宇宙戦艦ヤマト2202リテイク 作:MinorJunction 太華日
あと、加藤が裏切った末に死ぬ?
そんなの起きないし、起こさせないからな!!
2202年7月17日。
時間断層都市「ネオゼムリア」で改良を受けたヤマトは朝を迎えた東京の地下ドックに戻るところだった。
そのヤマトを先頭に、ドレッドノート級5隻が追随していた。
「わぁ。ヤマトだ!」
「凄い!ヤマトがまた飛んでるよ!」
地上で見ていた子供たちは大はしゃぎだ。
しかし、彼らの頭上を通過したドレッドノートは進路を横須賀に変え、ヤマトはそのまま東京湾の水面へ。
僅かな水飛沫を上げつつも、ゆっくり静かにヤマトは海へと潜っていく。
水深500mほどの海底に、東京の地下ドックはある。
この場所で、ヤマトは帰還した時に大勢の人々からの出迎えを受けた。古代がヤマトの姿を見にきたのもつい昨日のこの場所だ。
今、ドックの中は海水で満たされており、ドック内にヤマトが停泊位置に着く様子を管制室から雪や相原たち、それに一足早くメガロポリスに戻ってきた藤堂らが眺めていた。
「ガントリーロック、オン。停泊位置に」
今ヤマトの艦橋にいるのは、古代と真田を除いて女性クルーばかりだ。
操舵席に座っているのは、緑掛かった長い黒髪を靡かせている雛菊茘子。
機関席には技術科の制服を着た天戸莉奈がエンジン計器をモニターしている。
レーダー席にはピンク色の制服を着た三田夏海。観測席には新見が。
通信士の席には灰色の制服を着た三田春名がおり、砲雷長の席には機関科のオレンジ色の制服を着た三田冬子がとりあえず座っていた。
ドック内では折り畳み式の簡易通路が展開し、ヤマト側面のドッキングポートに接続される。排水は終わってないが、簡易通路の骨組みに合わせてエネルギーの壁が展開し、海水で満たされていた通路内が一気に乾く。
その通路を渡ってヤマトから真田、古代、山崎、新見が管制室下階の待機室へと足を運んできた。
すると、長官が彼らを出迎えたため、待機室に集まった元ヤマトの乗組員も古代たちも敬礼する。
「長官……わざわざ出迎えをありがとうございます」
「古代。事は急を要するからな。とりあえず、今集められるだけのヤマトの元乗組員たちを呼び集めてきたぞ」
「真田さん、山崎さん、新見さん!」
目下、注目はその三人に集まった。
何せ、地球に戻ってきてからこの三人とは音信不通だったか、もしくは接触がほぼ断絶していたからだ。
「やぁ山崎、一体お前はどこに雲隠れしておったんじゃ?」
「おやっさん、お久しぶりです」
「山崎さんにはヤマトの改良を手伝ってもらっていたんです」
真田はそう説明した。
「そう。私も手伝いました!」
そう仁王立ちして「えっへん」と言いたげな女性クルーが現れた。
百合亜がかつて着ていたのと同じオレンジ地の女性用制服を着ていた。
「えっと? 君は誰?」
当の百合亜がそう質問を投げかけると山崎が代わりに答えた。
「あぁ、紹介がまだだったな。この娘は堀田美奈子。俺の姪だ。機関士としても優秀で、ヤマトの改良では俺の助手をしてくれた」
「よろしくお願いします!」
元気良く美奈子は百合亜たちと握手した。
「古代。ヤマトを改良しに行ったって聞いたが、一体何があったんだ? こんな大掛かりなことになってるなんて」
「……まさか、例の停電と何か関係が?」
「「「え?」」」
島は真田の言ってたヤマトの改良が気になったが、何故ヤマトがこのドックから出されるほどの大掛かりな事態になっていたのか理解に苦しんだ。
すると、星名はガトランティスのカラクルム級大戦艦が地球を急襲してきた時に電力網がダウンしたことと関係があると睨んだ。周りにいた百合亜や他のクルーたちは驚きのあまり声を上げたのだが、星名は地球軍保安部で現役の捜査官でもある。
あの停電騒ぎがあった時、真っ先にガトランティスのスパイによる破壊工作を疑って捜査したものの、そのような痕跡は全く見つからなかった。
「星名」
「あ……」
長官に指摘され、「しまった」とか「口が滑った」とか言いたげな顔をした星名である。だが、そんなわざとらしい反応など、他のヤマトの乗組員のほとんど、特に百合亜からはお見通しであり、事実百合亜はちょっと怒って星名のみぞおちに軽い肘鉄を食らわせていた。
そんなやり取りをしてる内に、ヤマトからはさらに三田冬子と夏海、雛菊茘子が降りてきた。
「今集まってるのは?」
古代は今この場に集まってる元ヤマトの乗組員が具体的に何人いるのかを長官に尋ねた。すると長官は「君ら4人を除くと32人だな」と答えた。
「32人ですか……」
「今すぐ集められたのがそれだけだったというだけだ。出発まではまだあと1週間余裕を持たせている。私もなるべく全員をかき集めよう。人員の補充も任せてほしい」
考えてみれば地球に今いる元ヤマトの乗組員が32人集まっただけでも運が良かったほうだったかもしれない。それも、太田、相原、南部、雪に島に徳川。そして榎本に平田も。ヤマトの旧幹部クルーがほぼ全員ここに出揃ったのは幸運だったと言わざるを得ない。他の隊員たちは今別の場所で任務についているなどして地球から離れていたりするからだ。
「……わかりました、よろしくお願いします、長官」
古代と握手をした長官は足早に去って行った。
「あの……この人たちは?」
星名は新たに降りてきた雛菊と三田姉妹たちを不審がる。
特に雛菊茘子の顔はどこかで見た覚えがあったからだ。
「紹介が遅れました。私は雛菊。下の名前は茘子です。配属は航海科になりました」
「えーと、私は三田夏海。こちらは姉の……」
「……冬子です。色は違いますが、一応私たちは技術科に配属になりました」
「一応?」
「ワケは後で説明する」
「それと妹の春名。この娘は旅に立ち会わず、この後……」
時間断層都市。その名を出したかったが、それは機密事項だと冬子はハッと気付いて言葉に詰まる。それに気付いて、多摩が半ば強引に説明を引き継いだ。
「あー、その、春名ちゃんとうちら数人はな、あくまでも造船所からの出向みたいなもんや。役目も終わったし、はよ帰りたいとこなんやが……自己紹介だけでもさせてもらおか。うちは、多摩恵莉。ヤマトの改良に携わった技術者の一人やで。そこの眼鏡掛けた太々しい美人さんが小早川ナル」
「ふ、太々しいって何よー!?」
多摩の紹介の仕方に不満を漏らすも「美人」と言われたことは満更でもない様子のナル。
「それと……おーい、紗奈、莉奈、んなとこに隠れとんで出て来なはれやー?」
ヤマトから続く通路の先の物陰で、先ほどからチラチラと顔を覗かせている天戸姉妹。
「うーん……仕方ないなぁ、行こ、紗奈姉ぇ」
「え、でも……」
「いいからいいから」
紗奈と莉奈はブリーフケースのようなものをお互い片手に持っていたが、多摩に見つかり仕方なくヤマトクルーたちの目の前に姿を表すことにした。
莉奈に手を引かれる形で紗奈もやってきたが、そんな彼女たちの姿に百合亜を筆頭にヤマトクルーたちは騒めく。
「え、ユリーシャ!? 何でここに!?」
「側にいるのは森ちゃんのそっくりさん……?」
近寄ってくるとますます混乱が深まりそうだったが、真田が言った。
「彼女たちはユリーシャや雪じゃないぞ。紹介しよう。機関科の制服を着ているのは天戸紗奈。技術科の制服を着てるのが天戸莉奈だ」
「よろしくぅー!」
「お、お願いします……」
莉奈は快活そのものの返事をするが、紗奈はやや気不味そうに挨拶をしてきた。そんな姿を見たヤマトクルーたちの半分は、すぐに雪と紗奈がそっくりというイメージが結び付かなくなった。
そんな紗奈、今度は多摩に手を引かれる。
「というわけで、紹介も済んだことやし、ほな、うちらは家に帰るんで、さいなら〜」
後ろ手に手を振る多摩を筆頭に、ナル、莉奈、紗奈、春名の女子5人は、長官の後を追いかけるように足早にその場を去っていった。
その背中を見届けるクルーたちの内、百合亜と星名は呟くようにこんな会話をする。
「嵐みたいな娘たちだったね……」
「うん……」
古代は咳払いし、皆の注目を集める。
「みんな。集まってもらった理由なんだが、見て欲しいものがある」
そう言うと真田とアイコンタクトし、待機室のモニターを使って映像を再生した。
最初に画面に流れたのはホワイトノイズ。しかし徐々に声のようなものが聞こえてきた。
『…わたしは…テレサ…テレザートの…テレサ…見えますか? …聴こえますか? …届いてますか?』
ホワイトノイズが晴れると、そこには、緑に覆われた美しい星が映った。
その星を背景に、流れるような金髪が美しい、光り輝く薄く透明で蒼く、体のシルエットが透けて見える服を着た美女が現れた。
『私は、テレサ。テレザートのテレサ。このメッセージがヤマトとその乗組員の方々に伝わっていることを祈ります。この銀河の危機が……間近に迫っています』
その一言にヤマトのクルーたちからどよめき声が聞こえた。
映像からテレサと思わしき女性の姿とテレザート星が消えたかと思えば、
