宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
第3話「禁断の超科学文明都市①」
地球連邦首都メガロポリスの地下ドック。
今から6週間ほど前、古代はこのドックに佇むように置かれていたヤマトを見てからイプシロン・エリダニ星系に向かった。
そして戻ってきたら、そのヤマトが影も形もなく、ドックは空っぽだ。
あまりの予想外の状況に古代は驚き、清掃員らしき青年にヤマトの所在を食い気味に問い質すような事態になった。
「一体ヤマトは何処に……!?」
古代の気迫に青年は圧倒されるが、その問いに答えてくれた。
「え? え、えっと、ヤマトなら5週間ほど前にドックを出てますね」
「何だって?」
「あ、その、本格的に記念艦にするための改修を施すとか何とか……言ってましたね」
「記念艦に? ……そうか」
地球の窮地を救ったヤマトを記念艦として残そうと言う話は前からあった。
(ついに戦列を離れて歴史の遺産になるのか……仕方ないとはいえ、俺たちの航海はこうして歴史に埋もれていくんだな……)
そう古代は心の中で思った。ヤマト自体が記念艦として残るのは良いが、一抹の寂しさを感じずにはおれなかった。
「えっと……も、もしかして、あの古代進さんですか!?」
「えっ……あぁ、そうだけど……」
そう答えると、青年は目を輝かせる。
「や、やったぁ!本物だぁ!!ぼ、僕、
先ほどとは打って変わって今度は青年───新米が興奮し始める。さっきの古代と違うのは目をキラキラさせ、握手をお願いされてることか。その眼差しにはまるで思わぬところで有名人と遭遇した一般人のそれというか、憧れのようなものが向けられていると感じた。
古代は戸惑いながら握手に応じる。
「えっ?あぁ……俺でいいなら?」
「ありがとうございます! 僕、ヤマトの大ファンでして!」
ヤマトが帰還してから暫くの間、ヤマトのクルー達はテレビやマスコミに引っ張りだこだった。それも1年経つと落ち着いた。
あのマスコミの熱狂に晒されていた頃を懐かしむ一方、一挙手一投足を見られるのはやはり落ち着かないから戻りたいとは思わなかった。
古代自身、何度もマスコミからインタビューや取材。大衆からは握手やサインを求められた。それも一時的なブームでしかなく、何時かは冷める物である。とはいえ、それはそれで良かったのだが。
(あぁ、そうか、こういうことか……)
古代はここ数年、地球の復興ぶりを見てきた。かつて海は干上がり生命は死滅し廃墟が点在していた地上に、今では緑が溢れ、海は満ち、生命が息づき、都市は次々と再建されて人々が賑わっている。しかし、その様子を見る度に古代の心の何処かが空虚と化していた。
(ヤマトが……俺たちが命懸けで地球を救ったことが……風化するのが俺は嫌なんだな)
その虚無感の正体にようやく気付いたのだが、
「あっ、あの!その、さ、サインもお願いしていいですか!?」
興奮して後半が上擦ったような声でサインをせがんできた新米の声で現実に引き戻された。
彼は実に嬉しそうに固く握手を交わし、その感触を堪能していた。
虚無感の正体にも気付き、自分たちのあの過酷な航海の記憶が過去の遺物になる事に寂しさを感じていた古代だったが、こうしてあの出来事を忘れないでいてくれる人が未だに残っている事実に少し涙が出そうになった。
「相変わらず人気者だな、古代」
そんな時、ふと別の方向から声をかけられた。
その聞き覚えのある声に思わず振り返ると、そこには地球連邦防衛軍の制服を着た
「真田さん? ……え、どうしてここに!?」
古代は驚いた。ちょうど去年のイスカンダル条約締結について意見が対立して以来、音信不通だった真田が、何故か自分の目の前にいたのだ。
そのあまりの展開に新米も当然驚くのだが。
「さ、真田さんというと、あのヤマトの技術長の真田志郎さんですか!?」
「いかにも。君は?」
「あ、はい、新米俵太と申します!「新しい」に「米」と書いて「あらこめ」って読みます!」
「新米くんか。ヤマトがここに来てからの清掃を手掛けてくれて感謝しているよ。改修の際に埃取りから始めねばならないのかと憂鬱だったんだが、君がヤマトを念入りに掃除してくれたおかげでかなり楽になったよ」
「あ、いえいえ、お役に立てたようで何よりです!」
「真田さん、ヤマトは一体どこに?」
古代は、船体の固定跡が残っているだけの空になったドックに再び目を向けた。すると真田もその虚空を見つめつつ質問に答えた。
「今ヤマトはある場所で改修中だ。きっと君がヤマトに会いに来るだろうと思って私もここに来たのさ」
「でもタイミングが……」
あまりにも出来すぎてる。古代はそう言おうとしたが、真田が立っている方向からコツコツと足音がしたと思えば、さらに予想外の人物たちが現れたのだ。
「と、と、と、藤堂長官!?」
古代より一歩早く、新米が慌てて敬礼すると、勢いで掛けていた眼鏡がズレた。
「え、こ、これは藤堂長官!!」
古代も一歩遅れて事態を認識した。
地球連邦防衛軍長官の藤堂平九郎を筆頭に、その後から女性1人と男性2人が連れ立って現れたことに漸く頭が追いつく。
慌てて敬礼した2人とは異なり、真田は冷静でかつ綺麗に敬礼をした。
藤堂長官が休めの合図を出すと、3人は敬礼を解いた。
「君らの同窓会のことは星名や森くんから聞いていた。それに古代。君が地球に戻ってくるとここに足繁く通ってることもな?」
それだけ言われれば古代もこの状況に納得。
しかし、今度顔を合わせる事があれば、これは星名を問い詰めないとならないな、と古代は溜め息を吐きそうになった*1
そんなことお構いなしに藤堂はヤマトの移動先について言及した。
「ヤマトだが、今は改修の為に南極にある特殊な施設に移送している」
「南極……ですか?」
そこは人類にとって、ある意味「宇宙よりも遠い場所」。人間が住むことを許されない極寒の世界、地球六大大陸の内で最大の未開の地だ。
「何故わざわざそんなところへ? 記念艦として改修するだけにしては……」
「それに関しては真田くんと話をしてほしい。古代。君にはこれからある任務を与えたい。その上で、これから君には知っていて貰いたい事がある。真田くんと彼らに付いて来てくれるかね?」
藤堂のすぐ後ろについてきた人物たちに古代の目を向けさせた。
まず女性は、見た目は20代後半で、ボリュームのあるウェーブヘアの金髪と赤い縁の眼鏡を掛けている、とても美人でグラマラスな体型をしていた。
その後ろに紫がかった髪に髭を生やしたガミラス人の男性と金髪のガミラス人の青年が居た。
(あれ……?)
