宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
目の前には今にもアゼルメニアを破壊しようとしているエネルギー大砲と化したカラクルム級戦艦の大艦隊。
巡洋艦隊を追撃してもこの問題は解決しない。
どうするべきか。
すると、アナライザーが言った。
「艦長。外交チャンネル001ノ使用ヲ提案シマス」
「……アナライザー。まさか」
「ソノマサカデス」
アナライザーはコンピューターを文字通り自分の手足のように操れる。
ホロプロジェクターに映し出されたカラクルム級に対して巨大なエネルギーをぶつけた場合のシミュレーションをアナライザーは見せる。
もし、アゼルメニアを破壊できるエネルギーを溜め込んだタイミングで制御艦に巨大なエネルギーをぶつけたら、そのキャパシティはオーバーする。その後は、カラクルム級の大艦隊は爆発するか、制御を失って漂流するかのどちらか。しかし、そのどちらだとしてもアゼルメニアは救える。
しかし、こんな巨大なエネルギーの塊をぶつけられる兵器といえば……。
「やはりアレを使うしかないのか……相原。外交チャンネル001をオープン。長距離亜空間通信を繋いでくれ」
アナライザーの提案の意味を古代は即座に理解した。
「了解」
シミュレーションを見ていた第一艦橋のクルーたちもアレを使わなければアゼルメニアを救えないと悟った。
相原は即座に外交チャンネル001を起動した。
すると、第一艦橋のホロプロジェクターで表示されていたカラクルム級のシミュレーションが消え、代わりにホログラム通信装置が起動する。
『こちらイスカンダル』
現れ出たのは、イスカンダルの女王スターシアだった。
『古代さん……今はヤマトの艦長でしたね?』
「お久しぶりです。スターシア女王」
『突然の外交チャンネル001の使用に驚きました。要件は?』
「これです」
そう言って古代が太田に指示してスターシアに見せたものは、エネルギーを蓄えて光始めた、巨大なエネルギー砲と化したカラクルム級の大艦隊だった。
「ガトランティスはカラクルム級を巨大なエネルギー大砲にして使うつもりです。このままだとアゼルメニアは破壊されてしまいます!」
『……つまり波動砲を使いたいのですか?許可できません』
「そんな……」
「何故ですか?」
そのスターシアの返答に、百合亜は愕然。新見は問う。
『地球とは何の関係も持たない星。同盟を結んでいる訳でもなく、守る義務もない星を救う為に、何故波動砲を使うのですか?』
古代にとって、スターシアが断ってくることは予想できたことだった。慎重に言葉を選びながらも、今まさに危機的な状況が訪れようとしていることを説明しようとする。
「アゼルメニアには270兆人が住んでいます。例え我々に関係なくても……いえ、この場に居合わせたのであればもはや無関係ではありません」
『でも、今あなたたちは270兆人を助けるためとはいえ、波動砲を放とうとしている。前にあなたたちは似たようなことをしましたよね?』
ちなみに、この通信はアゼルメニアの中央商工会議事堂にも回線がつながっていた。
「スターシア女ぉ」
そう口を挟もうとしたファニアだったが、レーニアーが止めさせた。
アゼルメニア評議会としては口出ししたいのも山々だった。
自分たちが危機に陥っているのだから。
しかし、自分たちの目の前で展開していることは、地球とイスカンダルの問題だ。
「……我々が口を挟むべきではありません」
レーニアーは周りの議員たちに、静かな声でそう言った。
「あの時とは状況が違います」
『例外を増やしたいだけではないのですか?』
「そんなことはありません」
『本当に?』
「そうです。他に方法があったら……」
『古代艦長。数週間前に地球が波動砲を使ったことに関して、私はまだ怒っています』
「その件は決着がついていたはずでは……?」
『いいえ。私が地球の艦船に組み込むように指示した安全プロトコルを、あなたたちは強引な方法で回避して使い、地球に落下中だったカラクルム級を波動砲で蒸発させた。やむを得なかったことだとあなたたちは弁明した。しかし、あの行動は事実上、我々が結んだはずの条約を破ってしまったではないですか』
