宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
プロクシマ3軌道上。
損傷の激しいラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦がデスタール率いるガトランティス艦隊に合流した。
「ナスカめ、やはりしくじりおったか。それでどうなった?」
『ナスカ司令官の乗艦は地球軍戦闘機によって撃沈され、運命を共にしたようでございます……』
「そうか。……まぁいい。それで、プラズマ魚雷の試射は?」
『はい。行なっていました。そのデータを現在送信中です』
「……受け取ったぞ。通信終了!」
デスタールにしては言葉少なめだったのは通信相手であった満身創痍の味方兵にとっては幸いだっただろう。デスタール艦に詰めている彼の部下たちは、残念ながらそうもいかないが。
「……えぇい、クソ! せっかくカラクルム級を貸したというのにナスカめ、なんという体たらくだ!わざわざ敵地に大戦艦の骸を晒しおってからに!」
デスタールの目の前のコンソールに何度も何度も拳を叩きつけた。
八つ当たりの結果、コンソールは壊れ、そこで貧乏ゆすりのように繰り返し振り下ろされていたデスタールの拳がようやく止まる。
機嫌の悪いデスタールを尻目に、他の部下たちは「またか」と心の中で嘆いていた。
「……まぁいい。バルゼー長官に要請していた援軍がもうすぐ到着する。地球艦隊め。カラクルム級1隻を撃沈したとはいえ、それが30隻に増えたらさすがに対処できんだろう。地上軍は?」
「は、ははっ。現在、敵のコロニー3つに侵入。内2つを陥落させ片方は内部から爆破、もう片方はシールドを失ったため、軌道上からの爆撃の結果壊滅。残り1つでは、敵の抵抗勢力が激しくて……」
「奴ら、まだ粘る気か」
ガトランティス人は、自分から降伏を呼びかけることはない。
降伏した敵を捕虜にして奴隷にするプロセスこそ存在するも、こちら側から降伏を提案することは戦いを放棄したとして不名誉と見做される。相手側から降伏を提案されれば応じるかもしれないが、それは指揮する人物の裁量による。
「まぁ、連中が降伏してこようが、私なら拒否するがな」
そりゃ戦いが中々終わらないのも当たり前だ。デスタールの周りにいる部下たちはほとんどがそう思うが、口には出せない。
「提督。増援の艦がプラズマ魚雷数発を輸送中とのことです」
「……クックック、ナスカの討ち死にも無駄ではなかったということだな。到着次第、軌道上から敵のコロニーをプラズマ魚雷で攻撃しろ」
「了解」
バルゼーはデスタールへの増援として派遣したカラクルム級戦艦にプラズマ魚雷を積んで送り込んできた。
そのプラズマ魚雷は地球人の築いたコロニーを防御しているプラネタリーシールドを一発で破壊する威力があったことは、敗死したと思われているナスカの艦隊が行なった攻撃によって実証済みであることをデスタールは受け取ったデータから理解した。
もはや、プロクシマ3陥落は時間の問題となっていた。
同じ頃。ヤマトを含む地球軍艦隊はアルファ・ケンタウリ11号星の軌道上を周回中だった。
ヤマトの中央解析室では、撃破したカラクルム級の残骸が徹底的に調べられていたが、その調査を行なっていた技術科のクルーたちは疲労困憊という様子であった。
モニターをじっと眺めていたのは、衛生科のピンク色の制服を着ている三田夏海。彼女は少し疲れた様子で欠伸をしていた。
「夏海くん?」
「あ、主任……失礼しました」
欠伸しているところを真田に見られたのかと夏海は恥ずかしくなる。
彼女の横では姉であり機関科のオレンジ色の制服を着た三田冬子が既に夢の中だった。
真田はコーヒーの入ったポットを持ってきたようだ。
それを近くに置いてある紙コップに一つ一つ注いだ。
「コーヒーですか?」
「平田さんからの差し入れだ。有り難くいただいてきた。それで、分析結果は?」
真田はコーヒーの入ったコップを夏海に渡しつつ分析結果を促した。それに口をつける前に夏海は答えた。
「そうですね……この残骸。ヤマトの主砲の攻撃で溶けていますが、融点がおおよそ8000度であると分析結果は示しています。ここまで融点が高い金属といえば、地球ではタングステンの3407度が精々なのに」
「主砲が使用できる波動エネルギーの効率を変化させたからな。ヤマトの主砲をどこまで強化できるか。限界までやった結果がこれというわけだ」
「つまり、計算通りですね」
「……その通りだ」
一瞬、どこか心を見透かされた様な気がした真田は、そうそっけなく答えた。自身に入れたコーヒーを一気飲みしてから真田は私見を口にした。
「融点が8000度にもなる金属を生成して、あのような巨大な船体の外殻に使えて、その上量産までしているということは、ガトランティスの科学力はガミラス以上に進んでいると見るべきだ」
「それは嫌でも分かりますけど、強化型の波動コアさえ出揃ってくれればこんな
「時間断層内の時間が我々のいるここより10倍早いとはいえ、それが安定して量産されるまでには最低でもあと数ヶ月は掛かる。無駄とは言うな」
「はーい……」
真田は少々不満気な顔をする夏海を見て、暫くして……ふとコンソールに突っ伏してる冬子の顔を見る。コーヒーに漸く有り付こうとした夏海だが、まるで悪い虫でもついたかのような目をして真田に問う。
「あの……主任。私のお姉ちゃんに何か?」
「……いや、何でもない」
「んー?本当に?」
訝しんだ夏海は、真田を睨むかのような視線を向けてこう言った。
「……私の自慢の姉です、でも主任にはあげませんから!」
「別に取って食ったりはしないさ……だが……」
再び夏海に視線を向ける真田。
「……何ですか?」
「……こんなこと言ったらおかしいかもしれないが、どうにも君や、君のお姉さんは私の親戚のように感じる」
そう言われて夏海は真田に視線を返す。すると、夏海は軽い溜め息を吐く。
「ムムム……?」
解析室の片隅にいたアナライザーが唸り声のような電子音を絞り出してきた。
「どうした、アナライザー?」
「分析中ノデータト照合中デシタガ、アルファ・ケンタウリ11号星ノ遺跡ノ文字ト、ガトランティス艦ニ使用サレテイル文字ニ複数ノ類似点ガ見受ケラレマス」
真田からの問いに、アナライザーはカラクルム級の弱点を探ると共に、下の惑星にあった遺跡で記録したデータを分析していた。
夏海が少し驚き呟くかの様に問いを投げかけた。
「……偶然でしょうか?」
「わからん。言語学に関しては私の専門外だ。ここが考古学調査船でないことが悔やまれるな」
「桂木女史がダウンしてなければ知見を聞けたんですけどね……」
「……今、六角軍医が付き添って容体を見ているらしいが、先ほど新見くんが呼ばれて出て行ったのは気になる」
漸くコーヒーに口をつけた夏海。しかし、
「うわ、にっがぁぃ……!」
そんな引き潰れたような声を漏らしながらコーヒーの味を酷評した。
同じ頃。
惑星ジェタリアの総督府は朝を迎えようとしていた。
昨夜の祝賀パーティは確かに盛大なものだったが、ここに集うはエリートの集団。少なくとも指揮官クラスのガミラス軍人たちの内、二日酔いで醜態を晒す者はいなかった。
そして、迎賓館近くには総督の邸宅。
ここの一室にデスラーは仮の宿を与えられていたが、今日でこの星とは別れを告げる。
元々荷物も少ないので、デスラーはいつも通りに起きて着替え終わり、先ほどメイドが差し入れてくれた紅茶を飲みながら眠気を覚ましていく。
そんな時。
「?」
デスラーは邸宅の窓から、庭で誰かが歩いているのを見かけたが、それがリセルで、彼女の特徴的な髪飾りに気付くまで数秒掛かった。
(あの娘。一体何をしているのだ……?)
するとそこへ遅れてやってきたのは、アンディラ・ムッソーだった。
(ムッソー代将だと? あの二人に接点は特に無いように思うが……)
デスラーですら驚きを隠せない。何を話しているのかは気になるが……。後で問い詰めるべきだろう。
デスラーに疑惑の目を向けられているとはつゆ知らない二人は、すぐ近くのベンチに腰掛けた。
そして、互いに水筒のようなものを持ってきていた。
「リセル・サーベラー? 役職や階級をお聞きしておりませんでしたわね。なんとお呼びすればよろしいですの?」
「私に階級はないので、単にサーベラーとお呼びください」
「……ではサーベラー。どうして私を呼び出したのですか? それもこんな朝早くに。お茶を持ってこいだなんて」
「こうすれば、まさか私たちが物騒な会話をしているとは思われないでしょう? それに、これからの旅は恐らく長い。互いのことを知るためにお茶を交換しておきたい」
「ガトランティスの習慣ですの?」
「いいえ。私の叔父上から習った作法です。特に違う星の者同士で敵意がないことを示すにはうってつけでしょう?」
「まぁ、確かに。しかし、甘いとは思いません? もし私が……」
「私を暗殺するつもりだったら、あなたも無事では済まないでしょう? 仮にも私はデスラー総統の監視役として送り込まれた。一種のスパイですからね。私を無理に排除しようとすれば、あなただけでなく、あなたの敬愛する総統閣下のお命すら危うくなるでしょう?」
そう言って、水筒からお茶をコップに注ぎ、それをアンディラに差し出すリセル。
慌ててアンディラも同様に持ってきた水筒からお茶をコップに注いでリセルに差し出した。
お互い、同時にお茶に口をつけると、
「……普通に美味しい」
「……ジェタリア人は甘党?」
互いに顔を見合わせて、クスッと微笑みを浮かべた。
それを遠くから見たデスラーは、アンディラとリセルが何かを企んでいるわけではないと直感したため、部屋を出ることにした。
「……ムッソー代将」
「アンディラで構わない。私もあなたのことはリセルとお呼びしますの」
「……ではアンディラ。単刀直入にお聞きするわね。あなた。もしかしてデスラー総統に惚れたの?」
「!!?」
思わず飲んでいたお茶を吐き戻しそうになり、それが気管に引っかかって咳き込んでしまうアンディラ。
「な、な、何……で、今そんなことを?」
「あなたの態度が変化したように思えたから」
「……私たち、昔から知り合いでしたっけ?」
「そうではなくて。デスラー総統がここへ来た時と、ムスタラービアを滅ぼしてから。特に昨日の晩餐会で見た時のあなたは、総統を見る目が変わったように思う」
「そ、それは当然ですの。我々にとってムスタラービアは実力の拮抗した仇敵でしたの。我々が進んでガミラスの属国になった理由には、ムスタラービアに占拠されたチェトニカとウスタシェを取り戻すことも含まれておりましたわ。まさかムスタ星ごと滅ぼすなどとは夢にも思いませんでしたが」
「つまり、あなたは総統を救世主だと思っている?」
「その……えぇ。その通りですわ。どんな成り行きがあったにしろ、あの方は私の故国を救って下さった」
「そして、あなたのお父様、つまり総督はあなたをデスラー総統に嫁がせる?」
「い、いやその……無理だと思いますの」
「どうして?」
「私はあくまでも軍人として生きてきました。父は確かに総督ですし、貴族の出ですが、私など総統とは釣り合わないでしょう」
「私が言いたいのは、ライバルが多そう、ってこと」
「え?」
「あなたが総統に向けている眼差しが羨望か恋愛か、はたまた英雄症候群かは定かではありません。でも、それが定まる前にそれだけは言っておきたくて」
「……どうしてわざわざそんなことを私に?」
「……昔の私と似ているから」
「え……?」
すると、彼女たちの上空を、魚雷を装備していないドルシーラが駆け抜けていった。
「あの機体……エコー大佐のですわね」
「彼女が飛び立ったってことはおしゃべりの時間は終わりかしらね」
そう言って水筒の蓋を閉め、席を立ち上がるリセル。
「待って。あなたはどうですの?」
「どうって? あぁ、デスラー総統のこと? そうね……尊敬は出来る。けど、恋愛感情はないから安心して」
だが、そこで再び目眩と頭痛がした。
「ど、どうしたの……!?」
「い、いいのよ……すぐに治る……!?」
その時、リセルの体を突然の脱力感が襲い膝をついたかと思えば、彼女の体からまるで蛹から羽化した蝶のように精神体となった透子が抜け出てきた。
透子の姿はアンディラには見えない。
(今度は一体何……!?)
