宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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宇宙戦艦ヤマト2202本編があまりにも酷い出来だったので、ムカついて書き殴ってやりました。
ここのズォーダーは「愛だ」「恋だ」言い出したりして観客を興醒めに追い込むようなことはありませんので、ご安心ください。


第1章・2202年、ヤマト発進せよ
第1話「西暦2202年 ガトランティス戦役の最中で・前編」


 無限に広がる大宇宙……。

 数多ある星の輝きの中に命が宿っている。

 生きてる星、生まれる星、死んでいく星……。

 まるで宇宙そのものが一つの生き物のように脈動して息吹いている。

 その広さ故に全てを知るのは神のみ……。

 

「父上。ザーベリア様は果たしてこの全宇宙を全て知っておられるのでしょうか?」

 

 ここはこの宇宙のどこかの星。

 肌が薄緑色の少年は、教会のような場所で父親らしき男に尋ねた。

 少年の父親はこの場にいるのが似つかわしくないと思えるような、尖った印象のする中年であり、その体格は地球人の基準から言えば「大男」と言っても差し支えないガタイを持っていた。

 「人でも殺してそうな顔」と言われれば納得してしまう顔だが、その男は質問をしてきた少年に目線を合わせるためにしゃがんで、少年にこう言った。

 

「良い質問だ、我が息子よ。だが、それを知っておられるのは我らが始祖のザーベリア様ぐらいだろう。あいにくと、その質問にわしは答えてやれることができん」

 

 しかし、男は少年の頭を撫でて、軽く溜め息を吐きつつ言った。

 

「全く、お前は困った息子だ。だが、その質問は胸にしまっていても答えがわかるまで忘れるなよ?」

「父上、何故ですか?」

「皆が当たり前と思っていることにも実はそうではないことが含まれているかもしれないからだ。お前はマトシュヴァクに比べれば細かい部分が目に付く。その才能で兄を。ひいては国を支えるのだぞ?」

「……畏まりました、父上」

 

 父は少年を撫でた後、教会に置かれた一体の偶像に目をやった。

 一見すると華奢にも思える体は甲冑のようなもので覆われており、顔立ちは端整ながら儚げにも見える。その顔も体付きも女性そのもの。

 それこそが彼らの信仰する女神である。

 


 

 それから時は流れ。

 地球暦2202年7月16日。

 地球から約10.5光年離れたイプシロン・エリダニ星系。

 太陽に似た主星を中心とするこの星系には10個の惑星が存在する。

 その8番目の惑星の軌道上は今まさに恒星間戦争の様相を呈した戦いが繰り広げられていた。

 

 話はこれより3年ほど前に遡る。

 2199年当時、天の川銀河系へと徐々に魔の手を伸ばしていたガミラス帝国は地球への侵略を開始し、遠征軍も派遣された。

 遠征軍が遊星爆弾を使用して地球に対する絶え間ない爆撃を数年間繰り返した結果、人類は絶滅まであと1年にまで迫るほど追い詰められていた。

 そんな時にイスカンダルから齎されたのが、星間航行に必要な技術。そして地球の環境を回復させ、絶滅を回避できるかもしれない装置、コスモリバースシステムの存在の開示。

 地球人類は絶滅を回避するため、一抹の望みを賭けてイスカンダルへと赴いてコスモリバースシステムを受け取りに行くための、人類史上初めて光速の壁を破るワープ航法を実現した恒星間飛行可能な宇宙戦艦を建造する。

 これが後のBBY-01ヤマトである。

 この「ヤマト」による文字通りの命懸けの航海の末、地球から16万8000光年離れた大マゼラン雲に位置するサレザー星系の惑星イスカンダルからコスモリバースシステムを受け取り帰還した。

 

 ただ、ヤマトに関する説明はこの際脇に置いておく。

 今回の話で肝心なのは、ヤマトがコスモリバースシステムを受け取って地球への帰路に着いた後のことである。

 ヤマトは、「ガトランティス」と呼称される勢力の遠征軍と遭遇。これが地球とガトランティスの 初接触(ファーストコンタクト)となったが、それは敵対なものとなった。

 ヤマトはシャンブロウという惑星の付近で偶然にも居合わせたガミラス艦隊と共闘し、この遠征軍を撃破したのである。

 

 その遠征軍と同じ勢力の艦隊……そう、今このイプシロン・エリダニ星系で地球連邦・ガミラス帝国連合軍と対峙しているのが、帝星ガトランティスである。

 

「ガトランティス艦隊約800隻に対して、地球連邦は二個艦隊150隻、ガミラス艦隊が500隻ほどか……」

 

 地球連邦防衛軍艦隊の所属する内の1隻、()()()()()()()()()()()()E.F.S. *1サツマの艦長、古代(こだい) (すすむ)中佐は艦長席横のモニターに表示された戦略ディスプレイを見て溜め息を吐いた。

 

「毎回毎回800隻以上の艦隊を送り込んでくる連中の戦力が化け物過ぎます。これで連中が攻めてくるのは4度目ですし……ここ2週間休まる暇もない」

 

 操舵席に座っている副長の長野(ながの)義男(よしお)少佐は最後の部分を呟くように口から漏らしたが、彼の言う通り、サツマのクルーたちからは大なり小なり疲労の色が見て取れた。無論、艦長である古代も例外なくである。

 

「遠く離れたガリア4号星での出来事がこんなことになるなんて……」

 

 通信士官の相原(あいはら)義一(よしかず)も疲れた表情をしながらそう言ったが、直後に通信が入った。

 

「艦長、旗艦ナガトの山南艦長からです」

「繋げ」

 

 サツマの艦橋の天井に設置されたスクリーンにやや壮年に差し掛かりつつある白髪混じりの髪をした、それでいて何処か切れ者な雰囲気を漂わせた男性が映り込む。彼こそがこの地球艦隊の旗艦E.F.S.ナガトの艦長、山南(やまなみ) (おさむ)先任大佐その人である。

 

『古代。酷い顔をしているな』

「山南さんこそ」

 

