宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
また、時系列の関係上、場面転換が多く、それ故に切り良く分割できる箇所が見当たらなかったため、申し訳ありませんが今回は長めになります。
美影誘拐事件が解決する少し前。
修理中のヤマトに着艦してきたコスモゼロから、パイロットスーツ姿の今井早紀がバッグを持って機体を降りてきたため、ヤマトの航空隊のパイロットたちは皆驚いていた。
その内の一人(正確には三人で談笑していた女性パイロットの内の一人)に、早紀は声を掛けた。
「ねぇ、あなた」
「は、はい?」
「更衣室はどこかしら?」
パイロットスーツの上から艦長の制服を着た早紀が更衣室から出てくると、
「今井艦長?」
更衣室を出た先の廊下。ここは第二格納庫と繋がっている。
「古代艦長?わざわざ出迎えていただかなくても……」
そうして二人は握手すると、そのまま廊下を歩き始めた。すれ違うクルーたちは一瞬敬礼するか会釈をするかして持ち場に戻ったり、船外作業に出て行ったり、修理や調整の作業に戻っていく。
「今井艦長。突然の訪問に驚いています」
「それは申し訳ありませんでした。ご用件をお話しできなかったのは、少々個人的な事情でしたので……」
「個人的な事情?」
明らかに話し辛そうな今井早紀ではあったが、クルーの姿が無くなった辺りで、声を絞り出すように答えた。
「……ドック入りで艦が動かせませんし、どうせならこの機会に、と思いました」
「それで私のところに来たのね?」
「迷惑だった……?」
「そんなことないわ。カウンセラーも私の仕事。……ですから」
「……薫ちゃん、二人きりの時は敬語じゃなくていいよ」
「……ふふふ。そうね。でも、こんな風に話すなんて何年ぶりかしら。ね?藤堂早紀ちゃん」
「も、もう……今の私は藤堂早紀じゃなくて今井早紀なんだけどね……」
カウンセリングルームのソファーに寝転がる今井早紀。
「普段のあなたはドレッドノート級の新鋭艦コンゴウを率いる若手の艦長の一人。お堅い中佐のイメージが先行しているのは知ってる?」
「もちろんよ。そう振る舞うように努力してきたんだから。こんな姿、自分の部下たちにすら見せたことがない。薫ちゃんや、あきや家族の前でだけ見せる限定モーション」
「はぁ〜……こう言うのはあれだけど、あなた自分を繕いすぎてると思う」
「そりゃ、地球防衛軍長官を実の父に持てば、自然とそうなるわよ。でも、周りから親の七光りとか陰口を叩かれたくないし。お母さんが離婚して清パパと再婚してくれたから、それを自分なりに活かすことにしたのよ。お父さんもすぐに私の名前を見つけるのは難しい。だから、私がこんなところにいるのも知らないはず」
「それで「六角」じゃなくて「今井」姓を名乗ってるわけね」
「そういうこと」
「全く……色々と複雑すぎてこんがらがりそう」
「だけど、事情を知ってるから話しやすい」
そこまで言うと、早紀はソファーに寝っ転がるのをやめて、姿勢を正して座り直した。
「……だから、相談したかったの。お姉ちゃんのこと」
「美沙ね……最近、あなたの話が出たことがない」
「やっぱり……。あの人、お母さんが清パパと再婚したことを快く思ってないのね」
「それは何とも言えない。確か、美沙が空間騎兵隊に志願した時、千晶さんは離婚したばかりで、清さんとはまだ再婚していなかったはず」
「そのたった8ヶ月の間、私たちは「六角」だったわけだけど……」
一瞬間を置いて、早紀は薫に、吐き出すかのように問い掛けた。
「……ねぇ、薫ちゃん。私、お姉ちゃんとどう話せばいいのかな……?」
「そうね……何かきっかけがあれば……」
『第一艦橋から新見情報長』
不意な呼び出しを受けて薫は少し反応が遅れつつも応答した。
「……新見です」
『アゼルメニアの六角軍医から通信です。今、繋ぎます』
すると、音声通信ではなく、映像通信だった。
『薫、今いい?…って、あら、早紀……』
「……お姉ちゃ……六角軍医」
「美沙、一体どうしたの?」
『透子にも話さなきゃならないことなんだけど……』
「アゼルメニアの中央図書館?」
「はい。この銀河外縁部で一番の蔵書量と言われている巨大図書館らしいんです! これは考古学者として見逃せません、知識の宝庫なんですから!」
透子は興奮していた。これ自体は珍しいことではない。
「アゼルメニアの持ち味は巨大図書館だけではありません、この星は巨大で交易港として栄えているだけでなく、観光名所やリゾート施設も揃っています。この艦のカウンセラーとして乗員たちの上陸休暇を進言します!」
新見も心なしか興奮している様子だった。だが、古代は気乗りがしなかった。
「……興奮するのはよく分かる。アゼルメニアの内核の世界をコスモハウンドからの映像を通して目にもした。でも、今はマズい」
「何故?」
「先ほど星名から連絡があった。美影くんは無事に保護されたという」
「保護?それってどういうことですか?」
「実は……」
「美影ちゃんが?誘拐事件に巻き込まれた?艦長、何故それを私たちに黙っていたんですか!?」
「クルーの間で動揺を広げたくなかったんだ。地上に降りたクルーたちにはみんな教えたが……」
「美影ちゃんだって、このヤマトの家族ですよ! 家族が危険な目に遭っているなら……」
「だからこそだ。アゼルメニアでの上陸休暇を許可出来ない理由は同じような事件が発生する危険性があるからだ。だが、実はもう一つある。美影くんから齎された情報によれば、間も無くガトランティス軍がアゼルメニアを攻めてくるつもりのようだ。長居は出来ない」
それを言われては、二人とも押し黙ってしまった。これに関しては事情を知っていたからだ。
「……じゃあ、やっぱりあれは本当だったんですね」
「……そうみたいね」
改めて、透子は自分が見て体験した光景は現実のものだったと悟った。それでも、新見には疑問が拭えない。
「でも、ガトランティスが何故?」
「わからないが、美影くんの推測が正しいなら、これから大変なことになる」
このタイミングで何故ガトランティスが攻めてくるのか。
アゼルメニアには天然の要害だらけで、通常兵器は使い物にならない。
しかし、カラクルム級が1000隻も?
