宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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第18話「アゼルメニア宙域での戦い」

 アゼルメニア周辺宙域でパトロール任務を行なっていたヤマト含む地球艦隊だったが、太田は思わしくない報告をする。

 

「駆逐艦ユウナギはかなり損傷しています」

「主砲、目標を捉え次第各個に撃て」

 

 砲術長の席には桜井美穂が座り、そう指示を飛ばす。

 駆逐艦程度では真正面から戦艦を相手にするのは難しい。相手が船殻にニュートロニウムの装甲を纏ったカラクルム級戦艦だったら尚更だ。

 幸い、ユウナギはヤマトがすぐに急行できる位置から救難信号を発していた。

 

「艦長。ユウナギより入電。音声のみです」

「繋げ」

『こちらユウナギの艦長、水谷大尉です。古代艦長、救援に感謝します』

「被害は?」

『損傷は激しいですが、死者はいません。しかし、せっかく直したのに……』

「自力で航行可能か?」

『はい。アゼルメニアまでなら戻れます』

「では急いで修理に向かえ」

『了解』

「艦長。キタカミからも入電です。現在、ガトランティスの小規模艦隊と交戦中とのこと。警邏艦隊のバックアップに回っています」

『第二艦橋から艦長!』

「西条?」

『艦長、オオムロから緊急入電です、ガトランティスの大艦隊を発見したそうです!』

「何だと?島。すぐにそこへ向かうぞ!」

「了解、コースを設定!」

 

 いよいよ来てしまったか……。ヤマトの第一艦橋にいるクルーのほとんどは、この後何が待っているのか予想ができた。

 問題はそれに加えて、ガトランティスがどんな強力な兵器を用意しているのか、ということだった。

 


 

 アゼルメニアの中央図書館では、電子書籍となっている書物をミッター、美影、美紗、斎藤と透子でこの1時間読み漁っていたが、美紗は時差ボケらしく早々に机に突っ伏してしまい、斎藤は早くもいびきを立てながら寝ているような有様だった。

 中央図書館には一日中開店しているカフェも併設されているが、そこの管理を行なっているワトンという女性型AIのホログラムが、美沙には毛布のようなものを掛け、いびきの五月蝿い斎藤の顔には透明なシートのようなものを被せる。

 呼吸は苦しくないようだったが、そのシートを被せたことで斎藤のいびきの音は掻き消えた。

 ミッターは立ち上がって伸びをして、腰を捻り、何とか頭をシャキッとしようと頑張っていた。

 机に向かっているのは透子と美影だけだ。

 

「眠くはなりませんか?」

 

 ワトンが美影にそう尋ねたが、

 

「ううん、大丈夫」

 

 美影はそう答えた。

 

「しかし、集中力が12%低下しているように思えます。一度仮眠をとられた方が……」

「……あった」

「え?」

「あったわ」

 

 そう透子が言うと、美影と、まだ起きていたミッターが透子の見つけた資料に目を通す。

 

「エッジリア5って知ってる?」

 

 透子はミッターにそう尋ねると、

 

「いや、聞いたことがない」

「そうね。この星、アゼルメニアから8万5000光年ほど離れていて銀河系内にあった星なの」

「あった?何故過去形?」

「今から約1万4000年前に主星が超新星化。それに伴って消滅した星だからよ。その星を超新星爆発の約3000年前に訪れた探検家が、エッジリア5のことを書き残している」

「超新星化したのは正確には1万3672年前です。空間座標グリッド124・オクタント22シータ」

「どれどれ……」

 

 美影がそれを読み込むと、

 

『エッジリア5のガトラザート人が残した遺跡。主星が既に膨張期に入り数百万年、いつ爆発してもおかしくないと言われた危険地帯だ。だが、私にとってこの遺跡は命をかけるだけの価値があると信じている』

