宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
ますます励みになります。
時間断層都市を考えた背景には、そもそも2202で「コスモリバースシステムを使用したことによる副作用で時間断層が出来た」という旨が出てきたものの、造船にしか使ってないのが勿体無いというか、色々と思うところがあったためでした。
だって、ガミラス戦役で地球人は絶滅寸前にまで追いやられていたわけだし、時間断層の中での10日が外の世界では1日にしかならないのであれば、ここで食料を増産したり、地球軍艦船を指揮する士官候補生の士官学校(旧作でいう「宇宙戦士訓練学校」)があったほうがいい、さらに研究開発を行なう研究所があっても良かっただろうに……なんて考えた結果こうなった。
それに、「時間断層そのものを一般人の目に触れない所に置くならどうするべきか」を考えた時、真っ先に思いついた、「人が寄り付かない僻地」が南極でした。
しかも南極ってウィルクスランドクレーターがあって、ここ実際に「重力異常」が観測された場所らしい。凄く怪しい場所故に、時間断層都市を置くにはピッタリだと思いました。
前回と今回で一先ず時間断層都市編は終わりですが、時間断層都市や上田たちといった面子は今後もちょくちょく出て来る予定です。
ちなみに、この時間断層都市には、ちょっとした伏線が隠れてます。
ヒントは、時間断層都市の大きさ。
それは2199年の初旬頃、古代と島大介が火星基地に配置されていた時、イスカンダルの高速宇宙船が火星の荒涼とした大地に墜落。乗っていた人物───後にサーシア・イスカンダルと判明する女性はその墜落事故で死亡。彼女は地球へ波動コアを届ける途上での出来事だったという。
「そうか……そんなことが……」
一連の話を聞いたキーマンとバレルは、イスカンダルの第二皇女が亡くなった時の生々しい状況を古代の口から聞かされて俯いてしまう。
だが、
「えーっと、誰かと勘違いされてる様ですが、私は
紗奈という女性は「何それ知らん」と言わんばかりのドライな態度で自己紹介をした。
「ちなみに、この人は私のお姉ちゃん!」
いつの間に紗奈の後ろに隠れたのか、莉奈が背中から、ひょっこり顔を出した。
「では人違い?そうか……それは申し訳ないですね。古代 進と言います」
そう言って紗奈と古代の挨拶が済むと、
「紗奈ちゃん紗奈ちゃん」
紗奈の腕をちょんちょんと突いて、例のものを急かす多摩。
「……あ、あぁそうだったそうだった。多摩ちゃんが
紗奈は彼らの目の前にある作業台の上に持ってきたアタッシュケースを置き、それを多摩と山崎たちの目の前で開ける。古代と数人は角度の関係から中身は見えなかった。
「これが例の波動コアなん?」
「調整は終わってるけど、まだデータ上での仮想試験しか行なえてなくって……」
紗奈が中から取り出してきたのは、あまりに異質な物だった。
「そ、それは……」
「何なんだ……?」
古代とキーマン、バレル、それに真田までもが驚愕した。
これまで古代はヤマトに組み込まれたものや、その後のドレッドノート級などに使用されている波動コアを見たことはあるのだが、目の前に現れたそれは、それら従来の波動コアユニットとはまるで違うものだった。
従来のものと同様、波動コアはユニットの真ん中にあるのだが、ユニットの中で空中に浮いてクルクルと回っている。
その浮いてる波動コアの両端に付いてる装置には金色の8本の針とも爪にも見える金属が波動コアの両端から生えており、内側の4本の針の様な物が真っ直ぐであり、それ以外の外の針は湾曲して三日月を描いている。
そして8本の針とは違う太く金色に輝きを放つ槍の矛先の様な物が波動コアの中心軸から真っ直ぐ伸びていた。
「え、えっと……これを作った?君が?」
あまりに度肝を抜かれてそんな間抜けな質問が口から出てしまう古代。すると紗奈は余裕を含めた笑みを浮かべて、
「そりゃそうですよ。私、波動機関研究所の所長ですので!」
先ほどは聞いてない偉そうな肩書きが出てきて、古代は2分足らずで二度目の衝撃を受けた。
尤も、それを聞いていたナルと上田はニヤけ顔。
莉奈と美奈子と中村美衣奈は「わー」と乾いた声で手をパチパチさせる。
キーマンとバレルと古代はリアクション出来なかった。
しかし、真田と多摩と……その他諸々は頭を抱えるか呆れ顔をする。
真田が上田と声を小さくして話し出した。
「おい……波動エンジンの改修を依頼はしたが、波動コアに手を加える事は指示していないぞ?どういうつもりだ?」
「波動エンジンを改修するに辺り、波動コアにも調整が必要になった……という説明ではダメかな?」
「……安全なんだろうな?」
「勿論、安全さ。それどころか、これまで以上のエネルギーを得られる。志郎ちゃんが手を加えたショックカノンとの相乗効果は凄まじい筈だ」
真田に対して上田はニタニタと怪しい笑顔を浮かべながら答えるが、
「ねぇおば様。そこの真田さんにこの新型波動コアについて説明したほうがいい?」
「お姉さまと呼びなさいって言ってるだろ? そうだなぁ……」
とはいえ、紗奈が説明したい気満々だったのを見計らって、上田はニッと笑い、「やってくれ」とジェスチャーをした。
「ふふふっ、畏まりましたぁ!真田中佐。これは、私たち姉妹で一緒に共同開発した波動コア起動ユニットシリンダーになります」
「私も星奈姉ぇも手伝ったんだよー!」
「そうだね」
莉奈の主張に紗奈は優しく同意するが、
「あの……もしかして、君たちは三姉妹なのか?」
気になって古代はそんな質問をした。
「そうですけど、何か?」
「古代くん、話の腰を折るのは感心しないなぁ。紗奈、続けなさい」
「あ、はい。この新型は、イスカンダル波動エネルギー理論を基に設計した代物です。搭載されてる純正波動コアはブラックボックス解析済。100%我々が掌握してます」
「イスカンダル波動エネルギー理論に、ブラックボックスだと……!?」
また聞き慣れない言葉である。ただし、その言葉に反応したのは古代ではなく真田であり、説明を求めたが、それを上田に遮られる。
「フフッ、その説明はまた後で行おう。では、多摩ちゃん。今繋がってる量産型波動コアをこの波動コアと交換しておくれ」
「先生も、多摩ちゃん言わんといてぇや……で、仮想試験の結果はどないなったんや?」
「あ、そうだった。仮想試験では問題は無いみたいだったけど、実際に動かしてみないとわからないかも。多摩ちゃんの方こそどこまで進んだの?」
「今、動作確認と量産型波動コアを使った模擬始動が終わった所や」
「それじゃ、この波動コアと交換できるね」
「ほんじゃ、紗奈ちゃん、波動エンジンのコアコンジットベイ・ハッチの開放、頼んます」
「はーい!」
二人は機関室のコンソールを同時に操作し始めた。
紗奈は波動コアを交換する準備を始め、多摩はタッチパネルを操作し、波動コアと波動エンジンの接続を切る操作を行なう。 コンソールのモニターには解除コードの入力が行われ、アクセス承認が表示される。
そのモニターにはこう表示されていた。
《天戸紗奈。階級なし。所属:波動機関研究所。地位:研究所所長。アクセス権限を承認》
続いてアナウンスが聞こえた。
『アクセス権限を承認。波動コアシステム、プライマリ接続の遮断プロセスを実行します……。量子フライホイールは多元運動量の保存を完了。パワーキャパシタの充電状況、良好。全ての位相でパワーバスの接続は解かれました』
続いて波動エンジンの立入作業確認の項目を紗奈がタッチした。
波動コア・マウント部の操作を行なうと、警報が鳴る。
『警告。コアコンジットベイ内に波動防壁を展開します……展開完了まで15秒お待ちください』
システムセキュリティが解除され、物理セキュリティも解除、そこまでの時間は約15秒。「カシュッ」という空気の抜けた様な音と「ガチャッ」という何かが外れたような音と共にタッチパネルに《展開完了》と表示された。
アナウンスも『展開完了。波動防壁の展開を確認しました。波動コアは安全に取り出す事ができます』と告げた。
波動エンジンの波動コアの接続部。
コアコンジットベイに通じるハッチが解除されると、多摩は機関部で使用するかなり厚手の軍手をし、紗奈も同じ軍手をして、用意した波動コアユニットをアタッシュケースごと持って二人ともハッチの中へ入っていく。
古代たちも中に入ろうとしたが、慌てて山崎が止めようとし、
「あ、ダメダメ」
「ここから先は立ち入り禁止です」
山崎の代わりに莉奈と美奈子が通せんぼして止めた。
しかし数秒後。
『おば様、聞こえる?』
「?」
『モニターの映像回線を3番に切り替えてくれると嬉しいな』
紗奈からの声がして一同首を傾げたが、言われた通り機関室のコンソールのモニターを操作して映像回線No.3に接続すると、
『やっほー?見えてる?』
眼鏡を外したらしき紗奈が歩きながら手を振ってる。こうして見れば見るほどサーシア・イスカンダルにそっくりだなと誰かは思っただろう。その紗奈は片手にカメラらしきものを持って……要は、この映像は紗奈の自撮りのようだった。
「え? カメラみたいなものは持ってなかったはずなのに……」
古代がそう言うと、一方で上田は状況を理解したらしくクツクツと笑って紗奈を褒めた。
「……クククッ、そういう使い方もあるなんてさすがだよ紗奈!」
『ありがとう、おば様。種明かしをすると、こういうこと』
そう言いながら映像は紗奈に徐々に近づいた……と思ったら、突然に映ってる方向が180°変わった。紗奈が映像からいなくなったのだが、代わりに映像に映ったのは、コアルーム内部の様子だった。
「え?どういうことなんだ?」
いまいち状況を理解できないままの古代に、
「古代。紗奈くんが掛けている眼鏡、あれは見た目通りのものじゃ無いんだ」
「え?眼鏡は眼鏡じゃ……」
「ふっふっふ、違うんだなこれが」
すると上田は自らが掛けていた眼鏡を外すと、それを無理やり古代に掛けた。
「「「「!?」」」」
古代も周りもその上田の行動に驚く。特にナルと中村からは嫉妬のオーラの様なものが滲んできていたのだが、しかし……。
「……あ、あれ?伊達メガネだ?」
度が入っていないことに古代はすぐ気付く。
「そう、一見すると伊達メガネだ。だが……例えばそうだな。フレームの両側を5秒ほど指で軽く握ってみてくれないか?」
「え?こう、ですか?」
古代は言われた通りに、上田がかけさせてきた眼鏡のこめかみ部分にある左右フレームに5秒ほど指を添えるように当ててみた。すると、
「わ、わ、わ!?」
古代の目の前では、なんと伊達メガネだったはずのレンズの上に青い表示が所々に出てくる。
「いいね。じゃぁ、そうだな……例えば、この位置からあの文字が見えるかい?」
上田に指差された先にはコアコンジットベイのハッチの上の警告用パネル。古代の立っている位置からの距離は大体15〜20mほど。その表示文は青で、近付かないと非常に読みづらいのだが、
「えっと……『エンジン停止中。コアルーム入室可能。関係者以外入室禁止』……あれ、見える!?」
「ふふふ、どうだい? この眼鏡の性能は」
そこまで古代に眼鏡の性能を見せた後、上田はささっと眼鏡を取り上げて、先ほどの古代と同じようにこめかみ付近のフレームを5秒間触った後、自分に掛け直した。
「その……すごかったです」
「すっかり語彙力を喪失してしまったねぇ。今見てもらったように、この眼鏡には拡大鏡と望遠レンズの機能の他、簡易的な顕微鏡としても使えるだけでなく、今、紗奈がやってるようにカメラの様な使い方もできるのさ」
モニターに再び注目すると、今まさに多摩が波動コアを取り外そうとしている段階に来ていた。
「……話には聞いていたが、やはりヤマトの波動エンジンは巨大だな。我々のゲシュ=タム機関より大きいとは」
バレル大使は映像に映る限りでもコアルームが広いことに驚いていた。
「あれだけ大きいのにはわけがあるのですか?」
キーマンに質問されたナルは簡単に解説した。
「ガミラスのゲシュ=タム機関は発電装置や推進力、ゲシュ=タムジャンプ航法のエネルギーに運用されるだけですが、波動エンジンはそれ以外にも波動エネルギーを波動砲やショックカノン、波動防壁にも使っています。まぁ、その分高出力で、取り出せるエネルギーを可能な限りもて余さない設計になっています。それ故に巨大なんですよ」
そう聞かされ、「なるほど」と二人は納得した。
ところがそんな時だ。多摩が波動コアユニットを引き出そうとノブを握った瞬間、ジュ!という音が映像から豪快に響いた。
『アッッう!なんやこれ!?』
続いて多摩がそんな悲痛な声を上げた。
軍手から煙が出ていたため、多摩は慌てて焼けた軍手を脱ぎ捨てて、足で踏み消す。
居ても立っても居られない、そんな様子で莉奈と美奈子の制止を振り切って上田が駆け込んで多摩の様子を見に行った。
映像でも上田が多摩を気遣う様子が大々的に映り込んだため、ナルが歯軋りをし、中村は睨む様な目つきで爪を噛んでいた。
しばらくして、
「あっつつ……」
コアルームから上田に付き添われる形で多摩が部屋を出てきた。
「ちょ、多摩ちゃん……大丈夫?……!?」
「ひー、えらい目に遭うたわ……」
「火傷はしてない様だね、良かった。君の可愛いお手々が水膨れだらけの痛々しい手になっては困るからね」
そう言いながら多摩の右手を上田は自身の頬に当てて頬擦りする。
「ちょ、火傷しとらんねやから放しいや!」
多摩は頬を赤らめて抵抗する。
「波動コアがえらい熱しとるんや。まるで焚き火で長時間焼いて出したばっかりの焼き芋やで……交換しようにも、これじゃいかんな……。……!?」
だが、自身の手やら波動コアやらに気を取られていたためか、多摩がその「圧」に気付くまでには時間が掛かった。多分上田はわかっていた。あえて言わなかったんだろう。
その圧の出所だが……ナルと中村の表情が、嫉妬と怒りに満ちていた。
「おねぇ様に心配された……コイツ許さねぇ……」
「先生に手当てされるなんて……多摩ちゃんのクセに……万死に値する……!」
二人からの圧に悪寒を感じ、古代たちはドン引きした。
一方でナルと中村の修羅のような表情に顔を引き攣らせながら、多摩は上田がこうなることをわかっててあんな大袈裟なリアクションをしたのだとようやく理解して呆れて溜め息まで吐いた。
「っ……先生、わざとやろ」
「クフフフッ……いやぁ~バレたか~!ナルくん達の反応が面白くてね~ハハハ!……グェッ!何するんだね下野くん!」
「いわゆる「なんでやねん!」というやつです」
上田の脳天に容赦なくチョップを入れたのは英子であった。
物理的ツッコミを加えたためか、ナルと中村の嫉妬の眼差しは多摩から英子に移った。
英子は二人から目を逸らした。
「とはいえ、本当に火傷しなくて良かったよ。よもや、ここまで熱するとはね」
「熱々すぎてあれじゃいかんな……。美奈子ちゃん。パワードグローブ」
「あっ、はい!」
足早に美奈子は大型の道具が収納されているロッカーまで一走りし、1分掛からず多摩から頼まれた物を持ってきた。
美奈子が持ってきたのは少し大きな装着型のグローブ。