そういえば、カラクルム級の残骸を調べた時のことをなるべく細かいところまで思い出そうとして、改めて考えた時。朧げながら、新見はある恐ろしい結論を頭の中で導き出した。
「……まさか……」(……まさか……)
新見は背筋が凍るような感覚に襲われた。
しかし、一方で透子も新見が口にした言葉と同じものが透子の中にも浮かんだと思ったら、「夢」の中で見たことが一瞬にしてフラッシュバックし、全身に寒気が走ったような感覚に襲われ、自分の体を抱きしめながら震え始める。……そして、こう口にした。
「ガトランティスは……、カラクルム級の《雷撃ビット》を使うつもりだわ……!」
「何?」
「え、どういうこと?」
透子が不意に口にした言葉に古代は愚か、先ほど「恐ろしい結論」に思考が辿り着いた新見ですら戸惑いの声を漏らす。
「か、桂木教授、どうしましたか!?」
「大変!ショック状態よ!」
《雷撃ビット》という聴き慣れない単語が出てくるまで古代と新見は透子の異変に気付かなかった。
力が抜けて倒れそうになったところを慌てて新見が支え、古代は近くのコンソールのボタンを押し、医務室を急ぎ呼び出した。
「医療班!艦長室へ!」
「だ、大丈夫です、艦長……」
「全然そうは見えません教授」
「……どうしたの?」
新見と古代に支えられて何とか立ち上がり、艦長室の簡易式ベットの上に腰掛ける透子。
透子は
「今……夢で見たことがフラッシュバックして……」
呟くように言ってから、こう続けた。
「私は……夢の中では二人の人物に、どうやら憑依していたみたいです。どちらも苗字は《サーベラー》。そのうちの一人……確かシファルという名前でした」
「シファル?」
「……えぇ、確かにそう、シファルだった。そのシファルは、ミルヴァールという王子の婚約者でした。そんな二人が会話で交わしていたものの中にカラクルム級に関する話もあって……」
「何故それを今まで話さなかったの?」
「朧げで思い出せなくて……今ハッキリと思い出しました。《雷撃ビット》というものについて」
「その《雷撃ビット》とは?」
「詳しくは分かりません、でも、ガトランティスの動力源であるガイゼンガン機関、それを複数の艦でシンクロさせるために必要な装置だったはず……」
と、そこへ佐渡がやって来た。
「佐渡先生」
「桂木くん、一体どうしたのじゃ?」
「大丈夫です……」
「桂木教授が突然フラついて倒れそうになりました」
「貧血か……?ここで断定するのは危険じゃな。医務室で検査しよう」
「待ってください佐渡先生……古代艦長。「長居はできない」って、あなたはそう言いましたよね?」
「確かに言いました」
「艦長……ここを離れるべきではありません。ガトランティスがカラクルム級の艦隊をここへ仕向けてくるのにあと数日もないはず……ここには270兆人の人々が住んでいるとも聞きました。まさか……ここの人たちを見捨てていくつもりでは無いですよね……?」
「桂木くん、行こう」
衛生科の女性クルーである笠原真希が透子に肩を貸し、佐渡が背中を押す。
透子の問いに古代は僅かに間を開けたが、こう答えた。
「……教授。ヤマトの任務はテレザートに向かい、テレサと会うこと。それが最優先であることは変わりありません」
そう言われて透子は振り返る。一瞬失望したような顔をしていたが、
「……でも、無辜の民が虐殺されるのを黙って見ているわけにはいかない。修理が終わり次第、俺たちはこの星のためにできることをやりましょう」
そう古代が言うと表情を一転させて透子は安堵した様子で、「……お願いします」と答えて、佐渡と笠原に連れられて艦長室を出て行った。
それを見送ってから、古代は新見に今さっきの透子が言っていたことについて問う。
「新見さん。さっき桂木教授が言ってた《雷撃ビット》、それがもし本当に連中の艦同士、動力源を繋げるための装置であるなら……?」
「そうね……実は似たようなシミュレーションをネオ・ゼムリアでも行なっていた、と言ったらどうする?」
「え?つまりそれって……!?」
「波動機関のフルシンクロ。理論上、一隻の艦に数隻の波動機関のエネルギーを結集させ、確か……「シンクロブラストアウト波動砲」を構成して発射する、それを天戸紗奈技官はシミュレーションで見せてくれたわ」
「そんなことをしたら……」
「えぇ……結果は恐ろしかった。太陽の数倍から数十倍の重力を持つブラックホール程度ならそれで消し飛ばせることはわかった。問題はそのブラックホールを破壊した後のこと。シミュレーションではドレッドノート級12隻を環状に並べて、中央に波動砲を収束モードにしたアンドロメダ級を置いて実験していたけど、波動砲を放った結果、中央にいたアンドロメダ級は良くて動力停止、悪いと自爆していたし、使用されたドレッドノート級も大半が自爆していた。さらに、放たれた波動エネルギーの塊は1光年先まで威力が減衰することはなかったわ。あくまでもシミュレーション上の理論だけど……」
「ガトランティスが似たような理論でその《雷撃ビット》を使うつもりなら……奴らは波動砲に匹敵するような威力を持つ惑星破壊型兵器を手にしていることに……?」
新見は頷く。先ほど彼女が言おうとした「恐ろしい結論」とはまさにこれのこと。思わず背筋が凍るような感覚に襲われたのも当然だった。
そんな時だった。
艦長室の窓から、四つの月を浮かべたアゼルメニアを一望できるタイミングに差し掛かった時、第一艦橋からの呼び出しを受けた。
『艦長、相原です』
先ほどの新見の話が頭から離れないながらも相原の声に現実に引き戻されたような感じの古代が応えた。
「……相原か、どうした?」
『地球からの第一級通信を受信しました。古代艦長、並びに、ヤマト率いる臨時編成艦隊各艦艦長宛。差出人は、地球防衛軍の藤堂長官と……』
「相原?どうした?」
『……地球連邦、アンリ・デュカット大統領直々にお話があるそうです』
「何だって……!?」
『諸君がアゼルメニアに到達したと藤堂くんから聞いた時は驚いた』
第二艦橋の通信用ホログラムプロジェクターは、地球連邦防衛軍総括部長官、藤堂平九郎と、地球駐在ガミラス大使のローレン・バレル、そして、南部重工大公社社長の南部康造らと共に、目の下のクマが目立つ壮年で痩せ型の白人男性の姿を映す。
彼こそが、地球連邦大統領、アンリ・デュカットその人であった。
古代ら、ヤマトに残っている幹部士官は第二艦橋に集まり、新見のところを訪れていた早紀もヤマトのCICでそのホログラム映像と対面する。
地上に降りた真田たちはコスモハウンドの通信席前で大統領からのホロ映像を。
その他、サツマ、コンゴウ、グナイゼナウなどアゼルメニアのドライドックに入っている各艦のCICにも同様に各艦の幹部士官たちが集まっていた。
『アゼルメニアはこの銀河外縁部の経済中心地であり、様々な人や品物が集まる。まるでかつてのニューヨークを巨大化したような惑星国家だとバレル大使から聞き、実際に記録映像も見せてもらった。そこで、急で申し訳ないが、アゼルメニアとの貿易交渉を行なって欲しい』
「大統領。お言葉ですが、それは難しい話です。アゼルメニアには何でも揃っているように思えます。精々海水ぐらいしか交渉できる材料がないように思えますが? それに、我々は修理が完了次第、テレザートへ急がねばなりません」
あえて古代はガトランティスがアゼルメニア攻撃を企んでいることは伏せた。
貿易交渉をやろうにも、明らかにこの場では人材不足であるし、そもそも自分には苦手な分野だとわかっている。
何とか避けようとする……のだが、
『しかし、君の艦隊の全艦が修理完了するまで、時間が掛かると藤堂くんは言っていたぞ。確か、グナイゼナウという船だったか。機関故障が深刻だとも。ならば、交渉できる時間はあるだろう? この際、交渉が成功しても失敗しても構わん。まずは「地球とアゼルメニアが公式に貿易交渉をした」という事実が残ればいい。次からはちゃんとした使節団を派遣する』
