
怪訝な顔で、首を傾げるエアグルーヴに苦笑交じりの呟きが届く。
「あの子を走らせている負い目だよ。いっそ呪いに近いのかもね」
それ以上の言及を許さぬ様に、軽く手を振りながらアルダンの元へと歩き出す。
『何故お兄様は誰よりも早く走りたいのですか? ウマ娘ではないのに』
彼女が走る理由の一つに、あの日の出来事が含まれているのは間違いない。正真はそう思っている。或いはただの思い上がりかも知れないし、出来ればそうであって欲しいとも思う。
けれど、彼女が時折見せる凪いだ瞳。
正真は、紫水晶を思わせるソレに映る一人のクソガキを幻視してしまうのだ。
思い込みでもいい。赦されなくていい。元より赦しを乞う為ではないのだから。
メジロアルダンが背負うモノを、自分も背負わなければならない。
それはいっそ、自分に対する呪いであり、彼女への執着でもあった。
「お疲れ。いい走りだった」
塗れたタオルを手に声を掛けて来た正真に、アルダンは頬を緩めて答える。
「ありがとうございます。ですがダートはこれきりにしたいですね」
「そりゃそうだ。はい、そこに座って眼を閉じる」
周囲のトレーナー達をガン無視する振る舞いに困惑するも、促されるままに座る。
髪や顔に跳んだ泥水を丁寧に拭いながら、正真は声を掛けた。
「しかしまた盛大に泥遊びしたもんだ。今日は念入りに洗いなさい。流した後はゆっくり湯に浸かって体温める様に。自分が思ってるより体冷えてるみたいだからな……。はい次は脚を出す」
「あの……」
「ん?」
アルダンの困惑が浮かぶ視線と周囲からの質量を伴った視線を物ともせず、正真は首を傾げた。
「どうした?」
「……いえ」
首の角度が深くなる。何かを思い出したのか、正真はあぁ、と声を上げて頷いて見せた。
「トゥインクルシリーズを走り切る覚悟は出来た?」
「既に契約済み!?」
誰かの驚愕の声に再びあぁ、と正真は声を上げ。
「それでは改めて……浦河正真。新人に毛が生えた程度の若造だが、メジロアルダン、君をスカウトしたい」
アルダンはそう宣う正真を無言で見つめていたが、やがて頬を緩めた。
「是非、お受け致します。これからの道行き、共に歩んでくださいませ……末永く宜しくお願い致しますね? お兄様」
浦河正真:妹分のトラウマと化した湿度と重力の使い手。
メジロアルダン:兄貴分に脳を灼かれたウマ娘。湿度はともかく重力のぶつけ合いならいい勝負になる模様。
エアグルーヴ:アンケートの結果出番が増える模様。その内たわけも出て来るかも。