残念ですが女帝との契約は見送らせていただきます   作:嘆きの大平原

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 正真とアルダンが追いかけっこするお話。
 ──或いは『メジロセイシン』と言う存在しない(・・・・・)ウマ娘のお話。


影の如く寄り添いて

 デビュー戦が近付くにつれ、アルダンの気迫は増すばかりだった。

 鬼気迫る……今の彼女にこれほど相応しい言葉はないだろう。

 

「走る事の楽しさが飢えに変わって来たかな。良い傾向だ」

 

 玉の様な汗を流すアルダンを見て、正真は笑ってそう言った。

 

「満足出来る程は走れない事に不満を抱えていたのは、アーちゃん自身も自覚あるだろうけど、今言った飢えとは質が違う、勝つ為に走る意気込みを感じるよ。もっと貪欲に、けれど身体への負担は最小限に……とは言っても、これまでに比べれば結構伸び伸びやってるんじゃないかな?」

 

 両膝に手をついて俯くばかりの愛バに、正真は首を傾げる。

 

「……つい興が乗って張り切り過ぎた?」 

「私が、ではなくお兄様(・・・)が、ですよね?」

 

 どうにか息を整えたアルダンが顔を上げる。恨みがましい視線で見上げられ、正真はちょっと新しい扉を開きかけた。

 

「そりゃあねぇ? 気の向くままに只管に芝を駆けるのは気分がいい。贅沢言うなら多くの観客の下で……と思うけど、そもそも資格がないからなぁ」

 

 俺もサポートするから、アーちゃんは出来るだけ長く走っておくれ。

 そう笑う正真の姿は、ややもすると自分よりもずっと脆く儚い物で、アルダンは胸が締め付けられる様に感じられた。

 ウマ娘の内的特徴である『ウマソウル』は、ウマ娘であれば例外なく持っている己の芯だ。

 そして極めて稀ではあるが、人の身でウマソウルを持つ例外が存在する。

 その一人が、目の前で笑う浦河正真──メジロセイシンだ。

 自らを嫉妬深い怪物(Green-eyed Monster)などと揶揄し、それを受け入れられず、同時に渇望を抱えていた。

 彼曰く、相性が良すぎるのだと。人の身だからこそ、ウマソウルの本能に引きずられやすいのかも知れないと聞いている。

 自分も相当執念深い、或いは諦めの悪い性格だと彼女は思っているが、正真は人の身でウマソウルを捻じ曲げ、ウマ娘が棲息する速度領域に至った。

 もっとも、彼の持つ強みは速度だけではない。最大の武器は徹底したマーク技術と観察眼。こちらの呼吸に併せ、その上で機先を制する技術は正に執念の為せる業か。

 そこまでして……むしろそこまでしたからだろうか、彼の葛藤はいや増すばかりである。

  

「……今日はこの辺にしておこうか。もうちょっと付き合いたいんだけど、アーちゃんもお疲れみたいだし、俺の方も脚がヤバいわ」

 

 言うが早いか芝に座り込み、拘束具さながらのブーツを脱ぐ。

 度重なる内出血や骨折。それらを乗り越えた彼の脚は、確かにウマ娘に匹敵する。

 しかしそれは、歪で毒々しい赤や紫の斑模様に彩られた呪いの産物だ。 

 

「前にも言ったけど、見た目こそエグいが日常生活には何の問題もないから……」

 

 正真は目を伏せて言葉を続ける。

 

「誰のせいでもないさ。これは俺が選んだ結果なんだ」

 

 そう笑うのであった。 

 

 

 

 




浦河正真:メジロセイシン。憑いてくライスばりのマークと執拗な追走で相手を疲弊させる。勿論自分もめっちゃ疲弊する上にウマ娘ほど体力はないので併走は一日三本が限界。ウマ娘がウマソウルを以て走行能力を上げる一方で、彼は走る為の体の頑健さを求めた。結果的に短時間ならばウマ娘を凌ぐ能力に至ったが、そこに辿り着くまでの無理無茶無謀に無駄も手伝って、彼の脚はエグイ見た目に。本人は気にしてない(気にしている)

メジロアルダン:血縁の人間がここまでしてるなら、及ばずとも覚悟決めないと噓でしょって言うか正真の上を行かないとぐらいにはなってる。それはそれとして、長く走って欲しいと口にされると弱い。作中世界線においては三年間駆け抜ける方向にシフトしつつある。
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