「そういうことなら。わかりました。すぐに私が地上に降りて交渉を……」
『いや、古代。君にはヤマトに残ってほしい。既にヤマトの幹部士官の内何名かはアゼルメニアに降りているのだろう? ならば余計に指揮系統に穴を開けるわけにもいかない』
藤堂長官は古代にヤマトに残るよう命じ、代わりに早紀に目を向ける。
早紀は内心ドキッとした。
『なので……コンゴウの今井早紀艦長』
「……はい」
『今回の貿易交渉の地球代表には、君を任命する』
「私が……ですか?」
『地球連邦防衛軍長官である私の名代として頼みたい』
『君のサポートには、私の部下であるクラウス・キーマンとマーリン・バレルの二人を就けよう』
『それと、南部康雄』
実の父親、つまり南部康造に名前を呼ばれた南部は不満さを隠そうともしなかった。
「……あのすみません。何で俺……いや、私が?」
とりあえず大統領や長官たちの前だ。なるべく平静を保ち、礼儀正しくあろうとする康雄。しかし、康雄の問いにストレートには答えず、先に康造は古代に挨拶をした。
『古代艦長。私の倅がお世話になっております。そして、今回は、我が南部重工のエクスプレスタンカーをご利用頂きありがとうございます』
そういえば、アゼルメニアまでヤマト率いる艦隊が護衛してきたタンカー船には、南部重工の社紋が描かれていた。
『このアゼルメニアとの貿易交渉には我が社も是非参加したく!なので、交渉には私の倅を同行させては貰えませんかな?』
「はぁ!?おい!どうして俺が行かなきゃならないだよ?親父、俺は会社は継がないって言っただろう!」
『この期に及んでまだそれを言うか!この輸出計画が成功すれば、地球で初めて他の星間国家に砲塔を輸出した企業として歴史に名が刻まれると言うに!』
「親父はその名声を宇宙に広げたいだけじゃねぇか!俺は親父のおつかいのためにヤマトに乗ってんじゃないんだよ!」
『何を……』
このドラ息子が!と言おうとしたら、大統領が片手を上げて割って入った。
『南部くん、そこまでだ。二人とも、だぞ?』
『「は、はい、すみませんでした……」』
やはり親子か。変な部分だけハモる。その場に居合わせた太田と相原と百合亜が思わず笑いそうになった。
『お言葉ですが、長官。今井艦長一人には荷が重いのではありませんか?』
『真田くん?』
『今、私はちょうどアゼルメニアの内殻に降りています。今井艦長を補佐したいと思いますが?』
『そうか……わかった。では頼もう』
『ありがとうございます』
『代わりに……エルナ・エスシルト少佐』
『は、はい。長官』
『君をコンゴウの臨時艦長に任命する』
『わ、私が?ですか?』
『グナイゼナウは修理中だったな。優秀な艦長を遊ばせておく余裕はない。古代。君たちの艦隊にはアゼルメニアで任務を与えたい。詳細はバレル大使から』
『艦長、久しぶりだね。我々はアゼルメニアにもパイプを持っているが、その筋からで、最近、アゼルメニアの付近で貨客船や交易船が何者かに襲われて消息を絶つ事件が多発している。現地にいるならその話は聞いたかね?』
「噂程度であれば」
『どうせ貿易交渉中……あるいは、グナイゼナウか。その船の修理が終わるまではどこにも行けまい? ならば、ひと仕事頼みたい。君たちはアゼルメニアの艦隊に協力して、出来れば襲撃者の正体と目的を突き止めて欲しい』
「了解しました」
『それにしてもアゼルメニアか……』
「何か?」
『……いや、何でもない』
『古代艦長、今井艦長。あとは君たちに任せた。通信終了』
そうして4人のホロ映像は消えるが、代わりにエスシルトのホログラム通信の映像が現れて、
『古代艦長、皆さん……足を引っ張ってしまって申し訳ありません……!』
「そんな、エスシルト艦長のせいじゃないです」
グナイゼナウの艦長であるエスシルトは深々と頭を下げていた。グナイゼナウの機関故障は明らかに不可抗力だったのだが、それでも責任を感じずに居れなかったようだ。
『謝るなよ。ガトランティスの艦隊がここに迫ってる事実は今更変えようがない。古代、どうせ長官の命令がなくてもアゼルメニアを助けるつもりだったんだろ?』
「そうだ長野。みんな聞いてほしい。ガトランティスがアゼルメニアを侵略してくるのを黙って見ているわけにはいかない。ヤマト、サツマ、コンゴウ他、修理が完了した艦には、アゼルメニア宙域内のパトロールに回ってもらう。加藤。伊東」
「「はい」」
「君たちにはヤマト、サツマ、コンゴウの直掩にそれぞれ着いて欲しい。未確認情報ではあるが、ガトランティスはカラクルム級で攻めてくる可能性が高い。航空隊の存在は必須だ。加藤。君はヤマトを。伊東。君の隊はコンゴウの直掩に。篠原」
「はい、艦長」
「君を一時的にベータ中隊の隊長に任命する。ベータ中隊はサツマの護衛に。あと伊東。君の隊の後席搭乗員から二人、アルファとベータ中隊に振り分けたいんだが?」
「それでしたら、京極をアルファ中隊へ。浅井をベータ中隊に振り分けます。……加藤隊長」
「何だ?」
「
「お安い御用だ。何なら、君の乗る機体みたいに青く塗っても良いが?」
「お心遣い感謝します。でも時間がないですよ」
そんな軽いジョークを飛ばし合った愛子と加藤であったが、
「君の言う通り時間がないぞ。全員、発進準備。ドライドックを出発次第、戦闘態勢へ移行」
「「「了解!」」」
そうしてクルーたちはその場から散って、それぞれの部署に戻って行った。
「……早紀?」
新見が今井早紀に声をかけると、我に返った彼女も第二艦橋を出て行った。
古代も一足遅れて出ようとしたが、新見が引き留めた。
「艦長」
「新見さん?」
「今井艦長と、南部砲雷長をどうやって下ろします?」
「そうですね……コスモハウンドだと大きすぎます。なので、ガミラス領事館に返すついでにスマルヒで降りてもらいましょうか。パイロットの領事館職員もいることですし。ヤマトに残るラロットさんの護衛には保安部の山田と、和田を充てます」
「……では、透子。いや、桂木軍医も一緒にスマルヒに乗せてはいただけませんか?」
「新見さん、またその話ですか……?」
「あの機体は四人乗りだと聞きましたから。それに、透子の体験したことがもし中央図書館で分かるのなら、タイミングが悪いなんて言ってられません。あのアルファ・ケンタウリ11とガトランティスに何か繋がりがあるなら尚更。今後に影響してくるはずです」
「だが、そのアゼルメニアはこれからガトランティスの猛攻に晒されるかもしれない。出来れば、真田さんたちに今すぐ帰還命令を出したいほどなのに」
「だから絶対にガトランティスを阻止しましょう」
「……そうですね」
そして、去ろうとした新見に、
「新見さん。今、真田さんはアゼルメニアに降りています」
「えぇ。わかっているわ。先生の代わりになれるかわからないけど、カラクルム級の《雷撃ビット》とやらの正体は突き止めるつもりよ」
新見も本音では中央図書館を見に行きたかった。だが、それよりも目の前のことが先決だとよく理解していた。
ドライドックを離れる準備に入ったため、船外作業を行なっていたクルーたちは続々と艦内に戻っていく。
小島と新米も他のクルーたちと共にヘルメットを外したり、船外服を脱ぐ。
艦内も慌ただしい。
今は艦内に警戒警報が鳴っているが、これがいつ非常警報に変わってもおかしくない。
船務科で戦闘に直接関係がない者たちは、例えば食堂を店仕舞いをし、割れやすいものを急いで安全な場所に片付けていた。
百合亜もYRAに使用していたレコーディングスタジオに施錠して第一艦橋の持ち場に向かうところだったが、そこで、白い制服を着た女性隊員とすれ違った。
「……あれ?透子さん!?」
「百合亜ちゃん。どこへ行くの?」
白い制服を着ていたのは、やはり百合亜の見間違いではなく、桂木透子だった。
「第一艦橋に戻るんです。戦闘態勢に備えて」
