宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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※2024年4月27日、大幅に加筆しました。
※一部濃厚な百合描写がありますので、恥ずかしくなったらその部分だけ読み飛ばしてください。


第4話「禁断の超科学文明都市②」

「またのご乗船お待ちしております」

 

 フライトアテンダントのジュリエットはタラップを降りていく古代たちに笑顔で手を振って送り出してくれた。

 そのままプラットフォームの床が割れて専用船はこの時間断層都市ネオ・ゼムリア宇宙港地下にある格納庫へ運ばれていった。

 それを見つめていた古代たちだったが、

 

「ヴィー……じゃなくて、美衣奈さん。それに真田技師長?」

 

 そう声を掛けてきたのは、真っ黒な黒髪が片目を隠すほどに長いロングヘアーが特徴の女性だった。

 女性は、古代たちに深くお辞儀し自己紹介する。

 

「皆様、遠路はるばるようこそ。私は上田先生の助手をしております、下野(しもの)英子(えいこ)と申します」

 

 その英子という女性を見るなり美衣奈は顔を崩してスキップをしながら近づいて行き、

 

「ぬふふふっ、英子ちゃーん、たっ・だ・い・まー!」

 

 そう挨拶をしながら下半身を触ろうとしてきたので、

 

「お客様の目の前でそれはやめてください」

 

 塩対応でその手をはたき落とした。

 

「えーっ?つまんないなー」

「今は、ですよ?」

「あ、じゃぁ……」

「私にはやらないでください」

 

 目の前でセクハラ行為を働こうとした美衣奈を素っ気なくかわす英子。ここではこれが彼女たちの普通なのだろうか……。

 事情を知らない古代とキーマンとバレルは唖然。真田は先ほどのリアクションと同じく「あぁ、またか」と言いたげに頭を抱えた。

 近づいて来た下野英子の姿をよくよく見ると、白衣を着ているが、その下にはヤマトや現行の地球軍艦隊でも正式採用された保安部門を示す灰色地に黒いラインの入った制服を着用している。しかも、白衣を羽織ってるはずなのに腰にはコスモガンを収めたホルスターまで付けているではないか。

 

「皆様をこれよりA2地区へご案内します。こちらへどうぞ」

 

 英子が指し示した方向には89式大型運搬車を反重力式にした輸送車両が待機していたが、

 

「あ!ま、まさかまさかまさか!!」

 

 美衣奈が突然興奮状態に陥って輸送車に走っていった。忙しい人だな。そう思っていたら、輸送車両から一人の女性が降りてきた。それを見るなり美衣奈は叫ぶ。

 

「先生!センセー!センセイ!わ、ワザワザ、私の為に迎えに来てくれたんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 何事だ?と思った古代たちであるが、

 

「フフフッ、おかえりヴィクトr、中村くん!」

「せんせー!」

 

 そうして今度はその女性に美衣奈が抱きついた。

 

「先生!ただ今、帰りましたぁ!たった7時間しか離れてないのに、体がウズいてたまりません!はやく……はやくぅ……!」

「全く節操がないねぇ。私は3日も君と離れ離れだったというのに」

「あぁ……嬉しいですぅ!?ん~!」

 

 眼鏡を掛けた白衣を着た人物は美衣奈に突然、ディープキスをし始める。

 その光景に古代とキーマンはドン引き。バレルも引いて驚き、手に持っていた荷物をプラットフォームの床に落としてしまう。

 そして真田は英子と共に、あぁまたか……と二人揃って頭を抱えて呆れていた。

 

「…んん…んむ…んう…んん!」

 

 美衣奈は、まるで水に溺れたかの様な声をキスをしながら溢す。

 体をビクつかせ、足はガクガクと震えていた。

 ぽたぽたと、美衣奈の物なのか相手の物なのか分からない唾液が地面に滴る。

 美衣奈は抗わず、やがては両手もダラりと垂れ下がり、足にはもう力が入っていない。

 

「ぷふぁ!フフッ……中村くん。なんだい?またキスの挨拶だけで達してしまったのかい?フフッ」

 

 キスの相手は不敵な笑みを浮かべ、美衣奈の口元からは濃い唾液の糸が、相手の口元に繋がる糸のように伸びていた。

 よって二人共、口元は唾液まみれ。

 美衣奈は地べたにヘタレて倒れ込んでしまった。トロけ顔で。口から垂れ下がる舌が、いやらしく激しいキスの跡を物語る。

 

「はぁ~ひぃ……」

 

 美衣奈は酸欠気味になっていたが、幸せそうな顔をしてそんな息遣いとも声ともとれるような音を口から漏らしてる有様だった。

 

「上田くん……」「先生……」

 

 繰り返すようだが、真田と英子はその光景に片や頭を抱え、片や力無く首を横に振っていた。

 ちょっと一呼吸置いて古代は真田が「上田」と呼んだ人物の姿を改めて見た。

 髪は茶髪、セミロングで、眼鏡を掛けている。身長は170cmぐらいだろうか。

 英子と同様に白衣を着て、その下には、これまたヤマトで使われていたものと同じ技術科の青い艦内服を覗かせていた。しかも女性用である。そこまで見て古代がやっと発した一言は、

 

「え、上田って人は女性……?」

 

 であった。それに対して上田は、

 

「むぅ、失礼だねぇ君」

 

 古代の発言に頬をむぅと膨らませて拗ねたような態度を見せつつ、キスで出来た唾液の糸を手で絡めとり、口から垂れた涎を手の甲で拭う。

 その手を古代に差し出し握手を求める。

 

「……初めまして。私がここ時間断層都市「ネオ・ゼムリア」を管理する総督であり技術大佐の上田(うえだ)幸代(ゆきよ)だよ古代くん」

 

 が、涎まみれの手に、古代は両手を上げて拒否を示し、顔を横に振った。

 すると、

 

「……ハハハハハ。いやはや、お見苦しいところをお見せして申し訳ないね。……コレが()()()の挨拶なのさ」

 

 そう言いつつ、美衣奈の制服の上着ポケットの中を左手でまさぐり、先ほど使っていた除菌用のウエットティッシュを取り出した。まるで美衣奈のポケットに何が入っているか把握しているかのように手慣れた手付きだった。

 その際に「ぁん……♡」と美衣奈が声を漏らしたのは聞かなかったことにする。

 手についた涎を名残惜しげに見てからウエットティッシュでそれを拭き取り、ようやく古代、キーマン、バレル大使らと握手をした。

 

「キスを始めたので、てっきり男性かと。まさか、女性同士であんな……」

 

 実際、上田幸代という人物の顔立ちをよく見ると中性的でクールな雰囲気がする。男装させれば男性に見えなくもないのだが、逆に可愛く着飾ったならしっかり大人の女性としても見えただろう。

 しかし、女性同士でキスするなどとは思わなかった、という古代の発言に無表情で上田はこう問う。

 

「ん?君は同性愛に懐疑的なのかな?」

 

 古代の反応から上田はそう感じ取ってしまったようだ。

 

「あ!いや、そう言う訳じゃ……」

「フッ……冗談さ。隠さずとも良い。その反応が普通。正常な反応だよ。実に非生産的と思うだろう? でも私たちはそれで良いのさ。我々は愛さえあれば。そう……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだからね」

 

 "愛さえあれば我々は死をも超越し子を創造できる"

 また意味のわからない事を語られ古代は戸惑う。

 

「あの、それは一体どう言う意味で……?」

 

 その反応に上田はニタニタと気持ち悪いほどに笑う。

 

「ん?狂人の戯言に意味を求めるのかい?フフッ……やはり君は守くんの弟だね。彼もよく私の戯言に付き合ってくれたモノだ」

「あ、兄を知っているんですか!?」

 

 その驚愕の事実に古代は驚くと真田が答えた。

 

「彼女も私も同じ大学に通った同期だ。当然、守も」

「フフッ、あの頃は実に楽しかったよ……でも、我々の大学時代の思い出話は後にしよう」

 

 すると、先ほどまでのニタニタとした気持ち悪いとも言える笑顔を引っ込め、上田は真面目な顔で、真面目なトーンで本題を切り出した。

 

「……志郎ちゃん。例の電磁波の解析が終わってるのは連絡した通りだよ。あとヤマトの改修と、配属させるクルーの選定は最終段階に来てる」

「それを聞きたかった」

「では行こう。……あぁそうだ。中村くん。……中村くん?」

「にへへへぇ〜……」

 

 美衣奈は相変わらず幸せそうな顔をしてプラットフォームの床の上で伸びたままだった。

 

「全く……仕方ないねぇ君は♡」

 

 そう言うと上田は膝をプラットフォームの床に付き、そのまま美衣奈をまるで花嫁を抱えるようにして立ち上がり、真田と古代たちもそれに続いて輸送車に乗り込んだ。

 この輸送車は89式大型運搬車の基本設計を基にして反重力で浮遊して移動出来るように改良された1式大型輸送車である。1式大型輸送車の使用目的は基本89式とさほど変わらない。戦闘機や大型の機材、船体の一部品などの超重量物を運搬する大型の平たい車両である。