それは手と前腕、肘までのパワードアームであり、軍用に開発されたパワードスーツの一部である。
多摩はそれを装着して再びコアコンジットベイに足を踏み入れた。
今度は火傷の心配はない。コアルーム内の映像に再び現れた多摩は、パワードアームを耐熱グローブの様に扱い、量産型波動コアユニットのノブを握ると、それを横に倒す。
すると同時に、ブザーが鳴り、波動コアユニット接続部の波動コアの状況表示は『接続』から『解除』に切り替わる。同時に艦内電力の供給元も『エンジン』から『バッテリー』へ自動に切り替わったのが細かいが表示されている。
多摩は入っていた古いほうの波動コアユニットを慎重に引き抜いて床に置いた。
『……ふぅ〜……』
一息吐き出してから、
『多摩ちゃん』
『よし……んじゃ、
紗奈から新しい波動コアユニットを受け取ると、多摩はそれを接続部に装填した。
これで波動コアユニット接続部の波動コアの状況表示は『解除』から『接続』に表示が変化した。ただし、艦内電力の供給元は依然として『バッテリー』のままであり、余談だが、これが波動エンジン起動中なら『起動』に表示が替わる。また、波動コアが覚醒すればそれと同時に艦内電力の供給元も『エンジン』に自動で切り替わる。
多摩と紗奈が波動エンジン内から出て、紗奈がハッチを閉めた。
「……よいしょっと」
多摩がパワードアームで持ってきた古いほうの波動コアユニットを機関コンソール前の床に置いた。
それは熱されて真っ赤になり、内部で火花が散っていた。
「……紗奈ちゃん、ナル、コイツどないなっとん?」
多摩から知見を求められた紗奈はそれを見て推測する。
「これは……量産型波動コアがエネルギーを放出し過ぎたみたいですね」
ナルも腕を組んで仁王立ちするが困惑顔だった。
「設計通りのはず、だけど、ここまでなるとは……」
「修復できそうかい?」
「んー……無理だと思う」
上田からの質問に紗奈は悩みつつもキッパリと「無理」と言い切った。
「どうしてこんなことに?」
古代はそんな素朴な質問をした。
すると、上田はちょっと怒る。
「君、聞いてなかったかね? 多摩ちゃんはさっき「動作確認」と「量産型波動コアを使った模擬始動」を行なっていた、って言ってただろう?」
「いやその、それはちゃんと聞いてましたけど、それがどうしてこんなことに?」
上田は古代が「説明を聞き流していた」と呆れたのだが、焼けついた量産型波動コアを見て古代は明らかに不安になっていた。その声色と顔色で上田は決めつけて掛かっていたのを認めて謝る。
「あぁ……すまないね、そういう意味だったか」
上田から視線を向けられた真田が、莉奈、紗奈と共に代わりに口々に説明し始めた。
「……実は、先ほど多摩くんと紗奈さんがコアコンジットベイに持ち込んで組み込んでくれたあの波動コアが、ヤマトが本来搭載していたものなんだ」
「これからとんでもないところに行くんでしょ? ガトランティスが待ち構えている可能性は高いし、それで真田のおじちゃんもナルちゃんたちと一緒に武器の改良とかその他諸々の改造をヤマトに施していたの」
「ヤマトや地球軍の艦船の特徴としては波動エンジンから直接武器にもパワーを送ってること。武器の改良が必要なら波動エンジンも改良しなきゃいけない。だから、山崎おじさんや多摩ちゃんや美奈子ちゃんたちが波動エンジンの調整と改良、私率いる波動機関研究所が総出でヤマト用の波動コアを出力増加のために色々改良していた、というわけ」
「なるほど……そりゃそうですよね」
ヤマトに今回施されている改造について古代がおおよそ理解したところで、
「で、改良中の間、ドレッドノート級で使われているような従来型の量産型波動コアで持たせてたっちゅうわけや。ただし、使用するパワー量がおもっくそ増えたことで、量産型波動コアからその分のパワーまで絞り出そうとした結果、量産型の場合は内部からの熱に耐えきれなくなって、んな燃えカスみたいになってしもうた、っちゅーことやな……壊れる可能性は考慮しとったけど、んなふうに熱を持ったまま壊れるっちゅうのは予想外やったで」
それを聞いてさらに古代は不安になった。
「……本当に大丈夫なんですか?」
「一応交換しましたし、大丈夫なはず。あとは起動するだけですね。さっき組み込んだ波動コアはまだ覚醒すらしてません」
ヤマトが起動した時、初期始動時に大量の電力を必要とした。それこそ、滅亡寸前の地球中の地下都市から電力を掻き集めてヤマトのエンジンを目覚めさせたことを古代も知っていた。
「でもそれって、大都市並みの電力が必要になる、ってことですよね……?」
「その通りだ。こんなこともあろうかと、今回の改良で補助エンジンに使う核融合炉を激光74型レーザー式のものから00型荷電粒子ビーム式に置き換えている」
「00型荷電粒子ビーム核融合炉!? ドレッドノートのケルビンインパルスエンジンに使われてるのと同じ型だ……」
「ほう、わかってるじゃないか。志郎ちゃんは核融合炉を置き換える一方で実際には補助エンジンを最新のケルビンインパルスエンジンと74型推進機関を組み合わせた事実上の複合型エンジンにしているんだ」
すると多摩も得意気になって、
「せやから、ケルビンインパルスエンジンよりも初速が速いし、点火速度も速い。メインエンジンも再点火しやすい筈やで?」
多摩はやや自信を込めて新しい補助エンジンをそう評価した。その一方で、
「波動エンジンの始動に必要な反物質生成機への電気エネルギーを00型荷電粒子ビーム核融合炉と艦本式コスモタービン改二で補なう事で、外部からのエネルギー供給無しで行なえる筈です!なんせ、00型荷電粒子ビーム核融合炉を設計したのは私なのですから!」
とナルは捲し立てるような説明とドヤ顔で核融合炉の設計をしたのは私だ!と言い放つ。
それにムッとした多摩が反論した。
「コスモタービン改二の設計と、00型のアッセンブルを計画したんはウチやぞ!ヤマトの起動に欠かせんのはウチの設計やろ!」
「ヤマトの起動に必要なのは私の設計よ!」
「いや、ウチの設計と発案や!」
ナルと多摩の間に火花が見える程にいがみ合うのだが、上田は二人の頭に両手をポンッと置いて撫で始めた。
「お、おねぇ様?」
「ちょ、先生ぇ?」
「まぁ、まぁ、ケンカはよしなさい。二人の設計があったからなし得た事なんだから」
そう諭しながら二人を抱き寄せて二人の耳元で囁いた。
「ケンカをやるなら今夜、ベッドの中で。ね?」
そう言われたナルと多摩は顔を真っ赤にして、
「「そ、そんな関係じゃない!」」
とハモって否定した。
すると上田はこう質問した。
「じゃぁどういう関係なんだい?」
そう言われた二人は一瞬どう答えるべきか悩んだのだが、照れ臭そうに頭をかきながら多摩がこう答えた。
「ま、まぁ、……ナルとは同業者、ちゅうか、そりの合わんライバル?みたいなもんや」
「ライバル?私は認めないから!」
「ウチにとってはライバルやしええ競争相手やと思うとるで?」
「な、何がライバルよ!競争相手よ!ふん!」
ナルは頬を赤らめながらも膨れる。多摩も照れて頬が赤い。
それを見て聞いていた中村と上田はニヤニヤが止まらなかった。
すると外野から追撃が始まった。
「そうだよ!多摩ちゃんナルちゃんのコンビは凄いんだから!」
「そうそう!いくら波動コアが改良できてもその受け皿になる船の方がちゃんと調整されてなかったら」
「「船がダメになっちゃうんだから!!」」
二人を無意識に褒めちぎって追撃した莉奈と紗奈、最後にはハモった。
すると途端にナルは再びドヤ顔になる。
「ふふふっ、そりゃぁ当然、ヤマトが多様性や万能性、拡張性、改修や改装を行ないやすい余裕のある設計だからなし得る事なのですよ!」
自慢気なナルに対して、多摩は鋭くツッこむ。
「自慢気に語っとるが、“今の“あんたの設計や無いからな?ウチらの設計や」
「そう言うアンタだって、”今の“アンタが設計した訳じゃないでしょ!」
「せやけどなぁ……」
古代はまたしても引っ掛かる言葉が出てくる。”今の“とはどうゆう事なのか?
昔は設計に携わっていた?だが、年齢的に考えたら若すぎる。
「あの「”今の“」とは?」
「あぁ……別に気にしなくていい。彼女達は“ずっと昔”から、あんな仲なんだ」
上田はそう答えるだけに留めた。
真田はヤマトのコンセプトについて語る。
「私や開発チームはヤマトを”そうできる様に設計した“。いや、元々そういうコンセプトだった。イズモ計画の時からな」
そこにナルと多摩も説明を添える。
「イズモ計画とヤマト計画……そのどちらでも「地球滅亡」というシナリオはあり得た。それはあなたも知ってますよね?古代さん」
「え、あ、はい」
「そうなるとヤマトが唯一、生き残った地球人類の方舟になっとったやろな。せやから、真田はんと……その開発チームは就航から10年、50年、100年と先の先を見据えて、改修や改良を繰り返せるよう、かなり長めに耐久年数を持たせたんや」
「拡張性の高い余裕のある設計。あらゆるミッションに応じた万能性。それがヤマトの設計だ。そう易々と退役はさせないよ」
いかに芹沢によるヤマトの退役措置が早急だったか、それに対して真田がどれだけ憤りと無念さを抱えていたか、それがその一言に全て集約されている様に思えた。
すると莉奈が持ってきた折り畳み式のタブレット端末に連絡が入る。
端末を開くと、通知が届いていた。
「おばあさm……じゃなくて、お姉さま。航空機や他兵装を積み終えたって報告が来たよ。現在、準備作業員総出で出港前の最終確認を行なってるところだって」
「……そうか。わかったありがとう。出港準備が完了したらヤマトを元あったドックに戻すつもりだ。だが、その前に、君たちに見て欲しい物がある。第二艦橋まで来てほしい。莉奈、多摩ちゃん、ナル、君たちもだ」
「ウチも?波動コアの起動に立ち会わんでええんか?」
「それは山崎氏と美奈子ちゃんがいるから大丈夫だろう? あと紗奈は第一艦橋に行ってくれるかい?」
「うん、任せてよおば様」
「じゃぁ行こうか」
ここで山崎、美奈子たちと別れ、一行に多摩と紗奈を加えて上田は古代たちと共に主幹ターボリフトへ乗り、第008甲板のボタンをタッチした。
ターボリフトはこれまでのエレベーターと全く異なり、13階分をあっという間に駆け上がっていった。
第008甲板に位置する第二艦橋に到着すると、そこには第二艦橋とCICの役割が両立された、改装前よりも広く見える部屋があった。
目の前は床一面がモニターになっている。
ここで紗奈ともお別れ。彼女はそのままターボリフトに乗って第一艦橋へ行く。
「第二艦橋も通信機器からモニターまで何から何まで一新していてね。3Dの立体映像による作戦会議や会話が可能なのだよ。更に立体映像を作成し映像を投影する事も出来る。クオリティも人間がその場に居るような映像だよ!」
そう言って上田はコンソールからモニターを起動すると、床に、地球連邦宇宙軍の紋章が表示される。
「第二艦橋が大幅改良されたのは分かるんですが、ここで何を?」
「フフッ、古代くん。君はガトランティスの大戦艦と二度の交戦経験があるのだろう?」
CICのコンソールの一つに上田が近寄って行き、それを操作すると、天井から無数のレーザー光が放たれ、空中にガトランティスの大戦艦の画像が投影された。
「な、なんと……すごい。こんな機能が……」
「驚いたかい? これは君がガリア4号星で遭遇した時と、昨日太陽系に侵入してきたカラクルム級の映像を組み合わせて投影しているんだ」
「カラクルム級?」
上田は「おっと口が滑った」みたいなリアクションをして、一瞬どうしようか迷った素振りをした後、英子に視線を向けた。
「……はぁ〜……仕方ないですね先生は……」
「ごめんよぅ? 今度抹茶ケーキを奢ってあげるから許しておくれよ下野くん」
「んー……じゃぁ、京都屋の高級抹茶ケーキで」
「うーん……わかったよ。あのことも説明してくれて構わないから」
上田に説明を求められた英子。密かに高級抹茶ケーキを奢ってもらう旨を録音してから「わかりました」と答え、上田のすぐ横の別のコンソールへ歩いて行き、操作した。
すると、第二艦橋の床の巨大モニターに海上で引き揚げられた無数の残骸の写真が投影された。
その写真に真田が驚く。
「これは……!?」
「あのガトランティス大戦艦の残骸です。太平洋に落下したものの一部です」
「ちょっと待て。私は残骸が回収されたなんて聞いてもいないのだが?」
「フフッ……私たちが独自に調査したのさ。残骸を回収し、こうして分析した。高純度のニュートロニウムが検出されたのだからあの大戦艦の残骸で間違いない」
「その残骸から製造ロットとおぼしき刻印が打たれた部品を発見しました。解析・解読した結果、あの大戦艦の艦級の名が判明したというわけです」
そのガトランティス語が刻印された部品を上部モニターに映した。
「それで……なんと書いてたのですか?」
その古代の問いに、英子は重い口を開くように答える。
「……ガトランティス語で『カラクルム』。これを地球の言葉に翻訳すると《全てを飲み込む大蛇》を意味します」
「全てを飲み込む大蛇……カラクルム……」
「その名をよく覚えておくといい。君たちヤマトのクルーが……いや、ヤマトだけでなく人類がこれから幾度となく対峙するであろう敵主力艦の名だ」
上田がおふざけなしの真剣な表情と声色でそう告げた。
「撃墜してさほど時間が経ってないのによく解読まで出来たな……感謝する」
真田は残骸をいつの間にか回収されて南極まで運ばれて解析されていたことに面食らうが、同時に感心し、素直に感謝した。
「礼には及ばないよ。ここは時間断層だ。外での24時間は、こちらでは240時間になる。解析も外の時間でみれば一瞬の出来事さ。何より、我々にはガトランティスを研究する優秀すぎる分析官の下野くんが居るからね!」
「その紹介は……恥ずかしいです」
英子は顔を赤らめた。
古代は少し不安気だった。
「ですが、あの大戦艦……」
古代が言い終わる前に、そのタイミングで第二艦橋に女性二人が新たに入ってきた。
二人とも、容姿がとても似ている美人だった……のだが、真田はその二人を見て唖然とする。普段表情に感情を出すことの少ない真田がである。
その内の片方、英子と同じような漆黒の髪をセミロングにしており、三白眼と眼鏡の何処か冷たい表情の女性が上田に報告する。
「おかあ……いえ、先生。波動砲を除く全ての作業が終了しました。あとは先生たちによる"封印解除"を待つだけだけです」
もう一人は、こげ茶寄りの茶髪で眼鏡をかけてないが、眼鏡の女性よりは若干雰囲気が明る目である。その女性も報告してきた。
「お姉さま! 各フロアや各通路の配線類、収納完了致しました!」
「そうか、二人ともお疲れ様だったね」
そう労いの言葉を掛けた後、上田は近くの通信装置を操作して、どこかにメッセージを送る。
真田が驚いて固まってることも上田の行動も露知らない古代は、突然現れた二人について中村に尋ねた。
「あの、この方たちは?」
「あぁ、そうでしたね。紹介しましょう。黒髪で眼鏡をかけている娘が
「冬子です。こっちは夏海です」
そう言って二人は古代と真田に握手を求める。