透子にも原因が皆目わからなかった。
しかし、リセルはすぐに顔を上げる。そして、透子の目を覗き込んでいたが、そんなリセルの目の前で、透子が突然に掻き消えてしまった。
「大丈夫?」
「えぇ。大丈夫……」
「ドクターに言わないと……」
「アンディラ。お願い。誰にも言わないで」
何故なのか。それを問い返したかったアンディラだったが、リセルの目を見て、「……わかったわ」と言うしかなかった。
アルファ・ケンタウリ11号星の軌道上。
ヤマトの病棟のベッドに一人に女性が寝かされている。その女性を診察するは六角美沙。地球連邦防衛軍歩兵部隊第11連隊所属の軍医長。そして、今この場では桂木透子の体調を一番よく知る医師でもあった。
「呼吸、脈拍……正常」
「でも、何故目覚めないのかしら?」
その問い掛けをしてきたのは新見 薫だった。
「わからないわ……いえ、わからないです」
「美沙。この場でならタメ口でも良いわよ?」
「……じゃぁ、そうするね。薫ちゃん」
「そう呼ばれてたのは……だいぶ昔のように感じるわね」
「そりゃ15年や20年前だもの……思えば私たちも歳を取ったわねぇ」
「や、やめてよ、そんなおばあちゃん臭い……」
なお、新見は時間断層にいた時間が外の時間にして6ヶ月ほどなので……いや、ここは本人のために言わないでおこう。美沙におばあちゃんっぽいことを言われてドキッとした。
そんな美沙と新見、実はこの二人は小学校時代の友達だったが、中学生の時に遠方へ引っ越してしまった。
それでもガミラス戦役が始まるまでは文通を交わしていた仲でもあった。
「……妙ね」
「どうしたの?」
「薫。脳波を見て」
透子が目覚めない原因を調べていた美沙は、脳波に着目した。
「夢を見ているような反応だけど……ほら、今の見た?」
「本当ね……θ波が出てる」
「θ波は、視床網様体と脳幹網様体、そのどちらかがダメになるか両方ダメになるかで起きる症状よ。意識障害が起きている時に出てくるけど……」
美沙はスキャナーを透子の額に当てる。
これは簡易的なMRIスキャナーである。
この分析結果を見ても、一層謎が深まる。
「視床網様体と脳幹網様体……どちらも異常が見られないわ」
すぐに美沙は数ヶ月前に透子に同様の検査を行なった時のMRI画像を比べる。
「やっぱりね……変化ないわ」
さらに、脳内の電気活動・神経活動も調べてみるが、美沙はより首を傾げるだけだった。
「うーん……θ波が出ている以外には何も異常がないのに……」
「この場合、医者ならどうする?」
「……対処しようにも……佐渡先生に聞いてみたいけど、彼なら「寝かせておけ」と言いそう。ナイフが刺さっているのを無理やり引き抜くことが治療として時に正しくないこともあるわけだし」
「そうね……その佐渡先生も別のことで忙しそうだし」
しかしそこで、脳波が突然に変化するのを美沙と新見は気づいた。
「……え……? 今一瞬……」
δ波が急に跳ね上がり、θ波もガクンと一瞬落ち、1秒もしないうちにまた脳波の数値が元に戻った。
「今の見た……?」
「えぇ。一体何が起きてるの……?」
(今度はどこへ……?)
ジェタリアのリセルから離れた透子の意識は、ワープをも超える速度で銀河系を超えた。
銀河系のすぐ外側には紫状の帯をした銀河バリアというものが存在する。
これは太陽系を包むオールトの雲と似たような役割を果たすと推測されているが、遠くからだと肉眼では薄紫掛かった帯にしか見えない。
その内部を透子の意識は通り抜けると、今度は、巨大な白色彗星が見える。
(何……これ……。私、この彗星に引き寄せられているの……!?)
それが自然な天体でないことは彗星を覆うガスを通過してすぐにわかった。
ここは銀河の外縁部から数万光年の位置。
真っ直ぐに白色彗星は天の川銀河へとひた走る。
白色彗星の直径はおよそ2000km。
透子の意識は、白いモヤのような人工的な高速中性子と高圧ガス帯が都市を包む繭を超えていくと、まず見えたのは、月面のようなクレーター。
その岩肌を這うように滑るように超えていき、境のようなものを超えると、(この表現は正確ではないが)彼女の真下に大都市のような摩天楼が広がってるのが見えた。
その広さは直径300kmの円形都市のようだった。
外縁部の10kmほどの空間には何もないが、それを超えると背の低いビル群に入った。
透子の精神体はそれを超える際に様々な人々の姿があるのを見る。その大半が薄緑色の肌をしている……先ほどのリセルを通して見たようなガトランティス人たちだと透子は即座に理解できた。
人間のような肌をした女性たちも僅かながら散見されたが、全員が首輪と鎖を付けられた状態で主人と思われるガトランティス人たちに連れられていた。
リセルを通して見た時に会ったリーデルという女性も似たような感じだったと思い返した。
外から都市の中心に向かうにつれてビルはどんどん高くなっていく。
中心には高さが25kmはある巨大な塔のようなものがある。
その建物のそばに聳え立つ、ビル群の中でも一際豪華絢爛な姿をした建物へと透子の精神体は向かっていく。その外観はまるで宮殿と呼ぶにふさわしかった。
その一室にはまるで教会のような部屋があり、その一角にはパイプオルガンのような楽器と、それを奏でる女性の後ろ姿を透子は目にする。
奏でられた曲に観衆たちは聞き入っていたが、女性は、ウエディングドレスのような白無垢の衣装を着ていた。
演奏が終わると、彼女を歓声が包んだ。
そんな時だった。
突然に透子の精神体は磁石に引き寄せられるかのように、観衆に振り向こうとしたその女性の中に飛び込むかのように憑依してしまった。
「!?」
女性は観衆にお辞儀をしようとした時に自らの体の異変に気付く。
突然に頭が焼けるような感覚と頭痛に襲われ、ついには蹲って倒れてしまった。
当然、会場は騒然となる。
壮年の男と、彼に何処か似た青年が壇上に上がり、女性に駆け寄った。
「シファルよ、何があったというのだ……!?」
「しっかりせよ!シファル!シファル……!」
そう二人に呼びかけられたところで彼女
「おい、誰ぞ医者を呼べ!」
シファルが気を失う前に見たのは、手を握るガトランティス人の青年と、狼狽した様子の初老のガトランティス人、そして、その厳格な姿に似つかわしくなく心配そうな表情を見せる壮年の男がいた……。
ヤマト艦内では重い体を引き摺って小島が食堂にやってきた。
今夜は手早く牛丼セットにした。
食事の載ったトレーを手に、新米を探すと、
「小島くん、こっちこっち」
食堂の隅のテーブルで新米は待っていた。
すかさず席に座ると、
「どうしたんだそれ?」
新米がホログラム機能付きのタブレット端末を触っているのを見て声をかけた小島。
すると、画面上に二つの3Dモデルが表示されていたが、新米は両方をホログラムで立体モデルを投影して見せた。
「えっとこれは……おいおい。俺が疲れているのか……? これカラクルム級じゃないか……!」
小島はいつの間にか疲れが吹き飛ぶほど驚いていた。
「これ、どうやって……?」
「あぁ、実は……ヤマトの艦種識別データや、ガミラスから提供されてる交戦映像の資料や、地球連邦の記録資料やらを参考にして、詳細な3Dデータを作成してみたんだ」
「一体いつの間に……?」
「訓練中の休憩時間に片っ端から資料を読み漁ってたんだよ」
「食堂でも勉強か?熱心だな」
タブレット端末を見ながら食事を取る小島の後ろから古代が新米に話しかけた。
「古代さん!?あっ、いや、勉強って程の物じゃ……」
「ん?これは……ガトランティスのカラクルム級の3Dモデルか?それとこれは……ヤマトだ!もしかして、君がこれを?」
「えっと……趣味でヤマトの3Dモデルを作ってました。記念艦になったら艦内の案内に使えないかなぁ~と思い、少しずつ作成してですね……」
新米がヤマトを拡大すると、カラクルム級は対称的に小さくなる。
ヤマトの3Dモデルは実にディテールが細かく、よく出来ていた。
「これは凄いな……」
すると、食堂に雪が山本と一緒にやってきた。
「古代艦長、どうしたんです?」
「あぁ。雪と、山本か」
「わぁ……凄い。何それ?」
「ここにいる新米くんが作ったものらしい」
「あっ!?コレ、ゼロだ!」
山本はヤマトのカタパルトに固定されたコスモゼロに気付いた。
「拡大できますよ」
そう言って、新米がコスモゼロを指でタッチすると、先ほどまで豆粒のように小さかったコスモゼロが、一気に何十倍もの大きさになる。
「凄い……細かくよく出来てるわね」
「艦載機格納庫はこんな感じなんですが……」
コスモゼロから離れて、今度はヤマトの後方底部をタッチする。
すると、格納庫の扉が開いて、まるでヤマトに着艦するように艦載機格納庫の内部を映し出した。
「艦内格納庫まで……着艦時のモーションといい、細かいわね」
「この部分を作るだけで数ヶ月は掛けましたから。誰かにヤマトの艦内を案内させるなら、実際にヤマトに乗ったような気分を味合わせたいなって。出来うる限りリアリティとディテールに拘ってみたんです。といっても、ほとんどの場所はまだワイヤーフレームだけなんですが……」
「だとしても、ここまで出来る人は中々いないわよ」
「つまり、バーチャルなヤマトの艦内ツアーができるのね?」
「あぁ、はい。それを目標にして作っていたんですが……」
「じゃぁ、艦橋も?」
「もちろん作ってありますよ!」
雪の要望に従って今度は第一艦橋をタッチする。
艦長席から見る第一艦橋の様子と、ターボリフトの出入り口から見た第一艦橋の様子。
両方とも細かく作られていた。
「第一艦橋は特に一番拘って作った部分でして、レーザースキャナーを使ってでも細かく再現したくて……」
さらにギャラリーが増える。
「お? これって、ヤマトの第一艦橋じゃないか」
「あぁ、島さんに南部さんも……」
「これは新米くんが作ったヤマトの3Dバーチャルモデルなんだ」
島は第一艦橋の造形に感銘を受けた。
「新米くん……凄いじゃん!これはもはや才能だよ。ヤマトをここまで再現するなんて!」
島は感激して新米の仕事ぶりを讃えた。新米もまさか、趣味で作っていたものがここまで絶賛されるなどとは思っていなかっただろう。
「触れてもいいか?」
「え、えぇ、どうぞ」
南部は新米にそう断りを入れると、第一主砲を拡大した。
「はぁ〜……ここまで正確に再現されているとは……ん、ちょっと待て。これは?」
ヤマトの3Dモデルに押しやられる形で小さく表示されているカラクルム級に南部も気付く。
「カラクルム級じゃないか……なんでガトランティスの艦のモデルまで?」
「えっと……3D化して、特徴や弱点は無いかと、調べてまして……ほら、《敵を知り己を知れば百戦危うからず》って言いますし! ボクも何かお役に立てないかと色々と……」
古代はこの3Dモデルで考えを巡らせていた。
「……なぁ、新米くん。すまないが、もう一度カラクルム級を映してくれないか?」
「え、えぇいいですよ。ヤマトに比べると粗末な出来で申し訳ないですが……」
「どうしたんだ古代?」
ホログラム投影される映像がヤマトからカラクルム級に切り変わる。
「カラクルム級の艦底部は見られるか?」
「あっ、はい!」
新米がカラクルム級の艦底部にタッチすると、その部分が立体的に拡大投影される。
「何も無いな……じゃあ、艦の直上を」
今度はカラクルム級を真上から見下ろす立体映像になる。
「砲搭は艦首に2つ、艦尾に1つ……側面には対空火器は2ヵ所しか無いんだよな?」
「対空火器と言うと、この回転砲搭ですか?」
新米はカラクルム級の右舷にある2つの回転砲搭を拡大してみせる。
「確かに二つしか無いな?」
「ボクの目が悪くなければ確かです。あと記録映像が不正確でなければ、ですが」
ガリア4号星の戦いを記した映像記録は、地球軍では一般的に公開されており、民間でもニュース映像に使われたほどだった。
なので、軍属の人間であれば詳細な映像を閲覧する権限が与えられる。
新米も数日前までは許可証を持った清掃員という立場に過ぎなかったが、艦長になった古代の許可もあって晴れてヤマトの乗組員になったため、事実上の軍属になった。
それからたった数日で。それも映像だけでカラクルム級を立体的に作ってしまったことに古代は驚きを禁じ得なかった。
そして、重大なことに気付く。
「もしかしたら、これは……そうか、わかったぞ」
「何でしょう?」
「でかしたぞ新米! それを持って今からCICに来てくれ。山本は加藤たちパイロットを全員集めて来てくれ。あと、雪は真田さんからアナライザーを」
「真田さんも呼ぶ?」
「そうだった、それがいい。2人とも連れてきて。島、各科の代表をCICに集めてほしい」
古代はその場にいた皆に指示を飛ばして第二艦橋へと急いだ。