 少し皮肉とユーモアを込めた呼びかけに、古代も少しユーモアを含めて返した。

 

『敵は我々の艦隊の中心を突き破ろうとしているようだ』

「では正面の防御陣形を固めますか?」

 

 その問いに山南は首を横に振り、

 

『いや、我々は左右に展開しよう。敵艦隊を包囲殲滅する。古代。君は第3、第4、第7部隊を率いて右翼に回れ。カークランド艦長が第2、第5、第9部隊を率いて左翼に回る』

「山南司令は?」

『第1、第6、第8部隊で正面に陣取って敵を受け止める。但し、第10部隊からの報告が入るまで展開は控えるように』

「了解しました」

『艦長、敵の攻撃です!』

『了解した。幸運を古代艦長』

 

 古代も山南も敬礼をして通信を終える。

 

「ガトランティス艦隊800隻が我々に突っ込んできます!」

 

 レーダー員がそう叫ぶと、艦橋の窓からも少し遠いところで赤い閃光と爆発が見える。

 そこでは黒塗りの船体に金色の艦首を持ったこの艦隊の旗艦、ドレッドノート級重巡洋艦E.F.S.ナガトがガトランティス艦隊を相手に応戦を開始する。そのナガトの主砲は三基とも41cm二連装砲。古代が艦長を務めているサツマは第一と第三主砲がこの41cm砲に換装済みである。

 

「第3、第4、第7部隊、応戦開始!」

(……今度こそは、あんな事態を招いてたまるか)

 

 古代は自身が率いる部隊に前進を指示しつつ、この戦いの直接的なきっかけとなった忌まわしい出来事を振り返っていた……。

 


 

 時は遡ること約9ヶ月前の2201年10月。

 場所は、地球からはくちょう座方向に593光年離れたガリア星系の第4惑星。

 ガリア星系、その旧称は「ケプラー22星系」という。

 ケプラー22星系は21世紀初頭に「ケプラー宇宙望遠鏡」によって発見された恒星系の一つであった。

 特に当時「ケプラー22b」と呼ばれていた惑星は人間にとって居住可能な星としての可能性が高かった。

 22世紀半ばにはさらなる観測により、「ケプラー22b」は、実は恒星から4番目に位置する星であることが新たに判明。

 さらに、ケプラー22bが実際に居住可能な惑星であることが2200年末のガミラス戦役後の追加観測で明らかになり、この発見により、とあるフランス人の天体物理学者が一躍時の人となった。

 彼は自身の故国の旧名に因んで、新たにケプラー22星系を「ガリア星系」と命名した。

 そして、惑星イスカンダルから齎された波動技術による恒星間ワープ飛行が可能となったことで、地球人類によるケプラー22b改め「ガリア4号星」への興味は膨らんでいった。

 

 2201年は、地球がガミラスとの戦いから立ち直り始めた時期だが、同時に外部からの脅威に対抗するための宇宙艦隊の整備や増設、及び地球の新たな統合政府として「地球連邦」が誕生した年だが、一度星間航行技術を手にしたのならば、今度はそれを使って「人類未到の地」を目指したくなる。

 地球人類というのは細かいことを気にする矮小なる存在かと思えば、一度宇宙の広さに触れれば好奇心と探究心を刺激されて、ついさっきまで言い争っていた些細な問題を放り投げてしまう。

 その年の10月、地球でヤマトに代わって地球軍の次世代主力戦艦の地位を()()()ながら獲得した()()()()()()()()()()、その1番艦E.F.S.ドレッドノートが地球を遠く離れたディープスペースにおける試験航海のついでにその目的地として定めたガリア4号星を訪れて調査した。

 その調査によって、それまで望遠鏡でしか解らなかったガリア4号星の真の姿が明らかになった。

 ドレッドノートの艦長の日誌から言葉を拝借すれば、「楽園のような星」。

 つまり、第二の地球とも言える星が593光年彼方にもあったわけだ。

 もちろん、そんな遠くまで行かなくても地球人類が入植して第二、第三の地球に出来る星は恒星間航行技術を確立させたことで地球から20光年以内に最低でも5つは見つかっていた。

 なので、単なる惑星調査であればそこまで拘る土地とも言えなかった。

 ところが、ガリア4号星で地球外知的生命体による文明の痕跡が見つかったことがこの後の悲劇の連鎖を呼ぶことになるなど誰も想像しなかったはずだ。

 ガリア4号星で異星の遺跡が発掘されると、その報告を受けた地球連邦防衛軍は、ガリア4号星の軌道上に宇宙ステーションの建造を命じ、地球人類によるディープスペース探索の拠点としての整備に乗り出すことになる。

 それから約半年後だ。古代 進率いるサツマがガリア4号星へ訪れることになったのは。

 

 2202年3月18日。

 ワープを解除して通常空間に出現したサツマと、同型の僚艦、ドレッドノート級の「ドミニオン」。

 2隻はガリア星系の外縁部にワープアウトし、4号星へと急ぐ。

 古代はこの日もサツマの艦橋にいた。

 相原、長野も同様にそれぞれの持ち場に就いて座っている。

 なお、彼らの制服はヤマトで採用されたものと同じものを着通していて、長野は航海科兼操舵手であるため、緑色の艦内服を着ている。

 古代は少し落ち着きのない様子でブリッジの中をウロウロしていた。そして数分ごとに相原にこう尋ねていた。

 

「……相原、DSGから応答は帰ってきたか?」

「いいえ」

「そうか……」

 

 DSGとは「深宇宙ステーション・ガリア(Deep Space station Gallia)」の略称。ガリア4号星の軌道上に地球連邦が建設中の宇宙ステーション兼スペースコロニーだ。

 落ち着きのない古代に、副長の長野が苦言を呈した。

 

「艦長、捜索命令が出てからここ3時間応答がないんですよ?」

「わかってる、何か起きたんだ。だが俺はそうでないことを祈りたい」

「……その答えがそろそろ分かるかと」

 

 長野が指差した先に小さく浮かんでいる緑色の星。

 それこそがガリア4号星だ。レーダー手が何かを見つけて声を上げた。

 

