宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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第13話「暗躍する者たち・その2」

 ヤマトはアゼルメニアに進路を取り、深宇宙を艦隊やタンカー船と共に進んでいた。

 時間は夜10時を指そうとしている、自動航法室。

 ヤマトがイスカンダルへ向かう際、ここに昏睡状態のままであったユリーシャ・イスカンダルを冬眠カプセルに寝かせたまま、その記憶を読み取ることでイスカンダルへの航路を算出するという荒技を用いた。

 この部屋の上部にはアンテナ状の突起があり、ネオ・ゼムリアでの改造と改良の結果、まず本来のナビゲーション機能が強化された。

 今、冬眠カプセルは撤去されており、代わりに壁沿いに「スペース(Space)マッピング(Mapping)ガイダンス(Guideance)ナビゲーションシステム(Navigation system)(略してSMGN)」という装置が追加されている。

 これにはヤマトがイスカンダルへの航海の過程で収集・探査した際に作成された宇宙地図、及びガミラスから齎された宇宙地図など複数の空間認識用のデータがインプットされており、複数の星間海図を照合することで目的地への安全かつ最短の航路を割り出せるという優れものである。必要な場合はヤマトの中央コアのコンピューターやライブラリコンピューターにもアクセスが可能である。

 それ以外にも様々な機能が追加された。

 例えば、第三艦橋に置かれている波動防壁の制御装置だが、その予備機能が、ユリーシャが元々寝かされていたスペースを使って設置された。万が一、第三艦橋が喪失した場合に備えたものだった。

 だが、追加された機能は、実はそれだけに限らない。

 また冬眠カプセルを撤去したことで波動砲制御室への行き来はやり易くなり、いかにも冬眠室という感じの暗く寂しい雰囲気は照明を追加して部屋全体に温かみを与えることでかなり様変わりした。

 尤も、普段は無人でその扉は固く閉ざされているため、照明も落とされているのだが……しかし、今日は違う。

 自動航法室はまるでロフトに続くような格納式の階段を登った先にある。

 誰にも見られていないことを確認し、工具や機材を片手に三田姉妹はその階段を登り、二人が部屋に入ると、階段は格納された。

 それから冬子と夏海は背中合わせになりながらそれぞれ持ってきた機材やデータパッドを手早くSMGNに接続し、タッチパネルの上で指を走らせるようにパッドを操作しつつ、冬子が少々呆れ顔で夏海に尋ねる。会話をしながらも二人とも手を止めてない。

 

「……ねぇ夏海、これって意味あるの?」

「え?何で?」

「いや、だって、一応ナビゲーションシステムのチェック許可貰ってるじゃないの。ならこんなコソコソする必要ある?」

「姉さん、今「一応」って言ったでしょ? 私たち、これから「悪いこと」するんだもん。でしょ?」

「言われてみればそうだけど……」

「それに、まるで抜き足差し足忍び足をしてるみたいで興奮しない?」

「……ごめん、よくわからない」

 

 冬子がパッドのタッチパネルを操作すると、SMGNの稼働状態や艦内での中央コアとの接続履歴を調べつつ、特別なシステム診断用プログラムを起動した。

 

「……よし。双方向受信システム起動。診断完了まで30分。夏海、そっちは出来た?」

「待っててね〜……」

 

 夏海は指を凄まじいスピードで動かしてプログラム構文のような文章の羅列を打ち込んでいった。

 

「盗聴防止用スクランブルプログラム:オン。あとは位相差と時空差を調整っと……」

 

 夏海が持ってたパッドの画面にはプログラム構文がびっしりと書き込まれたページがあったが、それを脇に追いやると、テレビノイズが入ったままの画面の方をどんどん大きくする。

 すると、「ピロリンッ」という音がした。

 

「できたよ、姉さん。こちらヤマト、こちらヤマト。《イズモ》へ、聞こえますか?」

『こちら《イズモ》、こちら《イズモ》。聞こえています』

 

 呼びかけとほぼ同時にテレビノイズは解消された。

 その通信先では、保安班のグレーの女性用制服に身を包んだ人物が通信に応じた。

 

『あ、夏海姉さん……ということは冬子姉さんもいるの?』

「久しぶり、春名。元気にしてた?」

『あ、うん。でも通信してきたってことは……()()だよね?』

「そう。()()のため。お母様に繋いでくれる?」

『ちょっと待ってね……』

 

