宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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2202ではキーキャラだったのにあまりにもあんまりな死に方をした桂木透子さんが今回メインになります。

とはいえ、この回は彼女一人でストーリーが進行するのではなく、前の話でどっか行っちゃったデスラーの行き先とか、プロクシマ3の地獄絵図を一コマだけ描いていたり、ヤマトに残ったメンバーたちの話とか、そこからまたアルファ・ケンタウリ11に戻ったりと場面転換が激しいです。
なるべく改行や横線を入れつつシーンを分けていますが、読みづらかったら申し訳ありません。


第9話「苦悩する者たちとエメラルド戦線」

 アルファ・ケンタウリ11号星の軌道上。

 100隻以上いたガトランティス艦隊は、ヤマトとその後にやってきたサツマを旗艦とする地球艦隊により半分近くが撃破され、残りは星系外に逃走し、軌道上には残骸が転がっていた。

 ジャンプゲートが開き、そこからアンドロメダを旗艦とする地球艦隊が現れた。

 その数、なんと12個艦隊。

 内訳は、アンドロメダが属する第一艦隊。アンドロメダ一隻と、その他にはドレッドノート級11隻。

 他には駆逐艦6個艦隊72隻、雷撃・ミサイル軽巡洋艦2個艦隊24隻。

 その他には広範囲を警戒するためにパトロール型のプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦2隻と、インデペンデンシア級多層航宙母艦「レキシントン」が旗艦を務めるデューイ級コルベットで構成された警邏艦隊3個艦隊計36隻であった。

 

 なお、ジャンプゲートからはさらに輸送船が6隻現れた。

 半分は11号星に取り残されていた考古学者たちや、空間騎兵隊を回収しに来たため実質空っぽ。

 もう半分には代わりに11号星に駐屯、及び基地の復旧と修理のために乗り組んでいる地球連邦宇宙軍歩兵部隊と工兵部隊、及び資材が積まれている。

 なお、一足先にコスモハウンドが第11連隊の歩兵たちをヤマトに収容済みであった。

 コスモハウンドから降りてくるのは負傷者たちであり、ヤマトの医療スタッフが総出で迎える。

 コスモハウンドから降りてくる人物たちの中には、第11連隊の衛生科チーフドクターである軍医の六角(ろっかく)美沙(みさ)や、考古学者たちと同伴していた民間医の桂木(かつらぎ)透子(とうこ)たちもいた。

「あんたが艦長か?」

「そうだ。この艦の艦長、古代進だ」

「空間騎兵隊第11連隊隊長の斎藤(さいとう) (はじめ)だ。俺を呼びつけたのはあんただな?」

「私は基地の司令官を呼んだつもりだったんだが」

「司令官は死んじまって、11号星の守備隊の責任者は実質俺だ」

「そうか。……救援が遅れて申し訳ない」

「いや、思ったより早くて助かったぜ。そんなことより、美影がいないって本当か?」

「君は相原にもそれを尋ねていたな。桐生の知り合いなのか?」

「知り合いどころか、俺にとっては妹も同然のやつだ。……おい、まさか地球に置いてきたのか!?」

「いや。桐生は除隊した後、連絡が取れないんだ」

「除隊した?いつ?」

「半年以上前らしい。私にもさっぱりわからない。君が家族ぐるみで彼女と親しいならそれこそ聞きたかったよ」

「……聞きたかったといえば、俺を呼びつけた理由は何だ?」

「何があったのか教えてほしい」

「艦隊がどうなったのかはさっぱりだ。だが、連中は艦隊を潰した後、48時間ぶっ続けで基地を爆撃してきやがった。途中までよくシールドが持ったもんだよ」

「途中まで?」

「連中が変な兵器をぶっ放してきやがった。それを喰らった基地は電子機器の大半をやられ、メインの電源も死んだ。司令官はその時に起きた爆発をモロに浴びちまって……」

「そうか……」

『第一艦橋より艦長』

「どうした?」

『コスモハウンド2が惑星に不時着した脱出ポットを発見。中を捜索したところ、守備艦隊の生存者が乗っていました』

「本当か? ではヤマトに連れてきてくれ。事情を知りたい」

『それと、その付近に墜落した敵機を発見しました。搭乗者は二名ですが、気を失っているそうです。どうしますか?』

「相原、その二人も回収してヤマトに連れてくるよう言ってくれ」

「佐渡先生?」

『了解です、佐渡先生』

「おい、お医者さん、あんた本気なのか?」

「わしはヒポクラテスの誓いを破るつもりはないよ。負傷して傷ついているなら地球人だろうとガミラス人だろうと。そしてガトランティス人だろうと、医者として救うのが義務じゃよ」

 担がれていく負傷者たちと共にヤマトの船医、佐渡酒造は格納庫を後にした。

「斎藤隊長。CICに来てほしい。艦隊の生存者からも話を聞きたい」

「俺は陸戦兵だぞ? 船のことなんてさっぱり……」

「だが君は敵の新兵器を目撃しながらも生き延びた。君の言った通りだったなら、プロクシマ3も危ない」

「……おいそれは本当なのか?」

「そうだ」

 プロクシマ3もガトランティスの攻撃を受けているなど、斎藤は初耳だった。

 それに、プロクシマ3のコロニーに使われているシールドは空間騎兵隊が常駐していた基地に使われていたものと同じ型だ。

 斎藤の情報通りならばコロニーが丸裸になりかねない。

 二人は足早にCICへと急いだ。

 その背中を見送るは桂木。

「透子、ボーッとしない!」

 美沙にそう言われて、コスモハウンドから降りてくる負傷者を桂木は担架に載せた。

 

 数十分後。

「……それで私たちの艦隊は、小惑星に偽装した敵の爆弾でほぼ戦闘不能に……」

「敵がばら撒いたメトリオン粒子のせいで、レーダー誘導は不能。主砲は手動に切り替える間も無く……」

 ナスカ艦隊の捕虜になっていた守備艦隊の生き残りたちは、ホログラム映像の土方や長野たち各艦の艦長が集まるヤマトのCICでそう証言をした。

『厄介だな……』

「土方さん?」

『古代。君がよく知っているだろう。ガリア4号星の戦いを』

 土方の口からその単語が出てきて、生き残りたちは一様に驚く。

「……あの戦いで撃沈されたドミニオンから、ガトランティスは技術情報を得たのかもしれませんね」

 それがまさか、ここでの守備艦隊敗北に繋がるなど古代には想像がつかなかった。

 実際、ガトランティス艦隊と対峙してきた古代は、相手がこんなに手の込んだ戦い方をしてくるところを見たことがない。数に任せた力押ししかしてこなかったからだ。

「……そういえば、我々と一緒に回収されたガトランティス人ですが、私たちは彼に銃を突きつけられました」

「何だと……!?」

「でも、彼は私たちを撃とうとしませんでした」

 斎藤が凄んだが、生き残りの内の二人がそう証言した。

『ということは、彼らのどちらかがこの艦隊の指揮官か……』

 モニターに小さく映し出したのは、気絶したままのガトランティス人が二人。彼らの証言が指している人物は、そのどちらかだった。

「……話を戻します」

 そこで古代が次にモニターに大きく映し出したのは、自身が指揮していたサツマのブラックボックス映像。

「日付は2202年3月18日。場所は地球から593光年離れたガリア星系の第4惑星軌道上」

 サツマの目の前に、撃沈される前の僚艦ドミニオンと、巨大な敵艦の姿が映る。

「地球の……とある情報筋によれば、この敵艦はカラクルム級大型宇宙戦艦というらしい」

 キーマンがそう言うと、サツマのセンサーデータを基にしてカラクルム級戦艦の全体像がホログラムで投影された。

「敵の装甲はニュートロニウム製で、ドレッドノート級の主砲では歯が立たなかった」

 映像の続きを見せる。

 サツマとドミニオンは主砲を斉射するものの、カラクルム級にはまるで歯が立たなかった。

 CICに困惑の声が広がる。

 ヤマトが戦った場合、カラクルム級の装甲は容易く破れたし、苦戦しなかったからだ。

 しかし、守備艦隊や、他の地球軍の艦船は違う。

 土方は、なんと頭を下げ、皆の前で謝った。

『……これを警戒して、救援が遅れてしまったことは申し訳なかった』

「いや……これを見せられちゃぁ、文句の一つも出ねぇよ……」

「で、でも、これと同じものがプロクシマ3にも……?」

『可能性はある。イプシロン・エリダニ星系でも古代はこの艦に遭遇したからな』

「それも、古代艦長が必死に追いかけていなかったら今頃地球は滅亡していたほどだ」

 土方とキーマンの解説に、その場にいた者たちは背筋が凍ったような感覚に襲われた。それは古代も土方も例外ではない。

『今の我々の最優先目標はプロクシマ3の奪還だ』

 土方の合図でCICのモニターの映像が切り替わる。

『これはプロクシマ3から急いで脱出してきた輸送船のブラックボックス映像だ』

 斎藤たちが見ているのは、赤城大六が船長を務めている輸送船「荒川丸」がジャンプゲートに飛び込むまでの約1分間の映像。

 途中で映像を止め、

「これを見てくれ」

 真田が映像の奥にいるガトランティスの艦船を拡大表示し、映像を鮮明にすると、

「カラクルム級……戦艦……!」

 絶望したように生存者の一人が言った。

「これはいつの映像だ?」と問う斎藤に、「52時間前だ」と答えた真田。

 輸送船は被弾し、穀物を撒き散らしながらジャンプゲートに飛び込んだ。

 ジャンプゲートを超えた先には地球軍艦隊が待機しており、輸送船を追いかけてきたガトランティスの艦船は次々に撃沈された。映像はここで終わる。

「……許せねぇ。あそこには女子供もいるんだぞ。おい、土方の親父。俺たちも連れてけ!」

『斎藤、何を言う』

「プロクシマ3に空間騎兵隊はいねぇだろ。ということは、連中がコロニーのシールドを破壊できるなら、武器を持たない大勢の人間が虐殺されてるってことじゃねぇか」

「そうとは限らないだろう」

「いや、わからねぇぞ。あんたたちを撃たなかったガトランティス人が実は良い奴だったとしても、他までそうとは限らねぇだろうが!」

 こればかりは反論のやりようがなく、皆が押し黙るしかなかった。

『斎藤。落ち着け。第11連隊は先ほどの戦いで損耗しているだろう? アルファ・ケンタウリ11号星には代わりに第2連隊が駐屯する。あと数時間もすれば第1、第6、第9連隊も到着する』