この髭を生やしたガミラス人の男性、古代には見覚えがあったのだが、
「……あぁ!あの人だ!」
先に新米の方が気が付いたらしい。
「あの人、って?」
「確か、「パフェ〜?」の人ですよ!」
「……あぁーっ!あの人か!」
ようやく古代も既視感の正体に気付いた。
話は今から約1年半前。
月にガミラスの在地球大使館が建造され、その除幕式兼記者会見が行なわれた時のこと。
ある記者が地球の食文化についてバレル大使に質問を振った時のことだ。
〔バレル大使はパフェはお好きですか?〕
〔ぱ、パフェ〜?〕
とまぁ、在地球大使の口からそんな気の抜けた発言が飛び出したというわけだ。
なお、この記者会見での発言は、いい加減ヤマトの次のブームを探していたマスコミにとっては次の燃料が突然投下されたようなものだった。
「あぁー、その後「パフェ美味しい♪」って発言もあったなぁ」
などと回想すると、バレル大使が恥ずかしそうな顔をしたのは見間違いではないはずだ。
あれはちょうど1年前、復興中のニューヨーク、新たに創設された地球連邦議事堂において、地球・ガミラス・イスカンダル和親条約の調印、及び地球・ガミラス相互協力条約が締結された時のこと。
藤堂長官と、イスカンダル代表のユリーシャ・イスカンダル、そして、ガミラス代表のバレル大使らが条約に調印した模様は地球や地球連邦の勢力圏で生中継された。
するとだ。世間はユリーシャの魅力に惹かれ、マスコミというか週刊誌やグラビア誌がユリーシャで特集を組んでたわけなんだが、その際にちょっとしたスキャンダルが漏れ出たのも事実。
まぁ、簡単にいえば、条約調印式の後の晩餐会でのこと。
〔こ、これがパフェか……!〕
〔そうですよ〜〕
食後のデザートとして登場したのがチョコレートパフェである。
バレル大使の横に座っていたユリーシャ大使のゆるふわ発言にはいつの間にかマスコミも慣れたものだったが、その後、スプーンで一口、チョコレートパフェを食べた時のことだ。
〔んん〜……パフェ美味しい……♪〕
その発言の大元は誰だった?
ユリーシャ大使?
いや違う。
ローレン・バレル大使その人である。
いい歳したおっさんからそんなゆるふわ発言が飛び出しただけでなく、パフェを一口食べただけで朗らかにとろけ顔をしていたとあって、その次の日の新聞記事の一面にはデカデカとその場面が使われた。
さらには何故か芸能雑誌までそれを取り上げる始末となった。
「それで、このおじさんはオイシイパルフェの大使として有名になっちゃったんですよねぇ〜」
金髪でグラマラスな美女が途中回想を言及してトドメを刺した。
当然バレル大使は恥ずかしかった。
「い、一応私は在地球ガミラス大使なんだがなぁ……」
「まぁ大使。諦めてください。地球ではあなたのことは「パフェ〜?の人」で知名度が出来ちゃってんですから」
補佐官らしき金髪のガミラス人青年が大使の肩にポンと手を置いた。まぁ「諦めてその事実を受け入れとけ」と言わんばかりなのは今更ではあるが。それを金髪美女がさらに茶化した。
「あらあら大使ったらデキちゃったとはまた大胆♪」
「おほんっ!」
このままではボケ倒しで収拾がつかなくなると思った藤堂長官が大きく咳払いした。
「……その反応からすると君らは、去年の相互防衛条約調印式の時の中継を見ていたと思うが、この方が在地球大使のローレン・バレルだ」
「……初めまして」
長官のおかげで場が平静かつ静寂に戻ったので、バレル大使が握手を求めてきた。
一瞬戸惑うが、古代はそれに応じた。するとバレル大使は笑いながら、
「ハハハ、君とこうして握手する日が来るとは思ってなかったよ」
「ど、どうも」
新米の時といいこの大使といい。今日は握手を求められることがやけに多いなぁと古代は思った。
「それと彼は私の護衛兼秘書だ」
「俺…私の名前はクラウス。クラウス・キーマンだ。よろしく」
キーマンとも握手する古代。だが、心なしか、警戒する様な目でキーマンは睨んでくる。キーマンは零すかのように言った。
「……本当は気が進まないんだがな」
「そうもいかないぞ。漸く視察の許可が降りた。それがたまたま彼らのヤマトとの再会に重なった。それだけのことだ」
バレルからは先ほどまでのコミカルさは鳴りを潜め、真剣な顔つきと声質でキーマンを注意した。
古代は彼らの会話から察した。
「その視察先が?」
「南極だ。ヤマトもそこにある」
「何故南極にヤマトが?」
「……」
どう答えるか悩んだ真田がバレル大使とキーマンに目をやると、3人は頷き、キーマンが口を開いた。
「これから我々が向かう施設は極秘施設だ。ガミラスが利用させてもらっている。ある意味、禁断の地というやつだ」
「禁断の地……」
その単語に得体の知れない不安が込み上げてくる。
ヤマトがこの場にない空虚さが余計、その不気味さに拍車を掛けているのは気のせいではないだろう。
しかし、バレル大使はキーマンと古代の肩に手を当ててキーマンの表現についてこう言った。
「それは大袈裟すぎるぞクラウス。そこにある造船所ではガミラス艦艇の建造も行なっている。我々はその視察に行くというだけの話だろう?」
「あと新造のゼルグート級を受け取りに」
「……え?ちょっと待った。南極にガミラスの造船所が?」
ますます混乱する古代。
「話せば長い。詳しい話は行きの船で」
真田にそう促されて古代もバレル大使一行もドックを出ていくことに。
「……あぁそうだ。新米くん」
「は、はい?」
真田はどこからか取り出した油性ペンで、
「私のサインでいいなら……どこにする?」
「あ、じゃぁ、このモップに……!」
(しまった)と古代はそう思った。
いつの間にか新米からサインをお願いされていた事実がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
しかし、今更声を掛けるのも後の祭りのような気がした。