それに対しては、古代も真田たちも、ぐうの音も出なかった。
『それに、もし今ここで波動砲を使えば、アゼルメニアは波動砲を欲する筈です。波動砲の輸出は、決して行なってはなりません。波動砲の他の星への拡散はこの宇宙を破壊しかねないのです』
そんな時だった。
『スターシア女王』
『よしなさい、ファニア』
『しかし、最高議長……!』
この通信がアゼルメニアの中央評議会にも繋がっている事実に、ヤマトのクルーたちはようやく気付く。
ヤマトのホログラム通信装置に、スターシアの他にもう一人。
猫の耳と尻尾が生えた女性のような少女のような人物が映り込んだ。
『あなたは?』
『私はオルファニア・ファーランダー。アゼルメニア中央評議会議員です。口を挟むべきではないとレーニアー最高議長閣下に止められていましたが、一つよろしいですか?』
『……いいでしょう、続けてください』
『私たちアゼルメニアは地球とイスカンダルが結んだ条約のことを知りません。しかし、それはイスカンダルがかつて強力な軍隊を保持していたことと関係があるように私は思いますが、合っていますか?』
『その通りです。地球側が波動砲と呼称するあの大量破壊兵器はあくまで"仕方無く"保有を許したに過ぎません。波動砲の基本技術は地球の物ではない。我々イスカンダルが提供した物でした。ですが、一度手にした技術をそう簡単に無くす事が出来ない。それを承知して、保有を認めた判断です。既にガミラスにも地球にも拡散してしまった波動砲の技術……私はイスカンダルの女王として、波動砲のこれ以上の拡散を止めなければならないのです!』
『しかし、使わなければ私たちが殺されてしまいます!』
『その責任を負えというのであればいくらでも私が負います。波動砲の乱用を見逃すぐらいなら……』
しかし、そこへ。
『お姉様』
ファニアに代わってホログラム映像として登場したのは、
『……サーシャ』
(雪!)
いかにイスカンダル人らしく見せようとも、古代たちにはそれがすぐに森雪の変装であるとわかる。何故そのような格好をしているのか、貿易交渉に参加していない古代たちにはわからなかったが、それを問い質すタイミングは今ではないことは明らかだった。
『……お姉様。これをご覧ください』
サーシャ=雪が首を縦に振って誰かに合図すると、ヤマトのメインスクリーンにもある映像が映し出された。
中央商工会議事堂の中や、アゼルメニアのリアルタイムの街並みを監視しているカメラなどに回線を接続させた。
『アゼルメニアの人々はまだ知りません。あと数分以内に全てが終わってしまうことを』
公園を彩る草木や、その下でピクニックに勤しむ一家。
市場を行き交う老若男女問わない人々。
外殻ではロッジの近くで遊ぶ子供達。湖でキャンプをするカップルなど。
『ヤマトが波動砲を使わなければ、彼らの全てが終わってしまいます。それでも良いのですか?……お姉様』
申し訳程度だったが、雪から向けられた視線は、一瞬本当に妹のサーシャそっくりに見えた。
しばらくの沈黙の後。スターシアはようやく口を開いた。
『……わかりました。古代艦長。波動砲をどう使います?』
それを問い、古代は、
「エネルギー制御艦だけを狙います」
と答えた。
『何故エネルギー制御艦だけを狙うのですか? カラクルム級千隻程度ならば波動砲だけで全て消滅させることも出来るでしょう』
スターシアはそう言ったが、古代は、
「我々はアゼルメニアを救いたい。そしてこの航海はテレザートへ向かう為の航海です。ガトランティスと戦う為じゃない。ガトランティスを殺すために波動砲を使うのであれば……ただの虐殺になってしまいます。今、ガトランティスが行おうとしている事と大して変わらない。波動砲による被害は最小限に抑えるつもりです」
と答えた。
それを聞いてスターシアは安堵の笑みを浮かべて言った。
『……あなたたちを信じます。波動砲を使いなさい』
そう言うと、第一艦橋からスターシアとサーシャ=雪のホログラム映像は消えた。
アゼルメニアの中央商工会議事堂の会議室では、物事の行く末を見守る地球・ガミラス代表の一団と、アゼルメニア全評議会の議員たちが物事の行く末を見守っている。