 春名がそう言うと、一瞬で画面が切り替わった。

 画面の先では、技術科の女性用制服に身を包み、その上から白衣を着込んでいる人物が一見すると暢気に紅茶を啜っており、他には先ほどの春名と同じ制服を着ていてその上から白衣を羽織ってる女性と、同じく白衣を羽織っているものの、豊満な胸のお陰か夏海が着ているのと同じ衛生科のピンク色の制服が隙間から目立って見えてる女性の姿が。

 三人は円形のテーブルを囲ってティータイムと洒落込んでいたようであった。

 

【お姉さま、冬子姉さんたちからの連絡です】

『ん、おっと?』

 

 春名からの連絡で三人の視線が一気に向こうのモニターに写っているであろう冬子と夏海に向く。

 三人の内二人は紅茶をテーブルの上に置いてから寄ってきたが、技術科の制服を着た女性だけは手に紅茶の入ったカップを持ったまま冬子と夏海のところへ駆け寄ってきた。

 

「お母様」

『やぁやぁ。連絡ご苦労さま、冬子、夏海。予定よりも遅れてるね? それとも私が時間の計算を間違えてるだけかな?』

「いえ、お母様の言う通りです。連絡遅れてごめんなさい」

『いやいいよ、事情は何となく察しがつく。ガトランティスがプロクシマ3とアルファ・ケンタウリ11を攻撃したっていうニュースはとっくに伝わってるからね』

 

 冬子と夏海が話している相手こそ、冬子が「お母様」と呼んでいる上田幸代。

 彼女は南極に作られた特別管区「ネオ・ゼムリア」の総督であり、地球連邦防衛軍技術大佐である。

 なお今、上田たちがいるのはネオ・ゼムリアのセントラルタワー某所の部屋。

 

「現在、ヤマトはプロクシマ3からアゼルメニアに向けて移動しています、四日後にはアゼルメニア宙域外縁部に到着予定です」

『やはり速いね、プロクシマ3からアゼルメニアまでは5万光年もあるのに。改良に携わったナルくんと多摩ちゃんや紗奈くんが聞いたらきっと喜びそうだよ、フフフッ』

 

 その名前が出てきて、衛生科の制服を着た金髪美女が少し顔をムッとさせる。

 

『それにしてもアゼルメニアか……私も行ってみたかったよ』

 

 どこか遠くに視線を向ける上田。

 

「そのための私たちでしょ?お姉さま」

『……フフフッ、そうだったね。土産話はテレザートまでの道中で聞かせて欲しいね』

『ところで……先生、いいですか?』

『ん?下野くん何かな?』

『冬子、夏海。セントーリとプロクシマがガトランティスの攻撃を受け、その際にガトランティス人を捕虜にしたと聞きましたが、本当ですか?』

「さすが下野ママ、耳が早い」

「待って、夏海。……下野先生、何故そのようなことをお聞きになりたいのですか?」

 

 その反応に上田と下野と先程の金髪美女は顔を見合わせながら一瞬微笑んだ。それから下野は言った。

 

『それはその……あなたたちも知っているでしょう?私の……素性を』

「下野先生は……」

『ストップ。冬子。盗聴防止装置はスイッチ入ってる?』

「え、えぇ、お母様」

『そう?ならいいんだ。それに下野くん、そんな顔は君に似合わないよ?』

 

 そう言いながら、上田は下野を抱き寄せた。

 

『きゃ……せ、先生……』

 

 それを見ていた金髪美女が頬を膨らませ、ついに不満を爆発させたようだった。

 

『むー!英子ちゃんばっかりずーるーい!!』

『中村くん? 私がフェミニストなのは言うに及ばずだよね? それ故に私は同情したいのだよ。下野くんの境遇に。現生ゼムリア人はガトランティス帝国において最も冷遇された存在だから。……冬子も夏海も、私が教えたことは覚えているね?』

 

 そう言われて冬子と夏海は頷く。

 

『では何故冷遇されているか、簡単に説明できるね?』

「は、はい。元々の古代ゼムリア人はガトランティス人やその祖先と激しく対立を繰り返していた種族だったから、ガトランティスが彼らを隷属させた後の迫害も酷かった、であってるよね?」

「それに加えて、元々ピンク色の肌をしていた古代ゼムリア人を今のような現生ゼムリア人に改造したのもガトランティス。今のガトランティスにおける現生ゼムリア人は基本的に女性しか存在せず、その大半が一生を奴隷や娼婦として終える……と」