「あっ!」

「どうした?」

「ガリア4号星の軌道上に未知の艦影を発見!」

「松尾、その艦影をスクリーンに映せるか?」

「は、はい」

 

 技術科の青い制服を着たレーダー手の松尾が手元のコンソールを操作すると、スクリーンには緑色の細長い宇宙艦がガリア4号星の軌道上に鎮座している姿が映し出された。全長にして500mは有に超えているだろうか。

 

「艦長、ステーションは完全に破壊されています。本来それがあるべき位置には多数の残骸が確認できるだけです……!」

 

 状況証拠だけだが、この大型戦艦こそステーションを破壊した犯人である可能性が高かった。

 

「艦長、僚艦のドミニオンが武器にエネルギーを充填中です!」

「レドラウス艦長に待ってほしいと言え。相原、全周波数をオープン。使える限りの言語であの船に呼びかけろ」

「え、でも……」

「早く!」

「りょ、了解!正体不明の艦船へ、こちら、地球連邦宇宙軍艦隊所属のE.F.S.サツマです……」

「艦長、どう見たって奴らですよ。ステーションをこんな有様にしたのは!」

 

 長野は呼びかけるだけ無駄だと言わんばかりの態度だったが、古代は違った。

 

「だとしても何が気に食わなかったのかは知りたい」

「艦長」

「返事は?」

「応答ありません」

「敵艦にエネルギー反応!」

 

 松尾がそう報告した直後、謎の船が発砲し、僚艦のドミニオンが被弾する。

 ちなみに、謎の船の主砲はゼルグート級のものに酷似していた。

 

「嘘だろ……一発で波動防壁を貫いた……!?」

「長野、回避行動!」

「了解!」

 

 謎の船が放ってきた二発目はサツマに向かったが、長野の操舵の腕とタイミングが良かったお陰で直撃を免れた。

 


 

 イプシロン・エリダニの戦いでも長野の操舵の腕は光っていた。

 第3部隊は旗艦サツマが見せる巧みな軌道に合わせてガトランティス艦船からの発砲をほぼほぼ避けていく。真似をしている第4と第7部隊も被弾した艦がほぼ無いか少ない。

 一方でカークランド率いる第2部隊の艦船は次々に被弾した艦が増えていき、大破・撃沈される艦も出始めている。

 敵の攻撃を正面で受け止めていた山南部隊は防御陣形で固まっていたが、恐らく三手に別れた艦隊の中では最もダメージが重いのが山南の部隊だろう。

 

「か、艦長!」

「どうした相原?」

「第10部隊、空母カタンガ、及びユーゴスラビアの艦載機より入電です、暗号通信ですが」

「読み上げろ」

「はい。〔ワレ敵ノ旗艦発見セリ。現在交戦中〕。位置情報も来ました!」

「松尾」

「はい、位置情報を入力……出ました、敵の旗艦らしきものを発見、敵の陣形の一番奥にいます!」

 

 レーダー手の松尾がそう言ってスクリーンに敵の旗艦の姿を捉えようとしたが、

 

「小さすぎる。拡大」

「は、はい」

 

 米粒ほどの大きさだった敵の旗艦は、辛うじて親指サイズにまで拡大された。

 その親指サイズの敵の旗艦に、地球軍航宙母艦「カタンガ」及び「ユーゴスラビア」から発艦した艦載機のコスモファルコンが今まさに雷撃を加えている最中だった。

 一機、また一機と撃ち落とされていくが、中にはそのまま敵の旗艦に激突していったものもあった。

 

「艦長、ガミラスのデータベースと照合しました。あれはアポカリクス級大型航宙母艦のようです」

 

 松尾は現在進行形で行なわれてる戦闘のすぐ横に、ガミラスから齎された情報をスクリーンに表示する。

 スクリーンで親指程度の大きさしか写っていないくても十分。ガミラスのデータと照合すればアポカリクス級大型航宙母艦と特徴が完全に一致した。

 

「……よし、では行くぞ。第4、第7部隊全艦、サツマに続け!」

 

 その合図と共に、固まっていた艦隊は一気に左右両翼へ展開を開始した。

 第3、第4、第7部隊はサツマを先頭にガトランティス艦隊の右翼へ展開。

 一方でカークランド艦長の率いるE.F.S.ダコタを旗艦とした部隊も左翼へ展開。

 数で押し切ろうとしていたガトランティス艦隊を左右から攻撃し始めた。

 

「長野、俺たちは旗艦を叩くぞ」

「わかってるさ。行くぞ!」

 

 ドレッドノート級が出せる限界の機動力で、サツマは敵艦隊の間をすり抜けて旗艦へと突進していく。

 僚艦も数隻付いていくが、1隻は撃沈され、2隻は被弾。

 サツマも船体下部のナセルに被弾するが全く止まらない。

 

「……ハハハッ、この真田幸村は止まらないぜ!」

 

 長野はそう言うとサツマのメインエンジンと補助エンジンのスロットルを目一杯奥に倒して出力を全開にする。クルーたちにも重力加速度が襲いかかるが、あっという間にガトランティス艦隊を抜けると、正面に敵の旗艦の姿を捉えた。

 

「よしあれだ。砲撃!」

 

 古代の命令とともに、サツマの主砲、即ち第一主砲の41cm二連装と、第二主砲の30.5cm三連装砲が火を吹く。

 それらは発射されるとまるで一筋の矢のように交わり、アポカリプス級の船体を、右前から左後方まで一気に貫通した。

 

「次弾装填、撃て撃て!」

 

 それで終わらない。第二射、第三射を次々と叩き込む。

 このガトランティスの航宙母艦はガイペロン級よりも遥かに頑丈なようだ。

 だが、四射、五射と命中する度に船体の穴は増えていき、六射目が命中したか否かのタイミングでついに敵旗艦のアポカリプス級大型航宙母艦は爆沈。宇宙の塵になった。

 旗艦を失ったガトランティス艦隊は統率を失う。

 去り際にサツマへと撃ってくるガトランティス側の攻撃を軽々交わして、逆に数発撃ち込んで返り討ちにした。

 