「……ファニア」
「はい」
「あなたを叱るのは後にしましょう。それよりも、これから起きることを全て映像に記録してちょうだい」
「え、あ、はい……」
少々戸惑いつつも、ファニアは議席を文字通り飛び越えて離席し、近くのコンソールに走り、録画が開始された。
「波動砲、発射準備!」
「スターシアを説得できたのはいいけど、カラクルム級がアゼルメニアを攻撃するまであと1分半しかない」
「波動砲のエネルギー充填から発射までは全部で100秒掛かります」
古代の指示が飛ぶ中、新見と山崎が懸念を伝えてきた。
「古代。いくら波動砲の使用許可が降りたとはいえ、間に合わないんじゃぁ元も子もないぞ」
島もそう言ってきた。
「わかっている。だが……」
『機関室より艦長』
「徳川さん?」
『大丈夫だ、古代。余裕で間に合うぞ!』
『波動砲への回路切り替えよし、ロック解除!』
機関室から徳川と美奈子の声が聞こえた。
すると、山崎の機関科席のコンソールでも、
「え、は、早い……!?おやっさん、何したんですか!?」
『山崎さん、427です。波動砲発射までのプロセスは修理中に分析しました。チャージ開始から発射までの所要時間はわずか20.2秒で完了するはずです』
「本当だ……!エネルギー充填率120%!」
「た、対ショック、対閃光防御!」
あまりにも発射までの時間が短縮されたことに古代も驚き、慌てて指示を飛ばす。
「古代艦長。いいですか?」
新見が波動砲のトリガーを握りかけた古代の肩を叩く。
「新見さん?」
「艦長。カラクルム級のエネルギー制御艦に全エネルギーが集中し、尚且つそれを放出する直前のタイミングで波動砲を使わなければ意味がありません。私のカウントに合わせて発射してください」
「……わかりました!」
そのお陰で冷静さを取り戻した古代は、
「……桜井」
「はい?」
「今の内に全主砲に三式弾を装填しておいてくれ」
「艦長?」
「いいから早く!」
「……了解!」
そして、新見がカウントする。
「5…4…3…2…1…0!」
「発射!」
そしてついにヤマトから放たれた波動砲……。
エネルギー制御艦に全エネルギーが結集し、アゼルメニア砲撃までたった3秒というところで、ヤマトの波動砲がエネルギー制御艦に直撃した。
すると、エネルギー制御艦全てに波動エネルギーが逆流したらしく、巨大なエネルギー大砲と化していたカラクルム級の隊形の中で連鎖的な爆発が起きる。
エネルギー制御艦は次々に自爆。他のカラクルム級に至っては、パワーを失って漂流を始め、数隻が衝突を起こして爆沈していった。
その光景は当然ミルヴァールも見ていた。
「何だと……!?」
「どうしました?」
ヤマトが波動砲を放ち、カラクルム級によるアゼルメニア攻撃を寸前で食い止めてしまったことにミルヴァールは苦虫を噛み潰したような表情をする。状況をまだ知らないシファルは尋ねるが……。
漂流する千隻近くのカラクルム級艦隊の光景を、何とも言えない顔をして見ていた古代だったが、
「あ……。敵艦500隻がこちらに向かってきます!」
百合亜の報告で我に返り、即座にその敵艦隊をスクリーンに映すよう指示を飛ばす古代。
スクリーンには、ラスコー級巡洋艦を中心としたガトランティスの巡洋艦隊が映った。
ヤマトはメインエンジンへのパワーチャージがおぼつかないために動けない。
「チャンスだ、敵は動けんぞ。全艦、あのヤマトとかいう地球船を沈めろ!」
ゲルン率いるガトランティスの巡洋艦隊はこのタイミングを待っていたようだ。
今ならヤマトを守る波動防壁はなく、メインエンジンにパワーも行かずに動けない、主砲も同じだと思った。
(スパイの報告通りだ、波動砲を撃った後の地球艦などただの的!ヤマトをここで撃沈できれば、プロクシマでの汚名返上と共にメーゼライテオ様の仇も打てる!大帝も御喜びになるであろう)
ゲルンは頬を吊り上げて攻撃開始を指示しようとしたが、突然、彼の僚艦が爆沈した。
「な、何だ?どうしたと言うのだ!?」
「攻撃です!ヤマトからの攻撃です!」
「そんな馬鹿な、どうやって……」
すると、ゲルンの旗艦にも何かが当たった。
「艦首に被弾、……爆発していません」
「どういうことだ?」