「わかった。みんな聞いたか。艦長命令だ!」
島が皆にそう言うと、その場にいたほぼ全員が慌ただしく食堂を出て行った。いつの間にか人だかりができていたはずの食堂には再び静けさが戻り、小島と新米が取り残される。
「……何だろう?」
「さぁね。艦長が何か思いついたみたいだけど……行ってくる」
「おう。じゃぁ俺はこれ食ってからにするよ」
「いや、君も呼ばれただろ?」
「……えぇー?」
新米は慌ただしく駆けて行ったみんなを追いかけるように第二艦橋のCICへ。
一方、小島はようやくありつけると思っていた夕飯を食べ残し状態にせざるを得なかった。それを見ていた平田は……。
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CICにヤマトの主要幹部と、航空隊のパイロットたち、それに新米と小島が集まった。ただ、徳川機関長たちエンジニアリング部門の姿がない代わりに、何故かキーマンがこの場にいた。
「あのぅ……何故ガミラスの人が?」
「俺はこう見て、一応パイロットだからな。航空技術であれ、ガミラスの持つ過去の戦闘記録であれ、俺にも何か役に立つならと判断してここに来た。それだけだ」
鶴見は恐る恐る尋ねるが、キーマンからの返事はそういうあっさりしたものだった。
CICのコンソールには、岬 百合亜がいた。百合亜が古代に顔を向けると、古代は頷く。すると、百合亜は目の前の四角い赤ボタンを押した。
「アナライザー。この端末の3Dデータをシミュレーターに出力出来るか?」
「マカセテ。カンタンカンタン、オチャノコサイサイ」
アナライザーはタブレット端末を、自身とヤマトのコンピュータに接続。
アナライザーが解析し、3DモデルをCICのコンソールに出力し、3Dモデルをシミュレーターに適応するようシステムをアップデートしていく。
「南部には砲搭に関する説明をお願いしたい」
「その程度なら任せてください」
「アナライザー。3Dモデルはもう投影できるか?」
「データ入力、完了シマシタ。表示シマス」
アナライザーがタブレットに入っていた情報を入力し終わると、それがCIC中央の大型のホログラム投影器から表示された。
それを見た加藤は驚きの声を上げた。
「おいおい、これってカラクルム級じゃないか……」
「続イテ画像データトノ照合完了シマシタ」
アナライザーはそう言って次の作業を完了させると、新米が持ち込んだ粗い作りをしていたはずのカラクルム級のモデルが突然鮮明化された。
伊東愛子も感嘆の声を漏らした。
「凄い。ディテールが細かいわね……」
これまでに地球軍が交戦してきたカラクルム級の画像データを繋ぎ合わせ、それを新米が作った3Dモデルに被せていった。
結果、ワイヤーフレームだけだったカラクルム級戦艦の3Dモデルは実際のカラクルム級とほぼ同じ色彩を伴って完成してしまった。
「出来ちゃった……?」
「確かに凄いが……艦長、これをどうするんです?」
篠原の質問に対し、
「気付いたことがあるんだ」
古代はそう答えると手の持っているタブレット端末を操作して、カラクルム級を指で回転させ、皆にカラクルム級の上面を見せた。
「え? こんなこと出来るんですか……?」
劉香織だけでなく、他のメンバーたちも驚いた。
この部分の画像はヤマトが破壊したカラクルム級の残骸からしか再現できていないのに、繋ぎ合わせてからフォーマットしてみると、無傷の状態が再現されていたのだった。
「説明します。カラクルム級は、ガトランティス艦艇の特徴である回転砲搭を艦橋を挟んで、艦首方向に2つ。艦尾には1つ搭載しています。この回転砲搭は、他のガトランティスの回転砲搭よりも大口径で回転も遅く……つまりは対艦攻撃を目的に搭載していると思われる。勿論、対空攻撃にも使えても、能力は限定的だろうと思われます」
南部がそう解説すると、真田には古代の考えが読めた。
「古代……君の考える事は確かに可能かもしれない。だが、実際にやれるかはパイロット次第だ。かなりの技量が必要になるかもしれん……技量は予測しにくい。私はそこが心配なんだ」
何か困難なことを要求されると知り、ローグ中隊や、実戦経験に乏しいルーキーたちが動揺するが、
「静かに!」
山本がそう言うとその場が静まり返り、愛子は真田の言葉に古代の考えを察して発言した。
「艦長。……もしかして、カラクルム級戦艦を航空攻撃で沈めるおつもりで?」
「その通りだ」
「おいおい無茶だよそれは……。いくら回転が遅いっていっても大口径の回転砲搭だよ?下手したら直撃して墜落じゃないか!」
大口径砲による対空砲火の中に飛び込めと言うのだ。沢村の反応は当然である。鶴見も大淀舞香も共に顔色が悪かった。
反対に、篠原は冷静に回転砲塔の弱点に気づく。
「あぁ、なるほどね……回転砲塔って、中央をよく見ればガラ空きだ」
篠原の発言が言うが早いか古代の操作で、ガトランティスの回転砲塔だけが拡大表示された。
「……あ。そうだ。アナライザー。コスモゼロかコスモタイガーを同じスケールで表示できる?」
「ヤッテミマス」
山本も古代の言わんとすることに気が付いた。
アナライザーがカラクルム級の砲塔と一緒に、同スケールのコスモタイガーを映し出した。
「やっぱり……この回転砲塔の中央の空間は、ちょうどゼロやタイガーが収まる程のサイズよ」
「それに、回転砲搭は発射から次弾発射までにラグもある。前にガトランティスの艦と交戦した時も思ったけど、もしかしたら避けるのは簡単かもしれない!」
香織が付け足すように言うと、今度は加藤が、
「この回転砲搭が対艦用とするなら、航空機を狙い撃てる正確性も無いかもな」
と言った。ナツメグも同意するように、
「言われてみれば。こんな大口径砲で戦闘機を狙うなんて、ゴキブリを駆除するために拳銃を使うようなものだもの」
例えはあれだったが、的を射たものだった。
「あの、古代さん。ちょっと良いですか?」
そう言って新米は古代からタブレット端末を受け取ると、ある映像をホログラム投影機を通して映し出した。
「えっと……コレはガミラスから提供されたガトランティスとの交戦の資料映像なんですが、どうも接近する駆逐艦からの映像の様で……無誘導魚雷を放てるほどの距離まで近付いているのに、対空用の回転砲搭が全く当たらないんです!もしかしたら、ガトランティスの回転砲搭の命中率は、かなり悪いのかもしれません」
ちなみにこの資料映像はドメル将軍率いる第6空間機甲師団が小マゼラン星雲でガトランティス軍と戦った時の映像だ。それをこの場で知っているのはキーマンだけだった。
「なら、奴らの対空砲火はかなり精度が悪いのか……それなら航空機で肉薄できるかもしれないね。あくまで可能性の話だけど」
篠原も映像を見て分析を口にする。
「カラクルム級は、対艦攻撃を目的とした艦隊殲滅艦と言える。そして、他の艦よりも装甲は強固だ。対艦、対惑星用の戦闘に特化させた故に大口径の砲を多数装備しているのも確認済みだ。しかし、対空兵装に関しては明らかに少ない」
「……つまり、カラクルム級はそもそも艦隊で動くことを想定しているから、対戦闘機は護衛の駆逐艦や巡洋艦に任せっきりになるんですかね?」
「新米くん。まさにその通りだ」
真田の話そうとしていたことを先読みして新米は言った。「あ、しまった」と慌てて口を塞ぐようなポーズをした新米だったが、真田はむしろ、新米の見識に感心した。
「カラクルム級も万能ではないということか」
「彼らの戦い方を考えると、戦闘機のような小さい目標よりも、艦隊や惑星といった比較的大きな目標をターゲットにするクセがあるみたいですね」
島と太田がそんなことを言った。
「一つ心配があるのは対空ミサイルがあるかないか、という点だが……」
「……私に聞いているのか?」
古代が質問を振った相手はキーマンだった。
「小マゼラン雲方面だとガトランティスが度々ガミラスの領域に侵攻してきたと聞いてる。ガミラスは何度となくそれを撃退してきただろう? 少しでも情報が欲しい」
「……仕方ない。出しゃばりたくはなかったが、艦長がそう言うなら。コンピューターを貸してくれないか?」
他のクルーたちが古代に視線を一気に向ける。
ガミラスへの不信感が完全に払拭されていないことの現れであると同時に、スパイの疑いがある人物にヤマトのコンピューターを貸す?
しかし、そうしないと話が進まない。なので、古代はキーマンの要望に応えて頷いた。
キーマンはライブラリーコンピューターへの接続をアナライザーに頼んだ。
ライブラリーコンピューターとは、地球とガミラスが双方で開示している情報を自由に閲覧できるツールであり、莫大な記憶容量を抱えている。
その莫大な情報量の中からキーマンはあるものを呼び出しながら言った。
「艦載機からの空対空ミサイルなら確認されているが、これまで艦艇からの艦対空ミサイルは確認されたことがない」
そう言いながら、キーマンがホログラム映像で投影したのは、無骨な姿をしたガトランティスの軍艦だった。
「何だこれ……」
「一応見せておきたかった。ガトランティスにもミサイル攻撃を行なう艦は存在する。それが、このミサイル戦艦。ガトランティス人たちはゴストーク級と呼んでいるらしい」
「まるでハリネズミみたい……」
山本がそんな言葉を漏らした。
「正直言うが、かなり悪趣味だ」
「もしかして、被弾したら誘爆しやすいのか?」
「逆だ。ゴストーク級の船体構造は強固で連中の防御シールドも強力だ。艦首に搭載された巨大ミサイルも、艦載機の攻撃程度では簡単に破壊はできない。こんなに誘爆しやすいものを抱えていて何故すぐに火を吹かないのかは謎だらけだ。おまけにミサイルの射程も長く、ドレッドノート級の主砲の射程外から容易に攻撃出来る」
「実際に遭遇したらかなり嫌な相手だな」
「可能性はある。これから長い旅が待っているからな。だが、少なくとも一つ朗報がある。この艦は艦対艦ミサイルによる攻撃が主で、艦対空ミサイルの類いは確認されていないんだ」
キーマンが映像を再生すると、ゴストーク級がミサイルを雨あられのように撃ちまくり、撮影していたと思われるガミラス艦をも破壊した。
別の艦が撮影した映像では、メランカ数機がゴストーク級を攻撃するが、ゴストーク級からは対艦載機用のミサイルが発射された痕跡はない。メランカの編隊は無傷でゴストーク級から退避していったが、大した損害を与えられなかったようだ。
今度は真田が新米からタブレットを受け取って操作する。再びカラクルム級がホログラムで投影された。
「ナスカ級とこのゴストーク級を除き、他のガトランティスの艦艇の残骸からはミサイル発射管の類いは確認されていない。これは私の推測なんだが、艦艇に対空ミサイルを搭載すると言う発想が無いか。もしくは、対空ミサイルは艦載機に任せ、艦は対艦攻撃を主体にした設計なのかもしれんな」
「現に、小型の回転砲塔は連射能力が高いが、対空兵器としては威力が大きすぎる。これは、対艦攻撃には大きな威力を出すだろうが、精度の悪さから考えて防空能力はあくまで弾幕を張る程度のオマケなのかもな。大きな的を狙える程度で、艦載機ほどの機動力がある小さな的を射抜けるほどの精度は期待出来ない。弾幕を張って航空機を近付けない様にするので精一杯だろう」
そうキーマンが捕捉した。
「だとしたら、奴らは航空機を脅威とは認識していないのかもな……」
加藤が納得したような口調でそう言った。
「この回転砲搭は対艦攻撃用だ。大口径大型化しただけで、装甲は厚くない。装甲を厚くしてしまうと重量が重くなり回転速度と発射速度もそれに伴い落ちてしまう。ですよね、真田さん?」
「あぁ。先のカラクルム級の残骸と、それ以外のガトランティス艦の残骸を分析、比較した結果、ガトランティス艦の対空用の回転砲塔と、カラクルム級の大型回転砲塔の駆動部は同一の物で、回転砲塔のカバーも同一の素材である事がわかった。このカバーは機銃やエネルギー弾に対する防御性は高いが、ニュートロニウムが施されていない場所の1つだ。ここに物理的に対艦ミサイルを撃ち込めば破壊できる筈だ」
南部と真田が交互にそう説明した。
「なら、航空機の対艦ミサイルで、この回転砲搭を破壊できますね」
「でも、その後は?回転砲搭を破壊できてもカラクルム級は沈められないぞ?」
愛子に対して加藤は回転砲塔を破壊した後をどうするかを指摘した。
「航空隊に本当に攻撃して欲しいのは回転砲搭じゃない。破壊した回転砲搭の跡。砲搭の基部だ」
試しにカラクルム級の3Dモデルから回転砲塔を取り外してみる真田。
当然回転砲塔のなくなったカラクルム級には穴のようなものが出来る。
「この基部はカラクルム級の艦内に続いている。ここに対艦ミサイルを撃ち込み、装甲の内側からカラクルム級を破壊する」