「や、やったぁ!あっ、ありがとうございます!このモップは家宝にします!」
そう言われて頬を釣り上げる真田。ちょっと悔しく苦笑いをする古代であった。
ドックにポツンと1人、新米を残していく形になったが、これから向かうところが場所が場所なだけに(宙士とはいえ)一介の清掃員である彼を連れては行けなかった。……どの道、彼は清掃道具の後片付けに戻らなければならなかったが。
地上に上がると、古代は真田たちと同じ車両に乗せられた。
一方で長官は別の車両に向かう際、
「私はこの後急用があるのでその視察には同行できない。なので、後の事は真田くんたちに任せている。彼に付いていくといい」
と言った。これから禁断の地に行くと言うのに長官がいなくなるのは、古代にとってますます不安だった。
「そうでしたな長官。お気をつけて」
一方でバレル大使は長官の「急用」を知ってるらしかったが、何やら耳打ちしている。
よく聴くと「居酒屋」、「奢る」、「焼き鳥」、「ビール」といった単語が聞こえたのだが、そのまま藤堂は護衛2人を引き連れて足早に去っていった。
古代はバレル、キーマンらと共に真田と、先ほどから一緒にいる金髪グラマラスな美女に案内されて、メガロポリスの宇宙港へ到着した。
時間は既に夜11時に差し掛かろうとしている。
「こちらが連絡専用船でございまーす!」
宇宙港の47番格納庫に案内され、金髪美女がバーンと大袈裟なリアクションで示したのは、船体がマットブラック、一部が金色で塗装された連絡専用船であった。
見た目はイソカゼ型突撃駆逐艦に波動機関を搭載して強化し、地球連邦防衛軍創設後の再分類で「デューイ級コルベット」と呼称されたものとよく似ているが、連絡専用船として改装されているためか、下部の主砲は撤去され、上部の主砲があった部分には観測デッキのようなものが設けられていた。
この専用船に古代たちがタラップを伝って乗り込む。
「こんばんは。フライトアテンダントのジュリエットと申します」
そう名乗り、銀髪をポニーテールでまとめ、眼鏡のようなものを掛けた、岬 百合亜にどこか似た女性クルーが彼らを出迎えた。
さらにコックピットの様子がチラッと見えて古代は少々気になった。
この専用船のクルー達は全員が女性であり、それもどこか、百合亜や山本 玲、西条未来や原田真琴などにも似ていて、何人かは似た容姿をしている様に見えた。
髪型や髪の色や目付き、ホクロの有無や、眼鏡の有無、髪の色の違いなどはある。
だが、全員がヘッドホンらしき物を耳に付けていることと、首から下が黒く艶のあるインナーで手の指先までもがぴっちりと覆われて体のラインが浮き出ていること。
その上からスカート付きの女性用制服を身に纏っているが、色は薄い紫色で、制服を走ってるラインは黒……こんな見覚えのない配色の隊員服を着ていることが全員共通している。
また何人かは無機質で感情の乏しさが感じられ、第一印象として、どこか気味の悪さを感じた。
しかし、フライトアテンダントの
専用船は反重力推進と波動エンジンで宙に浮き、宇宙港を飛び立った。
上部主砲の代わりの設けられた観測デッキは見晴らしの良いVIPルームであり、窓からは船の下に雲の海が一面に広がっているのが見える。表示されている今の高度は3万メートル。更にゆっくりと高度は上がっていく。
古代たちは乗客として対面式のシートベルト付きのソファに腰掛けていた。
古代が窓際の席、真田はそのすぐ横の席に座っており、彼らの対面に、バレル大使とキーマン、そして、先ほどから一緒の、ウェーブヘアの金髪と赤い縁の眼鏡が特徴的な美女がアタッシュケースを抱えて座っている。
漸く女性は名乗った。
「さて、自己紹介がまだでしたねぇ。私の名前は
「ネオ・ゼムリア……?」
「あら、「そんな都市聞いたこともない」と言う顔ですねぇ? まぁ、それも当然です。ある意味、地球にとってはジョーカーのようなものです。一般市民はおろか、地球連邦とガミラス評議会の上層部の一部、それにイスカンダルの王室ぐらいしかこれから行く場所については知り得ませんので」
「そのジョーカーとか言われてる場所で、我々は地球に
バレルが説明し、キーマンの視線は真田に刺さる。
真田は内心冷や汗をかきながら、キーマンたちに理解を求めた。
「あの場所は国家機密なので、ご理解を……」
「しかし許可を求めてから9ヶ月ですよ?遅すぎます」
「我々は艦艇の建造を地球に委託し、ライセンス生産の許可を下ろしている。地球が建造技術を研き、地球艦艇の建造に活かす。その様な形で地球に貢献できるなら許される範囲で建造を依頼しているのだよ? 一応駐在員からの報告は山のように来ていて、実際に出来てきた艦艇もガミラスの純正品に劣らない完成度、むしろロットが進むにつれて我々が使ってる船よりもどんどん品質が良くなっていく。これだと、より視察する必要に駆られるというものではないか」
そう言うとバレルが視線を向けたのは美衣奈のほう。美衣奈が力なく笑うと、バレルは再び真田と古代に向き直った。
「確かセリザワとか言ったな? 我々の視察を散々阻んだ奴というと。そいつは1年近く前に更迭されたはずだろう」
「しかし、最終的な許可は大統領の認証が必要でした」
「……なるほど。あのデュカット大統領が渋ったというわけですね」
そうバレル大使は腕を組むと軽く溜め息を吐いた。納得したわけではなさそうだが。
「あの……申し訳ないんですが、事情が飲み込めません」
先ほどから政治的なやり取りの応酬が繰り広げられていることは理解していたが、そもそもの疑問に彼らは答えていない。改めて古代が問い掛けてきたことに、真田、美衣奈、キーマン、バレルらは4人揃って相槌をした。意を決した様子で、真田が明かした。
「……古代。今さっきから言ってるように、これから向かう「ネオ・ゼムリア」という都市は国家機密だ」