「イギリス、アメリカ、フランス、ドイツの部隊か」

『第11連隊には彼らの後方支援を頼みたい。真田技師長、新見情報長』

「「はい」」

『この星系にヤマトが突入した時にカラクルム級を一隻仕留めていたな? その分析はどんな具合だ?』

「現在、甲板部や技術科の一部隊員たちに艦の残骸の回収を命じています」

 すると新見がカラクルム級のホログラムを投影しながら解説する。

「でも、戦闘による損傷が激しく、クルーは全員死亡。艦の残骸もかなり散らばっています」

『弱点らしきものは発見できたのか?』

「……お言葉ですが、調査を始めてまだ数時間しか経っておりません。その間に残骸全てを集めて弱点を探すなんていくらなんでも無茶苦茶です」

『しかし、ヤマトの火力に頼ってばかりもいられん。ヤマトにはテレザートへ赴く任務があるのだからな。……古代。艦隊司令官としての命令だ。24時間以内に弱点を発見できない場合、ヤマトにはプロクシマ3においてカラクルム級だけをできる限り潰してもらい、そのままテレザート方面に向かってくれ』

「教官……いえ提督。お言葉ですが、ドレッドノート級の主砲でカラクルム級を破れるでしょうか?」

『一つ分かっている弱点がある。ここだ』

 土方がカラクルム級のホロ映像の中で、船体の後ろに伸びたエンジン部分を赤く示した。

「これって……」

『ここは君が見つけた弱点だ。死に物狂いにサツマの主砲をここに当てただろう? そこからカラクルム級の装甲に穴が出来、辛くも地球への墜落阻止につながった。少なくとも換装したドレッドノート級の41cm主砲でなら、何とか対抗はできるだろう』

「しかし、それが出来るのは敵が我々に背を向けている時だけです。果たして敵艦が我々にそうするでしょうか?」

『敵艦を包囲殲滅できれば可能ではあるが……』

「……提督。せめて期限を48時間頂けませんか?」

 真田は懇願した。

『……長官に相談してみるが、色良い返事は期待しないでくれ』

「わかりました」

『第一艦隊。指示があるまで攻撃開始時刻は今から24時間後とする。次の会議は4時間後。解散』

 そこで作戦会議は一旦終わった。

 

「おい、おーい、待ってくれ!真田技師長とか言ってたよな」

「斎藤隊長? 一体どうした」

 CICを出てすぐ斎藤は真田と新見を追いかけてきた。

「まずは一言言わせてくれ。美影は技術科だと聞いていたからな。美影が世話になった」

「……こちらこそ」

「隊長。私たちを追いかけてきたのはそれだけじゃないでしょ?」

「あぁ、そうだ。例のカラクルム級とかいう戦艦。ガトランティスの奴らに吐かせたらどうだ?」

「……考えなくはなかったけど、そう簡単に口を割るとは思えないわね」

「それに、嘘を言わないとも限らない」

「けどよぉ……だったら、俺が吐かせる」

「やめて」

 新見は強く斎藤を注意した。

「……何なんだよあんた」

「新見 薫。技術科情報班班長兼カウンセラーよ」

「カウンセラーだって?」

「斎藤隊長は地上で彼らと実際に一戦を交えたはず。艦船同士の戦いや航空機同士の戦いに比べても互いの姿が露出しやすい戦場にいた。その分、感情的になりやすいと私は思うわ」

「つまり、どういうことだよ?」

「あなたに捕虜を任せてしまったらどうなるか分からないから駄目ってことなのよ」

「そ、そんな言い方ないだろ!」

「ガトランティス人を目の前にして頭に血が上らない保証はないでしょ? 保安部に任せたほうがいいわ」

「ぬぅ……」

 そこまで言われるとさしものグゥの音しか出なくなる斎藤だった。

 

 その一方。

 ヤマトの食堂の窓からアルファ・ケンタウリ11号星を見つめる一人の女性。胸のペンダントを無意識にいじっていると、すぐ後ろの扉から古代がやってきた。

 古代は驚いた様子でその女性の名を呼んだ。

「桂木教授……!?」

「古代艦長。ガリア4号星事件の時といい、今回もまた助けていただきましたね……」

 ガリア4号星で破壊された宇宙ステーション。その数少ない生存者の一人がこの桂木透子だった。

「どうしてここに?」

「あら?私が考古学者だってことをお忘れですか?医者も兼業ですけどね」

 数秒沈黙があった後、古代から切り出した。

「桂木教授。申し訳ありませんが、今11号星に降りる許可は出せません」

「何故ですか? 下には宇宙考古学的な発見が眠っているかもしれないのに。敵も追い払ったでしょう?」

「でもここがまた戦場にならない保証はないし、今回の一件でよく分かったのは、この星系は広すぎて守りにくい。きっと戦いが終わるまでこの星を民間人が訪れることは出来ないと思います」

「戦いが終わるのはいつ?」

「まだ何とも……」

「そんなに長く待てないわ」

 緊迫した雰囲気になる。次にそれを崩したのは透子だった。

「これは小耳に挟んだことですけど、ヤマトはテレザートに行くつもりとか?」

「……お答え、出来かねます」

 当初は長官からの秘密任務という扱いだっただけに一応は軍事作戦だ。民間人に明かすわけにはいかない。

「で、相手はテレザートのテレサ?」

「……」

 まさかそこまで知られているなんて。一体どこから情報が漏れたのか。などと古代が考えていたら、

「やっぱり。艦長、私を下の遺跡に下ろしてください」

「できません」

 古代に拒否されると、透子は少しむくれた表情でこう続けた。

「……下の遺跡が、テレザートのテレサと関係があってもですか?」

 その言葉に古代は耳を疑った。

 透子は少し自慢気に、確信を持って語る。

「必要なんですよね?テレザートとテレサの情報が。あの遺跡はその手がかりになるはずです」

「……本当に?」

「えぇ。断言できます。でも、そのメモを描いた手書きのノートを遺跡内のベースキャンプに置いてきてしまって……」

 好奇心に取り憑かれた学者の目をしている透子だったが、嘘はついていないように感じた。

「……わかりました。それなら、そのメモだけでも回収しましょう。場所を教えていただけますか?」

「行くなら私も」

「それは……」

「この遺跡には半年近く潜っていたんですよ? 何がどこにあるのかなら、私の方が詳しいと思うんですけど?」

「……わかりました」

「いいの?」

「えぇ。あなたには負けましたよ。ただし、護衛として保安部の星名と、記録係としてアナライザーは同伴させるように」

「アナライザー?」

「正式名称はAU09。ヤマトの自律型サブコンピュータですが、ちょっと変わり者でして。ただ、遺跡の記録が今後役立つかもしれませんし。分析能力はかなり頼りになります」

「それなら助かります。あとあのクマさんも」

「クマさん?」

「斎藤隊長のこと。彼ってあの体格でしょ? 遺跡の中が崩れていたら、彼に瓦礫や岩を退けてもらうのを手伝ってもらいたくて」

「それなら、空間騎兵隊を何人か帯同させた方がいいのでは?」

「遺跡は奥に行くほど狭くなります。大人数で行ったら道が閊えるだけになるから、少人数で行かせて欲しい」

「……」

 古代は碌に反論できないまま、透子に押し切られてしまった。

 


 

 同じ頃。小マゼラン星雲と射手座矮小楕円銀河のほぼ中間。

 天の川銀河とそれに付随する小銀河との間の宇宙空間は、星の密度が極めて薄い。ガミラスの詩人はこういった星の乏しい深宇宙空間を「宇宙の砂漠」、または「宇宙の荒野」と呼んでいた。

 しかし、単に「乏しい」ということは、恒星系が無いわけではない。

 

 例えば、緑色に輝く星雲をバックに、同じく緑色の海と赤い大陸を有するジェタリアという惑星が存在する恒星系がある。

 この惑星はガミラスとアゼルメニアの中間という位置関係にあり、ガミラスが台頭するまでは大マゼラン雲と小マゼラン雲からアゼルメニアへの交易路として栄えていた。

 ガミラス大公国時代からの友好国でもあり、大ガミラス帝国が建国されてからもその関係は変わらない。

 ザルツやオルタリアなどと異なり恭順な姿勢を崩さなかったことから事実上の属国という扱いになっても自治権を許された稀な例だが、この惑星が位置するエメラルダス星雲はガミラスにおいては別名で「エメラルド戦線」と呼ばれていた。

 ジェタリアは近隣国家とも友好条約を結んで平穏無事に過ごしていたが、50年ほど前からムスタラービア人による侵略に悩まされてきた。

 ムスタラービア人は、体組織がガミラスや地球人やジェタリア人などの多くの人型種族と異なり、ケイ素で出来ており、彼らの平熱は560℃。地球での表現で近しい言葉で語るなら、ムスタラービア人は、言うなれば金星のような環境の惑星を母星として進化してきた。

 彼らは排他的であり、非ケイ素生命体、及び人型生命体を下等生物と見做している。それ故に、ジェタリア人が何度も平和的に事態を解決しようとしても、ムスタラービア人はそのような彼らを嘲笑って侵略を繰り返してくるような有様だった。

 よってジェタリアは宗主国の大ガミラス帝国に泣きついてエメラルド戦線を形成したが、エメラルダス星雲はムスタラービアとの間でここ数十年に渡って力が拮抗したままだった。