再び回転砲塔をカラクルム級に戻すと、そこでコスモタイガーが搭載している対艦ミサイルをホログラム映像の中に呼び出す真田。ミサイルを4つ並べると、まず1個を指で操作し、回転砲塔に落とすような動きを再現して見せる。
「回転砲塔破壊に1発」
続いて2発目は、回転砲塔が破壊された部分に撃ち込んだ時をイメージして落とす。
「基部から艦内にミサイルを撃ち込むのに1発。その為に、対艦ミサイルを1機辺り2発。予備も含めて4発が必要になるだろう」
真田は再びカラクルム級は脇に追いやって、代わりにコスモタイガーを表示する。
バーチャルのコスモタイガーに、試しに対艦ミサイル四発と、サイドワインダーを装備させてみるが、
「……だが、航空機に4発の対艦ミサイル。更に自衛用の短距離対空ミサイルを搭載するというのは、機体重量の増加による機動力の低下が予想される」
ちなみに対艦ミサイルは、ガミラスのドルシーラ空間雷撃機が搭載しているような空間魚雷に比べると二回り以上小さいが、それでも十分に大きい。
真田はその対艦ミサイル4発の内2発を外し、代わりにもう1機のコスモタイガーを立体映像に呼び出して、その機体に取り外したばかりの対艦ミサイルを移した。
「ならば、この作戦は2機で分担しなければならない」
「それなら、一機が回転砲塔を破壊し、もう一機が基部にミサイルを撃ち込む。これで、万が一失敗しても、次弾を発射して対応できるわね」
「あの……その作戦は確かに画期的ですが、1つ問題が」
山本は自信満々。対して鶴見は不安そうな表情を浮かべながら手を上げて言った。
「鶴見?」
「回転砲搭のあるポイントに、2度攻撃をするのは確かに出来なくはないですが……奴らの艦橋にある大砲の目の前ですよ?あれに撃たれたら……」
それに対して古代が念を押すように答え、再びカラクルム級をホロ映像にピックアップする。
「さっきも言った様に、カラクルム級は対艦砲撃がメインだ。あの艦橋にある3つの旋回砲搭。そして、その下にある大砲搭が存在する。だが、これらは対艦砲撃を目的に作られているから、飛び回る航空機を狙えるほどの精度は低い筈だ。砲搭はこの構造や配置上、射角が狭い。上に向けられても精々、上角プラス30°が限界だろう。そして、砲搭の砲身は水平0°以下には下ろせない。そんな状態で砲撃なんてしたら自艦を傷つけてしまうからな」
「……えーっと、ヤマトもそうですが、主砲は敵艦や遠くの物を狙う事が出来る様に上方向への角度を付けられる。でも水平0°以下は下ろせません。それを踏まえてカラクルム級を見てみましょう。艦の砲搭配置は艦橋の真下に3つの旋回砲搭。そしてその下に大砲搭。その下に大きく一段下がって、下の艦首の前まで続く甲板に大型回転砲搭が存在する。これを覚えて、真横からみると……」
カラクルム級の側面を見せる。
「大砲搭と回転砲搭との間にかなりの高さの段差がある事がわかりますよね? 大砲搭は水平0°以下を狙えない。となると、この大砲搭を設置している段差から下の空間へは砲撃が届かないんです」
「なるほど。この砲撃が届かない空間に逃げ込めば、砲撃を受けずに離脱できるって事か!」
「そうだ。この砲撃や対空砲火が届かない領域は他にもあって、艦尾の真後ろと、艦底部全体だ。艦底部には対空火器は存在しない。ヤマトの様に艦底部に砲搭が存在しない。そして、唯一存在するのがカラクルム級の両舷にある対空用の回転砲搭2基だ。コレを破壊する事で、航空隊の退路を作れる。真上から奇襲して、大型回転砲搭を一基以上破壊する」
そうして、対空砲塔と大型回転砲塔を潰してから艦底部に抜けるコースを古代は赤い矢印で示した。
「対空用の回転砲搭にもミサイル、もしくは機銃を撃ち込んで沈黙させ、一気に艦底部まで逃げ切る。これだとバックアップも含めて4機必要になる……」
「4機なら生存率も成功率も高い。だが、被弾率も高いだろうな……息の合ったコンビネーションが必要だ」
「加藤隊長。山本隊長。その戦術は私たちにお任せください」
「……じゃぁ、伊東隊長。ローグ中隊に任せるよ」
「こう言うのもあるよ。2機で真上から急降下。一機が回転砲搭を攻撃して、もう一機がミサイルを撃ち込む。その後すかさず2機で機首を上げて、上昇してカラクルム級の目の前でUの字を描いてサヨウナラ~」
「篠原、それをしたら突入時と離脱時に攻撃を食らうぞ?」
「えっなんで!?突入時に艦首の回転砲搭は沈黙させたじゃん!」
「艦尾の回転砲搭と両舷の回転砲搭が生きてる。下手したら落とされるわよ……」
山本が溜め息を吐くと、
「面白そうな話だな」
「キーマン中尉。何か案があるのか?」
「あるにはあるが、条件として私も出撃させてくれ」
さっきと同じく皆の視線が古代に集まる。
「キーマン中尉。君はパイロットなのか?」
「これでも元々、ダイヤ戦線ではサルガタナスという航宙母艦の飛行隊長だったんでな」
ダイヤ戦線。ヤマトのクルーたちにとっては聞き馴染みのない単語だった。
「まぁ、何を言ってるのかわからんだろうが、少なくともこれだけは言える。私の撃墜数は103機だ」
「103機も?」
「内デバッケで32機。スヌーカで出撃した時に9機。ドルシーラで3機落としてる。残りはツヴァルケでの戦果だが、あいにくと自機は戦場に置いてきた。今はどこにあるのやら」
103機撃墜……ヤマトの航空隊のパイロットたち、特に加藤や山本などイスカンダルへの旅で激戦を経験したパイロットたちは確かに腕利き揃いだが、その撃墜数は聞いたことのない数字だった。
「他にも、沈めた船は何隻かある」
「わかったよ中尉。君が航空戦のエキスパートなのはよくわかった。……ただ、あいにくとこの艦にはガミラスの機体は乗せていないんだ」
「そうか……仕方ない。出撃は諦めることにするよ」
「案を聞かせてくれ」
「そうだな……必要になる機体は2機。さっきの茶髪のロン毛の……」
名前が出てこない。なので、
「俺のことか? 篠原だ」
「シノハラか。……君の言った案のアレンジなんだが、攻撃手順はさっきのと一緒だ。艦尾の回転砲塔を破壊し、基部に攻撃を撃ち込んだ後、垂直降下状態から、一気に垂直90°に機首を上げ、水平飛行を行い、艦尾にあるフィン目掛けて側面船体に沿って超低空飛行をし、フィンを抜けたら、そこから艦底部に向かって急降下し離脱する」
キーマンがそうして描いたのは、後部の大型回転砲塔に垂直降下し、それを破壊したらカラクルム級の艦尾に抜けるコース。これは青い矢印で示した。
「なるほど。こうすれば確かに、両舷と回転砲搭からの対空砲火を受けずに離脱できる」
「特にカラクルム級は船体後部が不気味に思えるぐらい手薄だ」
だが、キーマンは、青い矢印で示したコース上で艦尾を抜ける直前のフィンに印を付けると、
「ただ、それぞれの戦術に問題はある。まず、艦尾を抜ける場合だが、カラクルム級の船体後部にあるフィンはX字と十字を組み合わせた構造だ。敵船体に密着しつつ狭いコースを抜けないとならないが、一歩間違えればこれに激突し粉々になる」
次に、赤の矢印で示した艦首へ抜ける四機編隊による攻撃コースの内、急降下する部分に印を付けた。
「4機編隊の場合には、急降下して艦底部を抜ける時に気をつけないとならない。急降下のタイミングが遅いと、艦橋砲搭に狙われる危険がある。あの砲搭は精度も悪いから、当たる確率は低いだろう……だが、遅れればそれだけ被弾する確率は高くなる。どれだけ早く急降下して離脱できるかがポイントだ」
「特に艦尾への攻撃コースは急降下から一気に90°旋回して水平飛行。超低空で艦首まで飛行し離脱する……。レール無しでジェットコースターのコースを再現するようなものだな」
「理論上は可能だろうが、問題はパイロットの腕前だ。これは、俺や山本や他の限られたパイロットにしか出来ない芸当だ」
「急降下から水平飛行に移行するタイミングを間違えたら、そのまま船体に落下する訳だものね……」
真田、加藤、山本も、飛行コースを見ながら口々に言う。
「とにかくシミュレーションをするしかない」
「同感だ。出来れば私も出撃したかったが」
キーマンは溜め息を吐いた。
「とにかく、猶予はあと19時間しかない。岬。今の作戦会議の様子、録画できたか?」
「はい」
そう言って百合亜は先ほど押した赤ボタンに手をかける。これはオルタネイトタイプのスイッチだ。
一度押せばボタンが沈み込んだままになり、レコーダーが作動している間はスイッチボタンが赤く光る仕様になっている。
そして、百合亜がそのスイッチを再び押すと、「カチッ」という音と共にスイッチの発光が止み、スイッチのボタンは元の高さに戻った。
「よし、みんなはシミュレーションを始めてくれ」
「古代、お前……いや、艦長はどうするつもりで?」
「これから土方提督や第一艦隊、地球軍艦隊の艦長たちと今のことを話す。島。出航準備。南部。戦術課も臨戦態勢へ」
「「了解」」
古代はコンソールの通信モニターをオンにする。機関室のメインコンソールと映像が繋がると、呼び出しに応じたのは山崎の姪っ子である堀田美奈子機関士。美奈子は古代からのメッセージに気付いてすぐに機関長である徳川を呼んだ。
『艦長、機関室だ』
「徳川さん。エンジンの状態は?」
『先ほどの戦いでだいぶ無茶をしたからな。だが、大したことはない。あと2時間もあれば通常運転に戻れるぞ』
「わかりました。ありがとうございます」
『だが、今度からあんな無茶をする場合は前もって教えてくれよ?』
「……了解です」
そう言って頬を釣り上げる徳川とは対照的に、古代は苦笑いを浮かべた。
「全員解散」
そうしてCICからほとんどのクルーが退出していく。
特に航空隊のパイロットたちは急いでシミュレータールームに向かう。アナライザーもその後についていくが、何故か新米も一緒に引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと、僕もですか!?」
「そうだよ。その3Dモデルを作ったのは君だろ。シミュレーションに組み込む作業をアナライザーと一緒にやって欲しい」
「えぇ……そんな大役、僕がやっても良いんですか?」
「会議室で色々と技術的なことを説明できたじゃないか」
加藤と篠原が新米にそう言っているどさくさに紛れて、小島はこっそりとその場から離脱。お預けになっていた夕飯をもう一度食べに行くことにしたが、
「……おや?」
てっきり食べ残しは捨てられているものと思っていた小島だったが、彼が食べ途中だった牛丼セットは、丁寧にラップが掛けられており、マジックのようなもので「小島」と書かれていた。
それを食堂の厨房の窓から平田は見ていた。
プロクシマ3の軌道上を取り巻くようにガトランティス艦隊が展開していた。
その艦隊に、カラクルム級30隻が合流した。
「提督。バルゼー長官からです」
「繋げ」
『デスタール。戦況はどうなっている?』
「ははっ。プロクシマ3は陥落目前です」
『それにしてはやけに手間取っているようだが?』
「敵のコロニーシールドが厚かったため、切り崩しに苦労いたしました。幸いなことに、敵のコロニーシールドはプラズマ魚雷の直撃を受ければ破壊されることが判明いたしました」
その実証データを、映像と共に見せたデスタール。
バルゼーはそれを見て邪悪な笑みを浮かべた。
『……ハハハッ……クッハハハハッ! でかしたぞデスタール!』
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます。早速プラズマ魚雷で攻撃を加えます」
『よし、勝利の報告を心待ちにしているぞ!』
そうしてバルゼーは悦に浸った表情で通信を切った。
「……クククッ、ハハハハハッ! 地球人め、散々二の足を踏まされたが、それもここまでだ。全艦、プラズマ魚雷発射……」
「て、提督! 敵艦隊です! 敵艦隊が現れました!」
「何ィ!?」
その知らせは、あと一歩で勝利を手に出来て気分が良かったデスタールにとって、邪魔でしかなかった。
「地球軍艦隊など雑魚だ、放っておけ! 攻撃開s」
お構いなしに攻撃を命令しようとしたら、デスタールの旗艦が揺れる。
「今度は何だ!?」
「て、敵の攻撃が僚艦を串刺しに……!!」
「戯けたことを抜かすな!……!?」
部下の報告が信じられなかったデスタールだったが、報告は事実だった。
デスタールの旗艦のすぐ横にいたカラクルム級戦艦1隻は文字通り敵主砲の直撃を受けて穴だらけになり、そのまま爆発してしまった。
「僚艦が撃沈!」
「提督、護衛艦隊からも通信です、敵艦隊から総攻撃を受けているとのこと!」
「くっ、小癪な! カラクルム級艦隊、半数はこの場を動かず地上への攻撃を続行! 残りは私に続け!集る蝿どもを一匹残らず葬り去れ! 敵の規模は!?」