「そう……やっぱりそうなってしまうのね……」
ガトランティスがアゼルメニアを攻撃するかもしれない。その噂は透子にも伝わっていたか、程度に百合亜は考えていた。
「透子さん、その服……」
「白衣姿だとスマルヒでは邪魔になっちゃうかと。それで衛生科の笠原さんに適当な艦内服を用意してもらったの」
「スマルヒって……もしかして、今井艦長や南部砲雷長と一緒にアゼルメニアへ!?」
「……ちょっと、事情があって」
ただ、百合亜も勘の良い娘だ。透子が数日間の昏睡から目覚めたと思ったら、ガトランティス人やデスラーなどの人物スケッチを何枚も描いていたし、星名が遺跡で起きたことを話していた。
アゼルメニアにもしかすると、透子が昏睡状態に陥った原因の答えがあるのかもしれない。ただただ百合亜は微笑んで、
「透子さん。……気をつけて行ってください」
「……えぇ。ありがとう」
そして、透子は廊下を駆けていくが、去り際にこう言い放って行った。
「星名くんによろしく言っておくわね!」
「も、もう!透子さん!!」
赤面する百合亜。しかし、透子のことを心配そうな、あるいは彼女が探している答えが見つかることを祈るような眼差しで見送ってから、踵を返して第一艦橋へと足早に向かった。
ヤマトの第一格納庫から甲板に迫り上がってきたスマルヒは主翼を畳んだままだったが、カタパルトにセットされると主翼を広げ、エンジンを点火。そのままカタパルトで打ち出されて宇宙空間に飛び出した。
ヤマトの機関室では、フライホイールが回転していたが、徳川はコンソールの「エンジンカットオフスイッチ」を押してエンジン停止の操作をし、すぐにその回転数が落ち、徐々に停止に向かう。
コンソール下では、427のホログラムが作業をちょうど終わらせたようだった。
「機関室より第一艦橋」
『古代です。エンジンの調子はどうですか?』
「試運転は問題なし。それどころか、地球を出た時よりも状態がずっと良くなったぞ」
『本当ですか?』
古代は徳川からの評価の報告に少し驚く。
長年機関兵をしていた徳川がそう認めざるを得ないのであれば、やはりアゼルメニアの工作技術は地球よりも優れていたことになる。
「古代艦長」
『427か。どうぞ?』
「この艦の修理はこれで完了しました。いつでも出航できます」
『了解』
第一艦橋には、徳川の代わりに山崎が機関コンソール席に座っていた。
レーダー主の席には百合亜が。
「全員、発進準備。島」
「両舷全速!」
『エンジンカットオフスイッチ戻し。エンジン点火システムオンライン』
「チェック」
機関室で徳川がコンソールを操作し、システムが正常に動き始めているかどうかを山崎が第一艦橋でチェックしている。
『よし、行くぞ。フライホイール始動!』
その徳川の声が第一艦橋に響いたかと思えば、ヤマトの底から、力強い鼓動のような音と緩やかな振動が伝わってくる。
『補助エンジン点火』
「チェック」
フォースフィールドはドライドック内が真空になると同時に解除された。
ドライドック内で、ヤマトの補助エンジンに火が灯る。
すると、ヤマトがゆっくりゆっくりと、筒のような姿をしているドライドックの中から進んでいく。
『波動エンジン、出力60%。閉鎖弁オープン!』
出力が高まっていくにつれて、ヤマトのメインエンジンのノズルバーニアにも火が灯り始める。
『波動エンジン、出力100%。メインエンジン点火、回路接続、異常なし!』
すると、ヤマトのメインエンジンが推進力を生み出し、勢いよくメインエンジンが点火し、徐々にスピードを上げてドライドックを去っていった。
ヤマトだけでなく、コンゴウ、サツマも同様にドライドックを出発し、宇宙へと飛び立っていった。
第一艦橋は一先ず安堵の空気が流れるのだが、
『ん?なんだ?何でまだここにおるんじゃ?』
徳川のそんな間の抜けたような声が第一艦橋に聞こえてきた。
「徳川さん?」
何事かと古代は山崎が座っている機関コンソールに行き、機関室とのモニターで様子を見るが、山崎も古代も驚いた。
何と、ドライドックのAIが生み出したホログラムが一人。まだ機関室に残っていたからだ。
アゼルメニアに着いた南部、今井、透子たちを、先に降りていたヤマトの真田たちが出迎えた。
「ようこそ、今井艦長」
「真田技師長。作戦会議ではホログラムでしたね。実際に会うのはこれが初めてですが」
そうして真田と早紀は握手を交わしたが、真田は透子まで一緒に来るとは聞いてなかったらしく、それもヤマトの白い制服を着ている姿に驚いていた。
「桂木女史もここへ?」
「えぇ、その……新見情報長に……」
「早紀」
透子の言葉を遮るようにそう声をかけたのは、六角美沙。彼女は元々空間騎兵隊の軍医だったが、ヤマトの医療部員が不足していた上に、前回のイスカンダルへの航海では佐渡の助手を勤めた真琴が月に残っていたことなどが重なり、臨時ではあるが衛生科の
ただ、こちらは透子と異なり制服の上から白衣を着たままだった。
「……六角軍医。お久しぶりです……」
早紀は明らかに話し辛そうな様子だった。
なので、早々に彼女は美沙から目を逸らして、ポケットに入れていたデータクリスタルを二つ取り出して真田に渡した。
「技師長。大統領から地球がアゼルメニアに輸出できる物品のリストをご用意しました。もう一つには、地球軍の兵器の情報も」
「兵器だって?」
真田の顔色が変わった。地球製の兵器をアゼルメニアに輸出するだなんて。
「あぁ、真田さん……ちょっとお話しが……」
南部は、皆に聞こえないよう真田とともに一旦彼らから離れて言う。
……背後では美沙が透子、グラ、そして早紀が、真田に聞こえないように何かを話していたが。
まず、南部は真田に謝った。
「……すみません、俺の親父が勝手に……」
「君のお父さんというと、康造さんか」
「親父のやつ、アゼルメニアに自分たちの兵器を売り込みたいらしい……。ちなみに、データを下見しましたが、波動砲は載ってませんでした」
「ギリギリで良心は残っていたか」
「さぁ、どうでしょうね……」
南部康造が社長を勤める南部重工はヤマトだけでなく、ドレッドノート級やアンドロメダ級の主砲や波動砲の発射機構も作っている。当然、これら波動砲搭載艦船の建造の際にイスカンダル条約に準ずる宣誓書に会社代表としてサインもしていた。
波動砲の存在は他の勢力には半ば秘匿された最終兵器であると同時に、それを地球軍以外が使ってはならないこと。むしろ、所持こそ許されても兵器としての使用を一切禁止にすることも、イスカンダル条約では厳格に明記されていたほどだ。
アゼルメニアの中央商工会議事堂に向かうホバークラフト内での真田と南部の表情は暗く、真田は心ここに在らずという感じだった───。
「───なだ…ん。真田さん」
「あ、あぁ……何だ?」
「私たちはここで降ります」
美沙に声を掛けられて我に返ると、気付けば中央商工会議事堂に向かうはずだった彼らのホバークラフトは、ある場所に一回降りていた。
「ここは……!」
真田はその巨大な建物と、その正体を知っていてなお驚く。今日は驚くのに事欠かない一日だと真田も思った。
彼らの目の前には、まるでレイキャビクにかつて存在したハットルグリムス教会のような姿の建物を中心にした、大きな街のような構造物。
「アゼルメニアの中央図書館か……!」
「例のあれを調べられる唯一の場所かもしれない。私の目的地はここなんです」
そう言って美沙と透子が降りようとすると、
「ま、待ってくれ。私も……」
「真田さん、ダメですよ」
「そうですよ。言い出しっぺの人がドロップアウトしちゃうなんて」
真田にとってもアゼルメニアの中央図書館は興味深い存在だった。
何せ、ここは銀河外縁部有数の蔵書数を誇る巨大図書館であり、アゼルメニアに降りてここの噂を聞いた時に一度は訪れたいと真田は願っていた。美沙がさっき透子の言葉を遮ったのもこれが理由だ。