『素晴らしい。ちゃんと覚えていたね? 当然ではあるけど、それでも嬉しいものだよ』

 

 上田にそう褒められ、冬子と夏海の頬は赤みが増し、照れていた。

 

『そう、そのような過去があった故に、ガトランティスにおける捕虜は奴隷も同然の扱いを受ける。地球ではそのようなことは無いと何度か下野くんにも話しているんだが……やはり育った環境や文化の影響というのは簡単には拭い去れないものだから厄介だね。で、結局ガトランティスの捕虜はどうしたんだい?』

「それなんですけど……」

「あー……大半の生き残りはプロクシマ3で強制労働の刑。破壊したコロニーの残骸やら何やらを片付けろという感じで」

『あちゃー……話に聞いていたけどそれはマズイな……』

「で、でも、あいつら、プロクシマ3の人たちを殺してたんだから! その後片付けぐらいさせるのは奴隷とは違うと思うんだけど!?」

「それと、この二人だけヤマトにそのまま乗せてくようにと土方提督からの指示で……」

 

 そう言って顔写真の画像ファイル二つを上田たちの元に飛ばす冬子。

 それを見た下野は顔に驚愕を浮かべた。

 

『え、まさか……メーゼライテオ殿下……!?』

「え?どういうこと?」

「下野先生が今見てた写真の男はメーザー・バランって名乗ってた雷撃機パイロットだったけど?」

『いいえ、この人……いえ、このお方は間違いないです、メーゼライテオ殿下です。私と妹を拾って下さった……メーゼライテオ・ズォーダー殿下です。ガトランティス帝国第二皇子であらせられるあの方です……!夏海、冬子、殿下は!? 殿下はご無事ですか!? まさか奴隷としてこき使うようなことがあれば……!』

『ちょ、落ち着きなよ英子ちゃん』

『落ち着いていられません! 中村さん、これの重大性にまさか気付いていないとでも!?』

『下野くん、中村くんの言う通りだよ、一旦落ち着こうね。冬子、夏海、それでこの二人は今どうしてる?』

「えぇーと……船医の佐渡先生の監督下に置かれてますね」

『もしかして佐渡酒造先生かな?』

「そうですが。お母様何か?」

『あぁ、いや何でもない。今は話すことでもないからね。あの人のところに二人が預けられたならまぁ心配は無さそうか』

「一時期は大変でした。食事を与えようとしても悉く拒否されて。このままでは衰弱死しかねないって、新見さんも頭を抱えていたんですから」

『新見くんがねぇ、その姿を考えるだけで……うーん!興奮するねぇ!』

『もー先生ったら! 私がいるのに他の女のことに目移りするなんて!』

『あー、ごめん、ごめんよ! でも中村くん、これは大変なことになったねぇ』

『そりゃ大変ですよ、先生は移り気なんですから』

『じゃなくて……真面目な話だよ』

 

 上田の声が先程の陽気で明るいものから、途端にトーンが低くなり、軽薄さが全て切り捨てられたかのような雰囲気を纏っていた。

 次に上田は下野に質問した。

 

『下野くん。メーゼライテオ・ズォーダーは第二皇子とか言ってたね。では、第一皇子は?』

『マトシュヴァク殿下でした。しかし、数年前にガミラスとの戦いで名誉の戦死を遂げられたため、メーゼライテオ殿下が現状では帝位継承権第一位という状態です』

『え、あっ、つ、つまり、今ヤマトには将来的にガトランティスの王様になる人が乗ってることに!?』

『だからそう言ってるだろう? だが、妙だ。なら何故そんな彼が前線にいた?』

『それが……メーゼライテオ殿下は、自らの帝位継承権を弟であるミルヴァール殿下にお譲りする腹積もりだったとか……しかし、お父上である大帝様がそれを許さず、結局メーゼライテオ殿下は今でも帝位継承権第一位の座にいることになります』

「でもそのメーゼライテオはヤマトの捕虜になってる」

『ふっふっふ……面白くなってきたかもね』

『先生?……全然面白くないですよ。今頃帝都は大混乱でしょうし、帝位継承権を握ったミルヴァール殿下は野心を巡らせているに違いありません』

「どういう人なの?」

「こら、夏海」

『いいんだよ冬子。私も聞きたいところだよ。……私の可愛い助手をこんなに怯えさせる不埒者ならば尚更……ね』

 