 

 その力の均衡が、今まさに破られようとしていた。

 惑星ジェタリアの付近に、ガミラスの艦隊が集結しつつあったからだ。

 水色と青のガイペロン級航宙母艦に、ポルメリア級強襲航宙母艦、ゼルグート級戦艦、ガイデロール級、メルトリア級、ハイゼラード級重巡洋艦、デストリア級軽巡洋艦を旗艦にした駆逐艦隊や水雷戦隊などなど。

 その数はおよそ700隻にも及ぶ。

 そのゼルグート級から地上へシャトルが降りていく。

 地上には、高度に産業化された黄緑色の色彩を放つ都市が見える。

 シャトルがその超高層ビル群をすり抜けるように飛ぶと、その先には、ジェタリア総督府(旧ジェタリア星間共和国議事堂)があった。

 その発着場には同様にシャトル数隻の他、一機だけ魚雷の代わりに燃料タンクを積んだ空間雷撃機FWG97ドルシーラが駐機されていた。

 シャトルから降りてきたのは、茶髪で大きな口髭を蓄えたガミラス人の男性将官。

「ガデル!」

「兄さん」

 彼を呼んだのは、黒髪で小さな口髭を生やしたガミラス人の男性将官。

「お前も来てくれたか」

「兄さんこそ。よく無事だったな」

 一度は死んだと聞いていた兄が目の前でピンピンした姿で立っている。目の下のクマは目立っていたが。

「会議には間に合った?」

「ギリギリだ。ちょうど始めるところだったさ」

 ジェタリア総督府の会議室。

 そこにはガミラスの軍服に身を包んだ男女が着席して待っていた。

 タラン兄弟も空いている席に座った。

「あなたがタラン将軍の弟君ですかな?」

「はい、ガデルです」

「大佐のシー・フラーゲです」

「ダス・ルーゲンス准将です」

 タラン兄弟の両脇に座った将校たちから握手を求められて応じるガデル。

 すると、会議室の真ん中に、ついに彼が現れると、全員が起立し、ガミラス式の敬礼をした。

 彼らの目の前に現れた人物こそ、大ガミラス帝国元総統、アベルト・デスラーその人だったからだ。

 彼が手振りで合図すると、全員が着席した。

 デスラーも着席する。彼の右横の後ろには、黄緑色の肌をした恰幅のいい男。その反対に左横には同じ色の肌をした女性が立っていた。

「……諸君。遠路遥々、私のためによく集まってくれた」

「総統閣下のご帰還を心よりお待ちしておりました!」

 そういの一番に声を上げたのは、地球人の肌色に近い人種の女性。

「君は?」

「はっ。ユリエカ・エコーです。階級は大佐であります」

「原隊は?」

「ダイヤ戦線所属第43機動戦隊であります」

「……君はザルツ人だな?」

「そうですが、ここにいる者は皆同じく心はガミラス人です!」

「そうか。その心意気に敬意を払おう。……そんな皆には申し訳ないが、一部例外を加えることになる。入ってくれ」

 そう言って彼が合図すると、会議室に緑色の肌をした一組の男女が入ってきた。

 片方は地球人で見れば20代の女性、もう片方は40代前後で長いどじょう髭と顎髭を蓄えた黒髪の男性。

 会議室が途端に騒ついた。

「何でここにガトランティス人が!?」

「ガトランティスは敵でしょう!?」

「静かに!」

 そう喝を入れて会議室の雑音を取り除いたのは、デスラーの左横に立っていた女性。名をアンディラ・ムッソーという。

「……ありがとう、ムッソー代将」

 ムッソーはそう言われて軽く会釈した。

 デスラーが呼んだガトランティス人たちは、会議室の末端の席に座った。

「ガトランティス帝国が派遣してくれた友軍だ。紹介しよう。一番奥がイスラ・パラカス。空母部隊の指揮官だ。そして、手前に着席いただいたレディが、リセル・サーベラー。彼女はガトランティスが派遣した私の監視役だ。皆は彼女を空気と思って接して欲しい」

「監視役? 総統閣下、どういうことなのかご説明いただいてもよろしいですか?」

 そう質問を切り出したのは30〜40代の男性将官。

「君は?」

「少将のバレルド・アルシュペー*1でございます。オメガ戦線から参りました」

 その戦線の名前が出た途端、出席者の視線の一部がサーベラーとパラカスに向いた。

「ガトランティスとの激戦区になってる小マゼラン雲方面か……」

 そう呟いたのはルーゲンスだった。

「アルシュペーくん。君の言いたいことは察した。ならば、この場で皆には言っておかねばならないな。私はガトランティス帝国のズォーダー大帝に命を救われた。故に、彼には忠義を尽くすつもりだ」

 さっきよりも会議室の騒めきが増したように感じた。

「まぁ、聞け。私は確かに一度は死んだ。だが、大帝が私を救ってくれただけでこの場に立てたわけではない」

 そして、デスラーは凄むように、捻り出すように言った。

「……ヤマトだ」

 その名が出た途端、会議室は静まり返った。

「ヤマトは我々の全てを破壊した。かつての栄光ある大ガミラス帝国はどこへ行った? 何故ガミラスはわざわざ地球に領土を割譲しなければならないのだ? そもそも何故地球と条約など結ばなければならない? イスカンダルの助けがなければ星間航行すら覚束なかったであろう種族と何故対等に接しなければならないのだ? 我々はヤマトにただ負けただけではない。すっかり弱腰の国に成り下がってしまったではないか!」

 その場にいた者たちの心に、それらの言葉は刺さるものがあった。

 一瞬の沈黙の後、デスラーは再び語り、皆の目の前で拳を握った。

「私はヤマトを倒す。そのためにこの場にいるのだ。例え緑の悪魔と言われたガトランティスが私の支援者であろうと、ヤマトを倒し、栄光ある大ガミラス帝国を取り戻すためならば、私は悪魔とでも手を組む所存だ」

 そして、デスラーは立ち上がる。

「そして、この場所がその第一歩になる。我々はこれからジェタリアを悩ませるムスタラービア帝国を打倒し、テレザート方面への足掛かりを作る」

「……」

「……君、何か言いたいことがあるのかね?」

 水を差すような発言をしてはならないという空気が出来ていた中で、ザルツ人らしき男性が何か言いたげな視線をついデスラーに向けてしまった。

「総統閣下。私は中佐のミュラム・ディッソーニと申します」

 ディッソーニという名前に反応した者数人。デスラーも一瞬だが眉をピクつかせた。

「誠に僭越ながら総統閣下。何故、ヤマトはテレザートに向かうと思うのですか? あそこは魔の宙域として有名です。確か昔、ガミラスもテレザートに艦隊を送ったきり、その艦隊は戻ってこなかったそうではないですか。そんな宇宙の難所に何故わざわざ足を突っ込むのですか? 例え伝説のテレザート教の総本山であろうとも」

「……テレザート星から地球に向けて強力な信号が送られていたからだ。地球はその電波の内容を解析し、ヤマトを向かわせることにした。そして、送信主はテレザートのテレサという女らしい。地球に潜伏させている我々のスパイからの確かな情報だ」

 その名前に議会の場がどよめく。

「テレザートのテレサ!?真ですか!?」

「まさか、テレサが実在したと」

「おとぎ話ではなかったというのか……」

「テレザートのテレサ……神に等しいとされる存在がまさか実在していたとは……」

 その名に、ザルツ人やジェタリア人、更にはガミラス人からも困惑の声が出ていた。リセルは事前に聞いていたため終始落ち着き払った反応を見せていたが、ディッソーニとパラカスら数人はそれすらないのに無反応だった。

「目的もなくテレザートのテレサが地球にメッセージを送るだろうか? これは私の推測だが、テレサはイスカンダルの真似事を行なうつもりだろう。その証拠がこれだ」

 デスラーは会議室のテーブルのホロプロジェクターを操作して、映像を見せた。

 それは、青い姿に戻った地球を飛び立つヤマトだった。

「賭けてもいい。ヤマトの最終目的地は間違いなくテレザートだ」

 デスラーは映像を切ると、地球からテレザートへ向かうヤマトの予測進路を代わりに表示した。

「我々が何者にも邪魔されず、ヤマトに戦いを挑めるのは、テレザートへ向かう航路上だけだ。チャンスは往路の一度きり。片を付ける。私の屈辱を、私の悲願を晴らす!」

 デスラーは次に映像を切り替えると、ムスタラービア本星を映した。

「……だが諸君。その前にムスタラービアの軍勢を滅ぼし、ジェタリアの悲願を成就させようと思う! その後に、我らの手でヤマトがテレザートに出向いた事を後悔させてやろう。ついてきてくれるか!」

「もちろんです!!」

「目にモノ見せてやりましょう!!」

「総統万歳!」

「総統万歳!!」

 会議室は歓声が上がる。

 冷めた様子なのは、ディッソーニとバレルド、ムッソー、そしてガトランティス勢を含めた5人だけ。

 残りはやはりガミラスの版図を歴代最高にまで広めたアベルト・デスラーを熱狂を以って称える。

 これこそがデスラーをデスラーたらしめるカリスマ的支配そのものであった。

 だが、リセルは議会の皆に讃えられるデスラーの側に行き小声で耳打ちした。

「総統……よろしいのですか?テレサからのメッセージを伝えなくて」

「フッ、かまわんよ。彼らには……いや、我々には不要だ。これから我々は……私は、ヤマトと戦争をするのだ。2年越しの戦争だ。その戦争にあのメッセージは邪魔でしかない。そうだろうリセルくん?」

「……やはり、あなた方は実に野蛮ですね」

「君たちには言われたくないね」

 そう切り返されたリセルは、反論する余地が無くなって眉間に皺を寄せると同時に、呆れたような顔をしてデスラーから離れた。

 


 