「こんなこともあろうかという三式弾だ」
「各自、準備でき次第撃て!」
『第一主砲、準備よし』
『第三主砲、再装填』
『第二主砲薬莢放出』
『第一主砲、発射!』
そうしてさらに三式弾による攻撃を受けるガトランティス艦隊。
三式弾に貫かれたククルカン級駆逐艦は爆沈した。
ゲルンの旗艦に命中した弾の正体を、被弾箇所の応急処置に向かったガトランティスのクルーが伝えてきた。
『し、司令官!実体弾です!敵は実体弾を使って我々を攻撃してきました!』
「実体弾だと……!?ふざけた真似を!巡洋艦隊、何をしている!敵はたった一隻だ、数で押し潰せ!」
そうこうしているうちにヤマトに最も近付いたククルカン級駆逐艦2隻が被弾した。
それらの艦はヤマトに怯まず向かっていった。
被弾したククルカン級駆逐艦がヤマトに向かって突っ込んでくるのはヤマトのクルーたちにも見えていた。
『永倉です。パルスレーザー、射撃開始!』
パルスレーザーの銃座にはヤマトの戦術科のクルーだけでなく、永倉志織たち空間騎兵隊の兵士たちも座る。
彼らの奮戦もあって、ククルカン級駆逐艦の一隻は穴だらけになり爆発した。
しかし、もう一隻はどうにもならない。主砲では近すぎるし、パルスレーザーでは威力不足だ。
そのククルカン級はすぐにも別方向からの攻撃を受けて爆沈した。紛れもなくそれは地球軍艦船の主砲による攻撃だった。
「別方向から大艦隊が接近!……いや、待ってください、地球軍の識別信号を受信しました。コンゴウとサツマです!」
「艦長、コンゴウから通信です」
「繋げ」
『こちらコンゴウのエスシルト艦長です。パーティーはもう終わりですか?』
「……はははっ。とんでもない。お客に今お帰りいただくところだったよ」
さっきの死に体のククルカン級を貫いたのは、コンゴウが装備している主砲41cm二連装砲からの砲撃だった。
コンゴウは、僚艦のサツマや他の地球軍艦船、ベータ中隊とローグ中隊を引き連れて現れた他、アゼルメニア警邏艦隊に所属するデストリア級やクリピテラ級、ガイデロール級、ケルカピア級、ククルカン級、ラスコー級などがその後に続いてきた。
「ローグ中隊、散開!自由に攻撃して良し!」
「右に同じく。ベータ中隊、暴れるぞ!」
伊東愛子率いるローグ中隊と、篠原が臨時隊長を務めるベータ中隊も攻撃に加わり、地球艦隊とアゼルメニア警邏艦隊は次々にガトランティスの巡洋艦隊の艦を破壊、もしくは航行不能にしていった。
さらに。
「司令官!地球の戦艦がさらに別方向から向かってきます!」
「何だと!?」
ガトランティスの巡洋艦隊の目前に現れたのは、メタリックグレイの塗装を纏ったアンドロメダ級戦艦と、白い塗装を纏った二隻のドレッドノート級だった。
それら三隻はヤマトや、コンゴウとも別方向からガトランティスの巡洋艦隊を叩いた。
「囲まれそうです!」
「……チッ、撤退だ!」
このままでは勝ち目はない。そう判断したゲルン率いるガトランティスの巡洋艦隊は踵を返してアゼルメニア宙域から撤退していった。
全てが終わったように見えた。
「ゲルンめ情けない!……魚雷準備!」
「ミルヴァール様?」
「ヤマトを逃すな!」
カラクルム級によるレオギネルカノーネを阻止されてしまったミルヴァールは怒り心頭だった。
ゲルンの旗艦をまさか狙うのか。周りはそう思ったが、ヤマトを狙えという指示にどこか安堵した。
ところが、彼の潜宙艦を突然の衝撃が襲う。
「何だ!?」
「ガミラスの空間魚雷が炸裂!別方向から次元潜航艦の接近を感知!」
「馬鹿な、何故気付かなかった!」
「こんな所にガトランティスの次元潜航艇がいるとはねぇ。連中何しに来たんでしょう?」
ガミラスの次元潜航艦UX-01の副長ゴル・ハイニはそんな問いかけを呟くように言った。
「さぁな。だが、どうせ碌なことではないだろう」
「艦長、目標のパンレケ級次元潜航艦は撤退していきます」
「追撃しますか?」
艦長であるヴォルフ・フラーケンは潜望鏡でガトランティスの潜宙艦を観察していた。彼に対してソナー員のヨルト・メッツェが報告したことは目に見ても明らかである。さらに操舵手のボルト・グランが次の命令を尋ねるが、