「あれはガトランティスの……」
どこかの宇宙空間を進軍するガトランティスの大艦隊が映り込む。
その大艦隊を迎え撃つのは地球の艦隊だった。
艦隊を率いる地球軍の旗艦の名前は「DIAMOND」となっていた。一見ドレッドノート級らしいが、ヤマトのクルーたちは「DIAMOND」などと言う名のドレッドノートは知らないし、見たことがない。
その「DIAMOND」という艦はガトランティスの猛攻撃の前にあっさりと撃沈され、地球艦隊の艦船も次々に撃沈されていく。
古代たちが対峙したカラクルム級の大戦艦がそれらの残骸を押し退けるか潰すかのように宇宙空間を抜けてくる。ガトランティスの進撃目標は、
「あれは……」
「地球だ……!」
この場にいる者なら見紛うはずもない。青く生命に溢れた母星だ。
しかし、ガトランティスは容赦無い総攻撃を加えた。月はガトランティスの砲火を浴びて燃える天体と化し、続いて地球のありとあらゆる場所を破壊し、ついには地球を粉々にしてしまった。
『数多の船が泣き叫びながら燃え、数多の人命が嘆きと共に塵と消え…………これがあなたたちが知っている星に訪れるかもしれない未来なのです』
その言葉に再び動揺が広がった。
『私はあくまで未来を観測する力しかなく、このような未来を独力で防ぐことができません……しかし、希望はまだ潰えていません。ヤマトをこのテレザートに連れてきてください』
地獄絵図が薄れるように消えていき、再び美しいテレザートとテレサの姿が映る。
『未来の行く末を変える分岐点にこの銀河、いいえ、この宇宙は立たされています。その終末を変える術を、私は知っています。世界を、星々を、銀河を、宇宙を救うための……』
しかし、テレザートが徐々に遠ざかるにつれて、テレザートが属すると思われる星系全体が映し出され、そこからまるでバリアのような光の壁のようなものを越えると、そのテレザートがある星系は繭のようなもので覆われている姿が映る。
細かい残骸や小惑星、それらの中に浮かぶガトランティスの艦隊。
そこに何と、
「え……?」
「あれって……!」
『その為には、ヤマトが必要なのです。「私」を幾度と救ってくれた船。大いなる和をもたらす船。結末を転換し、新たな道をもたらす船。この銀河を救うためにヤマトのテレザートに来訪を求めます。ヤマトに我が光の灯火を託し、この危機から私を、そしてこの銀河を救って欲しいのです』
クルーたちが信じられないと言いたげな顔をしたのは無理もない。
それは、テレザート星系の前に立ち塞がるガトランティス艦隊に対してヤマトが突進していく姿が写っていた。そのヤマトは黄色く光を帯びている。
『私は未来を見通す者。あなた方を待つ者。あなた方を求める者。あなた方に託す者。そして、宇宙を正しき方向へ導く者を手助けするのが私の役目なのです』
そこで映像は終わった。
それらを全て見たヤマトのクルーたちには様々な疑問が浮かび、口々に戸惑いの声が聞こえてくる。
「……この映像は昨日、地球に届いたものだ。一部情報の欠落はあるが、送信元までの大体の距離が判明している。地球を中心にした銀経で言えば約283度、銀緯-30.5度方向、距離にして約7万光年先からだった」
「その座標って……」
「気付いてる人もいるだろうが、発信場所として推定されるのは、射手座矮小楕円銀河の中からだ」
「もっと正確な位置を言えば、ザルツ星系から直線距離にして2万5000光年」
新見がそう補足した。
「どうしてそこまでわかるんですか……?」
そんな質問を漏らしたのは南部だったが、
「それはガミラスが知ってるからだ」
真田はそう答えた。古代が続けて言う。
「ガミラスはこのテレザートという星を征服しようとしたが、失敗したらしい。しかも、テレザートに向かった艦隊は一隻も戻ってこなかったそうだ」
その言葉に再びざわめきは広がるものの、
「「静かに!」」
徳川と佐渡が同時に声を上げて、再び静まり返る。
「君たちもあれを見ただろう?」
「あれが将来起きるということですか?」
「正確には起きるかもしれないことだ。テレサという存在はそれを警告している」
「……だが、それをまだ俺たちは防げる」
真田と相原の問答に、古代は一言添えた。
「ガトランティスの力は底知れない。それが地球とガミラスだけでなく、このままだと、この銀河全ての生命を巻き込んだ恐ろしい災厄が降りかかる。でも、まだそれは起きていない。それを防ぐために俺たちはテレザートに行き、真相と防ぐ手立てを持ち帰らなければならない」
古代はそう言ってから一旦深く息を吸って吐いてから、皆に問い掛けるように述べた。
「……これから俺たちが臨むのは紛れもなく危険な航海になる。地球にいる家族のことが心配な者もいるだろうし、今の仕事が充実している者もいるだろう。仮にここで降りたとしても責めはしない。出発まであと1週間ある。よく考えてから戻ってきてほしい。……以上。解散だ」
そうして、待機室に集まっていたクルーたちは……いや、今の段階では誰も部屋を出て行かなかった。
「どうした、解散だ」
「古代さん、真田さん!」
「水臭いこと言わんでください!」
「そうですよ。どんなに危険なことが待ち受けているとしても、それが地球を救うことになるなら!」
「ましてや、俺たちはヤマトに乗ってイスカンダルへ行って帰ってきたんですよ!?」
「そうだそうだ!片道16万8千光年なんかに比べりゃこんなの旅行みたいなもんじゃないですか!」
「やりますよ。イスカンダルへの旅も乗り越えて今ここにいる僕たちなら、きっとあの星へも行ける」
「……うん。古代さん。私も星名も、この旅についていきます!」
相原、榎本、西条未来、南部、太田、星名、そして百合亜。主なヤマトの元乗組員たちは迷いなくそう決断した。
雪はその様子を一歩離れた場所で微笑んで見ていた。
しかし、島は一瞬迷った末に待機室を出て行ってしまったのを古代は見てしまった。
徳川はといえば、腕を組んで何か考えていたが、
「……古代。榎本くんの言った通りだ、水臭いぞ」
「徳川さん……」
「わしを差し置いてエンジンを色々いじったんじゃろ? だが、わしはこの船のエンジンをよく知っとるんじゃよ。ならば、わしが面倒を見んで誰が見る?」
「お、おやっさん、それなら俺が……」
「バカもん! お前もお前じゃよ、わしに隠れてそんな面白いことして黙ってたなど!」
「いや、あの……おやっさん?が地球にいなくて、真田さんがあまりにも急いでたから、たまたま地球にいた伯父様に頼んだだけなんですけども?」
徳川を何と呼ぶべきか悩んだらしい美奈子がそう言うと、
「は? そうなのか?」
「えぇ、その……そうです」
美奈子から真相を語られて、仲間外れにされたと憤りすら覚えていた徳川は途端、頭を冷やし、山崎に尋ねたら、少ししどろもどろといった様子だが、山崎は肯定した。
「……はははははっ、いやぁ、すまんな山崎」
「いえいえ……俺もおやっさんを呼びたかったんですけども」
「つまり、全部真田さんが悪い! ってことで」
「いや、あの、堀田くん?」
会話が弾み、責任を全部被らされた真田が珍しく戸惑いの声を漏らしてるそんな最中、古代は雪を待機室の外に連れ出した。
「ちょっと、古代くん? どうしたの?」
古代は雪の手を握り、待機室からやや離れた廊下の曲がり角の先にある部屋に入った。
ここなら誰も来ないだろう。
「こ、古代くん? どうしてこんなところに……?」
「……雪。どうしても君に言いたいことがあるんだ」
そう言われて雪は顔を赤らめた。
しかし、古代は悲痛な面持ちでこう告白した。
「……雪。君は地球に残って欲しい」
熱っていた顔が一瞬で冷え込むような感覚に雪は襲われた。
古代に今言われたことに対して頭と考えが追いつかない。
体感時間では何分にも感じたが、雪が次の一言を捻り出したのは実際には古代がそんなことを言ってから5秒か10秒といったところだった。
「古代くん……どうして?」
そんな短い雪からの問いかけには、主に負の様々な感情が入り混じっていた。
失望、少しの怒り、「何故置いてくの?」「置き去りにしないで」と出そうになる口元。「何故?」と理解できなくなる困惑と混乱。
そして、大半を占めてるのは悲しみの気持ちだった。それらの感情がどす黒いオーラのようなものを一瞬にして生み出した。
しかし古代は雪の問いかけにストレートに答えた。
「君がイスカンダルの帰路で死にかけたからだよ!」
「え……?」
その言葉でこれまた一瞬にして、どす黒いオーラは吹き飛ぶ。
「君だって覚えているだろ……」
そうしてフラッシュバックする光景。
イスカンダルからの帰路、ヤマトはデスラーの追撃を受けた。
艦内にガミロイド兵とガミラス兵が乗り込んできて白兵戦になった。
雪は撃たれて生死の境を彷徨った。
「あんな思いは二度としたくない……」
それこそが古代の本音だった。