「敵艦隊、撤退していきます」

「ふぅ……みんな、良くやった」

 

 やっと一息つける。そう思い古代は部下たちに労いの言葉を掛けた。

 

「艦長。僚艦のシェナンドー、及びダブリンが損傷……船体に亀裂が入り、地球圏へ修理に戻りたいとのことです」

「了解したと伝えてくれ。他にも損傷した船が……」

「あ、か、艦長!大変です!」

「今度は何だ?」

 

 慌てて報告してきた松尾。だが、彼が次にスクリーンに映したものに、艦橋の空気が凍りつき、激しい戦慄が走る。

 この時、撤退中のガトランティス艦隊の奥から大戦艦が姿を現した。それは古代たちがガリア4号星で遭遇したものと全くの同型艦に見えた……。

 


 

 再び話はガリア4号星の戦いに戻る。

 サツマは被弾したドミニオンと共に謎の大型戦艦に向けて発砲するも、

 

「ダメです、効果ありません!」

 

 サツマの砲雷長兼戦術科長の女性クルーがそう報告してきた。

 この時、サツマとドミニオンが搭載している主砲は全て30.5cm三連装砲だった。

 ヤマトが使用していた48cm三連装砲に比べれば明らかに口径は小さかったが、連射力に優れ、より量産性を意識して設計された砲身が採用されており、エネルギーチャージの時間を短縮して連射力も高めることでヤマトの主砲に勝るとも劣らない貫通力を発揮するはずだった。

 だが、目の前の敵戦艦には全く効果がない。

 

「クソッ……撤退するしかない」

「ここで引き下がるんですか!?」

「主砲が通用しないとやられるだけだ!それよりもこの事態をすぐに知らせないと……」

「艦長、自動遭難信号を確認しました」

 

 撤退を決断した古代だったが、次に相原が寄越してきた報告で状況が変わってしまう。

 

「どこだ?」

 

 相原がキャッチした遭難信号の出所を松尾に問うと、

 

「あのステーションの残骸の中に一つ。脱出ポッドのようです」

 

 拡大すると、脱出ポッドがステーションの残骸に紛れて浮遊しているのが見えた。

 その近くには多数の脱出ポッドの残骸が転がっている。

 

「ステーションにいた連中もあいつらが殺したのか……!」

 

 長野は回避行動を取りながら怒りで口元を歪めた。

 

「艦長、ドミニオンのレドラウス艦長から通信です!」

 

 スクリーンに痩せぎすの中年男性が映り込む。

 ドミニオンの艦橋では所々コンソールが壊れ、ひび割れたり、火花が散り、煙も吹き出していた。クルーたちが発生した火災に消火器で対応している姿も見えた。

 

『古代艦長、そっちは無事か!?』

「はい。ドミニオンの被害状況は?」

『左中央船体に亀裂、機動力も低下し、波動防壁の強度も59%に落ちてる!』

「撤退しましょう」

『わかってる、だがステーションの生存者を一刻も早く救助しなければならん』

「……私たちが回収します。早く撤退してください!」

『撤退だと!?何を馬鹿言ってる! そんなに英雄になりたいのか!?』

「しかしドミニオンの状態は……」

『我々のことは気にするな! 古代艦長、我々は留まって貴君らを援護する。その間にサツマは生存者を救助しろ!』

「……了解」

 

 ドミニオンは船体に多数の亀裂、特に左船体中央部の損傷が酷かった。それが船体の貫通を辛うじて免れていたといえば状況が飲み込めるだろうか?文字通り、首の皮一枚でギリギリ繋がっているような感じだった。

 古代はレドラウス艦長が決死の覚悟を決めたことを先ほどの通信で見た表情で読み取っていた。

 ドミニオンは謎の大型戦艦に反転し、主砲を次々に撃ち込む。

 その攻撃がもし効果がなくても、生存者の救出に向かうサツマから気を逸らすためなら何でもやった。

 それも、船体が崩壊寸前の損傷を負っているとは思えないような回避軌道で敵戦艦の攻撃を紙一重でかわし続ける。

 その間にサツマがステーションの残骸に飛び込み、脱出ポッドを回収した。

 

『脱出ポッド回収完了!』

『生存者発見!』

「よくやった。相原、すぐにドミニオンを呼び出すんだ、脱出ポッドを回収し終えたと……」

 

 だが、その指示を言い切る前に、古代たちの目の前でドミニオンはさらなる深傷を負う。

 艦首波動砲は右側がごっそりと抉り取られ、船体下部にあったエンジンポッドは二つとも引きちぎられ、第一主砲に付近にも敵弾が命中したため、砲塔が丸ごと弾け飛ぶのが見えた。クルーも何人かが宇宙空間に投げ出されていく。

 さらには艦橋上部にも敵弾が命中した。

 

「艦長、通信アレイに被弾したようです、ドミニオンとの交信が不可能になりました!」

「ドミニオンから多数の脱出カプセル放出を確認、脱出カプセルは猛スピードでこちらに……あぁ、艦長、ドミニオンがメインエンジンをフルパワーにしました! 敵戦艦へ突進するつもりのようです!」

「レドラウス艦長……」

 

 それがレドラウス艦長の覚悟だと古代も理解した。

 

「脱出カプセルを急いで回収」

「了解……」

 

 サツマはステーションの脱出ポッドを回収した時と同じく、脱出カプセルがすれ違う際に各カプセルに磁気吸盤(グラップラー)を発射して次々に回収。そのまま艦載機発艦口へと収容していった。

 

「長野。脱出カプセルを全て回収したら、ワープで現宙域を離脱、地球連邦の前哨地点へコースを取れ!」

「了解!」

 