 車両の上には手すりと長椅子が設けられており、開放感が感じられる作りになっていた。

 輸送車には先ほどの連絡専用機のクルーたちと同様、耳にヘッドホンのようなものを付けた薄紫色の艦内服を着た女性たちがおり、彼女たちが運転するようだ。

 上田は輸送車のタラップを渡って両手に抱えていた美衣奈を長椅子に寝かせると、上田は彼女の頭を自身の膝の上に乗せて膝枕をする。

 幸せそうな表情を浮かべる美衣奈を、その時の上田は恋人に向ける眼差しというよりは……まるで子供を見る母親のように見つめる表情をしており、古代はここで上田に女性らしさを感じた。

 そう思って見てきた古代に気付いて上田は茶化すかのように言った。

 

「ハハハハハ……すまないね。中村くんはキスに弱いのさ。まぁ、すぐに元に戻るよ」

 

 そうして、上田は手で『向かえ』と合図すると大型運搬車はタワーのある方向に発進する。

 


 

 運搬車は自動運転でそのまま宇宙港のあるC1区画から造船所のあるA2区画へ続く道に入る。

 ふとバレルが上を見上げると、セントラルタワーが目についた。

 

「それにしても、ここから見てもやはり巨大だ……頂点が全く見えない」

 

 すると古代は思い出したかのように上田に問う。美衣奈は未だに幸せそうな顔をしたまま夢の中らしい。

 

「そういえば、エベレストが確か8850m……なのにあのタワーの頂点が……つまり25000mということになる……んですよね?」

「ハハハ。言いづらいなら私に対して敬語でなくても結構だよ?」

「い、いえ、大丈夫です」

「……ほぅ」

 

 古代が思ったよりも礼儀正しく、目上の人物を敬おうとしている態度に、上田は少し好感を持った。

 

「まぁ、そうだね。地上から25kmだから、25000mって換算は合ってるよ」

「そんな高さで人は生活できるんですか?」

 

 その疑問に上田が「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに目を輝かせて説明し始めた。

 

「よくぞ聞いてくれた。このネオ・ゼムリアは都市全体が宇宙船と同様の重力制御と気圧調整を行なっているのだよ!言うなれば、この都市は巨大な宇宙船、みたいなものなのだよ。時間断層の封じ込めを行ないつつ、その恩恵を受けて生活するためにはやはり宇宙船と同等の性能を持った構造物を用意しなければならない。ここの機密性を保つためでもあるからね!」

 

 上田はそう興奮気味に語る。先ほどの美衣奈といい上田といい。好きなものや拘っているものに関してはどうやらマシンガントークが止まらなくなる癖があるようだ。

 上田のマシンガントークを聞いて古代は真田に視線を向けた。

 「まさかここにいる人たちってみんなこんな感じ?」と言いたげな。

 すると真田は古代の戸惑いを察して溜め息を吐くだけであり、「諦めろ」。そう言ってるように思えた。

 輸送車がトンネルに入ると、

 

「さてさてさて……ちょっと失礼」

 

 そう言い、上田は自身の膝枕を貸してなお意識が帰ってこない美衣奈に顔を近づけ、そして、再び唇に深くキスをした。

 

「んぷ……んぐ……ぷはぁー……あ、センセーだ……♡」

 

 漸く意識が戻った美衣奈だったが、未だに夢現といった様子ながら上田に抱きついた。

 

「気が付いたかい?全くしょうがない眠り姫様だね君は♡」

 

 ピンク色の空気が充満しそうになり、英子も真田も溜め息を吐きたくなったのだが、

 

「ちょっとぉ?おねぇさまぁ?」

 

 この車両の運転席から女性が荷台に降りてきた。

 他のクルーたちとは異なり、ヘッドホンのようなものを付けていない。それどころか服装からして違いが目立つ。

 まず、「安全第一」と書かれた作業用ヘルメットを被っていて、オレンジ色の女性用の艦内服に身を包んでいる。

 髪は銀髪のポニーテール、シルバーフレームのウェリントン型の眼鏡をした女性が自分たちの世界に入り掛けていた上田と美衣奈にジト目を向けながら歩いてくる。

 

「……おっと、君を忘れていたよナルくん」

「もー、おねぇさまたちだけでズルいよぉ!」

 

 女性は上田とどうやら美衣奈もだ、両方とも「お姉さま」と呼んでぷんぷんと可愛らしく怒っていた。

 

「えぇと……この方は?」

「あぁ、紹介するよ。この()小早川(こばやかわ)ナル。これから行く建造区画を統括している造船所管理者さ」

「よろしくです。ふっふっふ、これから行く超大型艦建造区画は私の自慢のファクトリィー! おねぇさまのご要望であろうとなかろうとこの私、小早川ナルが謹んで、いえ、超喜んでガイドさせていただきます!」

 

 どうやらこの小早川ナルというドヤ顔を恥ずかしげもなくする女性が造船所を案内をするらしい。すると今度は美衣奈が頬を膨らませる。

 

「むーセンセー、私にも構ってくださいよー」

「ははは、そう拗ねないでおくれよ中村くん!流石に下野くんだけで3日間は私の夜の相手は荷が重かったみたいだ。だから今夜は……!」

「あぁ……センセー……」

 

 しかし英子が頬を赤くしながら咳払いし、

 

「ん゛んっ……ここからC1宇宙港区画からA2造船所区画に入ります」

 

 そして輸送車がトンネルを抜けると、空の夕闇が増し、造船所の外灯が光り始めていた。

 

「なんと……かなり巨大な建造ドックだな」

「……こんな物見たことない……」

 

 バレルと古代はその光景に驚く。

 古代たちの乗っている運搬車が走行する場所は巨大な建造ドックの縁にある二車線の通路であり、左側には造船ドックの深い長方形の巨大な穴が広がり続けている。

 目の前に見えてるドック1つの大きさは全長が750m、幅が250mはある巨大なドックであり、それが列を成してタワーまで続いている。

 

「当然、地球ではここだけの設備ですよ!」

 

 ナルはどこからか取り出したタブレット端末の画面を上向きに持つと、画面から無数のレーザー光が放たれ、それが幾重にも重なり空中に時間断層都市を模した立体映像を投影する。

 

「この工場と造船所を内包しているA区画、牧場や畑が主なB区画、宇宙港や士官学校があるC区画。これらはそれぞれ三つに分散されて120度ずつ互い違いに配置されており、時間断層都市を上から見るとA区画B区画C区画がYの字を描くようにそれぞれ配置されています」

 

 その内で、ナルはA1、A2、A3とルビの振られている三つの区画をタッチする。タッチされた区画が赤く表示されるとそれはまさしく巨大なYの字であり、その真ん中にはセントラルタワーがある格好だ。

 

「A1、A2、A3、造船所区画ですが、現在A1区画はドレッドノート級や地球軍の中小艦艇、及びガミラスからライセンス生産を任されたメルトリア級、デストリア級、ケルカピア級などの生産に集中しています。A3区画では地球軍のアンドロメダ級と数隻ほどが建造中。その他にはハイゼラード級やガイデロール級、ポルメリア級、ゲルバデス級などのガミラス系の大型艦船の建造に割り当ててます」

 

 ナルは立体映像に映し出されているA1とA3区画を指で触り、拡大するかのように指を広げると、そこにリアルタイムでA1とA3の造船所の作業状況が映像として出てきた。

 

「そして、このA2では、古代さんや真田さんがお待ちかねのヤマトの改修・整備を行なってる他には、ガイペロン級を地球軍仕様のインデペンデンシア級に改修している他、新規にそのクラスの多層空母も作ってます」

 

 ナルは映像を脇に置いて、これまた捲し立てるようにこの目の前に広がる巨大造船所ドックを説明し始める。

 

「そしてそして!余ってるスペースは目下、超大型艦の建造に割り当てておりまして! ご覧ください、ゼルグート級クラスの超大型艦を取り扱ってます!」

「おぉ……」

 

 古代が感嘆の声を漏らす中、噂をすれば、明るいグレー色をした巨大な物体が見えてきた。

 

「おぉ、あのゼルグートは我々が発注したものだな!?」

 

 バレル大使が身を乗り出して指差す方向にあったのは、月のガミラス大使館に配置する予定のゼルグート級大戦艦。色はロイヤルライトグレーといったところだった。

 

「確か艦名は《エリクソン》だったかと。よろしいので?」

 

 エリクソン。明らかにガミラスの名前ではない。地球人の名前だ*1。古代と真田はまさかの状況に少し驚いてバレルに視線を向けた。するとバレルはこう言った。

 

「我々はあくまでも地球の衛星に大使館を間借りさせてもらっているだけだ。君たちの先祖である偉大な探検家の名前を冠する方が地球人に親しみを持ってくれるだろうと思ったのさ」