「今回の旅、下手すればイスカンダルへ行って戻ってくるよりも危険な旅になるかもしれない……だから……」
「古代くん」
雪はそれだけ言って古代を抱きしめた。
暫く抱きしめた後、雪は古代に耳元で囁くように言った。
「宇宙に出る以上は絶対に安全な旅なんてない。それはイスカンダルへ行く時でも、今からテレザートへ行く旅でも全く同じ。でしょ?」
「でも……」
「それに、そんなこと言って自分だけ生きて帰ってこなかったら、地球にいる私はどうすればいいの? 私だけ地球に残れなんて不公平じゃないかしら?」
「……ごめん……確かにそうだったね……」
「島くん」
その名前が出てきた時、古代は明らかに動揺した。
しかし、何も言わずに雪を抱き返した。すると雪が言った。
「……私も見てたわ。島くんが待機室を出ていく姿を。だからでしょ?」
「……」
古代は何も答えない。
途端、雪は古代に抱きつくのをやめて、代わりに両肩に手を置いて彼の顔を見るなり、こう言い放った。
「……図星ね?」
古代の顔が悲痛さを醸し出していた一方で目が泳いでいた。
古代は再び雪を抱く。
「……あいつのように、地球に残りたい奴はまだまだいるかもしれない」
「そう? 私はあいにくついて行くけどね。それに、星名くんと百合亜ちゃん。あの二人だって、イスカンダルの旅では危うく死別するところだったと聞いたわ。それでも今回の旅に志願した。私にも志願させてよ、艦長」
「……」
そんな弱気とも思える古代の頬に、雪がキスをした。
雪の決意は硬いようだった。古代はその場では無言になってしまったが、寄り添ってくれる雪の温もりを感じて、覚悟を決める。
「……そうだね」
そう言い彼は雪とキスをした……。
天の川銀河外縁から9万7000光年の某所。
時間にしてガトランティス暦100万1547年、ズォーダー暦1258年251日(地球歴に換算すると、2202年7月19日)。
アンドロメダ銀河系から天の川銀河系方面へと宇宙空間を進む、巨大な白色彗星があった。
だが、それは人工の産物。その正体はガトランティス帝国の帝都ゴレムである。
帝都ゴレムの大帝の玉座の間。
ガトランティス帝国軍の天の川銀河攻略艦隊からの報告が軍議の最中に齎された。
「……なるほど。地球といったか。敵の母星は」
「ははっ……作戦は失敗しました……」
「何と……どうして失敗したのだ!?」
大帝の目の前で天の川銀河系方面侵攻作戦の指揮官であるティエラン・バルゼーは深く平伏して謝罪する。慌ててやってきたらしく、呼吸も荒かった。
総参謀長兼艦隊総司令であるゴーガン・ゲーニッツはその知らせに驚くと同時に作戦を失敗したバルゼーを半ば責め立てるような声を上げた。しかし、大帝はその「凶報」を気にする素振りは見せず、むしろ労うように、同時に威厳を滲ませる声でこう言い、バルゼーを許した。
「よいのだバルゼー」
「し、しかし……」
続けてズォーダー五世は意地悪そうにこう言った。
「あのガミラスと肩を並べていると評判の地球がそうあっさり滅びてはつまらんよ。故に賭けはデスラーの勝ちだな?」
「……やはりですね、大帝陛下」
玉座の間の端で跪いたままの青い肌の男を大帝は呼んだ。その男はかつてヤマトと対峙したガミラスの元総統アベルト・デスラーだった。
そんなデスラーの名が呼ばれたことにゲーニッツは嫌そうな顔をする。
二年前。
デスラーはヤマトとの戦いに敗北して大破した船とともに亜空間通路を彷徨っていた。
偶然にも弾き出された先にいたのはガトランティスの艦。
ズォーダーの息子メーゼライテオが副長を務めていたナスカ級軽空母「バランタヌクス」は、デスラーの乗艦に搭載された兵器に興味を持ち、乗員ごと鹵獲を試みた。
しかし、デスラーは生きていた。
彼は自分の船を持ち去ろうとするガトランティス兵たちに対して死に体を引き摺ってまで一人でも抵抗した。最後にはメーゼライテオに撃たれて一度は死ぬ。
しかし、彼は息絶える前に言葉を発した。
「ヤマトを……ヤマトを討つまでは……」
彼は、自分の手でヤマトを沈めるまでは死ぬ気はなかったらしい。
メーゼライテオも、「ヤマト」という艦の名前に聞き覚えがあった。
それは、ゴラン・ダガームを破った地球人という種族の作った艦であり、父であるズォーダーもヤマトに興味を抱いていた。
それに、デスラーは命乞いをするよりも自らのプライドのために自分たちに歯向かい、最後には宿敵への執念を口にして息絶えていた。
その執念に敬服したメーゼライテオは、思い切ったことをした。
「……父上。どうかあの武人にもう一度立つ力を与えてやってくれませぬか?」
メーゼライテオは玉座の間に大急ぎで駆けて現れたかと思うと、父であるズォーダー五世の前に跪いて単刀直入にそう願い出たという。
「……全く、其方は困った息子よのう」
そう言いつつ、ズォーダー五世はメーゼライテオの懇願を聞き入れた。
それどころか、デスラーの部下たちも出来る限り全員蘇生するように指示を飛ばした。
寛大すぎる大盤振る舞いと言えた。
「今回の賭け。ゲーニッツは大きく出たようだが、ちゃんと履行するのであろうな?」
デスラーとの競り合いに負けた。それだけでもゲーニッツのプライドにヒビを入れるには充分だったかもしれないが、ズォーダー五世に問われたことが追い討ちになり、
「……もちろんでございます。我が女神ザーベリア様と大帝陛下に誓い、嘘偽りは一切ありませぬ」
渋々、ゲーニッツはデスラーとの「約束」を履行することをこの場で宣言してしまった。でないと自分の首が物理的に飛びかねないからだ。
「というわけだ、デスラーよ。其方の部下たちはこの瞬間を以って自由としよう。また、其方が熱望していた新しい艦もくれてやる。ここからは其方の好きに動くといい」
「ありがたき幸せ……!」
デスラーは自分を助けてくれたメーゼライテオと、そんな彼の懇願を聞き入れてくれたズォーダー五世に礼を尽くしていた。その姿は、色眼鏡で見ているゲーニッツとバルゼーを除けば、彼の本心からのものであることを印象付けていた。
「……では、今日の本題でございます」
司会進行みたいな役目を負ったのは、この都市帝国の執政官であるラーゼラーだった。
ラーゼラーが「今日の本題」として提示したのは、ある種の星図だった。
「さて、ラーゼラー。今日の本題というのは二つある。一つはこれ。テレザートのことについてだな?」
「その通りでございます、大帝陛下」
それを聞いてデスラーは少し驚いた顔をする。
「デスラー、如何した?」
「い、いえ、まさかテレザートを攻略なされたのですか?」
「ゲーニッツはやろうとしたのだが……結果はご覧の有様だ」
ズォーダーがラーゼラーと目配せしてデスラーにある映像を見せた。
背景には巨大な白いモヤのような星雲が見え、真空の宇宙には、ガミラスの艦船の残骸と少数のガトランティス艦の残骸が混ざって宙を漂っていた。
だが、モヤの先を見ると、そこに突っ込んでしまったらしいガミラスの艦船だけでなく、損傷して動けなくなったガトランティス艦がみるみる朽ち果てていく。その光景は、まるで金属が錆で腐食していく様子をハイスピードカメラで見ているかのようだ。真空の宇宙では酸化現象は起きないはずなのに。
「サルガッソーだといったな其方は」
「……左様です。その地帯へ不用意に突っ込んでしまった艦はあの通り。宇宙の墓場の仲間入りとなるだけです」
「……」
「それで、ゲーニッツ。テレザート攻略に向かった艦隊の規模と損害は?」
「……約1000隻を送り込みました。既存のククルカン級やラスコー級を主力とし、中核には陛下のご要望通り、ゴーランド・ゴストーキア提督率いる第9特殊戦隊を置き、艦隊指揮を任せました」
「それで戦果は?」
「……テレザート星系外縁部を固めていたガミラスの青虫どもは、ゴストーキアの手腕により、わずか半日で壊滅したしました」
「上々であるな。して、損害は?」
「……配下にいた91隻が大破、もしくは航行不能になる損傷を負い、一部は戦闘中に漂流して、サルガッソーの中へ入ってしまいました。ゴーランド……ゴストーキア提督は進撃を一旦中止。陛下の一命を待ってる状態だそうです」
戦果報告といい損害報告といい、どちらの歯切れもゲーニッツは悪かった。
「そうか」
「ま、誠に僭越ながら、もしよろしければ、ゴーランドに回廊を通らせてテレザート星系内部を制圧させましょうか?」
ゲーニッツが映像を切り替えて見せたのは、まるで台風とその目のような円盤状の何か。
しかし、背景には宇宙の星々が見え、その近辺にはまるで浮くようにゴーランド率いるゴストーク級を始めとしたガトランティスの艦隊が待機していた。
だが、ズォーダーは広げた片手をゲーニッツに向けて、「いや、今は待機させろ」と、ゴーランド艦隊によるテレザートへの進軍を一旦中止させた。ゲーニッツは再度確認するかのように問う。
「よろしいのですか? テレザートは我々にとって異教徒の総本山。ここを制圧すれば、ザルツだけでなくテレザートを崇める全ての種族の士気を挫くことになるはずです」