「いやいい。放っておけ。我々の任務はあくまでもアゼルメニア宙域のパトロール、及びヤマトの護衛だからな」
「ざーんねん。誰が乗ってたのかは知りたかったんですがねぇ」
「まぁな」
フラーケンたちの活躍ぶりをヤマトのクルーたちは知る由もない。
「敵艦371隻、全速でアゼルメニア宙域から撤退していきます!」
「追撃しますか?」
「いや。その必要はない」
ガトランティスの巡洋艦隊は尻尾を巻いて逃げ出した。
代わりに現れたのは、艦体がサツマと同じメタリックグレーに塗装されたアンドロメダ級宇宙戦艦だった。
「あれはもしかして……」
「識別信号を感知。E.F.S.アガメムノンです!」
「艦長、アガメムノンから通信です」
「繋げ」
『こちら地球連邦宇宙軍戦艦E.F.S.アガメムノンの艦長、安田大佐だ。ヤマト、無事か?』
「えぇ、助かりました。救援感謝します。安田艦長、どうしてアガメムノンがここに? ザルツ星系の防衛に加わっているはずでは?」
『それなんだが……』
『やっほー』
「え、ユリーシャ!?」
真っ先に反応したのは百合亜だった。
『はーい、百合亜。ヤマトのみんな。また会えて嬉しい!』
『おほんっ……我々はイスカンダル女王スターシア陛下の名代として、そのご姉妹であるユリーシャ・イスカンダル大使をアゼルメニアまで護衛するようにと仰せつかった。古代艦長。誘導を頼みたいが……』
「艦長、メインエンジンは復旧しました」
「安田艦長。大丈夫です。ヤマトは航行可能状態に戻りました。先導します」
『では頼む』
一方。アゼルメニアの中央図書館。
図書館にはディスカッションをするための開けた場所がある。
その場では、アナライザーがセントーリ11の遺跡で撮影した映像と三次元モデル。それに、ヴラセン・ヴィクセン・ファーランダールの残した多数の記録や映像、ジェタリア語の文字を表にしたもの*1や簡単な単語表。そして、アゼルメニアが鹵獲したガトランティス艦に残されていた文字列。
それらが宙に浮かんでいるブラックボードに似たモニターに張り出されていた。
なお、斎藤はまだ寝たままだった。ミッターと星名はアゼルメニアの保安部に呼び出されたため、その場から去っていた。
「美影さん。私たちにもディスカッションに加わってほしいとのことでしたが?」
「えぇ。ルーティグ。ワトン。正確には、これから私たちの推測を検証したいの」
「その推測を元に、適切な資料を引き出してほしい。場合によっては遺伝子検査や医療記録の開示も必要になるけど、出来るかしら?」
「はい、透子さん。医療記録に関しては、故人になってから100年を経た人物、もしくは存命中でも医療記録の開示を限定的に許可している人物に限られます」
「悪用はしませんよね?」
「もちろんよ。私たちの推測が正しいかを調べたいだけだから」
「……良いでしょう。今のは記録した?」
「はい。ジルウェ様」
「……では、まず第一の推測は私から」
司会役を買って出た美影は、宙に浮くブラックボードに貼ったものに関して解説をし、
「私の推測だけど、ガトランティス帝国とジェタリア共和国。この二つの星間国家は古代ガトラザート文明から派生した文明だと思う」
「その根拠は?」
「ある。遺跡の文字と、ジェタリア語のアルファベット、それに、ガトランティスの軍艦に使用されていた文字。それらを比較してみたの。この文字に至っては全く形が変わっていないし、文法や単語にも驚くほど類似性がある。だから、きっと発音も似てるはず。調べられる?」
「検索中……」
ルーティグが空中の何もない空間に目をやり、しばらくすると、
「……分析の結果です。ジェタリア語とガトランティス語、ガトラザート語との共通点は95%〜98%」
「つまり……ジルウェ様がおっしゃりたいのは、ジェタリア語とガトランティス語は古代ガトラザート語からの派生型で間違いない、ということですね」
「その通りですね、ワトン」
それを聞いて安堵したというべきか、スッキリしたというべきか。
美影は自身の推測の正しさを証明できたことに興奮を覚えた様子だった。
「では、第二の推論は私から」
今度は透子が名乗りをあげる。
「ルーティグ。ガトラザート人のDNAは資料として残っているかしら?」