古代は難なく二人と握手をしたが、真田は固まったままだった。
メッセージを送り終わった上田が何か含んだような笑みを浮かべながら真田に尋ねる。
「……志郎ちゃん?どうしたんだい?」
「……あ、いや、何でもない。二人ともよろしく」
そう言い、真田は三田姉妹と握手を交わした。……その時に触った感触、特に夏海という女性というか少女と交わしたものは、真田にとって、どこか酷く懐かしく感じるものだった。
そんな真田の心境などお構いなしに上田が説明した。
「冬子くんは物理学博士。夏海くんは機械工学博士だ。着ている制服の色は……まぁ気にしないでくれたまえ。ここではファッションみたいなものなのでね」
そう言われれば、冬子は技術科の青ではなく機関科のオレンジ色の制服を着ていて、夏海も青ないしはオレンジではなく医療班のピンク色の制服を着ていた。
「彼女たちにもヤマトの改装を手伝って貰ってたのだよ。まぁ、志郎ちゃんが居ないタイミングだったがね……で、古代くん。君の質問は何かね?」
「あぁ、えっとその……そうだった。あの大戦艦、カラクルム級を確実に倒す方法は、やはり波動砲しかないのでしょうか?」
「ふむ、君の懸念は尤もだね。イスカンダル条約という足枷というかセーフティロックというか、言い方や考え方はどうとでもなるが、それがあってもなくても、カラクルム級戦艦に対峙する度に波動砲にばかり頼っていては効率は悪いし、戦略にも幅を持たせられないし、何より乱発は確かに危険だ。だから志郎ちゃん主導で主砲の改良をやってもらっていた」
「そうだ……だが、まだ実験は行っていない。シミュレーションでは可能との試算だったが……」
上田はニタニタと笑って答える。
「フフフッ……そう言うと思って、実は志郎ちゃんが居ない間にその試験をやっておいたのだよ!」
「!? そんな話は聞いてないぞ!いつの間に……」
「私も研究者だ。確実性の無い物に不安を感じる気持ちは理解している。だからこそ、検証実験を行ったのだよ、さぁ見たまえ!」
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上部モニターの映像が切り替わり再生された。
歪な形の分厚い鉄板のような物が、器具に固定されている。
それは先ほどの引き上げ作業中の写真で見たカラクルム級の残骸であることは明らかだった。
映像には音声も記録されていた。
『目標物の設置完了。これより試験射撃を行います。危険ですので、アースロイドを含む作業員は、直ちに退室してください』
アースロイド?何のことだろうか?だが映像にはヘッドホンをした作業員の女性しか写ってない。
『試射室内、全作業員の退室を確認。室内に目標物以外の異物は無し』
『試射室内、波動防壁を展開。展開時間は約10秒です』
そして、写し出されたのはヤマトの三連装48センチ砲である。
『試験射撃、開始。ショックカノン発射まで3…2…1。発射!』
ショックカノンの青い閃光が放たれると、固定された残骸に命中する。
「おぉ!?これは……!」
残骸には大きな穴が開き、穴の表面がドロドロと溶けている。
『目標命中。目標ニュートロニウム装甲の貫通を確認……って、え、そんな!?これは一体……!?』
オペレーターが戸惑っている声も記録されていた。
作業員たちもどよめいた。
『……試験室、波動防壁に問題無し……ですが、試験室の隔壁が融解しています!』
写し出されたのはニュートロニウム装甲の残骸の更に奥にある壁であった。
壁が熱して溶け出していた。
周囲には波動防壁の膜がうっすら見える。
▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△
「まさか、波動防壁を貫通した!?」
映像をそこまで見た古代はそう思ったが上田の答えは違った。
「いや、正確には、ショックカノンの陽電子ビームはしっかり波動防壁に弾かれたさ。だが、その膨大なエネルギーは波動防壁に阻まれた際、熱に変換され、耐熱処理が施されていた隔壁を融解させた。つまり、波動防壁ですら防ぎ切れない熱量が隔壁を融解させたんだ。太陽クラスの6000℃の熱にも耐えられるはずだったのだがね……」
「なんて熱量とエネルギーだ……」
バレル大使もキーマンも唖然とした。
一方で真田は実に満足そうに笑顔だ。
「シミュレーション以上の結果だな……実に興味深い。やはり実際に撃つことで得られる結果は実に多い。改めてそう思うよ」
「でも、真田さん……主砲にどんな改良を施したらあんな事に?」
「そうだな……見てもらった方が早いか」
真田が近くに置いてあったタブレット端末を操作すると、ヤマトの主砲と副砲の構造図が二組ずつ出てきた。
片方は「2199」、もう片方は「2202+α」と書かれている主砲と副砲が並んでる。
「こっちはヤマト就航時に搭載していた主砲と副砲、もう片方は今回改良した主砲と副砲だ。古代、見ていて気付くことはないか?」
「そうだなぁ……ん? 気のせいでしょうか……ドレッドノート級の主砲の内部構造に一部似ている気がします。……まさか自動化システムを組み込んだんですか!?」
「半分は正解だ。緊急時には無人で使用できるが、何かあった時に備えてクルーを3〜4人は常に配置しておきたい。ただ、自動化システムを応用して取り入れたのは、主砲の基部を見てくれればわかる」
2199年版と2202年版とで目立って違うところはもう一つあった。
「これは……?」
「アンドロメダ級の主砲塔に使われている大型ビームジェネレーターだ。自動化システムを取り入れるのは苦渋の決断だったが、これの導管を通すためにはどうしても必要だった。他にも今回ヤマトの主砲と副砲の砲身の途中に陽電子収束器を組み入れている。陽電子を収束・圧縮させる事で、従来のショックカノンよりもビームの破壊力が大幅に向上したというわけだ」
「でも、アンドロメダの主砲だけでは……」
「わかってる。52cm砲も今の状態でどこまで通用するかはまだわからない」
「そこで波動コアの改良が効いてくるというわけさ。これまでヤマトに搭載されていたものや、ドレッドノート級、アンドロメダ級などに現在搭載されている量産型波動コアでは出力が足りず、先程のデモンストレーションで見せたような破壊力には程遠い」
「しかしな、今度の波動コアは最大出力を発揮できれば、従来型の最低でも5倍の出力を生み出せる計算になっとるんや」
「でもそれを搭載しただけではヤマト自体が持たない。だから、私が色々と改造を……」
「おいこら、勝手に他人の手柄横取りすんなや」
「別に良いじゃないの、真田さんのオーダー通りに改良したのは事実なんだし」
「せやけどな……」
「あぁ、ちなみに。先ほど搭載された改良型波動コア。あれはドレッドノート級とアンドロメダ級に組み込んでもヤマトほど大掛かりな改造は必要ないんです。これだけは私の先見の明が光ったということで!」
「あぁ、はいはい、えらいえらい……」
ドレッドノート級とアンドロメダ級の設計に汎用性を残していたことについてはナルの手柄らしく、多摩は呆れながらもナルを一応褒めた。
「ということは、ヤマトに組み込まれている改良型の波動コアを量産すれば……」
「残念ですが、そう簡単には行なえません」
古代の思いつきに待ったをかける様な、そんな一言を発したのは、新たに第二艦橋に現れた人物。
その人物の姿を見た真田、古代、キーマン、バレルたちは目を疑い、胸の空くような思いをした。
白い艦内服、その服の上から白衣を着ているという、いかにも研究者に見える出立ち。
プラチナゴールドに輝く美しい髪を、六花模様の赤いリボンでポニーテールにして纏めていて、通信用のヘッドセットを頭につけている。
しかし、それ以外の見た目は惑星イスカンダルの女王、スターシア・イスカンダルに不気味なほど瓜二つだった。
突然の出来事に、キーマンは慌てて床に跪く。バレルも混乱していた。
イスカンダルの女王が
呆然とするバレルの膝の裏にキーマンは慌てて蹴りを入れ、無理矢理跪かせる事でバレルは我に返る。
キーマンもバレルも額から冷や汗が溢れる。
「す、す、スターシア女王陛下!まさかお越しになられてるとは露知らず!な、な、何用でこの様なば、ば、場所に……!?」
バレルはガタガタ震えていた。
挨拶が遅れたこともそうだが、こんなところでまさか彼らの信仰の対象、言うなれば現人神にも等しい存在であるスターシアと遭遇するなど考えてもいなかった。
だが、古代と真田は跪く彼らとは対照的に湧き上がる違和感を禁じ得なかった。
例えば、古代はほんの数時間前に、長距離ホログラム通信にて藤堂長官とスターシアが言い争ってる現場を目撃していたからだ。たった数時間でイスカンダルから地球まで来れるだろうか?いや、無理だ。
そして真田は違和感の正体に気付く。ガミラス人の二人が跪いてるのを上田は目の前で吹き出しそうになってるからだ。
「……バレル大使、ミスター・キーマン」
「頭を上げてください」
真田が二人を立たせようとしたが、女性の方が行動が早かった。
「し、しかし……!」
「私の名前は星奈です。天戸
天戸星奈と名乗る女性はわざわざ膝を折り、そう言い聞かせるかのように二人と目線を合わせた。
「クックック……驚いたかい? ちょっとしたサプライズさ……あだっ、何するんだね下野くん!?」
「サプライズにしたって悪趣味が過ぎます!」
上田の脳天に、下野による激しいツッコミが入る。
やっぱりか。真田はそんな予感がしていたので一瞬頭を抱えた。
そのせいか、いつもなら上田へのツッコミを羨ましそうに妬ましそうに見ているはずの中村ですら先ほどのガミラス二人組と同じく浮かない顔をしていたことに真田は気付かなかった。
「いてて……悪かったって……。改めて紹介するよ。この方は、天戸星奈。地球連邦軍士官学校ネオ・ゼムリア分校の校長で、階級は地球連邦宇宙軍准将。軍の階級上では私より偉い人ってことになる」
「……よろしくお願いします」
それを聞いて、バレル大使は緊張の糸が切れたかの様に床にへたり込む。
「そ、うですよね……イスカンダルの陛下がここにいらっしゃる訳…はははは…ハァ……」
バレル大使は安堵のため息を口にする。
キーマンは自身の勘違いに顔を赤くして恥ずかしさで一杯である。
「た、大使共々……恥ずかしい限りの醜態を晒し、ガミラスの名に泥を塗ってしまいました……」
星奈から握手を差し出されて、真田、古代、キーマン、バレルらは戸惑い気味だがそれぞれ応じた。
「そ、その、申し訳ない……勘違いだったとはいえあのようなことをしてしまい……」
「別に気にしてないですよ、私……」
「私たち、よくイスカンダルの女王様たちと似ているらしいからよく人違いされるんだー。全く、いやんなっちゃうよー」
星奈がその場を静かに収めようとしたら、莉奈が割って入ってきた。
「こら莉奈。いつもいっつも言ってるでしょ?勝手に会話に割り込まないの!」
「いだだだ、へぇなねぇぇ」
一見スターシアによく似たポニーテールの女性が、これまたユリーシャにそっくりな少女の両頬をつねって引っ張ってる。何ともシュールな光景だ。
「あの……」
「……あ、あら。ごめんなさい、私ったら人前で……あ、ははは……」
妹への折檻に意識が向いていた星奈は慌てて莉奈を離し、何事もなかったかのように取り繕った。
「星奈くん……古代くんの質問にまだ答えてないよ?」
「あ。そうでしたね。例の波動コアですが、あれはそもそもヤマト用のオーダーメイド品の様な物です。妹の紗奈が主導とはいえ、私も莉奈もその改良に一枚二枚噛んでいた身として言わせて貰えば、あれを改良するだけで莫大な労力がかかっています」
「ところで、ヤマトの波動コアはイスカンダルから齎されたオリジナル品だってことは忘れてないよね?」
「つ・ま・り、莉奈が言いたいのはそういう事です。ドレッドノート級もアンドロメダ級も、現行の地球艦隊の波動機関搭載艦に搭載されている波動コアは、ヤマトの波動コアのモンキーモデル……もっと柔らかい言い方をするなら、性能を少し落として量産性を安定させたダウングレード版が搭載されています。その量産型の波動コアの出力を、今ヤマトに搭載した波動コアの水準に高めるまでにはまだまだ時間がかかります」
懲りずに説明に割り込んできた莉奈を押し退けつつ、星奈がそう説明してみせた。
「星奈くん。どうせだ、簡単な比較を解説してあげたらどうだい?」
「え、でも、先生。それは機密事項ですよ?」
「いいさいいさ。どうせ大使とミスターキーマンはここまで来てしまったんだ。それをしたところで今更だと思うよ?」
「先生がそうお考えなら……しかし、研究を主導したのは紗奈ですよ? 勝手に研究資料を漁るような真似なんて、その……」
『星奈姉ぇ?』
「え?紗奈?」
いつの間にか第一艦橋にいる紗奈と通信が繋がっていた。
『聞こえてるよ。私、今忙しいから星奈姉ぇが代わりに説明してくれると嬉しいな』
「……わかったわ。それなら……」
星奈がデータパッド型端末を操作すると、三種類の波動コアがホログラムで投影された。
「波動コアが三種類?」
形は変わらないが、色が違う。
「右からガミラス、地球の量産型、それにヤマトの波動コアです」
ガミラスの波動コアは青く、量産型は白灰色、ヤマトの波動コアはオレンジ色であった。
「ガミラスの波動コア、か……」
見慣れたものが出てきたバレルはホッとしたかのように言う。
「ガミラス版の波動機関……ゲシュ=タム機関で使われている波動コアも比較に使った方がわかりやすいかと思いましたので」
星奈はデータパッド型の端末を操作し、データ表に数値を書き込んでいく。
「確か、ゲシュ=タム機関の場合は、一度の通常ワープは約250光年。最大ワープは400光年程度。ワープ間隔6〜8時間で、約750光年前後を1日に跳躍が可能、でしたよね?」
その数値を出されてバレルは自信満々に頷く。
続いて「量産型/ヤマト搭載初期型」と銘打たれた白灰色の波動コアをピックアップし、その数値をデータ表に書き込んでいく。
「それに対して、これが現行の地球軍艦船が搭載している波動コア。その性能は通常ワープで約310光年、最大ワープで約500光年。1日当たり約930光年を跳躍可能です」
それを聞いてキーマンとバレルが「信じられない」と言いたげな表情をした。
「なおこの性能は就航時のヤマトの波動エンジンと同等です」
「何だって……!?」
「何故そのような差が?」
それを聞かれた星奈は莉奈、上田、中村、多摩、ナル、下野らと順番に顔を見合わせてから全員が同時に頷き、意を決したように話した。
「……その問いこそ私が一番恐れていたものでした。真相を話すべきか悩みましたが、先生方と莉奈から話していいという許可をもらえたので……お話しします。その前に、性能について詳しく解説させてください」
すると星奈はデータパッド型の端末を操作し、なんと量産型とヤマト用の波動コアを両方ともに立体映像上で分解してみせた。
「例えば、ドレッドノート級やアンドロメダ級に搭載されている波動コアは、従来のヤマトの波動コアをベースに、量産に適した設計と部品を使いながら、その性能を従来のヤマトより可能な限りに上回るように完成されたものです。それに対して、ヤマトの波動コアはイスカンダルから齎されたオリジナル品。設計も部品も元々がイスカンダル製です。これでご理解いただけましたか?」