『遺跡の中に進むと、外は500℃にもなる灼熱地獄なのに、遺跡の中はひんやりとしている。酸素もあり、まだヒューマノイドが生存できる環境が残っている。これは奇妙だ』

『最深部に残っていたのは、礼拝堂のようだ。その中央には、あのテレザートのテレサを模したクリスタル製の像がある。それに触った途端、私の意識はどこかへと飛んでいった。遥か彼方の別の銀河系へ……。そこに広がっていたのは、未知なる世界と、そこで生きる人々たちだった』

『気付けば、私は自分の船の中にいた。船のクロノメーターによれば、私があの礼拝堂に着いてから一週間経っていたらしい』

『もう一度遺跡に戻ろうとしたが、既に入口は塞がっていた。船の武器で入口を切り開こうともしたが、まるで傷付いた皮膚が早回しで再生していくように、遺跡の入口は大量の溶岩が私の侵入を阻んでいた。仕方がない。エッジリア5に訪れるのはこれが最後になってしまったな』

『家に帰る途中で、私は遺跡で自分の身に起きたことを推理し始めた。私が触れたテレサの像は、もしや、テレパシーを用いた遠距離通信装置だったのではないだろうか?遺跡の作り主は古代ガトラザート人で間違いないだろう』

「エッジリア5に関する遺跡の情報はこれのみです。作者はヴラセン・ヴィクセン」

 

 ヴラセンが残したとされる探検日記を美影と透子が読み込んでいたら、声が聞こえたのか、美沙は起き出してきた。

 

「この宇宙座標に、爆発した時期……あ、おはよう、美沙先生」

 

 美沙が起きてきたことに気付いた美影は自身の推理の途中でおはようの声を掛けた。

 美沙はアクビをしながらそれに応える。

 

「おはよう……何か見つけたの?」

「はい先生。もしかすると、これはティコの超新星かも」

 

 美沙は美影に尋ねた。

 

「……ティコの超新星?」

「ティコ・ブラーエという天文学者が1572年に発見したとされる超新星です」

 

 ティコの超新星は美影の解説通り、1572年にデンマーク人の天文学者であったティコ・ブラーエが発見した星。

 後の研究で、この「ティコの超新星」*1は、地球から約1万2000光年離れた場所で起きたことが判明している。

 

「ワトン。中央図書館の検索システムは呼び出せる?」

「はい」

「それなら……」

 

 一瞬、このエッジリアの超新星爆発がティコの星だったかどうかを調べたくなったが、

 

「……その、ヴラセン・ヴィクセンって何者?」

「検索します。アゼルメニアの歴史データベースに接続……」

 

 ワトンは空目をして目を右に左に動かした後、右手を軽く振ると、彼女の目の前に空中に浮かんだようなキーボードが現れる。

 それを操作すると、美影たちの目の前に、狐の耳が頭に、尻尾がお尻から生えたような女性のホログラムが出てきた。歳は20〜30代前後といったところか。

 

「……検索完了。ヴラセン・ヴィクセン・ファーランダール。出生は今から1万6712年前。死亡は今から1万6618年前。アゼルメニアを本拠地とした探検家であり、グレイシア人。多数の遺跡を訪れた記録もあり、考古学者として歴史書にも名を残す」

「ワトン。その人が書いた遺跡の資料で、さっきみたいなものはある?」

「というと?」

「えっと……」

「検索条件。《ヴラセン・ヴィクセン》《ガトラザート》《遺跡》《テレパシー》《テレサ》で」

「検索中……二件ヒット。《ヴラセン・ヴィクセン タージキア星系考古学調査日記》と、《ラトロジア7号星訪問日記》です」

「それをデータパッドにダウンロードして?」

「了解しました」

 

 美影は透子に役割を取られてしまい、少し悔しそうだった。

 

「むー……」

「美影ちゃん、拗ねないで。ここからが本題なんだから」

 


 