「検索中……完了。今から1万6629年前。ガトラザート人の人骨がラトロジア7号星で発見される。その人骨を分子スペクトル分析、及び遺伝子分析した際のデータが記録として残っています。記録者は……」
「ヴラセン・ヴィクセン?」
「はい、そうです」
「では、そのガトラザート人のDNAを、今から取り込む遺伝子情報と比較すること」
そこで美沙が持ってきたのは、紫色をした液体。
「ちょ、それ、もしかして……」
「そうよ。血液よ。ガトランティス人の」
「いつの間に?」
「ヤマトにいるガトランティス人のサンプルを持ってきたの」
そのまま美沙は血液サンプルの入った真空採血管をルーティグに手渡した。
ルーティグの手のひらでガトランティス人の血液サンプルがスキャンされ、「確認」とルーティグは言った。
「……ルーティグ。次に私が出す質問に答えてほしい。ヴラセン・ヴィクセンの血縁者にジェタリア人、もしくはそれに近しい人種はいる?」
「検索中……はい。います。ヴラセン・ヴィクセンの父がジェタリア人でした」
「そのヴラセン・ヴィクセンの父親の遺伝情報、もしくはヴラセン自身の遺伝情報はデータベースに残っているかしら?」
「存在します」
「ルーティグ。次から言うことをよく聞いて実行してほしい。ガトラザート人のDNA、ヴラセン・ヴィクセンとその父親のDNA、そして、今スキャンしたガトランティス人のDNA配列を比較分析の上で表示」
「了解。5分お待ち下さい」
アゼルメニア警邏艦隊は、早速航行不能にしたラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦、それに、パワーを失って漂流するカラクルム級戦艦などを牽引してアゼルメニア警邏艦隊の修理兼検疫ドックに入れる。
その横を、ヤマト率いる地球艦隊が先導するアガメムノンが素通りする。
アゼルメニア消滅の危機は辛くも去った。
だが、それを今知っているのは、アゼルメニアの評議員たちと、あの場に居合わせた警邏艦隊のクルーたち。そして、地球艦隊とガミラスの代表団たちであり、住民たちのほとんどは自分たちに命の危機があったことを知らずに気付かなかった。
そんなアゼルメニア中央商工会議事堂において貿易交渉は山場を迎えていた。
「……というわけで。アゼルメニア最高評議会は、地球側が提示した地球産の海水、O.M.C.Sの技術、主砲の技術、ナノマシン技術、およびジャンプゲート技術を公式に交易品として認めます。異議のある者は?」
レーニアー最高議長の決定に、異を唱える者はいなかった。
「良いでしょう。アゼルメニア中央評議会は交易目録第841947/1号を承認します」
評議会には、ガミラス代表であるマーリン、イスカンダル代表であるユリーシャとサーシャ、そして、地球側の代表として古代、真田、早紀らが集まっていた。
彼らの目の前で、地球が提供できる品目として提示したものが全て承認された。
しかし、さらには。
「議長。アゼルメニア中央評議会交易目録第841947/2号の開示を願います」
そう言ったのはファニアことオルファニア・ファーランダーだった。
「開示を承認。交易目録第841947/2号。その内容は、アゼルメニアから地球へ供与する交易品・もしくはテクノロジーに関するもの」
その話はマーリンもユリーシャも予想していなかったらしく、ガミラス・地球・イスカンダル側を等しく驚かせた。
「アゼルメニアから供与するテクノロジーは、無機物限定のレプリケーション技術、AI技術、及びホログラフィックテクノロジーの三点といたします。地球・ガミラス・イスカンダル代表。異議があれば申し出てください」
すると、意外なことにサーシャ=雪が手を挙げた。
「イスカンダル代表、サーシャ・イスカンダル」
「……現在、ヤマトのクルーの一部がアゼルメニア中央図書館にて調べ物をしています。その内容の持ち出しに関しても許可を頂けますか?」
「……内容にもよりますが、前向きに検討致しましょう。その他には?」
すると、今度は早紀が手を挙げた。
「地球代表、今井早紀」
「失礼します。私はこの場での発言は苦手ですが、あえてお聞きします。その……こんなに供与していただいてもよろしいのですか?」