「……浅はかな」
「何だと!?」
デスラーの呟きのような小声をゲーニッツは聞き逃さず、不快感を露わにしながらデスラーを睨みつけた。それを見てズォーダーは身振り手振りでゲーニッツに「抑えろ」もしくは「待った」を掛けるジェスチャーをした。その上で、
「デスラー。何故そう思う?」
「……聞こえてしまいましたか」
デスラーはそう呟いてから、ズォーダーからの問い掛けに答えた。
「我々ガミラスはテレザートの攻略に過去数回失敗しています。それもこれも、『
「はっ、テレサの力だと!? そんな魔法みたいな怪しげな力にデスラーもガミラスも臆したというのか!」
「『テレサの力』、それは実在するものですぞ総参謀長殿」
そうして会議の場に現れたのは、サングラスのような目隠しのようなものを付けた初老の男。彼に連れられた、長い白髪をした女性の姿もあった。
「おぉガイレーン、戻ったか」
「はい、大帝陛下。命じられた任をひと段落しましたところ、テレザート攻略に関する会議が行なわれていると聞き、慌てて馳せ参じたことをお許しください」
「許そう。して、収穫はあったのだな?」
「ははっ。陛下に命じられていた惑星テレザート、及び惑星アゼルメニアに関する事前調査、また、それらに関係する『バレル旅行記』の内容の精査を完了いたしました」
気になる単語が出てきたため、ゲーニッツはズォーダーに設問の許可を求めた。
「大帝陛下、ガイレーンに設問を許可していただけませぬか?」
「許す、ただし一つだけだ」
「畏まりました。それでガイレーン、その『バレル旅行記』とは何なのだ?」
「惑星ガミラスの伝説の探検一家としてその名を轟かせていたバレル家による宇宙探査の冒険譚が記された書物です」
「……何故ガミラスの探検家ごときの日記がガイレーン情報局長の元などにあるので?」
「それは当然、我々の新天地たる銀河についての情報が事細かに書き込まれているからです。一部は数百年前の情報ではありますが、何もない状態よりは今の天の川銀河系の状態を推測しやすくなる。でしょう? 総参謀長殿」
「むぅ……」
「興味がお有りでしたら、そのデータファイルは私がお預かりしています」
「この探検家の日記が案外馬鹿にできない代物でな……ガイレーンにはここ数ヶ月に渡ってそれらの精査と現状の天の川銀河とを比較分析させておったのだ。それで? 収穫か進言が無ければ其方もわざわざ此処までは来るまい。何かわかったのだな?」
「ははっ、大帝陛下。二件ほどでございます。今の議題は、テレザートのことについて、ですな?」
そう問われてズォーダーは頷いた。
「では、これは私からの進言であります。テレザートの征服はお勧めできません」
「な、何だと!?」
「ゲーニッツ、下がるのだ」
「ですが……」
「ガイレーン、理由を述べよ」
「ははっ。……あれを」
ガイレーンが自分の傍に控えていた女性にそう言うと、女性は立ち上がって、ラーゼラーに映像ファイルの入った記憶媒体を手渡した。
「どういうつもりだ、ガイレーン?」
「見せたほうが早いかと思いまして。デスラー総統。可能ならばこれから見せる映像に関して解説を頂けますかな?」
「それは何とも言えませんな……内容を知らないものでして」
「あなたも見ればすぐにわかる代物です。ラーゼラー執政官殿、それを再生していただきたい」
「は、はい、ガイレーン様」
そうしてラーゼラーが会議の場に置かれたコンソールに記録媒体を差し込むと、映像が再生された。
「これは今からおよそ50年前。テレザート攻略に向かったガミラス艦隊の末路です」
流れている映像は所々
「あぁ、これか……」
デスラーは苦い顔をして、そう呟いた。
黄色いモヤに覆われた艦隊、その後の数時間の様子を早回しで再生させると、最初は理路整然としていた艦隊が、次第に各艦がおかしな動きを始めた。
ある艦からは火花が散ったかと思えば突然に爆発炎上して轟沈し、別の艦はミサイルや主砲を乱射して周りの味方艦を次々に破壊、またある艦は別の艦に猛スピードで衝突。また他の艦では船中の緊急ハッチが突然に開いて、クルーたちが宇宙空間に次々と放り出されている姿まであった。
それらの様子は一旦大規模な砂嵐のノイズで掻き消され、事態発生から数時間後か数日後かはわからないが、次に映った映像ではガミラス艦の残骸が無数に漂っていた。艦隊が全滅していたのだ。中には、宇宙空間に投げ出されたガミラス人クルーの遺体まで混ざっている。
「こ、これは……一体何があったというのだ……!?」
「惨い……」
最初はデスラーが臆病風に吹かれたと揶揄し、テレザート攻略の中止を進言してきたガイレーンに威嚇していたゲーニッツも、彼の側近であるバルゼーも、あまりの有様に顔色を悪くして絶句していた。
「この現象の犯人をご存知ですかな? デスラー総統」
「我々はこれを『宇宙ボタル』と呼んでいます」
「宇宙ボタルだと……?」
「テレザートが存在する射手座矮小楕円銀河の中にこれらがトラップのように存在します」
「その正体は一体何だというのだ?」
「断定はできませんが……我々の科学者は『ナノマシン』だと推測しています」
デスラーはあるものを画面に映した。それは、黄色くて、足が10本生えた機械のようなもの。
「これか? これがそのナノマシンだと……!?」
「あくまでも一例です。実際のサイズは、これぐらいになります」
黄色い10本足の機械は、画面上でだんだん小さくなっていき、肉眼では見えないほどの大きさになっていく。
「これがガミラス艦隊の各艦に浸透し、クルーたちをおかしくさせ、あのような破滅を招いた元凶です」
ゲーニッツは食い入るようにこのナノマシンを見て、流石にその危険性を理解した様子だったが、根本的な疑問を突いた。
「……これがテレザートとどう関係する?」
「次に見せる映像はもっと衝撃的です」
ガイレーンがラーゼラーに合図して流させた次の映像では、ゴーランド艦隊がテレザート星系の外縁部を確保した時の映像と同様の、台風のような姿をした円盤状の巨大物体が映り、その中心と思われる台風の目のような場所。ゲーニッツがこれを「テレザートへの回廊」と呼んでいたが、そこを進撃しようとしたガミラス艦隊は、先頭を率いていた旗艦を含む主力艦隊が引き返せないほどの中腹に差し掛かった辺りで、突然に回廊が崩壊して閉じ、ほぼ全てのガミラス艦がサルガッソーの中に放り込まれてしまった。
推力を失った艦船が外縁部に引っかかった時の様子がゴーランド艦隊の時は記録されていたが、この映像では、突然に崩壊した回廊からサルガッソーのほぼど真ん中に入ってしまったガミラスの艦隊は、先ほどとは比べ物にならないほどに船体の外部から急激に腐食が始まった。
映像の一部は艦内を映し出したが、ガミラスのクルーたちはみるみると老化して、何があったか分からない内にあっという間に骨と皮だけになって衰弱死してしまった。
運良くゲルバデス級一隻だけがサルガッソーから抜けることこそできた。その目と鼻の先には美しい緑の惑星があったのだが、そこから黄色いモヤ……先ほどの映像でガミラス艦隊を同士討ちさせ壊滅させたのと同じものが、降りかかった。
そして、そのゲルバデス級は誰かがこじ開けたと思われる別の穴から、突入しなかったガミラス艦隊の前へと放り出された。その穴からゲルバデス級を襲った黄色いモヤがガミラス艦隊に襲いかかった。
映像は艦隊が急速回頭を行なってブロックノイズだらけになり、ワープに入った辺りで途絶えた。
それらの映像を見て、バルゼーとゲーニッツとラーゼラーたち、大の大人が揃って気分が悪くなってしまった。
ガイレーンと側近の女性は顔色一つ変えなかったが、デスラーとズォーダーはその衝撃的な映像を目にして何とか堪えているような様子だった。
「……ここまで分かってしまうと致し方ない。ゲーニッツ」
「……ははっ」
「ゴストーキア提督に命じろ。【テレザートは攻略せず、第9特殊戦隊が星系外縁部を守るだけで良い】とな。残りの艦隊は前線に送るのだ」
「か、畏まりました。バルゼー、行け」
「ははっ……」
ゲーニッツに名を呼ばれ、バルゼーは会議の場で跪いていたのを立ち上がって、すぐにゴーランド・ゴストーキア提督への命令に向かった。
「テレザートのことは仕方ない、攻略を諦めるとしよう。それでガイレーン、アゼルメニアのことも調べてきたな?」
「ははっ」
それを聞いてゲーニッツには血色が戻るのだが……この後、彼にさらなる屈辱が降りかかる。それを語るのはまた別の時としよう。
2202年7月21日。
再整備と改修を終えたヤマトが出航するまで残り三日。
そんなことは露知らず、月では地球連邦防衛軍の最新鋭戦闘機コスモタイガーと、機首が青で機体が黒塗りのコスモゼロ二機が訓練飛行中だった。
なお、コスモタイガーは単座型が「1型」、銃座を搭載した複座型が「2型」と呼ばれている。この訓練に使われている機体は1型だった。