「戦艦二隻に巡洋艦数隻、及び駆逐艦多数、計120隻であります!」
「120隻だと! たったそれだけか! とっとと叩き潰してしまえ!」
「提督! 敵艦二隻が我々の正面に!」
「第14護衛艦隊、及び第16護衛艦隊と我々の間にいます、妨害しようとしています!」
「ふざけるな! 敵の姿を見せろ!」
「は、はい!」
怒り心頭で思わず茹で蛸のように真っ赤になるデスタール。そんな彼を怒らせないよう部下たちも必死。急いで敵艦の姿をスクリーンに映すと、
「あれは……見たことがない」
デスタールは知らない。
彼らのすぐ正面にいる戦艦こそ、地球軍の切り札とも言えるE.F.S.ヤマトであった。
なお、もう一つ彼らが知らない事実は、
「敵艦発砲!」
ヤマトが主砲を二発発射し、目標に命中。カラクルム級戦艦がそれだけで二隻沈んだ。
「そんな馬鹿な!?」
「いえ事実です提督!」
「黙れ!」
部下へのその発言は目の前で起きたことを否定したい現れだった。
しかし、目を逸らそうが逸らすまいが、紛れもない事実だ。
ヤマトは軽々とカラクルム級二隻を撃沈してみせたのだ。
「くっそ、ふざけた姿をした戦艦め! ビクつくな! あんな船さっさと沈めてしまえ! 撃て!!」
デスタールの号令によって艦隊はようやく纏まった数の砲撃をヤマトに向けて叩き込んだ。
だが、それを防いだのは、
「重力子を感知!」
彼らがヤマトに向けた砲撃は、その全てが重力子に吸収されてしまった。
それを発砲したのは、ヤマトのすぐ後ろに控えている戦艦だった。
「て、提督、後部にいる敵戦艦はさらに巨大です!」
「狼狽えるな情けない! カラクルム級に比べればあんな戦艦屁でもないわ!撃て、さっさと撃て!!」
その命令通りに護衛艦隊もカラクルム級艦隊も砲撃を続行する。
しかし、後方の戦艦が放つ重力子スプレッドは、まるでヤマトを守る盾のようにそれらの攻撃のほとんどを吸収し、ヤマトはその盾を越えるように主砲を撃ってくる。またしてもカラクルム級戦艦1隻が火を吹き、そのまま爆沈した。
「僚艦さらに撃沈!」
「て、提督! 護衛艦隊が既に80隻を喪失したとのこと!」
「80隻がなんだ、我々は1000隻もいるのだぞ!」
「し、しかし、敵120隻に対してこれは……」
「えぇい、うるさい! さっさとあれを沈めんか!」
デスタールは明らかに頭に血が上っていた。
「敵後方の戦艦を攻撃した方が……」
「それよりもいい方法がある。あの二隻を包囲殲滅せよ!」
「しかし、敵の主砲はカラクルム級を容易に引き裂けるではありませんか」
「数で押しつぶせばよかろう!」
ようやくデスタールも混乱から立ち直ったようだ。先ほどに比べれば冷静な判断であるが、彼が突撃を掛けてカラクルム級の残存艦と護衛艦隊がヤマトと後方の戦艦―アンドロメダを包囲するまでに少なくない数のガトランティス艦が沈んでいた。
しかし、デスタールは早速頭からある事実が抜け落ちていたことに気付かなかった。
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数時間前。
アルファ・ケンタウリ11号星軌道上。
CICで航空隊と共にカラクルム級の弱点を導き出して戦術を練った直後。
引き続いてCICには古代と真田が残り、土方提督を始めとする第一艦隊の各艦の艦長や、「サツマ」の長野艦長、インデペンデンシア級多層航宙母艦「レキシントン」のシェリダン艦長などの面々がホログラムで一堂に会する作戦会議が開かれていた。
『つまり、カラクルム級の弱点は回転砲塔にあるということですか?』
「極論を言えばそうなりますね」
第一艦隊所属のドレッドノート級重巡洋艦「グナイゼナウ」のエルナ・エスシルト艦長の質問に対して、真田は的確に答えた。
ところでエルナ少佐の見た目だが、古代には何処かで見覚えがあった。
『しかし、有効手段が航空攻撃のみか……』
『うーむ……心許ないな』
ニュージャージーのライル・ジョンソン艦長と、シャルンホルストのエーリッヒ・エスシルト大佐は、古代と真田が提示した戦術に難色を示す。
レキシントンのジョージ・シェリダン艦長の表情も思わしくない。
『対空ミサイルをカラクルム級やガトランティスの艦船が搭載していないというのは我々にとってアドバンテージですが、これを潰すために貴重なパイロットを投入するのは……』
『でもやるしかないでしょう?』
プラテルのレオンティーネ・ファルコウスカ少佐は難色を見せるが、同僚であるガングートのアナスタシア・イワノヴァ中佐は「覚悟を決めてやるしかない」と腹を括っていた様子だった。
『真田中佐。あなたの言う通りだとすれば、カラクルム級はあくまでも艦隊決戦兵器のような位置付けであり、対空戦闘能力は非常に限定的だとか。それは確かなのですか?』
「その通りです。カラクルム級は砲撃による対艦戦闘に特化していますが、結論から言うに、カラクルム級は航空機による攻撃に脆弱です」
『だが、ヤツにはニュートロニウム装甲が施されている。例え、航空機で肉薄出来ても、船体に攻撃が通らなければ無意味だろう?』
コンゴウの艦長は今井早紀中佐。彼女の質問に真田は答えるが、別の質問をアイル・オブ・スカイのジェイク・トンプソン艦長が投げかける。
「カラクルム級の残骸からは他にも興味深い事が判明しました。先ほども述べたように、回転砲塔を破壊すれば、そのすぐ下は敵艦の艦内です。ここに航空機がミサイルを撃ち込めれば……」
『それは正気か?敵の対空砲に飛び込めと言う事か?下手をしたら撃ち落とされるぞ!』
アビシニアのアハメド・アフェウェルキ艦長は思わずコンソールに拳を振り下ろしてしまった。
「ですから、先にご報告した通り、カラクルム級は対艦戦闘艦です。砲塔は全て対艦戦闘用なのです。あくまで対空迎撃能力は弾幕を張る程度の物で、命中精度はかなり悪い。狙い撃たれる心配はほぼ無いでしょう。ですが、下手をしたら撃ち落とされる事に変わりありません」
『ならば、航空機での攻撃は不可能では?』
「いいえ。この回転砲塔には弱点があります。それは、回転砲塔に対して垂直に真上から侵入すると砲弾が当たらない死角が存在すると言う事です」
『回転砲塔の死角だと?』
「回転砲塔の砲の角度は水平0度からプラス50度の範囲で砲撃が可能な構造です。ですが、これが砲の限界角度です。そして、砲を50度傾けて撃てても、それ以上、弾幕を広げる事は出来ません。すると回転砲塔の死角が円を描く様に形成されますが、ここが弱点です」
「更に、回転速度と発射速度もこの回転砲塔を回避する弱点と言えます。回転砲塔の特徴とも言える回転速度と発射速度ですが、大型の回転砲塔は、それらを犠牲にして、砲の火力を高めているんです」
真田と古代が口々に懐疑的な艦長たちを説得する材料を提示してみせた。
すると、
『つまり、カラクルム級は従来の小型の回転砲塔の口径をそのまま大型化して火力を高めた結果、対艦戦闘能力が強化された代わりに、砲塔そのものが大きくなったことで死角が増えた。そう言いたいのですね?』
コンゴウの今井艦長が、二人の言いたいことを先回りして述べた。
「その通りです。対空戦闘における弾幕はかなり薄いでしょうし、大型の回転砲塔には航空機が侵入できる十分な場所が出来ています」
『……確かに。大型化して大きくなった死角の範囲は丁度、航空機が丸々収まるサイズだわ』
グナイゼナウのエルナ・エスシルト少佐も納得した様子だった。
『砲塔の弾幕が張れない死角……そして、回転速度と発射速度。薄い弾幕に、大きな死角……ここなら確かに、航空機を突入させられるかもしれんな』
『でも、1つ問題が……。カラクルム級一隻ならともかく、プロクシマ3には少なくとも30隻がいます。それの数十倍にも及ぶ対空能力の高い駆逐艦や巡洋艦、空母がカラクルム級の対空迎撃能力を補完している可能性がありますよ? それらを排除しない限り、航空機での攻撃は難しいのでは……?』
長野も理解したようだったが、トランシルバニアの艦長であるイリンカ・ムンテアヌ少佐は不安気に質問を口にする。第一艦隊の艦長の中では彼女は最年少であり、気弱な感じであった。
「駆逐艦や巡洋艦、空母は、ヤマト以外の艦艇でも対処可能です。ヤマト及びヤマト航空隊以外の戦力をそちらに回し、カラクルム級から引き剥がします」
「そして、それらの艦を出来る限り破壊し、残骸をばら撒きます。でも、ただ残骸をばら撒くだけではありません。ミサイル駆逐艦やミサイル軽巡洋艦の数隻にはジャミング用にチャフをばら撒いてもらいます」
『チャフ?』
「実は彼らのレーダーは熱感知型です。わざと熱源をばら撒くことで連中のレーダーを眩ませることも可能です」
「その間に、ヤマトが単艦で敵艦隊に突入。カラクルム級を相手にします。最重要目標は敵艦隊の旗艦。ヤマトの対空ミサイル、機雷、パルスレーザー砲、三式弾によって護衛艦隊の排除を行ない、ショックカノンによるカラクルム級への攻撃を実行します」
『ヤマト単艦で? 負担が大きすぎないか?』
長野がそう指摘すると、真田が答えた。
「敵にとってカラクルム級への対抗手段が我々にはヤマトしかないように見せかける必要があるんです」
「万が一、カラクルム級数隻が地球軍艦隊へ向かう場合は、艦を退いて下さい。最重要目標は敵艦隊の旗艦です。旗艦を護衛するカラクルム級を数隻離れさせれるだけでも良いのです」
「そして、先ほどばら撒いたチャフと残骸を利用して航空隊をカラクルム級の直上に侵入させ、タイミングを見計らって航空攻撃を仕掛けます。航空隊が到達するまでは、ヤマトは波動防壁と艦の機動力で持ち堪えます」
『それでカラクルム級を、本命の航空攻撃で沈める、と……だいぶ腕の良いパイロットがいないと厳しい作戦ですね』
「しかし、今井艦長。ヤマト無しで対抗できる手段といえばこれぐらいしかありません」
『……提督。囮役がヤマトだけではあまりに酷ではありませんか?』
『そうだな。古代。ヤマト1隻に奴らがどれだけの戦力を割けるか考えてみろ。ヤマト1隻を叩き潰すのに、連中は数で勝負してくるだろうが、プロクシマ3の敵の規模は少なくとも1000隻に及ぶとスヴァールバルが報告してきたな? その内30隻ほどがカラクルム級だったが、その30隻全てを引きつけるにもヤマトだけでは無理がある』
「それは……確かにそうですが」
『そこでだ。……ヤマトとアンドロメダの2隻で囮になる!』
その土方の提案に古代と真田だけでなく、第一艦隊の艦長たちにも動揺が広がる。
『土方提督、いくらなんでもそれは……』
『ヤマトがその身を犠牲に囮になるのを黙って見ている訳にはいかない。それに万が一の時、ヤマトを守れる艦が必要だ。アンドロメダがヤマトの後方から支援し、ヤマトを援護する。カラクルム級30隻を相手にするんだ。戦艦1隻より2隻の方が敵を引き付けられるだろう』
そう言って区切った上で、微妙な表情をしながら土方は続けて言った。
『……耳にタコができるぐらい聞かされているかもしれないが、アンドロメダにはヤマト以上に強力な波動エンジンがある。よって、波動防壁もヤマト以上に硬い。それにヤマト以上のミサイル発射機や重力子スプレッドまで備わっている。特に重力子スプレッドならばヤマトのために敵艦の砲撃が雨霰と降り注ごうともほとんどを防いでくれるだろう』
「提督……感謝いたします!」
『礼を言うのはこの作戦を成功させてからだ。真田くん、装備の再確認だ』
「了解しました。航空隊には自衛用の短距離対空ミサイルを2発。対艦ミサイルは通常の物と、遅延衝撃信管の遅延時間を伸ばした物を予備を含めて4発搭載します」
『よろしい。では、古代。それをどう使うか、わかりやすくもう一度説明してほしい』
「……わかりました。カラクルム級の直上に到達した航空隊は対艦ミサイルによる急降下爆撃を実行し、大型の回転砲塔を通常の対艦ミサイルで破壊後、回転砲塔の根元、つまり、回転砲塔の基部に目掛けて遅延時間を伸ばした対艦ミサイルを撃ち込みます」
するとエルナ少佐が質問した。
『どうして遅延衝撃信管を使うことに?』
「この回転砲塔の基部はニュートロニウム装甲の内側に続いているため、より深く弾頭を内部に撃ち込む必要があるからです。そのための遅延衝撃信管です。敵艦に命中してすぐに爆発するよりも、敵の艦内に深く食い込む時間を弾頭に与えるためです」
「それに、こうすることで航空隊が安全圏に退避する時間を稼ぎます。以上が作戦の大まかな説明となります」
『真田くん。この作戦が成功する可能性は?』
「理論上は成功します。ですが、実際のところは、航空隊の技量に頼らざるを得ない分、作戦の成功は保証しかねます。でも、これが成功すれば、ヤマトだけでしか太刀打ち出来ないという前提を覆し、カラクルム級に対抗する術を得られると考えます」
