宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
いよいよ今作のハイライト、アゼルメニア編に入ります。
第14話「アゼルメニアの探偵」
ヤマトの現在位置より2万5000光年離れた星域。
数世紀前に崩壊した超新星の残骸が作り出した比較的小さな星雲。その大きさは太陽から遠日点時の冥王星のまでの距離に相当する程度。
しかし、その星間物質の帯を超えた先には、太陽のおよそ0.8倍程度の恒星を周回する、巨大な天体が待ち構えている。
その天体には、4つの月。それぞれ水に満ちた月、森に覆われた月、氷の塊のような月、そして、熱い雲の下には暗黒の世界が広がる月が周回している。
軌道上には多数の宇宙ステーションとドライドックがあり、表面には深い森と湖が複数見える。一見すると巨大な惑星だが、その大きさは金星と地球の中間の公転軌道ほどある。
今、水の月から来た宇宙艦が一隻、惑星の軌道から地表に向けて降下を始めた。
雲と空を抜け、地面は目の前にある。
だが、地表には巨大なクレーターのようなもの……よく見るとその一番底にはロックハッチのようなものがある。
その宇宙艦の大きさはおよそ500mほどだったが、その程度の大きさの船がすっぽりと収まるほどの巨大なハッチだった。
そのハッチが開くとさながら大きな口のようだった。宇宙艦は吸い込まれるようにそのハッチの中へと入っていき、十分に降りると巨大なハッチは閉じていった。
宇宙艦がハッチを潜ると、その先には、空と太陽が見える。
そして、宇宙艦は上下をひっくり返す。
目の前に広がるのは、巨大な宇宙港であり、市場であり、人々の営みであった。
今ハッチを潜ってきた宇宙艦も、その宇宙港の喧騒の中に紛れていった。
宇宙港のカフェからその光景を眺めながら、データパッドに入った書籍で読書に耽る一人の女性。
それも文章は日本語だ。タイトルにはこうあった。
【バレル宇宙旅行記〜アゼルメニア編⑩〜】と。
女性は長髪の茶髪をポニーテールで纏めており、私服姿だった。
だが、その読書は突然にプライベート用通信機への着信で中断されることになった。
『ミカゲさん!』
「ヒルデちゃん、どうしたの?」
『今どこにいますか?マーリン様がミカゲさんを探してて……』
「えー?今日は休暇なのにー」
『大至急領事館に戻ってこい、って』
「えー……」
すると、別の着信が別の
『出ないんですか?』
しつこく鳴る着信音が流石に通信機の向こうにいるヒルデにも聞こえたらしい。諦めて出ることにすると……。
「……はい、桐生でーす」
『ミカゲさん、あなた一体どこをほっつき歩いているんですか!!』
やはり予想通りの相手だった。
「きょ、今日は休暇をとって街を散策してくるって言ったじゃないですか……」
『あなた領事館職員でしょう? 突然の予定変更なんてここでは日常茶飯事だって私最初に言いましたよね?』
「うぅ……」
『今すぐにここへ戻ってらっしゃい!』
「あぁ、はい、わかりましたよ、わかりました……」
理不尽だ。そう思いながら通話を切り、ティーカップに似た入れ物に入っていた飲みかけのジュースようなものを飲み干して、お会計を済ませて店を後にする。
……だが、ここで忘れ物をしたことに美影は何故か気づかなかった。
美影はモノレールのような乗り物に乗って、職場に戻った。
N74205X区画。そう呼ばれている場所にガミラス領事館はある。
領事館に戻ると美影はここでの制服に着替え、先ほどの通信相手の元に。
「失礼します」
領事館長室。そのドアをノックして中に入ると、どこか儚げな雰囲気を纏ったガミラス人女性が待っていた。
「……遅いわよ」
「す、すみません」
「まぁ、いいわ……あなたを急に呼び出したのは、これを見てほしいから」
そう言って彼女は美影にあるものを手渡して見せた。その内容に美影は驚いた。
「ヤ、ヤマトが!? このアゼルメニアに来る!?」
「……いい?これから話すことは機密事項よ」
マーリンがそう前置きすると、美影は頷いた。
「……彼らは地球防衛軍長官の任務を受けてテレザートに赴かなければならなくなった」
「テ、テレザートっていうと、あの魔の宙域の奥にあると言われている伝説の星……?」
「あら、知ってるの?」
「そりゃぁ……冒険が好きでこの星に来たようなものですからね。好奇心が抑えられませんでした」
「アゼルメニアは銀河系外縁部でも名の知れた貿易港であるならば、銀河系中から人や食べ物や交易品が集まります」
「そして情報も。テレザート……「バレル宇宙旅行記」にも記述はあるだけで訪れたことがない未知の星ですよね」
「あなた、私が貸してあげた本をもう読んだの?」
「まだ読んでる途中でした。アゼルメニア編はとにかく情報量が多くて……」
「そう……読書の時間を邪魔して申し訳ないけど、ヤマトがここまで来るのにあと四日。テレザートに関する情報を出来る限り集めて纏めて欲しいの」
「四日……ですか?」