『あーもう、ダメダメダメ!』
『こんなんじゃ敵機を迎撃する前にやられるだけだ』
女性と男性の声がコックピット内で響く。
溜め息を吐く聞き手の男性パイロットは、
「はぁ〜……管制室。訓練を終了していいか?」
『訓練終了を了解。帰還してください』
「聞いたな?家に帰るぞ」
パイロットたちは疲れた声で各々それに応じた。
地球連邦月面コロニー「コペルニクス」。
コペルニクスクレーターに築かれた圧力ドームの中には2000人が暮らしている。
そのコロニーと併設されているのが、防衛軍の月面基地。
月には重力が弱いとはいえトラクタービーム付きの滑走路が備えられており、そこに黒塗りのコスモゼロが降りた後、パイロットたちの操縦するコスモタイガーが次々に降りてくる。
パイロットたちは滑走路上で充分に機体を減速させるとそのまま誘導路を抜けて、格納庫兼駐機場へと機首を向けた。
格納庫のシャッターが開く。今、格納庫内は与圧されているが、外界と基地内を隔てるのはフォースフィールドだけ。
与圧された格納庫にコスモゼロとコスモタイガーが並ぶが、コスモゼロにはパイロットが乗っていない。
「はぁ〜……全く、司令部もとんでもない無茶をさせてくれる」
コスモタイガーの一機から降りてきた篠原はヘルメットを脱ぐと開口一番に疲れた声で愚痴を零した。
「パイロットの動きをAIに学習させる、だなんて……」
「無茶を言う。AIに人間と同じ思考ができるのか、って話ですよね!」
新人の鶴見と、ヤマトで経験を積んだ沢村も口々にこのプロジェクトに難色を示していた。鶴見と同じく新人で女性パイロットの
イプシロン・エリダニ8号星の戦いにも空母と航空隊が参戦していたものの、パイロットの育成に時間が掛かる上に数も揃えなければならない。その解決法として防衛軍は限定思考型のAIを導入し、つまりは無人戦闘機を開発・配備した。
しかし、これまでの無人戦闘機は母艦からの遠隔操作に頼る部分が大きく、電波が遮断、もしくは混線するような星間環境では使えなかった。例えば星雲や中性子星付近、宇宙放射線の濃度が濃い場所など。
また、遠隔操作なので動きにタイムラグもあり、ガトランティス機を相手にするとたった1機を相手に10機で掛かれば、4、5機が未帰還になる損耗率の酷さだった。こればかりは人が乗っていないことが救いだったが、このままでは効率が悪いことは明らかだった。
そこで防衛軍は学習型AIをこの「ブラックバード」と呼ばれるコスモゼロに搭載し、新人・中堅・ベテラン、それぞれ二人ずつのペアでブラックバードにドッグファイトを行なわせて、宇宙での戦闘機動を学習させようと試みていた。
まずベテランがブラックバードとドッグファイト、中堅、新人がそれに続いて同じことをしていたのだが……。
「まさか、僕でも簡単に撃墜出来ちゃうなんて……」
「山本に「死ぬぞ鶴見!」って怒られていたのになぁ」
「実際、鶴見はまだまだでしょ?」
四人が話していたら、ベテランの二人もコスモタイガーから降りて来た。
赤い瞳と美しい銀髪の女性パイロット、山本 玲と、丸刈りでいかにもベテランの鬼教官といった風貌の男性パイロット、加藤三郎である。
山本は、鶴見は戦闘機パイロットとしてはまだまだ未熟であるというが、鶴見は「い、いや、その、それだけブラックバードをあまりにも簡単に撃墜できてしまったことが問題だと思います」と言った。それに対しては山本も加藤も同意せざるを得なかった。
「……俺たちの戦い方、本当にこいつらは学んでいるのか?」
ベテランである二人がブラックバードに先にドッグファイトを仕掛けていたのは、自分たちの動きをAIに覚えさせるためだった。それで二波目の中堅組(篠原と沢村)と、三波目の新人組(鶴見と大淀舞香)をブラックバードが「撃墜」できればOK。しかし、今日はそれを10回は繰り返していたのに、ブラックバードは彼らの機体を追尾することは出来ても、一度振り切れば全く追って来ようとしない。すぐに別の目標を追尾し始めるが、そこをパイロットたちが「撃墜判定」するということを何度繰り返したことか……
「AIに《根性》っていうソフトウェアは無いもんか……」
沢村のその一言の通り、それが人間とAIの超えられない壁なのだろうか。
成果が出ないことに暗澹たる気持ちになる六人だったが……。
『アルファ中隊、基地司令官室へ。繰り返します。アルファ中隊全員に告ぐ、基地司令官室へ集合してください』
そこで基地アナウンスの呼び出しだ。
アルファ中隊は言うまでもなく加藤が指揮する航空隊である。
なお、山本はベータ中隊の隊長であり、鶴見、大淀が所属している。
いよいよ進展なきプロジェクトにお叱りが飛ぶか。陰鬱な気分の加藤と篠原、沢村たちを筆頭としたアルファ中隊の隊員たちは格納庫を後にした。
コペルニクスコロニーのとある家庭では、母親が幼い子供たちに絵本を読み聞かせていた。
彼女の名前は加藤真琴。元ヤマトの看護長であり、旧姓は「原田」。
真琴は安らかな寝顔を浮かべる2歳の男の子と、まだ生まれたばかりの女の子に微笑んだが、もう午後10時だ。夫の帰りが遅いなぁと考えていたところで、「ただいま」という声がした。
慌てて真琴は「静かに」とジェスチャーをして、夫・三郎を注意した。
三郎は「……今、ようやく寝た所か?」と真琴に小声で尋ね、真琴は「うんうん」と頷いた。
「そうか……」
「夕飯、食べる?」
「うん、頼む。ありがとう」
夫の帰りが遅く、夕飯は冷めてしまっていたが、それを高分子電子レンジで一瞬にしてチンして持ってきた真琴。萎びたフライドポテトだろうとこれを使えば出来立てのカラッと上げたおいしいフライドポテトに戻せる優れものだ。
そのフライドポテトに塩を振って、サラダや肉じゃが、茶碗一杯のご飯と一緒に加藤の目の前のテーブルに並んだ。
「「いただきます」」
真琴も一緒に食べる。夫・三郎の帰りが遅くなろうとも食べる元気が残っていれば一緒に食べる。それが二人の習慣だった。
「……何かあったの?」
料理を半分ほど平らげた辺りで、疲れた顔をした三郎に真琴は問いかけた。
「……なんでわかったんだ?」
「サブちゃん、顔に出やすいもん。それに最近ではブラックバードだっけ? AIが言うこと聞かないー!っていつも嘆いてるのに、今日は静かだし」
「俺、いつもそんなこと言ってたか……?」
「そうだよー」
「……そっか」
多分そうなのだ。
三郎にとって不思議なのは、真琴を前にすると、自然に全てを話してしまう。
お酒が入った勢いになることもしばしばあるのだが。
真琴は三郎の愚痴に相槌を打ちながら一生懸命聴いてくれる。
逆に真琴が悩んでいたら、三郎が真琴の愚痴を黙って聴く。
なお、少々不躾なことに言及させていただくが、真琴が「二人目(の子供)を作りたい」と言い出した時など、二人とも深酒して、翌日起きたらベットの上だったという。それで生まれた女児が「ツバメ」という娘なのだが。
三郎は打ち明けた。
お酒は今日は飲んでない。
疲れを見せていても真剣な眼差しで真琴を見つめて言った。
「真琴、聞いてほしいんだ。司令官から聞いた話なんだけど……」
三郎は月面基地の司令官から、ヤマトのテレザート派遣任務のことを聞かされた。
これは極秘任務だったが、元ヤマトの乗組員やその航空隊にも知らせるべきだと月面基地の司令官は(長官の許可を得てから)三郎たちを呼び、それを知らせたという。
同様にベータ中隊にも司令官は同じ話をした。
テレザートは、言わば「バミューダトライアングル」のような、危険な領域だという話を基地司令から聞いていた。
基地司令はあくまでもこの任務は志願制だというので、残りたい者がいれば構わない。家族もいるだろうし、今回の任務は下手をすれば帰ってこれないかもしれない。ここに残っても責めはしない。そう司令官は言った。
月面基地のアルファ中隊とベータ中隊の隊員はその大半が元ヤマトの航空隊所属だっただけに、今回のテレザート行きを恐れる者はほとんどいなかった。
山本や沢村たちは二つ返事で行くことを決めたが、
「鶴見や大淀たちは行くか迷っていたよ」
「まぁそうよね。実戦経験も無ければ遠征に参加したこともない新人さんたちならビビって当たり前だと思う」
「俺たちの時はそうじゃなかっただろう?」
「ビビってる暇がなかっただけだと思う」
真琴の言う通りだ。
彼ら彼女らがヤマトに乗り込んだ時、遥か16万8千光年離れたイスカンダルまで行って帰ってくる未知の航海に挑んだ。
999名の男女、下手をすれば彼ら彼女らが地球人類最後の生き残りになりかねなかったが、イスカンダルまで辿り着いてコスモリバースシステムを持ち帰り、地球を救う過酷な旅を始めるに当たって、真琴も三郎も迷ってる暇がなかった。「自分たちがやらなければ」という使命感に満ちていたからだ。
しかし、ヤマトでイスカンダルへ行った時は迷わなかった、とポロリと口に出した三郎の心情を思い測った真琴はズバリと聴いた。