 上田の目は笑っていなかった。

 自分以外に色目を使うと嫉妬を剥き出しにする中村ですら、それどころではない。

 冬子も夏海も知っている。

 これは上田幸代が本気で怒っていることを……。

 

『ミルヴァール殿下は……優秀で機転の利く方ですが、支配欲が強く、選民志向で、私のような奴隷(現生ゼムリア人)を玩具のように吐け口として扱ってすぐに壊すような、無慈悲で残忍で、望むものは何でも手に入れようとする方……です』

『もういい、もういいよ……ごめんよ下野くん、辛いことを思い出させてしまったみたいだ……』

 

 ミルヴァールの素性を語る内に下野は怯えた様子で恐怖、怒り、悲しみ、様々な辛い感情が顔に出て、終いには涙が流れた。その様子に思わず中村が下野を抱き寄せ、そんな二人を包み込むかのように上田が優しい言葉を投げ掛けながら深く抱擁した。

 

『だから……』

 

 下野は啜り泣きながらも、冬子と夏海に向けてこう言った。

 

『冬子、夏海……これからの旅には必ずミルヴァール殿下の横槍が入るはず。何を仕掛けてくるかはわからないから気を付けて……』

『……私たちも情報収集を続けるが、警告より君たちがそれに遭遇する可能性のほうが高いかもしれない……冬子、夏海。アゼルメニアに到着したらまた連絡を』

「……了解」

「了解!」

 

 冬子は通信を切った。

 

 メンテナンスが終わり、夏海と冬子が自動航法室から下の通路へ伸びた格納式階段を降りると、

 

「あら?あなたたちは確か……」

 

 階段を降りた先で二人は保安部の和田真紀子と遭遇した。

 

「あ、あぁ、えっと、保安部の和田さん?だよね?」

「確かあなたたちは三田夏海さんと、三田冬子さん、で合ってるかしら?」

「そうでーす」

「自動航法室のメンテナンスは終わりました」

 

 表面上は元気よく返事する夏海と、ストイックに業務終了を告げる冬子。その姿はまるで正反対だった。

 

「そう……あぁ、そういえばそうだったわね、確か……SMGN?」

「違う……あ、いや合ってますね。そうそれ。それのメンテナンス、さっき終わりましたから帰りますね」

「予定は聞いてるわよ。お疲れ様」

「お疲れ様でしたー。さぁ、姉さん」

「う、うん」

 

 夏海に手を引っ張られる形で冬子もその場を後にする。

 和田は一瞬自動航法室へ続く、既に格納された階段に目をやるが、特に目につくものも無いので廊下を回れ右して巡回に戻っていった。

 手を引かれる形で主幹ターボリフトに辿り着く冬子に、夏海はドアが閉まるとこうボヤいた。

 

「……全く姉さんの人見知りは相変わらずだね」

「仕方ないでしょ……私、人付き合いの方法なんて習ったことないもん」

「はいはい」

 

 少々呆れつつ、夏海は上の階へのボタンを押した。

 


 

 同じ頃。

 

『えー、YRA。MCは私、岬 百合亜がお送りいたしました。では皆様、おやすみなさい』

 

 ヤマトでは、百合亜がMCを務める艦内ラジオ放送がちょうど放送を終えた時間。

 

「なるほど、そんなことが……」

 

 気が付けば時計は夜の11時を指していた。宇宙には昼と夜の概念はないが、このヤマトの艦内では地球の世界標準時が使用されている。

 美沙はヤマトの病棟で透子が見たという夢の話を聞いていた。

 何かの役に立つかもしれないとUSBメモリーみたいな記録装置付きの音声レコーダーで、透子は忘れないうちに自分が見た奇妙な夢を語って記録することにした。

 その間に何枚もの人物スケッチを仕上げてきたが、ヤマトクルーたちが知っている人物はその中で一人を除くと見覚えのない相手ばかりだった。

 何人かはガトランティス人らしかったが、その中でも威厳溢れる壮年の男性のイラストを透子は指差して、

 

「彼が、ガトランティス帝国大帝ズォーダー五世」

「ということは、彼が……」

「えぇ。ガトランティスのリーダーというべき存在、だと思う」

 

 突然にヤマトクルーたちは敵のリーダーの顔を知ってしまった。ただし、それが本当かどうかはまだ定かではなかった。

 