「トウドウ長官とバレル大使、両方から報告を受けているの。それも、テレザート星のテレサのメッセージらしき信号を受信したことを」
「テレサからの……メッセージ?」
「ヤマトがテレザートに辿り着けるかどうかは私たちに懸かっている。それを忘れないで」
「……やれるだけやってみます」
そう答えて美影は領事館長室を退室した。
「……あの娘、本当に大丈夫かしら」
領事館長でありこの部屋の主。マーリン・バレルはそう溜め息を漏らした。
部屋に戻った美影は早速資料を纏めて報告書を作ろうとしたのだが、
「無い、無い、無い……。あ、しまった!」
美影は漸くことここに至って、自分の荷物をカフェに置いてきたことに気付く。
着ていた制服を再び先ほどのよそ行きの服に着替えて部屋を飛び出していった。
「あ、ミカゲさん!?」
「ヒルデちゃん、ごめん、一旦カフェに戻る!」
美影はすれ違ったヒルデにそれだけ言うと領事館を慌てて出て行った。
「あぁ、あれ? いや、あなたが座っていた席には無かったけどなぁ……」
「そ、そんなぁ!」
忘れ物を取りにカフェまで戻ってきたが時既に遅し。置き引きされた後だった。
「はぁー……どうしよう……」
カフェ近くの公園のベンチに腰掛けて溜め息を吐く美影。
「ミカゲさん?」
「あっ……ひ、ヒルデちゃん!? なんでここに……?」
「慌てて領事館を出て行って中々戻ってこないから探しに来たんですよ? マーリン様にはうまく誤魔化しておきましたが、長くは持ちません」
「さすが先輩……!」
「も、もう、おだてても何も出ませんからね! それより、何があったんですか?」
「……実は……」
「なるほど……テレザートに関する情報を書いたメモやカメラなどが一式入ったカバンを置き引きされた、と」
「面目ない……」
「しかも、……マーリン様からお借りしていた「バレル宇宙旅行記」が入ったデータパッドまで一緒に盗まれてしまったんですか?」
「どうしよう……マーリンさんに何て言えば良いのか……」
「アゼルメニアの書店で買うことは?」
「あれは特別に日本語版に翻訳されたものだから多分置いてない。しかも、『バレル宇宙旅行記』全123巻が入ったまま!挙句にテレザートの情報を書いたメモまで……。あれ、ヤマトがここに来るから情報を纏めておくように、って言われたばかりなのに……」
「一から集めるわけには……?」
「四日じゃ無理!どうしよう……」
「うーん……」
美影が酷く落ち込んでいる姿を見て、ヒルデは何が出来るかを考える。そこで彼女は思いついた、というか、思い出した。
「そうだ。あの人に頼んでみるのが良いかも!」
「あの人って?」
「そうですね……まずギルド区画に行きましょう」
そうして二人はアゼルメニア内を移動するエアタクシーのような乗り物を使って移動。
着いた先は、C1701N区画。
ここは通称「ギルド区画」と呼ばれる30平方キロもの面積を持つ場所であり、超高層ビルが立ち並ぶ。
「ここが、アゼルメニア・ギルド本部……!?」
「そう、ここです」
美影も「バレル宇宙旅行記」でここの事は知っていた。しかし、本で読むのと実際に訪れるのとでは全く話が違った。
「もしかして、商業ギルドで依頼を出すとか?」
「それをすると依頼を受けてくれる人が決まるまで時間が掛かりますし、捜索自体に何日掛かるか分かったもんじゃないですよ。それよりも、ここです」
そう言ってヒルデが案内したのは、ギルド区画に隣接する居住区。
やはり居住区も大きく、地球では見たことがないような巨大なビルだった。その中はさながら一つの町のようだった。
ヒルデは美影と共に、34階のある部屋を訪れた。
そこには、
「『オストヴェント探偵事務所』?『軽犯罪専門探偵』?」
「前にここの探偵さんにお世話になったんです。きっと今度も力を貸してくれると思います」
「でもお金ないけど……」
「大丈夫。ミッターさんならきっと」
ヒルデはドアチャイムを鳴らした。が、返事がない。
「……留守かしら?」
美影がそう言うと、部屋の中で何かをひっくり返したような物音がした。
「そうじゃないみたいです」
すると慌てたような足音がして、鍵を開ける音がした。
ドアにはあいにくチェーンが掛かっていたが、部屋の主は、
「おぉ。やぁヒルデちゃん、久しぶりだね」
「こんにちは、ミッターさん」
ヒルデが言うこの部屋の主ミッター・オストヴェントだが、美影は一目で怪しい男だと思った。何と彼は狐のような動物のお面を被って素顔を隠していたからだ。声も変えているようだ。ヒルデが挨拶すると、ミッターは一旦ドアを閉めて、チェーンを外し、二人を迎え入れた。
「どうぞ入ってくれ」
二人を部屋の中央に作られた応接間に案内し、ミッターは二人が腰掛けたソファーの対面の席に座った。
「おもてなしは出来ないけど、単刀直入に聞くよ。また猫ちゃんが逃げ出したのかい?」
「猫っていうと、クラルちゃん?」
「クラルは元気ですよ。今日の依頼人は私じゃなくて……」