『現状はカラクルム級に真正面から対抗できるのはヤマトだけだ。ここに航空攻撃による対応の可能性が増えれば、ガミラスや地球連邦でも対応できる様になる。理論上は可能であると言う君たちの判断を信じよう。ただし、万が一有効ではないと判断した場合には、艦隊と航空隊は即時戦線を離脱し退却する。いいな?』
「了解です。現在、航空隊による仮想訓練と戦闘に向けた航空機の準備を先行して行っております。準備が完了次第、作戦を実行します!」
『よろしい。ではこちらも準備が完了次第、アンドロメダはヤマトと合流し作戦を決行する。その間、臨時に第一艦隊を指揮する者が必要だな……』
土方は第一艦隊の艦長たちの顔を見ながら、誰に指揮権を委譲すべきかを考えた。
『……コンゴウ艦長、今井早紀中佐』
『はい?』
『君を第一艦隊の臨時総司令官に任ずる』
『て、提督、私よりもジョンソン艦長やエスシルト大佐の方が相応しいのでは?』
『カラクルム級の回転砲塔の弱点を彼らが説明する前に気付いて発言したのは君だ。それに、艦隊指揮官として経験を積めることはそうないことだぞ。作戦はわかっているはずだな?復唱してみろ』
『……第一艦隊は他の地球軍11個艦隊と共にプロクシマ3へ強襲を掛け、カラクルム級を護衛する敵艦隊を集中的に攻撃、及び航空隊の突入をカバーするために敵艦隊を撹乱する。それが我々の任務であります』
『では今井艦長。君を臨時大佐に任じる。第一艦隊の臨時指揮を任せたい。受けるか、受けないか?』
すると、早紀はビシッと敬礼し、
『……重巡洋艦コンゴウ艦長、今井早紀。臨時大佐の地位を拝命し、謹んで第一艦隊臨時指揮官をお受けさせていただきます!』
『よろしい。通信を終える。全艦、戦闘配置!』
その檄に従い、古代も真田も、他の艦長たちも敬礼し、通信を終えた。
✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆
一方、航空隊のパイロットたちはシミュレーター室に向かった。
ここは一見すると殺風景な部屋だ。
具体的に言えば、ネットカフェやカプセルホテル、もしくは音のないゲームセンターを思わせる雰囲気がするのは、パイロット用のシミュレーターポッドが所狭しと並んでいるせいだろうか。
このシミュレーターポッド。複座の機体をイメージして二人一組で同じシミュレーションを試すことができる仕様であり、ヤマト航空隊のパイロットたちは二人一組でペアを作り、カラクルム級への奇襲訓練に取り組んでいた。
ちなみに、ヤマト航空隊の構成は48人。
一方でシミュレーターポッドは予備を含めて20基用意されているが、実はこれで充足している。
というのも、48人の内訳を話すと、その内の12人はローグ中隊使用機である複座型(またの名を後部銃座搭載型ともいう)のコスモタイガー2型の後席搭乗員であり、そのほとんどはパイロット資格を持たない(なお、コスモタイガー1型というのは、単座型を指す)。
なので、後席搭乗員の内、パイロット資格を持つ3人以外はシミュレーター室にいない。
その3人+キーマンとヤマト航空隊のパイロット36人=40人ということになる。
今回からキーマンと、後席搭乗員の
「敵艦発砲!」
「鶴見、しっかりついて来い」
「はい!」
今回、鶴見と組むのは山本ではなく加藤だった。
実戦ではビクつく鶴見だが、シミュレーターでは強気だった。
「よし、敵回転砲台の死角に入った。ミサイル発射」
加藤のシミュレーター機がカラクルム級の回転砲台にミサイルを撃ち込む。命中。しかし、
「発射します!」
「馬鹿っ、早すぎる!」
加藤機とほぼ同時に鶴見機はミサイルを撃ってしまった。
回転砲台は加藤機のミサイルで破壊されたが、鶴見機の遅延衝撃信管使用のミサイルは、回転砲台を破壊した時の余波で破壊されてしまった。
「ダメだダメだ!鶴見、もう少し発射時間に間隔を開けろ。もう一回!」
「は、はい!」
一方で篠原は大淀舞香と組んでシミュレーター訓練を実施していたが、鶴見とは逆に大淀は回転砲塔の基部にミサイルを撃ち込めたが、
「あぁっ、ぶつかる!」
90°垂直上昇のタイミングを誤ってカラクルム級に激突してしまった。
これが実戦でなくて良かった。篠原も大淀もそう思った。
「淀ちゃん。遅すぎるよ」
「は、はい……もう一回お願いします!」
さて、鶴見と大淀はそれぞれ加藤と篠原が長機を受け持っている中、山本はというと。
「キーマン中尉。まだ続けます?」
「何だ?山本少尉。休憩してもいいんだぞ?」
「中尉こそ。出撃しないはずなのにわざわざシミュレーター訓練だなんて」
「これでも俺は戦闘機乗りだ。定期的にシミュレーターにでも座らないと勘が鈍ってしまう。ましてや、相手は戦闘機にとっては巨人だ。実際に出撃できないのは悔やまれるが、せめてシミュレーターの中でだけでも撃墜数を稼ぎたいものだ」
再びシミュレーターをオンにする。
キーマン機の目の前に山本機のコスモタイガーのエンジンノズルが見える。
そして、カラクルム級がシミュレーションの中に姿を表す。
そのまま山本機は急降下に入り、直上からカラクルム級後部の回転砲台に狙いを定めて、ミサイルを放つ。
命中。死角からの攻撃に回転砲台は対処できない。
破壊された回転砲台からカラクルム級の艦内が見えたので、キーマン機が遅延衝撃信管のミサイルをそこへ撃ち込んだ。
あとは指定されたコースに沿ってカラクルム級から全速離脱。
二人の機体が退避完了すると、撃ち込まれた遅延信管が起爆。急降下からここまでの時間は僅か10秒だった。
「ふぅ……」
しかし、このシミュレーションだが、山本とキーマンはもう20回以上は繰り返していた。
最初の一、二回はカラクルム級の撃破に失敗したが、それからはミスがない。
回転砲塔への攻撃とその後の艦内への攻撃、何度か役割を交代しているし、カラクルム級との距離を変えたりしているが、驚くほど息がぴったりと合う。
「……少尉。尋ねたいことがあるんだがいいか?」
「はい?」
「休憩時間中の君は何をしている?」
「……暇があったら毎日シミュレーター借りて、ここでひたすら一人で訓練してます。戦闘や哨戒飛行以外は航空隊は暇なので……」
「ここが自分の部屋みたいに感じるか?」
「そうですね……よくそう思います」
「奇遇だな。……私もだよ」
微妙な間を持たせてキーマンがそう言ったものだから、思わず山本は笑ってしまう。キーマンもそれに釣られて笑った。
「……ガミラスの航空隊も、ここもそう変わらんか。向こうでも、戦闘が無い日は暇だったよ。シミュレーターで自習訓練して、シミュレーターが使えない時は、戦闘機の座席に座ってイメージトレーニング……そして、そのままスクランブル発進……なんて、よくあった」
「私もよく座席に座ってイメージトレーニングしてますよ」
そんな時、山本に悪魔の囁きがあった。
「……ねぇ、キーマン中尉。シミュレーターだけでは満足出来ませんよね?」
「当たり前だ。実際に飛ぶのとシミュレーターで飛ぶのとでは訳が違う」
「……ちょっと待っててくれませんか?」
「?」
山本はシミュレーターのポッドから出て、加藤に何かを話に行った。
加藤はそれを聞いて頭を抱えるが、山本が何かを訴えて説得を試みている。ポッドに外部の音を遮られてよく聞こえない。
しばらくして、加藤が席を離れ、シミュレータールームを後にした。
山本は再び二人一組のシミュレーターポッドに戻ってきた。
「一体何を話してきたんだ?」
「すぐにわかります」
数分後。
「キーマン中尉、山本、出てきてくれ」
加藤が二人の入っているシミュレーターポッドを外側からコンコンと叩くと、山本とキーマンがシミュレーターの席から立ち上がってポッドから出てきた。
「山本。艦長から許可をもらったぞ。行って来ていいぞ」
「ありがとうございます」
「行くってどこへだ?」
「格納庫に決まってるでしょう?」
「何故だ? 君一人で飛行訓練に行くのか?」
「いいえ。あなたも一緒にですよ」
「?」
第一格納庫に着くと、キーマンにはサプライズが待っていた。
「これは……ブラックバードだな?」
「知ってるんですか?」
「AI搭載型の無人戦闘機として開発中だっただろう?月基地の上空で何度か見掛けてるし、隠しているつもりだったのなら防諜がだいぶ杜撰だったぞ?」
「これ、厳密にはそのブラックバードじゃないんですよ」
「どういうことだ? 無人戦闘機じゃないってことか?」
「まぁ、そうですね。この機体、実は複座仕様のコスモゼロなんですよ」
「複座仕様?」
「……キーマン中尉。乗ってみませんか?」
そう言われて、思わずキーマンは顔を綻ばせた。
ヤマトのカタパルトから、山本とキーマンを乗せた黒いコスモゼロが発艦して行った。
そして、すぐにアクロバット飛行を披露する山本。
「おぉ、噂には聞いていたが、やはりすごい機体だな!」
「私の大好きな機体です!」
「コスモタイガーよりもか?」
「実はそうです。ヤマトに搭載されているのはこれと、もう一機だけですし」
コンバットブレイクの後、今度はカラクルム級の残骸の周りを何度もQループを描きながら高速で飛行させる。
「そうそうこれだ、重力加速度を感じるぞ!」
「このグッと体を引っ張られる感じがたまりませんよね!」
「あぁ。これはシミュレーターで唯一体験できない。こんな感覚は久しぶりだ!」
そうしてカラクルム級の残骸を通り越すと、
「キーマン中尉。操縦してみます?」
「良いのか?」
「えぇ。その許可も頂いてますし、あとは中尉次第です」
「チャンスがあるなら逃すまい。操縦を代わる」
「お願いします」
そうして後部座席にいた山本から、前方の座席に座っているキーマンに操縦が渡る。
まずは、機体を急上昇させて方向転換、先ほど通り過ぎたカラクルム級の残骸に戻って行く。
「君の飛んだコースの逆をやってみるぞ」
「了解です!」
ヤマトの展望室から、その様子を古代と島は休憩がてら眺めていた。
二人の乗った黒いコスモゼロは、キーマンの宣言通り先ほど山本が飛んだ時とほぼ同じようなQループの軌道をカラクルム級の残骸に沿って描いていく。
「古代、本当に良かったのか?」
「ゲストの要望に答えただけだよ」
「もしかして、パイロットとしてシンパシーを感じたのかしら?」
二人にコーヒーを差し出しながら雪は言った。
「まぁ、そうなるかも。僕だってパイロットの端くれだけど、コスモゼロにはここ一年乗ってない。キーマン中尉がどれだけ戦場を離れていたかは分からないけど、パイロットとして飛べない時間というのは、何というか、その……」
「満たされない?」
「……そう、それ。一度戦闘機パイロットとして飛んでみると、あの感覚は中々忘れられないし、また経験したいって思うんだ」
「古代、ジョブチェンジでもするか?」
島がそんな軽口を叩くが、
「……いやいや、ヤマトの操縦桿を握れるのは島だけだよ。今の俺にはヤマトを回すだけでいっぱいいっぱいだ」
「でも古代。こんな言葉があるぞ。【まろの靴はキツすぎる】*1って」
「……それ、誰の言葉?」
「確か、J・マイケル・ストラジンスキーだったかな。鉄は熱いうちに打てとか、やらずに後悔するよりもやって後悔とか、そういう意味だったと思う」
島はそう言って頬を釣り上げた。
これは暗に古代に対して「コスモゼロに久しぶりに乗ってみたらどうだ?」と勧めてきたことになるのだが。
続けて島が言ったことに古代だけでなく雪まで頬を赤く染めるようなことになる。
「それに複座型の機体に男女二人だけってのはロマンチックに思えるけどな。辺りは宇宙の闇。感じるのは互いの息遣いだけ。俺ならそういうことが出来る相手がいるなら……おい、二人とも顔赤いぞ?」
そう指摘され、真っ赤になった二人はお互いの顔を一瞬見た後、恥ずかしくなってお互いに顔を逸らしてしまった。
島はそんな二人を見て手をあげて「やれやれ」と首を横に振った。
「キーマン中尉。もし艦長から許可を貰えたら、この機体で出撃してみませんか?」
「良いのか?」
「キーマン中尉ほどの実力があればこの機体は使い熟せます。でも何より、私はあなたと一緒に飛びたい」
「……私はガミラス人で、君は地球人だろ?」
「正確には私は火星人です。中尉の言わんとすることはわかります。けど、シミュレーターでもそうだったし、実際に操縦桿を握ってもらって確信しました。私はあなたに背中を預けたい。周りは私が説得します」
「そうか。なら君に任せるよ」
軌道上に散らばるガトランティス軍の残骸を小惑星などの障害物に見立てて、キーマンはコスモゼロをジグザグに飛ばす。すると、山本はコンソールを操作して、機外との通信機能を一旦オフにした。
「……ねぇ、中尉。一つお尋ねしてもよろしいですか?」
「何だ?答えられる事には限りがあるぞ?」
「あなたの名前……クラウス・キーマンって、偽名ですよね?」