 コスモハウンドやコスモシーガルなどがヤマトを発着する中、一機のコスモシーガルがヤマトから発艦し、アルファ・ケンタウリ11号星地表にある遺跡の付近に降りていった。

 この機体のパイロットは伊東愛子、副操縦士は夏目 恵(ナツメグ)だった。

「なんであたしが……」

 副操縦士になったナツメグはやや不満そうだった。

「仕方ないでしょ。敵艦の残骸の回収を嫌がったのは誰だっけ?」

「でもあんな鉄屑回収しても面白くないじゃない」

「その鉄屑から敵の弱点を探そうとしてるじゃないの」

 議論にはなっているが、その間は自動操縦が働いていた。

「桂木教授?」

「なぁに? 星名准尉だったかしら」

「そうです。教授は医師ですよね?」

「えぇ」

「それでさらに考古学者?」

「キャラが濃いと言いたいのかしら?」

「えぇ、まぁ」

「本業は医者よ。でも、考古学も好き。特に地球外文明の残した遺跡を調べられる機会なんて滅多にないことじゃない? だから、この星に来てからは本業の人たちに混じって必死に勉強したわよ」

「先生の上達ぶりがすごいの何ので、いつの間にか一緒にいたガリ勉どもが青ざめていたっけなぁ。俺には考古学だの医学だのさっぱりだが」

「乗客の皆さん。悪いけどお喋りは終わりにして。そろそろ降りるわよ」

 コスモシーガルの窓の外を見ると、11号星の大気圏に入っていた。

 地表まであと少しだった。

 


 

 同じ頃、アルファ・ケンタウリ11号星の軌道上のヤマトの艦内。

「……!?」

 ヤマトの医務室の隔離病棟に収容されたガトランティス人の男が一人、目を覚ました。

 ベッドの周りには隔離フィールドが張られていて、内部の者が自由に出入りできないようになっていた。

 その部屋に護衛を伴って新見が配膳を持ってやってきた。

「あっ。目を覚ましたわ」

 新見もガトランティス人の人物がベッドから起き上がったのを見て、驚いたような安心したような口調でそう言った。

「……!」

 ガトランティス人の男は慌てて立ち上がろうとしたが、体の節々が痛むし、一部感覚がない。

「動かないで。……言葉はわかりますか?」

 新見がそう尋ねると、ガトランティス人の男は答えた。

「……あぁ。言葉はわかる」

「良かった」

 何が良かったと言うのだろうか。ガトランティス人にとって、捕虜になることは屈辱的なものだった。

「……ここはどこなんだ?」

「地球連邦宇宙軍所属、E.F.S.ヤマトの病棟です」

「ヤマトだと……!?」

 彼にとっては、自分の艦を破壊した憎き敵であり、倒すべき目標だった艦でもあった。

「あなたの機体は地上に墜落していました。重傷でしたが一命は取り留めたと先生が……」

「何故俺を助けた!? 俺からガトランティスのことを聞き出すつもりか? それともこの船には奴隷が足りないのか?」

「奴隷? 何のことですか?」

「捕虜は奴隷になるか殺されるのが当たり前ではないか! 奴隷に堕ちるぐらいなら私は死を選ぶ!」

「落ち着いてください」

 新見はそう強く言ってから、

「あなたたちの文化と、我々の文化における「捕虜」の定義は違いますよ」

「どう違うというのだ? 敵に捕まってるではないか」

「あなたは今、奴隷と捕虜をイコールで結びましたよね? 我々には捕虜は捕虜なんです」

「……意味がわからん」

「少なくとも、あなたを奴隷にしたり、殺したりはしません」

「……つまりは、飼い殺しか」

「そうなりますね」

 先ほどの男の剣幕はどこへかと失せた。

「……あなたからは聞きたいことが山ほどありますので」

「やはりか……」

 すると男は、体を寝かせ、新見から目を背けた。

「何を聞いても無駄だぞ」

 新見としては、予想した通りの反応だった。

「ガトランティスの目的は?」

「……」

「ガトランティスの艦船の技術情報は?」

「……」

「……あなたと一緒にいた人がどうなったか知りたい?」

「!!」

 この質問には反応した。

「はい、か。いいえ、か」

「……はい」

「……彼は助かったわ。外傷をいくつか負っているけど、命に別状はないわ」

 寝たばかりなのに、今度は飛び起きた。動作が忙しいせいか、体を痛めた男。

「……そうか……早く会わせてくれ」

「申し訳ないけどそれは無理よ」

「……」

 彼は隔離フィールドに八つ当たりするが、その程度で破れるほど脆くもない。

 少し落ち着いてから、新見は次の質問をした。

「……あの人の名前を聞いてもいいかしら?」

 男は目を瞑り、再び目を開くと、こう答えた。

「あいつの名前は……メーザーだ」

「では、あなたの名前は?」

「……私の名前はコズモダード。コズモダード・ナスカ。……お前たちの植民星を襲撃した艦隊は、俺が指揮していた」

 男は、わざとらしく、そう名乗った。

 


 

  そしてアルファ・ケンタウリ11号星の地上の遺跡付近に降りたコスモシーガル。

 機内には愛子たちが残り、桂木透子は、斎藤、星名、アナライザーと共に遺跡に分け入る。

 三人は安全のため、宇宙戦闘服でも使われているタイプのフェイスヘルメットを被っている。

「足元に気をつけて」

 透子に警告を促されて、暗い中、ライトを照らしながら進む一行。

 遺跡は大手門のように洞窟がパックリと口を開けていた。

 その奥に進むと、岸壁や岩肌だらけであった。

 アナライザーはレーザーサーチャーを使い、それらを記録中だった。

「あなたって便利なのね」

「アリガトウゴザイマス。遺跡ノ記録ハオ任セクダサイ」

 するとアナライザーは今記録した分を試しに投影して見せた。

「あらあら、遺跡を3Dデータにして残してくれたの? 偉いわね」

 そう言って透子はアナライザーを撫でた。

「……ドウモ」

 心なしかアナライザーが照れたように見えたのは気のせいだろうか。

「それより、教授の残したメモはどこに?」

「暗いところは苦手なのかしら中尉さん?」

「そういうわけでは……。あまりに深いと戻るのに時間が掛かってしまいます。ヤマトの出航まであと20時間もありませんし」

「……正直言って、俺もここまで潜るのは初めてだ。学者さん方が奥で何をしているかなんて俺にはわからんかった。永倉に来て貰えば良かったな」

「あら、力持ちそうだからクマさんに来てもらったのよ?」

「クマさん?」

「……その呼び名はよしてくれ」

 遺跡に潜って1時間。一旦休憩して周りを見ると、壁には文字らしきものが刻まれており、時折り壁画も見掛けるようになった。段々と遺跡らしくなってきた。

「この遺跡、一体どこまであるんだ……?」

「そうね……あとフロア2個で終わりだわ」

「……ところで教授。この遺跡って、何が目的で建てられたと思います?」

「そうね……私の推測だと、埋もれた神殿かしら。ここは地表から2kmも深いところだし」

 するとアナライザーがこれまで通ってきた道を立体図にして投影し、斎藤と星名に見せた。

 末端の赤い点が自分たちのいる場所。

 そこから入口までの距離を測ると5km以上は歩いたことになる。

「はぁー、何てデカくて深い遺跡だ……」

 改めて見た斎藤は溜め息を吐きながら感心した。

 

 次の部屋に進むと、その部屋には壁画があった。

「これは……一体……!?」

「おぉ、何というか……すげぇなこれ」

 星名も斎藤も、壁画を見て言葉を失った。

 そこには神々しい雰囲気を纏った女神のような女性が描かれていた。

 女性は天に祈るような姿勢をしていた。

 その近くに、教授が置き忘れたメモや機材一式があった。

 透子はそれも忘れて目を輝かせながら言った。

「二人とも。これがテレサ。テレザートのテレサよ!」

「テレザートのテレサ……ヤマトがこれから向かう星と、この女性にはやはり関係があるんですか?」

「私はそう思う」

「……だが、この遺跡は……」

「えぇ。私たちが調べたところ、この遺跡は少なくとも400〜500万年は経っているわね」

「ソノ通リデス。放射性炭素年代測定ノ結果、コノ遺跡ガ作ラレタノハ502万年前デス」

「……2万年ぐらいは誤差の範囲かしら」

「502万年前って……えっと……どれだけ大昔なんだ!?」

 斎藤はあまりにもスケールの大きすぎる話に頭から湯気が出そうになる。

「最初の猿人とされるアウストラロピテクスが生まれるよりも前にこんな遺跡を作れる文明が宇宙にはもうあったんですね」

 星名は500万年前に地球で起きたと推測される出来事に近い事象としてアウストラロピテクスの登場に言及した。

「けどよぉ……そんだけ昔ってことは、この女の人はとっくに……」

「亡くなっているかもだって? あり得なくはないけど……私の推測通りなら、テレサはある種の高次元生命体だと思うわ。遺跡からもそれが読み取れたし」

「高次元生命体……!?」

「高みの存在とも言えるかしらね……」

 だが、透子が壁画に触ると、突然どこからか眩い光が走った。

「!?」

「お、おい、何だこれ!?」

「一体どうして……これまで同じことをしても光らなかったのに何故……!?」

 

 光が収まると壁画が消えていた。

 代わりに、別の部屋に続く通路が出来ており、

「……おいおい、これって階段か……?」

 斎藤が、先に下のフロアに続く螺旋階段に気付いた。

 近づいて見てみた星名も驚いた。それも……。

「これって……まさかテクタイト? アナライザー、どうだい?」

「ピピピッ。分析結果出マシタ。25%ガ、テクタイト合金。残リノ構成物質ハ未知ノ物質デ出来テイマス。僅カナガラ、ニュートロニウムモ検出シマシタ」

「凄い、そんなことまで分かるの……?」

「……どうします? 教授。メモは回収しましたし」

「ここまで来たら行くしかないわ」

「でも無用な危険は……」

「確かにこの先に待っているのは危険かもしれない。でも、私はあの壁画にこれまで何度か触っていた。こんな風になったのは初めてなのよ? 何故なのか知りたいわ」

「ですが……」

「それに、未知の世界へ行くには危険を犯さなければならないことも時にはあるでしょ。あなたたちがイスカンダルへ行った時のように」

「それはそうですが……」

「……教授。俺はついて行くぜ。テレサが何者で、まだ生きてるのか。それが分かるんならそれだけでも行く価値はあるってもんだ」

「ワタシモ行キマス」

「はぁー……分かりました」

 多数決だ。こうなれば行くしかないと星名は腹を括った。

 