子供のように目を輝かせてホバークラフトを降りようとした真田だったが、笑顔だが目が笑ってない南部と早紀に拘束され、結局そのままホバークラフトは離陸し、中央商工会議事堂へ「連行」されることになった。
アゼルメニア宙域をパトロールしている警邏艦隊。
旗艦はナスカ級中型空母をベースに飛行甲板を廃止、代わりに多数の砲塔を搭載した重巡洋艦である「ヴェンタニール」。
ヤマトはその艦が率いる艦隊と並走を始める。
その艦をたまたまの廊下の窓の外で見掛けたメーザーは、
「……あれ、ナスカが見たら間違いなく激怒するよな……」
そんなことを呟いた。
「メーザー、行くぞぃ」
「あ、はい、佐渡先生」
そのメーザーだが、保安部員と空間騎兵隊、それに佐渡と共に、食堂から仮眠室へ弁当を運んでいる最中だった。
『で、あんたたち地球軍艦隊が俺たちアゼルメニアの警邏艦隊に協力する、というのか?』
ヴェンタニールの艦長は例によってトラリット・ティラル。アゼルメニア宙域にやってきた当初のヤマト艦隊を「歓迎」しようとしたあの厳ついディノサウロイドがヤマトのスクリーンに再び映り込む。
一瞬彼は後方にいたクルーと顔を見合わせて、
『……悪いが足手まといだ』
「何故ですか?」
『このアゼルメニア宙域には天然・人工を問わずに多数の要害がある。ワープ妨害フィールドもそうだが、暗黒物質に超新星の残骸の成分、その他諸々から成るディストーションフィールドがある。お前たちの艦が搭載しているような兵器はこの宙域では威力が格段に落ちて役に立たないだろう。さらに大抵の船は空間障害の影響で全速力を出せんぞ』
「……」
厳つく、対面する者によっては恐怖心を煽りそうな姿のティラルだが、彼の言うことは正論だ。
そもそも、ヤマトも地球艦隊のどの艦もこの空間では一発も砲を放っていないのだから反証も出来ない。だが、幸い古代は別のアプローチを知っていた。
「ティラル司令官。最近この辺りでは、貨客船が何者かに襲撃される事件が多発しているとか」
『それが?部外者には関係なかろう』
「我々は、もしかするとその襲撃者の正体を知っているかもしれない」
『……何?』
再びティラルは自分のクルーと顔を見合わせてから、古代に問いかけた。
『それは本当か?』
「あくまでも推測だ。だが、可能性は高いだろう」
『司令官。警邏艦隊司令部からです』
少し遅れて、ティラルの元にもある情報が寄せられてきた。
すると、ティラルの顔色が変わった。
『ガトランティス艦に注意されたし、だと?』
古代は言った。
「その通りだ」
『何故ガトランティスが今更攻めてくるというのだ? 80年前、これを含めて連中の船を大量に鹵獲して以来だというのに』
「理由はわからない。だが、攻めてくる艦船の形におおよその見当が我々には付いている」
古代が技術科長席に座る新見に目配せすると、新見は頷いてコンソールを操作。
次に新見からのアイコンタクトを受けて相原は、データ通信システムをオンラインにした。
『司令官。地球船からデータが届きました』
すぐにそれはティラルの目にも入る。
彼の目の前にはホログラフィック映像で小型ながら立体化されたカラクルム級戦艦が映し出された。
『これが攻めてくるというのか?』
「その艦はカラクルム級戦艦だ。船殻はニュートロニウムの装甲で覆われており、我々の通常兵器は全く役に立たなかった」
『実際に戦った事があるような口ぶりだが?』
「そうだ」
『……なるほど。我々のイオン加速粒子砲が通用しない可能性もあるか』
ティラルも冷静にその可能性を受け止めた。
そもそも、アゼルメニアがガトランティスやガミラスといった侵略者を退けて、あろうことか彼らの艦を鹵獲して警邏艦隊に転用しているのは、こんな障壁の多い空間でも十分に使える特殊な星間航行用機関とイオン加速粒子砲で敵艦を簡単に行動不能に出来たからだった。
すると、ティラルのすぐ後ろでブラキオサウルスみたいな顔をした通信士が慌てて報告してきた。
『司令官!第一級遭難信号を受信しました!』
ほぼ同時に相原も、
「艦長、包囲右舷45度、上下角マイナス5°方向から信号を確認しました」
『「聞かせろ」』
ティラルと古代の指示が被った。
すると、両方の司令室のスピーカーから耳障りなノイズと共に、
『誰か助けてくれ!こちら貨客船タグリエン!正体不明の敵に襲われてる!頼む誰か……』
誰かからの救難信号はそこで通信が途絶えた。
「島、相原が今言った座標を設定して前進」
「もう入力してある。全速前進、ヨーソロー!」
するとヤマトと航空隊、それに随行艦の軽巡キタカミとオオムロ、駆逐艦ユウナギは、警邏艦隊に先んじて救難信号が発進された場所へと脇目も振らずに向かう。
その後ろ姿をヴェンタニールの艦橋でティラルは見ていると、
「……ふん、部外者のくせに。俺たちよりも行動が早いじゃねぇか」
「司令官?」
「さっさと行くぞ。このままでは警邏艦隊の名が廃る」
ティラル率いるアゼルメニアの警邏艦隊が、ヤマトを追うようにして救難信号の発信源へと全速力で向かうのだが。
「……連中、一体ドライドックでどんな修理を受けたんだ?」
ヤマト率いる地球艦隊の速力は、彼らが遭遇したどんな船よりも速く、追いつけなかった。
「美沙先生!」
「あら、美影ちゃんに、ミッターさんと斎藤隊長も?何でここに?」
中央図書館に辿り着いた美沙と透子を待っていたのは、領事館職員の制服を着た桐生美影とミッター・オストヴェント、それに斎藤だった。
美沙は美影が救出された後に彼女に外傷がないかを確かめた時に会っているので初対面ではない。
「あなたは?」
「あ、はい。私は桐生美影といいます、よろしくお願いします、桂木先生!」
「せ、先生だなんて……」
「始兄が桂木先生のことを話している時にそう呼んでいたので!」
透子が斎藤に視線を向けると、斎藤はそっぽを向いて知らないふりをして口笛を吹いていた。美沙は思い出したように美影に問う。
「美影ちゃん、こんなところにいて大丈夫なの?事情聴取は?」
「終わりました。ただ、護衛なしでここに来るのは危ないってマーリン様に言われたので、ミッターさんと始兄に護衛をお願いしました」
「……本当は俺も止めたんだけどなぁ」
斎藤が呟くようにそんなことを言うが、
「まぁ、なんだかんだ言って、あなたは妹には弱いみたいですね」
「おいおい、言うな……」
ミッターはクスクスと笑って斎藤を茶化したが、斎藤は力なく額に手を当てて、顔を下に向けて恥ずかしそうだった。
アゼルメニアの中央図書館はその蔵書数がもはや聞いたことのない1京冊とも10京冊ともいう凄まじい桁数を誇る。
それを象徴するかのように、まるで図書館は巨人の家のような大きさであり、ダンジョンのようだった。
天井までは高層ビル十階分にも相当する高さがあるように見え、図書館の中にも階層がいくつもあるのがわかる。空中には立方体の本棚のようなものまで浮いている。
ただし、この一見本棚に見えるものは、それらの蔵書のデータを円滑に取り出すためのCPUやデータプロセッサーである。
幸い、インフォメーションカウンターは入場口から見えるすぐの位置にあった。
「いらっしゃいませ。アゼルメニア中央図書館にようこそ」
受付嬢らしき女性が、美沙、透子たちを出迎えた。
「本日のご利用目的はお決まりでしょうか?閲覧する書物を指定して頂けましたら、こちらで検索できます」
それに対して美影は、
「閲覧する書物は決まってないの」
そう答えると、受付嬢は一瞬遠い目をしてから、我に返って答える。
「では、ワード検索による検索を行います。ワードをお教えください」
「……おい、本当に大丈夫なのかよ、この嬢ちゃんは」
「……失礼ですね」
受付嬢は斎藤の言葉にムッとしたように答えた。
「私はこの図書館の中央AIの一人です。ルーティグ・ジルウェと言います。初めまして」
「AIだって……?」
「ドライドックにいたAIとは違って名前があるのね」