「あれも最終艤装中です。今日には試験を経て引き渡せる筈です。お帰りの際はあちらに乗艦して下さい」

 

 英子がそうバレル大使達の帰りの段取りを語ると、バレルは笑顔を浮かべたがキーマンは「やれやれ」と言いたげであった。

 そのゼルグート級の上には、ヘルメットと安全帯を付けて、目視での最終確認や、溶接の荒い箇所を見付けて最後の仕上げを行なう作業員と思われる女性たちが見えた。

 男性の姿が見えない。それにあの連絡専用船のクルーたちと同じく、耳にヘッドホンのような物をしており、作業服も薄紫である。実に奇妙だった。

 周囲には点検用のドローンまで飛んでいるが、やはり最後は人の目でより細かく点検する様である。

 

「想像以上だ……地球の造船所の作業能力はもはやガミラスをも凌駕しているのか……」

 

 ナルがこの造船所を自慢に思ってるのも納得である。

 キーマンは目の前の状況に圧倒され、上田は微笑みながら解説を補足する。

 

「フフフ……ここでは建造する全ての艦種が見られるのさ」

「……参考までに聞きたいが、ここではどれぐらいの数の船を一度に作れるんですか?」

 

 そうバレルに問われると、ナルは「ふっふっふ」と不敵に笑いながら、このA2区画を拡大してみせた。同時に電卓も起動する。

 

「そうですねぇ……。三つの造船所区画全てには建造ラインが並んでいますが、ドレッドノート級重巡洋艦を基準にしたら同じドックの中で4隻纏めて建造できるんですよ。セントラルタワーの外側から外壁までの直線距離は実に94km。造船所区画ではその94kmの中に全長750mのドックがセントラルタワーから外壁の方まで等間隔で120棟は建てられていて、三列ある。一列を一個の建造ラインとして見做してそれが3つあるんだから……この造船所、フル稼働でドレッドノート級だけ作ったら1440隻作れますね」

 

 瞬く間に計算式を説明しながらとてつもない数字を弾き出してきた。

 

「1440隻……だって……!?」

「ドレッドノート級だと1ラインの全工程が終わるのに約2ヶ月掛かりますので、造船所一区画での半年の生産数がそれぐらいですかね」

「それでも2ヶ月で480隻を完成できることになる……!」

「ということは時間断層都市全体で作ったら半年でドレッドノート級を4320隻も作れることに?地球にそんな建造技術があるなど初耳だ……」

「驚くのはまだ早いですよぉ? ドレッドノート級1440隻を同時建造するだけでなく、それに加えてアンドロメダ級クラスは1ラインで4ヶ月使えば最低でも240隻は作れます。それが造船所三区画全部だったら720隻になりますねぇ……!」

 

 この時点で1年間の生産数が2160隻に上る。間髪入れずにナルはさらに、さらっととんでもないことを言ってのけた。

 

「そして、我々が現在居る超大型艦建造ドックはゼルグート級クラスの艦を建造でき、1ラインで約120隻! 可能ならば三区画全部で360隻を半年間で建造可能です!」

「つまり……中小艦艇にアンドロメダ級とゼルグート級も加えたら……半年間で約2520隻を建造可能ということか!?」

 

 あまりの衝撃にキーマンですら現実感を失って呆然としていたが、改めてナルが繰り出してきた数字を足して結果を口に出すと、やはり驚く。

 

「そういうことです!」

「たった6ヶ月で2520隻!?短期間でそんな……」

「その6ヶ月は外の時間で18日か19日ぐらいだな……約3週間でその規模を建造する……時間断層と言う特殊な環境とはいえ、これは速すぎる。どう言ったカラクリなのですか?」

 

 バレル大使はナルに問いかけた。

 すると、ナルはタブレット端末を操作し、立体映像のアニメーション映像を流しその問いに答える。

 

「建造はほぼ全てが自動で行われます。このドックは全てがエレベーター方式でして。建造の段階が進む毎にドックが上昇し、地下から上がってきます」

 

 アニメーションは複数の工場が部品を作り、それを集め、ブロック工法で船体が少しずつ組上がり進捗状況が進む度に、建造ドックの土台がエレベーターの様に少しずつ上がっていく。

 

「工場での部品の生産から組み立て、組みあがった船体の運搬から、船体同士のアッセンブルまで、全て自動です。この様に可能な限り自動化された建造システムですが、人の手を必要とする細かな部分もあります。例えば、今、地表に出ている艦艇は全て最終艤装の真っ最中です。こう言った工程は人の手を必要とします」

 

 そして、ある程度組み立てが終わった艦の乗ってる土台が一階分迫り上がって、その下には新たな土台が入り、艦の建造が着工される。最後には最上層で砲塔やレーダーを取り付けて、ドレッドノート級が完成する。

 そんなアニメーションを見て、バレル大使はその仕組みに関心を示していた。

 

「この様に、建造が進められ、地表に出た時には最終艤装段階と言うわけさ。こうして、安定して建造を休む間も無く行ってるのだよ」

「建造が終わったドックの底は2つに割れ、底が開放され、最下層に運ばれ、新たな建造土台として最下層に出現する。最上層では開放されたドックの底から最終艤装段階に入る前の艦艇が出現する。この無限ループというわけですよぉ、ふっふっふっふ……!」

 


 

 気付けばセントラルタワーが彼らの目と鼻の先にある。ゼルグート級の造船ドックが過ぎ、また別の造船ドックが見えてきた。なお、ドックの番号はセントラルタワーに近ければ近いほど数字が若い。

 

「このA2−004ドックの先にヤマトがいますよ」

「……ん?」

 

 古代はそのドックに入ってる艦船が見馴れないものであることに気付いた。

 

「あれは……地球の艦……なのか?」

 

 艦首の尖端はドレッドノート級と同様、2本の波動防壁の磁極アンテナが備わっている。

 だが、波動砲の発射口は逆五角形で、ヤマトと同様のバルバスバウを備えている。

 そのバルバスバウの尖端は先細りしていて二股に別れている。

 艦首は青色。側面には副砲があり、主砲や艦橋の配置、船体の後ろ半分はアンドロメダ級に瓜二つ。

 しかし、アンドロメダ級の幅広いの耳を無くし、ドレッドノート級と類似のアンテナが見える。そのレーダー配置は、どこかヤマトにも似ていた。

 

「あぁ、あれはアリゾナ級宇宙巡洋戦艦*2ですね!」

「アリゾナ級宇宙巡洋戦艦だって?」

「事実上アンドロメダ級の後継艦にあたる艦ですね」

 

 古代は困惑した。

 

「アンドロメダ級の後継艦!?アンドロメダは進宙して間もない筈じゃ……?」

 

 ナルは少し残念そうな……いや、それどころか、無念を滲ませた悔しそうな顔をして答えた。

 

「そのアンドロメダ級戦艦は建造費や維持費に膨大な額が必要になると判断され、……建造計画数は12隻で終わるそうです」

「アンドロメダ級戦艦が12隻?」

 

 それだけでも十分に多いと感じる古代だったのだが、

 

「当初は1万隻建造を計画してました……」

 

 予想を遥かに超える途方もない桁が出てきたことに古代は天を仰いだ。

 それに構わずナルは説明を続けるが、古代とは逆にどんどん顔が下を向いていく。

 

「まず波動砲2門が過剰火力。アンドロメダとアガメムノンの就航についてもイスカンダルと揉めに揉め、結局、条約は維持しつつアンドロメダ級を艦隊で運用する許可こそ出たものの、条約を履行したことで波動砲は容易に撃てない代物になったのは皆さんよーくご存知でしょう? 「そんな役に立たないデカブツを2門も搭載なんて邪魔だ!」なんて誰かさんが言い出したもんだから……アンドロメダ級……私はもっと作りたかったです……」

 

 捲し立てるように説明してみせたが、語れば語るほど落ち込んで涙目になっていく様子のナルを見て、上田が彼女を抱き寄せた。

 横で嫉妬の炎を滾らせる美衣奈だったが、それをふと見た上田が人差し指を口の前に立てながらウィンクをしたもんだから、毒気を抜かれた美衣奈は、今度は目にハートマークを浮かべる。……ホントに表情の変化が忙しい人だなぁ。

 

「まぁまぁナルくん……そう言いつつ転んでもタダでは起きないのが君だろう?」

 

 上田がナルの頭を撫でながらそう言うと、数秒して、今度はナルが「ふっふっふ……」と声を出し、すると再びタブレット端末を操作して、今度は立体映像のアンドロメダ級を空中に映し出した。

 

「そう……そうなんですよ……!そこで、アンドロメダ級の設計を流用し、手を加え、アンドロメダ級の約70%以上の部分を共通化させる、新しい艦船を思いついたんですよ!」

 

 するとナルは立体映像のアンドロメダ級を分解。

 立体映像のアンドロメダ級から艦首や艦橋の一部が取り外され、新たな艦首やレーダーが取り付けられアリゾナ級が完成するイメージ映像が写される。

 しかし、

 