「ガトランティスがアゼルメニア宙域にカラクルム級を送り込んだと話していたのは彼ら」

 

 透子は2枚の人物絵を指差して言った。紙にはそれぞれ、「ミルヴァール・ズォーダー」と「ティエラン・バルゼー」の名が。これが彼らの名前だろうか。

 

 

 

「……ということがありました」

「なるほど……それは確かに、単なる夢で片付けられない話ではあるが……」

 

 一夜明けて早朝。美沙は昨日の透子が話した出来事を艦長室で、真田と古代、さらに新見と、脳波の解析に携わった夏海も呼んで相談する。もちろん、守秘義務に反しないために透子の許可を得ている。

 さらに、透子が描いた人物スケッチのコピーもある。

 

「アゼルメニア宙域にガトランティスがカラクルム級千隻の艦隊を送り込んできたことや、ガミラスの属国での戦いに、ムスタラービア、ミルヴァール・ズォーダーに、大帝ズォーダー五世……」

「うーん……内容があまりにも鮮明すぎる。夏海さん、昏睡状態だった桂木さんの脳波を調べていたのは君だったね?何か変わったことは?」

「ふあ〜ぁ……あ、すみません、こんな時間に叩き起こされたものでして……」

 

 一応古代は上官である。しかし、そんな彼にも物怖じせず、あくびの原因について嫌味を漏らす夏海。だが、問われたことを思い出すと赤面し、同時に美沙もあの時のことを思い出して途端に恥ずかしくなった。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、ごめんなさい。あの艦長、代わりに私が答えます!」

 

 美沙が慌てて割って入ってそんなことを言った。何事かと思ったが、程なくして美沙、深呼吸して気持ちを落ち着けてから答えた。

 

「……医者の守秘義務に反することではありますが」

 

 そう前置きした上で、

 

「昏睡状態になった彼女の脳波をモニターしていましたが……時折θ波が出ていたことが気になりましたね」

「θ波?」

「脳が損傷した場合や意識障害を起こした時に出てくると言われている脳波だよ」

 

 そして同じく落ち着きを取り戻した夏海が発言した。

 

「……厳密には、視床網様体と脳幹網様体、そのどちらかがダメになるか両方ダメになるかで起きる症状。稀に……興奮を感じると女性の脳波だとそれが……」

「え?何だって?」

 

 「稀に」から先が古代ら事情を知らない面々からは尻すぼみになって聞き取れなかった。

 

「と、とにかく!昏睡状態に陥ってから意識を回復するまで脳の活動はモニターしていましたが、そういった脳の損傷は全くありませんでした!」

 

 美沙が慌ててフォローし、その場では難を逃れることができた。その様子を見ていた新見は古代からの質問が本人の意図したことではないとはいえ、ジト目を向けた。

 古代は構わず報告書のないようを思い出しながら言った。

 

「……そういえば、星名くんの目撃証言では、桂木女史は、アルファ・ケンタウリ11の遺跡にあった女神像に触れた途端意識を失ったと言っていたな」

「アナライザーも同じことを。……ひょっとすると……」

「真田さん?何かわかりました?」

「……まだ仮説の域を出ないが、桂木女史は超古代文明の通信装置の一種に触れてしまったのではないか?」

「通信装置?」

「もっといえばテレパシー装置と言えるかもしれない」

「そんなオカルトな……」

「古代。君も経験しただろう?イスカンダルへの旅路の途中で。ジレル人の精神攻撃を受けた時に」

「……あれと同じようなことが?」

「ケースとしては似ているだろう。憶測の域は出ないが……確かめる方法ならある」

「……この人物のスケッチはガトランティスの二人に聞いてみましょう」

「もし桂木さんの言っていたことが本当ならば」

「あぁ。生きていたんだな。……ガミラスのデスラーが」

 

 死んだはずの宿敵。それはヤマトのクルーたちが知らない所で息を吹き返し、復讐の機会を伺っていた……。

 

「真田さん。もし桂木さんの言ってたことが事実なら」

「そうだな。ミスター・キーマン経由でムスタラービアについて大使に確認してもらおう。……あと、ズォーダー五世についてだが、本当に実在する人物かどうか知る方法があったな」

「……そういえば」

「あの2人は今どこに?」

 


 

 ヤマトの医務室の隣は備品室兼当直医の仮眠室。そこから激しい曲調のクラシック音楽が流れていた。

 ショスタコーヴィチの交響曲第5番である。

 その音楽を聴きながら、メーザーは腕立て伏せをしていたが、一方、ナスカはうんざりした様子で言った。

 

