宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
それは地球暦2201年7月16日のことだった。
場所は北アメリカ地区東海岸。
復興を始めたばかりのニューヨークにおいて、ガミラス帝国在地球大使であるローレン・バレル、地球連邦防衛軍長官の藤堂平九郎、そしてイスカンダルから遥々やってきたユリーシャ大使ら3人が地球連邦本部ビルに集った。
その目的は《地球・ガミラス・イスカンダル和親条約》の調印、及び《地球・ガミラス相互協力条約》の調印のためであった。
前者は三者の間に和平を結ぶと共に、波動砲の装備・使用に対して制限を加えるものであり、前時代*1に存在した国際連合における「核拡散防止条約」と役割が似ていた。
これにより波動砲はあくまで防衛のために用いるものであり、戦争目的で使用することを事実上の禁止とした。*2
そのため、ナガトやサツマなどのドレッドノート級重巡洋艦、新型のプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦*3などに搭載されている波動砲は、イスカンダル条約の違反にならないように安全プロトコルが用意され、艦載のAIがイスカンダル条約の規定違反でない範囲でならば波動砲の使用を許可し、プロトコルを解除する仕組みになっていた。
つまり、裏を返せば波動砲の軍事利用を
また、地球・ガミラス相互協力条約は、ガミラス戦役により事実上の壊滅状態に陥っていた地球の再建をガミラスが援助し、必要な人員や技術を提供すること。
その他にも地球連邦の防衛能力が回復するまでの間は地球・ガミラスの相互防衛条約が有効であることや、ガミラス側が奪った太陽系の領有惑星の返還、及び場合によっては領土の割譲や開発の支援などが条約に盛り込まれていた。
この二つの条約は地球政府、及びガミラス政府から多数の反対があったものの、最終的には可決され、成立した。
その後色々とあったのだが、一旦この場では割愛する。
条約調印からちょうど1年後の2202年7月16日午後。
古代は日本の
「あなたは?」
「地球連邦宇宙軍第二艦隊所属の古代 進中佐。ドレッドノート級重巡洋艦サツマの艦長だ。地球連邦防衛軍の藤堂長官に大至急お話がある!」
「いけません」
「長官は今お忙しいのです」
「だが……」
「すまないが通してくれないか。私は長官に呼ばれているものでね」
その声に聞き覚えがあり古代が振り返る。古代が言うより早く憲兵の一人が言った。
「あなたは、土方提督!」
「この古代艦長は……私の補佐役だ。通してくれないか?」
「は、ははっ!」
「失礼いたしました!」
こうして土方に助けられた古代だったが、
「……教官。お久しぶりです」
「古代。戻ってきたか。奮戦ぶりは聞いている。……歩きながら話そうか」
久しぶりの再会とはいえ、二人の間には緊迫した空気が漂っていた。
古代は
「教官。どうしてですか?何故波動砲を……」
何故スターシアとの約束を破ってまで波動砲を使用したのか疑問を口にする古代に対し、
「……我々が撃ったのは
「教官……!」
事の重大さを理解していない。古代はそう思ったが、土方は一拍置いて弁明した。
「……わかっている。もちろん詭弁だ。AIは条約違反に当たらないとして波動砲の使用を許可したが、それもあれが船の形を成さなくなってからだった。イスカンダルからの返事も気になるが……」
そうこうしている内に、二人は長官室のドアの前まで来ていたが、ドアの向こう側で(防音工事がしっかり成されてるとはいえ)男女の怒鳴り声が聞こえる。
[___!]
[〜〜〜!!]