「……ん、あれ!?」

 

 古代、またしても異変に気付く。

 アリゾナ級が只今建造中のドックの向こう側にまた別の地球軍の艦船が建造されているのが見えた。当然、ドレッドノート級やアンドロメダ級などの既存の艦船でもなければアリゾナ級ですらない。

 今度の艦は、艦首上部にナイフを思わせる大きく膨らんだ突起と、その下に一見するとドレッドノート級の波動砲発射口を思わせるオーバル型の口があり、二連装主砲三門が艦の前部に集中配備されている。

 だが、艦の後方部分を見るとアンドロメダというよりはプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦の後部船体を大型化したもののように思えた。

 

「あれはイギリスの肝入りであるプリンス・オブ・ウェールズ級巡洋戦艦*3ですよぉ……!そう、私は良いことを思いついてしまったんです。実は波動砲を搭載した艦船について、地球連邦の前身たる国際連合の加盟国がとやかく言い始めちゃいましてね。現状ではドレッドノート級やらアンドロメダ級は最終的に地球連邦軍が総括して管理してるんですが……」

「じゃぁ、各国がつまり「俺たちも一隻か二隻ずつ波動砲搭載艦が欲しい」と言い出したんですか?」

「それもある。しかしもっと別の理由があるんですよ……!」

 

 すると、ナルは再び俯いてしまった。

 

「就航したアンドロメダとアガメムノンを視察したイギリスの首相や、ウクラルシア*4の大統領がそれを見た途端なんて言ったと思います?『見た目がダサい。美的センスがない。やり直し』とか、『コスパ悪いから作り直せ。もっと低コストにしろ』なんて言ったんです」

 

 ナルは片手を握り締め、顔を上げると、笑顔に青筋が浮んでいた。つまり、笑顔のまま怒ってた。

 

「許せませんよ……こちとら10年も20年もあの子たちの開発と建造に勤しんでたのに!完成した艦を見て出てきた第一声がそれでしたからね!? 産みの苦しみも知らないでふざけるな!って、そう思いました……もう、悔しくて悔しくて!」

 

 そしてついには泣き出してしまった。

 

「ナルくん。落ち着きなさい」

 

 そう言って上田が後ろからナルに抱きつくと、修羅の如く怒っていたナルの顔から途端怒りの表情が消え、照れたと思ったらニヤつき始める。

 そして今度は美衣奈が修羅になるのだが……。

 

「うぅ……おねぇさまぁ……ごめんなさぁい……」

 

 ナルは弱った子犬の様にか弱くなり、そのまま抱き締める上田の腕に甘えて謝り始めた。すると上田はナルと向かい合って抱き寄せて、白衣の袖で涙を拭い、頭を撫でていた。その姿はまるで実の母と娘のようにも見えた。

 

「良いんだよ。それどころか褒めたいよ。あの時はよく我慢したね。私だって自慢の……君も含めた娘たちがバカにされたら怒るよ? だからこそ君はエクセリオン計画に君自身のアンドロメダの思いを繋ごうとしたんじゃないか」

「そうだったね……」

 

 ナルは沈静化。

 今度は美衣奈が笑顔のまま青筋を浮かべている。

 そして真田がナルの説明を引き継いだ。

 

「そうしてこの……小早川くんが企画したのが、地球各国による共同開発計画『次世代宇宙巡洋戦艦計画(プロジェクト・エクセリオン)』というわけだ。アメリカやイギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、ウクラルシアなどの各国がアンドロメダ、ドレッドノート、プリンツ・オイゲン級など現行の最新鋭艦の技術をベースに独自で艦船の設計を行なっている。アリゾナ級は当然アメリカの開発チームが主導だ」

「で、性能も見た目も実用性も揃っていたら、それを地球連邦軍の主力艦として統合し、配備しましょう、というわけです。つまりコンペなんですよぉ。なお、あれはウクラルシアとフランスとイタリアの応募作品」

 

 アリゾナとプリンス・オブ・ウェールズが建造されてる一つ後ろのドック(表示番号は「A2-003」となっている)にも全く外見の異なる三隻の巡洋戦艦が建造中だった。

 

「手前側で作られているのはウクラルシア製のジューコフ、真ん中のはフランス製のクレマンソー、奥のはイタリア製のローマです」

 

 ジューコフは一見すると駆逐艦をそのまま大型化したような機関部と先端が先細りした、正面から見ると六角形を思わせるメインの船体、しかし、その艦首には上下並列にこれまた六角形の波動砲発射口が二つ設けられていた*5

 クレマンソーにも波動砲の発射口らしき六角形の口が縦置きの状態で艦首にある。

 クレマンソーとジューコフ、両艦のレイアウトは何処か似ているものの、直線的なデザインが目立つジューコフに比べるとクレマンソーには曲線が目立っており、何より四連装砲の前部第一主砲と取り付け中の後部第三主砲が目立つ。*6

 ローマの印象は同じロマン系の国が生み出したクレマンソーよりはジューコフのような直線的なイメージを抱かせる。

 波動砲の発射口は紛れもなく綺麗な六角形であり、その下へ行くと平べったいバルバスバウがあり、それらは正面から見ると台形の形をしたメインの船体から伸びていた。艦橋のある船体中央にはバルジのようなものが備えられており、少し野暮ったさを感じさせる*7

 

「ところで「エクセリオン」という名前は……もしかして地球、いや日本の古い漫画作品から由来を?」

「フフフッ……中村くんから聞いていたが、バレル大使も中々地球文化に精通されているようだ。ただし残念ながらその由来はデュカット大統領が『シルマリルの物語』の登場人物からだ」

「……あぁ、ノルドール・エルフの大将の一人『泉のエクセリオン』ですね?」

「そう、それだ」

「……ならば、あのエクセリオンのような壮絶な最期を迎えることだけは避けたいものですね」

 

 古代は「シルマリルの物語」を知らない。キーマンも同様のようなので上田が掻い摘んで話した。先ほどは不敵な笑みを浮かべていたが、

 

「古代くん、キーマンくん。エクセリオンという人物はゴルドリンという王国の将軍だった。彼は敵国の軍勢を王国に入れさせまいと、その軍勢を率いていた敵国の王と相打ちになり、共に泉に沈んで最期を迎えたそうだ。これが物語の中では「ゴルドリンの没落」と言われている。……ゴルドリンの没落が現実の地球で起きないことを祈るばかりだよ」

 

 シルマリルの物語におけるエクセリオンの最期とゴルドリンの没落を語った辺りで上田の顔からはいつの間にか笑顔は消えていた。

 古代もキーマンもその雰囲気に飲まれそうになる。

 

「さてさてさて、アリゾナ級やジューコフ級が見えたということは……あなたたちがお探しのものはあそこにありますよ!」

 

 一方、高いテンションで捲し立てるかのようにナルが示した先に「A2-002」という造船ドックと、そこに係留され、整備と改良を受けてる最中にあると思われるヤマトが見えてきた。

 それを見た古代は走行する運搬車の荷台の上で、思わず立ち上がった。

 

「ヤマトだ……!」

 

 そのヤマトの姿は、まるで建造途中のアリゾナ、プリンス・オブ・ウェールズ、ジューコフ、クレマンソー、ローマ……彼女たちを見守り、その背中を見つめる母親のように、彼らの真後ろのドックに鎮座して居た。

 そして、コスモリバースシステムを搭載した際に封印された筈の波動砲が、その口を開いていた。

 

「波動砲の封印が……コスモリバースシステムを取り外したんですか?」

 

 古代はヤマトの波動砲の封印が解かれていた状況に、怒りというよりも悲壮感を抱いた。

 これが意味するところは、ヤマトの波動砲が再び使えるようになったと言うことだ。

 問われた真田は、上田、美衣奈、ナルらと顔を見合わせてから、重い口を開いて「そうだ」と一言、肯定した。

 

「見た目はそう変わってないだろ?中身はかなりイジったがね。勿論、志郎ちゃんからの要望だ。改装中の現場を案内しよう。さぁ、艦内へどうぞ?」

 

 上田の言うことも耳に入らず、古代は再び顔を上げてヤマトに向き直るが、

 

『波動砲を使わないで』

 

 スターシアにそう言われた時のことがフラッシュバックするも、その一言は虚しく、夕焼けに染まる造船所の喧騒の中に埋もれていった……。

 


 

 上田たちの案内で古代と真田は第三艦橋のタラップから艦内に入ろうとするが、バレルは立ち止まってしまう。彼の後ろにいたキーマンは何故バレルが立ち止まったか分からず「大使?」と問いかけた。すると、

 

「……妙だな」

「何がですか?」

「ヤマトの姿といい配色といい……どこかで見覚えがあってな」

「あぁ、前々からそんなことを聞かされてましたね」

「前々から?」

「……いえ、なんでもありません」

 