「おいメーザー。もう少し音量を下げてくれないか?」

「これでかなり下げてる」

 

 ナスカは佐渡から借りた本を読み込んでいる最中だったのだが、メーザーが流している音楽に集中が途切れがちだった。

 そこへ、佐渡と共に劉香織がやってきた。

 すると、ナスカは苦言を呈するように言った。

 

「……サド先生」

「快適に過ごしておるようで安心したよ」

「快適だって? 先生、監視の目が多少厳しくなってもいいからこいつと別室にしてくれないか? 雑音が入って集中出来ない」

「雑音ですって? 失礼しちゃうわ。私の好きなクラシック曲を貸してあげたのに」

 

 香織が少し膨れっ面になるが、

 

「そもそも君だろう、メーザーにこのシエスタなんとかというのを勧めたのは……」

「ショスタコーヴィチよ。クラシックはお気に召さない?」

「さっきの曲が良かった。これは激しすぎる」

 

 データディスクのジャケットには曲目が書いてある。それをナスカが呆れ気味に香織に手渡すと、スメタナの「我が祖国」の次が、何とショスタコーヴィチの交響曲第5番であった。

 間を開けずに古代と真田が仮眠室にやって来た。

 

「コダイ艦長……本を借りて俺だけ営倉へ逆戻りなら少し嬉しいんだが」

 

 二人がやってくるとメーザーも腕立て伏せをやめて慌てて立ち上がった。

 すると古代は、

 

「何か問題でも?」

「あぁ、そもそもはわしが言い出したことなんじゃよ。二人は地球の文化を知りたいと言い出したんでな……」

「お陰で色々なことを学べて感謝しているが、この音楽のせいで落ち着けない」

「それならついでだ。場所を変えよう。メーザー、君にも見せたいものがある」

 

 そう言われると、音楽を一旦止めざるを得ない。

 

 二人が案内されたのは、これまで訪れたことがなかった応接室。

 中で待っていたのは星名と、

 

「ガミラス人……? 何で地球の船に?」

 

 二人が驚いたのは無理もなかった。

 

「俺の名前はクラウス。クラウス・キーマンだ。ガミラス帝国地球宙域外交団月大使館所属大使補佐官」

「……お偉い肩書きなのはよーくわかった。つまり、お前はガミラスが寄越した監視者なんだな? その壁の目をやってる奴が私たちに一体何の用だ?」

 

 ナスカは明らかに嫌悪感を剥き出しにしていた。だが、メーザーは、

 

「……おいナスカ。こいつ、誰かに似てないか?」

 

「はぁ?私にガミラスに知り合いなどいないぞ」

「いや、一人いるだろ」

 

 そう言われて、ナスカはあの男を即座に思い出した。

 

「……あぁ、そうだ。ガミラスのデスラーか」

「デスラー? アベルト・デスラーのことだな?」

 

 やや食い込み気味に古代が尋ねると、

 「知っているのか?」とメーザー。

 「そっちこそ」と古代も返す。

 だが、ナスカは、「……別に彼とこいつは言うほど似てないだろう」と、キーマンがデスラーに似ているというメーザーの主張を否定して一蹴した。

 すると真田が、透子の書いたスケッチのコピーを彼らに見せた。

 

「これは……?」

「……とある絵の上手い友人が描いた人相描きだ」

「デスラーだ……間違いない」

「あぁ……」

「……どうして彼と会った事があるんだ?」

 

 古代は先ほどの会話や二人の態度からして、二人は実際にアベルト・デスラーに会った事があると悟った。ナスカは態度を軟化させ、「……別に秘密にする必要もないか」と呟いた。

 

 その二人の話を聞いて、古代とキーマンは驚きを隠せなかった。

 

「そんなことが……」

「やはり、デスラーは……大ガミラス帝国元総統アベルト・デスラーは生きていたか」

 

 ナスカとメーザーが嘘をついている可能性もあったが、嘘をついたところで二人には何の得にもならない。

 それどころか、二人の語った内容は、二年前、地球への帰路を走っていたヤマトを追撃してきた時のデスラーの状況と合致する部分がいくつも見受けられた。

 

「ジェタリアとムスタラービアか……聞いた事がない星だな」

 