「ふむ。となると君だね? 地球人だろ」
「な、何でわかったんですか……!?」
美影は別段ザルツ人を装っているわけではないが、肌の色や顔立ちなどからそう勘違いされることが多い。とはいえ「地球」という惑星を知る者はアゼルメニアではまだまだ少なく、天の川銀河の中程にある田舎星程度の認識しか持たれていなかった。
それ故に、美影を地球人だとミッターは一目で見破ってしまった。
「簡単な推理だ。ヒルデちゃんが連れてきたってことは領事館関係者の可能性が高い。ヒルデちゃんが勤めているのはガミラスと、地球とかいう星の人類が協同運営している領事館。それに君の翻訳機を介した言葉にはザルツの方言や特有の訛りがない。さらに厳密には、君が喋っている言語は地球の日本という地域で用いられている公用語だ。そうだろう?」
すごい全部当たってる。美影はポカンとした。
「改めて自己紹介だ。私はミッター・オストヴェント」
「き、桐生美影です……」
「ミッターさん。ミカゲさんを助けて欲しいんです」
「どうしたんだい?今度は犬が逃げ出したのかい?」
「いいえ、そうじゃなくて、盗まれたものを取り返したくて……」
「盗まれた?だったら警察に」
「アゼルメニアの警察に言ったら領事館に報告が行ってしまいます」
「内密に済ませたい、ってことか。……まぁいい。それで、何を盗まれたんだい?」
「えーと……」
美影はミッターに促されて盗まれたものをリストアップした。
「うーん……レコーダーに、メモ帳、書籍入りデータパッドに、カメラか……」
「データパッドに入っている書籍は借り物だし、メモにはこれから報告書に纏めないといけないことが全部書かれているのに……」
「だからか」
「え?」
「内緒にしたいのは、借りた本を盗まれたって領事館の誰かに知られたくないんだろ?」
「そ、そうです」
「わかった。まずは現場だな」
「でも、店主は何も見ていないって。防犯カメラもないお店だったのに」
「何も店に戻る必要はないさ」
「あぁー、そのバッグなら見た覚えがあるよ?」
カフェ近くにいた二人組の異星人にミッターは声を掛けて、美影が持っていたバッグのイラストを見せたら、イカのような姿をした男(?)が目撃したと言った。連れのビーメラ人の男も、
「そうだそうだ、小汚い感じの女の子がそんなバッグを抱えてこの坂を降って行ったねぇ」
「肌の色は……白か」*1
「おめぇ、白黒しか見えてねぇだろ」
「何を複眼のクセして」
「色ならわかる。緑色っていうか……薄緑か。髪の色は緑っぽい黒だったなぁ」*2
「すみません。ご協力ありがとうございました」
通行人の二人からいい情報を得られたミッターと美影。
「小汚い格好をしている、薄緑色の肌をした女の子……」
「ストリートチルドレンかもな」
「ストリートチルドレンなんているんですか?」
「いるさ。こんなでかい星だ。スラム街も一つや二つどころじゃない。この星は貿易国として栄えていて人の往来が激しい賑やかな星だが、流れ着くのは外交官やビジネスマンだけじゃない。住んでいた星を追われてここに来た人々もいるんだ」
「つまりは、難民……?」
「例えば、オルタリアという星は、君らの暦で言えば2199年にガミラスの親衛隊に壊滅させられた。地球だって、あと一歩遅ければ難民どころか全滅していただろう。コスモクリーナーだかコスモリバースが無ければ」
「何故そこまで知っているんですか?」
「……悪いね、話が逸れた。つまり、スラム街には、そういった難民たちが暮らしている。彼らは自分たちの星を命からがら着の身着のままにここまで来たのだから、貧しくて当たり前だ。彼らには明日を生きるためになりふり構っていられない場合が多いんだ」
「となると……急がないと。カバンの中に入っているものは大したお金にならないけど、本当になりふり構っていられないならさっさと売り飛ばそうとするはず」
ミッターはここでようやくヒルデの姿がないことに気付いた。
「……あれ?ヒルデちゃんは?」
「露店の食べ物を見ていたら涎を垂らしていたので、お金を渡したんです。……でも、それにしても遅い」
美影もヒルデに何かあったと勘付いた。
ヒルデはピンチに陥っていた。
「待てぇー!ガミラスの犬め!」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
露店でケバブのようなものを買って美影たちに合流しようとしたヒルデだったが、オルタリア人と、アイスブルー色の肌の少女たちと出会したために追いかけ回される羽目になった。
ヒルデの身なりはかなり整っていた上に、彼女のカチューシャはザルツ星の民族衣装の一部である。路地裏で暮らしているようには見えないので、それなりに良い身分であると誤解されたようだ。
特にオルタリアは三年前に母星を破壊されて生き残った大勢が難民になった故に、ガミラスに仕えている同胞やザルツ人たちを裏切り者と見做していた。
ヒルデの腕には露店で買った食べ物の入った袋が!