 古代からの問いにバレルは「何でもない」と言うと、上田はそれを聞いてか聞かずか、ニッと頬を釣り上げて不敵に笑いながら言う。

 

「さぁ、大使もヤマトへどうぞ」

「あ、あぁ……ではお言葉に甘えて」

 

 上田に促されてバレルとキーマンもヤマトに乗艦することになった。すると追いついた彼らに英子が付け足すかのようにこう言った。

 

「それに……大使方にはヤマトでお見せしたい物もありますから」

「……なるほど。我々の視察の許可が下りたのは別の理由がある訳か。わかった。では案内を頼む」

 

 なお、ここでおさらいしておくが、ヤマトは全24階層から成り、各階層は「第○甲板」と呼称されている。露天甲板が第1甲板という扱いであり、艦橋基部から艦長室までを下から順に第001〜012甲板と呼称している。

 ヤマトの最底部といえばここ第三艦橋が属する第12甲板であり、ここから第一艦橋(第010甲板)までを突き通している主幹エレベーター……いや、今回の改装でエレベーターが「ターボリフト」になっているので、厳密には「主幹ターボリフト」、もしくは「メインターボリフト」と呼ぶ方が正しいかもしれない。

 そのメインターボリフトに古代たちが乗ると、第12〜第010甲板までの22階分のボタンがあった操作盤がすっかり変わっており、タッチパネル式になっていた。

 とはいえボタン式からタッチパネル式に変わった程度で役割は前と変わらない。

 上田は使い方を見せるついでに第11甲板を押した。

 すると、前に比べても遥かに早く第11甲板に到着した。

 初めに案内されたのは第三艦橋の真上にある第三格納庫だった。

 ターボリフトを降りると第三格納庫では警笛の音が聴こえていた。

 

「ピー!ピー!ピー!」

 

 ヘルメットを付けて警笛を鳴らしながら、誘導棒を発着艦アームの誘導を行っているのは技術科の女性クルーだった。

 

「……!?」

 

 その姿を見て古代は目を丸くし、目を擦ってまたその女性クルーを見るが、

 

「!?」

 

 結果は変わらない。見間違いではない。

 女性は右手にタブレット端末を、左手に誘導棒を持ち、掲げて、前へ後へ振って航空機の発着艦アームの操作員に指示を出していた。

 その姿は、古代 進の恋人である森雪に一見するとよく似ていた。

 

「おや古代艦長、どうしたんだい?」

「ぁ……あの……何で雪が……?」

「雪?」

 

 そう言われて古代が向けている視線の先に注目した上田と真田。

 すると、真田は渋い顔をし、上田は腹を抱えて笑い出した。

 

「……ハッ、ハハハッ。当然違うさ。ちょっと待ってなさい。莉奈(りな)!莉奈!」

 

 そう上田が呼ぶとその女性は満面の笑みを浮かべて、

 

「あ、ママーッ!!」

 

 そう叫びながら格納庫を突っ走ってきた。

 あっという間に上田……ではなく、なんと、美衣奈の胸の中にその女性はダイブした!

 

「お帰りなさいヴィーママ!」

「え?ママ?」

「どういうことだ?」

 

 古代とバレル大使は驚いた。

 美衣奈の見た目は20代前後。

 美衣奈に飛び付いた女性も20代か少し幼い。

 両者は外見からすると年齢に大きな差はないように思えた。

 だが、

 

「ふふふっ、ただいま莉奈。良い子にしてた?」

「うん!」

 

 その女性はまるで大きな子供だ。少女と呼ぶべきかもしれない。

 その莉奈という少女と接している美衣奈の表情はまるで母親のようだった。

 改めて見ると、この少女の顔つきは雪に似ているが、こんな子供っぽい笑顔など古代は見たことがない。思えばユリーシャ・イスカンダルに似ているような気もしてきた。金髪もそっくりだ。だが、前髪を緑色のヘアピン三本が止めていて、そのうちの真ん中の一本には細長い菱形六つを幾何学的に使った六花の飾りがついていた。

 首からは紐のついた警笛の音を下げている。

 莉奈と言う女性は、上田と目が合い、上田の事を忘れてたかのように間の抜けた声でこんなことを言ってしまった。

 

「あ、上田お祖母様」

「にゃ、にゃははは……莉奈ちゃんは相変わらずヴィー……じゃなくて中村くんが好きみたいだね。ちょっと焼けちゃうなぁ。それに、私のことはお・ね・え・さ・ま、でしょう?」

「お祖母さm」

 

 また上田をそう呼びそうになった莉奈の両頬を上田は両手で挟み込むように抑えつけて、

 

「お・ね・え・さ・ま、だよ?」

「お、ねえさ……ま」

「よろしい」

 

 矯正に満足したのかようやく上田は莉奈を離した。

 

「ん?ママ、この人たちだーれ?」

 

 莉奈という女性は古代達に目線を向ける。

 

「えーっと、中村さん?ママと言うのは……中村さんがこの子のお母様と言う事ですかね?」

 

 古代は困惑しながら美衣奈に疑問をぶつける。

 

「あっ、えっとですね……」

 

 美衣奈は返答に困り、何かを考える仕草をした後、こう答えた。

 

「その……この時間断層都市には孤児院がありましてね。莉奈はそこで育った娘の一人なんです」

「ちなみに、その孤児院にはこの()の姉たちもいたんだけどね。その娘達も優秀で、どうせだからと纏めて全員私たちが引き取ることにしたのさ。実質的に中村くんが莉奈の世話を見ている内に懐かれたみたいでね」

 

 そういう美衣奈と上田のやり取りをポカンとした表情で莉奈は見ている。

 抱きついてきた莉奈を離してから美衣奈は古代やバレルたちを紹介しようとするが、

 

「莉奈、この人たちはね……」

『臨時管制室より第三格納庫』

 

 その矢先、臨時管制室から呼び出しを受けた莉奈はこれまた忙しなく格納庫を突っ走って近くのインターホンで応対した。

 

「はいはーい星奈(せな)姉ぇ。こちら第三格納庫の莉奈だよー?」

『莉奈? これからそっちにシーガルが行く。新見さんが乗ってるし、そこにお母様もいるんでしょ?』

 

 それを聞いて上田は体がビクンッと一瞬跳ね上がった。

 

「え?うん、まぁね。受け入れ準備しとく?」

『よろしく』

 


 

 しばらくすると、コスモシーガルがホバリングしながら、第三格納庫の場所まで降下してきた。コスモシーガルの底部と地上までの距離は10mもない超低空飛行である。

 ちなみに第三艦橋上部の主船体底部両脇にコブのように突き出た箇所、ここが第三格納庫にあたる。

 莉奈はロボットアームをコスモシーガルを収容する操作を始めた。

 ここのシャッターを開けてから第三格納庫天井からロボットアームを引き伸ばし、地上から高さ10mの位置でホバリング中のコスモシーガルを磁力アームでキャッチした。

 コスモシーガルはこれに伴いエンジンをアイドリングにし、そのまま第三格納庫内に無事引き込まれた。

 指定の停止位置にコスモシーガルを下すと、機体からタラップが降り、上田や古代たちの居る階層のキャットウォークに接続される。

 そして、間も無くコスモシーガルから数人が降りてきた時だ。

 真田の隣に居た筈の上田の姿が見当たらなかった。すると、

 

「おっかえりぃー!」

 

 あっという間にその人物の背後に上田が回り込んで、胸の根元を鷲掴みにした。

 

「ーッ!!?」

 

 その人物にとって、一番最後に機体から降りてきたのが運の尽きというものだろう。

 静かに怒りを燃やしながら、上田に目線を向ける。

 

「……上田先生、ま・た・で・す・か?」

「おほぉー、この揉み心地ぃ、相変わらずふっくら柔らk」

 

 上田が感想を述べ終わる前に間も無く「バシンッ!」という乾いた音が格納庫内に響き渡った。

 上田が目当ての人物というのは、新見 薫のことである。地球軍の礼装のジャケットを羽織っている状態ながら彼女の豊満な胸は隠しきれないものであった。

 一方、セクハラをしてきた上田には新見からの反撃の跡として左頬に紅葉マークが出来ており、その上田は格納庫の床に正座させられ、新見から怒られていたのだが、遠目から見ても堪えてる様子は無く、コスモシーガルから一緒に降りてきた年若い新顔のクルーたちはドン引きしている。

 

「……というわけです」

「ほえー。そうなんですね。改めて、えっと……よろしくです。このネオ・ゼムリア造船所の主任システムエンジニアの天戸(あまと)莉奈と申します、古代さん!」

「あ、うん、よろしく」

 

 英子は上田と新見の様子を尻目に古代とキーマン、バレルらに天戸莉奈を紹介し終えていた。するとバレル大使は重い口を開いて質問を切り出した。

 

「……不躾な質問で大変申し訳ないんだが、君、イスカンダルのユリーシャ様に似ているってよく言われないかい?」

「ユリーシャ様?イスカンダルの?」

 