「長官。第一艦隊司令官土方です」
[あぁ!?……ああすまない、入ってくれ]
長官室に入室すると、
「ですからスターシア女王、今回の件については……」
『明らかにイスカンダル条約に違反する行為です! 波動砲を使うためにAIを騙すなんて!!』
地球防衛軍長官、藤堂平九郎はホログラムのスターシアと口論になっていた。
その議題は当然、波動砲を使用したことに対してであった。
『そもそも波動砲搭載艦の建造そのものについても私は懸念を持っています。しかし、あなた方から管理AIによる運用を提案された時に私はそれを了承してしまった。あなた方に波動技術を託したのは間違いではなかったとあの時の私はそう思いました! 今の私の心境は、地球流の言い方をすれば、あの時の自分に右ストレートをぶち込みたくなります!』
そう言うスターシアは怒っているというよりも、悲しげな表情を浮かべていた。
「しかし、状況が状況でしたし、なるべくなら使わずに済めば……」
『だとしても、何故最終安全プロトコルであるAIを騙してまで波動砲を使ったんですか!?』
それを言い放ってからスターシアは一旦冷静になる。しかし次は頭を抱えながらこう言った。
『……えぇ。もちろん分かっています、波動砲管理AIについてはイスカンダル製です。あのAIは条約への違反行為に対して抵抗するようになっていました。だから、こちらでプログラミングしたAIに何か問題があったのではと、最初は私もそう思いました、えぇ。でも長官から聞いた話が事実であれば、あなた方地球は私の信頼をものの見事に裏切ったことと同義ではないですか!』
「スターシア女王!」
語句を強めているスターシアに対して、撃った張本人である土方が頭を下げた。
「私が波動砲を撃ちました。AIにあのガトランティス大戦艦の残骸をニュートロニウムの塊だと信じ込ませて安全プロトコルを回避させたのも私です。しかし、あの行動が無ければ今この場であなたと長官が言い争う事など出来なかったと思います。それに、せっかく復興を始めた地球をまた瓦礫の山に変えるなど私には到底出来ない事でした。責めなら私一人が負います」
「いいえ、それなら私も同罪です」
『進さん……』
「スターシア女王陛下。お久しぶりです。あなたは私たちが地球へ帰還する時に「波動砲を使わないで」と懇願されていましたよね? 私たちはその約束を決して破らなかった。……今日の出来事があるまでは」
『……』
「この場で告白しますが、私はアンドロメダが拡散波動砲を放った時、あなたの悲痛な声を聞いてしまいました。そもそもは私があのガトランティスの大戦艦を阻止さえしていればこんなことにはならなかった。この事態を招いた間接的な責任は私にもある。あなたの言伝をしっかり守れなかった責任が……そう思っています」
古代は申し訳なさそうに。いや、彼の若さと経験不足故にその本心が滲み出ているのを藤堂も土方も、そしてスターシアも感じ取っていた。つまり、古代は誠心誠意謝っていた。
『……わかりました。そこまで言うのであれば、今回の件は、古代 進。あなたに免じて不問とします』
藤堂は静かに溜め息を吐き出した。
『予め言いますが、私は、地球人類の生命が再び絶滅するなど微塵も望んでおりません。侵略目的でなく今回のように防御目的で波動砲を使用するのであれば、私に一言でも相談があれば許可したでしょう』
漸くスターシアは頭を冷やしたようだ。先ほどの長官と同じくスターシアも、いや彼女の場合はもう隠す気もなく大きく溜め息を吐いた後、
『はぁー……何度でも言いますが、波動砲の乱用は、結局はあなたたち地球人類の未来を閉ざす行為に繋がります。その時に後悔してからでは遅いのです。……通信を終えます。地球人類の繁栄を心から願います』
スターシアはそうして通信を切った。
「……それで土方提督。君の話が事実だとしよう? どう責任を取るつもりだ?」
土方を睨みながら長官は語気を強めて言う。それに対して土方は一歩も引く様子はない。
「アンドロメダの艦長を退任、ついでに提督という階級を剥奪、ないしは退役……その判断は長官にお任せします。理由はどうあれ、私がAIを騙して「敵の大戦艦の残骸」を地球に落下させまいと行動し、それによってイスカンダル条約とそれによって成り立っている地球とガミラスの同盟関係を破棄に追い込みかねないこの状況を招いたことは事実なのですから」