「おい、それを寄越せ!」
「ダメ!」
何度もそう迫られながら、ヒルデは何度も断る。もうこれで何回目だろうか。
ところがここで、
「あなたたち五月蝿いよ!!」
薄緑色の肌に濃い緑色の髪をした別の少女が、ヒルデと少女たちとの間に立ち塞がる。ヒルデはちょうど転んでしまった。
「だって、だって!」
「そいつは良いもん食べてんだもん!くれたっていいじゃない!」
「馬鹿っ!!」
聞き分けのない女の子たちに少し手加減して、でも頭に拳骨をお見舞いした。
「まったく……。パナ、フラ!こんなことしていたらあなたたちのお母さんが泣くよ!」
「だ、だってだって!」
「私たちだってお腹すいたんだもん!!」
「だからって、寄って集って追いかけ回していいわけないでしょ! テレサ様があなたたちのそんな所業を見たら、永遠の闇に魂を突き落としちゃうかもしれないじゃない!」
「「うぅっ……」」
その言葉が効いたのか、少女たちは黙り込んでしまった。
「おい、リストージア。無闇矢鱈に人をぶっちゃダメだぞ?」
そんな男性の声がして振り返ると、ヒルデの目の前には、ガタイのいい大男が長家から現れた。ヒルデは思わず脚がすくんでしまった。
「ひっ……ひぃ……」
「だっておじちゃん、パナとフラがこの子を追いかけ回していたんだもん。弱いものいじめはダメって教えてくれたでしょ?」
「……そうだったな」
ヒルデを助けた少女は向き直り、手を差し伸べる。
「この子たちが色々とごめんね」
「あ、いえ、……ありがとう」
少女の手を取り、ヒルデは立ち上がった。
「あなたは?」
「あ、ヒルデといいます」
「私はリストージア。長いならリズって呼んで。そのオルタリアの子がパナジアティスで、ザルツの子がフラジアティス」
リストージアは、褐色肌の少女をパナジアティス、アイスブルーの肌にエルフのような耳をした少女をザルツ人のフラジアティスとして紹介した。フラを自分と同じザルツ人だと気付かなかったことにヒルデは内心戸惑うが、
「俺は……ザバイバル。……
「イルミダス?」
聞いた事のない種族名に困惑し、ヒルデの頭からはフラの肌の色のことなど吹き飛んでしまった。
代わりにリズことリストージアを見たヒルデは、何とも言えない気分になった。
「ふん。ばいこくどに名乗る名なんてないもん!」
「ないもん!」
「ば、売国奴……って……」
「こら、あなたたち! また悪い言葉を覚えたわね!……ごめんなさい本当に」
「ヒルデちゃん!」
するとそこでミッターと美影がヒルデをやっとの思いで見つけた。
逃げようとするパナとフラだが、リズが止めた。
「ミカゲさん、ミッターさん……どうしてここが……?」
「これ」
美影がポケットから取り出したのは、携帯型の通信機。ガミラス領事館の職員には携行の義務があるものだ。つまり、ヒルデも持っている。
「通信機の信号を逆探知して君を見つけたんだ。データパッドの場所もね」
「え?それ本当に?」
「あぁ。この建物からデータパッドの信号が出てる」
ミッターが指さしたのは、ヒルデの記憶が正しければ、リズとザバイバルがさっき出てきた長屋だ。思わずヒルデはリズに目を向けるが、リズは目を逸らした。
ザバイバルは血相を変えて怒るように言った。
「おいリストージア、まさかこの子から何かを盗んだのか!?」
そんな言葉が出て、パナとフラまでもがリズに視線を向けた。すると、リズは、
「お、おじちゃん、お願い、これにはわけがあって……」
「……」
リズの住む長屋は、一言で言えば貧困そのままを表していた。
ひびの入った窓、あの黒い虫が出てきそうなほど汚れて大小様々な穴がある床に、臭いの染み付いた布団などなど……。
叩けば埃が出るという言葉があるが、この家は物理的にそうである。
リズは、自分がカフェから盗んだ美影のカバンをベッドの下から取り出して、
「……どうぞ」
それを美影に返した。
美影は中身を確認すると、メモ帳にペン、ボイスレコーダーに、カメラ。そして、
「あ、あった。良かった……」
データパッドを確認すると、確かに日本語版「バレル宇宙旅行記」が書籍データとして入っていた。
「それにしても、どうして私のカバンを盗んだの……?」
「それは、その……」
「私がリズに命じたからなのです」
そうしてザバイバルと共に現れたのは、初老の女性だった。肌の色は地球の白色人種によく似ている。
「アズおばさん!」
「おばあちゃん!」
「アズ様!」
「あ、あの、どうしてそんなことを……?」
「……本当は、あなたたちに会うつもりなどなかった。でも、こうして会ったということは、テレサ様のお導きなのかもしれませんね。私に全てを正直に打ち明けろと仰せなのでしょう」
フラがおばあちゃんと呼んだアズという女性は、近くにあった椅子に座った。
すると、子供たちに手招きをして、フラとパナを膝の上に乗せた。
体の大きいリズは、彼女の隣の床に座った。
「お話する前に質問です。我らの聖域に何用が?」
「聖域?」
「……恐らくはテレザートの事だろう。このご婦人はどうやら、尼僧だったみたいだ」
「その通り。まさしく我らの聖域とはテレザートのこと。ミカゲさんと言ったわね」