「……」
「大丈夫。今、通信装置は切ってあるので。盗聴もされてないですから」
「……答えられる範囲は狭いが……お前の言う通り、仮の名だ」
「やっぱり」
「どうしてわかったんだ?」
「あなたの従軍記録を取り寄せたんです。あの会議の前に」
「どうしてだ?」
「ガミラス大使館で白いツヴァルケを飛ばしている人がいるって聞いたから、最初は興味本位で調べたんです。でも、「クラウス・キーマン」という名で従軍したガミラス人の記録は見つかりませんでした」
「……」
キーマンは無言だ。山本は続ける。
「でも、あなたからさっき聞いた戦歴でダイヤ戦線の記録を調べたら、合致する記録が一人いた。その名は___」
「ランハルト。ランハルト・クラウゼヴェルガ、か?」
「それがあなたの本当の名前?」
「……少し複雑な事情がある。別に君やヤマトのクルーを騙す意図は無い。俺の本名はかなり厄介でな」
「じゃぁ、《ランハルト・クラウゼヴェルガ》も偽名?」
「ランハルトだけは本名だ。残りは家庭の事情で明かせない。ただし俺の今の名前、《クラウス》は《クラウゼヴェルガ》から取ったもので、そもそも戦地では仲間内から《クラウス》ってコールサインで呼ばれていた。だから、クラウスで構わないぞ」
「……では、今後は二人で居る時はクラウス中尉と呼ばせてください」
「何故、お前にそう呼ばれないといけないんだ?山本玲"少尉"」
「よりコンビネーションを高めるには、友好関係を築かないといけませんからね。クラウス中尉も山本玲ではなく、山本と呼んでください」
「なら、アキラ少尉。これでいいだろ?俺だけラストネームと言うのは、ズルくないか?これでおあいこだ」
「……中尉、操縦を代わってくれませんか?」
「? あぁ」
突然の申し出に不意を突かれたクラウスだったが、本当の意味で腰を抜かすのはこの後だった。玲が操縦桿を握った途端、二人の乗ったコスモゼロは突然に急降下を始めたからだ。ちなみに、この時の玲の顔をクラウスは見ていなかった。
「お、おい、アキラ少尉、墜落させる気か!?」
「……地球では、婚約も、付き合っても居ないのに、女の子の下の名前は気軽に言っちゃいけないんですよ?」
そう言うと玲は、今度は急上昇に入る。突然の重力加速度がクラウスを襲う。
「な、何っ!?そんな地球の風習の情報は知らないぞ!ガミラスに送られた地球の文化や風習のデータにそんな事は……いや、その……そんなつもりで、呼んだ訳ではなくてだな!」
玲はようやくそこで機体を水平に戻した。
「っ……これでも階級は俺の方が上なんだぞ!所属が違うとは言え、上官を揶揄うな……!」
「階級でマウントなんて、パワハラですよ中尉」
「昔の……訓練生の頃の俺みたいなヤツだな、君は」
「クラウス中尉の訓練生時代ですか?良ければ聞かせて下さいよ」
「……長い話になる。それはまた今度にしよう」
「えー?」
「別に、今やられたことを根に持った意地悪じゃないぞ。それは断言していい。ただな……今はまだ話せないだけだ。俺たちは知り合ってまだ数日に過ぎない。全部を語ってしまったら面白くないだろう? それに、俺ならその続きが聞きたいからこそ必死に戦い抜く。それが俺の流儀だ」
「……それ、下手すると死亡フラグですよ?」
「死亡フラグだと?」
「地球人の文化のデータベースがあるんですよね? 自分で調べてみてください。それより、そろそろ戻ります?」
「……だいぶ燃料を使ったからな」
「クラウス中尉。次あなたがこれに乗るのは一緒に編隊飛行の訓練をする時ですからね。ヤマト航空隊のみんなを驚かせてあげましょう!」
「そうだな。……山本少尉。これからよろしく頼む」
だが、クラウスは最後まで気付かなかっただろう。後部座席に座っている玲が顔を赤らめていることに。
▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△
数時間後。プロクシマ3の戦い。
『行くぞ!』
加藤の一声で、ヤマト航空隊とレキシントンの航空隊が一斉にプロクシマ3への攻撃に集中していたカラクルム級に襲いかかった。
カラクルム級の周りにはガトランティス艦の残骸が散らばっていて、しかも、ヤマトや他の地球軍艦戦がチャフ代わりに多数の閃光弾を撃ち込んだ結果、ガトランティス側のレーダーは敵機の存在に気付けなくなった。
ヤマト航空隊は全38機、アルファ中隊とベータ中隊に、予備機に乗る浅井千代子と、黒いコスモゼロに乗ったキーマンを加えて各2機で編隊を組んだ13個編隊。
ローグ中隊は4機で一個編隊を形成しており、計3個編隊。
まずはローグ中隊が三方に分かれてそれぞれでカラクルム級への攻撃を始めた。
「ナツメグ、香織、行くわよ!」
『『了解!』』
それぞれの編隊を率いるのは伊東愛子、夏目 恵、劉 香織の三人。
彼女たちは最初の作戦通り、最初の2機編隊はカラクルム級の対空砲を最初から狙いに行った。
猛スピードで通り抜けて右舷にあった対空砲を二基とも潰す。ここを経由して愛子と
その後続だったもう二機の内、
大河内機と大友機もまた伊東機と岡崎機が対空砲を破壊した面に沿って艦底部へほぼ一直線に離脱。
カラクルム級はその4機を撃ち落とせないまま爆沈した。
同じことを香織率いる編隊と、ナツメグ率いる編隊もやってのける。
ナツメグ率いる編隊は左舷側の対空砲塔を二機とも潰してから、艦首に一番近い方の大型回転砲塔を破壊した。
香織率いる編隊は同じく左舷側の対空砲を破壊した後、大砲塔手前の大型回転砲塔を破壊。遅延衝撃信管を手早く撃ち込んで共にカラクルム級の艦底部目指して離脱。
彼女たちが離脱した直後、カラクルム級2隻はあっという間に航空攻撃によって爆沈した。唯一ナツメグが攻撃したカラクルム級のみ轟沈を免れていたが、ダメージは大きく、その艦は砲塔があったところから艦体が真っ二つに割れ、千切れた艦首は宇宙空間に漂っていた。
デスタールがプロクシマ3攻撃を任せたカラクルム級15隻。それらが地上への爆撃のために本艦隊から離れていた隙を突かれた。
護衛の駆逐艦や巡洋艦は、デスタールが雑兵と見做した地球軍の駆逐艦やコルベット、軽巡洋艦などに攻撃を受け、カラクルム級は対空砲火に対して無防備になっていた。
そこでヤマト航空隊とレキシントン航空隊による攻撃だ。
航宙母艦「レキシントン」の航空隊は主にコスモファルコンで構成されていた。
彼らはヤマト航空隊の援護に徹し、護衛の駆逐艦や巡洋艦からの対空砲火を引きつけ、場合によってはそれらを撃沈して回っていた。
一方、アルファ・ベータの両中隊は、篠原・キーマン案を実行。
先攻する一機が艦後部の回転砲塔を攻撃して破壊、後続のもう一機が露出した基部に向けて遅延衝撃信管を撃ち込んだ。
それがちゃんと命中したかどうかがギリギリ確認できないタイミングで彼らは機体を一気に90度上昇させる。
そして、ローグ中隊とは異なり、彼らはカラクルム級の艦後部から艦尾までを敵船体に沿って離脱するコースを取った。
「鶴見!」
『はい!』
鶴見、加藤のペアはシミュレーター訓練時と異なり結局役割を交代したが、回転砲塔を破壊する鶴見の射撃の腕前は抜群だった。
お陰で加藤は遅延衝撃信管仕様の対艦ミサイルを露出した基部に撃ち込めた。
タイミングは間違っていない。鶴見、加藤、共にカラクルム級への激突は免れて船体に沿って艦尾へと抜けるコースを行く。
途中、キーマンが難所と言っていた推進部のフィンが二人には見えたが、難なくそれを通り越すと、数秒後、カラクルム級に撃ち込んだ遅延衝撃信管が起爆した。
『鶴見、よくやったぞ』
「は、はい、ありがとうございます」
『他の連中の援護に行くぞ』
「了解です!」
二人が通り過ぎたカラクルム級は盛大に爆散した。
一方、山本とキーマンのペアだが、先攻するはキーマンの黒いコスモゼロ。月面基地で試験中だったブラックバードと同じように先端が青く塗装された機体であった。
そのコスモゼロが垂直急降下で艦後部の大型回転砲塔を破壊。続いて山本のコスモタイガー1型がその回転砲塔の基部に遅延衝撃信管を撃ち込む。
二機はすぐに90°垂直上昇。カラクルム級の船体を這うように移動して艦尾を抜けて安全圏へと離脱、しばらく後に彼らが攻撃したカラクルム級は艦内爆発によって爆沈した。
「やったぞ!」
『やりましたね。さぁ、レキシントンの航空隊に合流して敵の護衛艦を叩きましょう』
「了解!」
成功を祝うかのように山本はバレルロールをしながらガトランティスの巡洋艦に機首を向けた。
「そんな、馬鹿な……!」
デスタールは目の前の光景が信じられなかった。ガトランティスからすれば戦闘機などハエに等しい存在だ。それが、航空攻撃によってカラクルム級が次々と撃沈されているのだ。
「えぇい、何をしている!弾幕を張れ! もっとしっかり狙え!!」
その矛盾した指示は再びデスタールが慌て始めたことを意味していたが、
「て、敵の砲撃が我が艦に……!!」
デスタールの機嫌を損ねまいとしていた部下が、その攻撃でコンソールから吹き飛ばされた。
「……クソッ、こうなったら……、主力の全艦に告ぐ! プロクシマ3に急速回頭! プラズマ魚雷を撃ち込みながら全速で敵のコロニーに突っ込め!!」
「て、提督、しかしそんなことをしたら……」
「五月蝿い、つべこべ言うな!」
デスタールは内心、敗北を悟った。しかし、カラクルム級をわざわざ30隻もバルゼーから借りて、しかも先程は「勝利まであと一歩」と報告したばかりだった。
それが、たった数分でこの有様だ。
このまま撤退したところで、まず自分は許されない、大失態を演じた以上はもはや殺されるに違いない。
ならば、敵を打ち倒してから果ててやると決意した。部下に対して、特にナスカに対して高圧的な態度を取っていたデスタールだが、臆病者ではなかった。
「あぁっ! 敵主力艦隊、全艦がプロクシマ3へ急速回頭しました!」
「マズイぞ、連中頭に血が上ったみたいだ」
「島、俺たちも奴らを追いかけるぞ!」
「了解、全速前進!」
「艦長、コンゴウの今井艦長から。音声だけです」
「繋げ」
『古代艦長。駆逐艦や巡洋艦は我々にお任せください。カラクルム級をお願いできますか?』
「今井艦長、お願いします。雪、残りのカラクルム級は何隻だった?」
「あと12隻」
『アルファリーダーよりヤマト』
「どうぞ?」
「プロクシマ3からちょっと離れた場所にいるカラクルム級は俺たちが何とかする」
『ミサイルは残っているのか?』
「俺たちのはほとんどない。だが、レキシントンの航空隊なら持ってる。良い機会だ、例の攻略法を彼らに教えるついでに二、三隻潰す!」
『わかった。加藤、頼んだぞ』
「了解、艦長!」
「3隻引くと」
「残りは9隻!」
「第一、第二主砲にエネルギーを集中します!」
南部は射撃管制席から第三主砲へのパワーをカットし、その分のエネルギーを第一、第二主砲に配分した。
第一主砲は右へ、第二主砲は左へそれぞれ砲身を向ける。
「ターゲットロック!」
「発射!!」
第一、第二主砲から放たれたエネルギー砲は、それぞれが異なるカラクルム級に向かい、命中。
「第二主砲を正面に向けろ!」
第一主砲は右側に砲口を向けたまま。次のカラクルム級に狙いを定めている。
第二主砲は30度右へ回頭。正面にはヤマトに追いつかれまいとエンジンを全開に吹かしているカラクルム級の推進部が見える。砲口が正面に向くと、第二射。命中。カラクルム級をまた二隻葬ったが、
「敵艦から高エネルギー反応!」
「エンジンからか?」
「いいえ、これは……」
雪が高エネルギーの出所を探している間に、カラクルム級5隻の内4隻が魚雷のようなものを撃ち出した。
「真田さん、あれは一体……?」
「分析によれば、あれは高密度のプラズマ粒子の塊だ。……!古代、これはすごいエネルギー量だぞ!」
「あれがプラネタリーシールドに命中してしまうと……?」
「近距離だったなら、シールド消滅は避けられないだろう。だが、この距離で放っても影響はないな」
「え?」
真田の言う通り。カラクルム級四隻が放ったプラズマ魚雷は大気圏に突入こそしたが、プラズマ魚雷のエネルギーはプロクシマ3の厚い大気層に入った途端、分散してしまった。
「クソッ、クソッ、クソーッ!!」
大気圏内に入り、デスタールの乗艦であるカラクルム級戦艦は火の玉のようになる。艦橋からも、艦が大気層との摩擦熱で燃え始めているのが見えていたが、同時に僚艦たちが放ったプラズマ魚雷はプロクシマ3の大気層に阻まれて地上に届かなかったことがわかる。
デスタールはナスカへの侮蔑を内心で捲し立てようとしたが、
「……バルゼー長官に繋げ」
「え……?」
「聞こえないのか、早くしろ!」
「は、はい!」
このタイミングで上官であるバルゼーを呼び出せ?