斎藤は図書館の受付嬢がAIの作り出したホログラムなのに、普通に人と会話しているような感覚になって驚いた。
一方で透子は管理AIに固有名まであることを驚いた。
ドライドックでヤマトが修理を始めた際、どこかですれ違ったらしく透子はドライドック427のAIのことを知っていた。
美影は「それ聞いてない。後で詳しく教えて」と言わんばかりの眼差しを透子に向けている。
「私はこの場で中央図書館のコンピューターコアに直接アクセスできます。まず、何から調べますか?」
「……じゃあ『遺跡 夢』で検索」
美沙がそう言うと、ルーティグは瞬きを数回。
「検索がヒットしました。遺跡 夢……検索結果は11000件以上でした」
「1万1000冊は流石に多すぎるし、重いわね……」
「重い、ですか?」
「だって、1万冊以上が該当したんでしょ?」
「それが何か?」
ルーティグはそこまで言って、美沙の言いたいことを理解した。
「……あぁ。あなた方は「本」というアナログ媒体をご想像されたのですね? 確かに検索結果は11000件になりますが、該当する書物なら、このデータパッドにダウンロードして閲覧できます」
「それでも11000件はちょっと……」
「検索条件を変えたらどうだ?」
ミッターがそう言うと、今度は透子が、
「じゃあ『遺跡 通信』でどうかしら?」
「遺跡 通信……検索結果9268件」
「もう少し検索を絞らないといけないわね……」
「ねぇ、美沙先生、桂木先生。アルファ・ケンタウリ11にあった遺跡ってテレザートやテレサと関係あったんですよね?」
「えぇ」
「じゃぁ、ルーティグさん、『遺跡 テレサ テレザート』で検索!」
「遺跡 テレサ テレザート……」
すると、今度は検索に時間がかかったらしい。先ほどよりも返事に数秒の間があった。
「……検索結果250000件以上。如何いたしますか?」
「げ、増えた……流石、銀河最大の図書館……」
「はぁー……感心してる場合じゃねぇだろ……」
「なら、ガトランティスとの関連性を考えて『遺跡 ガトランティス』と検索したらどうかしら?」
美沙がそう言うと、透子がルーティグに言った。
「じゃあ『遺跡 ガトランティス』で検索をお願い!」
「遺跡 ガトランティス……検索ヒットせず」
「……え?ダメなの?」
「……もしかして、『遺跡 ガトラザート』では?」
透子が「もしかしたら」と思い、「ガトラザート」という単語を口に出した。
「ガトラザート? あの遺跡を作った種族よね?」
「ガトランティスに関する記録はここ85年ほどのものしかありません。ですが、ガトラザートの遺跡で御座いましたら存在します」
美沙の確認に透子は頷き、ルーティグは「ガトランティス」よりは「ガトラザート」に関連する情報の方が多いことに言及した。
しかし、斎藤は溜め息を吐くように言った。
「そもそも、そのガトラザートの事がわからねぇんだが……?」
斎藤もアルファ・ケンタウリ11に駐屯して、現地の遺跡調査の話は何度か聞いていた。
しかし、それでも内容を小耳に挟んだ程度であり、遺跡どころか、それを作ったとされる「ガトラザート人」という古い種族については碌に理解できていない。
なので、この場で改めて情報を整理する意図も込めて、美沙はルーティグに「ガトラザート文明」の説明を求めた。
「ルーティグ。そのガトラザート文明について説明できる?」
「承知しました……ガトラザートは謎の多い文明です。その歴史は古く、類似性が強いとされるジェタリア人が出現したとされる時代よりさらに古い存在です。ガトラザート人は1000万年前の天の川銀河の大異変を期に、その後の600万年以内に絶滅した太古の種族であり、この銀河系のいくつかの惑星に遺跡などの痕跡を残しています」
「とすると、もしかして……ルーティグ。『遺跡』はそのまま。OR検索はできる?」
「可能です」
「では、その条件で『セントーリ11』もしくは『アルファ・ケンタウリ11』で検索結果を」
「検索できました。『遺跡 アルファ・ケンタウリ11』では検索にヒットなし。しかし、『遺跡 セントーリ11』では検索結果が2件ございます」
「それを見せて」
「かしこまりました」
ルーティグが手にしたデータパッドに、その2件に関連する書物がダウンロードされる。
それをざっと見る一同。
「バレル宇宙旅行記と、ガミラス考古学調査資料?」
「どちらにもセントーリ11と遺跡の記述、それにガトラザート文明のものであると記されています」
「じゃぁ、検索結果に、『通信』を追加すると?」
「検索中……該当するものはありません」
「ダメか……」
「いや、これでわかった事がある」
「何がだよミッター?」
「地球の考古学チーム、つまり、透子さんたちがガミラスやバレル一家よりも深いところまで潜ったってことさ。セントーリ11はガミラス領から遠く離れていて遺跡そのものを調べている時間もなかったはずだろう?」
「じゃぁ、調べる時間が十分にあった遺跡も?」
「宇宙は広い。一つか二つはそういうのがあって良いじゃないか。検索条件。『通信』と『セントーリ11』を外し、代わりに『遺跡 ガトラザート テレザート』で検索」
「検索開始……『遺跡 ガトラザート テレザート』の検索結果500件以上です」
「やった。かなり絞られた」
「さらに、例えば画像や映像をお見せいただければ、類似する物を検索する事も可能です』
「透子、画像データ持ってきた?」
「うん。アナライザーがスキャンした遺跡のデータと一緒に」
「拝見します。そのデータノードを私の手に」
「?」
データノード。それはつまり、透子が持ってきたUSBメモリーみたいな小型の記録装置のこと。
ルーティグの手に乗せると、それをルーティグがスキャン。すると、透子たちの目の前で今まで何もなかったはずの空間にモニターが現れた。
「……これは……凄い」
ルーティグはAIだ。そんな彼女に似つかわしくない言葉が暫くして口から漏れた。
「遺跡の調査資料は探せば数百万件は出てきますが、このような遺跡内部の詳細なスキャンデータは……これまでの蔵書には存在しません」
アナライザーが遺跡内部のスキャンを行ないながら画像も収集していたため、ルーティグの中では既にセントーリ11の遺跡の完全な構造図が出来上がっていた。
それらの中で、文字らしきものをルーティグは見つける。
「見つけました。これは……この遺跡の文字は古代ガトラザート語ですね。該当する類似物を絞り込みます……出ました。検索結果は102件。如何いたしますか?」
「100件か……手分けして見ていけば何とかなりそうだけどな……」
「これは徹夜になりそうね」
「良いじゃないですか。ドンと来いですよ!」
「じゃ、その102件分をお願いするわ」
「では、少々お待ちください。人数分のデータパッドもご用意いたします。ワトン」
ルーティグは同じ図書館内にいた別の司書型ホログラムの女性を呼び止める。女性と言うよりは少女に近い風貌だったが。
「ワトンです」
「この人たちを32番に案内し、持て成す用意を」
「畏まりました」
「持て成すって、そんな大袈裟な……」
「調べ物には時間がかかるものです。ワトンが案内する場所で暫し資料をお待ちくださいませ」
そうして言われるがまま、ワトンに連れられて一行が向かった先にあったのは、
「何だか、ここって……」
「昔の……カフェみたいだな」
どこか懐かしさを感じさせる、だが、数千人を一度に収容できる巨大なカフェへと、彼らは連れてこられた。
32番とは、テーブルの番号だったわけだ。
「お食事やお飲み物のサービスも御座います。ご利用なされますか?」
「じゃあ、お願いするね。こういうのは頭を使うからエネルギーが必要よ!」
「では、メニューはこちらです」
そうしてワトンが彼らに手渡したのは、何故か厚紙のような、これも懐かしい感じのメニューだった。
中身を見た美沙と透子も度肝を抜かれる。