「え、えぇ」
「あなたはザルツ・テレザート教の信者でもなければ、かといってそれも知らない様子。ということは異教徒ではありませんか。そんな異教徒の小娘がテレザートの情報を嗅ぎ回っている。そんな話を私は耳にしましてね」
「でも、何故そんなに警戒を……?」
「……ザルツ人の娘さんは何も知らないようね。……そうだ、リズ。良い機会だからテレザートの始まりの物語を暗唱してみなさい」
「え?うん。良いよ」
リズは一呼吸置いてから話を始めた。
「……遠い昔。私たちの祖先が生まれるより遥か前。この銀河に災厄が降り注いだ。ある星は砕け散り、ある星は遠い宇宙の果てに投げ飛ばされた。そんな災難に見舞われた星の一つに、「テレサ」という女性の神官がいました。彼女は戦慄する星の人々にこう言いました。『心を一つにしなさい。さすれば災厄を乗り切り、再び立ち上がれる日が来るでしょう』。テレサの導きを受けた人々は災厄の時代を、力を合わせて乗り切り、時に未知の危険と出会い、時に外敵から身を守るために戦った。人々が災厄を乗り切った時、テレサは老婆になっていた。次第に弱り、衰え、最期には床に横たわった。人々はテレサに『死なないでくれ』と縋った。しかし、テレサは天を指さして言いました。『私は死にません。代わりに私はあの宙の彼方へと行きます。もし、私と共に宙を歩む覚悟があれば、私は宙の彼方で永遠と共に待ちましょう』と。それからしばらくしてテレサは亡くなりましたが、彼女を埋葬しようとした時、老婆だったテレサが突如光り輝いた。そして、みるみると若かりし頃の彼女の姿に戻って行きましたが、それこそが彼女にとっての旅立ちでもありました。宙の彼方へと旅立つ彼女に、人々は祈りを捧げ、彼女は星と一つになり、宙そのものとなりました。彼女のいた星はやがてテレザートと呼ばれるようになり、彼女の導きや教えを得るために様々な星から様々な人々が訪れた。テレサは人々に愛されて、永遠の存在へと昇華した。そして、彼女に導かれた人々は、やがて高みに登り、彼女の元へと旅立って行った。それでも、これは始まりの物語に過ぎなかった」
「……リズ。序章をちゃんと暗唱できるようになりましたね。よくできました」
「えへへ……」
「興味深い昔ばな……いえ、神話ですが、それとこれとはどう関係が?」
「……ガミラスがテレザートを征服しようとした。それと関係があるんですね」
「ミカゲさん?」
「ほう……よく見ると、お嬢ちゃんはザルツの民では無いみたいですが、その通り」
「……そうか。その子が今語った神話と、美影ちゃんの言ったことを総合すれば、ご婦人、あなたが私たちを警戒してテレザートへの情報を隠そうとしたのも頷けます。テレザートは……少なくとも一千万年の歴史がある。その長い歴史の間にテレザートを侵略しようとした不埒な連中が幾度となく現れたんでしょうね?」
「その通り」
「そんなつもりじゃなかったのに……ヤマトの目的はテレサと会うだけなのに」
「何故会おうとするのですか?」
「……」
機密事項だ。マーリンにはそう言われていた。だが、黙ったままでは先に進めない。テレザートに関する情報も返してもらえない。美影は意を決して、明かすことにした。
「実は……」
「何ですって。テレサ様からの啓示を受けた!?」
「啓示というか、メッセージを地球が受信したんです。白色彗星が地球に迫っていることについても……」
「白色彗星が……この銀河系へ!?」
「ガトランティス……おじちゃんのいた国だ……」
「え……?」
リズがそんなことを口にしたのを、ヒルデは聞き逃さなかった。
「白色彗星のことを何故テレサ様が気にかけておるのかはわかりませんね……でも、あなた方の言うことが本当ならば?」
「ほ、本当です!誓って嘘ではありません!」
「その誓いは重いものですぞ? 本当ならば大変なことです!」
アズは明らかに興奮した様子で質問を矢継ぎ早に飛ばしてきた。
「あなた方はこれからテレザートに行くのですね? その船は何といいます?」
「ヤマト、と申します」
「ヤマトですか……ではその船が到着したら私たちも乗せてください!」
「おばあちゃん!?」
「アズおばさん!?」
「アズ様!?」
「テレザートへの道中には難所が待ち受けています。私が知っていることがあなた方の旅の助けになるかもしれませんから」
「アズ……アステ……ラロット・アズテリア!」
「ヒルデちゃん?」
「ほう……そのザルツ人の娘さんにもザルツ・テレザートの血は残っていたようですね。いかにも。私こそがラロット・アズテリア。ザルツ・テレザート第158代教皇アズテリア22世の娘。今では浮浪街の子供たちに信仰を伝えるしがない老婆に過ぎませんが、教皇一家にしか伝わっていない知識もある。きっとあなた方の旅のお役に立ちますぞ!」
アゼルメニアは内殻と外殻、共に太陽がある。
つまり、外殻では自然に昼と夜が存在することになるが、では内殻はどうなのか?
実は内殻にも昼と夜の違いが人工的に作り出されている。
昼の地域には内殻を照らす赤色矮星の光が降り注ぐ。
では夜は?