 キーマンたちに尋ねられた質問の一つにメーザーはそう答えた。

 ただし、それに関する情報はキーマンが前以てバレル大使に確認して裏を取っていた。

 ……その場でキーマンはある人相描きが目に入る。ガミラスの制服を着た女性士官だった。だが、それを一旦脇に追いやり、

 

「……長かったが、本題だ。彼を知っているか?」

 

 キーマンが見せた人相描きに、ナスカとメーザーは顔色を変えて驚愕の表情を浮かべた。

 

「これは!?……一体何処でこれを!?」

 

 ナスカはハッと隣に座っているメーザーに目を向けるが、メーザーも驚いていて、自分に疑いの目が向いたと悟ったメーザーは、「俺は何も言ってないぞ!女神ザーベリア様と大帝様に誓ってもいい!」と即座に情報漏洩を否定した。

 

「この人物が、君らの指導者、大帝ズォーダー五世なのだろう?」

「「!?」」

 

 まさか名前まで知られているとは思いもよらなかった。

 その他にも次々とガトランティス人の人相描きが出て来たことに、ナスカとメーザーは言葉を失う。

 

「……何でここまで俺たちの国の重要人物がわかるんだ……?」

「情報源は明かせない。ただ、この二人に関して」

 

 そうしてメーザーとナスカの前に差し出されたのは、

 

「ミルヴァールと……バルゼー大提督……」

「メーザー!」

「ナスカ、もう隠せないぞ。彼らには名前まで知れ渡っている」

 

 観念したかのようにメーザーはそう言った。ナスカは悔しさのようなものを感じていたが、メーザーを怒る気にもなれなかった。

 

「とある情報源から、この二人はアゼルメニア宙域にカラクルム級の艦隊を送り込む算段を付けていることがわかった」

「……今何て言った?アゼルメニアだと?」

「ヤマトはあと数日でアゼルメニアに寄港する。その途上にカラクルム級1000隻の艦隊が待ち受けているとなれば……」

「カラクルム級の情報を寄越せか。悪いがお断りだ」

「その必要はない。我々はカラクルム級への対抗措置を見つけた」

「どうやって? 砲撃力でも強化したのか?」

「いや。航空機で沈めた」

「……何だと?」

「プロクシマ3を襲っていた30隻のカラクルム級の内、その半分を我々の宇宙戦闘機で撃沈した」

 

 それを聞いて、ナスカは……。

 

「ククク……ハーッハッハ!」

 

 狂ったように笑ったが、

 

「まさかなぁ……まさか、私が狙っていたことを地球人が既にやってのけていたか! ハハハ……それが本当だとすればこれは一本取られたぞ!」

「本当だ。後で戦闘記録を見せてもいい」

「艦長、いくら何でもそれは……」

「いいんだ星名」

「あのカラクルム級をお前たちの戦闘機で撃沈した、か……お前たちの言い分が嘘なら、今頃この船は塵芥になっていただろう。とりあえず、この場では信じよう。だが、必ず後で全部見せろ」

「……いいだろう」

「しかし、アゼルメニアを攻撃するだと?ガトランティスが?」

「信じられないと言わんばかりだな。……確か、君がメーザーだったかな?」

 

 ガトランティスの二人と真田の間にはこれまで接点が無かった。故に真田は名前を思い出すのに時間が掛かった。

 

「あそこへの侵攻には、ち……大帝は消極的だった筈だ。80年近く前にガトランティスが艦隊を2回送ったがどちらも帰って来なかったと思う」

「いや、確か最初のガトランティス艦隊は偵察目的で行ったら、アゼルメニアの警邏艦隊にほぼ全部拿捕されていた。二度目に攻め込んだ艦隊も、半分近くが同じ末路を辿ったはずだ。あそこは空間障害が多くて、主砲も満足に使えない。ワープ妨害装置もあって、そこに引っ掛かれば強制的にワープ飛行から放り出される。さらに、アゼルメニアはガトランティスと戦うつもりがない」

「ならば、ガトランティスが戦う得がないではないか。今さら侵攻を再開するだろうか……そんな事、大帝は望んではいない筈だ。何かの間違いではないか?」

 

 これが透子による幽体離脱体験から得られた情報だとは、今はとても言えない。

 考えてみればオカルト的ではあるのだが、そういうものに限って与太話では済まない何かが隠れているパターンが多いものだ。

 古代は透子の伝えた情報を信じるが、目の前の二人が嘘をついているようにも思えなかった。

 

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