 だがその名前が出た途端、莉奈は不機嫌そうな顔になる。

 

「あ、あぁ、全く!大使!それは禁句だよぉっ痛っだぁ!」

 

 正座させられていた上田が話を聞きつけて慌てて立ち上がり莉奈を宥めようとしたのだが、正座させられていたせいか足が痺れて足がもつれて派手にすっ転んでしまった。

 

「あー、もう、センセーったら!」

「おねぇさま、大丈夫?」

 

 それを見た美衣奈とナルが上田のヘルプに行った。なお、新見も上田に手を貸そうとするが、またセクハラされそうだと思ったので助けるのをやめた。

 微妙な空気になってしまったので、話題を変えるのはちょうどいいと感じた古代は改装された第三格納庫に立ってみた感想を真田に述べた。

 

「……そういえば、第三格納庫が前より広くなってますね」

「少し広く改装した。他の格納庫に比べれば簡単な物だよ」

 

 艦載機の乗り口も、前までは下の2層目の足場にしか無かったが、今は1層目、2層目共に2つ乗り口が設けられていた。

 その分、2層に航空機を着艦させられる為、艦載機数が2倍になったと言える。

 下の2層目にはシーガルと100式空間偵察機が搭載されている。

 しかし1層目には、古代が見たことのない新型機が置かれていた。それも2機。

 

「大きいな……これはひょっとして艦載爆撃機ですか?」

「半分は当たりだ。これは『コスモハウンド』。型式は二式多目的大型航宙艇。略称は「二式大艇」、もしくは「二式多目艇」だ。元々はガミラス戦役時代に空間中型爆撃機として設計されていたものを、そこにガミラスのFS型宙雷艇の設計を取り入れて、私が多目的型ランナバウトとして再設計した。この機体1機が事実上の独立した宇宙船として運用できる」

「……確かに、見た目はシャトルにも似てますね。独立した宇宙船として機能できると言うことは、波動エンジンも?」

「あぁ、ある。小型波動エンジンを搭載していて、ワープも可能だ」

「となると航続距離は?」

「一度のワープ航続距離は62光年程度だが、戦域を離脱したり危険地帯から避難する分には十分過ぎるほどだ。ワープの1日辺りの回数は5回まで可能だ。そうして1日の最大航続距離はヤマトの1回のワープ距離である310光年に達する」

「でもってー、この機体、パワーもすごいんだよー。動力を失ったドレッドノート級ならこれが2機あれば十分に牽引可能だったりするよー」

 

 まだ機嫌が戻ってない様子の莉奈がそう付け加えると、突然語気を強めて、

 

「例えば─次元断層に嵌り込んだ時、とかー?」

 

 その時に一瞬莉奈が見せた表情と語気の強さに身震いした。

 それを見たキーマン。左肘でバレル大使を小突いて、「謝れ」と促した。

 

「その……天戸莉奈さんといったね、先ほどは申し訳ないことを言ったみたいで……」

「……べっつにー」

 

 バレルからの謝罪に対して、莉奈は未だに頬を膨らませたままだった。

 すると美衣奈がバレルに耳打ち……とはいえ周りにも聞こえるようにこんなことを言った。

 

「大使ぃ。やっちゃいましたね? 莉奈ちゃんにとって「ユリーシャ様に似ている」って言われるのは禁句なんですよ?」

「何でそれを先に言わない?」

「まさか大使がそこまで空気の読めない人だと思わなかっただけです」

「そうか……」

 

 どこか美衣奈に言われたことには憤りも感じるが、それ以上に「空気が読めない」と言われたことにバレルはショックを受けたようだった。改めて莉奈に頭を下げて、

 

「すまなかった」

「……もーいいでーす」

「莉奈も引き摺らないの。いい?」

「……はーい、ママ」

「あの、いいですか?」

 

 漸くひと段落したのを見計らって声をかけてきた古代は次の見学先をリクエストした。

 

「ごめんなさい。次は第二格納庫を見ても?」

 

 新見はコスモシーガルでヤマトへ連れてきた候補生たちの案内と、艦内着へ着替え・及び候補生たちに艦内着を支給するために一旦ここで別れる。

 一行に莉奈を加えて第三格納庫から第二格納庫に直通する別のターボリフトで第9甲板に到着した古代たち。

 天井や壁の一部が配線や配管がむき出しになってる廊下を通り後部へ向かうと、後部中央第二格納庫に到着する。

 古代には一目で違いがわかった。

 

「これは……パレットが増えてるような……?」

「やはり気付いたか。第二格納庫のパレットを更に2枚増やし、コスモファルコン、ないしはコスモタイガーサイズの艦載機の搭載数を36機から40機搭載できる様にした。この他に8機分のコスモタイガーの部品もストックしてあるから喪失機が出ても数時間あれば艦内工場で補充機を組み立て可能だ」

 

 苦笑いする真田だが、古代にとっては艦載機が少しでも増える事は喜ばしい限りだ。

 より多くの戦術的任務が行なえる他、ヤマトを守る意味でも戦力の増強は有難い。

 

「ここも、第三格納庫も改装したとなると、もしかして他の格納庫も?」

「あぁ、他の格納庫も同様に改装している。例えば、第一格納庫にはコスモゼロ2機に加え更に2機追加で格納できる様に改装した。こちらは90式内火艇を下ろして、格納庫を少し拡張しただけだがな」

 

 それを聞いてキーマンは真田に問い質した。

 

「おい、ちょっと待てよ……艦載戦闘機が40機とストックが8機、その第一格納庫には合計4機も入るから……ヤマトには52機の戦闘機を搭載できるということになるのか!?」

「単純計算ではそうなるな」

「艦載機が52機……ガイペロン級とほぼ同等じゃないか!」

 

 キーマンはヤマトの艦載機数に驚いた。

 ガミラスにおける正規空母並の艦載機数である。

 それに対し、莉奈は更に艦載機数の違いを付け加えた。

 

「さらにー、第三格納庫には偵察機が2機、輸送機が2機、爆撃機運用も可能なランナバウトが4機。それらも合わせると60機になりまーす」

 

 ユリーシャに似た莉奈は緩めにホワホワとした口調でそう言ったが、聞いたキーマンとバレルは唖然とするしかなかった。

 追い討ちを加えるかのように英子が補足した。

 

「勿論、純粋に戦闘機だけなら52機とガイペロン級には至りませんが……ガトランティスのナスカ級空母に至っては1隻辺り搭載機数が24機と考えると、ヤマトの艦載機数は単純計算だけでもナスカ級2隻分をも軽く上回ってます」

 

 その英子の解説に、古代が疑問に思う。

 

「確か、ナスカ級と言うとあの、ガトランティスの高速空母ですよね。でも、何故君が艦載機の搭載数まで知っているんだ? 地球でもガミラスでも正確な搭載数は把握しきれてないはずなのに……?」

「あっ、あの、そ、それは……」

 

 明らかに動揺する英子に、莉奈がフォローした。

 

「だって、ルゼお姉様はガトランティスの戦力を調べてる先進……何とかの分析官なんだもん!詳しいのは当然だよ、ね、ママ!」

 

 莉奈が自信満々にそう言うと美衣奈も、

 

「そう、あぁ、そうなんですよ。下野ちゃんはガトランティスを専門とする先進兵器技術分析官でして……ね?」

 

 まるで同意を求めるかのように美衣奈が視線を英子に向けると一歩遅れて英子は頷いた。

 

「えっと……はい!そうです」

「それと莉奈、役職は正しく正確に?」

「えー、でも漢字ばかりでわかりにくいんだもん!」

 

 するとバレル大使は感心すると同時に、呆れたような顔をする。

 

「やはり地球にも同様の部門があるのですね……尤も、うちのは当てになりませんけどね」

「ガミラスの兵器分析が当てにならないと?」

 

 バレルは溜め息を吐いてから「ガミラスの恥ずかしい話」を暴露した。

 

「……すごく間抜けな話を暴露しますが、ヤマトの技術分析が行なわれた時のこと。波動砲という物を認識していなかった分析官達は、波動砲発射口を見て『艦首エンジンノズル』と分析したらしい。それ故にヤマトが木星の浮遊大陸基地を波動砲で破壊したという知らせを信じない者が実に多かったわけでして」

 

 上田はその話を聞いて笑いかけている。

 

「プッ……それホントかい?」

「残念ながら事実です。冥王星基地の司令官の警告が軽んじられた一因でもあります」

「それはそれは……確かにガミラスは地球……いや、ヤマトを舐めすぎていたとしか思えないね。ちなみに、うちの下野くんはガトランティス語を熟知していてね。下野くん?」

「はい、何でしょうか?」

「例えば、ナスカとはガトランティス語でなんと言う意味だったかな?」

「えっと……ナスカはガトランティス語の古語で『荒鷹』を意味します。ただし、現在では「ナスカ」という単語は『荒鷹』という意味より、元々の設計者の名前や空母の名前として知れ渡ってます……ようです」