実は、夜の地域は空にナイトスクリーンが貼られる。
地球はコロニーシールドを実用化しているが、コロニーシールドのようなバブル型やドーム型のシールドとは全く異なる。
端的にいえば、黒い帯だ。
この黒い帯はまるで地球儀についている緯度尺のように内殻の中心軸から半円を描くようにして内殻の頂点から底辺を結んでいる。
内殻の別の地域からだと、夜になった地域は黒い帯のようなものが覆っているように見えるわけだ。
帯はエネルギー体で出来ているので実体がないものの、その大きさはもはや地球のレベルでは計測不能。
この帯に一度覆われた地域は、12時間は夜の世界が続く。
しかも、この仕掛けは、アゼルメニアの内殻に住む人々の体内時計を考慮して作られたものだという。昼ばかり、もしくは夜ばかり続くと体に変調を来たす種族が実に多いためだ。
従って、ガミラス・地球領事館にも夜がやってきた。
「ラロット・アズテリア……やはり生きていましたか」
美影とヒルデは再び制服に着替えて領事館長室でマーリンに昼間の出来事を報告していた。
「何者なのですか? アズテリア22世の娘と名乗っていましたが」
「……詳しくはそこにいるヒルデに聞きなさい、と言いたいところだけど……」
これは自分の口から語って良いものかマーリンは躊躇し、ヒルデに話をさせた方がいいと一瞬思ったが、そういえばヒルデが産まれた頃にはとっくにザルツ・テレザート教は国教ではなくなり、ガミラスに併合された後だったことに気付く。
「……マーリン様。お話ししても構いませんよ。美影さんが知りたいのは事実だけですから」
「そう……。ヒルデやザルツ人の前で話すにはこれは辛い話よ。今聞いたことは、なるべく彼らザルツ人の前では語らないでほしい」
そう前置きした上で、マーリンは知っていることを美影に全て教えた。
「ザルツ星は100年前まで独立国家だった。だけど、それから約50年でガミラス帝国に併合された。ザルツ星には、かつてザルツ・テレザート教という国教があり、それは周辺の星々にも伝搬されていた」
「つまり、星間宗教……?」
「そういうこと。しかし、ザルツを併合する際、ガミラスにとってザルツ・テレザート教という星間宗教は邪魔でしかなかった。教徒たちによる激しい抵抗が続いたものの、結局はガミラスに敵わなかった。やがてザルツ本星に遊星爆弾による爆撃が始まると、当時の教皇アズテリア22世は即座に停戦を命じ、結局ザルツはガミラスに併合されてしまった」
「なんて……酷い」
「それが帝国というものよ。ただ、教皇一家の処遇に関してはガミラスの中でも意見が割れたみたい。ところが、もっと悪いことに、その処遇が決まる前に教皇を排除しようとするザルツの革命戦線が出てきて、教皇夫妻を処刑してしまった」
「えぇ……!?」
「親衛隊が革命戦線を嗾けたという噂もあるけど、ガミラスは公式にこの行ないを「暴挙」と断じて、革命戦線の排除に乗り出した。これにザルツ国民も迎合。ザルツは国教こそ失ったものの、ガミラスが教皇の仇を討ったことや、そもそも教皇が自分の国をガミラスに差し出してでも無益な争いを止めたかったという真意がザルツ国民に伝搬した結果、戦後の復興はスムーズに行なわれたそう」
「でも、そう上手く行くとは思えないんですが……」
「そうね。ザルツ・テレザート教の影響はかなり大きかったもの。その教徒たちはザルツがガミラスに併合された後は一部がテロ活動を繰り返したと言われている。しかし、大半の教徒たちはザルツを去り、様々な星に移住した。その移住先の一つがアゼルメニアだったというわけ。その後、オルトール・ヴァム・デスラー大公が大ガミラス帝国初代総統として台頭すると、ザルツ星におけるザルツ・テレザート教徒は追放されるか、親衛隊によって排斥されてしまった。親衛隊は「疑わしきは罰せよ」がモットーだった。そうなると、どうなったと思う?」
「それが、ガミラスによるアゼルメニア侵攻とテレザート侵攻作戦に繋がっていった?」
「その通り。親衛隊はザルツから逃げ出したザルツ・テレザート教徒を全員テロリストだと決め付けて掛かり、ザルツから逃げ出した難民は特にアゼルメニアに集中した。また、テレザートはザルツ・テレザート教徒にとっての聖地でもあった。アゼルメニアを征服してザルツ・テレザート教徒を全員逮捕して処刑することと、テレザートを征服することでザルツ・テレザート教徒の心を折ろうとした。それが親衛隊の狙いだった。でも、その後の結果は知っての通りよ」
「でも、ラロット・アズテリアは……?」
「ザルツ本星での混乱に紛れてアゼルメニアに亡命したという噂があったの。それが事実だとしたら……」
「どうするんですか? 逮捕するつもりなんですか?」
「まさか。ラロットはアゼルメニアで重犯罪は犯していないみたいだし、そもそもアゼルメニア保安部だって動かないでしょう。ガミラス領事館が勝手にそれをしたら外交問題になりかねない。でも、私は正直言って疑っているわ。その老婆が本当にラロット本人なのか」
「何故ですか?」
「表舞台から姿を消して約50年。その間音沙汰無かったのに。……だから、明日私をそこへ連れて行って欲しい」
「マーリン様!?」
「いくらなんでもそれは危険かと……」
「……
そこまで言われると、美影もヒルデも頷くしかなかった。
時を同じくして、スラム街の隅のとある行き止まりでは、小型の通信装置を使って誰かに連絡している一人の男がいた。
『ザバイバル、音沙汰がないと思ったらアゼルメニアで腐っていたんじゃないだろうな?』
「……相変わらずだなゲルン。久しぶりぐらい言ってくれ」
『最後に会ってから85年だぞ? 今更コムチャンネルを開いて何の用だ? 今忙しい』