 ドミニオンは自艦から脱出したクルーたちをサツマが回収出来るよう、そのボロボロになった船体で盾になる。

 ドミニオンがその艦首に波動防壁を集中させた結果、敵艦の攻撃は波動防壁の壁に弾かれて、サツマにギリギリで届かなかった。

 敵の戦艦もドミニオンが全速で衝突コースを進んできていることに気付いて応戦するが、いくらボロボロになったとはいえ、波動防壁を貫いた初撃のパワーは出ていない様子であり、そのおかげで金属の塊と化したドミニオンの船体を完全に細切れにすることは叶わなかった。

 

『艦長、甲板部です!今最後のカプセルを回収しました……生存者は全部で33名です』

 

 その報告の直後、ドミニオンはエンジン全開で謎の敵艦に激突し、宇宙に一時の爆炎が出現する。

 そして爆炎が止むと、一見すると焦げた敵戦艦が現れ、

 

「敵戦艦発砲!」

 

 その言葉に皆が戦慄する。まだアレは戦えるのか。

 ドミニオンとレドラウス艦長が文字通り命を賭けて阻止したはずだった。そのドミニオンは焼け焦げた残骸と化したというのに。

 

「長野、ワープだ!」

「了解!緊急ワープ・エンゲージ!」

 

 長野が前以て起動していたのは、緊急ワープのプログラム。

 太陽系外、ないしは深宇宙で活動するドレッドノート級戦艦には従来の波動エンジンに加えて、新たに地球で開発された「波動コンデンサー」と「波動ターボチャージャー」が組み込まれている。

 波動コンデンサーはその名の通り、波動エンジンから漏れ出る波動エネルギーを溜め込む性質を備えたエネルギー増幅装置の一種。

 これに同じく増幅装置の一種である波動ターボチャージャーを組み合わせることで、出力120%相当の波動エネルギーを一瞬でエンジンに注ぎ込める。

 だがそれは裏を返せば、タイミングを無視した不安定なワープを可能にする装置だ。

 本来であれば慎重にタイミングを計ってワープしなければならない。タイミングが少しでも狂うか、もしくは無視して「長距離」のワープしてしまうと、次元断層に嵌まり込んでしまう危険性を孕む。

 しかし、タイミングを図ってる暇がない緊急事態の時、尚且つ短距離での移動のみを考慮して、起動プログラム兼安全装置がインストールされた「EWS(緊急ワープ安定化装置(Emergency Warp Stabilizer))」が波動コンデンサーと波動ターボチャージャー、そして波動エンジンの本体の回路に接続されている。

 これらの装置のお陰でサツマに敵艦の攻撃が直撃する直前で古代たちはガリア星系から何とか逃げ果せることができたのだった。

 


 

「……んちょう、艦長!」

「……!」

 

 相原の呼びかけで古代は我に返る。

 艦隊指揮官としての山南からの命令がスピーカーから聞こえた。

 

『全艦波動エンジンパワー最大。主砲、斉射せよ!』

 

 その命令と共に、サツマ以外の地球・ガミラス連合軍の艦船が一斉に砲撃を開始した。

 ドレッドノート級の41cm砲と30.5cm砲を始め、波動エンジンを搭載して大幅にパワーアップしたキリシマ級(改コンゴウ型)軽巡洋艦の36cm砲、メ号作戦で戦没したユキカゼなどと同型のデューイ級(改イソカゼ型)コルベットの艦首魚雷と12.7cm砲などなど、艦隊の総火力を以ってガトランティスの大戦艦に対抗しようとするが、520mもある肝心のガトランティス大戦艦の船体には傷一つ付いていなかったのだ。

 無傷で前進してくるその戦艦の姿に地球・ガミラス連合艦隊の面々は絶望する。

 

「一体どうして……?」

 

 砲雷長の女性クルーの一言が皆の気持ちを代弁していた。

 

「……松尾。急いで比較分析だ。前回と今で何が違ったんだ?」

 

 皆が戦慄する中、古代は極めて冷静に、あのガトランティス大戦艦に何故新装備の41cm主砲が通用しなかったのか原因を探ることにした。

 

「……センサーデータ分析……データベースとの比較……あぁ、出ました。これです!」

 

 スクリーンに、サツマがガリア4号星で遭遇した見た目は同型の艦と、今目の前にいる大戦艦の違いを、松尾は的確に映し出した。

 

「原因がわかりました。あの大戦艦に使われているニュートロニウム合金の外殻は前回と構成が異なっているようです!」

「組成違いのニュートロニウム合金だと!?」

 

 ニュートロニウム合金。

 それは制御された中性子を高密度の金属内に封じ込めた合金であり、理論上は地球製宇宙艦の船体に用いられている従来の硬化テクタイト合金の数十〜百倍の硬度を誇る。

 ガミラスやイスカンダルなどの一部の星間国家では文明の発達具合の判定材料の一つとして、これの生成に成功し、宇宙艦の船体などに用いる実用化に踏み切れたか否かを判断する項目がある。

 ニュートロニウム合金はガミラスの優れた科学力を持ってしても、微量の生成がやっとであり、宇宙艦の船体装甲に用いることが出来る量の生成や加工までには至っていない。硬度が高いというのは、同時に加工が難しいことも意味するからだ。

 一方でイスカンダルの場合は遥か昔に実用化までには至ったらしいが、現在ではオーパーツと化しており、知識は残っていても生成する技術はとうの昔に失われている。

 

 古代は前回遭遇した艦と今目の前にいる大戦艦は、見た目はほぼ同じだが、その構成要素が異なっている。だがそれで地球・ガミラス連合軍の総攻撃が全く通用しなかった理由に納得が行った。

 しかし、次の手を考える前に、ガトランティスの大戦艦がエンジン推力を最大に上げて突進を開始した。

 大戦艦の前に立ち塞がる地球・ガミラス連合艦隊だが、その姿はまるで民衆に鋼鉄の牛が突撃したようなもの。一言で言えば結果は悲惨だ。

 防御線を固めていた200隻は壁のようにその大戦艦に立ちはだかったが、大戦艦を止められずに返り討ちにされたばかりか、何隻かが大戦艦の突進を受けて大破、ないしは爆沈してしまった。

 そのまま大戦艦の艦首に光の粒子のようなものが走った。

 