 

 ヤマトでは保安部副部長である山田により、コズモダード・ナスカへの尋問が始まっていた。

「彗星帝国の目的は?」

「……話せない」

「カラクルム級の弱点は?」

「話せない」

「プロクシマ3に敵艦隊はどれだけいる?」

「話せない」

 しかし、尋問の成果は著しくない。それをマジックミラー越しに控室から見ている古代と島。

「……かれこれ、1時間は経つんだがなぁ」

「敵さんもだいぶ粘ってるなぁ」

 だが、この控室。

 もう一つの取調室の様子も見れた。そちらでも別のガトランティス人が新見から尋問を受けていたのだが……。

「二人とも「コズモダード・ナスカ」を名乗ってるそうじゃないか」

「そこなんだ。どちらかがナスカかもしれないが、どちらも違うかもしれない。そもそも「コズモダード・ナスカ」という名前自体が存在しないのかも」

「生存者に写真を見せて聞いてみたのか?」

「あぁ。彼だ」

 同じ名前を名乗っている片方のうち、青みが混じった黒髪をしている男性こそが、生存者に一度銃を突きつけるも、結局撃たなかったという男だった。

「では、あの茶髪の男は?」

「発見した時、操縦席にいてパイロットスーツを着ていたというから、多分パイロットだろう」

 そこで控室のチャイムが鳴った。

「どうぞ?」

 入ってきたのは、診断結果を持った佐渡だった。

「ほれ、古代。二人の診察結果じゃよ」

「何かわかったことはありますか?」

「ガミラスと同じく、人間と身体的な特徴はあまり変わらない感じじゃな。内臓の位置が違うとか、未知の臓器があったりするが、99%は地球人類の遺伝子と一致しておるよ。それと、これを見て欲しい」

 そう言って佐渡は黒髪の男の診察結果を見せる。

「頭部外傷と、頬にアザ?」

「打撲しておった。墜落の衝撃かと思ったが、手の甲の形がついておってな」

「つまり、彼は誰かに殴られた?」

「そうなる。だが、殴った跡はこの一つだけ。他は別の外的要因でついた傷のようじゃ」

「……となると、二人の関係性が見えてきたぞ」

「古代?」

「島。コズモダード・ナスカは彼だ」

 古代は黒髪の男がナスカだと判断した。

「じゃあ、あの茶髪の男は?」

「これは俺の直感だが、恐らくはナスカを庇っているんだと思う」 

「そんな……プロクシマ3には入植者もいて、今この瞬間にも大勢が殺されてるかもしれないのに。連中がまるで地球人と同じ考え方をするのか?」

「島。人間の負の部分も見るのじゃ。旧時代。人類は他国同士、他人種同士で数えきれない戦いを繰り返してきた。それらの戦いの中には、一方がもう一方を虐殺したような惨たらしい事例もあったはずじゃ」

 そう言われてしまうと、島も反論できなかった。古代も言う。

「逆に言えば、人間だからこそ良心もある。良い奴も悪い奴もいる。ガミラスもそうだったじゃないか。ガトランティスにもそれは当てはまるのかもしれない」

「……そこまで言うなら。じゃぁ、どうする?」

「そうだなぁ……」

「古代、島。それならわしに任せてくれないか?」

「佐渡先生?」

「連中は軍事情報はきっと吐かないじゃろう。しかし、彼らは捕虜を奴隷と結びつけている。地球人がそうでないことを見せるには行動あるのみじゃよ。新見君と山田君を呼び戻してくれないか?」

「佐渡先生……そこまで言うならお任せします」

「古代。時間がないんだぞ?」

「わかっている。でも、我々が無理矢理情報を聞き出そうとしても逆効果だろう」

 すると、山田の尋問に怒ったのか、茶髪の男が机に拳を叩きつけた。

 彼らの腕には、何か、あるいは誰かに危害を加えたら電流が走る拘束具が付けられているため、茶髪の男は体に流れた電流に悶える。

「山田。一旦休憩しろ。拘束具の電源を切れ」

『しかし……』

「命令だ」

『わかりました艦長』

 山田が部屋を出て行ってから、彼は拘束具の電源を切った。

 

 アルファ・ケンタウリ11号星の軌道上。

 ガトランティス艦隊の残骸が漂う中、ヴェールヌイ級駆逐艦数隻とデューイ級コルベットが巨大な残骸を引っ張ってきた。

 ヤマトの艦内では、展望室からその様子を見て溜め息を吐く男性が一人。彼は技術課の青い制服を着ていた。

「どうしたものか……」

「おや、小島くん?」

「……新米か」

 そこへ甲板部のオレンジ色の制服とジャケットを羽織り、「E.F.S.YAMATO BBY-01」と刺繍が描かれたキャップを被る眼鏡をかけた青年、新米俵太がやってきた。

 新米はヤマトがドックに入っていた時から艦内清掃業を続けてきただけに手際が良かった。

 小島が手を乗せていた手すりをさっと消毒液のついた布で拭き、窓にも水拭きをする。

「どうしたんだい、そんな溜め息吐いちゃって」

 掃除する新米の肩をチョンチョンと叩き、小島の方を振り返る新米。

 そんな新米に対して、小島は窓の外を指さして言った。

「あれのせい」

 それは、ヤマトがこの星系の共通重心近くで撃破したガトランティスのカラクルム級の残骸だった。

「あぁー、カラクルム級かぁ」

「そう、カラクルム級だよ。技術課はみんな頭抱えてる。あと24時間かそこらで弱点を探せなんて無茶苦茶だ」

 会話をしながら、今度は展望室の床をモップで磨き始める。

「じゃぁ、どうしてこんなところに?」

「休憩だよ、休憩」

「うーん……ヤマトの主砲で戦う分には問題なかったんだよね?」

「そうさ。ところが、長官や提督が求めているのは《ヤマトがいない場合の対処法》だ」

「そりゃそうだ。ヤマトだって一隻しかないし、テレザートに向かわなきゃならないし」

「わかってるさ。だが、完全に行き詰まってる……」

「ガトランティスの人を捕虜にしたって聞いたけど?」

「確か艦隊司令官みたいだって言ってた。でも無理っぽい。そう簡単に口を割ってくれるなら苦労しないし」

「嘘をつかないとも保証できないもんなぁ」

「「はぁ〜……」」

 二人とも溜め息を同時に吐くと、小島は、

「……新米、お前の飯休憩はいつだ?」

「あぁ。ここが終わったら下の階行かなきゃ行けないから。それが終わったらもう夕飯時かな?」

「わかった、じゃぁ夕飯でな」

「はーい」

 展望室を疲れた足取りで去り中央解析室へと戻っていく小島。新米は展望室の床を磨き終わったばかりだった。

 


 

 再びデスラー率いるエメラルド戦線艦隊。

『総統閣下。惑星ウスタシェ軌道上のムスタラービア艦隊を殲滅いたしました!』

 ユリエカ・エコー大佐は興奮した様子で戦況を報告してきた。

「ご苦労。被害は?」

『駆逐艦9隻が大破、2隻を失い、雷撃機は5機を喪失、巡洋艦4隻が小破しました』

「……その程度なら上々。許容の範囲だ。ウスタシェの方は?」

『ウスタシェ人のレジスタンス組織とコンタクトが取れました。彼らは我々のことを解放軍として歓迎してくれています。現在、ムッソー司令官がレジスタンス組織のリーダーたちと会合中です』

「終わり次第報告を」

『了解。あぁ、総統閣下。すぐに我が機動部隊はそちらに合流できます』

「いやいい。連中の本国艦隊が最後の悪あがきにウスタシェを襲撃しないとは限らないからな」

『……わかりました』

 明らかにガッカリした表情を見せるユリエカだったが、

「以上だ」

『はっ!』

 すぐにその感情を胸に仕舞い込み、通信を切った。

 彼のそばにはヴェルテ・タランと、リセル・サーベラーがいた。

「タラン。あの娘はなかなかに面白い逸材だな。二等ガミラス人のままにするのが勿体無い程だ」

「非常に優秀だと認めざるを得ません。艦隊の損失はほぼないのですから」

「そうだな……彼女には名誉ガミラス臣民の権利を与えよう。まぁ、尤も、私の復権が実現したらの話だがな」

「奴隷としている種族に対してだいぶ寛大な評価ですね、デスラー総統」

 そう言ったのはリセルだった。

「反抗的な奴隷と従順な奴隷であれば、従順な奴隷のほうを大切にするものだ」

「そういうものでしょうか。我々にとって科学知識を持つ他種族を奴隷にする習慣こそありますが、それ以外の者たちの生殺与奪は捕らえた者の裁量によります。あくまでも労働力しか有しない奴隷はおまけ扱いです」

 そう言われたヴェルテは何ともいえない表情をしていた。デスラーは問う。

「では私は特別待遇の奴隷だと言いたいのかね、君は?」

「……事実ではないですか。あなたぐらいですよ、他種族で大帝に気に入られて玉座の間にまで通された男は」

「……」

 その場の空気は重苦しかった。

 そこにヴェルテが割って入るように報告してきた。

「総統閣下。敵艦隊は敵本星に結集しております。敵は我々に決戦を挑むつもりでしょう」

「……愚かな連中だ。そうは思わないかタラン? この戦いの全てが私の計画通りに動いてる事を。私の狙いは連中が母星に固まってくれることだ。それを連中が知ったら果たしてどんな顔をするだろうな」