「地球にかつて存在したアメリカのエリア51みたいなもの、と言えばわかりやすいですかねぇ? フフッ……まぁ、アレより、
そう戯けてみせる美衣奈だが、目は笑ってなかった。
その目にゾッとしたのは、いつの間にか専用船が大気圏を飛び出して宇宙空間に出ていたせいだろうか。真田が古代の肩に手を置き、少しなりとも不安を取り除こうとする。そして真田は言った。
「……そこでは言うなれば「時空間的特異現象」が起きている。……我々はそれを時間断層と呼んでる」
「時間……断層?」
聞いたことのない現象が突然に真田の口から出た。
するとキーマンが言った。
「君たちは地球を再生させるためにコスモリバースシステムを使ったな?」
「……あぁ」
忘れもしない。地球がここまで元の姿を取り戻せたのはあの装置のお陰だったからだ。
「コスモリバースシステムは我々ガミラスでもその説明に窮するものだ。一種の物質破壊装置とも言えるし、タイムマシンとも言える。あれの作用を簡単に説明するなら……」
キーマンは真田に説明を振った。
「まずあれの動力源はヤマトの波動エネルギーだ。作動させると……コスモリバースシステムは《惑星の記憶》にアクセスし、その記憶を刺激し、刺激された記憶を元に物質を復元するものだったんだ」
「惑星の記憶……?」
「漠然とした表現で申し訳ないが、そう言った方が逆に分かりやすいかもしれん」
論理的かつ理論家で科学者でもある真田は曖昧さを嫌う。しかし、今回はそのような曖昧かつふわふわした表現でないと古代に理解して貰えないだろうと踏んだのだ。「皮肉ですよねぇ」とは美衣奈の言。
「物質破壊装置と言いましたが?」
「ガミラスの定義では「物質破壊装置」というのは「物質を再構成出来る能力」も含まれます。……らしいですが」
美衣奈は最後の最後で曖昧な答えをしたのだが、
「物質ということは生物も?」
「そうですね」
すると美衣奈はフライトアテンダントのジュリエットを呼んで、データパッドを借りる。
美衣奈がそれを操作して、画面に映し出したのは、複数の動物の動画。
しかし、それは23世紀の今となっては信じられないような光景だ。
そこに映っていたのは、まず1627年を最後に絶滅したとされるウシ科の生物、オーロックス。写真ではない。何処かの草原で数十頭が地に足をつけて歩いており、動画の中では牧草を食べている。
また、1681年に絶滅したとされるモーリシャスドードーが巣作りをしている姿が映し出されており、とある森の中ではモアが闊歩している。
極め付けは、アルゼンチンでゆっくりゆっくりと歩いているグリプトドンに、アメリカ西部でバイソンの群れに襲いかかるサーベルタイガーまでいた。
これらは復元模型でもなければアニマトロニクスの類でもない。みんな生きているのだ。
「この動物たちは俺たちが生まれるより遥か昔に絶滅した。それが再発見されたと大騒ぎになったのは、地球が青い姿に戻った時だった」
そうして古代は目を見開き、ある事に気付いた。
「……まさか、タイムマシンと物質破壊装置の組み合わせで、地球上の動植物だけでなく絶滅したはずの野生動物までそっくりそのまま再生されたと……!?」
「さすが。やはりそこに気付きましたか」
「だからか……動植物が、遊星爆弾で汚染される前の状態にほぼ戻れたのは……」
「正確には科学文明が生まれるより数万から数十万年近く前の環境に戻ったと言えるかもしれない」
だが、今度は美衣奈は真面目なトーンで強調するかのように言った。
「まぁ、つまり……時間断層ってのはそのコスモリバースシステムを使ったことによる歪み、副作用というわけですよぉ」
「副作用……」
それが恐ろしい単語として聞こえ、背筋が凍るような感覚に古代は襲われた。
「で、でも、絶滅動物が復活した、なんていう話は今の今まで聞いたことがないんですが?」
「大統領が箝口令を敷いてこの件に関する情報に制限をかけたからだ。その理由こそが、「時間断層」にある。この時間断層の特徴を簡単に述べるなら、外での1日が中では10日になること」
「え、ということは……」
ここで古代も気付いた。
「ドレッドノート級やアンドロメダ級の就航がやけに早いのも……!?」
「気付きました? そう、ドレッドノート級やアンドロメダ級はこれから向かうネオ・ゼムリア……いえ、こう呼ぶべきでしょうか。「時間断層都市」と。そこは大都市であると同時に多くの宇宙艦の造船所が多く立ち並んでいます。ドレッドノートやアンドロメダだけでなく今の地球連邦を支えている艦船の大半がそこで作られてます。その方が時間の短縮になりますからねぇ」
どこか得意気に美衣奈は語った。
「幸いマスコミはヤマトの追っかけと、それに飽きたらユリーシャ大使に、このおじさんが派手に自爆発言したのを拾ってくれたので、大衆の目を逸らすのに役立ったわけです」
そう言われてバレル大使が再び恥ずかしそうな顔をする。流石にキーマンも真田も「もう許してやれよ」と少し同情した。
それに構わず、古代は次の質問を切り出した。
「それにしたって、真田さん、何故ヤマトがそんなとんでもないところに運ばれたんですか? 退役して記念艦に改修するだけなら横須賀や呉、佐世保のドックでも可能では?」
すると真田は非常に言い辛そうに切り出した。
「……当初は、記念艦になる計画だった。芹沢元参謀長が中心となり、ヤマトの退役を検討していたんだ」
「え……!?」
芹沢虎鉄は参謀長を解任されただけでなく、地球連邦防衛軍からも強制除隊させられたと聞いている。しかし、そんな裏でヤマトの退役を検討していたなどは知らなかった。