「様子が変だ……」

「ワープに入るつもりのようです!」

 

 松尾がそう言った直後に、ガトランティスの大戦艦がワープして何処かに行ってしまった。

 

『警告!警告!イプシロン・エリダニ最終防衛ラインを突破された!』

 

 数秒後、地球軍が拠点を置くイプシロン・エリダニ5号星からの救難信号が届いた。

 

「まずい……長野!」

「了解、短距離ワープ開始!」

 

 すぐにサツマが大戦艦をワープで追いかけ、辿り着いたら案の定だ。

 イプシロン・エリダニ5号星。

 黄緑色で多数の湖と平原の広がる静かな星が古代たちの目の前に浮かんでいたが、その軌道上には地球軍の宇宙ステーション、及び、イプシロン・エリダニ〜太陽系間を結ぶ「ジャンプゲート」がある。

 このジャンプゲートはヤマトがイスカンダルへの旅で遭遇した古代アーケリアス文明の残した亜空間ゲートの技術を雛形にしたものであり、これを通ることでワープ機能を持たない、もしくは損傷して自力でワープできない艦船をほんの数分で地球圏に直接送り返すことができる。

 そのジャンプゲートだが今ちょうど開いていて、損傷したシェナンドーとダブリンが突入したばかりだ。

 そのゲートに、短距離ワープで飛んできたガトランティスの大戦艦が突入してしまう。

「しまった!」

「わかってる、補助エンジン全開!」

 サツマも短距離ワープをしたためにメインエンジンの再点火は間に合わない。そう判断した長野は代わりに補助エンジンを全開にする。

 メインエンジンほどの推力は得られなくても、それでもゲートが完全に閉じてしまう前にサツマは大戦艦を追いかけてジャンプゲートに飛び込めた。

 ガトランティスの大戦艦の存在に慌てて気づいたデューイ級コルベットもいたが、その通過中にジャンプゲートの接続が切れたために船体が真っ二つになり爆沈してしまった。

 遅れてナガトや、イプシロン・エリダニ8号星で戦っていた艦隊の一部も短距離ワープして来たが、ジャンプポイントは閉じてしまった後だった。

「クソ、遅かったか……!」

 山南はナガトの艦長席に拳を打ちつけると立ち上がり、通信士官に「ゲイトコントロールを呼べ」と言う。

『山南司令官』

「ジャンプゲートを今すぐオンラインに戻せるか?」

『不可能です司令官』

「何故だ?」

『正体不明の大戦艦を通過させまいと動力を強制シャットダウンしましたが、ゲートの再使用には最低でも4時間は必要です!』

「つまり地球への救援はどうやっても間に合わないということか……」

 母なる太陽系にガトランティスの大戦艦、それも通常兵器が一切通じない化け物が入り込んでしまったことで防衛艦隊の艦長やクルーたちに動揺と戦慄が広がるのだが、この後更なる混乱が巻き起こることはまだ知る由もなかった……。

 


 

 その異変に地球側はまだ気付いていない。

 地球連邦の首都メガロポリスは、かつては「東京」と呼ばれていた都市である。

 そのメガロポリスには地球連邦防衛軍の本部、及び太陽系内での管制業務を総括している太陽系内中央管制センターがある。

 

「長官、中央管制センターからの報告です。ジャンプゲートが作動」

 

 本部のオペレーター席に座っている(もり)(ゆき)が、この本部の責任者、即ち地球連邦防衛軍長官の藤堂(とうどう)平九郎(へいくろう)にそう伝えた。

 

「認識信号は?」

「はい。E.F.S.ダブリン、及びE.F.S.シェナンドーのものだと確認されました」

「ダブリンとシェナンドー……岬くん、どこの所属かわかるか?」

 

 藤堂はもう一人のオペレーターである(みさき) 百合亜(ゆりあ)に尋ねた。

 

「はい、えっと……第二艦隊です」

「とすると、イプシロン・エリダニか……この二週間で75隻を超えたぞ」

「正確には……79隻です」

「……そうか……」

「……」

 

 雪はイプシロン・エリダニに古代率いるサツマが赴いていることを知っていた。

 

(二週間前からイプシロン・エリダニ星系ではガトランティスとの戦闘が続いてて、地球に引き上げてきた損傷の酷い船の数……それがもう79隻になるなんて)

 

 雪はこの二週間で地球圏に戻ってきた艦名を見るが、当然そこにサツマはない。

 かといって、大破または撃沈された艦名のリストにもサツマの名は載っていない。

 

(古代くん……無事に帰ってきて)

 

 サツマが損傷を受けて地球に戻ってきて、古代が自分のところへ帰ってきてほしい。……不謹慎であるとは自覚しつつ、雪は最近そんな考えを頭で巡らせていた。

 

「…きさん、雪さん」

「あ」

 

 横隣のオペレーター席に座っている百合亜が声を掛けてきて雪の思考は現実の世界に戻ってきた。

 モニターを見るとジャンプゲートのライブ映像が映ってる。

 今ちょうど、かつての地球国連軍戦艦キリシマと同型の軽巡洋艦2隻がゲートを潜ってきたところだったが、

 

「……え!?あれは……!?」

「どうしたんですか?」

 

 雪は映像をボーッと眺めていたが、その2隻のすぐ後ろのジャンプゲートの出口から巨大な艦首がニュイッとはみ出てくるのを見つけ、自身の正気を疑った。思考が追いつかなかったのだ。

 だが、それは現実だ。

 その艦首は瞬く間にジャンプゲートの出口から突出し始め、そして、前を進んでいたシェナンドーとダブリンを弾き飛ばして破壊してしまった。

 

「!!?」

「何だと……!?」

 

 百合亜も藤堂長官もその衝撃的な光景に言葉を失った。

 雪は百合亜より一瞬早くその物体の飛行コースを分析し始めた。

 映像を見ていた百合亜は別のものを見つけた。

 

「あ、あれは……!」

 