デスタールの部下たちもまさかの指示に戸惑う。
その間にもヤマトは一隻、また一隻と、僚艦のカラクルム級を破壊しているというのに。
「長官」
『通信状態が悪いぞデスタール、何があった!?』
「……長官。私は負けです」
『はぁ!?』
「地球軍にカラクルム級戦艦を航空攻撃で多数撃破されました」
『たわけ!何のために増援を寄越したと思っている!このまま逃げ帰ってきたら……』
「そのような不名誉を晒しはしません。本艦はプロクシマ3の敵コロニーに向けて全速で降下中にあります。プラズマ魚雷は近距離での効果しかありません!」
『デスタール……!』
「さらばです、長官。ガトランティスに栄光あれ!」
そうして通信を切り、プラズマ魚雷の発射準備をさせるデスタール。
ヤマトはデスタールの乗艦以外のカラクルム級を撃破していたが、
「敵艦が地上に衝突するまで残り30秒!」
「南部!」
「敵艦は射程外です!重力加速しています!」
「射程圏内に再び捉えるまでは!?」
「あと35秒!」
「クソッ、間に合わない!」
『土方よりヤマト。あとは我々に任せてくれ』
「え……?」
すると、プロクシマ3の地上にあるコロニーのすぐ近くの空に、何かがワープして現れた。
それは、
「ア、アンドロメダだ……!!」
地上でガトランティス軍と戦っていた芹沢虎鉄は驚愕し、感嘆した。
アンドロメダはコロニーのそばにワープアウトしたが、コロニーへの衝突コースに乗ったカラクルム級の進路からは脇に逸れていた。
大気圏内に無理矢理突入し、その前から船殻にヒビが入っていたデスタールの乗艦。アンドロメダはデスタールの乗艦に対して側面を向け、よく狙って、
「撃て!」
その号令とともに、アンドロメダの51cm三連装主砲4基が一斉に火を噴いた。
それらはデスタールの乗艦を貫き、彼諸共、プロクシマ3の上空で爆散した。
カラクルム級の艦体はガラスのように粉々になり、その内の一番巨大なものがプラネタリーシールドが健在なコロニーに落下するが、コロニーはビクともしなかった。
カラクルム級の消散を見た地上の者たちは、ガトランティス兵も、そのガトランティス兵と戦っていた芹沢率いるレジスタンスたちも茫然としていた。
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こうして、プロクシマ3の戦いは終わりを告げた。
カラクルム級と指揮官を失ったガトランティス軍の艦隊は敗走せざるを得ず、地上に取り残されたガトランティス兵たちは降伏するか、自決を余儀なくされた。
「……土方竜か」
「芹沢元局長」
土方はコロニーの総督に会うために降下していたが、その総督は最初の攻撃で亡くなり、その代わりにレジスタンスを率いた副市長という人物を探していた。
その副市長というのが、芹沢虎鉄その人であった。
片や波動砲艦隊構想に異を唱えイスカンダル条約の保全に尽力した土方と、片やそんな条約などただの口約束として締結も保全も認めず結果更迭されてここへ送り込まれてきた芹沢。
条約を守る立場にいるはずの土方が拡散波動砲搭載の新鋭艦アンドロメダの艦長になり、条約を破ろうとした芹沢を結果的には救った。何とも互いに皮肉が重なっていた。
「……遅いぞ」
「すまん。これでも急いだんだが」
「ふん。……わしなんぞを助けたくなかったからだろう?」
「そうじゃない。本当に大変だったんだからな」
芹沢としてはアンドロメダが中々救援に来なかったことにもっと文句を言いたかったのだが、先程のカラクルム級の爆散を目撃した後だ。精も根も尽き果てたような疲れ切った顔をしていた。
すると、大気圏にもう数隻宇宙艦が降下してきた。
「……ヤマトか」
その内の一隻を見て、芹沢は忘れていた何かを思い出すように呟くように言った。
他の数隻は揚陸艦であり、空間騎兵隊の他、医療部隊や衛生兵が大勢乗っており、彼らは揚陸艇代わりのコスモシーガルとコスモハウンドでプロクシマ3に降り立っていた。
そして、ヤマトの第三艦橋からも空間騎兵隊が降下してきた。
「芹沢元局長?」
「君は?」
「地球連邦軍空間騎兵隊第11連隊隊長、斎藤始。准尉であります」
「第11連隊……アルファ・ケンタウリ11の所属ではないか。何故ここに?」
「そのアルファ・ケンタウリ11もガトランティスに襲われたんで」
「そうか……だから遅れたのか……」
「ここからのメッセージは届いたんだが……」
「土方。事情は後でたっぷり聞かせてもらう。……それよりもコロニーの人たちを頼む……」
芹沢は近くにあった折りたたみ式の椅子に深く腰掛けたまま、目を閉じた。
呼吸はしている。
「……よほどお疲れだったみたいだな」
「副市長! あぁ、こんな所で寝ちゃうなんて……」
「君は?」
「わ、私はマリンネ・ケスラ、です……」
芹沢を探して呼びに来たのは、ガミラス製のライフル銃を背中に背負ったガミラス人の女性。私服の上から地球製の防弾ベストを着て、空間騎兵隊が使うようなフェイスヘルメットを被っていた。
「その格好、もしかして……」
「えぇ。副市長のお陰で私たちは助かったんです。突然攻めてきた敵に対してこの人のゲリラ戦で何とか持ち堪えられました。でも……」
ケスラが見つめた先には、プラネタリーシールドを何らかの方法で消失させられ、軌道上からの爆撃で破壊されたコロニーがあった。
「……あそこには10000人が住んでいました」
「ガトランティスめ……」
斎藤は焼け焦げたコロニーを見てガトランティスへの怒りを滲ませた。
「一体あなたたちは何をしていたんですか?」
しかし、ケスラは土方と斎藤を責めるかのように問いかけてきた。
「俺たちだってなぁ……!」
「待て斎藤」
「し、しかしよぉ……」
斎藤を制止した土方は、
「……救援が遅れて申し訳なかった」
「申し訳なかった? 謝れば済むとでも!?」
「思っていない。だから、殴りたければ殴れ。それで君の気が済むのなら」
「……」
怒りと悲しみを抱き、拳に力が入っていたケスラだったが、被っていた帽子を取った土方にそこまで言われると、握り拳を解くしかなかった。
そのまま力が抜けてしまったのか地面にへたり込み、気が付けば彼女は泣いていた。
そんな彼女に二人は掛ける言葉が見当たらなかった……。
プロクシマ3で地球軍が勝利したのと同じ頃。
天の川銀河系の外縁部から約5万光年の空間。天の川銀河系へとひた走る白色彗星帝国では。
「……!」
「ガイレーン。シファルの容体は?」
「医師の話では、肉体に大事はない様でございます。ですが、脳波に微かな乱れが」
「脳波の乱れだと? 原因は?」
「現段階では、定かでは……」
「原因を特定できぬとは……使えぬ医師だ」
「ミルヴァール。医師とて最善を尽くしているのだ。今は原因を特定できずとも、後にでも明確な診断が出よう」
カーテンの外からは三人の男性の声が聞こえたので、
「あの……大帝陛下?それに……お父様に、ミルヴァール様……?」
声の主は
カーテンがバサッと開けられて、心配そうな面持ちの男性が三人。
「気が付いたか……シファル、私がわかるか!?」
「ミルヴァール様?……妾は……」
「礼拝の最中に突如倒れて意識を失っておった。半日は寝ておったぞ」
「半日も!? た、大帝陛下……申し訳ございません、妾自身にも何が起きたのか……」
「いや、仕方あるまい。其方は丞相としての責務に加え、司祭官として礼拝を取り仕切らねばならず、特にここ最近は体を休める暇が無かった故の疲労かもしれんな……何にせよ、今は体を労るべきかと」
そうガイレーンがズォーダーにシファルの療養休暇の許可を申し出ると、
「そうだな、無理はさせられん。丞相の業務は一週間休むといい。ワシが許可しよう」
ズォーダーはあっさりと療養に許可を出した。シファルは戸惑った。
「で、でも、司祭官の役目は……?」
「そちらはラーゼラーに一時代行させている。リセルはデスラーの監視役として出払っている以上、少しの間、丞相にはガイレーンが代理として兼任する。それで良いな?ガイレーン」
「はっ!陛下、この老体。どこまでやれるかわかりませぬが、やってみせましょう」
「そう老け込むな。わしとそう歳は変わらんだろうに」
「……ははは、そうでしたな」
ズォーダーのユーモアに対して、一瞬笑みを浮かべるガイレーン。
「そうであるな。当面はガイレーンに任せて、シファルは体を休めておると良い。じきに良くなろう」
「大帝陛下、ミルヴァール様、お力になれず申し訳ございません。叔父上も。少しの間、体を癒すお時間をいただきます」
「うむ。時には休息も必要だ。くれぐれも無理はするでないぞ。其方は大事な息子の花嫁なのだからな……」
「花嫁……?あの、どういうことですか?」
シファル自身の記憶を探っても
「父上、どういうことですか?」
同じく疑問符を浮かべたのはミルヴァールだった。
すると、ガイレーンとズォーダーは一瞬顔を見合わせて頷いてから、ズォーダーが言った。
「……実はな、わしらで相談したのだが、其方たちを婚姻させようと思う」
「婚姻……ですか?」
「シファルよ、何を驚く必要がある? ガトランティスでは伝統であろう?」
「い、いえ、まさか妾めがミルヴァール様と結ばれるとは思っていなかったもので……」
「何を言うか。其方たちは幼い頃からの付き合いであろう? 婚姻関係になるのも今更というものだ。それとも何か、ミルヴァールに不満か?」
「い、いえ、滅相もない、しかし、妾の前に姉の嫁ぎ先はどういたしますか?」
「あぁ、リセルの心配ならば無用じゃよ。あやつはメーゼライテオに嫁がせるつもりでな」
「そうなると姉妹の嫁ぎ先が両方ともズォーダー家に固まってしまうのでは……?」
「それだがな。バランタヌクス家は滅びて久しい。……我らの聖戦が終わりし時、メーゼライテオか、もしくはミルヴァール、どちらかに母なる大銀河系の統治を統治するズォーダー家か、エンジェンティアを中心とした我らが向かう新天地の統治をバランタヌクス家として任せるつもりなのだ」
「父上……!?」
「いざという時に王家の血筋を残さねばならん。婚姻を結び、リセルとメーゼライテオが戻り次第仔細を詰めようぞ。そして、聖戦が終わり次第、ガトランティス帝国は二大銀河統治時代が始まる事を心せよ。その際にミルヴァールとシファルよ、其方らは互いを夫婦として支えよ。そして、メーゼライテオとリセルの夫婦と共にこの帝国の将来を支えるのだ。良いな?」
「父上……わかり申した。このミルヴァール・ズォーダー、その意思を必ずや成就させましょう。そして、我が妻は……其方だシファル」
「……大帝陛下。このような妾めをミルヴァール様の正妻に選んでいただき恐悦至極でございます。謹んでその任、お引き受けいたします」
「その心意気、忘れるでないぞ。……あとは若い二人に任せるとするか。ミルヴァール、シファルのことは任せたぞ?」
「御意……」
そうしてズォーダーとガイレーンは部屋を出ていくと、ミルヴァールの緊張が緩んだ。
「……ふぅ。父上が居ると、何かと堅苦しいものだな」
「そうですね……」
「……シファル。其方、余との婚姻に前向きではないのだな?」
「そんな滅相も……」
「とぼけるな。余よりも兄上のが其方は良いのであろう?」
そう問い詰められてシファルはついに白状した。
「……どちらかと言えば」
「こやつめ……」
ミルヴァールは怒るでもなく呆れたようにそう言った。
すると、シファルはこんなことを言った。
「でも……」
「何だ?」
「……今更、妾には叶わぬ夢というものです」
「叶わぬ夢? メーゼライテオ兄上を其方は好いておるのだろう?」
「メーゼライテオ様?いいえ、あの人の事など妾の眼中にはありませぬ」
「ということは……兄上は兄上でも、其方が狙っておったのは、マトシュヴァク兄上のほうなのか」
そう問われてシファルは頷いた。
「全く……其方らしいといえばらしいよの」
「好きにおっしゃってくださいませ」
今のシファルから感じ取れるのは、それは失望のようなもの。
その感情は透子も昔経験した。人とはそのような感情を体験した出来事を忘れたくても忘れられないもの。
……そんな時に突然、シファルの中で
啀み合う男女、女を平手打ちした男、自分を抱きしめてくれた女……そして次の日には、
悲しみ、怒り、失望……暗くて寒く暗雲立ち込める感情がシファルに逆流したようだった。
「シファル!?」
シファルはその記憶と感情の濁流で頭が割れそうなほど痛くなった。
ミルヴァールが心配そうな面持ちでベット上で倒れ掛かったシファルの体を支えた。
「医者を呼ぶ……」
「待って……!」
ミルヴァールが医者を呼ぶ為に部屋を出ようとしたが、シファルはそんな彼の背中に付いてるマントを硬く握りしめて離そうとしなかった。
「シファル……!?」
「ミルヴァール様……どうか、今宵は妾のそばにいてくだされ……」
ミルヴァールがその時に見たシファルの顔は、先ほど一瞬ながらも見せた悪い笑顔を浮かべていたものと同一人物とは思えない程に、弱々しく、目には涙を浮かべ、庇護欲のような何かを擽るような表情をしていた。
その表情を見たミルヴァールには、形容し難い衝撃が走った。
「……
「え……?」
「その……其方らしくない。そんなに弱った其方の顔を見るのは余にとっては初めてのことであるぞ?」
「い、いえ、そ、そんな……」
ミルヴァールはシファルと互いの指を絡めるかのように手を握った。
そして、気付けば接吻をしていた……
「……シファル・サーベラー。我が妻よ。其方が余をどう思っているかは知った。だが、もうそれはどうでも良い。それよりも今はこの気持ちを抑えられなんだ……」
そう言われてから漸く
ミルヴァールはマントを脱ぎ捨てるが、そんな時にシファルがミルヴァールの胸板辺りに耳を押し当てて、こう言った。
「ミルヴァール様の心臓……鼓動がかなり早いです……」
次にシファルはミルヴァールの右手を取り、それを自分の胸に当てさせた。
ミルヴァールの手には膨よかな感触が伝わると同時に……。
「其方もか」
「えぇ……」
互いに心臓の鼓動が忙しない早さで脈打ってるのが理解できた。
ミルヴァールはシファルの手を取り、二人は互いに見つめ合った。
……
それと同時に、心臓の鼓動は一層激しく脈打っているように聞こえる。
そして二人は……。
これにて、プロクシマ3の戦いは終幕。
2202の本編でまず思ったのは、「何で芹沢が更迭されてないんだよ!?」と。
某所のグループで同じことを思った人がいたので、プロクシマ3という農業開拓星に飛ばしました。
その結果、かなり悲惨な目に遭ってますが、芹沢がゲリラを率いるのは、何故か製作側に無視されがちなPS版「宇宙戦艦ヤマト 暗黒星団帝国の逆襲」、及び「宇宙戦艦ヤマト 二重銀河の崩壊」へのオマージュです。
他にもPS版宇宙戦艦ヤマトからのオマージュを散りばめておりますので、ふと見つけたらニヤリとしていただければ幸いです。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
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短い
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普通
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長すぎぃ……