そう問われて古代は、
「つまり……同じ波動コアで同じ役割を果たせて見た目は同じでも、中身は全くの別物、ということですか?」
「そうなんだよー。地球製の部品はパワーアップに耐えきれなくて壊れちゃったんだもん」
星奈への質問に莉奈が答えてしまう。
「こら」
「きゃー」
会話を遮られた星奈は怒るのだが、莉奈は軽く駆けて中村の後ろに隠れた。
星奈は呆れて溜め息を吐きつつも、立体映像の量産型の波動コアとガミラスの波動コアを共に映像の隅っこに引っ込めた。
相対的にオレンジ色のヤマトの波動コアが大きく投影されることになった。
それと同時にデータ表に数値を書き込んでいく。ただし、まだ改良済みの波動コアは「目覚めていない」。なので、数値の横に(予測値)と書き込んでいる。
「そしてこれが改良したヤマトの波動コア。あくまでも予測値ですが、通常ワープでは約600光年、最大ワープは900光年という試算になります。1日3回のワープで最大約2700光年を跳躍可能です」
「……本当に?」
「スペックを盛りすぎでは?」
そんな疑問を口にしたのは古代と真田だった。星奈が「あくまでも理論値です」と言うと真田は軽く溜め息を吐いて、
「ということは、今度の航海でも性能試験めいたことを道中でやらないといけないんだな」
と言った。すると上田が、
「仕方ないだろう。改良した波動コアは覚醒していない。それも、波動コアというのは
「……申し訳ないですが、あくまでも安全のためです。波動コアの改良だって、下手を打てばこの都市そのものが死の都と化していた可能性をお忘れなく」
その愚痴のような上田の言葉に対して星奈は物申すかのようにそう言った。
「……それで改良のために、紗奈が所長を勤める波動機関研究所で、安全に取り外したヤマトの波動コアを分解し、その内部を調査しました。その過程で各波動コアの比較検証を行なったのですが……」
さらっととんでもないことを言った星奈だが、波動コアの核心部分、何やら文字のようなものが浮かんでは消えるガラス管のような見た目をしているのだが、画面にそれが出されて見たバレルは驚きをもはや隠せなかった。
「これはブラックボックスではないか……!」
ガミラスの波動コアにも同じものがある。だからバレルは気付いたというわけだ。
「大使の仰られるようにこれは波動コアの最深部に隠されたブラックボックスであり、同時に、波動コアのリミッターの役割をする重要部品です」
「リミッター? エネルギーの放出量を抑制するために設けられたと言うのか?」
「志郎ちゃんの推測は半分正しい。多摩ちゃんがさっき火傷しそうになってたからね」
「面目ないで……」
面目なく眉を八の字にする多摩。先ほど火傷しそうになったのは量産型波動コアから限界を超えたエネルギーがほぼほぼ熱となって放出されていたせいだったからだ。
「しかし、もう半分はね……」
上田は星奈に話の核心を急かすように視線を向けた。
「……その……ヤマトの波動コアのブラックボックスを解析した結果、誰かが外部から一度アクセスし、制限の一部を解除、ないしは緩和させるために改竄した痕跡が見つかりました」
「改竄?一体誰が?」
説明を求められた一同は沈黙してしまう。
星奈は語るのを憚っているのと同時に辛そうな面持ちだった。
観念したかのように上田が語ろうとした時、
「……サーシア・イスカンダル」
中村の後ろに隠れていた莉奈の口からその名前が飛び出してきた。
「……サーシアが、ブラックボックスのリミッターを改竄した可能性が高いみたい」
上田は「私が言おうとしたのに」と言いたげな顔をするが、莉奈の遠慮のなさに若干の感心を覚える。一方で星奈は「言ってしまった」と言わんばかりな顔をする。
「リミッターを改竄って……どういうことなんですか?」
「どうしてサーシア様がそのようなことを?」
古代とキーマンから別々の質問が飛んできた。
だが、キーマンの問いに答えたのは、意外なことに中村だった。
「どうしてですって? それをガミラス人が問える立場にあると思いますか?」
「……」
そう言われるとキーマンは押し黙るしかなかった。
「まぁ、あくまでも私たちの……正確には紗奈くんの
上田はそう述べた。
「……古代さんの質問にお答えしますが、イスカンダルはガミラスと地球に提供した波動コアに一種の性能制限を儲けていたんです。その内のいくつかの制限を解除すると、波動コアから出力されるエネルギーが増加するという仕組みになっています」
「理由はいくつか考えられるけど……私は「オーバーロード防止」だと思うなー」
星奈が古代の質問に答えようとする中で、莉奈が持論を述べた。だが、それは今の今まで散々語られてきたことだし、実際に見てきたことだ。波動コアのエネルギー出力を高めようとすると、今度はその高いエネルギーの制御が難しくなるからだ。
「ちなみに、私と星奈くんの推論は……イスカンダルは地球人類が波動砲のような大量破壊兵器に行き着くのを恐れたのではないか、というものだ」
「「「……」」」
これには一同押し黙るしかなかった。
一拍置いて、真田は口を開いた。
「……大いなる力には大いなる責任が伴う、か」
「志郎ちゃんの言う通りかもしれないね。波動砲の実用化なんてやったらそれをいずれはガミラスも真似するだろう。スターシアの懸念はそこにあったんだろうね」
上田は星奈に視線を向けると、星奈は俯いてしまった。
「……まぁ、地球、ガミラス共に波動コアの出力制限が施されたのは事実だ。そこで、私たちはイスカンダルの純正な波動コアに近付ける技術的改造を施したのが、今ヤマトに搭載されている波動コアだ」
バラバラに分解されていたヤマトの改良型波動コアが上田の操作で、部品一つ一つがまるで磁石のようにくっ付いていき、再び波動コアとしての形を成す。
その禍々しい見た目は、インド神話に出てくるヴァジュラによく似ていた。
第二艦橋のターボリフトのドアがまた開き、やってきたのは、
「上田おば様、星奈姉ぇ」
「紗奈?」
「紗奈くん? 機関席はいいのかい?」
「山崎さんが上がってきて交代。機関室に戻ろうと思ったけど、そろそろ私がここで説明した方がいいかなって思ったから。……えっと、それでどこまで説明したの?」
「改良した波動コアと波動理論について説明するところだったよ。私よりも君が詳しいだろう? 志郎ちゃんの次に」
そう言われてナルが紗奈に嫉妬を込めた視線を向けるが、紗奈は意に介さず。
「じゃぁ……説明しましょうかね。波動コアというのは、波動エネルギーを生み出して利用するための受け皿みたいなもの。これを利用するに当たって、私たちが知る限りでは三つの理論が存在している。即ち、地球版波動理論と、ガミラス版波動理論。そして、それらのオリジナルに当たるイスカンダル版波動理論。この内、地球波動理論を唱えたのは他でもない真田技師長でしたね」
「紗奈。ガミラスと地球の波動理論だとどう違うか説明できるかな?」
「提唱者と単位と方程式……微妙な違いはあるけど、大筋は同じだったはず。おば様、わかってるのにその質問は酷いんじゃない?」
「試しただけさ。続けて」
「……えっと、ただ、この二つの理論は、実質的には未完成なんです。さっきも言ったようにその二つはオリジナルであるイスカンダル版の波動理論には遠く及ばない。その肝心のイスカンダル版波動理論は完成してると言えます」
「つまり、どういうことが言いたいかというと、波動機関研究所で今回改良したヤマトの波動コアは、そのイスカンダル版の波動理論の中で解明できたものに基づいて、波動コアのブラックボックスのプロトコルをいくつか解除した、というわけです」
「ちょっと待て。待ってくれ」
真田がそこで待ったを掛けた。やや気後れしていたが、肝心な疑問を挟んだ。
「何か?」
「君たちは「イスカンダル版波動理論を解析した」と言ったな? それはスターシアが最も我々に明かしたくない情報のはずだ。一体どうやったんだ?」
「志郎ちゃん……私にだって
「そ、それは君には関係の無い事だ!」
「だが、”今は関係ある“」
「……一体、どういう事だ?」
「おっと……喋りすぎた。いずれわかる日が来るさ、近い内にね」
上田はそう言って三田姉妹に一瞬目を向けたが、すぐに説明に戻った。
「……さて、我々は”ある特殊な方法で“イスカンダル波動理論を解明し、波動コアの出力制限の一部解除に成功した。そして、これはイスカンダルの波動コアの性能に近づけた代物だ。だが、この波動コアというソフトの性能に、ヤマトというハードが追い付かない可能性もある。そこはヤマトその物の改装、改修、改良で性能向上を行ない、ハードを先行してソフトに近付けていくしかないがね」
紗奈が波動コアの解説を始める。
「この波動コアの改造により、出力は従来の5倍に跳ね上がり、エネルギー供給率が向上しました」
「先ほども聞きましたけど、本当に出力が5倍?」
「……言いたいことはわかります。でもそれがそのままワープの跳躍距離が5倍に伸びるほど単純な話ではないんです」
古代は紗奈の説明に疑問を挟んだが、紗奈はその違和感の正体を察してそう答えた。
「ヤマトにおける波動コアのエネルギーはワープやエンジン関連だけでなく、波動防壁やショックカノンなどの主な兵装にも使われているからね。カラクルム級の装甲を打ち破れる威力をショックカノンに持たせるなら、いっそヤマト全体をパワーアップしたほうが効率がいいだろう?」
「更に……ワープ直後にショックカノンの発射が可能になります。ショックカノンも破壊力向上の他、射程延長。エネルギーの急速チャージにより速射も可能になります。……あくまで理論上ですが」
莉奈が更に付け加える様に説明する。
「あ、あと、波動砲の射程延長と破壊力の向上。そして影響範囲の拡大も可能になる筈だよ?」
「影響範囲の拡大?」
真田はその効果の意味を問い、紗奈が答える。
「波動砲の発射時に射線上の空間に発生する歪み……要は余波により、例え直撃せずとも物理的にダメージを与える事が可能になります」
「つまり、拡散波動砲……?」
「いいえ、違います。ヤマトの波動砲は基本的に収束型ですが、これまでのように焦点を絞らずに撃つとそういうことになる、というだけです。なので、指定目標以外の被害を抑える場合は、波動エネルギーの収束率を高めて、影響範囲の縮小させる必要が出てしまい……」
「出力を上げた弊害だねー……もちろん、収束率の調整を戦術長席からできるようにオペレーションシステムは改造済みだし、前と同じように使えるよう焦点は絞ってあるよー」
「あと、これも理論上ですが、波動エネルギーを極一点に収束させて放った場合、ブラックホールの超重力をも崩壊させることが出来るはずです」
「ブラックホールを……!?」
紗奈、莉奈、星奈による説明の中でとんでもない話が出てきて古代とキーマン、真田、バレルは驚愕する。
上田は、更に天の川銀河系を立体投影し、ゾッとするようなことを言った。
「まぁ、その気になれば銀河系の中心に存在する超大質量ブラックホールを破壊して銀河系その物をバラバラに崩壊させられるよ? 理論上は可能だ。試してみるかい?」
さらっととんでもない運用方法を上田は唱え、一同がドン引きしてしまう。
「冗談だよ。兵装と機関の説明はこれぐらいにして、ここからが本題だ」
ホログラムは、天の川銀河の中心部から離れて、太陽系が表示された。
「古代くん。先のカラクルム級との戦闘中に発生した大停電は知っているかね?地球全土が強力な電磁波を受けて大停電を起こしたのを」
立体映像のモニターには大停電による被害の映像が写し出される。
停電により停止したビルではエレベーターから人が救出される映像や、止まった信号による大渋滞、超音速リニアモーターカーも停車し、乗客たちは線路脇を歩く羽目になった。
空港も管制業務が事実上不可能になっただけでなく、もっと恐ろしいことは宇宙貨物船や大気圏内用反重力推進航空機の大半が動力を一時的に喪失した。
幸いにもこれらには対電磁波防御が施されていたため動力が程なく復旧して大事には至らなかったが、乗員乗客にとっては生きた心地がしなかっただろう。
それら、地球上で発生した大停電の影響を示す映像や画像が第二艦橋の床のモニターを埋め尽くした。
「……えぇ。聞きました。あの大停電は世間では太陽フレアによる太陽風で発生したとする情報統制が敷かれましたが、軍ではガトランティスによる電磁波攻撃とする噂を聞きます」
「フフッ、まぁ、普通に考えればそうだろうね? だが、違う。あれは搬送波。つまりはメッセージだったのさ」
「たかがメッセージでそんなことに?」
「そのメッセージの発信源が地球から7万光年も離れた惑星からの通信で、しかも光のスピードを超える一種のエネルギーだったとしても「たかが」と言えるかい?」
「……そんな遥か彼方から届いたのであれば、メッセージの劣化を防ぎつつ早く届くように搬送波が強化されていて、それが地球に届いた途端にあの騒ぎというのも納得できるな」
古代はメッセージを受け取っただけであのような大停電が起きたことに懐疑的だったが、上田の説明に対して、その説明を補強する形で真田が解説して納得した。
「じゃぁ何故俺たちをここに?」
「そのメッセージがね、君たち宛だったのさ。もっと正確にいえば、ヤマトのクルーたちに向けられたものだったと解析結果が示している」
「何だと?」
「俺たちにメッセージ? そんなに遠いところから何故……?」
上田は大停電による混乱の様子の映像や画像を全て消して再び太陽系の立体映像に戻るが、今度はその太陽系を遠く離れ、カイパーベルトを超え、オールトの雲も飛び出して、太陽系が位置するとされるオリオン腕を超えて、あっという間に天の川銀河系を飛び出してしまう。
だが、ある距離まで遠ざかると、天の川銀河に纏わりつく矮小銀河の一つに近付いていく。
その矮小銀河に含まれる恒星系の一つに焦点が合わさり、ボヤけて見える青緑色の星が映り込む。
それを見た途端、中村は僅かに、キーマンとバレルの二人は目の色を変えて心なしか顔色まで悪くした。
「まさか、この星は……!」
「て、テレザートだと!?先生、それは本当なのですか!」
「バレル大使。勿論、本当だよ」
「ま、まさか、あの聖域からメッセージが!? そのメッセージを聴かせて貰えないか!?」
興奮気味に上田の肩を触れた瞬間、英子がその手を手刀で叩き落とした。
「っー…」
「自業自得です大使」
手首を捻挫した様に痛がるバレル大使に、キーマンは冷たく当然の結果だと言い放つ。
「焦らないでください。それに、まだ説明は終わってません」
手刀の構えのまま、そうバレル大使は英子に説き伏せられる。
上田は続ける。
「すまないね大使。だが、あなたたちをここに招いて見せたい物があるのは事実だ。あなたは誰よりもテレザートに詳しい筈の人物だからねぇ」
「なるほど……わかった」
ヤマトに足を踏み入れる前に英子から「見せたいものがある」と言われ、何故、突然今日になって時間断層都市へと自分自身が招かれたのか?