「しかし、提督は……」
「古代」
古代は土方を庇おうとするが、土方は「口出し無用」と言わんばかりに古代を睨んだ。
思わず古代はたじろいだ。土方は続けて指摘した。
「私はきっとアンドロメダを降ろされるでしょう。しかし、長官に最優先で考えていただきたいのは私の進退ではなく、今後どうするべきかです。今回のことは始まりに過ぎません。あれと同じことをされたら、次も防げるという保証がありません! スターシア女王の許可を得ることが出来ない状況になったなら尚更です。さっきのようなことが起きたら?」
「というと?」
「長官こそよくご存知でしょう? 地球が謎の強力な電波もしくは搬送波に襲われて地球全域で停電に見舞われたことを。首都圏こそすぐに電力が復帰しましたが、アフリカ全域と、南米やアラビア、それにヨーロッパの一部地域では未だに停電と断水が続いてるそうではないですか。あの搬送波が仮に敵の攻撃によるものだとしたら? この状態でイスカンダルにどうコンタクトを取れますか? 条約には「波動砲の発射には国家元帥、ないしはそれに近しい権威を持つ者同士が合意に至らねば使用が許可されない」と記されてることをまさか忘れているわけではありませんよね?」
それを言われると長官もまた頭を抱えた。
「……忘れているわけがなかろう。あの条約の署名欄に名前を書いたのは誰だと思う?」
「しかし、提督」
再び土方は古代に視線を向けるが、古代は同じく「言わせてください」と目で訴えた。
「……お言葉ですが提督、イスカンダル条約は守らねばなりません。これは私たちヤマト元乗組員、及び殉職された艦長の沖田十三提督、全員の総意であります」
「そんなことはわかってる。沖田がスターシアと約束し、君らがそれを守ることを責めるつもりはない。しかし、こう問われればどうする? 守るべきは条約か人命か?」
「それは……」
「波動砲による虐殺行為や乱用行為はあってはならない。しかし、そうでない場合。即ち人命が懸かっている場合をどうするべきだ?」
それに対して古代は即答できない。
代わりに口を開いたのは長官だった。
「……戦争と平和。イスカンダル条約を守るか破るかはこの二つの相反する概念が対立していることが明らかに絡んでいる。古代。君たちが沖田くんの意思を尊重して貫くことに私はうるさく言うつもりはない。むしろ、それでいいと思っているほどだ。しかし、平和を謳歌するには今は早すぎる。そして、折角ここまで立ち直ってきた地球をまた廃墟に変えるなど、私が土方くんの立場にいたなら絶対に許さなかった。アンドロメダの波動砲の引き金を私も引いていただろう。君ならどうする?」
「……」
それに対して古代はまたも答えられなかった。
「単純な問題ではないのは分かってる。だが、次に今の質問をした時はちゃんと答えて欲しい。……それと土方くん」
「はい、長官」
「今回、君への処分はない。しかし、今後は慎重に行動してくれ」
「……わかりました」
長官室での問答から数分後。
疲れた様子で古代は司令部を後にして、夕日の指す公園のベンチに腰掛けた。
そこに冷たいジュースの缶を持ってきたのは、彼のガールフレンドである森雪だった。
「おかえり、古代くん」
「……ただいま、雪」
ジュースを受け取り、缶を開け、一口飲むと、二人そろってホッと溜め息を吐く。
改めて時計を見ると、西暦2202年7月16日。時間は午後3時12分を示していた。
「……まさかこの日のこの時間に地球に戻ってこれるなんて思っていなかった」
古代の頭の中でフラッシュバックした記憶は、ガミラス本星での戦いだった。
ちょうど3年前のこの日、この時間。ヤマトは、ガミラス帝星で当時の総統アベルト・デスラーと対峙した。デスラーは
そしてその1ヶ月ほど前の七色星団の戦いのことも思い出していた。雪が連れ去られたことを。
第二バレラス落下を阻止した後、雪と再会して無事に連れて帰れたことを古代は思い返した。
「あの戦いで……」
雪はそこまで口にしたが、あの戦いで命を落とした人々はヤマトのクルーを含めて大勢いた。