「改修や改装にかける費用を宇宙戦艦とはいえど1隻の為に使うと考えたら当然の判断だ。ヤマト1隻を維持して使い続けるよりは、アンドロメダ級やドレッドノート級を量産して使う方が確かにコストパフォーマンスは良かっただろう。しかし、私はヤマトが必要になる事態を想定して、予備戦力や実験艦としての運用を提案していたが、元参謀長は聞き入れてくれなかった。そんな時に、芹沢元参謀長は例のイズモ計画派反乱事件の首謀者として更迭された。それで予備戦力としてのヤマト保存計画が漸くスタートしたというわけさ」
「あの融通の効かないガミガミ頑固オヤジは今頃プロクシマ3辺りで島流しになってるかと思います」
芹沢との間によほど不愉快なことがあったらしい美衣奈は「清々した」と言わんばかりの涼しい顔でそう告げた。
「でもそれなら何故今頃? 芹沢元参謀長が更迭されたのは1年近く前なのに」
「最初は急ぐ必要の無い計画だったんだ。ところが……ガリア4号星にガトランティスの大戦艦が出現したことで事態が急変した」
真田の声のトーンが下がり事態の深刻さを物語る。
「あの大戦艦にはドレッドノート級に搭載されていた30.5cm砲が全く歯が立たなかった。それで大急ぎで当時試作段階だった41cm砲も実戦投入したが、それでも真正面からでは歯が立たなかった。……君が弱点を見出すまでは」
古代はサツマを指揮してガトランティスの大戦艦を必死で追いかけていた時のことを思い出す。
あの時は無我夢中でギリギリ射程距離に捉えられた敵艦の後部主砲を攻撃し、その時に作った亀裂が火星艦隊にとって撃破の突破口になり、しかしそれでも完全にあれの進撃を阻止するに至らず、漸くアンドロメダの波動砲で破壊出来たのが実情だった。
なお、蒸発を免れて地上に落ちた残骸は大きいもので大型トラック程度で、それが北半球と赤道上の地域に広範囲に分散したらしい。
「今日のあれが起きる前の段階で私はヤマトの大口径の48cm砲であれば、あの大戦艦のニュートロニウムの装甲を貫けるのではないか?と考えていた。だからガリア4号星事件からやや経ってしまったがヤマトの大規模改修が決まった。だが改修のためには時間が必要で、時間断層都市にヤマトを運び込んで漸く着手できたというわけだ」
「それが5週間前だから……時間断層の中では?」
「地球の暦だと約1年に相当する期間ですねぇ」
改めて事の重大さに古代は顔を手で覆い頭を抱えた。
「しかし、外の時間でも5週間という空白の期間をどうするか。そこで長官が表向きは記念艦としての改修などと嘘をばら蒔いてくれたというわけだ」
地下ドックで新米がそう言ってた理由もわかった。
「なるほど。でも、そこまでするんですか?」
「そりゃぁ、「世間に知られてはパニックになりかねない危険な場所」ですからねぇ」
何故だろう。行かなきゃならないのに不安感は増すばかりだ。
すると、美衣奈はアタッシュケースを開けた。
「……それは?」
「予防接種ですよぉ。今言ったように時間断層って危険なとこなんです」
「何故?」
そんな質問を振ると、先ほどまで戯けていた美衣奈の顔から表情が消え、見つめると暗い何かに引き込まれそうになる眼をしながら尋ねてきた。
「……それ聞いちゃいますぅ?」
何か良くないことを聞いてしまったようだ。
変なスイッチが入った美衣奈は半ば早口で捲し立てるかに説明し始めた。
「そもそも時間断層って、元々は南極の中心部から時間の断裂現象が起きていたんですよ? 最初は南極点で、時間が正常なものからズレ始めて、それがどんどんどんどん周りに広がっていったんです。まるで波のように広がり、各所で時間の流れすらも層を思わせるかのように違った。こんな異常現象、一体いつ起きたのか。それを逆算したらコスモリバースシステムが作動してすぐだとわかった時なんて真田さんも新見さんも真っ青。私……じゃなくて、そこのガミラスの人たちよりも遥かに顔色が悪かったんですから!」
息継ぎする暇なく興奮した様子ではぁはぁと息を荒らげた。
その姿には少々引いたが、内容を聞いたら全くのおふざけなしで笑えない話だ。
「え、じゃぁ、時間断層は今も広がってることになるから、もし地球全域に広がったら……?」
「いや幸いにしてその心配はない」
真田がそう言うと、美衣奈が持っていたデータパッドのホログラフィックシステムを起動した。南極大陸を映し出し、その内でオーストラリア大陸に向き合ってる地域を指で触り赤くマークして見せ、美衣奈が解説した。
「封じ込める時の苦労話をしたらキリがないんですが、まぁ結論を言ってしまえば、今、時間断層が発生してる地域はウィルクスランドクレーターの480km圏内に押さえ込まれているのでご安心を。あのクレーターは元々巨大隕石の衝突で重力異常が発生していた地域でしたからねぇ。時間断層制御艦に……積み直したコスモリバースシステムとの相互作用のお陰というわけですよ」
今凄まじくとんでもないことを言われた気はしたが、
「要は、時間断層はこのウィルクスランドクレーター付近に封じ込められているので、地球全体に時間断層が広がることはもう無い、ということだ」
真田がわかりやすく結論を纏めてフォローしてる傍で、美衣奈はいそいそとアタッシュケースから5本、ピストル型の注射器を取り出して薬剤をセットしていく。
「だから予防接種が必要なんですよぉ。それに上田総督……もとい、上田先生はこう仰られました。『特効薬には副作用が付き物。コスモリバースはやはり劇薬か』って。時間断層の中で過ごすとしたら、それが長期に及べば及ぶほど体に悪影響が出るんです」
「……具体的には?」
聞くのは怖い、薬剤に何が入ってるのかを聞くのも怖い。しかし、今聞かなければならないだろう。
「そうですねぇ……時間断層の中で過ごしているとガン細胞の増殖が無制限に止まらなくなるんです。最初の調査隊はそれでほとんど全滅したらしいです。だからこの注射が必要なんですよ」
「中身は?」
「ナノマシンです」
「ナノマシン……医療用の?」
「その発展型と言えるだろう」