その理由がようやくここでわかり、これで彼にも合点がいった。
「バレル大使。では教えてください。テレザートとはどういう星なのですか?」
古代はバレルにテレザートとは何かを問う。
バレルは静かに、その問いに答える。
「テレザート……ガミラス人が宇宙に乗り出した宇宙大航海時代の頃にはその名が知られるようになっていたな。そのきっかけを与えたのが、ヴィルヘルム・バレルという男だった」
「ヴィルヘルム・バレル? もしかしてバレル大使の?」
「そうだ、古代艦長。君の察した通り私のご先祖さまだ。上田先生。ここからでもライブラリーコンピューターに接続できるかな?」
「もちろんだ。当てようか。探しているのは、『バレル宇宙旅行記』だね?」
「その通りだ。ここに出してくれるか?」
「お安い御用さ」
上田が近くのコンソールを操作すると、立体映像で本が投影された。
「これはどういうことだ……?」
「ちょっとした演出さ。この方があなたとしても他人に見せやすいだろう?」
その立体映像であるはずの本は宙に浮いたまま。しかし、上田が本を開いてページを送る動作をすると、それに反応して立体映像の本も表紙が開かれ、ページが何枚か捲られた。
ページからは文字列や挿絵が浮かび上がるが、最初は原本通りにガミラス語だったものが日本語に置き換わる。
「自動翻訳機能さ」
「ほぅ……これはすごい。まさかこんなことができるとは……」
まるで新しいおもちゃを手にした子供のようにバレルは目を輝かせながら立体映像の本のページを次々に送る。その様子に呆れたキーマンが、「大使、遊んでる場合じゃないんですが?」と嗜めるのだが、幸いバレルは目の前の状況を楽しみつつも本分を忘れていなかった。
「わかってるさキーマン。古代艦長。地球人の間ではあまり知られていないようだが、この『バレル宇宙旅行記』は、地球でも日本語や英語、フランス語などに翻訳して読めるようデータ書籍として販売する予定だ。あいにく日本語版のオリジナルデータは
ページを何枚か捲り、ようやくバレルは探していたページを見つける。
「……あぁ、あったぞ、このページだ」
そのページが立体映像に映し出されると、神秘を感じさせる、壮大な森と水を湛えた姿の惑星の挿絵が現れた。
それは先ほどのボヤけた姿として映った緑の惑星と同一のものだとその場にいる全員が直感しただろう。
そのテレザートについての説明を、バレルは音読した。
「―――テレザート。この星は神秘と自然と愛と瑞々しさに溢れた星だった。私はすでにこの小さい銀河でここを含めて美しい星をいくつも見てきた。生命を育む星は皆生きている。だが、この星だけは別物だと、この地に降り立ってすぐにわかった。テレザート。この星は文字通りの生きている星だ。意思や意識のようなものを感じたものだ。しばらく過ごすと、私は二つの存在に出会った。一方はマゾーン。マゾーンは女性だけの種族らしい。なので「彼ら」ではなく「彼女たち」と呼ぶことにする。彼女たちマゾーンの話はここに辿り着くまでの道中で聞いたことがある。テレザートが属する星系には緑豊かな星が数多いが、それらに居住し、自然を「管理」している。ザルツ・テレザート教徒たちは彼女たちを「テレサの庭園の管理者」と呼称しているそうだ。ここに来ると、その呼び名も納得だ。そして、彼女たちに混ざって、見た目は20代かそれより幼いザルツ人にも見える……存在に出会った。その女性こそが《テレサ》と呼ばれる存在だった。彼女はマゾーンとは一線を画す存在でもあり、オーラのようなものを纏っていると感じた。しかし、彼女たちと過ごす内に私は気付いた。このテレザートに住むマゾーンはテレザートの一部であり、それを統べる存在こそがテレサであり、テレザートはテレサそのものであるということに。テレサは女神として崇められているが、同時に女王でもあったのだ。そして、テレサについてザルツ・テレザート教徒は「未来を予言し、全ての過去を知る不老不死の女神であり、正しき現在に宇宙を導く」と彼らの聖書に記している。その片鱗を私も見せられた……。船の修理が終わり、この星に別れを告げる時が来た。去り際の私に、テレサは一瞬だが未来を見せてくれた。ガミラス民族の統一を。大帝国の繁栄と没落を。我が故国と銀河系に大いなる災いを齎す蛮族が現れることを。そして、それを阻止する一隻の宇宙船のようなものを……。私はそれでようやくテレサの力を理解した。彼女を崇め奉り、テレザート星を中心に数多くの信仰宗教が芽生え、信者たちはテレザートを聖地として崇め、そして、決して立ち入ってはならない禁足地として語られている理由も理解できた。ここは心地良い。出来ればここに根を下ろしたくもあった。しかし、私にはここでの不思議な体験を息子や孫たちにも伝える使命がある。ならば、テレザートから離れ、信者たちの言うように、ここへ二度と足を踏み入れないほうが得策であろう。さらばテレザートよ。さらばテレサよ。私は再び船乗りとして故郷に戻ろうと思う―――以上がヴィルヘルム・バレル三世による手記だ」
その文章の次に現れたのは、
「「「「!?」」」」
その場にいた真田、古代、キーマンは驚きを隠せなかった。
そこに映っていたのは……、
「デスラーに、ガトランティスの戦艦とガトランティス人に……それに、あれはヤマトなのか……!?」
バレルもその挿絵に目をやって、一歩遅れて気付く。
「……この挿絵は、今より何百年も前、テレザートに足を踏み入れたヴィルヘルム・バレル三世がテレサに見せられた未来の断片を忘れないうちに描き殴った絵を基に抽象画風に仕上げられたものだ」
アベルト・デスラーらしき男とガミラス人らしき人々が左側に配され、絵の中央には、ガトランティスの艦隊と、玉座のようなものに座るガトランティス人の男。そして、右側に、人間に似た人々と共に謎の宇宙船が描かれていた。その配色は今のヤマトに酷似しており、姿はかつての戦艦大和そのものだった。
真田も古代もその抽象画に驚きを禁じ得ない。
そして同じく抽象画を見直してから、バレルは悔しい気持ちを隠せなかった。
「……あぁ、クソ、これは穴が開くほど見ていたはずなのに何故私は見逃した?」
「物事に慣れてしまうとそれが油断になることがある。その上、この『バレル宇宙旅行記』の情報量は凄まじい。バレル家の五世代に渡る冒険譚や親戚筋たちの旅の出来事が集約された壮大な物語だからね……大使やガミラスの人々がこの挿絵の存在に気付かないというか忘れられていたのは、その膨大な情報の中に埋もれてしまったんだろうね」
「それも重要な話ではありますが……ここからが本題ですよね先生?」
英子はどこか苦虫を噛み潰したように顔を引き攣らせながら続きを促した。
「そうだったね。バレル大使。あなたのご先祖さまがテレザートを発見した。で、ガミラスが星間帝国になった後どうしたっけ?」
「……」
そう問われてバレルは言葉を詰まらせた。
「……ここからは俺が説明しますよ」
キーマンは頭を掻きながら、上田からタブレット端末を借りる。
端末を操作してキーマンが第二艦橋の床のモニターに映し出したのは、無数のガミラス艦の残骸である。映像は白黒であり、古代は驚愕した。
「なっ……何だこれ、残骸だらけじゃないか……」
「これがテレザートへ侵略の手を伸ばした者の末路だ」
その一言に真田も驚愕する。
「テレザートを侵略!? その結果がこれとは一体……」
キーマンはそう言われると、
「我々はテレザートの怒りに触れたと言ってもいいだろう。ガミラスがザルツを征服したのは半世紀も前だ。だが、ザルツ人の中には我々に服属するのを嫌がり、ザルツを出て行った者たちも多かった。その内の一団が逃れた先の一つが彼らの聖地たるテレザートだったわけだ」
「ザルツ星はザルツ・テレザート教の総本山であり、その教徒にとってはテレザートは聖地であり心の拠り所でもあった。ガミラス親衛隊にとってはそんなテレザートが目障りだと感じたのは想像に難くない。中村くん、そうだよね?」
「え、ま、まぁ……そうでしょうね」
なんでその質問を中村女史に振るんだ?
そう思いつつもバレルが重い口を開いた。
「……それで親衛隊主導でガミラスは艦隊をザルツ人の逃亡先のいくつかに仕向けた。とりわけ、ザルツ星からテレザートに至るまでの3万光年の範囲にある途上の有人惑星に目星をつけて。ジェタリアにアゼルメニア……色々あった。そしてテレザートまで信者狩りを進めようとした結果はご覧の有様だがな」
再び、先ほどの矮小楕円銀河をピックアップして説明を続ける。
「ガミラスのカテゴリでは、銀河番号43910。……君ら地球人はこれを「射手座矮小楕円銀河」と名付けていたと思う」
「射手座矮小楕円銀河……天の川銀河系の伴銀河の一つであり、地球からおよそ7万光年の位置にある小さい銀河系だな」
「その小さい銀河にガミラス艦隊が足を踏み入れてから、艦隊の中で異変が始まっている。端的に言えば、テレザートへの途上にある星系のいくつかで艦隊は同士討ちを始めてしまった」
「同士討ち!? 何故?」
「それが……詳しい原因は不明だ。ブラックボックス自体は回収できたが……」
バレルがそう言うとキーマンがガミラス艦の残骸から回収されたというブラックボックスに残っていた映像データを再生する。ノイズや画面の乱れが酷く、映像は白黒でピンボケ気味だった。
それでもその映像では、モヤのような……時々黄色く見える雲のようなものが艦隊を覆い尽くしていた。
『な、何だこれは!?』
『うggg』
映像はその黄色いモヤのようなものが艦内に侵入した様子、クルーたちの狼狽した声、声にならない声、あるいはホワイトノイズのような雑音にそれらが掻き消され、音が戻らない内に映像が終わった。
「……これだけだ。他のブラックボックスはデータの損傷が酷すぎて復元が不可能だった」
古代たち一同は背筋が凍るような感覚に襲われた。
一体何が起きたのかさっぱり分かず、推測も出来なかったからだ。
「どうして、あんなことに……」
得体の知れない恐怖に襲われて、古代が絞り出せたのはその一言だけだった。
しかし、そんな彼らの中で顎に手を当て、唯一普段の様子と変わらなかったのは上田だった。
「ふぅん……もしかすると、これはナノマシンの仕業かもしれないね」
「ナノマシン?」
「……クククッ。私の得意分野だね」
上田は不敵に笑い、説明を始めた。床のモニターに小さなブラウザウインドウを用意し、そこに数十本の足が生えたような四角い形の機械が映る。
「これが代表的なナノマシンだ。言うなれば顕微鏡でようやく見える程度のサイズしかないミニロボットと言えるかな」
「これが? どうやって艦隊を壊滅させたのですか?」
「いくら本体が肉眼では見えないナノメートルほどの大きさとはいえ、機械であるならばその中核には必ず制御プログラムがある。まず、さっきの映像に出てきた黄色いモヤ。あの正体は何百万、何千万ものナノマシンの集合体だと考えられる。それらがガミラスの艦隊を襲っていたのも、ガミラスの艦隊が「害を成す存在」とナノマシンがプログラムを基に判断したのだろう」
上田が冷静に分析した意見を述べたことで、真田も落ち着きを取り戻し、彼女の仮説に賛同した。
「……だとすれば、船に侵入できたのも、クルー同士が殺し合いになったり、機械そのものが乗っ取られたりと凄惨だった理由にも説明がつく」
「そうだろう?」
「しかし、誰がこんな危険なものをばら撒いていたんだ?」
真田も仮説を述べることにした。
「……状況証拠のみで断定はできないが、テレザートと大いに関係あるだろう。ナノマシンがガミラス艦隊を「害を成す存在」と見做したのも当然だ。あの艦隊の目的はテレザートの征服や侵略だったのだから」
「……とにかく、テレザート攻略作戦はご覧の通り大失敗に終わった。これが原因で当時の親衛隊長官は更迭された後、暗殺されたという」
「それに加えて、ガミラスはアゼルメニア攻略も失敗。これらの甚大な損害によってガミラス帝国は逃亡ザルツ人の追跡と捕獲を諦めざるを得なくなり、当然、テレザートへの侵攻も断念。テレザート擁する矮小銀河への渡航の一切を禁じた。……この映像記録を回収するだけでも大勢が亡くなってるからな」
「かつてバレル大使のご先祖さまが訪れた星、その星を侵略に向かった艦隊が残らず凄惨な最期を迎えた。その星から齎されたメッセージだ。心してくれよ。おっと、その前に。下野くん。映像を。中村くん。紅茶を」
「「はい、先生」」
英子がモニターに鮮明な映像を写し出す。
真っ暗な宇宙に星々が映り、それが天の川銀河である事がわかる。
一方で中村は白衣の内ポケットから水筒を取り出してそれを開けた。中からは紅茶の強い香りが漂い、それをどこからか用意してきたティーカップに注ぐと、上田に渡した。
それを一口飲んだ上田だが、
「……中村くん。これは君の「アレ」が足りないよ?」
「あ、それは失敬を……っぶ!?」
「アレ」の正体が何だかは分からないが、中村の唇に上田はディープキスをした。
それに対して一瞬遅れるも多摩は「あぁまたか」というリアクションをし、ナルは目を見開いて嫉妬に染まったオーラを漂わせる。莉奈は「あらまぁ」と言いたげに自身の口に両手を当てていた。
濃厚で水気を含んだ音が、天の川銀河の映り込む暗い部屋の中で響く。
「あの先生、ヴィー……中村さん、今後は人前でそれは控えてください」
英子に注意されて「ちゅぽんっ」と詮を抜くような音がした。
「あ、あははは……」
「ふふふ……それは保証できないね」
中村は壊れたような笑みを浮かべて絶頂しており、彼女をそんな状態にした上田はまるで軽い悪戯をした程度という態度をした。
「ハァー……」
「全く。これで総督ですか……」
英子の深い溜め息と、星奈の呆れた声がする。
そんな時、映像にノイズと共に音声が流れてくる。
映像には、緑豊かな星を背景に、何かに祈りを捧げる女性の姿が映り込む。
「あれは……」
「テレサか……」
「シー。シーッだよ?」
バレルとキーマンまで声を漏らしたのを横目で見て、星奈と英子を見習って莉奈は二人に「静かにして」と注意した。
そして、古代は驚愕のあまり言葉を失った……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
CICでは既に映像は終わり、立体映像の天の川銀河がゆっくり回っている。
「……フフッ、どうだったかな?実に面白かっただろう?」
上田は紅茶をすすりながら、してやったりな顔で感想を問うが、あまりの映像に古代は頭を抱えて半ば混乱していた。映像の内容は非常にショッキングな内容であったからだ。
「俄には信じられない話で、まだ混乱してます。本当にこのメッセージが7万光年先の恒星系から地球に発せられたものなんですか?」
上田は立体映像の天の川銀河をアップにして太陽系をまた映し出す。
「あぁ。このメッセージは電磁波に紛れて飛んできた。電磁波というのは本来光速だ。電波の方向、照射されたエネルギー量諸々などから逆算したらそういうことだったわけだ」
「太陽風レベルの電磁波の嵐を、7万年分持続させるだけの出力を放った様だ。相当なエネルギー量だな……」
地球と火星が写し出されると、電磁波が発せられたおおよその方向に地球から赤色のラインが伸びる。