 所変わって、アゼルメニアの中央商工会議事堂の会議室。

 その扉が開いて姿を見せたのは、イスカンダルの装束を身に纏った女性だった。

 アゼルメニアの議員たちが全員起立した。ファニアは一歩遅れてではあるが。

 同様に地球・ガミラス側も起立する。

 

「ご紹介します。イスカンダル代表。サーシャ・イスカンダルでございます。姉はスターシア女王が次女でございます」

 

 マーリンがそう紹介した途端、会議室の空気が一気に変わったような感じがした。

 

 イスカンダル人の目の前で貿易交渉を継続する、地球・ガミラスとアゼルメニア。アゼルメニア側からしたら、これはかなり効いた不意打ちだ。

 このサーシャ・イスカンダル、その正体は?

 


 

 数時間前。

 

「私も貿易交渉に参加してほしい?」

「えぇ」

「何故?」

 

 ガミラス領事館の館長室に呼び出された雪は、マーリンにそんな頼まれ事をされたが、困惑するばかりだった。

 

「アゼルメニアは確かに貿易国家として大きく、ガミラスにとっても無視できない交易相手よ。和解したのは正解だった。でもね、彼らは侵略を跳ね除け続けているために傲慢になっている節がある。ガミラスと貿易を始めた時なんて元はと言えば侵略行為を行なったガミラスが悪いとしても、上から目線で対応されることも珍しくない。ましてや、地球なんてアゼルメニアの人々からしたら今回初めて名前を聞いたっていう人が多い」

「つまり、アゼルメニアと交渉をしても、地球側がうまく丸め込まれてしまうかもしれないのね?」

「まさにそう」

「それと私が貿易交渉に出ていくことと何の関係が?」

「あなたじゃないの」

「どういうこと?」

「あなたは《森雪》として貿易交渉に出るのではないの。《サーシャ・イスカンダル》としてよ」

「……ちょっと、それ本気で言ってるの?」

「あなたをサーシャの写真と見比べた時は驚いたわ。そっくりなんだもん。連中はイスカンダル星の伝説をよく知っているから、もし地球やガミラスを無下に扱ったら、イスカンダルがアゼルメニアをただでは済まさない、っていうメッセージにもなる」

「でも勝手にそんなこと……」

「ところがね……グラ」

『はい』

「外交チャンネル001を繋いで」

『了解しました』

 

 そうして館長室のホログラムプロジェクターが映し出した相手は……。

 


 

 数時間後。

 つまり、このサーシャは本物のサーシャ・イスカンダルではない。ある筋からの要請で変装を許された森雪である。

 雪はサーシャ・イスカンダルに、ものの見事に化けている。

 普段は金髪でも肌の色からアジア系だとすぐにわかってしまうが、今回はガミラスの技術であるホログラムスキンを使って肌を文字通り雪のように白く見せている。汗で剥がれたり乱れたりするファンデーションよりも扱いやすく効果的だ。

 また、サーシャに完全に化けるため、より輝きの強い金髪のウィッグもつけている。

 ただし、サーシャ=雪の役割は、交渉事への直接介入ではない。

 

「……この度は、姉スターシア・イスカンダルの名代として参りました、妹のサーシャ・イスカンダルでございます。私はあくまでも、交渉のオブザーバーとして同席するようにと命じられておりますので、私に構わず貿易交渉を続けてくださいませ」

 

 そう前置きして席に座った。

 そう、雪=サーシャの役割はオブザーバーだ。

 ただし、

 

(イヤリングには超空間通信装置入りの盗聴器。サーシャの目の色を再現したコンタクトレンズは映像送信器……オブザーバーというよりもスパイに仕上がったわね)

 

 仕掛け人の一人、マーリンはサーシャ=雪が今回担う役割をよく知っている。

 

(我々ヤマトのクルーには雪がサーシャを演じていることは前以て聞かされている。だが、スターシアが雪をサーシャに変装させて盗聴器まで用意してくるとは……波動砲の技術が他国に広がる危険性をかなり強めている。我々はやはり信用されていないみたいだな……)