 彼らの目の前には250隻のムスタラービア帝国艦隊がいたが、対するデスラー艦隊の総数はエコー大佐、ムッソー司令官、ガデル・タラン将軍のウスタシェ攻略に向かった分隊と、チェトニカ攻略に向かったルーゲンス将軍・フラーゲ大佐の水雷戦隊と空母キスカのパラカス率いる12隻の小機動艦隊の連合部隊。それらを除いても300隻以上いた。

「タラン。砲の準備はどうなってる?」

「ははっ。いつでも準備出来ております!」

「アルシュペーとディッソーニに通信を繋げ」

「ははっ」

 デスラー・ガミラシアの艦橋には他の艦船と同じく巨大なビュースクリーンがある。

 そのビュースクリーンを折半する形で、右側にアルシュペー、左側にディッソーニが映る。

『総統閣下。ご命令を』

「全艦、旗艦を防御しろ」

「……総統? 敵艦隊を叩かないおつもりですか?」

 サーベラーの反抗的とも思える質問だが、デスラーは気分を害するどころか頬を吊り上げる。

『まさかこのまま何もしないおつもりなのですか!?』

 そんな焦りが混じった問い掛けをしてきたのはディッソーニだった。

『ディッソーニ、立場を弁えろ』

『し、しかし……総統、どうか私に一番槍をお与えください。我が仇敵ムスタの母星を叩かせてくださいませ!』

「……ディッソーニ。そういえば一つ聞こう。君の出身は?」

 デスラーの落ち着き払った様子と問いかけにディッソーニは一旦冷静になると答えた。

『……チェトニカです』

「妙だな。君はザルツ人ではないのか?」

『祖父がザルツ移民でした。私はあくまでもチェトニカ人であります』

「……チェトニカがどうなったのか、君は知っているか?」

『いいえ。ムスタラービアは排他的で、占領されて住民が追い出された後の故郷のことはわかりません』

「では、これを見せよう。タラン。ルーゲンス艦隊の生中継を見せてやれ」

「はっ!」

 タランが操作するコンソールには通信用の小さいスクリーンがあり、向こう側ではチェトニカ攻略艦隊旗艦に乗っているルーゲンスとフラーゲの姿が映っていた。ルーゲンスはタランの指示に相槌を打ち、向こう側でフラーゲがコンソールを操作する。

 

 すると、ルーゲンス艦隊120隻によるチェトニカ攻略の様子が、アルシュペーとディッソーニの通信を脇に押し退けるようにしてスクリーンに映し出される。

 チェトニカの軌道上ではルーゲンス、フラーゲ率いる水雷戦隊がムスタラービアのチェトニカ艦隊旗艦を撃沈したところだった。

 だが、

『そ、そんな……!』

 ディッソーニが絶望したような声を出した。アルシュペーが尋ねる。

『ディッソーニ、どうした?』

『チェトニカが……!』

 ディッソーニが覚えているチェトニカは牧草地帯が広がるのどかで緑豊かな星だった。

 しかし、今彼の目に飛び込んできたのは、チェトニカとは似ても似つかない赤茶けた星。

 別の星と思いたかったが、チェトニカには灰色の月と黄色い月、二つの月があったことをディッソーニは覚えていた。その二つの天体の姿は変わっていなかったのだから、尚更事実を突きつけられる。

「チェトニカは、ムスタラービアによって征服された後、奴らの母星と同じ環境に改造されたようだ。地上への爆撃を試みた機体が硫酸の雨に強く曝されたとも報告を受けている」

『……』

 あまりの状況に言葉を失ったディッソーニ。

「悪い知らせですまないが、お前の仇は必ず取ろう」

『故郷があんな姿にされて、黙って見ているわけには行きません! 出撃を命じてください総統閣下!』

「総統閣下、敵艦隊が我々に向かってきます!」

「アルシュペー、ディッソーニ。援護を頼む」

『はっ、総統閣下』

『……わかりました』

 二人の通信は一旦ここで切れ、ルーゲンス艦隊からの生配信も途切れる。

「なるほど。あのディッソーニという男が少し分かった気がする」

「総統?」

「タラン。デスラー砲、発射準備!」

「は、ははっ!デスラー砲、発射準備に入ります!」

 デスラーの指示を復唱するタラン。

 部下たちはその発射準備に取り掛かった。

 エネルギーの充填音が聞こえ、デスラーの目の前にライフル型の発射トリガーが床から迫り上がってくる。

「エネルギー充填、60%……75%……90%」

「閣下、敵艦が接近中。戦闘機を送り出しています」

「弾幕張ります!」

「ディッソーニ艦長の乗艦からメランカ発進、迎撃に入ります」

 ディッソーニが指揮しているのはポルメリア級強襲航宙母艦「アウレリオスト」。そこからムスタラービアの小型戦闘機迎撃のためメランカが出撃する。

「いかん。ディッソーニに伝えろ。艦載機を我が旗艦の射線から退避させろとな」

「しかし、敵機が我が艦に直進してきます!」

「ならば旗艦以外を守れと伝えろ」

「しかし……」

「早くしろ!」

「は、はっ!!」

「エネルギー充填、120%!」

 デスラー・ガミラシアの艦首の砲口が赤く輝き始める。

「……ディッソーニ隊、デスラー砲の射線から退避しました!」

「よし。デスラー砲、発射!」

 そうしてトリガーを引いたデスラー。

 彼の旗艦から放たれたデスラー砲は、ディッソーニの艦から出撃したメランカのそばを通過、もしくはその余波で宇宙空間に吹き飛ばし、瞬く間に迎撃に向かってきたムスタラービア艦隊を消滅させ、その閃光はそのまま貫通。敵の本星であるムスタに突き刺さった。

『全艦、ムスタから全速退避せよ』

 ムスタにデスラー砲が命中したことにディッソーニ、アルシュペーらは呆気に取られていたが、デスラーの指示で我に返った。

「全機、急いで艦に戻れ!」

 ディッソーニは迎撃のために発進させたばかりの機体を慌てて呼び戻す羽目になったが、デスラーの凄みも実感した。

 デスラー艦隊が退避を始めたのを尻目に、デスラー砲が惑星ムスタのコアに直撃したため、ムスタの地殻変動は活発化。

 地表のあちこちから大気層を突き破るようにマグマが火柱を上げる。

 惑星の至る所に地割れや亀裂が発生し、ムスタ人やその都市を飲み込んだかと思えば、惑星ムスタは大爆発を起こした。

 ムスタラービアの艦隊もほぼ道連れになり、こうしてジェタニアを10年に渡り悩ませてきた敵性国家ムスタラービアは壊滅した。

「試射、成功です」

「……タラン。良くやってくれた。我が名を冠した波動兵器に相応しいデビューとなった」

「ありがとうございます!」

「なるほど。何年も膠着していた戦線に新兵器を見せつけて解決することで人身掌握を……」

「リセル。私は二等ガミラス人たちに甘いのではない。彼らは大ガミラス帝国の総統デスラーの信奉者だ。ならば、私にとって彼らの心を掴むことこそヤマトの戦いに必要だ。それに、これを見た他の連中も恐怖し、私に逆らうことは愚かだと考えるだろう」

「大帝があなたに特別待遇を与えたのも当然のように思えてきました。しかし……」

「もちろん忘れてなどいない。我々は大帝のためにも地球に対する聖戦の悲願を成就させるつもりだ。それが大帝の願いであれば、私はそれを叶えるために全力を尽くす。だが、私もヤマトだけは譲るつもりはない」

「ならば、今すぐにでもテレザート方面に……?」

「いや。まず今夜は祝杯といこうではないか。ジェタリアに進路を取れ」

「了解しました!」

「そんな。遊んでいる余裕などないのでは?」

「……部下を労うことも上に立つ者としての勤めだよ、リセル君」

 そうしてデスラー主導の下、エメラルド戦線はここに集結。

 ジェタリアは祝杯ムードに包まれることになるが、デスラーにとってこれはヤマトへの復讐と屈辱を晴らす第一歩に過ぎなかった。

 


 

 同時刻。プロクシマ3の総督府では、取り残された住民たちがガトランティスの地上軍に対して激しい抵抗を続けていたが、被害は甚大だった。

「芹沢さん!」

「三浦、無事だったか。ウィリアムズとムガベは?」

 三浦という青年は芹沢の問いかけに首を横に振った。

「……クソ!」

 二人が合流したのは、かつては総督府一番のカフェとして賑わっていた建物。

 今ではかつての店は建物ごと跡形もなく破壊されて瓦礫に埋もれ、彼らは建物の地下室に避難を余儀なくされていた。

「だからガミラスといいガトランティスといい、異星人など信用できんのだ……!」

「しかし、ガミラスの連中もよく戦ってくれてます。実際、総督府の地下施設の存在を教えてくれたのは彼らですからね」

 三浦も芹沢も、二人とも持っていたのはガミラス製のハンドガンやライフルだった。

「地球へ輸送船が無事着いていれば、もうアンドロメダの艦隊が惑星を包囲しているはずだったのだぞ……!?」

「輸送船が破壊されたのですか?」

「いや、それはない。総督府を完全に破壊する前に輸送船がジャンプゲートに飛び込む映像を見たからな」

「となると何故……」

「わからん。だが、助けは来るはずだ。何としても持ち堪えるぞ」

 だがそこへ別の人物が慌ててやってきた。ガミラスの女性だった。

「ケスラ、何があった?」

「副町長大変です! 第7コロニー内にガトランティス兵が侵入しました!」

「何だと!?」

「あちらのアジトが敵に見つかったらしいんです」

「こうしてはおれんぞ。他のグループにも第7コロニーに……いや、各コロニーに繋がる地下道をそれぞれ固めるように言っておいてくれ。我々が第7コロニーを助けに行く」

「はい、副町長!」

 プロクシマ3には複数のコロニーがあり、各コロニーは電力が独立しているため、ガトランティスが内部からそれを破壊しない限りコロニーシールドは破れない。

 しかし、内部に侵入されてしまったら、敵を食い止めないとシールドの破壊も時間の問題になる。

 総督府から東にある第8〜第12コロニーは後から地球の入植者が建造したため独立していたが、第1コロニーにあたる総督府の地下道は第2〜第7コロニーと繋がっている。

 ガトランティスの襲撃が始まるとこの地下道を使って芹沢たちが民間人や非戦闘員を全員それらのコロニーに避難させたのだ。

 その避難経路がガトランティスに見つかってしまったのである。

 芹沢は自身が率いるレジスタンスグループ約40人と共に第7コロニーに入るが……。

「……このケダモノめ!なんてことを!」

 コロニーに入った三浦は、銃で撃たれて殺された母子を見て怒る。

 他にも大勢が殺されており、それは現在進行形で続いている。レジスタンスたちはこの虐殺を止めるためにガトランティス兵を次々に撃ち始めた。

「……」

 一方の芹沢は、その惨たらしい状況を目にして放心状態になり、ガトランティス兵が自分を狙ってきたのを見て我に返り、ガトランティス兵を撃った。

 