「しかし、君が今の映像を信じるか否かに限らず、どちらにせよ、テレザートのテレサと言う存在は、ヤマトをテレザートへ派遣するよう求めている。それは確実だ。そこでだ。君たちヤマトクルーにはテレサの真意を探って貰いたい。そして、テレサの言ってた灯火……破滅を回避する術がどの様なモノかはわからないが、それを回収して貰いたい。まぁ、やる事はイスカンダルの時と一緒さ」
さも簡単にイスカンダルまでの旅と同じだと言われた事に真田はムッと上田を睨み付ける。
「というわけなんだが、古代くん、今更もう一度尋ねるけど、今回の旅はイスカンダルに比べたら短い。しかし、イスカンダル以上に危険な旅になるかもしれない。そんなヤマトに君は乗る覚悟があるかね?」
上田は古代の顔を覗き込んで問う。
だが、古代の気持ちは既に決まっていた。
「確かに……これから行くテレザートには人知を超えた存在であるテレサがいて、その道中にはクルーたちをおかしくさせる宇宙の墓場が横たわっている。ガトランティスもきっと妨害してくると思います。……でも、俺だってイスカンダルへの航海を生き延びてここにいるんです。地球だけでなくこの宇宙全体の運命が掛かっている任務にヤマトが選ばれたのであれば……俺は、ヤマトに乗って行きます」
そう、古代は決意を示した。
それを聞いて上田は少し残念そうに語る。
「フフフッ……そうか。ちょっと残念だな。君が乗らないなら私が艦長として乗ろうかと思ってたのに……」
それを聞いて真田は青い顔をして拒絶した。
「冗談はよしてくれ。そうなったら私は降りるからな!」
「おいおい!? それはちょっと酷くないかね!?」
上田は真田の反応にショックを受けた。これまでの行ないを見てきたので、自業自得には思えるが。
「そこで……冬子くん、夏海くん?」
「は、はい、先生」「お姉様」
突然に呼ばれたことに三田冬子は驚きながらも応じ、三田夏海も首を傾げた。
そして、次に上田が言ったことに、二人が……特に夏海は驚愕の表情を浮かべることになった。
「古代くん……いや古代艦長。彼女たちをこちらから貸し出す」
「え、先生!?」
「お姉さま!?」
「え? あの、よろしいのですか? 人員が不足してるこちらとしては、ありがたい話ですが……」
「なに、無事に返してくれればそれでい……ぃ!?」
だが言い終わる前に姉妹は上田に縋り、夏海は泣きそうに表情を崩し、冬子は表情筋が硬い感じだが明らかに気が沈んだようなオーラを醸し出していた。
「先生……いえ、お母さん、私たち何か悪いことをしたの?」
「嫌だよ、捨てないでよ……」
「お、落ち着きなさい、大丈夫だか……らっ!?」
今度は英子と莉奈が上田の両肩を持った。
莉奈の表情からは先ほどまでの笑みが消え、英子は鋭い目で上田を見つめていた。
さらに、腕を組んだ仁王立ちで星奈まで上田の前に立ち塞がった。
「お祖母様、いくらなんでも酷いよ……?」
「先生がそんな人だったなんて見損ないました」
「というか、それなら私も行くべきですか?」
「ま、待て待て待て。まず下野くんはなんでそんな発想になるのかね!?」
「二人の教育係が私だからです。二人に何か気に入らないことがあるならば私が全責任を負います故」
「星奈くんと莉奈くんまで……」
「この娘たちの先輩として居ても立っても居られないから!」
「そんな彼女たちをここの士官学校で見てきたのは私です。教師として生徒を見捨てるなんてあってはならないことだと先生は私に教えたのにお忘れですか?」
「落ち着き給え……二人を捨てる? 何を馬鹿なことを。私がわがままで欲張りで執着心が強いのは君たちもよくわかっているだろう?」
わがままで欲張りで執着心が強い……事実かもしれないがそこまで自虐して悲しくならないのだろうか。だが、凹んでる暇は今の上田にはなく、誤解を解くのに必死だった。
「むしろ、二人を信頼しているからこそ任せたい任務があるんだ。古代艦長、ヤマトのテレザートへの旅に二人を同行させて欲しい。私の代わりにテレザートを見てきて貰おうと考えているんだ」
「お母さん」「お姉さま」
「私は多忙でここを離れるわけには行かないのだよ。デュカット大統領には「一介の技術大佐でいい」と私は言ったのに、「
そうして縋ってきた三田姉妹の目をじっくりと見つめて諭すかのように伝えた。
「冬子、夏海。君たちにお願いすることは重要なことだよ? これからヤマトは地球だけでなく宇宙の歴史を変えるかもしれない。そんな旅に出るんだ。その航海の様子を余すことなく記録して欲しいんだ。出来るかな?」
上田は二人を撫でながらそう頼み込むように話すと、二人は暗い表情を一転させ、笑顔で「「はい!」」と答えた。
バレル大使はテレザートについて更に詳しく話すことにした。
「テレザートのテレサは超高次元の存在だ。平行世界を行き来する存在とも、宇宙の誕生に関わったとも、宇宙誕生以前から存在していたとも言われている。ヴィルヘルム・バレル三世が『バレル宇宙旅行記』に残した記述には、【テレサはガミラスを統一する王の存在。そして、その王は悲観の内に自らの星を滅ぼそうとする】という予言を残していた」
「もしかしてその王というのは……」
「キーマン、悪いがこれには続きがあるんだ。【その王の野望を、異星より来訪する「方舟」が打ち砕く】という記述が残されている。これを読んだのは私が子供の頃で、大人になってからも二、三度見ているが、当時は何の意味なのかわからなかった。……今にして思えば、これはヤマトの事ではないか?と私は考えている」
そう聞かされ、真田は驚く。
「もし、そうであるなら、他にもテレザートが残した予言にヤマトが存在する可能性がありますね……後でテレザートの文献を見せて貰えますか?」
真田はバレル大使の言う予言に関心を抱く。
「あぁ、テレザート関連の資料をこちらから提供しよう」
「あ、あの、真田中佐。私たちにもお手伝いさせてください」
夏海からの提案と、冬子からの眼差し。やはり何処か他人には思えない真田。二人からの真剣な眼差しに根負けした様子で承諾した。
「……良いだろう。頼んだよ」
「はい!お任せください!」「よろしくお願いします!」
「というわけで古代くん。ここからヤマトを君に託すよ。中村くん、下野くん。あと、天戸くんたち、ついてきてほしい」
そう言うと上田と中村と下野と天戸姉妹たちはCICを退室してメインターボリフトに乗り込んだ。
メインターボリフトに乗り込んでから、下野が階層を押した。
「下野くん、莉奈くん」
上田が合図すると、下野は目の前のパネルを弄ってターボリフトのスピードを意図的に遅くし、莉奈は腰に下げていたツールを手に持った。
サイズや見た目は旧ドイツ陸軍の柄付手榴弾に似ていたが、これはいわゆるジャミング装置の類いだった。
莉奈は少々機械的に言った。
「防諜装置オン」
そして唾を飲み込んだ様子を見せた後の下野が恐る恐る上田に尋ねた。
「先生……本国への報告、本当にしてもよろしいのですか?」
「あぁ、かまわないよ下野くん……いや、ルゼリー。それが君の任務だろう?私が許可する情報だけ流してくれればいい。この報告でガトランティスがどう動くか興味深いしね」
上田は中村の方を見ると、指示を出す。
「それと、中村くん……いや、ヴィー博士。もう何時もの姿に戻ってもいいよ?」
「あっ!そう言えば、忘れてましたね」
中村は首に巻いたチョーカーのスイッチを押すと、肌の色が地球人と同じ肌色から、青いガミラス人の肌の色に変わった。
そして、眼鏡を外して胸元に引っ掛ける。
「やはり、君はその姿も素敵だね」
その上田の一言に中村───ヴィーはときめいて頬を赤らめる。
「素敵だなんて……先生のモチフワの若々しい肌に比べたら……」
すると上田がヴィーの頬に手を当てて、
「私は君の美しい潤いある肌が好きだよ……ンッ」
ターボリフトの中でヴィーの豊満な胸を揉み上げ、ねっとりとしたキスをしようした……のだが、
「あの先生……これまで何度も注意してますが、流石にターボリフトの中で性行為はおやめください」
そう言って下野───ルゼリーが上田とヴィーの間に割って入り、キスを邪魔した。
「もー、ルゼリーは規則に五月蝿いなぁ~」
ヴィーはディープキスを止めさせられ不満を述べた。
「いいえ。規則ではなく倫理や常識的にダメだと思います。あと教育にも良くないです」
「星奈姉ぇ」
「見えないよー」
そう星奈は妹たちの目を抑えながら注意するのだが、ルゼリーも星奈も上田とヴィーの行為に頬を赤らめていた。
「私は先生が求めるなら、何時、何処でもこの体をメチャクチャにしてもらってもかまいませんけどね……」
「あの、何度も言いますけど、それはせめて自室のベッドで……お願いします」
「おやおや、星奈くん? 君ももしかして……?」
「ひぃん……ッ!?」
そのまま上田は手を星奈の股下に持っていき、
「あぁ……やっぱり……この感触は蒸れてるねぇ……?」
「せ、先生、お、おやめくださ……い! いも、いも、妹たちの目の前で……ぁっ」
「もー、星奈姉ぇばっかりずるいー。ね、ヴィーママ」
「先生ったら、ホント見境無いんですから……」
「そんな先生が私もルゼリーも大好きなんですけどね!」
「ちょ、ちょっと、ヴィー博士、私まで巻き込まないでください!」
「……え? ルゼリーは私のことが嫌いなのかね?」
意外なことにショックを受けたような反応をしている上田。
「べ、別にそんなわけでは……」
「ところで、先生はこの肌の色の私と、変装してる私、どっちが好きなんです?」
ルゼリーが必死にフォローしようと慌ててるのをお構いなしに、ヴィーは自身の肌の色の好みを上田に問うが、その問いに上田はショックが抜けるも少しガッカリする。
「ヴィー、それは愚問だよ?青い肌の君も、地球人になりきってる君も、同じ中村美衣奈=ヴィクトラ・フランケンという美しい一人の女性だ……私は君という存在自体が愛おしいのだよ?」
そう言ってまた、上田はヴィーを右腕で抱き寄せる。
「ぁ~先生大しゅき……もっと先生……もっと私を愛してくだしゃぃ……ンンッ!」
ヴィーはすっかりヘヴン状態に入っていた。
「下野英子……いや、ルゼリー・ビーダス。君もだよ?」
今度は左腕でルゼリーを抱き寄せると、
「……先生って、ホントにズルい人です」
ルゼリーは顔を赤らめながら言った。
「あ、みんな、着いちゃいましたよ?」
未だに悶絶している星奈を尻目に紗奈が無情にも目的地に到着したことを告げた。
「もぅ!いいとこだったのにぃ~……」
「姉ぇ、大丈夫?立てる?」
「め、面目ないわ、莉奈……」
ターボリフトがヤマトの第3甲板に到着すると、星奈を支えながら莉奈が降り、紗奈以外の三人もその階で降りた。
「紗奈くん、君は機関室へ。……もちろん今のことは」
上田は優しく少し悪戯っぽく口に人差し指を立てて、
「おば様、わかってますよ」
紗奈が「お口をチャック」という仕草をしてターボリフトのドアが閉まった。
莉奈の支え無しにようやく立るようになった星奈を含めて、上田を先頭にズカズカと五人は艦首方向へ廊下を歩いていく。
莉奈以外の四人は白衣を靡かせていたが、莉奈は腕につけたリストバンド状の装置を操作すると、突然に彼女の青い制服の上から白衣が現れた。
「白衣? 莉奈らしくない」
「雰囲気が大事かなーって」
莉奈が白衣を着ている姿はやや大人びて見れる。それを似合わないと暗に言われた気がした莉奈は星奈のツッコミを軽くスルーする。
それを横目に、ヴィー───中村は再び自身のチョーカーに触れて地球人の肌色姿に戻していた。
「それはそうと……ヴィー。君も上司に報告を入れておいてはどうかね?」
「……良いんですか?私、一応、諜報員と言う肩書きですが、総統みたいなヤロウより、私は先生にゾッコンなのですよ!」
そう中村は上田に忠を示すと、上田は実に嬉しそうに口元は微笑む。
「フフッ、それは嬉しい限りだが、この情報は彼らにも大きく関わる話だからね。それに、この報告で君の評価も高まるだろう。そうだな……例えばヤマトがテレザートを目指す事でも報告すればいい。彼らはこの報告に嫌でも飛び付く筈だ」
「なるほど……あのナルシスト野郎をヤマトの進路上に誘き寄せるんですね?」
「その通り。ヤマトには試練を課すことになるが、デスラーにヤマトを追いかけさせないと彼が殺されかねない。それは避けなければな。だが私が情報を提供する代わりに、彼らから兵器の設計データを頂くとしよう。そうだな……あぁそうだ! 瞬間物質移送機がいいな。アレが欲しい!」
上田の欲しいものを聞いて、中村は自身の胸に手を当てて、上田に忠義を示す。
「かしこまりました! 先生のお望みとあらば、このヴィクトラ・フランケン! この身を削ってでも叶えましょう!」
「フフッ。それはありがたい限りだ。ガトランティス・サイドとガミラス・サイド。テレサからのメッセージについては君たちは好きに伝えるといい。映像は修正、無修正どちらでもかまわん。私は、私の研究の邪魔さえ入らないならば、何がどうなろうがかまわんのだよ! ……そう。地球が無事ならそれで良いのさ」
彼女たちが白衣を靡かせながら自動航法室を越えた奥。
到着したのは艦首にある波動砲制御室。
制御室に続く廊下にはヘッドホンの様な物を装着した作業服姿の女性達が整列していた。
「あぁ、上田先生♪波動砲の最終確認、完了です♪最終運転許可の認証をお願いします♪」
そう報告してきた女性は……まるで新見 薫を少し幼くしたような出立ちながら、将来的に彼女の体型と瓜二つになりそうなポテンシャルを秘めていた。その一方で、まるで小鳥が囀っているような明るい口調は新見とは似ても似つかない。
なお、他の女性たちがしているヘッドホンのようなものはつけていなかった。
報告を受けた上田は整列する女性たちに向けて指示を出す。
「ありがとう秋音くん。諸君。ご苦労様。当初の予定より発進が前倒しになったが、この通り改装は無事終わった。心から感謝する。秋音くん、彼女たちに指示を」
「はい、先生♪全アースロイドへ♪作業終了後、ヤマトから退艦♪各自、管理システムの指示に従い、次の作業に移るように♪」
秋音という女性の命令を受けると、他のヘッドホンのようなものをつけた女性たちは足並みを揃え、上田に向けて敬礼する。
「「「はっ!アースロイド各員、次の行動に移ります!」」」
一斉に数百人の女性達が同じ言葉と行動を行い、まるで1つの生き物の様に、まるでマスゲームの様に移動を始める。
「では先生、お先に失礼します♪」
秋音は上田たちにお辞儀をすると部屋を出て行った。
五人は白衣を靡かせながら波動砲制御室に入ると、その窓からは波動砲の圧力薬室と、突入ボルトが見える。
圧力薬室には突入ボルトが挿入される挿入口があるのだが、安全の為に開閉式の六角形の分厚い蓋がされ、封印されている。
「では、我々はこの改装の仕上げと行こうか。……星奈、ルゼリー、ヴィー、認証コードを」
上田に頷く三人。
まず波動砲制御室のコンソールを下野が起動した。
「認証コード入力。起動準備認証確認」
『次元波動爆縮放射機発射システム。起動準備プロセスを開始します。アクセス認証を行ないます。個人認証パスコードを入力して下さい』
そうするとモニターに四人分のパスコードの入力表示が表れる。