「ほぅ……」

 

 バレルは感心した様子で「質問良いかな?」と上田と英子に目配せをすると、

 

「では、あのガトランティスの大戦艦について分かっていることは?」

 

 それを聞いて古代の目の色が変わった。

 

「え、じゃぁ、君は先の大型戦艦の研究もしているのか?なら教えてくれ!あの戦艦の弱点は?どうやったら俺達は対抗できる!?」

 

 思わず英子の両肩に手を置いて問い質してしまった古代。

 

「ちょっ!」

「あ、あの古代艦長!?」

「……少し落ち着いてください」

「ハハハハハ、余程、切羽詰まってる様だね……まぁ、そう慌てないで」

 

 その状況に慌てた美衣奈と莉奈が英子から古代を引き剥がそうとするが、英子は今にも古代の両腕を叩き折りかねない構えをしたため、上田も内心慌てて古代を落ち着かせて英子から手を離させた。

 当然、古代は目の前の英子からは殺気を感じたし、耳元にいる上田からはじっとりという表現が当てはまりそうなオーラがしたので、急いで手をパッと英子の両肩から離した。

 上田が耳元で警告する。

 

「フフフッ……古代くん?会話はいいが、おさわりは厳禁だよ?今回は見逃してあげるが、次は……ね?」

 

 その一言に古代はゾッとする。

 

「っ…申し訳ない……」

 

 深々と頭を下げると、上田は笑顔で古代の肩を叩いた。

 

「ハハハハハ……いいんだ。かまわないよ。故意ではないのは理解している。だが下野くんも中村くんも、私の大切な人だ。そう軽々しく触ってはいけないよ?」

「以後、気を付けます」

「フフッ、聞き分けのいい子は好きだ」

「それはそうと……」

 

 上田と英子が美衣奈に腕を捕まれ、離れた場所まで移動して、3人が小声で話している。どうも様子がおかしい*8

 

「ダメだよルゼリー?アッチの事は話さない約束でしょ?もう…あなたはホント、正直者なんだから……」

「ごめんなさい、私、つい……」

「それに先生も、どうしてガトランティス語まで解説させるんですか?もし、バレたら?」

「なに、分析官なのだから、ガトランティス語にも精通していて当然だろう?もしもの時は……」

 

 真田と古代は少し気になったが、詮索はしない方がいいと考えた。

 すると、第二格納庫の隅っこに見慣れない機体を古代が見つける。

 

「真田さん、あれは?」

 

 一見するとキャタピラ付きの装甲車だったが、その両脇からは主翼、上部には尾翼のようなものが備わっていて、後部にはエンジンが4つ付いているようだった。

 

「あぁ、あれですか?あれは予備のコスモグランダイン*9です!」

 

 そう答えたのはナルだった。

 ナルはタブレット端末でコスモグランダインの立体映像を投影して、ドヤ顔で答える。

 

「コスモグランダインはキ8型探索艇をベースに設計した重装甲上陸艇です。強力な2門のカノン砲とコスモエンジンを4基搭載。強行着陸が可能で、他のは上陸用車両格納庫に置かれているんですけどね」

 

 立体映像にはキ8型探索艇と同様、翼と履帯式無限軌道が付いた機体が写る。だが、重厚感ある正面装甲と前方に飛び出た二門のカノン砲、機体後方のコスモエンジンの4基が目に留まる。

 その紹介の仕方に上田がツッコミを入れた。

 

「コラコラ。まるで自分が設計しました!みたいな顔をするな。設計したのは多摩(たま)ちゃんだろう?」

「私が部品を設計したんですよ!組み立ても私が監督したんだから同じじゃないですか!」

「だが、基本設計は彼女だ。それを忘れちゃダメだよ?」

「あの、「タマちゃん」って?」

 

 上田は困惑する古代に頬を釣り上げて答える。

 

「あぁ、多分この後会うと思う。言っておくが猫ではないよ?」

「は、はぁ。ということは、そのタマ……さんという人もエンジニアですか?」

「そうだね。あの()は航空機や火砲などの兵装や艦艇の設計も担当してて、当然波動エンジンの知識もある。勿論、ナルくんも艦艇の設計に関わってるんだが……まぁ、色々あって多摩ちゃんはナルくんとは因縁がある仲でね。とは言え、こうやって天才エンジニア同士、協力し合って開発を行ってるのだよ」

「あー、そういやあいつ、機関室で作業中だった。ねぇおねぇさまぁ?」

「おやおやナルくんったら。急かすとは悪い子だ。でもまぁ、志郎ちゃんも古代艦長も気になってるだろうし。まぁ相殺かな。機関室へ向かおうか。……新見くんたちがきっと先回りしているだろうし……ふっふっふ……」

 

 最初はナルを注意していたはずが、そういえば新見も機関室へ新クルーたちを案内している予定だったなと思い出すと、いつの間にかノリノリで機関室へ一行を連れていく気満々といった様子になる上田。

 

 主幹ターボリフトで今度は第5甲板に着くと、そこから後部へと廊下を歩く。

 所々天井や床や壁から配管が剥き出しになってる部分では、専用機のクルーたち同様、耳にヘッドホンのようなものをした女性たちの作業が散見された。

 そのまま一同が機関室のキャットウォークに入ると、そこでも同じような女性たちが複数人いて波動エンジンの点検を行なってるところだった。

 その中に混じって、タブレット端末を見せて女性たちに指示を出す人物が二人見えた。片方は候補生たちの見学がてら様子を見にきた様子の新見。もう片方は、元ヤマト機関科応急長兼副機関長の山崎(やまざき)(すすむ)だった。

 

「新見さんに、山崎さん?」

「おぉ、古代戦術長!お久しぶりです。元気にしてましたか?」

 

 山崎と古代が会話している傍で、新見は上田までいるのを見て「ゲッ」と言いたげな嫌そうな顔をした。

 

「や、山崎さん!? 一体何時からここで作業を?」

「そうですねぇ、かれこれ8時間ぶっ続けでしょうかね?」

「山崎さーん?そうじゃなくて古代さんは「この時間断層にいつからいるのか」を尋ねたいみたいだよー?」

「おや莉奈ちゃん。そうかそういうことか。えーとそうですねぇ……大体もう11ヶ月ぐらいだと思います」

 

 やり取りからして山崎と莉奈はこの11ヶ月で顔見知りになったようだ。

 

「外の時間で言うと……大体5週間前?」

「正解だよ古代くん」

 

 古代の回答に正解、と言う上田だが彼の方には一切顔も目も向けず、手をワキワキさせて新見ににじり寄ろうとしていた。

 当の新見は「シッシッ」と、とにかく上田に来て欲しくない旨をジェスチャーしていた。

 

「私は人に頼み事をするのは慣れてなくてね……山崎さんが気を悪くするかもしれないと思いますが、本当は徳川さんに頼みたかった。しかし、5週間前にヤマトをここに持ってくる時にちょうどあの人が地球にいないタイミングでね……火急の要件だったため山崎さんに頼んだ。ヤマトの波動エンジンの知識を熟知している機関士がどうしても必要だったからな」

 

 真田はそう独白しつつ山崎にも謝ったが、

 

「技師長、その件に関して俺は怒りませんよ? むしろおやっさんの方が「何でわしも混ぜてくれんかった!?」と怒りそうなので、その時の言い訳をお願いします」

「あ、ははは……わかってます」

 

 そんな会話が交わされている中、背景で新見が上田に追いかけ回されているのだが、真田は「もう知らん」と言わんばかりに無視を決め込んでいた。

 

「山崎はん、頼まれとった作業ぉ終わらしたでー?」

 

 会話してる三人の背後からそんな声が飛んできて、二人の女性が歩み寄ってくる。

 

「あ、莉奈ちゃーん!」

 

 その内の片方、オレンジブラウンのセミショートにヘアゴムで短い2つのおさげが特徴の小柄な15歳程の女性……いや少女は機関科のオレンジ色の制服を着ており、莉奈を見つけるなり駆け出してきた。

 

「美奈子ちゃん!」

 

 それに莉奈も反応し、二人は嬉しそうにハイタッチし、息ぴったりに「「イェーイ!」」とノリノリ。まるで挨拶のようだった。

 

「仕事終わったのー?」

「いやいやまだまだ」

「美奈子。莉奈ちゃんとじゃれあうのもいいが、お客さんの前だぞ?」

「せやで?」

「……!あ、ごめんなさい多摩ちゃん、伯父様!」

「多摩ちゃんいうなや」

 

 どうやらこの関西弁の女性が、先ほどの話にチラッと出てきた「多摩(たま)」というエンジニアなのだろう。髪はショートヘアで、もみあげが長く、髪は薄い金茶色。水玉模様のヘアバンドを付けていた。

 美奈子という少女は古代たちに頭を下げて謝った。

 

「えっと……ここに来て驚くことばっかりだな……君たちは?」

「あ、自己紹介がまだでしたね、私は……」

 