 

 真田の懸念は的を射ていた。

 

(全く。だからこういう場に来たくなかったんだよ……雪さんにわざわざこんなことさせるぐらいなら、武器関連のデータクリスタルをわざと忘れて来ればよかった……)

 

 南部は早くも貿易交渉に出たことを後悔していた。元から乗り気で無かったことも関係しているが。

 

(イスカンダル人が何故ここにいるの? 急な貿易交渉にしては出来すぎてる……)

 

 一人だけ、事情を知らない早紀は驚いた顔をしていたが、それを見たアゼルメニア側は、まさか地球とガミラスが仕立てたイスカンダル人()だとは気付かなかった。

 


 

 キリシマ級軽巡洋艦オオムロは、ガトランティスのカラクルム級艦隊を発見するも、搭載兵装では太刀打ち出来ないため逃げ回るしかなかった。

 しかし、カラクルム級艦隊による追撃は終わらない。

 カラクルム級の一隻が放った砲火がオオムロのエンジンを直撃した。

 慣性速度も、この宙域の星間物質が抵抗力を生みどんどん低下していく。

 万事休すと思われたその時。

 ヤマトの主砲が、今まさにオオムロにトドメを刺そうとしたカラクルム級を正面から貫いた。

 

「敵艦一隻、撃沈」

「岬。敵艦隊の構成は?」

「カラクルム級戦艦が約30隻。他に敵艦の姿はありません」

「想定していた艦隊とだいぶ違うわね……」

 

 百合亜からの報告を聞いた新見は首を傾げた。

 確かに戦艦30隻というのは大艦隊ではあるが。

 すると今度は、

 

「……あれぇ?何だこれは……?」

 

 センサーの観測を監視していた太田は、奇妙な発見をした。

 

「新見さん、これちょいと見てもらえませんか?」

 

 太田はすぐ横の席にいた新見に声をかけると、彼女も太田が監視していたセンサーの観測データに困惑した。

 

「巨大なエネルギーの揺らぎだわ……アナライザー」

「ハイ。分析シマス」

「あ、待ってください、カラクルム級戦艦が戦線を離脱していきます!」

「何隻だ?」

「全艦離脱していきます!」

 

 百合亜の報告から事態は一気に動く。

 オオムロを追撃していたカラクルム級艦隊が反転していく。

 

『こちらオオムロ』

「こちらヤマトだ。どうぞ?」

『我が艦は航行不能。戦闘宙域からの離脱のため曳航を願います』

「了解。艦長より甲板部?」

『榎本です。コスモハウンドの発艦を急ぎます』

 

 古代は即座に甲板部のチーフである榎本に指示を飛ばした。

 

「島より第二艦橋、雛菊准尉はいるか?」

『はい雛菊です』

「出番だぞ。コスモハウンドを飛ばせるな?」

『はい。すぐに向かいます』

 

 古代が双眼鏡でカラクルム級を目視で追いかけていた時、その横では島が第二艦橋にいる雛菊茘子に指示を飛ばしていた。しかし、

 

「……嘘だろ!?」

「古代、どうした?」

「太田。方位352°を拡大してスクリーンに映してくれ」

「了解」

 

 ほぼ目の前で起きていることなのに、古代は我が目を疑った。

 

「グリッド352.05を拡大表示しています」

「……え、ちょっと、何これ?」

 

 古代だけでなく桜井を始めとした第一艦橋のクルーたちですら皆が自分の目を疑う。

 なんと、カラクルム級がある地点を過ぎると、次から次へとその巨大の姿が消えていく。

 そうこうしている内に、間も無くヤマトの側面格納庫が展開し、コスモハウンドが発艦し、オオムロの曳航作業を始める。

 だが、ヤマトのクルーも、ふと後ろを振り返った茘子も、ついに嫌な予感というか、恐れていた事態を目にすることになった。

 

「え……、何あれ……!?」

 

 島も次の異常事態事態に気付く。

 