「メニューも豊富ね……」
「……でもアレルギーとか、食物がよくわからないんだけど……」
星間国家の文化の壁。その中で一番大きいのは、言語ではなく、価値観でもなく、食べ物なのかもしれない。
そんなことを透子は思ったが、
「ああ、大丈夫。私はアゼルメニアに慣れてきたところなので、私が決めてもいいですか?」
そう言い出した美影に、全て任せることにした。
中央図書館で調べ物を始めようとしていた一方、アゼルメニアの中央商工会議事堂。
中央にはドームとタワーを組み合わせたような建物があり、イタリアのコロッセオのような円形闘技場が建物の外側を覆っている。それも、長年の風化でボロボロになるどころか、まるで昨日建てられたばかりのようにピカピカだ。
ここはどこか古風なヨーロッパの雰囲気を醸し出しているが、役割はニューヨークのウォール街を遥かに凌ぐ銀河外縁部の経済の中心地である。
中央商工会議事堂には、他の星間国家との取引のために最高評議会の議員たちが足繁く通っている。
その中央会議室はまるで大学の講堂のような大きさだが、今この場にいるのは地球・ガミラス側からは真田とキーマン、早紀、南部。それにマーリンと、その付き添いであるグラとヒルデである。
護衛役の星名と空間騎兵隊の数人は外の廊下に待機している。
一方、アゼルメニア側からは、最高議長であるレーニアーと、他に議員数人。
ところで、早紀がプレゼンテーションをしている目の前で、猫耳を付けた少女のような女性が机に伏せていた。
「あの……議長?この方は?」
「ん?あぁ、彼女はファーランダー議員です。このアゼルメニアにおける科学研究庁の代表です。連日研究漬けで寝不足なんでしょう」
「よろしいのですか?」
早紀が困惑している様子にレーニアー最高議長は、
「……あぁ、なるほど。大丈夫。一応、彼女はこれでも起きているのですよ。ほら、耳が動いてるでしょ?声は届いてます。聴いて記憶しています。彼女の種族特有の物ですね。勿論、他の者が居眠りをしていたら当然、問題ですがね」
「はぁ……」
「早く本題に入りましょう」
「では、こちらから提供できそうな品物をリストアップしてあります」
そう言って先ほどのデータクリスタルを、目の前の机にある差し込み口に入れる。
すると、議員たちの目の前にその品物のリストが出てきた。
「海水を始めとして、ナノマシンと地球製の兵器に、O.M.C.S.、ジャンプゲート技術……?」
アゼルメニアの議員たちにとっては見たことのない単語であるが、レーニアー最高議長のすぐ横にいた若そうな男性議員は、
「地球の食料品や趣向品は今回の取引には含まれていないのですか?」
「残念ながらそれはまだ次回に……」
「うーん、それはちょっと残念でしたね。地球のお酒は少し楽しみにしていたのですが」
「となると、最初は地球製のナノマシンですか?」
「ご説明します」
このナノマシンに関しては、真田が解説役を買って出たのだが、議員たちの反応が著しくないことや、彼らの心の声が聞こえるマーリンは、
(どうやら、この交渉は上手く行かないかもしれないわね……)と考えていた。
そこで、グラの目配せをすると、グラはその目配せをヒルデに向けた。
ヒルデがそれに気付くと、議員たちに気付かれないよう、静かに会議室を出て行った。
ヤマトと随行艦、それに警邏艦隊はアゼルメニアがギリギリ肉眼で見える位置にいた。
しかし、事態は混迷を極めていく。
「別方向、方位右41°から救難信号を確認!」
『こちらキタカミ!そちらに向かう!』
「更に別の宙域からも救難信号が!」
『オオムロだ。これよりそちらに向かう』
「司令官。方位左22°からも救難信号です」
「第7分隊を行かせろ。今まだついて来ている分隊は?」
「もういません。我々だけです」
「まただ!更に救難信号を確認!」
『こちらE.F.S.ユウナギ。救難信号の確認地点に向かう』
「艦長。これで当初の目標に向かっているのは私たちヤマトと、ティラル司令官の船だけです」
「あまりにも救難信号が多すぎる……」
「交易が売りのアゼルメニアにしては宙域の治安が悪すぎる気がするな」
ここまででヤマトがキャッチできた救難信号は最低でも16個。それも、最初の救難信号が発信されてからまだたった10分だというのに、その間にここまで連続して出てきた。
「あっ……艦長、正面に感あり!」
「メインスクリーンへ」
レーダー席にいた百合亜の報告にメインスクリーンをオンにすると、そこには恐れていた事態が待っていた。
「カラクルム級戦艦1隻、及び巡洋艦3隻、駆逐艦17隻を確認!」
「あ、おい、あれをみろ!」
太田がサブモニターで何かを見つけたらしく、映像を拡大した。
「あれは、脱出ポッドのようだが……」
そのポッドのうちの一つが、ガトランティス艦に撃ち落とされた。
「酷い、なんてことを……!」
百合亜もその光景に胸を痛めた。
『クソ、やはりそういうことか!』
ティラルの声が何かを叩きつける音と共に、ヤマトのスピーカーに届いた。
「ティラル司令官?」
『古代艦長、俺が許す、武器を使え!あいつらを止めるぞ!』
ティラルがそう言った後、ヴェンタニールの甲板に多数搭載されたイオン加速粒子砲の怒涛の発砲が始まる。
それらはガトランティスの艦船を乱れ撃ちし、イオン加速粒子砲から放たれた紫色のエネルギーの塊はそれらのほとんどに命中した。
「敵艦9隻、機能停止しました!」
「機能停止だって?」
「分析してみたわ。今の攻撃は極性を持たせた高エネルギーのテトリオン粒子。それをイオン化させた塊にして撃ち出したようね。細かい仕組みまでは今のところわからないけど、敵艦の機械を残らずショートさせた」
新見はヴェンタニールがイオン加速粒子砲から放ったエネルギー弾をそう分析した。
「被弾した艦は漂流を始めました」
「次弾、続けて放て!」
ティラルの命令と共に第二波を放つヴェンタニール。
イオン加速粒子砲の直撃を受けたガトランティス艦は次々と航行不能に陥る。
しかし、
「敵戦艦、依然としてこちらに向かってきます!」
「敵艦発砲!」
カラクルム級戦艦の砲撃がヴェンタニールに向かう。
「案ずるな、大したことないだろう」
この宙域の空間障害は、通常兵器による攻撃力を大幅に阻害する。
戦艦とはいえ、それは例外ではない。そう思っていたティラルだったが、
「!?」
ヴェンタニールの艦橋が激しく揺れた。
「直撃しました、機関部の被害甚大!」
「そんなバカな……!?」
「敵艦、次弾装填、発射してきました!」
「か、回避行動!」
ヤマトの警告通り、イオン加速粒子砲がカラクルム級に効果がないかもしれない。それだけはティラルも理解していた。侮っていたわけではなかった。
しかし、今の状況は実に無様だった。
機関部に大きなダメージを受け、回避行動に必要なエネルギーを絞り出すことすらやっとという有り様。
何とか艦橋への直撃こそ避けられたが、イオン加速粒子砲を搭載したかつての飛行甲板の内、実に前方半分を吹き飛ばされてしまった。
「主砲甲板大破!」
「前方イオン砲は使えません!」
「敵艦、向かって来ます!」
こんなこと、アゼルメニアの警邏艦隊では通常起こり得ないことだ。
艦橋のクルーたちは努めて冷静を装っていたが、内心はパニック状態だった。それはティラルも例外ではない。
そして、ティラルの目に、カラクルム級の主砲が光ったのが見えた時───そこに別の砲撃音が轟いた。
青白い閃光が空間を走り、そのままカラクルム級に届いたと思えば船体を貫き、そして、カラクルム級を爆発させた。
「ヤ、ヤマトです!今の攻撃はヤマトからです!!」
ブリッジクルーの一人がそう報告してきて、ティラルは漸く我に返った。
『司令官、大丈夫か?』
「……あぁ。古代艦長。生きてる。油断してこのざまだが……」
『救命艇を送る』
「いや、俺たちのことはいい、それよりも襲撃された船の生存者を探してくれ!」