「その身なりからしてお前は艦隊指揮官になったのか、出世したな。ちょうどいい。厄介な情報を掴んだぞ」
『何だ?』
「地球の船がこれからアゼルメニアに来る。連中はテレサ様の啓示を受けたらしいが……」
『何ぃ!?』
「ゲルン、大声を出すな。……テレザートから地球へ通信が向けられたそうだ。ヤマトという地球の船が来るらしい」
『ヤマト……デスタール提督の艦隊を破った地球軍艦隊の艦船にそういう船があったな』
「はぁ……?デスタールが死んだ……!?」
『デスタールだけではないぞ。彼の部下にナスカ司令がいたが、その配下にいたメーゼライテオ殿下も戦死なされた』
「確か第二皇子の……」
『そのヤマトが、アゼルメニアに来るのだな?』
「あぁ。それもここを経由してテレザートへ向かう」
『……ならば、ヤマトをそこで阻止せねば』
「だが、ゲルン、地球はテレザートの啓示を受けたのだぞ? それを邪魔するのは……」
『その地球は我らが聖域の一つを穢した』
「噂は聞いている。地球人がガリア4号星とかいう星を攻撃したとな」
『あの星はエンジェンティアだ! ミルヴァール殿下が確認した!』
「エンジェンティアだと……!? あの、伝説のエンジェンティアが見つかったというのか!?」
『ああ、そうだ。そのエンジェンティアへと地球人は勝手に乗り込んだ。我らが聖地を穢された! テレザートをも穢させはしない。……ザバイバル。軍に戻る気はないか?』
「ガトランティスは我が祖国。しばらく離れていようと祖国へ尽くす義務を忘れたことなど1日たりとも無い。何をすればいい?」
すると、ゲルンは不敵の笑みを浮かべて、ザバイバルにある命令を下した……。
スラム街の区画に朝がきた。
そのスラム街へと、一人の女性が似つかわしくない集団と共にやってきた。
マーリン・バレル一行である。
彼女の両脇には、領事館の制服を着たヒルデと美影、さらにマーリンのすぐ後ろにもう一人の侍女が控え、その他にも護衛が数十人。
護衛の内訳はザルツ人が大半を占め、彼らの中に地球人のSPが何人か混じっている状態だった。
あまりにも仰々しい雰囲気に、スラム街の人々も驚きを隠せない。
事情を知らないスラム街の人々は「ガミラスの王族が来たのか」とか、「いや貴族様かも?」などなど囁く。
「おやまぁ……凄い団体様ですね」
彼ら団体の目的地は、当然ながら、ラロット・アズテリアを名乗る老婆の元だった。
マーリンには、不思議と相手の考えていることを読み取る能力が備わっている。彼女がラロットと目を合わせた途端、ラロットの記憶が流れ込んできた。
彼女の父、つまりアズテリア22世。
マーリンは前以てラロットやアズテリア家の資料を昨夜徹夜で覚えたため、その資料の中で見たアズテリア22世と、ラロットの記憶にある彼女の父が同一人物であるとすぐに気付いた。
ザルツがガミラスと戦っていた時、ラロットはまだ18歳だった。
ラロットはアズテリア22世から古文書を受け取り、何かを話していた。
信者たちは彼女を小さな宇宙船に押し込んでザルツ星を脱出させると、ザルツ本星はガミラスの艦隊に囲まれていた。
「!……」
「マーリン様?」
「大丈夫ですか?」
それらのイメージがたった一瞬でマーリンの頭の中に流れ込んできたため、彼女は目眩に襲われた。ヒルデと美影が手を貸すが、すぐに持ち直し、
「大丈夫……」
一瞬前屈みになったマーリンだったが、すぐに立ち上がり、再びラロットに向き直った。
マーリンは、ヒルデと、もう一人の侍女と共に、ラロットの住まいである荒屋へと入って行った。
「ラロット様」
「アズで構いませんよ」
「……では、アズ。あなたが本当にアズテリア22世の娘かどうか、証明する方法はありますか?」
「……」
「ラロット・アズテリア。51年前のザルツ戦役の際、忽然と姿を消した教皇の一人娘。それが何故、アゼルメニアのスラム街に?」
「……話せば長くなるし、内容は、あなたのようなガミラス人が聞いたら不愉快な内容かもしれません。それでもよろしいですか?」
「もちろんです」
マーリンは即答した。
物怖じないマーリンの様子に、ラロットは何かを悟ったようだった。
「……51年前。ガミラスがザルツを侵略してきた時。ザルツの宇宙艦隊はガミラスの軍事力を前に壊滅状態に陥りました。そうなると、次にガミラスが決行したのは遊星爆弾による爆撃……。大勢が亡くなりました」
「……」
ヒルデの知らない歴史をラロットは語り始める。それを嘘と断じてしまえれば楽だったが、ラロットの語りは真実に重みを与えていた。
「私は当時17歳の小娘に過ぎませんでしたが、聖書は最後の一単語まで暗記していましたし、父からも教皇家だけが持つ秘密を教えられて育ちました。そんな私だけでも安全な場所に逃がそうと、父は側近のエルシャヴィーアおじ様……いえ、エルシャヴィーア6世枢機卿と呼ぶべきですね。枢機卿は私を星間航行技術を備えた宇宙船に無理矢理押し込んで、ザルツ星から送り出したのです……」
その時のことを思い浮かべたラロット、その目には涙が溢れていた。
「しかし……。父と枢機卿がコース設定を間違え、私はテレザートではなく、この星に来てしまいました。しかも、その頃の私は、「擬態」がうまく出来ていなかった。故に私はザルツ人のラロット・アズテリアではなく、別の異星人の難民として、アゼルメニアに住むことを許されたのです」
「擬態……?」
質問しようとしたヒルデを、共にいた侍女が制止させる。侍女は「黙って続きを聞いて」と言いたげな目でヒルデを見つめ、ヒルデはそれに従うことにした。
「51年……短いようで長かった。その間に私もテレザートへ行くために船を探したのですが、ちょうどその時でした。ガミラスがアゼルメニアを攻めてきたのは。そのガミラス艦隊はアゼルメニアの警邏艦隊によって即座に御用。しかし、あろうことか、ガミラスはテレザートをも侵略しようとしたというではないですか!」