「あ、おい、見ろ!」

 

 彼らの目の前で、カラクルム級の大艦隊が突然に姿を表した。

 

「カラクルム級が……こんなに……!?」

「あ、嘘、そんな……!」

「岬?どうしたんだ!?」

「敵艦、カラクルム級戦艦。その数、……や、約千隻!」

「何…だと……!?」

 

 透子が齎した情報の通りだった。

 情報に確信が持てなかったが、目の前にその証拠が現れた以上現実として受け止めるしかない。

 それでも驚かずにはいられない。

 

「分析結果ガ出マシタ。太田中尉ガ発見シタエネルギーノ揺ラギハ、光ノ屈折ノ原理ヲ応用シタト思ワレル一種ノ空間フィールドデス。ソノフィールド範囲ト、カラクルム級戦艦ガ姿ヲ消シテイタ地点ハ同ジデシタ」

 

 すぐに古代の指示が飛ぶ。

 

「……新見さん」

「えぇ、わかっているわ。太田くん、百合亜ちゃん」

「はい」

「……えぇ」

 

 千隻を超えるカラクルム級戦艦を目の当たりにして固まっていた百合亜だったが、新見に声をかけられて我に返り、太田、新見たちと相槌を交わして、互いにレーダー手席と技術科長席、それに航海科センサー兼気象観測席のコンソールを操作。

 三人のシステムを連携させてカラクルム級千隻がどのような隊形を取っているのかを即座にモデル化し、第一艦橋のホロプロジェクターにそれが映し出された。

 

「これは……巨大なちくわのようにも見えるが……」

 

 カラクルム級艦隊千隻は、筒状の物体を思わせるような隊形を組んでいた。

 古代は緊張したこの場の空気にそぐわない、そんな呑気な印象を口にした。

 

「妙だわ……」

「新見さん?」

「カラクルム級艦隊の先端と後尾に奇妙な反応を見つけたわ」

「拡大シマス」

 

 アナライザーが新見に指定された部分の立体映像を拡大する。

 先端と最後尾に、白いカラクルム級が6隻ずつ。さらに、数隻の白いカラクルム級が等間隔で配置されている。その数計22隻。

 

「白いカラクルム級?」

「ただのカラクルム級じゃないわね。この白い艦の質量は異常だわ。ほぼほぼニュートロニウムの塊よ」

「分析ノ結果、コノ白イカラクルム級ガ纏ッテイルニュートロニウム装甲ハ、通常ノカラクルム級ニ比ベテ概算デモ5倍ノ強度ト質量ヲ備エ、恐ラクヤマトノ主砲デスラ歯ガ立チマセン。アレハ特殊精錬サレタニュートロニウムヲ船殻トシテ纏ッテイマス!」

「つまり、通常のカラクルム級より5倍も重くて恐らくは鈍重だわ……」

「あ、待ってください!その白いカラクルム級に高エネルギー反応です!」

 

 百合亜が嫌な発見をした。

 

「エネルギーノ流レヲモデル化シマス」

 

 ホロプロジェクター上にはカラクルム級千隻の筒状の隊形が表示されたままだ。アナライザーがそこに高エネルギーの流れを書き足すと、

 

「何だこれは……」

「まるで、周り全てからエネルギーを取り込んで蓄積しているように見えるが……?」

「コノアゼルメニア宙域ノ環境ニハ超新星ノ残骸カラ出来タ、ガス及ビ塵。ダークマターナドガ大量ニ充満シテイマス」

「アゼルメニアの外殻や軌道上のステーションなどもこの星間物質をエネルギーとして利用しているわね……え……ちょっと待って……!?」

「新見さん?」

 

 間も無く、カラクルム級千隻全体が微かだが光り始めた。

 