上田と中村、下野、星奈がそれぞれのパスコードを入力すると、それにより四人のデータが表示される。
『四組のパスコードを確認しました』
下野の顔写真が写し出された。
【下野英子。所属:時間断層都市総督専属護衛官。本名:ルゼリー・ビーダス。追記事項:ガトランティス中央情報局特務隊員】
中村の青い肌の顔写真が表示される。
【中村美衣子。所属:時間断層ヒューマン・クローニング生産部門主任管理官。本名:ヴィクトラ・フランケン。追記事項:元ガミラス科学省異星人類部門異星人類博士。現、地球潜入諜報員】
星奈の顔写真が出てきた。
【天戸星奈。所属:時間断層都市人材育成部門主任・地球連邦宇宙軍士官学校
上田の顔写真が表示される。
【上田幸代。所属:
『アクセス権限を承認。次元波動爆縮放射機発射システム。全システム起動プロセスを実行します』
自動でシステムの起動プロセスが実行され、それらがコンソール上で瞬く間に文字列として羅列されていく。
【全波動エネルギー供給ラインの接続弁起動…異常無し。】
【エネルギー回路…異常無し。】
【バイパス接続…異常無し。】
【発射機波動防壁システム…異常無し。】
【発射機非常弁、波動エネルギー緊急放出弁…異常無し。】
【波動エンジンまでの全接続弁、全回路、全バイパス、及び、波動防壁システム…異常無し。】
【波動砲緊急停止システム、正常可動…異常無し。】
【自動点検完了。】
自動点検完了の表示と共に、コンソールから四つの鍵穴が開かれる。
『発射装置の起動認証キーの接続へ』
上田はジャラジャラとボールチェーンの付いた鍵を胸元のポケットから取り出す。
「三人とも、起動キーは忘れてないね?」
下野は首から隠れる様にかけていた鍵を取り出す。
中村は、豊満な胸元から取り出す。
星奈は外したブレスレットが鍵に変形した。
その鍵を、それぞれ鍵穴に差し込む。
「3…2…1。起動!」
そして鍵を四人が一斉に回すと、波動砲制御室のブザーが鳴り、画面の表示が【起動認証完了】と表示された。これの意味することはつまり、
『起動認証完了。波動砲は完全に開放されました。必要な状況下で発射が許可されます。波動砲の発射は常時半永続的に可能な状態です。宇宙戦艦ヤマト波動砲システム完全起動』
波動砲の突入ボルト挿入口を塞ぐ分厚い六角形の蓋が、6個に割れて開かれ、これで波動砲が撃てる様になる。
その様子を物憂げに見つめる星奈。いつもは笑顔な莉奈ですら表情に陰りが見えていた。
「……やっぱりこうなってしまうんですね」
「大丈夫なのかな……」
そんな二人の肩にポンと手を置く上田。
「君たちの心配は尤もだ。この船には
「先生は何故そんな自信と信頼を持てるんですか?」
「……この船がヤマトだからさ」
そう言ってもわかってもらえない、とすぐに直感したので。
「……すまない、ちょっとカッコつけた。だが、君らだってわかってるだろう? ヤマトのクルーたちは沖田提督がスターシアとの間で結んだ約束を破るまいと動いていた。志郎ちゃんだって、イスカンダル条約による波動砲の完全封印には反対していたけど、それイコール乱用していいとは思ってもいない。少なくとも、幼馴染の立場から言わせて貰えばそのはずだと私は思ってるよ。だから、もし君たちの考える「最悪の方向」に地球人類が陥るとなったら、私を恨んでくれていい」
「お祖母様……」
「お姉様……」
「フフフ……私だって恨まれるのは慣れっ子さ……って、なんだい君たち?」
そんな自虐気味な上田を、周りの四人が抱きしめていた。
「先生、そんな寂しいこと言わないで」
「そうです。もし恨まれるなら私たちだって同罪です」
「お祖母様……。お祖母様は、みんなのお母様でありお姉様だもん。こんなことで私、お祖母様を恨んだりなんてしないもん」
「地球だとよく言うじゃないですか。「地獄への道は善意から」って。私、先生と一緒なら何処へだって行けますから!」
「……ありがとう、みんな」
上田は何とも言えない表情で星奈と莉奈の頭を撫で、下野と中村は上田を抱きしめたままだった。
波動砲への回路が再開放されたことは第二艦橋にいた古代たちにもコンソールの計器表示が変わるなどして伝わっていた。
「……これでヤマトの波動砲は完全に開放されたんですね」
「あぁ、その通りだ」
「……真田さん。本当にこうする必要があったんでしょうか?」
「テレザートへ至るまでにはどのような危険が待ち受けるかわかったものではない。だが、私たちは宇宙を破壊しに行くのではない。そのために波動砲を使ってはいけない。それを肝に銘じていくしかない」
『あー、あー。こちら上田幸代技術大佐だ。第二艦橋聞こえるかい?』
「聞こえるぞ」
『志郎ちゃん、多分わかってると思うけど波動砲は使えるようにしたよ。これで改装は全部終わった。あとは出航するだけだ。君たちは持ち場に戻っておくれよ? かつての、という但し書きはつくがね』
「わかってる」
『あぁそれと第一艦橋にいる新見くーん、君の体を触れないまま退艦というのはちと御無体だと思わんかね?』
『思いません! さっさと降りてください』
『釣れないねぇ。まぁいいや。あぁ、そうだ。古代くん』
「何でしょうか?」
『紗奈くんと莉奈くん、ナルくん、多摩ちゃんなどなど数人を一時的に君に預けるが、ヤマトがメガロポリスのドックに到着したら彼女たちは時間断層都市に送り返してくれ』
「わかりました」
『頼んだよ。私たちはこのまま退艦するが……あれ? 何か忘れてる気がする』
スピーカー越しに上田がそんなことを言うと、
「「……あ!」」
キーマンとバレルが揃ってそんな間の抜けた声を発した。
バレルとキーマンが足早にヤマトを降り、古代と真田は三田姉妹、ナルと共に第一艦橋に上がってきた。
それに気付いた第一艦橋のクルーたちが一斉に起立した。
「艦長のご帰還です!」
機関席の山崎がそう言うや否や、古代の元に赤い色をした一台のロボットが駆け寄って来た。
「コ、古代!オ前、生キテタノカ!?」
それはイスカンダルまで共に旅したヤマトの自律型サブコンピュータ『AU09』。しかし本人が型番で呼ばれるのを嫌っているため、『アナライザー』と名乗り、それがヤマトクルーの間で、このロボットの呼び名として定着していた。
「アナライザー、ここに居たのか!あぁ、俺はこの通りだ。どうしたんだアナライザー?」
アナライザーは古代の腕に両手で抱き着くようにして離さなかった。
「……ボクハ古代ガ、皆ガ死ンデシマウ夢ヲ見タ。ボクハ一人、皆ノ最期ヲ見送ッテ……」
「ほ、本当にどうしたんだ、アナライザー?お前は機械なんだから、夢なんて……」
困惑する古代だが、彼の制服の袖をアナライザーはグッと強く握って訴えかけてきた。
「ボクハ無力デ、誰モ助ケラレナカッタ……モウ、ボクヲ置イテ行カナイデ……モウ……一人ニシナイデ……」
まるで独りぼっちにさせられた子供の様にアナライザーは訴えかける。
「ぉ…おい、アナライザー、落ち着け!……一体何があったんですか、真田さん?」
真田は顔を背ける様に古代に事を話した。
「……時間断層内でアナライザーは長期間の調査と研究の対象になってた。……が、ある実験の最中に、アナライザーに致命的なバグが残るシステムの異常が起きたんだ……」
「致命的なバグ?」
真田はアナライザーの頭を撫でながら、古代に語る。
「安心してくれ。ヤマトの運用には差し支えない。アナライザーはバクを介して、誤って仮想空間における戦闘シミュレーションにアクセスしてしまった。結果、彼は、それを夢として認識してしまった。……それだけだ。少し感情的な面もあるが問題ない。以前と同じだ」
古代は思った。機械のボディーだからわからないが、きっとアナライザーは泣いているんだ。悪夢にうなされた子供の様に。
そう考え、アナライザーを宥めた。
「アナライザー。大丈夫だよ。俺はここにいるから」
「……古代……スマナイ、感情的ニナッタ……」
ようやくアナライザーは落ち着きを取り戻したようだった。
アナライザーがそっと古代の腕を離すと、古代は改めて第一艦橋の面々に目線を向けた。
「……」
「艦長?」
「……あぁ、すみません……じゃなくて、すまない。そのまま。山崎さん、新見さん、見慣れない顔がいますが……?」
「あぁ、そうだった。雛菊准尉、桜井准尉。それと……春名ちゃん?」
操舵席と戦術長席、それに通信士席に座っていた女性クルーたちを、レーダー席にいた新見が呼ぶと、彼女たちは古代たちの前までやってきて挨拶した。
「あ、姉さんたちだ。小早川さんと多摩先輩まで?」
呟くように言葉を発したのは、保安班のグレーの女性用制服に身を包んだ春名というクルー……夏海よりも幼くボーイッシュな見た目をしているためか、女性というよりは、少年と少女の中間のような印象がした。その女性クルーに、真田は思わず目を見開いた。
「姉さんって……」
「あ、はい、この娘は三田
夏海がそう自慢気に紹介すると、冬子が春名に尋ねた。
「春名もヤマトに配属?」
「うぅん、私はメガロポリスのドライドックに着いたらこっちにまた戻る予定。まさかと思うけど多摩先輩と小早川さんは?」
「あー、うちらも同じやで」
「メガロポリスに着くまでの一時的な配属ってやつ。春名ちゃんがここにいるってのは驚いたけどね」
「校長先生がお母様に呼ばれて下に降りて行ったから、代わりにここを。……あの、どうかしました?」
「あ、いや……その……何でもない」
「?」
真田が固まったままだったので、春名から声を掛けたのだが、真田の言葉は実に歯切れが悪かった。先ほどの冬子や夏海と顔を合わせた時の反応もこんな感じだったなと古代は思ったが、
「紹介するわね。今回新しく配属されることになった、航海科の雛菊准尉と、戦術科の桜井准尉よ」
詮索する暇もなく新見に紹介されたのは、まず黄緑色の艦内服を着た緑掛かった黒いロングヘアーの女性。髪が長いためか、後頭部にお団子を作っている。古代にとってはどこかで見たような顔だったが、彼女は少し緊張した様子で挨拶をした。
「
「……同じく戦術科に配属された
雛菊茘子とは対照的に戦術科女性用のワインレッドの制服を着た桜井美穂はやや淡白で機械的な挨拶の仕方であった。
「よろしく」
それに続いて三田姉妹が改めて挨拶する。
「改めまして、三田冬子です」
「三田夏海です」
「「よろしくお願いします!」」
すると通信が入ったことを意味するアラーム音が鳴り響いたので、春名が通信に出た。
「艦長、セントラルタワーの……上田総督からです」
「……わかった、繋いでくれ」
古代は気を落ち着けるために一拍置いてから通信を繋げるように指示した。
通信が繋がると第一艦橋のメインモニターに上田が映り込んだ。やはりというか、その場で嫌そうな顔をしたのは新見だけだったが。
『古代くん、みんなの紹介は終わったかな?』
「え、えぇ、はい、一応は。上田さん、何から何までお世話になりました。クルーまでお借りしていただき感謝します」
すると画面の向こうの上田はやや照れ臭そうに、
『……感謝されるのは馴れないなぁ。嫌われるのには馴れてるんだが……』
そう呟いてから咳払いして、
『……さてと。ここからは私も重い腰を上げなきゃね』
「重い腰を上げる?」
『ヤマトの波動コアはまだ目覚めていない。まずは通常の手順で覚醒を試みて、それで駄目ならこの都市の電力をほぼ全て投入しないといけないからね』
「そうなるとこの都市のシールドも解除する必要が?」
『あー、いや幸い、行政と防御策には二重三重に電源のバックアップがあるから心配しなくていい。だがそれでも造船所のパワーは落とさないとならないね』
「ちょっとそれは御無体な……」
『ナルくん、そうは言っても一時的だよ。メガロポリスから戻ってきたら好きなだけ船を作っていいから!』
「造船所のパワー全部使っちゃっていいです!」
「現金やなぁ……じゃあナル、うちらは機関室に行こか?」
「ねぇ、多摩ちゃん。ちょっと待って」
「莉奈ちゃん?」
「私が
「……ホンマに?」
「新しい波動コアを入れてエンジンを初めて点火するなら、多摩ちゃんとナルちゃんだけじゃなくて山崎おじさんも立会いたいはず。何かあった時はプロが多いほど対処もしやすいんじゃないかなー?」
「そうだなぁ。それなら莉奈ちゃんに任せよう。パラメーターをモニターして異常があったら教えて欲しい」
「了解です!」
ビシッと自信満々に応じる莉奈。
「……それなら、ほな行こか」
『さぁ、早く行ってくれ。そして、一刻も早くテレザートに向かってもらわないとね。……冬子、夏海、頑張って無事戻ってきてくれ』
「お母様」「お姉様」
二人に見送りの言葉を掛けた上田の眼差しは、まるで母親のようだった。
雰囲気が湿っぽくなりそうだったが、
『……では、古代艦長、航海の無事を祈るよ。あぁそれと新見くぅん、地球に戻ってきたらまたその胸をm』
息をするようにセクハラ発言が飛び出したため、堪らず新見は通信席に小走りして通信を強制的に切った。
「……何か?」
そう言う新見の顔は恥ずかしさと怒りが混ざったような表情をしていたので、周りのクルーたちはその圧に押されて何も言う気は起きなかった。
一先ず、発進準備は整った。
ナルと多摩と山崎が第一艦橋を降りて機関室に向かい、残ったクルーたちはそれぞれの持ち場に着く。
操舵席には雛菊茘子。
レーダー席には医療班のピンク色の制服を着た三田夏海。
観測席には新見。
通信士の席に座っているのは保安班のグレーの制服を着た三田春名。
機関長席には莉奈が。
技術長席には真田が。
戦術長席には桜井が座る。
砲雷長席には機関科の制服を着ている冬子が一時的に座った。
雛菊茘子、三田夏海、三田冬子の他にも40名近いクルーたちがヤマトに配属されてきた。
莉奈、紗奈、多摩、ナル、春名など一時的に借りるクルーも10名ほどいる。
これで南極から日本への航行に必要な最低限のクルーは揃った。
古代は戦術長席に座ろうとするが、席を交代しようとして桜井に言われた。
「……艦長」
「桜井……といったね、何かな?」
「誠に僭越ながら申し上げます。あなたが座るべきなのはあそこだと思いますが?」
桜井が向けた視線にあったのは、第一艦橋の後部の数段高い場所にある一席。
それこそがヤマトの艦長席だった。
「しかし……」
「そうだな。桜井くんの言う通りだと思うぞ」
「真田さんまで……」
艦長席に座ることに古代は戸惑いを持っていたが、桜井に続き真田にまでそう言われてしまうと、もうどうすることもできない。
古代がヤマトの艦長席に座る。
沖田艦長の見ていた光景が、古代の視界に写っていた。
「艦長。命令を」
新見に促された古代は、ヤマト二代目艦長として、最初の命令を飛ばした。
「よし……ヤマト、発進準備!」
古代の号令により、各員が作業に移る。
真田が艦内の耐圧状況をモニターする。
「艦内耐圧チェック終了。異常なし」
莉奈は手順通りに補助エンジンの起動に入る。
「荷電粒子ビーム核融合炉1号機、2号機の発電状況良好。両補助エンジン動力接続」
『スイッチ・オン!』
指示を受け取った機関部側で紗奈が機関室から補助エンジンを操作する。
『1番、2番、補助エンジン点火!』
『出力上昇中、現在20%!』
機関室のコンソールで出力をモニター、及びエンジンの点火手順を始めた山崎と美奈子がそうコールしたのを確認し、莉奈は次の手順に進む。