『艦長。先ほどの座標に向かった駆逐艦ユウナギから救難信号を受信しました』
『クソッ……仕方ない。加藤、アルファ隊はここに残ってくれ。コスモハウンドを発進し、生存者の捜索に当たれ』
『……アルファリーダー、加藤だ。了解、艦長』
「すまないな」
『乗りかかった船だ。見捨てるわけにはいかない』
そう言って古代は通信を切った。
ヤマトの側面格納庫が開き、三田姉妹の操縦するコスモハウンドが発進していく。
側面格納庫を閉じると、すぐにヤマトは方向転換し、駆逐艦ユウナギへと向かう。
加藤率いるアルファ中隊はその護衛と生存者捜索支援のため、この場に残った。
「なるほど……地球のナノテクノロジーはかなり進歩している様子ですが……」
「何かご不満な点でもありましたか?」
「うーん……正直言えば、交易品としては弱いですね。我々は工業用ナノマシンも医療用ナノマシンも既に何千年も前に実用化しており、それらは数千年間改良を続けながら今でも現場で使われていますから」
科学知識が豊富な真田の力説にも関わらず、議員たちの反応は冷ややかだった。
この場に地球のナノマシンの権威である上田を連れてきていたら状況も変わっていたかもしれないが、無い物強請りをしても仕方がない。
真田がマーリンに顔を向けると、マーリンは首を横に振った。
「……そうですか。では、次は地球製の兵器に関してです。南部。今井艦長」
真田と替わり、この項目に関しては、南部と早紀が解説役を務める。
「私は、地球連邦防衛軍所属、宇宙戦艦E.F.S.ヤマト戦術科所属砲雷長の南部と申します。今回は、この地球製兵器の……製造企業の代表としてこの場に参加させていただきました」
「先ほど自己紹介させていただきました、今井早紀です。私は地球防衛軍長官、藤堂平九郎の名代ですが、同時に地球連邦防衛軍宇宙重巡洋艦E.F.S.コンゴウの艦長でもあります」
「……なるほど。実際に砲塔を作っている企業の御曹司と、地球防衛軍長官の代理。にも関わらず、二人とも現場を知っている経験者というわけですな……」
レーニアー最高議長に並ぶ中年の議員がそんなことを言うが、南部は自分がこの場に来たのが不本意だったことが隠しきれていない。早紀も長官としての名代として振る舞っているが、緊張している様子だった。
「……正直言うと、我々は地球製の兵器には興味がないのです。次の項目に飛ばしていただけますかな?」
「しかし……」
「このO.M.C.S.とやらの方が気になりますのでな」
「……わかりました」
これは上手くいきそうにない。地球側の代表たちはいよいよそんなことを考え始めていた。
「それで、このO.M.C.S.とは?」
「現在ドライドックにいるグナイゼナウや、既に出発したヤマトなどの地球船に装備されている食糧供給システムです」
「食糧供給システム!?」
その単語を聞いた途端、先ほどまで寝ていた猫耳の女性が飛び起きた。
「ということは……つまりレプリケーションシステムですか!?」
「レプ……?」
南部にはその単語の意味が一瞬わからなかった。
「……レプリケーションシステム。物質をエネルギーに変えるテクノロジーさえあれば、エネルギーがある限り食糧を無限に供給できるシステムのことだ」
「そう、それ! 地球人にもその概念があるんですね!」
少し子供っぽい態度にレーニアー最高議長は頭を悩ませた様子で、
「ファニア。言葉を慎みなさい」
「で、でも……」
「真田さん。彼女はオルファニア・ファーランダー。グレイシア人です」
「どうぞ、よろしく」
「どうも……それでは、O.M.C.S.の詳しい説明を致します」
真田がそう言うと、議員たちの目の前のモニターに、ある映像が流れる。
それは、雑草の様な草が原子レベルの有機物に分解され、再構築され、パンや野菜などの食材に変化する再現だった。
「この供給システムは、あらゆる水や、食材にはなり得ない動植物、傷んだ食材、食べ残し、破棄された物まで、ありとあらゆる有機物を変換し、再構築して食材を作り出す有機物リサイクルシステムです」
「むぅ……エネルギーを万能に食物に変換するシステムではないんですね」
「残念ながら。また、このシステムの運用には波動機関の様な莫大なエネルギーが必要となります。しかし、アゼルメニアには恒星を利用したエネルギー供給システムがあると聞きます。そのエネルギーを利用する事で運用は可能かと考えます」
「ファニア。どう思う?」
「うーん……望んでいたシステムとはちょっと違うのが残念ですが……まぁ、出来れば欲しいですね」
「だそうだ。皆、他に何か質問はあるか?」
「質問をしてもよろしいですか?」
手を挙げたのは意外にも真田だった。
「真田技師長」
「ありがとうございます、議長閣下。ファニア女史に質問なのですが、アゼルメニアの修理用ドライドックでは船の部品を何も無い所から作り出しているのを見ました。あれは、エネルギーを用いたレプリケーション技術ではありませんか?」
「……地球人は、思っていたよりも賢い種族のようですね」
「ファニア」
「最高議長、議員の方々。地球側が緊急で貿易交渉を頼んできたと思ったら、彼らは明らかに準備が不足な状態でここまで来ましたよね? 我々みたいな大きな貿易国家と取引するのであれば、地球側も防衛長官の名代ではなく本人が来るのが筋でしょう?」
それを言われると地球側がぐうの音も出なかったし、会議室が静まり返ってしまった。
「しかし」
ファニアはそう前置きした上で、
「……礼を失したのはむしろ私たちのようですね」
「と言いますと?」
「地球人が星間航行技術が確立したのはごく最近だと聞き及んでいました。それだけに、我々はあなた方の技術を過小評価していました。でも、それが誤りだったと今気付きました。皆さん、そうでしょう?」
ファニアがそう言うと、アゼルメニア側の議員たちにも騒めきが。
「さて、遅れてしまいましたが、真田技師長の質問にお答えしましょう。我々はエネルギーを物質に変換する技術を持っています。それはもう既に数百年前には発明された技術でした。実用化したことでドライドックでの修理作業が格段に効率良くなりました」
そこまでファニアは言った上で、
「……しかし、有機物をエネルギーに変換する技術は、未だに終わりが見えません。食べ残しですら、それを新しい食材に変換する技術を我々は確立できていないのです」
「なるほど……無機物に比べて有機物は構造が複雑だからですね」
「えぇ。その通りです」
「……最高議長」
一人の連絡員がレーニアーに耳打ちすると、途端、彼女の顔色が変わった。
「何ですって!?すぐにお通ししなさい!」
「はっ!」
「どうしたんですか?」
「それはこちらのセリフです」
事情が飲み込めていない早紀だが、議長がそう言った直後、会議室の扉が開いて姿を見せたのは、イスカンダルの装束を身に纏った女性だった。
それを見て、アゼルメニアの議員たちが全員起立した、ファニアは一歩遅れてではあるが。
同様に地球・ガミラス側も起立する。
「ご紹介します。イスカンダル代表。サーシャ・イスカンダルでございます。姉はスターシア女王が次女でございます」
マーリンがそう紹介した途端、会議室の空気が一気に変わったような感じがした。
ただし、物怖じしていないのはまたしてもファニアだけであったが。
今作の今井早紀の家族関係。
一見複雑なので、敢えて分かりやすく言うと、
①今井早紀の姉が六角美沙。
②早紀の義理の父の姓が「今井」。
③早紀の母、つまり、藤堂平九郎の妻・藤堂千晶の旧姓が「六角」。
2202世界とは異なり、この2202リテイクの世界では、千晶さんは存命ですが、平九郎長官との間に私生活上のすれ違いが起きて、これが原因で離婚。その後、今井 清という男性と再婚しています。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
-
短い
-
普通
-
長すぎぃ……