「アナライザー!」

「ハイ新見サン」

「このカラクルム級艦隊がどの方向に艦首を向けているか再計算して!」

「了解デス!」

「新見さん?」

「私の計算結果が当たっていたら……」

「計算完了。カラクルム級ノ艦首ハ全テ方位123、上下角17°ニ向イテイマス!」

「その方向は……!」

「やはり間違いではなかったのね……ガトランティスはアゼルメニアを破壊する気だわ!」

 

 第一艦橋は戦慄する。

 

「何てことだ!このままでは真田さんたちだけでなく270兆人が殺されるぞ!」

「雪……!」

 


 

 一方、アゼルメニアの中央商工会議事堂では。

 

『最高議長閣下』

「どうしました?」

 

 レーニアー最高議長宛に、補佐官から通信が入った。

 小声で何かを話しているが、レーニアー最高議長の顔色が変わる。

 

「本当に?」

『はい』

「見せて」

 

 レーニアーの指示で会議室のホログラフィックモニターが先ほどまでの議題を押し退けてあるものを映し出した。

 

「あれは確か……」

 

 ナスカ級軽空母の飛行甲板を廃止し、イオン加速衝撃砲を装備した重巡洋艦「ヴェンタニール」と、地球軍のヴェールヌイ級駆逐艦「ユウナギ」が激しい損傷を負ってアゼルメニアに戻ってくる様子が映っていた。

 その周りに、地球軍の戦闘機とより大柄な機体一つ───ヤマトの艦載機であるコスモタイガーのアルファ中隊と、コスモハウンドがいる。

 

『ヴェンタニールから通信です。繋ぎます』

『最高議長閣下』

「ティラル司令官、何があったのですか?」

『アゼルメニア宙域の境界上でガトランティス艦隊と遭遇しました』

「それだけで大破するものですか?」

 

 レーニアーの重臣らしき他の議員が口を挟んできた。だが、彼の表情には困惑と焦りが浮かんでいた。

 それはティラルも同様だった。

 

『最高議長閣下……我々には危機が訪れています』

「突然何を?」

『ガトランティスは我々が対峙したことのない新型の戦艦を多数送り込んできています。ここ最近、貨客船が破壊される事件が多発しているのは耳に入っているかと思いますが?』

「続けてちょうだい」

『犯人はガトランティスでした。貨客船タグリエンが連中に破壊される現場に遭遇しました』

「何ですって!?」

「貨客船タグリエン……乗員乗客783名が乗っていたんだぞ!」

『生存者はわずか二名だけでした……』

「そのガトランティスの戦艦にむざむざやられて帰ってきたというのか!」

 

 議員たちの間に動揺が広がる。一部はティラルが貨客船を見捨てたと思い込んで行動を非難したが、

 

『お言葉ですが、ガトランティスの新型戦艦に我々の武器は通用しませんでした、最高議長閣下。ヤマトがいなければ恐らく我々も宇宙の塵になっていたでしょう』

「そこまで手も足も出なかったなんて……信じられない……」

『さ、最高議長閣下!』

「今度は何だ!?」

『す、すみません!第28望遠監視所から緊急の報告です!』

 

 レーニアーの重臣が別の報告を持ってきた若いオペレーターに怒鳴るように尋ねたが、そのオペレーターが齎したのはさらに悪い知らせだったかもしれない。

 ちなみに、「望遠監視所」とはその名の通り、アゼルメニア宙域内を望遠鏡による観測、またはリアルタイムで監視を行なっているアゼルメニア外殻に多数存在する天文台である。

 

『最高議長閣下。第28望遠監視所です。アゼルメニア宙域の境界上に戦艦らしき船影を約千隻確認しました』

 

 そうして望遠監視所から届けられたリアルタイムの映像に、アゼルメニアの議員たちにまたしても動揺が広がる。

 すると、閃光のようなものが走ったのをレーニアーは見逃さなかった。

 

「レーニアーより監視所。グリッドX-72、Y-85を拡大表示」

『了解』

 レーニアーの指示通りに拡大表示された場所では、

『あれは……!』

「えぇ……みなまで言わなくてもわかります」

 

