家族と未来を守るために   作:あるいてごろりと

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また家族に助けられた

 男の姿はハトになっていた。

赤いマフラーの男はツケを払わなければならないと言っていたが、これがそうなのか!?

指もない、言葉も喋れない、何より人でないこの姿で一体何を成し遂げればいいのか・・・。

 

身体がなかなか思うように動かない今の状況も男を焦らせる。

人気のない場所だが、野良猫がうろつく場所の可能性もある。

一家よりもまずは自分の命を守らなくてはならない。

 

まずは安全地帯の確保が優先である。

 

男は突然変わった自分の体や構造に、何とか慣れるようにジタバタと動いてみた。

身体を小石の混ざる地面にこすりつけるような動きになっているが、羽毛のためか痛みを感じない。

足をピンと伸ばしてみる。

 

折れてはいない・・・と思う。

痛みがないのは、痛覚がないためかケガがないためなのか分からない。

生物として体の構造が変化した以上、神経の有無から疑わなければなるまい。

 

しばらくすると、ようやく立ち上がれるようになった。

歩き出すと歪な動きだが前進できた。

鳥類は眼球運動が人のようにはできないために、動くと視界がぶれてしまうと言われる。

歩いた分、首を前後に動かすことでぶれをふせぐそうだ。

試しにやってみると確かに首を動かした方が、視界が気持ち悪くない。

それに勢いがつく分、歩行スピードも上がっている気がする。

 

男はそのまま木の根元に辿り着いた。

体が少しずつ慣れてきたためか、飛ぶということが可能と思われた。

 

自然と鍛え上げられた胸筋の力を使い、羽を大きくばたつかせる。

最初の飛び立つ時が肝心だ。

 

男は、自分の身体がブワッと持ち上がる感覚があったのを脳にしみこませた。

一度着地する。いきなり成功するとは思っていない。

 

もう一度羽ばたく。

さらにもう一度・・・。

 

しだいに男が飛び立つ高さが上がっていく。

ここだと思ったときに空中を前進してみる。

いわば滑空である。

滑空は必要なエネルギーが飛び立つ時に比べて30分の1ですませることができる。

身につけておいて損はあるまい。

 

5mほどだろうか?

約1m高度が下がったときに、それだけ前進できた。

これも何度も繰り返すことで、それなりに身につけた男は決心し、高く高く飛び上がり自身の意識がハッキリした地を遠く離れていった。

 

そこからの男は、寝る場所を探したり、カラスやトンビから隠れたり、虫に食いつき生命を維持させるように務めた。

日時が分からない生活だったが、何となくその時は近い予感がした。

 

ある時、雌のハトに出会った。

何となくだが、あの女を思い出す。

彼女は今どこで何をしているのだろうか・・・?

もう二度と会うことはないのだろうか?

男は目の前の雌のハトを見る。

もしかしたら・・・、とも思うが判断がつかない。

彼女はハトになっていないかもしれないし、東京には一体どれだけの雌のハトが生息しているのやら。

そんな中、彼女に会う確率は相当低いはずだ。

 

出来るなら会いたいが、今はあの赤いマフラーの男との約束を果たすのが先決だ。

 

男は雌のハトに求愛行動を取った。

胸をふくらませ、首を上下に動かし、尾羽を地面にこすりつけながら近づいていく。

 

幸い、雌のハトは嫌がる素振りを見せなかった。

男と雌のハトは無事に結ばれたのだ。

 

男は雌のハトをとある場所に連れていく。

そこは東京タワーの大展望台にある天井部付近の壁のくぼみである。

 

日にちがいくらか経つと彼らの子どもが産まれた。

彼らはくぼみに巣をつくり、新しい命とともに過ごしていた。

 

ある日、男は今日が約束の時だという予感がした。

耳をすませ、タイミングをうかがう。

 

雌のハトはキョトンとした顔でこちらを見ている。

その機会は一度きり・・・たった一度きりである。

これを逃しては返すものも返せなくなる。

 

やがて男は一人の少年の声を聞いた。

 

『ずるいぞ!!』

 

巣に大きな影が覆いかぶさる。

男は巣を飛び出してその影の元に向かう。

 

その影は人であった。

2人の大人・・・。

何度も見た顔だ。

それは、かつての自分と愛した女であった。

 

 

男は2人に向かって一生懸命に羽をばたつかせて追いやる。

この2人が大展望台から落下するのだけは防がねばなるまい。

小さな体で何倍も大きな人を相手にするのは正直怖かった。

 

大人が腕を振り払えば自分の身体はどれだけの衝撃を受けてしまうだろう。

二度と飛べなくなるかもしれない。

二度と今の妻と子に会えなくなるかもしれない。

 

男はふっと気づいた。

ハトの生き方に脳が浸食されたのかもしれない。

ハトの脳で情愛など感じるものなのだろうか・・・。

分からないが、今男の胸にあるこの気持ちは家族を守るために湧いてでた闘魂で満たされていた。

 

かつての自分と女は後退する。

ここまで来れば大丈夫だろう。

男は自身の巣に戻るために、身をひるがえす。

その時に、懐かしい声が忌々しそうに言った。

 

『また家族に邪魔された。』

 

男はその言葉を耳にして思った。

お前はその家族に助けられたんだよ、と。

 

男は巣に戻り、妻と子を見やる。

二羽とも落ち着いた様子でいた。

ホッとする自分に何だか微笑ましい気持ちが出てくる。

 

それと同時に二度と人として会えないであろう、かつて愛した女を思い出す。

安アパートでともに暮らした日々を、野望を伝えた時男を安心させるためか微笑んで賛同してくれたあの表情を、つないだ手のぬくもりを・・・。

 

男は目の前の妻に問いかけたかった。

言葉にできないため、気持ちを呼びかけた。

 

 

俺はうまく事を運べただろうか・・・。

 

なぁ・・・、チャコよ・・・。

 

 

妻は澄んだきれいな瞳で、ただ静かに男の顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

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