「……もしかして、サブちゃんは今回の旅に行くべきか迷ってるの?」
認めたくはなかった。少なくとも篠原や山本、沢村や鶴見たちの前では。
しかし、真琴の前では正直に、三郎は頷いた。
「何故?」
そう問いかけられて三郎は顔を上げて、こう言った。
「今の俺には家族がいる。お前と四郎とツバメが。一緒に連れていけない。むしろ……」
「私に付いてきて欲しい?」
「そうだ。ぶっちゃけるとそうだ。俺が怪我した時、君以外に包帯を巻くのを頼みたくない。でも、子供たちをここに置き去りには出来ない。あの子たちには親が必要だ。だから……」
しかし、真琴は席を立ち上がる。
そして、対面に座っていた三郎に近寄る。
「お、おい、真琴……!?」
「サブちゃん。本当は行きたいんでしょ?」
「……あぁ。本当はそうだ。でも……」
それでも迷ってる三郎に真琴は、
「必ず帰ってきて。……だから、行ってこい」
優しく彼に抱きついてそう囁いた。
そして、三郎はそれに応えるかのように、真琴の抱擁を受け止めた……。
地球のメガロポリスでは早くも2202年7月22日の朝7時を迎えていた*1。
地上のメガロポリスのビル群には朝日の光が反射し、遠くからだとまるで輝いているようにも見えた。
人々の一日の営みが始まろうとしていた時、彼らがいる場所より500m以上地下深くでは、宇宙戦艦E.F.S.ヤマトが出港準備を整えている最中だった。
排水されたドックには続々とヤマトの元乗組員たちが集まってきて、次々と第三艦橋の搭乗ハッチから乗り組んできている。
「あ、林くん!」
「大島ちゃん! 元気だったかい?」
それは同窓会のようだった。
航海科の林繁と大島夏樹のように再会を喜び合う者たちもいた。
「吉田、嘉茂」
「山崎さん」
「おやっさん。あれ、その子は?」
「堀田美奈子です、どうぞよろしくお願いします!」
「俺の姪っ子だ」
「は、はぁ」
元々の自分の持ち場に戻り制服を着たクルーたちの中には、見慣れぬ新顔を紹介されてる一幕もあった。
自分たちの元々の持ち場に戻ったり、各部のチェック、連絡網のやり取り云々でとにかく忙しく、上は第一艦橋、下は第三艦橋までクルーたちはあちこちで走り回っていた。
「艦長!」
相原がデータパッドを古代に手渡した。
「412名……か」
「えぇ。元々のクルーの41.2%が集まったという計算になるんですが……」
すると二人は雛菊茘子を見る。
いや正確には、操舵席を見た。
「……島は結局まだ来てないか」
「北野も今、ティーガーデン星系でドレッドノートに乗ってるそうですし」
「間に合わないな……ん?そういえば」
すると古代はある人物を思い出して、レーダー席に座っている百合亜にあることを尋ねる。なお、今回から百合亜は雪と同じく黄色い船務科の制服を着ていた。
「岬くん」
「はい?」
「桐生を知らないか?」
「美影ちゃんですか? さぁ……」
「さぁ、ってどういうことだ?」
「音信不通です。今頃どこにいるやら……」
「それは困ったな。うちには新見くんや佐野くんもいるが、桐生くんの離脱は結構痛いな」
会話を聞いていた真田はそう零すように言った。
「美影ちゃん、オールラウンダーみたいな人でしたからねぇ……」
ちなみにここで言う百合亜の「オールラウンダー」というのは、そもそも桐生美影は機械の修理や調整や科学分析に始まり、歴史や考古学にも精通していて、真田としても替えの利かない人材であると認識していた。『バレル宇宙旅行記』の判読に今、三田姉妹たちが全力で当たってるようだが、彼女たちの実力は未知数だ。とても今の段階では美影の穴を埋められるか判断は付かなかった。
そんな時、第一艦橋へ南部が現れた。ある人物を連れて。
「艦長」
「南部か……あれ、君は確か」
「
清掃員姿のままだが、新米はそう懇願すると、
「……これからの旅はキツいぞ? 覚悟はあるのか?」
「覚悟ならとっくに出来ています。ドックに係留されていたヤマトを見た時から。自分はこの船に乗るんだ、と……す、すみません、自分の勝手な直感でそんなことを……」
「うーん……そこまで言うなら……」
「でも、所属はどうします?」
「あぁ、ヤマト艦内の事なら清掃作業中に隅々まで見て知っています! このまま清掃員のままでも自分は一向に構いません。僕にも何かさせてください!」
「うーん……」
すると別のターボリフトから雪が出てくるなり、古代は尋ねた。
「あ、雪。船務科に空いてるポジションはあるかな?」
「さぁ……うちの場合は補充が一人か二人入っただけで済んでるし、もう埋まってるわね……あら、あなた清掃員の人?」
「あ、はい! そうです!」
「清掃作業となると甲板部かしら?」
「か、甲板部ですか?」
「わかった。榎本さんにその旨を伝えておこう」
「ありがとうございます!」
南部は砲雷長席に戻ろうとしたが、そこに座っている女性クルーの横顔を見るなり、思い出したかのように古代へ耳打ちした。
「艦長。ちょっとお話があるんですが……良いですか?」
「南部?どうした?」
「内密にです」
「……わかった」
そうして古代は艦長室に南部を連れてきた。
ここは前艦長の沖田が最期を迎えた場所故に、最初は入ることを躊躇ったのだが、艦長室前の廊下で話すよりは、艦長室の方が落ち着いて話せると考えたからだ。
「……それで、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも……新人が生意気で困ってるんですよ」
「ヤマトでイスカンダルへ行く前の俺たちみたいだな」
「いや、そういう意味での生意気とはちょっと違う感じです」
「どういうことだ?」
「うちの科に新しく桜井っていう女性クルーが配属されたのは知ってますよね?」
さっき砲雷長席に座っていた女性クルーのこと。本名は
「あぁ。試験航海の際に補充として来たあの子だな」
「そうその子。驚くほど優秀なんですけども……」
「けど?」
「あいつ……どうやら、ヤマトに不満があるみたいです」
「不満だって?」
「えぇ」
「それは聞き捨てならないな……理由は聞いたか?」
「いいえ。ストレートに聞こうにも……俺が問い詰めてしまうとパワハラっぽくなってしまうと思うんです」
「彼女の直属の上司は君じゃないか」
「それ故です。戦術科に配属されて不満ってことは、ヤマトの主砲や装備に不満があることは想像に難くないからです」
「そういえば、ヤマトの装備のほとんどは南部重工製だったな?」
「親父とは疎遠ですし、俺を無理矢理に後継ぎにさせようとする姿勢も嫌いです。しかし、うちで作って、一年間この砲塔を扱ってきただけに、俺だってプライドがあるんです」
「そのプライド故に桜井を傷付けてしまわないか、それが心配なんだな?」
「え、えぇ、その……はい」
南部は自分らしくないな、とは思いつつも、異性やら実戦経験やらプライドやら様々な問題が混ざり合ってる故にそれでデカイ顔をしているとは桜井や後輩たちに思われたくなかったからだ。
何せ、これから数ヶ月間、同じ艦で生活を共にすることを考えれば、こんな所でギスギスした関係になってしまうと士気にも影響してしまう。そこまで深く考えられるようになった辺り、南部も成長したらしい。
ただ古代にとって悩ましいのは、これは自分たちだけでは解決できない問題だと直感した事だった。
「人間関係というのは厄介だよな。士気にも影響することだし……」
少し悩んだ末、あることを思いついた古代は、艦長室のデスクに付いてる呼び出しボタンを押し、
「艦長の古代だ。森船務科長、及び岬准尉。至急艦長室へ」
しばらくして二人がやって来た。
「え?私を桜井さんと同室に?」
「嫌かな?」
「別に構わないんですけど、同室の真琴ちゃんがまだ来てないのに……」
「多分……、彼女は来られないと思う」
「雪さん?」
真琴が三郎と結婚して、息子の四郎と娘さんが生まれたというおめでたはヤマトクルーの知るところとなってる。
それ故に、あの二人がこの旅についてくる可能性はかなり低い。古代も雪もそう思っていた。今では月のコロニーで家族四人幸せに暮らしているらしい。
「というわけで、雪。岬くんと桜井准尉を同室にしてほしい。確か彼女もルームメイトがまだ決まってなかった気がするけど?」
「えぇ、それぐらいはお安い御用……だけど、ホントに桜井さんの本音を聞けると思う?」
「そこは岬くんの社交性が頼りだ。彼女が何でヤマトに不満を持ってるのか聞き出してほしい」
「えー……何気に重責じゃないですかぁ。だったら新見さんに頼んだ方が……」
「でも新見さんはカウンセラーだろ? そういった肩書きの人を避けようとする人も一定数いる。だから君に期待してるよ」
「えー……?」
百合亜は不満そうだった。
そりゃそうだ。百合亜が桜井から本音を聞き出せるか否かで士気にも影響すると聞かされたらそれは間違いなく重責というものだ。しかし、艦長命令だ。百合亜は渋々従った。
『艦長。古代艦長。いらっしゃいますか?』