 艦首は白だが、船体にメタリックグレイの塗装が施されたドレッドノート級が謎の物体の後を追いかけてきたようだった。

 その状況をもし雪が見逃さなければそのドレッドノート級重巡洋艦がサツマであると気付いたかもしれない。

 雪は映像に目もくれず、算出した計算結果に目を見開きつつ、長官に報告した。

 

「長官、正体不明の物体はこちらに向かってきます!」

「こちらとは?」

「地球です!軌道計算が正しければあの物体はこのメガロポリスに落下します!」

「謎の物体の正体はガトランティスの大戦艦と予想され……その数秒後をドレッドノート級が……いえ、今識別信号が入りました、サツマです、あのドレッドノート級はE.F.S.サツマです!」

 

 百合亜の報告からその名前が出た事実と、そのサツマがガトランティスの大戦艦を追跡している状況に雪は再び映像を見て驚愕して思わず口が開いてしまいそうになる。

 一方、百合亜はそんな雪と顔を合わせると、先ほどまでの不安げな表情を切り替えてキリッとする。

 百合亜もあのサツマが誰の船かわかっていたし、サツマなら地球に向かってくるガトランティスの大戦艦を阻止できるのだと、不思議と期待が持てたからだ。

 だが、今度は突然に地球連邦防衛軍本部の電源が喪失してしまった。雪や百合亜よりもかなり離れた位置にあるコンソールが爆発する。

 

「今度は何……!?」

 

 ガトランティスの大戦艦が太陽系に侵入したと思えば、今度は地球防衛軍本部の電力喪失。不安は募るばかりだ。

 


 

「クッソ、頑張れエンジン!」

 

 操舵席に座る長野はパワーが回復したメインエンジンをフルパワーに押し込んでいたが、これがこの艦の最高速度だ。彼らの目の前にはガトランティスの大戦艦の後部が見えているのだが、その後ろ姿は少しずつ小さくなり始めている。

 

「長野?」

「……認めるのは悔しいですが、追いつけません……!」

「敵が射程距離外に出るまでの推定、残り……98秒」

「……何か手は無いか?」

 

 古代がそう呟くと、砲雷長の女性士官が言う。

 

「艦長。例のガトランティスの大型戦艦を軽く分析しましたが、ガリア4号星で遭遇した艦船とは主砲の形が異なるようです」

「それで?」

「この大戦艦にもニュートロニウムが使われていますが、今回の船の主砲は円盤形の回転砲塔でした」

 

 女性士官は松尾に目配せし、彼が答えた。

 

「……ここを重点的に分析したところ、ニュートロニウムが使われている痕跡がありませんでした」

「エネルギーの集中パターンと周波数を変更すれば41cm砲でなら破れなくはないかと」

「しかし、距離があまりにも離れ過ぎています。砲塔を吹き飛ばせたとしてもそれ以上のダメージを果たして与えられるかどうか……」

「それに今主砲にエネルギーを回したら逆噴射も同然です、ただでさえこのスピードを維持するだけでも限界なのに……」

 

 松尾はこの距離で主砲を放っても威力が足りないと言う。

 長野はエンジンスロットルをフルの位置に押し込んだままで、今武器にエネルギーを回したら大戦艦に追随できなくなることを警告してくる。

 しかし、古代は覚悟を決めた。

 

「……やるしかない。渋谷。ピンポイントで狙えるか?」

「困難ですが……やってみます」

 

 砲雷長の渋谷絵里は、まるで針に糸を通さんばかりの視線をガトランティスの大戦艦後部にある大型回転砲塔に集中する。彼女は主砲同時斉射用のトリガーを握っている。

 それはまるでスナイパーそのもの。

 

『武器にエネルギーを回します!』

「逆噴射が来るぞ、みんな何かに掴まれ!」

 

 機関長がパワーのルートを変更、長野がエンジンへのパワーが一部ダウンすると同時に逆噴射による衝撃が来ることを警告した。

 直後、体が後ろへ引っ張られたり、前のめりになるような衝撃をサツマの全クルーが経験する。その間、渋谷は衝撃に対して身構えており、視線をターゲットから一切離さなかった。

 逆噴射のようなエンジンへのパワーカット。大戦艦とサツマの距離は一気に開いていった。従って大戦艦をサツマの射程距離に捉えていられる時間も一気に短くなる。

 ほんの30秒前まで残り時間は98秒だったのに、松尾はこうカウントした。「残り10秒」と。

 9秒、8秒、7秒……時間は減っていく一方だったが、

 

「……見えた」

 

 射程外まで残り5秒で、呟いた渋谷はトリガーを引いた。

 サツマの前方に向けられている主砲の砲口が一斉に火を噴く。

 有効射程内距離ギリギリだ。

 主砲から放たれたのは波動エネルギーの乗った閃光。ドレッドノート級よりも遥かに速く飛んでいく内にそれらは一つに交わるが、何もない空間を進む毎に威力が減衰して細く、細く、どんどん細くなっていく。

 しかしそれでも……大戦艦の後部砲塔で爆発が起きるのを遠目でサツマのクルーたちは確認する。

 命中した。

 

「……第三砲塔らしき部分に直撃、しかし、敵艦の速度が僅かに低下したに過ぎません……」

「俺たちに出来るのはもはやここまでか……相原。地球防衛軍司令部を呼び出せ」

「了解」

(雪、無事でいてくれ……)

 

 しかし、その思いを届けるどころではなかった。

 

「艦長、地球防衛軍司令部が応答しません」

「何だと?」

「おいおい嘘だろ……」

「松尾、どうした?」

「地球全体が停電したようです」

「え!?」

「……いえ、メガロポリス付近の電力が回復。他の地域も徐々に」

 

 古代は直感した。今目の前にある危機(ガトランティスの大戦艦)とは別の何かが起きていることに。

 


 

 火星の衛星フォボスでは、太陽系内にガトランティスの大戦艦が入り込んだことでヴェールヌイ級駆逐艦*2やデューイ級コルベットなどが迎撃準備のために飛び立ったが、大戦艦の火力を前にスクランブル発進した10隻は瞬く間に宇宙の藻屑になる。