「まさか今日の慰霊祭に間に合った理由が敵の戦艦を追いかけてきたからだなんて……妙な偶然もあったもんだよ」
「慰霊祭、って言うのも変かしら? 誰かが言ってたわね、「未知の世界の日」だって」
「そういえばそうだった、イスカンダル条約が調印されたのはちょうど去年の今日だった。祝日か……全くそんな感じがしない……」
しかし、それを言った古代の目はどこか遠かった。
そんな古代を見つめる雪は、長官室でのやり取りを知っているので、こう切り出した。
「ねぇ、古代くん。長官室であったこと聞いたわ」
「誰から?」
「お義父さんから」
「教官ったら……」
あれは本来なら機密事項にも等しい会話内容だ。それを義理の娘とはいえ雪にベラベラ喋ってしまうとは……。
「お義父さん、古代くんを心配していた」
「何で?」
「波動砲」
その単語が出てきてビクッとなる古代。
「……私見てたもん。電力網が回復したら真っ先にアンドロメダが波動砲を撃つ姿を。長官と大統領とお義父さんがあの後すぐ厳重に箝口令を敷くためにてんやわんやしてたし……」
「地球としてはイスカンダル条約を破ったように見られる波動砲発射は目撃されたらマズイってことか……」
「でもどうかしら……あれだけ目撃者が大勢いたんじゃぁ、何処かからその話が漏れてもおかしくなさそうだし」
「そうだ……」
そうして古代はまた頭を抱えた。
「……僕たち、約束を破ってしまったんだ。良くないことだよな」
「そんなことない!」
雪はそう強く断言した、すると古代は、
「どうしてそう言える?」
「え、えっとそれは……だ、だって、古代くんとお義父さんと、あと火星だか月だかの艦隊の人たちが奮戦してくれたから、私はこうしてあなたと話せてる。そうでしょ?」
改めて言われれば古代はハッとする思いだった。
「……そうだね」
「そうよ。それにスターシアさんも「ちゃんと事前に許可を求めてくれたら怒らなかった」って言ってたんでしょ? だから古代くんはそんなに自分自身を責めないであげて? むしろ、よく頑張ったって褒めてあげて?」
「……ありがとう」
しばらくして、午後3時半を回った。
「……そろそろ行かないと」
「もちろん、英雄の丘でしょ?」
「……いいや、サツマに戻ろうかと思ったんだけど……」
「ダメでしょ。古代くんが地球に戻ってくる予定はなかったけど、みんな待ってるはず」
「でも今は休憩してるだけで……」
「それなら、長官に半休申請出しておいたから。それも二人分」
「本当に?」
「長官からの伝言。行ってこいって」
「……そうだね。ありがとう雪」
「どういたしまして」
古代はベンチから立ち上がって伸びをした後、近くのゴミ箱に空き缶を捨てて、雪を伴って「英雄の丘」と呼ばれる記念碑のほうへ向かって歩いていくことにする。しかし雪は英雄の丘に向かう前にいく場所があることを古代に言った。
「その前にお花屋さんに行きましょ。予約してあるし」
英雄の丘。
それは、地球連邦首都メガロポリスのすぐ郊外に位置する。
そこは、イスカンダルまでの往復33万6000光年の旅を経て地球を救う技術を齎した宇宙戦艦ヤマトを讃えると同時に、その旅で命を落としたヤマトの元乗組員たち295名を弔うための慰霊の場でもあった。
その銅像と背中合わせになる形で神社も作られている。
その神社には少しずつ人集りが増えており、よく見れば祭りの屋台もあった。
「艦長、見てくれ。あの輝く摩天楼を。ガミラスと戦って廃墟と化したはずの地球がこの通り立ち直って来ておるわ。あの戦いがまるで夢のようじゃ……ヤマトが、わしらが、……いやあんたと一緒に成し遂げたことを覚えているのは、もはやわしらだけになってしまったのかのぉ……」
その記念碑のそばで海に沈む夕日に照らされるメガロポリスを眺めて佇む
その姿はまるで下町の親父のような出立ちであり、実際佐渡は、地球に帰還してからしばらくして軍を退役し、メガロポリスの一角で診療所を営む町医者に扮していた。
彼は日本酒の瓶を片手に持ち、もう片方の手に持ったコップに注いだ酒を一杯グッと飲み干し、
しかし、彼の嘆きとは裏腹に、英雄の丘の記念碑の前には手向けの花束が絶えなかった。
「あ、佐渡先生!」
「おぉ、島たちか!徳川さんも!」
そこへさらにやってきたのは、