「それよりもっと細かいかもしれませんねぇ。何せ、上田先生はナノマシンの権威で大天才なんですから!」
冷静な真田と、興奮して息を荒らげる中村美衣奈。
二人は薬剤の装填された注射器をそれぞれ自らの首に当てがった。
「まずは私たちがやってみせよう」
真田のその言葉を合図に、二人はほぼ同時にそのままナノマシンを自分の体内に注射した。
「……んふふふ。ふぅ……あぁ〜先生の叡智の結晶が全身を巡ってるぅ〜フフフフ……」
ナノマシン(?)が入った薬剤を体に注入した美衣奈は恍惚な表情を浮かべて軽いトリップ状態に陥ったようだ。
あまりの様子にキーマンと古代とバレルは引いてしまう。
残る真田は「あぁまたか」と言わんばかりに呆れ顔、大きな溜め息を吐いた。
「……真田さん、中村さんは本当に大丈夫なんですか?」
「彼女が特殊なだけだよ……」
同じ薬品を自分で打ったはずの真田は、美衣奈のような恍惚顔になったり、トリップ状態になったりもしていない。……トリップ状態どころか美衣奈の様子が現実である状況に目を背けたいような疲れた顔をしている……なので、とりあえず薬剤に入ってるナノマシンは無害らしい。
「……とりあえず害は無さそうだから打つか」
「そうしよう」
幸せそうな顔をして気絶してる美衣奈を放置し、どこか諦めムードが漂う中で残る三人は真田と美衣奈らと同じく首筋にピストル型注射器を押し当てて、ナノマシンを体に投与した。チクっとした痛みはするが、それ以外は何も問題無さそうだ。
フライトアテンダントのジュリエットがトリップ状態の美衣奈に何か耳打ちすると、美衣奈はようやく現実に戻ってきたようだ。
次にVIP室の手すりに掴まりながらジュリエットがアナウンスした。
「皆様。目的地まであと10分で到着いたします。着席し、シートベルトをおしめください」
「……そろそろ、都市が見えてくる頃合いですかねぇ。あ、注射器は回収しまーす」
重力制御のため体感できないが、窓を見れば降下に入ったことがわかる。
大気圏へ再突入すると、そこは闇の世界を思わせる暗い場所。
今の飛行高度は16000m、VIP室のモニターに表示されている数値がそこから変わっていないので、水平飛行に移ったのだろう。
眼下には海……きっと南極海だ。所々に流氷や氷山が見えているが水面は穏やかで幸い晴れている。
使った注射器を言われた通り美衣奈に返すとそれが見えてきた。
「あ、あれが、時間断層都市……?」
「いや、正確には時間断層そのものだ」
そこには、巨大な「虹色の壁」のようなものが南極の地表から遥か天高くまでそびえ立ってるように見えた。その壁だが、上を見れば見るほど湾曲しており、それが辛うじて巨大なドームを構成している一部であることがわかる。
あまりの大きさに全体を把握しきれない。
専用船が飛行している現在の高度は地表から約16kmの地点だが、それよりも遥かに巨大なドームがウィルクスランドクレーターをすっぽりと覆うかのように鎮座している。
流石に古代もキーマンもバレル大使も圧倒された。
「あの虹色の壁は?」
「オーロラか……?」
「いや、これは正確にはオーロラではない。時間断層の境界面だ。これに光が当たると虹色に輝いて見える、言うなれば巨大なプリズムだ」
「都市の全高は頂点から底辺まで60km、直径300kmの円形都市です。地上に露出してる部分だけでも25kmを超えるんですよ。そして、ドーム状に見えるアレは、単なるエネルギーシールドの外壁に過ぎません。時間断層内の都市を防御し、そして光源となるシールド。まぁ、エネルギーシールドと言っても厚みはコロニーの外壁並みに分厚い為、並の艦砲でも貫けません。ただ、分厚いとはいえご安心を。一応許可コードを持ってる船なら通過出来ます」
そうして専用船の船首はエネルギーシールドの外殻まであと数十秒のところまで来た。
フライトアテンダントのジュリエットがアナウンスする。
「これより時間断層に突入します。体調の変化や異常を感じたら、中村様にお声をかけてください」
そう言うと、ジュリエットはVIP室の窓を偏光モードに切り替えてから、人差し指、中指、薬指の三本を立ててカウントダウンを開始した。
「突入まで3」
薬指を折る。専用船の船首がシールドに触れた。
「2」
中指を折る。専用船の胴体部までもがシールドに覆われた都市の空に姿を表す。それと同時にVIP席の窓の外が突然に明るくなる。
「1……」
そして、人差し指を折った時、専用船はシールドに小さな波紋を広げつつ通過した。
待っていたのは驚きの連続であった。
「え、明るい……?な、何だこれは……!?」
時間断層都市を中心としたウィルクスランドクレーター、それを覆っているシールドの内部に入ると、そこには青空と中天から少し西に傾いた太陽が見えた。
現在の飛行高度は15500m。
しかし、目の前には先端からエネルギーを放射している複数の支柱と、そのすぐ奥に壁のようなものが見えている。
その壁のさらに先には、空の彼方へと並び立つ巨大な柱のようなものがある。
それらを古代とキーマンとバレルが見たのを確認し、ジュリエットは言う。
「時間断層都市特別行政区、またの名を「ネオ・ゼムリア管区」、ようこそ未来都市へ」
ジュリエットは「未来都市」と言及したが、このネオ・ゼムリアからは「都市」らしさを感じられない。巨大さに驚く古代とは対照的にバレルとキーマンは物足りないような顔をした。
「都市とはいうが……目の前にあるのは壁と支柱だけだぞ?」
キーマンがそう言うと美衣奈が、
「ふっふっふっふ……坊やですねぇ」
「……何だって?」
「いやいや失礼、地球流のジョークですよ。ジュリエット。パイロットにあれへ1kmぐらいまで近付いたら、この船の進路を一旦右へ90度展開。200mまで近付いてお客様にあれを見せてあげましょう。暫くしてから壁を越えるように」
「畏まりました。コックピットへ客室乗務員の……」