 すると山崎が遮るかのようにそれに答えた。

 

「この子は俺の自慢の姪っ子で、堀田(ほった)美奈子(みなこ)と言います。真田さんに頼んで一緒に波動エンジンの改修を。この子はまだまだヒヨッ子だが、腕は確かですよ。なんせ、俺を真似て何でもやるんですから」

 

 遮られたことが不服なのか美奈子は頬を膨らませる。

 

「もう、伯父様ったら!自己紹介しようとしたのに」

「そりゃ、お前はまだヒヨッ子だが、俺にとっては自慢の姪っ子だからな。俺から紹介したくもなるってもんだ!」

 

 山崎にヒヨッ子と言われて怒りたい感情と、自慢の姪だと言われて嬉しい感情が混ざり合って、美奈子は照れながらプリプリと怒った。

 

「も、もう!ヒヨッ子、ヒヨッ子って何度も言わないでよ!いつか、伯父様が認める程の機関士になってやるんだから!」

「ハハハ。その頃の俺は徳川さんと同じ歳になってそうだな」

「そんなことないもーん」

「ハハハ、悪かったって。美奈子。艦長たちに挨拶を」

「む、むー、調子いいんだから」

 

 そうして美奈子は古代と握手をするが、手は機械油のようなもので汚れていたので、多摩という女性が咳払いし、美奈子自身がベルトから下げているタオルで手を拭かせた。

 

「……改めまして、私は堀田美奈子といいます。趣味は機械いじりと機械の観察。目標は伯父様みたいな機関士になる事です! エンジンの構造から原理から、組み立て、解体、応急処置まで、みんな、伯父様から叩き込まれてるんですから!」

 

 元気のある活発な感じがひしひしと伝わる。

 

「まぁ、この娘が優秀なのはウチが太鼓判を押したるわ。ただ、そそっかしいわな。そりゃ伯父はんの「ヒヨッ子」認定がまだ取れんのも当然や」

「もう、多摩ちゃんまでー」

「多摩ちゃんいうなや。ウチはこれでも一応アンタよりずっと歳上なんやで。見た目はそうは見えんやろうけどなぁ?」

 

 関西弁で刺々しい言い方で注意する女性。彼女も美奈子やナルと同様、機関科のオレンジ色の制服*10に身を包んでいて、ようやく彼女の目が古代に向く。

 

「で、真田はん。そこのは?」

「彼は古代 進。ヤマトの元戦術長だよ。正式な辞令はまだだが次のヤマトの艦長だ。古代。紹介しよう、彼女が多摩(たま)恵莉(めぐり)。技術設計長だ。彼女は航空機の設計や艦艇の設計、部品や機材の設計を担当している」

「よろしゅうな!」

 

 そう言って古代は多摩と握手するが、ナルの機嫌が悪そうである。

 

「チッ……設計なら私だけで十分なのに!」

 

 そう聞かされ、多摩は人差し指をナルに向けて言い返す。

 

「いや、アンタの設計は、人を乗せる事考えとらんやろが!」

 

 それにキレたナル。何処かからピシッという音がした。

 

「なんですって!?」

「アンタの設計は見た目とロマンしか考えてへんねん!実際に使う側の事を考えぇや!この前かて頭でっかちにした戦闘空母型アンドロメダを転覆させたやろが!」

 

 そう言って、多摩のタブレット端末に写し出されたアンドロメダ級には艦の幅を大幅に越える肥大化した艦橋と、その上に設けられた飛行甲板と言う、アンバランスで、トップヘビーな艦を見せた*11

 

「あ、あれはシミュレーションだし!何も問題ない無いわよ!」

「いや、シミュレーションでもアカンやろ!」

「いいのよ!宇宙空間で使う分には問題ないもの!重力制御でどうとでもなるわよ!」

「じゃぁ重力制御が効かんトラブルが起きたら終わりやろうが!万が一を考えろやボケ!そのせいで国連*12から干されたんやろ!」

「何よぉ!?」

 

 ナルと多摩のやり取りに上田は笑いだす。

 

「ハハハ~いいね。ナルくんと多摩ちゃんのやり取りは、飽きないなぁ~」

 

 そんな上田の顔にはまた紅葉の痕が出来ていた。新見はプンプンと怒りながら、引率している士官候補生たちを引き連れて機関室から出て行った。

 

「……なんや、バックがやけに騒がしい思うたら先生かいな。進捗はどないで?」

「進捗っていうと、新見くんの峡谷の開発具合かな?残念ながら激しい抵抗を受けてこのザマさ」

「いや、誰もあんたらの乳繰り合いなんぞ聞いとらんねん。それより、波動コアや、新型の波動コア。アレの進捗はどないで?」

「あぁ、それならそろそろ……」

 

 多摩からの質問に上田は腕時計を見ると、新見と入れ替わりで、機関室のキャットウォークに繋がる扉を勢いよく入ってきたのは、キャスター付きのアタッシュケースを引っ張って走ってくる女性。機関科のオレンジ色の制服を着ているが、その上から白衣を羽織っている。

 見た目は20代ぐらい。莉奈より歳上ぐらいだろうか。その姿を見たと同時に古代は驚いて固まってしまうのだが。

 

「お、遅れてごめんなさい!間違えて第005甲板まで行っちゃって……」

 

 古代の動揺など露知らず。その女性の言い訳を聞いた多摩は呆れて溜め息を吐く。

 

「紗奈ちゃん……それ何回目なん?そろそろ覚えてほしいんけど」

 

 ちなみに、第005甲板は、艦橋と煙突の接続階層。パルスレーザー砲台のある階だ。

 

「ハァハァ……ごめんねぇ多摩ちゃん」

「……やから、多摩ちゃん言わんといてぇな……にしても、ウチより立場が上のはずやのにヤマトに来る度に毎回毎回迷子になるっちゅーのは……どない思う美奈子?」

「ですよねー……この前なんて紗奈さんをヤマト中探し回る大騒ぎに発展して、多摩ちゃんがようやく見つけたら紗奈さんが資材庫の隅っこで泣いてたとか?」

「せやせや」

「そ、それは恥ずかしいから言わないでよ、美奈子ちゃ〜ん……」

 

 恥ずかしいエピソード暴露大会になって紗奈という女性は頬を赤くしていた。

 その女性は金髪に六花模様の入った青いカチューシャが目立っていて、青くて細いフレームの眼鏡もかけていた。

 しかし、それらのアクセサリーがあっても古代にはその女性に酷く見覚えがあり衝撃を受けた。

 

「君は……あの時の!?」

「「「「?」」」」

 

 一同、古代の言わんとすることが理解できなかった。

 

*1
ちなみにエリクソンとは、10世紀頃、コロンブスに先駆けて北アメリカに到達したヴァイキングの探検家の名前である。

*2
デザインは旧作「ヤマトⅢ」に登場した宇宙戦艦アリゾナとほぼ同じ

*3
デザインは旧作「ヤマトⅢ」に登場したプリンス・オブ・ウェールズとほぼ同じ

*4
旧ベラルーシ・旧ウクライナ・旧西ロシアを統合した国家

*5
大まかなデザインは旧作「ヤマトよ永遠に」に登場した無人艦隊大型艦に基づく

*6
クレマンソーのデザインは旧作「ヤマトよ永遠に」を基にしたテレビゲーム、「宇宙戦艦ヤマト 暗黒星団帝国の逆襲」、及び「宇宙戦艦ヤマト 二重銀河の崩壊」に登場した方の無人艦隊大型艦がコンセプトとなっている。参考資料

*7
旧作「宇宙戦艦ヤマト完結編」に登場した地球軍主力戦艦がモデル

*8
普段のボケ役がツッコミ役に回るようなもの

*9
旧作「宇宙戦艦ヤマト2」に登場した上陸用舟艇と同じもの

*10
宇宙戦艦ヤマト2199にて、岬 百合亜などが着用していた船務科女性クルー用のオレンジ色の制服と同じもの。

*11
空母型アンドロメダ級宇宙戦艦。ヤマトファンの間では悪名高いことでも有名。ここでは実艦は登場しません

*12
多摩は「国際連合」と「地球連邦」がまだ結びついていない。




 上田、下野、中村を始めとするネオ・ゼムリアの主要メンバーたちの設定は、そもそもは自分が作ったものではなく……ここでは名前を伏せさせていただきますが、その方とアイディアをやり取りする内に出来てきたキャラクターたちです。

 ちなみに、その人曰く、「上田幸代のキャラクターは、(イメ損の恐れがあるため名前を伏せます)某ソシャゲのマッドサイエンティストがイメージベース」とのこと。
 また、小早川ナルにも、実は元ネタがいます。

 え?「何で女ばかりか」って?
 ……最初の三人を決めた時点で「今更むさい男を入れてもなぁ……」ってなったからです。マジでごめんなさい。

一話のストーリーとして長さはどうですか?

  • 短い
  • 普通
  • 長すぎぃ……
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