「相原か。どうした?」
『あの、第一艦橋に来ていただけませんか? 艦長にお会いしたいと言って譲らないお客人が来てしまったものでして。星名保安部長も一緒にいます』
「客人に星名? ……わかったすぐ行く」
そうして四人は艦長室を出て再び第一艦橋に降りた。
何事かと思ってやって来てみればそこにいたのは、
「君は……ミスターキーマン」
星名ともう一人の保安部員に警護された形で、金髪のガミラス人の男が古代たちを待ち構えていた。
「何故君がここに?」
「命令を受けてここにいるんだ」
そう言ってクラウス・キーマンは、持ってきた電子式の命令書を古代に手渡した。
一見すると一枚の紙にガミラス語で何か書かれていたが、キーマンがその命令書に付いているボタンを押すと即座に地球の言語に翻訳された。
「これは……バレル大使からだな。【ガミラス在地球領事館職員クラウス・キーマンに対し、テレザート「遠征任務」への同行を命じる】?【そのため、地球連邦防衛軍宇宙戦艦E.F.S.ヤマトの古代艦長へ、キーマンの乗艦許可を願う】?」
こんな命令書と一緒にキーマンを寄越してくるなど只事ではない。古代はそう悟ったし、その命令書の内容を聞いていた第一艦橋にいた他のクルーたちの視線もキーマンに集中し、中には少し驚いてる表情の者もいた。
「……スパイを乗せるなんて御免被りたいところなんですが」
そう零したのは星名と共にキーマンの警護に付いている保安部員の男。見慣れない人物故に新顔だと気付いて古代は尋ねた。
「君は?」
「私は山田安彦。階級は少尉であります。こちらは長官からの命令書でございます」
「紙か……」
昨今データで命令書のやり取りなど珍しくもないのに、山田が持ってきたのは茶封筒に入った紙の命令書だ。かなり古風だが、藤堂長官らしくもあった。封書を開けると、筆で書かれたらしき一枚の手紙が入っていた。
「えぇと……【地球連邦防衛軍公安省極東局所属捜査官・山田安彦少尉を本日2202年7月21日付けでヤマトの保安部に配属とする。なお、現保安部長の星名 透少尉を中尉に昇格させるものとする】?」
思わず古代は口から溜め息を漏らしながら、
「はぁ〜……わかった。両方とも受理する」
「え、艦長?」
「拒否するわけにもいかないだろう。片方は長官直々の命令書……それも封書の捺印や中身の命令書の字は明らかに長官のものだ。もう片方はガミラス大使直々の要請だ。拒否したら外交問題になるかもしれない。雪……いや、森船務長。彼らに部屋を用意してやってくれ」
「あ、はい。艦長」
そうして雪はキーマン、星名、山田を伴って居住区へと降りて行く。第一艦橋は静まり返っていた。
南部と百合亜は古代と共に雪が降りていったターボリフトをじっと見つめたまま。
南部は古代にこう零した。
「ガミラスと公安局からスパイと監視役。こりゃ、イスカンダルの旅の時みたいに拗れてしまいそうですね……」
「だな……」
そこで古代は他のクルーたちの視線も、彼らが降りて行ったターボリフトに向けられていたことに暫くして気付くや否や、
「コラッ! みんな何ボーッとしてるんだ! 持ち場に戻れ!」
そう大声で喝を入れると、それぞれの仕事に戻っていった。
しかし、古代はもう片方のターボリフトに向かっていくので百合亜は行き先を尋ねた。
「艦長、どこへ?」
「医務室だ。頭痛がしてきた」
この後、頭痛薬を処方されてから持ち場に戻ってきた古代であるが、まだ朝8時にもなっていないというのに、いきなり忙しいこと、心にストレスが掛かりそうなことが立て続けに起こったために少し気疲れした。
同じ頃。島大介は臨時休暇を貰って実家にいたが、テレザート行きを悩んでいた。
部屋の壁には「大吾丸」と名前が描かれた輸送船を背景に、大介と次郎と母の沙織が一緒に写った写真が飾られていた。
「兄ちゃん?」
「次郎か……どうした?」
大介は次郎にテレザートへの極秘任務を受けたことは話していない。志願者だけで行くとは言っていたが、それにはクルーを集めないといけない。
自分でなくとも恐らくヤマトは飛ばせるだろう。
しかし、このままヤマトに乗らずに地球に残ることに大介は負い目を感じていたし、かといって、地球に残していく次郎や母のことがどうしても大介には気掛かりだった。
「兄ちゃん。……ヤマトでしょ?」
次郎は大介が悩んでいる原因に何となく察しがついていた。
「どうしてそれを……?」
「やっぱり」
次郎はカマをかけてみただけだった。「話してみてよ」と言う次郎だが、「話せないんだよ」と言う大介。
部屋に沈黙の時間が流れるが、
「兄ちゃん。僕、兄ちゃんが戻ってくるまでお母さんとこの家を守るから」
「それが心配なんだよ……。イスカンダルへの旅ではお前とお母さんを地球に残して来てしまったから。それに、大吾丸の事もあるし」
大介は地球連邦の輸送船団で輸送船の船長兼操舵手になっていた。彼の指揮する「大吾丸」は、言わずもがな、彼と次郎の父親の名前に因む。
彼には家族と船のことが気掛かりだった。
「でも、兄ちゃんがいないとヤマトは動かないんだろ?」
「そんなことはないさ。俺以外にも操舵手はいるし……」
「でもでも……兄ちゃん。悩んでいるなら、行ったほうがいいよ? やらなくて後悔するよりもやって後悔した方がいい、って」
「……お父さんが、昔そんなことを言っていたなぁ」
「そうだよ」
「……なぁ、次郎。キャッチボールでもしに行かないか?」
「うん!」
「じゃぁ、グローブを取っておいで」
次郎は大介の部屋から出ていき、大介もベッドから起き上がり、立ち上がって伸びをする。
机の上には、父・大吾の写真が飾られていた。それを手に取り、
「……父さん。俺、やっぱり行くべきなのかな?」
そう一人静かに呟いた。
そうして地上では三度日が落ち、三度日が登る。
あっという間に2202年7月24日土曜日。つまり、ヤマト出航の日を迎えた。
ヤマト全体で特別警報が鳴り響く。これは艦が着陸、もしくは離陸、どちらかの体制に入っていることを意味する。
『総員、配置に付け。繰り返す、総員、離陸配置につけ』
相原は艦全体にアナウンスする。
離陸と着陸で一番忙しい部署は二つある。機関室と第一艦橋である。それ以外の部署のクルーたちは座席に座り、各科、各部署の責任者と副責任者がチェックリストを実行する。
『全主砲、防水モード作動、砲塔固定よし』
『全副砲、防水モード作動、砲塔固定よし』
『魚雷発射管ハッチ密閉』
『パルスレーザー砲塔、防水モード・オン』
「レーダー、対空間仕様から対水中仕様に切り替え」
「ソナー準備よし」
「通信部準備よし」
『技術科準備よし』
『甲板部、全員配置に着いた』
『医療部、待機中じゃ』
『艦載機格納庫の密閉完了』
『保安部より艦橋へ異常なし』
『居住区、物品の固定全完了』
それらの報告が矢継ぎ早に第一艦橋にいる艦長、つまり古代の元へ次々と齎される。
「……操舵手、準備できてます」
「全システム、オールグリーンデス」
古代から見て右側の操舵席に座っている雛菊茘子、左側のコンソールに固定されたアナライザーからの報告も入る中、「やはり島は来なかったのか」と古代は思わず呟きそうになったが、「いけない。来ないものは来ないんだ。目の前に集中しろ、俺」と古代は自分自身に言い聞かせて戦術科長の席に収まった。
そして、指示を飛ばした。
「補助エンジン動力接続」
「補助エンジン動力接続!」
機関席に座る徳川は機関室にいる山崎たちに指示を流した。
「補助エンジン、動力接続、スイッチオン」
「補助エンジン定速回転1600、両舷バランス正常」
『補助エンジン点火シークエンス』
その指示が飛ぶと、エネルギーの出力計を見ながら出力状況を逐一コールしていた美奈子は、すぐ右手にあるパネルに手を伸ばす。
出力計のすぐ横のモニターには大きな筒と二つの小さな筒が図式のように描かれており、ここで波動エンジンと補助エンジンへのエネルギーの流れをリアルタイムで観測できる。
この大きな筒が波動エンジンとその先につながるメインエンジンノズルを表しており、ここから複数の配線が枝分かれして様々な機器に繋がっているのが見える。
その中で二組ほど一際太い線があり、それらは同じく補助エンジンを意味する小さい二組の筒に繋がっている。
そして、これらのエンジンの出力状況はモニター上で色分けされている。
「エネルギー出力、順調に上昇中。30%…45%…55%」
20%毎に赤→橙→黄色→緑→紫と色が変化していくので、補助エンジンを表す小さい筒は二つとも出力が55%に達した辺りで黄色くなっており、補助エンジンの出力計が70%に達すると緑色に変化した。
「補助エンジン出力、70%。耐水圧ドームへ注水、後部ゲート閉鎖」
「電力、バランサーに接続」
操舵席では茘子が左側にあるコンソールのスイッチを押した。
バランサー。姿勢安定装置とも言う。重力のある環境下において宇宙艦の水平を自動で保つ装置であり、特に空中と水中では安定した飛行のために必要になる。