ジュリエットは自分の耳部分に付けているヘッドホンのようなもののボタンを押しながらコックピットに何かを話しているようだ。
窓の外を見ていたらこの船の進路が右に逸れていくのがわかった。それと同時にVIP室の窓からその「壁」を見てようやくキーマンとバレルは驚愕した。
「なんと……!?」
「まさかこの壁がそっくりそのままビルだというのか……!?」
壁に近づくにつれて、その壁には規則的に窓のようなものがあることがわかってくる。
「ふふふ、そう、その反応が見たかったんですよ!」
「あれはいったい何なんだ……?」
「ネオ・ゼムリアの住民たちが寝起きする居住区です。全長は一番広いところで約910km、幅は50km、全高は約15km。形状は地球のドーナッツというお菓子に似てますかね」
「バレラスタワーよりも巨大じゃないか……!」
「地球人にこんなものを建造する技術があったなんて……」
「あれが居住区って……この都市の人口は?」
「そうですねぇ……今のところ400万人ですかね」
「「400万人!?」」
「そんなに!?」「少なすぎるだろ!?」
「400万人」という人口を聞いて古代は「多い」、逆にキーマンは「少なすぎる」と感じたらしく、互いに真逆のことを言ったために顔を見合わせた。
「この居住区の収容人数ですが、階層は6000階相当に及びますし、一層辺りに50万人が暮らせるスペースがあります。まぁ最低でも30億人を収容できるようになってますよ」
「それはスペースの無駄では……?」
「……地球人を絶滅させかけたあなたたちがそれを言っちゃうんですか?」
「「……」」
美衣奈の言葉にバレルとキーマンは黙り込んでしまった。
最大収容人数が「30億人」と聞くと、ガミラス戦役みたいに地球全体が汚染されたり地上での居住がほぼ不可能な状態になったりした時の避難所としての役割も担うことになる。美衣奈がそう言いたげだったのは、古代も真田も察した。
程なく専用船は高度15500mで居住区の建物を越える。
建物を越えた専用船は徐々に高度を下げていったが、高度が3000mまで下がってくると、眼下には、畑や農園や牧場、工場や造船所、そして競技場のような広いグラウンドを備えた学校らしきものも見えてきた。
さながらそれらはダーツボードを思わせる区画の区切られ方がされていて、漸く実感が沸いた。
「これが、未来都市か……」
「凄いな……あの壁の向こう側にこんな世界が広がってるとは……」
「だが、あれは何だ……?」
古代とバレルが感心していたところ、キーマンが目の前の巨大なタワーのようなものを指して言う。
「アレは時間断層都市のシンボルであり、このネオ・ゼムリアの行政を司る通称セントラルタワー。ユグドラシルとも言います。この都市を管理、調整、監視し、維持する中央施設です。あれを中心に造船所や工場が立ち並ぶ工業化されたA区画と、田畑や農園、牧場や牧草地帯が広がるB区画、それ以外に都市機能として必要な宇宙港や士官学校などの教育施設などが配置されたC区画。セントラルタワーから外壁の役割をしている居住区までの空間を9等分し、タワーからこれらの区画は扇状に広がっています」
彼らの眼下には右にグラウンドを備えた建物のある区画、左に造船所、正面には農場や農園、牧場などの緑が広がっている。
美衣奈はバスガイドよろしく解説した。
「さて左に見えますは自動造船施設です」
地上の工場と、造船所ではドレッドノート級重巡洋艦、プリンツ・オイゲン級軽巡洋艦、ヴェールヌイ級新型駆逐艦、シェンヤン級フリゲート艦*2などの製造ラインが動いていた。
ちょうど今、彼らが見ている造船所区画の一角では地下から巨大エレベーターに乗ってガイペロン級を地球軍仕様に改装したインデペンデンシア級多層航宙母艦が迫り上がって来ている最中だった。
その他に地上に並んでる艦船はほとんどが完成間近に思える。
「ん?あれは……!」
キーマンとバレルも、彼らにとって見慣れたあるものが建造中であることに気付いた。
「ガミラスの……」
デストリア級などの主力艦、ガイデロール級やハイゼラード級などが建造されていた。
「あれはガミラスから建造を委託された艦船ですね。続きまして、私たちのちょうど真下にあるのは牧場と自動農園です」
造船所を横目に牛が牧草を食べて鳴きながら自分たちの乗っている連絡専用船を見てる姿は中々にシュールだと古代は思った。
「そして右手に見えてきたのは、地球連邦防衛軍士官学校、ネオ・ゼムリア分校です」
広いグラウンドのような施設を有していたのはやはり教育施設。それも古代にとっては無視できない単語だった。
「士官学校? こんなところに……!?」
「船が完成してもそれを指揮して動かす人間がいなければ意味がないでしょう?少なくとも上層部のお偉方はそう思ってるでしょうし、しかし、時間断層の外ではここの10倍以上の時間が掛かってしまう。なら、時間を節約するため、こうなりました」
「でもここは国家機密だと言ってたような……?」
それを古代が口にしたため、またVIP室内が冷え込んだように感じた。
「フフッ…フフフ……古代さんってば、アナタは好奇心旺盛なネコちゃんなんですか?」
「ね、猫?」
「ねぇ古代さん……」
美衣奈の声のトーンが一気に下がる。
「この世にはね……知っていい事と悪い事があるんですよ?」
一見微笑んでるが目が笑っていない。まただ。古代の背筋に寒気が走った。
「フフッ……あなたがいくら偉くても、例え、あなたが一国の大統領だったとしても、踏み込んじゃダメな場所ってあるんですよ?フフッ……地球のコトワザにもあるでしょ?」
「うっ」
古代の喉元に美衣奈は人差し指を押し当てる。
「好奇心はネコを殺す……って」
「っ……」
そのまま人差し指を古代の額を滑らせる様に移動させ、眉間に押し当ててこう語った。