 だが、地球軍にとっての奥の手はまだまだあった。

 ちょうど火星と月の中間地点にいたのは、火星を思わせる赤や茶色をしたドレッドノート級5隻を中心とした計25隻から成る艦隊であり、通過しようとするガトランティスの大戦艦を決して見逃さなかった。

 

「艦長。通報のあったガトランティスの大戦艦を視界に捉えました」

「スクリーンへ」

 

 この火星艦隊の旗艦はドレッドノート級重巡洋艦「コンゴウ」。艦長は今井(いまい)早紀(さき)中佐だった。

 

「全艦戦闘態勢!」

 

 今井艦長の命令により、艦隊全艦で戦闘態勢への移行を知らせる警報が鳴り響いた。

 

「波動防壁展開完了。強度120%!」

「射程内に入りました」

「発射!」

 

 彼女の命令で火星艦隊の主力が一斉射撃を開始。しかし、

 

「ダメです、歯が立ちません!」

 

 ガトランティスの大戦艦は今井艦隊のすぐ横を通過しようとするが、その際に回転砲塔からの攻撃を雨あられのように撃ち込んでいった。

 コンゴウにも振動と衝撃が伝わる。

 

「報告!」

「我が艦に被害なし」

「重巡洋艦ドレイク、レーダーを喪失したとの報告が」

「重巡洋艦サンダーチャイルド応答無し。しかし、光信号を受信。〔ワレ損害軽微〕」

「軽巡洋艦ジュノーとジェノバは大破!」

「駆逐艦シェンヤンからの通信途絶、コントロールを失って漂流中……艦橋をやられたようです」

「コルベット艦ヤマグチとベイカーが撃沈!」

 

 今井艦長の元に次々と被害報告が上がる。

 地球軍の艦長やクルーたちが苦虫を噛み潰したような顔をする中、大戦艦は余裕で地球艦隊をスルーしていく。

 その時、今井艦長はあるものを見逃さず、

 

「……! 全艦、敵戦艦のこの部分を集中攻撃!」

「艦長?」

「早く攻撃!」

 

 被害報告の途中で今井艦長の突然の命令が飛んだ。彼女の部下たちは何かあると踏んで命令通りに行動。間も無く、火星艦隊による第二撃がガトランティスの大戦艦に降り注いだ。

 その効果はすぐにも現れた。

 今井艦長がタッチパネルを操作して攻撃を指定した箇所。それこそが、サツマがこの大戦艦に最後の最後で損傷を与えた部分だった。

 その亀裂はあまりに小さかった。ガトランティス側も第三主砲が使えない程度で気にも留めていなかったのだろう。

 その小さな亀裂を今井艦長の命令を受けた火星艦隊が一斉に攻撃してこじ開ける。

 損傷を負ったドレッドノート級重巡洋艦サンダーチャイルドとドレイクもこの期を逃すまいと主砲を一斉射撃。

 そして、ガトランティスの大戦艦はついに第三主砲の部分から火柱が上がった。

 

「敵艦で艦内爆発を感知!」

 

 その報告を聞いて今井艦長は安堵の溜め息を吐いた。

 大戦艦の船体は後部が完全に破壊され、船体も爆炎に隠れた。

 危機は去ったかのように思われたが……、

 

「負傷者の救護を。すぐに月基地に連絡しt」

「か、艦長! あれを!」

 

 爆炎の中から巨大な金属の塊が抜け出す様子がスクリーンに映っていた。

 甘かった。

 

「敵艦の残骸は真っ直ぐ地球に向かっています!」

「しまった!」

 

 大戦艦はもはやニュートロニウムの塊を纏った隕石のような状態で、それも猛スピードで月を通り越し、地球の引力でメガロポリス目掛けて落下を始めていた。

 

「ん? 艦長。通信です」

「誰から?」

「第一艦隊の旗艦……アンドロメダからです」

「アンドロメダ!? 繋いで!」

『今井艦長。あとは我々に任せてくれ』

 


 

 地球軌道上にいたのは、アンドロメダ級戦艦のネームシップ「アンドロメダ」だった。

 艦長、土方(ひじかた) (りゅう)は波動砲のトリガーに指を掛けていた。

 

「エネルギー充填120%!」

「拡散波動砲……発射!」

 

 少しの躊躇いを感じさせるその声と共に引き金を絞った土方艦長。

 アンドロメダの拡散波動砲が産声を上げた瞬間だった。

 拡散波動砲はガトランティスの大戦艦の残骸に命中すると、ニュートロニウムは分子結合を失ってみるみる蒸発していった。

 

 大戦艦を追いかけていたサツマとクルーたちは、見たこともない地球軍の宇宙戦艦と、その戦艦が波動砲を使ったことに戦慄を感じざるを得なかった。

 

【波動砲を使わないで】

 

 そう言っていたスターシアの声が古代の中ではフラッシュバックした。

 

「イスカンダルとの約束が……」

 

 古代はそう呟き、艦長席の肘掛けに拳を振り下ろした。

 イスカンダルのスターシャとの約束を地球が破ってしまい……自分にはもはやこの状況をどうすることもできない無念さを噛み締める他なかった。

*1
E.F.S.=Earth Federation Starships(地球連邦宇宙艦)の略

*2
旧作のヤマト2などに登場した地球軍駆逐艦と同型の艦。




感想、お待ちしてます。

※2022年10月25日追記……ケプラー22と、ケプラー22bについて。ググってもらうとわかるように、この恒星と惑星は実在する天体です。ケプラー22bが本当に地球に似た環境かはまだ定かではありませんが、観測結果からハビタブルゾーンに存在するため、可能性はあります。

※2023年8月11日追記……前後編に分けました。やはり長い気がするのと、修正したい箇所もあるので、今後は分割していきます。

あえて実在する天体を登場させたのは、読み手側にヤマトや白色彗星帝国の位置関係をわかりやすくする狙いと、
こういうご時世だからこそ、地球の外の世界に神秘を感じてほしい。そんな思いを込めました。

一話のストーリーとして長さはどうですか?

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  • 長すぎぃ……
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