「おや、小さいお客さんもおるな?」
「
「うん、兄ちゃん」
そう言うとその少年は子供ながらに地球軍式の模範的な敬礼を披露して自己紹介してみせた。
「島大介の弟で、島次郎といいます!」
「おぉ。元気な子だなぁ。ではわしも」
そう言うと佐渡も、
「わしは元宇宙戦艦ヤマト船医。佐渡酒造じゃ」
と敬礼して自己紹介を返してみせた。
「佐渡先生! 夫がお世話になったとか……」
「私の娘も……」
「俺の息子も……」
「おやおや、これはたまげたわい……」
佐渡が驚いたのは、今ここに現れたのは、元ヤマトの乗組員の家族。
一部はこの日に地球に居合わせることが出来なかったので、代わりに家族が来た者もいれば、あのイスカンダルへの航海で命を落としたクルーの遺族もいた。
中には地球に戻ってきて家族が出来た者や、イスカンダルから無事に帰ってきた夫、あるいは妻、あるいは親や子と共にこの場にやってきた者もいる。
あっという間に英雄の丘には元ヤマトの乗組員とその家族や関係者、何と500人以上が集まる大所帯になった。
「凄いな……」
「ホントね、去年より凄くなってない?」
そんな声が聞こえて島がその方向に振り返ると、
「おぉ!古代!雪!」
その名が出ると、ヤマトの元クルーたちはその方向に顔を向けた。
「島、久しぶりだな!」
「やぁ、古代! 地球に戻って来てたか」
大介は古代を歓迎した。
「いやはや、今日はヤマトが旅立った日でもなければ、帰ってきた日でもないというのに凄い賑わいじゃよ」
「徳川さん!お元気そうで何よりです!」
「徳川さん、引退されたと思ったらまだ現役だったんですね!」
「ははは、いや何、島くんの輸送船で働かせてもらっとるよ。ヤマトほどではないが、エンジンにはやっぱり面倒を見てやれる奴がおらんとな。こんな老ぼれにできる最後の腰掛け仕事みたいなもんじゃよ」
やや茶化して言った
「皆揃ったようじゃな。……整列!!」
佐渡は参列者が全員集まったのを見計らって大声で指示を飛ばす。
元ヤマトのクルーたち、その家族、遺族問わず、皆が(一部慣れない様子を見せる者もいたが)沖田の銅像兼慰霊碑の前に整列した。
「沖田艦長……わしがさっき言ったことは忘れてくれ。ここにいる皆はヤマトのことなど忘れておらん。あの辛く長い旅であんたの指揮のもと切り抜けた仲間たちと、その仲間を支えてくれた家族と、今ここに眠っている者たちのために集まってくれた人々……皆、あんたとヤマトのために集まってくれたのじゃ。諸君。勇敢なるヤマトの英霊たちに黙祷!」
そうして佐渡の「黙祷」という言葉とともに、ヤマトのクルーたちはイスカンダルへの旅での出来事を。あの旅で命を散らした家族がいる者は故人の思い出を偲んで、各々の想いを込めて祈りを捧げていた……。
やがて日が落ち、漆黒の闇が訪れるにしたがって、記念碑と背中合わせになってる神社の境内やそこへ続く道々にはお祭りの屋台が立ち並んでおり、2000人を超える人々が集まって大変賑やかな雰囲気を醸し出していた。
「おじちゃん、たこ焼きちょうだい!」
「はいよ!」
「こっちの焼きそば屋並んでるなぁ」
「おいでおいで!」
それにしても、こんな数の人が一体どこから湧き出てきたのか。
ところで、沖田の英雄の丘と背中合わせで建てられた神社はその名を「大和神社」という。
その神社の境内には沖田を模した仏像も建てられており、献花と線香が絶えない。
今頃英雄の丘には「団体さん」がいるためだ。
それでも、この祭りに足を運んでくれた人々はその「貸切」を特に気にする様子はない。
その人混みの中を若い男女がすり抜けるように歩いていく。
「うーん?」
「どうしたの?」
「あぁ、いや、加藤さんたちいないなって」
「そういえばそうだね……」
「ん?おぉい、星名と岬ちゃんじゃないか!」
通り過ぎようとした焼きそば屋で小手返しを握っていた男性たちが二人を呼び止めた。
「太田さん、相原さん!」
遅れてやってきた
「来ないかと思ったよ」
「まさか。ちょっと忙しかったけど!」
「百合亜ちゃん、雪さんが先に上がっちゃったから黙祷の時に間に合わなくて。それで、どうせならと浴衣に着替えてくるって言い出して」
「むー。星名ぁ!」
そうぶっちゃけた星名にプンプンする百合亜。彼の胸板をポコポコと叩いた。