「……最高議長のレーニアーです。むしろ足りないぐらいです。あなた方は、危険を顧みず我々の星を救ってくださいました。故に、あなた方への誠意として、お受け取りください」
「あと、ドライドック427のAIをヤマトに残すことを喜んで許可します。あのAIもヤマトに残りたいようですし、我々からの供与品としては申し分ない働きを期待出来るでしょう」
「では、交易目録第841947/2号に異議のある者は?」
しかし、手を挙げる者は誰もいなかった。
「よろしい。アゼルメニア中央評議会は交易目録第841947/2号を承認します。全員起立。これより閉会とします」
そうしてレーニアーは最高議長の権限としてベルを鳴らし、
「解散」
地球とアゼルメニア間の初の貿易交渉は、当初の予想を覆して成功裏に終わった。
「検証を完了しました。表示します」
アゼルメニア中央図書館では、まさにある真実が明るみに出るところだった。
「これは……!」
「えぇ。まさにそうよね」
「何かわかったんですか?」
遺伝学も優生学も美影は知らない。しかし、DNAや遺伝子配列を見て、医者である美沙と透子はある事実を導き出した。
「ルーティグ。ガトラザート人とガトランティス人の遺伝的差異は?」
「遺伝子標識は99.9996%が一致」
「……では、私たちのDNA情報も取り込んで調べて」
ここで比較対象がないことに気付いた美沙と透子は二人とも袖を捲り、スキャナーになっているワトンとルーティグの手に自分たちの腕を預ける。
「解析完了」
「では、地球人……つまり、私たちのDNAと、ガトランティス人、及びガトラザート人の遺伝子標識の一致率は?」
美沙は自分の遺伝子が純正の地球人のDNAであることを前提として、遺伝子標識の比較を頼んでみた。すると、
「美沙さんのDNAと、ガトラザート人の遺伝子標識を比較中……出ました。一致率は89.7%」
地球人とガトランティス人は同じような姿をしたヒューマノイドだったが、この一致率は起源が異なることを意味していた。
「ということは、ガトラザート人はガトランティス人たちの祖先ということになる?」
「可能性は高いと言えるでしょう」
美影の問いにワトンはそう答えた。
「いけないわ。そんな曖昧な答えは。ガトラザート人はガトランティス人の祖先であることは確実です」
ワトンの答えに対してルーティグはより明確な答えを提示して訂正した。
「では次、今度はヴラセン・ヴィクセンの父親の遺伝子情報と、ガトランティス人、及びガトラザート人のDNAを比較」
「了解。……結果が出ました。ガトランティス人とジェタリア人の遺伝子標識は97.9981%一致。ガトラザート人とジェタリア人の遺伝子標識は98.9718%一致」
「やっぱりこの三つの種族は何らかの形で枝分かれした親戚同士だったのね……」
美沙と透子の推測は正しかったことになる。
そこまで来て透子がルーティグに次の分析を頼む。
「ルーティグ」
「はい、透子さん」
「テレサのテレパス通信装置……もしかするとDNAがスイッチの鍵かもしれない。ヴラセン・ヴィクセンのDNAと、私のDNA。それぞれをガトランティス人、ガトラザート人の遺伝子標識と比較して」
「了解」
この結果が出てくるまでの時間が長く感じたが、実際はほんの一瞬だ。
「……結果が出ました」
するとルーティグは四者の遺伝子標識を投影した。
「……やっぱりだわ」
結果は、ヴラセン・ヴィクセンと透子の遺伝子標識の一致率は94.143%。
しかし、透子とガトランティス人の遺伝子標識の一致率は……。
「99.9993%……!?」
その数字に、三人は驚きを隠せなかった。
透子の推測も、
……
そのヤマ自体がかなり突飛だったというのに、ところがいざ蓋を開けてみれば……。
「私は……実は人間じゃなかったってこと……!?」
透子の遺伝子は、ガトランティス人の遺伝子とほぼ同一のものという、「突飛」な考えすら突き抜けた衝撃的な結果が出たのだった……。
これにて、アゼルメニア編は終了です。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
-
短い
-
普通
-
長すぎぃ……