「フフッ……まぁ、このコトワザは上田先生がよく仰られるお言葉なんですけどね。私から言える事は、ざっくり言っちゃえば、超!厳重な箝口令と、情報統制! ……生徒の思考の髄まで我々の監視下に置いて管理してる……とでも言いましょうかね?フフフ……」
その光景に古代以外の3人もドン引きしたかと思えば、
「……それにしてもヤダヤダ」
美衣奈はどこからか除菌用のウエットティッシュを出してきて、それで古代に触れた指と手を消毒した。
「全く。こんな困ったちゃんを脅すのに私がわざわざ体を触れなきゃならないってよっぽどなんですよ……?」
まるで男を汚らわしく思ってる節のあるような言い方ではあるが、彼女の性癖を指摘したり嫌悪感を抱く余裕すら与えないような空気が漂っていた。
「さて気を取り直して……正面に見えるあのセントラルタワーは、全高25km、直径は10kmにも及びます。頂上はこの星の成層圏に到達することになりますね」
緊迫した空気の中、VIP室の窓の正面に巨大な柱が段々大きく……もうこの時点では壁としか思えないような距離にまで近づいていた。
バレルが質問した。
「何故ここまで巨大な……?」
「時間断層の影響をこの都市の圏内に封じ込めるためのシールドと、それ相応の頑丈かつエネルギーを供給するにはまぁ、ぶっちゃけ、それぐらいの高さがないとダメだったというだけの話なんですけどね。都市の直径も300kmに及びますし。ここを通過する時に外壁付近で見かけたあの支柱、実はあれがこのセントラルタワーから供給される電磁エネルギーの受け皿兼シールド発生機。セントラルタワー自身が成層圏から太陽風と紫外線、太陽光からのエネルギーを取り入れていて、タワーの先端から5km付近にあるエネルギー空中供給路からあのシールド発生機にエネルギーを送ってるわけです。シールド発生機がエネルギーを受け取るとそれを今度はセントラルタワーの頂点に向けて放射し、いわゆるエネルギーの傘を作ります。シールド発生機は大きいものが3つ、中ぐらいのものが6つ、小さいものが18。合計27基。このセントラルタワーの中心から都市の最外殻にあたる半径149kmのところに等間隔で配置されているわけです」
「防御と封じ込めだけにしては大袈裟な気もするが……」
「ですよね。このシールドにはもう一つ役割があります。それは……お、そろそろかも」
美衣奈が腕時計で時刻を確認すると、この時間断層の時刻は17時になったらしい。
すると、西側に浮かんでいた太陽はより傾きを増して夕方が訪れた。
「とまぁ、このように時間経過で人工太陽みたいな光源とホログラフィクジェネレーターで、昼夜の違いを与えるのもこのシールドの役割なんです」
「それらを制御しているのがセントラルタワーか……なるほど。だから別名
「……さすが地球文化を勉強されていますね、大使」
バレルの見識と知識に素直に感心したような顔と……何か物足りなさを感じさせる表情を一瞬するが、ジュリエットが美衣奈に報告を入れてくると元に戻った。
「中村様。着陸まであと5分です」
「了解。……皆さん、シートベルトを締め直してくださいね」
『着陸まであと5分。プラットフォームクリア』
操縦席からのアナウンスも聞こえた。そこで古代はもう一つ質問を繰り出した。
「……そういえば度々話に出てきた上田というのは誰なんだ?」
そんな質問を振られた美衣奈は「そんなことも知らないの?」と言わんばかりな顔をしながら、
「フフフ……まさかまさかまさか!ネオ・ゼムリアの支配者にして総督の!天才にして奇才にして狂才!私のような異端者を理解し、私の全てを受け入れてくれる!そんな私の上田先生を知らないだなんて、あなたとんでもないモグリですねぇ!えぇ!?」
「落ち着きたまえ」
呆れ顔になりながら真田は暴走してる美衣奈を制する。
「早い話が……マッドサイエンティストだ」
「ま、マッドサイエンティスト……!? そんな人が行政、しかも国家機密を管理しているんですか!?」
「ミスター真田、何かの冗談だろう? 医者だと聞いていたんだが?」
古代はとんでもない人物がこれから行く禁断の地の管理者であることに驚愕する。
キーマンも真田の言ってることが理解できずに聞き返した。
キーマンは上田という人物を「医者」だと紹介されていたはずが「話が違う」と言わんばかりの顔をした。
真田は無常にも現実を突きつけた。
「……つまり、彼女はあのイカれた科学者の部下というわけだ」
「い、イカれてるだなんて……いや、確かにイカれてますが……あの人は不器用なだけで、とても素敵な人なんです!」
美衣奈は真田に反論するが、全くフォローになってないような気がした。
バレル大使は語る。
「真田技術長の言う通りだ。私は先生とは前に会ったが……人としてイカれてる感じだったが、医師としてはマトモだったはずだ。……少なくとも私が見た限りでは」
バレル大使も会った事のある人物である様だが、ここに居る全員の共通認識として、「イカれてる」と言う事がよくわかった。
「その様な人物が管理してるのが時間断層都市という機密施設なのですか?」
「不安なのはわかるが、あいつは科学者としては天才と言ってもいい。だから、長官も大統領も上田に時間断層都市を任せている」
それでいいのか地球連邦政府……古代の不安は余計に増した。
しかし、ガコンという音と、重力制御が切れて地に足が付いたような感覚がした。
「到着いたしました」
一話のストーリーとして長さはどうですか?
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短い
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普通
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長すぎぃ……