「あははは、ごめんって。相原さん、地球に戻っていたんですか?」
「……まぁ、突発的な用事ができてね。あとで話すことにするけど。そういえば、星名くん、加藤見なかった?」
「いいえ?」
「やれやれ。去年のこの屋台の言い出しっぺは彼なのに」
「ということは真琴ちゃんも?」
「あぁ。来てないね。きっと忙しいんだろう。古代さんたちなら英雄の丘にいるよ、今日は貸切状態だ」
「ありがとうございます」
太田と相原に古代の居場所を聞いた二人が訪れたのはやはり英雄の丘。
ここでは先程の屋台の喧騒が遠く聞こえる。
ヤマトの乗組員やその家族にのみ、今日の英雄の丘の貸切は許されていた。
なお、神社と英雄の丘の間は厚い石壁が一枚隔てられており、ここを通り抜けられる扉は「南部家私道」という扱いなので、関係者以外立ち入り禁止だ。
また、英雄の丘の正面にも「関係者以外立ち入り禁止(17時〜22時)」の立て札が。
なので、神社の参拝客がわざわざここにまわり道してまでここにくることはないだろう。
ここにいるヤマトの乗組員たちにとってこれは慰霊祭であり、同窓会でもある。数人のグループでレジャーシートを広げて各々ヤマトでの思い出話、亡き個人への思いを語っている。
「おお、星名くん、岬ちゃん、来てくれたか」
「はい」
そこへ遅れて星名と百合亜も到着した。
「古代さんどうしたの?」
一方、島次郎はレジャーシート間を行ったり来たりしてお酒を注いで回っていたが、古代が上の空であることに気づいて声をかけた。
「あ、いや、別になんでも……」と古代は誤魔化そうとする。
しかし、古代が落ち込んでいる原因を島大介と徳川彦左衛門は理解していた。
「……古代。ちょっとこっちに来て話そう。雪もおいで」
島と徳川は、古代と雪を自分たちのレジャーシートに招いた。それを遠目で見ていた
「みんな聞いてほしい……波動砲が使われた」
その一言に驚く者と驚かない者。その場にいた元ヤマトのクルーたちの内、既にアンドロメダが波動砲を撃ったことを知っている者は何人かいた。
「そうか……」
「やはりそうなってしまったか……」
島と徳川は特に驚きも無かったが、
「どうしてそんなことに……?」
星名は少しショックを受けていた。百合亜は……雪と一緒にその瞬間を目撃していたので、ただ黙って俯いていた。
「詳しい話は語れない……でも……」
今、彼ら以外でこの話を聞いている者は幸いにしていない。折角の和やかな雰囲気をぶち壊したく無かったからだ。「波動砲が使われた」という事実はまさにそれに繋がりかねない。
「そうじゃな……地球にようやく訪れた平和の時代が真の意味で終わりということになるのか……」
「で、でも、あれを使わなかったら地球が……」
「わかってる。けど……」
アンドロメダが波動砲を使ったことを百合亜は申し訳程度だがフォローした。
あれは地球にニュートロニウムの塊が衝突するのを避けるための行動だったのをモニター越しながら見ていたからだ。しかし、それが隕石ではなく、残骸と化したとはいえガトランティスの戦艦だったことも知っている。つまり、「(地球人類やガミラス人でない異星人ではあっても)人に対して波動砲を使ってしまった」という事実は覆らない。
落ち込んで溜め息を吐いてから、古代は呟くように言った。
「……真田さんの言う通りになってしまった」
「真田さんか……そういえばもう1年か」
古代は頷いた。
不意に1年前、イスカンダル条約が締結された時の真田の一言を古代は思い出す。それは未だに脳裏に焼き付いて離れなかった。
【古代。君は本当にこれで平和の時代が訪れると本気で思っているのかい? 私はこの条約の締結が必ずしも良い結果を産むとは思わない。確かに波動砲は強力すぎる危険な兵器だし、沖田艦長が地球・イスカンダル和親条約をイスカンダルと結んだ理由も理解している。その発展型としてイスカンダル条約が締結されること自体は自然な流れかもしれない。……だが、この条約は単なる足枷になるだけだ。この条約を結んでいるのは地球とガミラスとイスカンダルだけだ。その他の星間国家からしてみれば紙屑に過ぎない代物かもしれない。もし、管理AIが人命より条約を守るという行動を取ったらどうする? 君は座して死を待つのか? 私が知る君ならきっと違うだろう。だから、条約が締結された日を平和の日と定めるには早計すぎる。賭けてもいい。いつか私たちはこの条約を破る日が来るだろう】