ラロットは興奮した様子で机を思わず拳で叩いてしまった。
そこで落ち着きを取り戻して咳払いをし、
「おほんっ……その侵略未遂の結果、テレザート星系はサルガッソーで囲まれ、アゼルメニアの船乗りたちですら恐れて近寄らない魔境になってしまいました。故に私はここアゼルメニアで50年余年を過ごすことになりました」
「……それは何というか、その……だから、ミカゲ……キリュウが持っていたテレザートの情報を奪おうとしたのですね? 我々がまたテレザートを攻めると思っていたから」
ラロットは首を縦に振った。が、
「でも、あなた方にテレサ様が啓示を授けてくださったのであれば、話は別でしょう。私が持つ知識を教える上で、お見せしたいものがあります。驚かないでいただけますか?」
「……驚かない保証は出来ませんが……」
すると、ラロットの姿が突然に変化した。
肌の色は薄橙からアイスブルーの肌に変貌し、耳はピンと張って長くなりまるで地球でいうところの「エルフの耳」のような形になり、それまで老婆の姿だったのが、20代の女性の外見に変わった。それでも、見窄らしい服はそのままだったが。
一様に、マーリンとヒルデは驚いたが、もう一人の侍女は、何かを知っている様子だった。
ラロットと一緒にいた子供たちも驚く。
「お……ばあちゃん……?」
ラロットの孫フラジアティスも驚きを隠せないが、
「フラ……あなたと私には、同じ血が流れている。私たちは長寿の種族の血を引いていて、また同時に他人種の社会に溶け込めるように、擬態する能力があるの。あなたにもいつかは教えてあげる」
「では、これが本来のあなたの姿なのですか……?」
「そうなりますね。でも、私はザルツ人に合わせる方が良い。私の祖国はザルツです。それに、老婆の姿なら、誰も色目を使わないでしょう?」
そう言うと、ラロットはアイスブルーの肌をした美女から再び薄橙の肌色の老婆の姿に戻った。
ラロットは、フラ、パナ、リズたちに微笑みながら、口に人差し指を立てて言う。
「……みんな、今のは秘密よ?」
そう言われて三人は頷いた。
「……マゾーン……テレサの庭園の管理者」
それまで無口だった侍女がそんなことを言うと、今度はラロットが驚いた。
「マゾーンを……あなた、知っているの?」
「はい。私の大叔父様から幼い頃の寝物語として聞かされてきました」
そうしてラロットはその侍女をジロジロと見るが、
「……! まさか。あなたはエルシャヴィーア6世枢機卿の……?」
「はい。グラナーティス・エルシャヴィーアと申します。あなたの言うエルシャヴィーア6世は、私の大叔父様です」
ラロットに正体を明かしたグラナーティスは、そのまま片膝をついて、ラロットの左手の指先に手を添え、
「ラロット様にお会いできて光栄の極み……!これこそ、テレサ様のお導きでしょう……この時を我が一族は心に秘め、今まで長きに渡り、ガミラスの下で隠れ忍んでおりました」
グラナーティスはヒルデや美影たちよりも10歳近く年上であり、ヒルデたちにとっては領事館長のマーリンの次に偉い直属の上司に当たる。有り体に言えば、メイド長に等しい存在である。
時に厳しく、時に優しい指導者でもあるグラナーティスは、その時はまるで、王国に仕える騎士を思わせる様子でラロットを迎えた。
「……グラナーティス、と言いましたね? 顔を上げてください」
「それは畏れ多く……」
「顔を上げてくれねば話も出来ませんよ?」
「い、いえ、御言葉ですがそれは出来ません!」
強い拒否にラロットは驚き、ヒルデとマーリンは内心気を揉む。しかし、グラナーティスの心を読んだマーリンには、その理由がすぐにもわかった。
グラナーティスは言った。
「そもそもはラロット様をこの星に送り込んでしまったのは我が大叔父の失態が原因でした! それが無ければ今頃ラロット様はテレザートで余生を……」
「いいから、顔を上げて」
ラロットにそう返されては、グラナーティスも顔を上げるしかなかった。グラナーティスが次に見たラロットは、目が涙で潤んでいるようだった。
「あなたが謝る必要はありませんよ。……マーリン様も。私がここに来たのはあなたの大叔父様のせいでもなければ、ここから出られなかったのもガミラスのせいではありません。むしろ、私はここで必要とされていた。全てはテレサ様のお導きでしょうね……」
そして、彼女の目はどこか遠くを見つめていつつも据わっていた。
その頃、外では。
「さあ、これを」
護衛として付いてきたザルツ人たちと美影を始めとする数人の地球人たちは、スラム街の人々に対して炊き出しを行なっていた。
「これは一体……?」
ザバイバルはその様子に呆気に取られていたが、
「あぁ、ザバイバルさん。これをどうぞ」
そう言って美影が丼一杯のお粥のようなものをザバイバルに差し入れてきた。
「君は昨日の……私よりも、子供たちに」
「いいんです、昨日のお礼です」
美影に渡された丼一杯のお粥。それを目にして腹の虫が鳴り、堪らず口にして、ザバイバルは思わず……。
「うっ……うぅっ……っ」
「ちょ、ザバイバルさん!?」
思わず涙した。
「……優しい味だ……」
そう言ってザバイバルは、自分の長屋に去って行った。
その際に財布のようなものを落としたため、美影はザバイバルを追いかけた。
……だが、ガミラス・地球領事館の職員たちが美影を見たのはこれが最後になってしまう。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
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長すぎぃ……