「補助エンジンを推進モードから発動機モードへ切り替え。補助エンジンからのエネルギー伝達……『反物質生成装置』」
『反物質生成装置、正常稼動。反物質へのエネルギー変換を確認』
『現在、反物質による主機波動エンジン点火用動力を波動エンジン内に注入中』
『波動エンジン内、点火用動力に反物質エネルギー注入確認!』
莉奈と紗奈の声が被るも気にする暇すらなく次々とナル、多摩からもコールが入る。
莉奈はエンジン計器を見ながら報告した。
「波動エンジン内圧力上昇、補助エンジンからのエネルギー伝導。エンジン内エネルギー充填100%!」
古代は次の指示を出す。
「波動エンジン点火用意」
「波動エンジン点火用意、補助エンジン出力上げ!」
『補助エンジン、出力上昇中。現在100%。反物質エネルギー変換率95%』
続けて波動エンジン点火を指示する。
「波動エンジン点火用意。フライホイール接続カウントダウン開s」
『カウントダウン中止!ダメです!反物質と波動コアの対反応なし!』
紗奈からのカウント中止指示に艦橋内がどよめく。
古代は莉奈にその意味を確認する。
「どういう事だ?」
「まだエネルギーが足りない、という事……」
機関室で山崎と美奈子は頭を抱えていた。
「通常なら、このエネルギー量で動く筈なんだが……」
「補助エンジンも最新のアンドロメダやドレッドノートに使われてる補助エンジンと同型の最新式なのに?それでも足りないって言うのかしら」
だが、ナル、紗奈、多摩は「やっぱりか」と言いたげな顔をしており、
「やっぱりこうなってしまったか……」
ナルがそう言い、紗奈が第一艦橋に連絡する。
「艦長。おば様……じゃなくて、総督に連絡を」
『そうだな。わかった』
「春名くん……と呼んでいいかな?」
そう問われた春名は古代に頷いた。
「時間断層都市の総督府に繋いでくれ」
「わかりました」
程なくして再び総督府にチャンネルを繋げると、上田の姿がヤマトのメインスクリーンに映り込んだ。秘書として側にそばにいるらしき下野と中村もいた。
『……おや、艦長。やはりだったね』
「上田さん、プランBをすぐにも使えますか?」
『お安い御用さ』
すぐに「あれ」を準備してもらうことにした。
上田は古代に頼まれて、机で電子画面上にある操作盤を探し始める。
『えっと……どれだったっけか……』
『あ、先生、これかも?』
中村が電子の海の中から見つけ出したのは、ヤマトが係留されているドライドックA2-002の操作盤。
それを軽くキーボードを叩くように上田が操作すると、ヤマトの係留されているドックの壁からアームが伸びて、それがヤマトの両舷の艦尾魚雷発射管の発射口前に接続された。
『時間断層都市からも少しばかりエネルギーを供給する。私の予想ではそれで動く筈だ』
アームの巨大な配管から膨大な電力が注ぎ込まれ始める。ヤマトだけでなく他の船を建造中の各ドライドックでも照明が明滅し、流し込まれているエネルギー量をモニターしていた新見が報告してきた。
「外部からのエネルギー伝導を確認!凄いエネルギー量です!これなら……」
しかし、機関室にいる山崎の慌てた声が第一艦橋に届いた。
『おいおい待て、待て!一気にこれだけのエネルギーを突っ込まれたら、エンジンが爆発しちまうぞ!』
その声も上田には届いていた。
『安心したまえ。その程度で爆発するほどヤマトの機関部はヤワではない。エネルギー量の目安は上限150パーセントだが、設計限界は500パーセントまで耐えられる設計だ!』
美奈子から報告が上がる。
『エネルギー流入!波動エンジン内圧力尚も上昇!圧力計が300%を越えました!補助エンジン出力120パーセント!補助エンジンはもう限界です!』
『補助エンジンは今の出力を維持!圧力計は気にするな!フライホイールに全エネルギーを回せ!』
山崎は続けて報告する。
『波動エンジン内、外部からのエネルギー伝導を含め、現在エネルギー充填300パーセント!臨界突破中!』
莉奈はフライホイールの始動を宣言する。
「フライホイール圧着板、ロック解除!フライホイール低速回転を開始!」
だが、新見からは良くない報告が上がる。
「そんな……まだ波動コアに反応無し!これはもう発進を中止した方が……」
画面の向こうで上田は珍しく頭を抱えていた。
『クッ……私の計算ではもう反応して良い筈だ!なぜだ!イスカンダル波動エネルギー理論は完璧に再現した筈なのn』
メインスクリーンにノイズが発生した。
「一体どうした?」
古代は思わず立ち上がるが、真田が原因を推測する。
「大量のエネルギー波が機関部から漏れている。エネルギー波が通信に障害を与えているんだ」
ノイズが続く中、古代はノイズに紛れて声が聞こえた。
『…ザッ―…―コ…ダイ…ヤマトを…オこすぞ―』
「!?沖田艦長……!?」
古代には沖田艦長の声が一瞬聞こえた。
「古代、どうした?」
真田には単なるノイズにしか聞こえなかった。
「今、その……」
だが、古代が説明し終わる前に、莉奈が新たな報告をする。
「か、艦長!外部から新たなエネルギー伝導……これは波動エネルギーです!波動エネルギーが、外部から直接波動エンジンに!エンジン内、圧力計が測定不能です!」
その報告と前後して、今度は時間断層都市全体が明滅し、一部では明かりが消えたままになる。
春名は通信周波数を変更し、メインスクリーンが回復する。
「通信周波数を変更。通信復旧しました」
メインスクリーンには上田たちが慌てる様子が映し出された。画面の向こうの下野の報告が第一艦橋のクルーたちにも聞こえるぐらい明瞭だ。
『先生大変です!時間断層制御管制艦イズモが勝手に起動しました!』
『何だって!?』
中村が近くのタブレット端末を引ったくってステータスをモニターすると、それを報告しつつ上田に見せる。
『……それだけじゃないですね、時間断層のA2地区ドライドックで既に完成済みの船が次々にエンジンを点火中です。今、ヤマトにはそれらの艦船からエネルギーが流れ込んでるようです……!』
その影響はヤマトの第一艦橋の窓の外からもよく見えた。セントラルタワーからここまで、まるで波が押し寄せるかのように地平線の彼方から赤や青い光が輝き出し、それがヤマトの目の前のドレッドノート級やアリゾナにまで達すると、光の正体が点火中の波動エンジンであることがわかる。
『そうか!起動時の余剰パワーをかき集めてるのか!イズモへの影響は?』
『かなり深刻です。どういうわけか、イズモはそれらの波動エネルギーを自艦に収束させて、コスモリバースシステムを応用しエネルギーを増幅中の模様!このままではイズモが爆発する可能性が……!』
『イズモよりコスモリバースから起動パルスを再確認!コスモリバースシステムが起動しています!』
上田はその報告を受けて慌てるでもなく実に嬉しそうにする。
『……フフフッ、そういうことか!続けろ、やはりコスモリバースシステムは生きているんだ!ヤマトからヤマトへ、魂が受け継がれていく!継承されていく!フフフッ、ハハハハハ!ヤマトがヤマトに魂を分け与えているんだ!実に素晴らしい現象だ!』
画面の向こう側にいる上田の言ってることは古代には理解できなかった。
でもそれどころじゃない。莉奈は驚いた顔で報告する。
「波動エンジン内、エネルギー充填500パーセントを越え、……メーターを振り切ってます!フライホイール回転数上昇中!10000、15000、20000、25000……フライホイール、3万回転到達!」
機関室にいた紗奈が続けて報告してきた。
『艦長!波動コアに対反応を確認!今ならメインエンジンを点火出来ます!』
そう聞いて古代は波動エンジン始動を宣言する。
「わかった。莉奈、エンジン始動!」
「波動エンジン始動!波動エンジン点火10秒前。『9、8、7、6、5、4、3、2、1…』フライホイール接続!『点火!!』」
莫大なエネルギーが波動エンジン内にセットされた波動コアに一気に注がれ反物質エネルギーは波動コアとの反応を起こし、波動エネルギーの生成を始める。
投入された莫大なエネルギーが波動エネルギーに変換され、波動エンジン全体が青い光を帯びた金色の輝きに一瞬包まれる。
機関室にいたクルーたちは凄まじい光に目を塞ぎ、美奈子は困惑したような声で言った。
「こ、これは一体……!?」
目が眩みそうになりながらナルは自身が掛けている眼鏡を遮光モードにして、波動エンジンの内部状況をモニターして報告した。彼女ですらエンジンの中で起きていることに驚きながら報告を第一艦橋に寄越した。
「波動エンジン内の空間にマイクロブラックホールの発生と消滅の連続運動を確認!マイクロブラックホールの消滅エネルギー450テラジュールが毎秒安定して生成されてます!
エネルギー出力が従来の5倍!すごい……波動エンジン起動に成功しました!」
波動エンジンの始動成功、第一艦橋のクルーたちの険しかった表情が少し緩んだのを見計らって、古代は次の指示を出す。
「よし、補助エンジンの出力を半分まで落とし、発動機モードから推進モードに切り替え!」
「補助エンジン、モード切り替え!」
莉奈からのコールを受けたナルが切り替えを行ない報告する。
『切り替え完了!』
機関室の他のクルーたちの内、眼鏡に遮光機能が付いてない者、そもそも眼鏡を掛けていないクルーたちに美奈子と多摩は作業用ゴーグルを配って駆けずり回っていた。
茘子が操縦桿を操作する。
「反重力推進起動!重力制御!重力偏向、浮上開始!」
真田が、ガントリーロックを操作し船体の固定を解除する。
「ガントリーロック解除。外部エネルギー供給ラインパージする!」
エネルギー供給装置がパージされ、落下する。
そして、ヤマトは垂直に浮上する。
「抜錨!ヤマト……発進!!」
そうしてヤマトが係留されていた前のドライドックに鎮座するアリゾナ級の真上を、ヤマトは通過して行った。
『ヤマト、発進に成功!』
ヤマトからの報告にドライドックからの中継映像を見ていた星奈は安堵するのだが。
「先生、A-2、B-2、C-2、A-3地区のセクション10から19が停電です」
「停電が広がっています……」
総督府は
総督府は停電こそしなかったが、ヤマトが発進したA2-002ドライドックを中心にまるで波紋を広げるかのように夜の闇の中で都市が次々に停電していく。中継映像の送信も止まり、モニター画面もブラックアウトした。
だが、ヤマトはそんな闇の中でも力強くエンジン音を響かせながら順調に高度を上げていく。その姿を見て上田はホッと溜め息を吐いた。
「これでひと安心だ。停電復旧とかやらなきゃならない仕事はあるけどね」
しかし、口ではそう言っているのに、何かを揉むかのように手をワキワキと動かしたままだった。
ところが、次に部屋中のタブレット端末がサイレンのように煩く通知のアラームを鳴らし始めた。
「う、うるさいなぁっ!!?」
アラームの団体さんが押し寄せてきたようなものだ、うるさいに決まってる。上田たちは堪らずタブレット端末を1つずつサイドスイッチをいじって消音モードにし、通知音を消していく。今度はバイヴしっぱなし。その内の一つを中村が覗くと、
「……あ、うそ、大変!」
「何だい中村くん……?」
「先生、これを!」
アラームの騒音を止めるのにてんてこまいだった上田に、中村は消音モードにしたばかりのタブレット端末を上田の手元に持ってきた。
「あ、あれは!」
続いて窓の外に目をやった星奈が指差した先では、なんと、ヤマトの前に鎮座していたアリゾナ級が浮上し、エンジンに火が入った。更に同様にドックの全ての艦が浮上し発進し始めた。
幸い、ドライドックの停電で作業が止まることを事前に予測していたため、作業員の姿はなかった。
「これは……一斉進宙ですね……」
少々呆然とした状態で呟くように下野はそう言った。
その呟きで何かに気付いた様子の中村がタブレットを確認したら、
「……あぁ、やっぱり!」
「どうした中村くん?」
「先生、これを」
中村が開いたタブレットのページには、「本日進水予定日艦船」と記された項目に2520隻の艦名(ABC順)とそれぞれの艦級が示されたリストが表示されていた。
そのリストの5番目には「E.F.S.
「……ハハハ、そういうことか。久しぶりの一斉進宙だ!いやはや実に壮大だね!」
時間断層都市の夜空がまるで昼間のように明るくなる。
それもそのはず、全部で2520隻の艦艇が波動エンジンを点火し、船体の至る所に取り付けられた航行灯が光っている。
それらの光はヤマトの後を追う様に、まるでタンポポから綿毛の種が空に舞う様に、一斉に時間断層都市から飛び立っていく。
その壮大な光景に、星奈は息を飲んだ。
「まるで……ヤマトが全ての艦を導いてるみたいです……」
2520隻の艦艇がヤマトの後を追う様に発進する光景は、まるで一筋の線の様に、艦艇が一直線に並んで見えた。
夏海がレーダーを見ながら報告する。
「後方より時間断層都市造船所から飛び立った艦船、2520隻を確認。スクリーンに出します」
その光景には古代たちですら言葉を失った。
「これは……壮観だな」
艦艇はドレッドノート級重巡洋艦、プリンツ・オイゲン級軽巡洋艦、キリシマ級軽巡洋艦、デューイ級コルベット、ヴェールヌイ級駆逐艦にシェンヤン級フリゲートなど多種多岐にわたる。
それらの先頭を行く艦に古代の目が行った。。
「あれはさっきの……」
「宇宙戦艦アリゾナです」
数時間前、時間断層のドックにいたあの船だとすぐに古代にはわかった。
「綺麗な船だ……」
「あ……艦長、申し訳ありませんが、まもなく時間断層都市の範囲から抜けます」
ヤマトの目の前には時間断層を覆うシールドが迫っている。
そのシールドにヤマトが接触すると、艦首がシールドをあっという間に突き抜けていった。
「時間断層都市のシールド、通過完了まで5、4、3、2、1、……通過。ヤマト、時間断層都市より離脱します」
ヤマトが時間断層都市のシールドの外に出ると、下には一面の銀世界が広がり、空は自分たちが都市に足を踏み込んだ時とさほど変わらぬ曇り空だった。
「後方より別の大型艦接近、ゼルグート級です」
続いて新見がトランスポンダーシグナルを捉えたことを報告する。
「識別信号を受信、エリクソンです」
矢継ぎ早に春名がエリクソンからの通信に応対した。
「艦長、エリクソンより通信です、音声回線のみ開きます」
『こちらエリクソンのバレル大使だ。ヤマトの諸君。無事に発進できて安心したよ』
「艦長の古代です。バレル大使、そちらも無事に発進できた様で安心しました」
『テレザートへの旅はガミラス大使館が全面的に協力する。是非、こちらからの支援も役立てて欲しい。では諸君、また会おう』
通信が切れると、夏海がエリクソンの向かう方向を報告する。
「エリクソン、月面のガミラス大使館に向かいます」
「よし、ヤマトはこのまま日本へ帰還する!補助エンジン、両舷全速!メインエンジン全速前進!」
「「了解!」」
そうしてヤマトは一路、朝の訪れた南極海の空から東京へ進路を取る。
数十隻に及ぶ新造艦の艦隊を引き連れて……。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
-
短い
-
普通
-
長すぎぃ……