 

「……おいおい、驚くことばかりだな……」

 再びアルファ・ケンタウリ11の地下遺跡。

 遺跡の奥まで来た一行は斎藤を先頭に螺旋階段を降りていくと、そこには教会の中のような光景が広がっていた。

 礼拝堂に多数のベンチが置かれている……地球にあるような教会を思わせた。

 だが、地球でいえば磔にされたイエス・キリストの像がありそうなものだが、代わりにあったのは先程の壁画に描かれていたテレサという女性の像。

 その像は斎藤、透子らに向き合う形で祈りを捧げる姿勢を取っていた。

「すごい……やっぱりここは神殿だったんだわ! それにこんな隠し部屋があったなんて!」

 透子は興奮して像に近付いた。星名が止めようとしても遅かった。

 そのまま透子はテレサの像に触ってしまい、

「!!?」

 透子は全身に電流が走ったようなショックと頭が暑くなるのを感じた。

「お、おい、先生!?」

 斎藤が透子を像から引き剥がそうとしたが、同じく感電。

「うがぁ!?」

 斎藤の声は、透子に遠いながら届いていた。

 だが、

(何、これ……!?)

 斎藤は感電して倒れ、それに対して透子の体は像に触れたまま動かなっている。

 その光景が、透子には見えていた。それも、二人を天井から見上げているような感覚で。

(まさかこれ、私が幽体離脱を……!?)

 短い時間で冷静に分析しようとするが、出てきた結論は、普通なら現実離れしたようなものだった。

(あぁっ……!?)

 しかし、ほんの一瞬を過ぎると、自分も斎藤の姿もどんどん遠くなる。

 やがて自分の周りが茶色い背景に覆われたと思ったら、そのまま地上に飛び出し、遺跡のすぐ上でコーヒーを沸かしている伊東愛子と夏目 恵の姿が見え、そのまま11号星の空へ、成層圏へ、あっという間に惑星から離れ、ヤマトを含めた地球軍艦隊の間を透子の幽体離脱した意識がすり抜けていく。

(一体、私はどこへ向かうの……?)

 透子は体を翻し、自分が向かう先に目を向ける。

 そのまま透子の精神体はアルファ・ケンタウリ星系を猛スピードで飛び出し、やがて目の前に緑色に輝く星雲が見えた。

(あれは……ガミラスの空母……?)

 透子の精神体が星雲を抜けると、そこには水色のガイペロン級多層式航宙母艦が緑色の惑星の軌道上に停泊していた。

 大気圏を抜けると、惑星全土で歓声が沸いていた。

 

 

 

「デスラー総統、万歳! ムッソー総督、万歳!」

 

 ジェタリア人たちはデスラー率いる軍を解放軍として歓迎し、惑星全土を上げた祝賀パーティに興じていた。

 ジェタリア総督府のある大陸は既に夜だったが、解放軍として歓迎されたガミラス兵とジェタリア兵たちは街中で共に夜通し飲む勢いのお祭り騒ぎだった。

 祝賀パーティも実に盛大であり、ジェタリア総督府すぐ横の迎賓館では、デスラーを中心とした解放軍の英傑たちが晩餐を開いていた。

 明日にはジェタリアを離れなければならないため、彼らにとってこれはジェタリアにおける最後の晩餐でもあった。

 ジェタリアの楽団は大ガミラス帝国だけでなく周辺の国家にもその音響と演奏技術の高さが知られ、このパーティではオペラ歌手を中心としたオーケストラが場を大いに盛り上げていた。

「……それで、私に娘さんを預けたいと、そういうことですかな? 総督」

 デスラーからすれば、ムッソーは一応年上であり、かつてはデスラーの父の盟友でもあったので、デスラーにとっては数少ない敬語で話す相手だった。

「えぇ、そうですよ、総統。この娘はこのエメラルド戦線の総司令官ではありましたが、所詮は井の中の蛙。ヤマトという強敵と戦うのであれば、この娘が軍人として経験を積む良い機会でありましょう」

「総統閣下。是非とも私も連れて行ってくださいませ」

 アンディラ・ムッソーにも頼み込まれて、デスラーは珍しく困惑した顔を見せる。

「……ムッソー総督。事前に話し合っていたこととはだいぶ離れてしまったように思えますが?」

「まぁ、確かに。しかし、恐れながら、あなたの軍隊は政権軍に比べると規模はまだまだ小さい。ヤマトと戦うだけならともかく、途中で政権軍に遭遇するのは厄介でしょう。そこで、この娘の出番です」

「どうしてそうなるのですかな?」

「ヤマトと戦うとすれば、テレザートまでのどこか。そういえばその近くにアゼルメニアもありましたな。この娘にアゼルメニア行きの「代表団」を引率してもらいましょう」

「……ほう。話が見えてきました。なるほど。では、総督。娘さんをお預かりさせていただきます」

「こちらこそ。どうかよろしくお願いします」

 そう言ってムッソー親子は共にデスラーに頭を下げた。

 

 しかし、パーティ会場の隅で、立ち尽くしている様子のガトランティス人たちが見えると、デスラーはガデル・タランを伴って足を運んだ。

「リセル君、パラカス君、どうしたのかね?」

 ガトランティス人の代表たちは、このパーティに馴染めない様子であった。リセルが答えた。

「いえ、総統……その……我々にはこういった習慣は無いもので」

「妙だな。大帝はよくパーティを開かれる方だと聞くが?」

「……パーティ?」

「君らの文化でいう宴だよ」

「これが……宴ですか」

 リセルは周りの空気に翻弄されている様子だった。

「我々がいうパーティと君らで言う宴はそう変わらないものだったという認識だったが?」

「えぇ。でも、我々の文化における宴は、ガトランティス人の地位ある者がガトランティス人のために開くものであり、普通は異種族が宴に加わることは許されていないのです」

「ほう?私は参加を許されたが?」

「それは、大帝があなたを招待したからです。我々にとってそんなことはこの数百年なかったことでしたので」

「我々は異種族と馴れ合うために宴などしない」

 リセルはやや控え目に語るが、パラカスは周りを見ずにキッパリと言い切ってしまった。

 場が白けるような感じがし、デスラーが反論しようとしたところでその沈黙を破ったのはユリエカ・エコー大佐だった。

「ハハハハハ!馴れ合う必要なんてありませんよ!個々でパーティを堪能すればいい!食事をするなり、仲間内で話をするなり、好きにすればいいのです!」

 陰鬱な雰囲気を消し去ったのは少し酔い気味のエコー。

 ガデルは「総統……」と声を掛け、エコーが割って入ったことを止めるべきか否か指示を仰ごうとしたが、デスラーは「そのまま」という意味のジェスチャーで答えたため、ガデルは口を固く閉ざした。デスラーは成り行きに任せることにしたようだ。

「うぬは、確か……ユリエカ・エコー大佐であったか。我々の宴は大帝と共に喜びを分かち合い、大帝を祝福する場である…大帝の居らぬ宴など……」

「なら今日は大帝の代わりに、総統と共に喜びを分かち合えばよいのですよ!」

 そう言うと、パラカスにグラスと取り皿を渡す。

 それらを渡されたパラカスは困惑し、そのあまりにも大胆な行動にデスラーとガデルは目を丸くし、互いに一瞬顔を合わせた。

「だ、だが、我々は本来、敵同士だ。うぬらとて、我らを良くは思ってはおるまい!」

 そう聞かされエコーは少し俯いた。

「それは人それぞれですよ……私の事を良く思ってない者だってここには大勢居るのですから」

 リセルは勘づいた。

「その肌の色、故に……ですか?」

「それもありますが、私は所詮ザルツ人であり、二等ガミラス国民。こうして大佐に上り詰めて空母を指揮できる立場になれたとはいえ、それを面白くないと思う者は多い。こんな私を受け入れてくれる方もいれば、そうでない者もいる。少なくとも、私はあなた方の参加を歓迎いたします。ですので、さぁ、皆さんも楽しんでください!」

 そう言うとパラカスのグラスにメラン星産の赤ブドウ酒を注ぐ。

「た、楽しむ……?」

 『宴を楽しむ』という概念がガトランティス人に無かったことからパラカスは困惑した。

 それを聞いていたデスラーはグラスに入っていた赤ブドウ酒を少し飲むと彼らの会話に入り、パラカスに尋ねた。

「……君らにはその感性はないのかね?」

「デスラー総統……理解が及ばず申し訳ありませぬ。我々にとっても宴が祝いの席であることに変わりないのですが、『宴を楽しむ』というのがどうにも……」

 パラカスには「宴を楽しむ」というものがどういう意味かわからず、またリセルはこう答えた。

「それに。我々にとって男女が共に参加する宴というのは、未婚の者が相手を探す場でもあります。……それに関しては、我々とガミラスではそう違いがなさそうですね」

「どういう意味だ?」

 リセルがそう言った事にガデルが訝しげに問うと、リセルは先ほどデスラーと話していたムッソー親子に視線を向ける。

「先ほどのムッソー総督の口ぶりからして……彼は自分の娘をあなたにくっ付けたいみたいだと推測できますからね。我々の文化では結婚は親同士が決めることが一般的ですから」