 間違いなくヤマトであった。

 ヤマトはガトランティスのラスコー級を中心とした巡洋艦隊の攻撃を受けていたが、それらの攻撃はヤマト側からすれば擦り傷程度だった。

 反撃に移ったヤマトは代わりにラスコー級3隻を主砲で撃沈した。

 続いてヤマトの主砲による攻撃は白いカラクルム級に向かっていったが、その装甲に当たった途端、エネルギーが拡散してしまった。

 それも今ヤマトに向けて放っているガトランティスの主砲と同じように。

 その状況に、南部も真田も顔色が悪くなる。「信じられない」という顔をするが、これはリアルタイムでの映像だ。

 白いカラクルム級のニュートロニウム装甲を撃ち抜けなかった。

 さらに別のカラクルム級へも攻撃を加えるが、その砲撃のエネルギーすらも拡散してしまったのは、紛れもない事実だった。

 会議室は響めき立つ。

 

『最高議長!あのガトランティスの大艦隊は艦首を我が方、アゼルメニアに向けています!高エネルギー反応を検知!』

 

 その報告が遅いか早いかのタイミングで、カラクルム級艦隊が光を帯び始めた。

 すぐにカラクルム級がアゼルメニアに艦首を向けている意味をその場の全員が悟ることになった。

 


 

「敵巡洋艦8隻を爆破、しかし、カラクルム級戦艦には効果なし!」

 

 桜井は無念さを滲ませながらそう報告する。

 その間にもラスコー級やククルカン級からの鬱陶しい攻撃が止まない。

 島は回避行動を取りながら言う。

 

「この宙域の環境のお陰だ。でないと、とっくにヤマトは穴だらけだ」

「あの白いカラクルム級にエネルギーが集中しているわね……」

 

 カラクルム級の大艦隊は筒状の隊形を維持した状態でヤマトの第一艦橋のホロプロジェクターに映し出されていた。

 エネルギーの流れも表示されているが、白いカラクルム級が重要な役割を果たそうとしていることは明らかだった。

 まず、筒状の隊形の最後部にいる白いカラクルム級が、周りの星間物質からエネルギーを吸収しているのがわかる。

 その吸収したエネルギーは周りのカラクルム級を伝わって、前方にいる白いカラクルム級にも放出。筒状の隊形の中に白いカラクルム級3隻が4列に配置されていて、それらが最先端にいる白いカラクルム級6隻にエネルギーを供給していた。

 

「新見サンノ推測通リデス。アノ白イ艦ガエネルギーノ流レヲ制御シテイマス。ソノエネルギーノ流レニ阻マレ、他ノカラクルム級ニモ攻撃ガ通用シマセン」

「ちくわなんて例えは生易しすぎる、あれはもはや巨大なエネルギー大砲だわ! 計算ではあのカラクルム級が集約したエネルギーがアゼルメニアに放出されるまであと10分。その威力はアゼルメニアの外殻を突き破って内部の赤色矮星を破壊できる。いくらディストーションフィールドがあっても、それを振り切れるエネルギー量よ!」

「このままでは、カラクルム級を止められない。……クソッ、どうすればいいんだ……?」

 

 古代は、目の前の災厄を止める術がないことに苛立つ。

 

 しかし、苛立っていたのは、ガトランティス艦隊とて同じことだ。

 

「えぇい、クソ!やはりこの宙域では我々の武器は豆鉄砲と同じだというのか」

 

 ラスコー級巡洋艦の司令席に座っているのはゲルン司令官。アゼルメニア攻略艦隊の指揮官を務める男だ。

 

「司令官、ヤマトからの主砲の威力は全く減衰していません」

「逆に我々の武器は地球船に歯が立ちません。カラクルム級ほどの威力も期待できません」

「レオギネルカノーネ、エネルギー充填率40%。発射まであと9分15秒」

「仕方ない。巡洋艦隊全艦、後退しろ」

「司令官!?」

「これ以上は無駄に犠牲を増やすだけだ」

「了解」

 