「……真田さんは、確かそんなことを言っていた」
古代は虚空に呟くように、目の前にいる島、雪、佐渡、百合亜、星名、南部、徳川らにそれを告白した。
皆、その言葉に顔を歪めたり、ショックを受けたりした様子が見てとれた。
しかし、佐渡は一人冷静に(そう見えるだけなのかもしれないが)コップに注いだ日本酒をググッと一気に飲み干して、顔を赤くしながら言った。
「……真田くんの言うことは尤もかもしれん。だが、もしも沖田艦長がこの場にいればこう言ったに違いない。「自分が正しいと思ったことをするのが一番だ」とな」
「沖田艦長が……」
「そうだ。きっとそう言うだろうな」
日本酒をもう一杯グラスに注ごうとするが、出てきたのはその半分の量。
佐渡は酒瓶を覗き込むが、やはり中身は空っぽだった。
次第に夜は深まっていくが、古代の気持ちは楽にならなかった。
飲酒してしまったので車は使えない。
なので雪と古代は自動運転のタクシーに乗って帰宅の途に着いた。
「……古代くん。大丈夫?」
「何が?」
「だって……あれから黙ったままだし……」
「……考えていたんだ。色んなことを」
「新見さんも言っていたけど、一人で抱え込むのは良くないわ」
「分かってる。君に話したい……けど、頭の中でまだこんがらがってる……」
気付けば体が熱ってる。
それがお酒によるものか、それとも知恵熱によるものか……その両方かもしれないな、と古代は思った。
「……そうだ。あそこに行く」
「……またあそこに?」
古代が「あそこ」と言った場所に、雪は心当たりがあった。
それは、古代だけでなく、元ヤマト乗組員の心の拠り所であった。
古代は座席に取り付けられたパッドを操作して、目的地を追加した。
「私も一緒に行く?」
「いや……いい。今日は一人で考えさせてほしい」
暫くして、タクシーが止まった。
そこには「日本国首都東京旧地下都市・造船ドック」という立て札と共に、エレベーターがポツンとあるのみ。まだここには荒野が広がっている。
古代は雪に「また明日」と言い、タクシーを降りて行ってしまった。
雪は古代が地下都市に潜っていく様子を静かに見ていることしかできなかった。
そして、古代は地下都市に降りながら、2年半前の12月8日の出来事を思い出していた……。
2199年12月8日。波動砲を封印したヤマトは地球の人々からの温かい歓迎を受けてここへと戻ってきた。それも今では遠い昔の出来事のようだった。
角を曲がれば造船ドック。
最後に古代がここを訪れたのは1ヶ月半ほど前。
何か無ければそれはそこにある……はずだった。
「……!?」
古代には、目の前の光景というか、ただ単にだだっ広い空間が目の前に広がっている事実に頭が追いつかなかった。
「……はぁ……!?」
混乱する頭、たったの5秒が1分にも2分にも感じられた時間で思わず出てきた一言がそれだけだった。
「おい、おいそこの君!」
痩せ型で出っ歯と四角いメガネが特徴的な清掃員らしき姿をした青年がドックの床をモップ掛けしていた。そんな彼に古代は慌てて声を掛けた。
そしてその両肩を掴んでこう問う。
「ここにヤマトがいたはずだが?」
「え、あ、はい?」
「一体ヤマトは何処に……!?」
そう、古代の思考が追いつかなかったその原因は、いつもそこに置かれているはずの船。
彼らが33万6000光年の命懸けの旅を共にした、もはや戦友とも言っていい船、宇宙戦艦ヤマトの姿が、あれほど大きいはずの船が、古代の目の前に影も形も無かった。
青年に問いかけたはいいが、古代は目の前の虚空と化した空間をただただ呆然と見つめていた……。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
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短い
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普通
-
長すぎぃ……