「ほぅ?君は先ほどの私の行動をそう見るか」

「何か違ってまして?」

「あぁ、大いに見解の相違がある。ムッソー代将と彼女のお父上からの支援を取り付けた。それだけのこと」

「そうですか……」

 リセルは納得したようにそうは言うが、「鈍いお人」と、誰にも聞こえないような小声でそんなことを漏らしていた。

「まぁまぁまぁ、見合いなんて堅苦しく考えずに楽しみを学ぶのに早いも遅いもありませんよ!」

 酔って気が大きいせいか、エコーは更に二人分のグラスと取り皿を持ってきて、リセルにグラスと取り皿を渡した。

 それを見ていたデスラーは心の中で「ほぅ」と呟いた。

 ガトランティス勢が纏っていたはずの近寄り難い雰囲気は思わぬ形で吹き飛ばされてしまい、これまた思わずデスラーも頬を吊り上げてしまうほどであった。

 そんな時、リセルは不意に窓の外に目をやった。

 その方向にはジェタリアの月が3つ浮かんでいたが、その方向から女性の精神体が飛来してきた。

 それがリセルには「見えて」いた。自分に向かってその精神体が飛び込んできたことも。

 まるで磁石に引き寄せられたかのように。

 精神体が猛スピードで自身に入り込んだ衝撃で、リセルは急に頭痛と目眩を起こした。

「サーベラー様、大丈夫ですか!?」

 突然にフラッと倒れそうになったリセルを慌てて後から追いかけたパラカスが支えた。

 


 

 アルファ・ケンタウリ11号星の遺跡に場面は戻る。

「アナライザー!」

「ハイ!」

 斎藤は透子を像から引き剥がそうとして気絶してしまったため、星名はアナライザーに命じて、透子を像から引き剥がさせた。

「桂木教授!」

 透子は床に倒れたままだった。

「痛ってぇ……、一体何があったんだ……?」

 対する斎藤はタイミングよく意識が戻り、頭痛で思わず頭に手をやる。一瞬遅れて気絶する前の状況を思い出し、

「……あぁ、そうだった! おい先生、しっかりしろ。おい!」

 斎藤も透子を揺するが、目を醒さなかった。

 そこで斎藤はは透子の浅い呼吸音を聞くと、

「……呼吸はしてる、な」

「良かった……でも、それはそれとして、ここからどうやって出ます?」

 星名はそんな疑問を口にするが、目の前にアナライザーがいたのですぐに尋ねた。

「……アナライザー。この状態で来た道を戻るとしたらどれぐらい掛かる?」

「ソウデスネ……6時間ト32分45秒デス」

「来た時の倍以上かかるじゃないか」

 もっと悪いことに。

 そんな時に遺跡が揺れ始めた。

「地震!?」

「クソッ、何だってこんな時に!」

 すると、天井から梁が落ちてきたのを見て斎藤がみんなを庇おうとしたら、目の前が光に溢れ、四人を包み込んだ。

 

✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆

 

「斎藤隊長!?……どうしたんですかそんなジェスチャーして?」

 光に包まれたと思ったら、斎藤、アナライザー、星名、そして気絶したままの透子の四人は、いつの間にか遺跡のすぐ外にいた。

「あ、あれ?」

「伊東……さん?」

「四人とも、どうしてこんなところに?」

「いや、それはこっちが聞きてぇ……」

 だがその時、地面の下で振動が起きていることに気付いた斎藤は、地面に耳を当てた。

「ちょ、今度は何?」

「!」

 斎藤はこの後に起きることを察した。

「おい、すぐにシーガルを飛ばせ!」

「えぇ?」

「早く! 星名、アナライザーさっさと乗れ!」

 愛子はすぐに焚き火グリルの火を水で消して引ったくるように抱え、斎藤は気絶したままの透子を担いで駆け出した。

 彼らがいた地面は次第にひび割れ、そして、地割れになった。

 先に愛子がシーガルに辿り着き、副操縦士のナツメグに「緊急発進」をコールする。

 アナライザーも星名もシーガルに間に合った。

 斎藤は透子を担いだ状態で走り、彼のすぐ後ろを地割れが追いかけてくる。

 愛子とナツメグはエンジンを点火。コスモシーガルをすぐにホバリング状態で飛行できるようにした。

 シーガルが1cmほど地面から浮いたところで透子を担いだ斎藤が辿り着いた。

 星名とアナライザーが斎藤を引っ張り上げ、シーガルは地面を離れていく。

 すると、シーガルが先ほどまでいた場所も地割れに飲み込まれていった。

 遺跡があった場所は完全に陥没してその体を失った。

 その様子を斎藤と星名はシーガルの窓からただただ見ているしかなかった。

 


 

 そして遠く離れた惑星ジェタリア総督府近くの迎賓館の一室。

「……」

 ()の視界に見えてきたのは見たことのない天井……。

 まるで昔のヨーロッパの貴族の家か宮殿のような……え?()()()()()ってどこだったかしら……?

 ゆっくり起き上がると、窓の外では満月が()()浮かんでいて夜の闇に支配されていた。

 周りを見回すと、すぐ近くに誰かが同じ部屋にいることに気付いた。

「……あっ、リセル様、気がつかれましたか!?」

 彼女は()が目を覚ましたことに気づいて声を掛けて寄ってきた。

「リセル……サーベラー……私の……名前……?」

「リセル様、お気を確かに」

 見た目は少し幼さの残る女性、もしかすると実際に少女なのかも……いや、ちゃんと()()と言える年齢だったはず。あなたの名前は確か……そうだ、()()()()()

「リーデル……?私の侍女……」

「はい、ここにおります!」

 リーデル。この侍女の名前だ。……いや、彼女の姿をよく見れば……赤い首輪のようなものに、両腕には鎖のついていない手枷のようなものが見えた。侍女というよりは奴隷の容姿に近かった。

 肌はザルツ人のような地球人のような……()()()

 暫くして自分(リセル)の頭が痛くなってきた。

「リセル様!」

「だ、大丈夫よ……ちょっと頭が……」

「すぐにお医者様をお呼びします、それにデスラー総統やパラカス司令官、それにエコー大佐がお加減を心配されておりましたから……!」

 そう言うとやや急ぎ足でリーデルは部屋を飛び出して行くと、

〔あぁっ、これは……デスラー総統!〕

 ドアのすぐ外でリーデルは誰かと出会したようで……待って、今リーデルは「デスラー総統」って言ってた!?

〔君は確かリセルくんの侍女だったな……リーデル・ビーダスくんと言ったかな?〕

(わたくし)のような奴隷めの名を総統閣下に覚えていただけるなど恐悦至極でございます……〕

〔何故こんな所に……いや、理由はわかった。彼女の様子は?〕

〔リセル様は先ほどお目覚めになられましたが、頭が痛いと仰っていて……〕

 それを聞いていて思わず()はリーデルにこんなことを言っていた。

「リーデル、私の加減については無用です。総統閣下を部屋にお招きしなさい」

〔……えぇ、承知しました〕

 一瞬リーデルは判断に迷ったらしく返事が遅れたが、()の言う通りに、その人物を部屋に入れさせた。

 その人物を()見たことがある(知っている)

 水色の肌に、金髪、お世辞にも良くない人相。

「……総統閣下」

 そう呼ばれた時、彼は一瞬眉を顰めたように感じたのは気のせいだろうか。だが彼はリーデルに「医者を呼びに行き給え」と言った。リーデルが私に視線を送ってくるけれども、私が頷くと、リーデルは部屋を出て医者を呼びに行ったみたいだ。

 それを見送るか否かの時にようやく私に彼は問いかけてきた。

「……リセルくん。具合はどうなのかね?」

「まだ頭が少し……それ以外は……」

 だがそこで急激に()()()()()のことを()()()()()

「あぁ……なんて事」

「どうしたというのだ?」

「総統閣下、大変な粗相を致しました」

「粗相だと?」

「せっかくの()()()()を台無しにするような失態を犯しました……自身の体調も把握できないようでは」

「……なんだ、そんなことか」

「え?」

 ()が緊張した顔をしていたのは自分自身でもわかる。

 しかし、私のせいで(パーティ)がどうなったのか、何故か()は気が気ではなかった。

 なのに、目の前にいる総統は少し呆れたような顔をしつつ、こんなことを言ってくださった。

「頭痛の原因は定かではないが、意識が戻っただけでも私は満足だ。君に何かあれば大帝陛下に言い訳が立たん。あらぬ容疑を掛けられてもつまらんからな」

「あらぬ容疑?」

「君は私の監視役だろう。君が倒れたとあっては私が君を排除しようとしたと誤解されても致し方なかろうに」

「い、いえ、けっしてそのようなことは……」

「大帝陛下とガイレーン局長にもそう伝えていただけるかな? 尤も、倒れた原因が分からないと何とも言えんが。私は今夜はもう疲れたよ。君もお医者様に診てもらって問題がなければ休み給え」

 するとドアをノックする音がして、〔失礼します、お医者様をお連れしました〕というリーデルの声。

「では、私はお暇させてもらおう」

 そう言ってマントを翻し、デスラーは部屋を去っていく。

 その後ろ姿に、()の胸の中では何かが沸々と湧いてきているように感じた。

 これは()の心?それとも……?

*1
旧作でいうところのバレルド・アクション将軍

一話のストーリーとして長さはどうですか?

  • 短い
  • 普通
  • 長すぎぃ……
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