 

 

 しかし、この戦闘宙域には人知れない傍観者がいた。

 葉巻型のような船体をした、ガトランティスのパンレケ級潜宙艦*2が潜望鏡を上げて戦闘の様子を見ていた。

 

「ゲルンのやつ、後退を始めたな……」

 

 それを覗き込んでいたのは、ミルヴァールだった。

 

「臆病風に吹かれたんでしょうか?」

 

 そう問いかけてきたのはシファルだった。

 

「いや。ヤマトに巡洋艦隊の攻撃が通用しないようだ。私でも後退を命令するだろう」

 

 ミルヴァールは潜望鏡をゲルン艦隊とヤマトから逸らし、巨大なエネルギー大砲を形作っているカラクルム級艦隊に目を向ける。

「それに、ヤマトの攻撃はレオギネルカノーネの発射準備段階に入ったカラクルム級には通用しない。……チェックメイトだ」

 

 ミルヴァールは不敵に頬を吊り上げて微笑んだ。潜望鏡を覗き込んでいるからその表情を窺い知れないが、邪悪な笑みを浮かべていることは明らかである。

 

 

 

「敵巡洋艦隊が後退を開始しました」

「追撃しますか?」

「いや。そんな余裕はない」

 

 ヤマトでは、百合亜の報告を聞き、桜井からの提案を否定する古代。

 目の前には今にもアゼルメニアを破壊しようとしているエネルギー大砲と化したカラクルム級戦艦の大艦隊。

 巡洋艦隊を追撃してもこの問題は解決しない。

 どうするべきか。

 すると、アナライザーが言った。

 

「艦長。外交チャンネル001ノ使用ヲ提案シマス」

「……アナライザー。まさか」

「ソノマサカデス」

 

 アナライザーはコンピューターを文字通り自分の手足のように操れる。

 ホロプロジェクターに映し出されたカラクルム級に対して巨大なエネルギーをぶつけた場合のシミュレーションをアナライザーは見せる。

 もし、アゼルメニアを破壊できるエネルギーを溜め込んだタイミングで制御艦に巨大なエネルギーをぶつけたら、そのキャパシティはオーバーする。その後は、カラクルム級の大艦隊は爆発するか、制御を失って漂流するかのどちらか。しかし、そのどちらだとしてもアゼルメニアは救える。

 しかし、こんな巨大なエネルギーの塊をぶつけられる兵器といえば……。

 

「やはりアレを使うしかないのか……相原。外交チャンネル001をオープン。長距離亜空間通信を繋いでくれ」

 

 アナライザーの提案の意味を古代は即座に理解した。

 

「了解」

 

 シミュレーションを見ていた第一艦橋のクルーたちもアレを使わなければアゼルメニアを救えないと悟った。

 相原は即座に外交チャンネル001を起動した。

 すると、第一艦橋のホロプロジェクターで表示されていたカラクルム級のシミュレーションが消え、代わりにホログラム通信装置が起動する。

 

『こちらイスカンダル』

 

 現れ出たのは、イスカンダルの女王スターシアだった。

*1
もしくは単に「ティコの星」とも呼ばれる

*2
外観は旧作「さらば宇宙戦艦ヤマト」、及び「宇宙戦艦ヤマト2」の第7話にて登場したガトランティスの潜宙艦(スペース・サブ)と全く同じ。




 カラクルム級が巨大なちくわを思わせる陣形を取っているのは、2202の「レギオネルカノーネ」そのものというよりは、旧作『宇宙戦艦ヤマト2』第12話に登場したちくわ型小惑星へのオマージュを意識しました。

 ヤマト2といえば、ガトランティスの潜宙艦も知られているメカだったと思いますが、2202では何故かリストラの憂き目に遭っていたので、今回から登場させていただきました。

一話のストーリーとして長さはどうですか?

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