一方機関室では、今、補助エンジンの出力計に示された値は80%を超え、それと同時に内部のエネルギーの色がモニター上では緑から紫に変わり始める。
「補助エネルギー出力、85%…90%」
『管制室よりヤマトへ。後部ゲートを閉鎖、ドック内注水を開始します』
ヤマト後部にあったゲートが閉じられた。それと共にドック内へと海水が注水され、満たされていく。
「耐水圧ドームへ注水」
『出力98%』
「補助エンジン点火」
徳川の指示で、ヤマトの後部艦底にある二基の補助エンジンのノズルに火が灯った。
その低くも力強く唸る音が第一艦橋にも聞こえてきた。
茘子がガントリーロックの解除レバーに手を伸ばした時、古代は「まだだぞ」と言って止める。
それから暫くして第一艦橋の窓まで海水が上がってきた。
『補助エンジン出力100%を維持』
「水位艦橋を超えます」
その様子はドックの管制室からも一望でき、管制室の窓の外まで間も無く海水が満たされた。
「ガントリーロック解除?」
茘子がガントリーロックの解除のタイミングを古代に尋ねてきた。
古代は「
しかし、補助エンジンが点火されているため、底部の第三艦橋がドックの床を擦ったりはしない。そのまま水中で「浮く」。
「微速前進0.5ノット」
「微速前進0.5ノット。前面ゲートオープン」
『前面ゲートオープン!』
そして目の前のゲートが開いた。吸い込まれそうな穴が目の前に現れる。その様子に、茘子は一瞬怖気付く。
「大丈夫か?」
「あ、は、はい……」
間も無くその「大穴」には光が灯る。ドックの外へと続く誘導灯だ。
「波動エンジン内、エネルギー注入開始」
その指示と共に、美奈子はコンソールを操作し、次のステップへ移行する。
その操作でモニターに映っていた紫色のエネルギーの流れが、ある場所に接続された。
補助エンジンで温められたエネルギーが解放された先、それは波動エンジンである。
補助エンジンと波動エンジンを繋ぐ太い道管が紫一色になり、波動エンジンにエネルギーが注入され充満していく様子がモニター上に表示される。
「前進。20ノット」
「前進。20ノットまで加速」
徐々にヤマトはスピードを上げていき、
「ドック脱出、ヤマト海中へ侵入します」
ドックから海底につながるトンネルを抜け、
「機関室、波動エンジンへの点火準備」
「了解。エンジン・シリンダーへの閉鎖弁オープン」
山崎が大きな持ち手のついているレバーを操作した。これは波動エンジンからメインエンジンノズルを隔てる閉鎖弁を解放する操作だ。
これにより波動エンジンのフライホイールの回転が始まる。
「閉鎖弁解放、フライホイール接続。波動エンジンへの点火シークエンス開始」
『波動エンジン点火5分前』
「エネルギー注入、異常なし。波動エンジン内圧力上昇。エネルギー充填90%」
一旦は海中を水平に航行する。
それから程なくして、ヤマトは海面に向けて艦首を上げていく。
「補助エンジン最大戦速、上昇角40°」
「波動エンジン内圧力上昇、エネルギー充填100%」
『波動エンジン点火2分前』
『海面まで残り300m』
第一艦橋からの声を拾っていた山崎はそれを合図にシフトチェンジレバーを操作し、「オーバードライブ」に入れた。
美奈子がモニターしている波動エンジンのエネルギー出力計が100%の値を超え始める。
それと同時に波動エンジン内のエネルギーの色が、モニター上では紫色から青白い色へと変化していく。それに従ってエンジンのフライホイールの回転が限界まで上がっていった。
「波動エンジン内エネルギー再上昇開始。105%…110%……120%!」
出力が120%に達すると、まるで完全燃焼した青い炎のように波動エンジン内のエネルギーの色が真っ青になった。それが合図と言わんばかりに徳川の指示が飛ぶ。
『波動エンジン点火』
「波動エンジン点火!」
山崎の操作で波動エンジンに火が灯り、ヤマトが力強く前へ進んでいくのをクルーたちは体感する。
その間にヤマトは海面へとどんどん浮上しているところであり、次第に周りが明るくなっていった。
「海面まで10m…9…8…7…6…5…」
ヤマトの艦首はどんどん海面に近づいて行き、あっという間に、ヤマトはそのまま海面を突き抜けた。
その姿はメガロポリスの人々の目にも留まった。
その群衆の中。土曜日。時間は朝8時。学校へと向かっていた島 次郎の姿もあり、飛び立つヤマトの姿に母親の沙織と共に手を振った。
「ヤマト発進!」
「艦内重力制御システム作動、正常」
「大気圏内主翼展開。高度現在5千フィート、なお上昇中」
艦内重力制御システム。これが働いていると、例えヤマトがこのまま地球の大気圏内で宙返りしたとしても中の人間は床に足を付けたままになる。これはこの状況で艦内を立ち歩いても差し障りが起きないことを意味するが、同時に艦の傾きの変化には気付きにくくなる。
その時、第一艦橋に繋がる二基ある内の片方のターボリフトが動いていることに誰も気付かなかった。
メガロポリスの防衛軍本部ビルから長官ら防衛軍の幹部たちも出発するヤマトに対して敬礼を絶やさなかった。
だが、大気圏の上層、高度41000ftを越えようとした時、茘子は異変に気付く。
「! 大気圏……脱出出来ず……!?」
「どうした?」
「おかしい……シミュレーションではこんな事には……」
ヤマトを上昇させようとしても艦首がまるで上向かなかった。
そんな時だった。第一艦橋に姿を表した人物に、最前方部に座る茘子と古代以外が驚く。古代たちはその人物に気付かないままだったが。
「艦首を上げすぎだ。もっと下ろして」
その声に古代と茘子はハッと顔を上げた。
「島!」
島は茘子が握ったままの操縦桿を押し、一旦ヤマトを水平飛行の状態に戻した。
「あの……艦長。もしかしてこの方が?」
「俺の名前は島 大介だ。一応このヤマトの航海科長なんだが……」
「待ってたよ島」
その古代の一言で、島は正式に前職を引き継ぐことになった。
「……島さん?一体どうしてヤマトは……?」
「何故、大気圏外に出られなかったのか? 教えるよ。操縦を代わって欲しい」
ここで島と茘子が操縦を交代する。島は操縦席のすぐ近くにある手摺りを指差し、茘子に「そこにしっかり捕まってろ。それで俺の動きをよく見て欲しい」と言った。
島はコンソールに表示されているパラメーターをチェックした。最初に疑わしい所に目をやると、「やっぱりだ」と呟いた。そして茘子の操縦でヤマトの艦首が持ち上がらなかった理由にも納得した。島は補助エンジンの計器を指差しながら言う。
「補助エンジンの出力が高過ぎる。これはドレッドノートの操縦方法だな?」
「あ、はい。そうです。ヤマトだと何か違うんですか?」
すると島は重力制御のコンソールに触った。
「まず、重力偏向出力を上げる」
今度は補助エンジンの出力レバーを触り、パワーを120%から100%ほどに絞った。
「次に補助エンジンの出力を少し落とす」
補助エンジンの出力を絞りつつ、島は先ほど出力を上げた重力偏向の方向を変える。画面のパラメーターには「
「そして、重力偏向による反重力推進でゆっくりと大気圏を上がる」
そうすると、さっきまで上がらなかった艦首が45°天に向けて上がる。
そのままヤマトは大気圏を無事に抜け、引力圏からも脱した。
「……こうすれば、大気の層に弾かれずにゆっくりと突破できる。というわけだ」
「なるほど……」
「ふぅ……島」
安堵の溜め息を吐いた古代は島に拳を差し出し、島はそれに拳を当てて答えた。
「ありがとう。来てくれて」
「あぁ、迷ったけどな」
「一体今のどうやったんだ?」
「その前に……新人ちゃん、すまないが君の名前は?」
「雛菊です。雛菊茘子と申します。階級は曹長です」
「雛菊ちゃんか。君のさっきの操縦と口ぶりからして、ドレッドノート級の操縦には熟練していたんだね?」
「あ、はい。シミュレーターだけですが最低でも1000回はこなしてました」
その数に島と古代は一瞬驚いて目を見合わせた。
「ほー……すごいな。じゃぁ、ドレッドノート級の操縦面の利点は言えるか?」
「あ、はい。ドレッドノート級は民間のシャトルと同じ方法でも大気圏を突破できるように設計されていました」
「つまり、ドレッドノート級は民間のパイロットでも操縦出来るのが売りなんだ。量産型故に癖がないように細心の注意が払われて設計されたと言っても過言じゃない」
「恐らくはアンドロメダも同じだったはずです」
「そうだ。ところが、ヤマトの場合は操縦に少し癖がある。ワンオフ品の宿命ってやつかもな。ドレッドノート級であれば艦首を地上からなるべく垂直に保って上がるのが定石だったと思うけど?」
そう言われて茘子は頷く。肯定だ。
「ぶっちゃけると、ドレッドノートのやり方でも無理すれば上がれるが……ヤマトと補助エンジンの位置が違う。それでさっきのやり方を簡単に纏めるけど、大気圏を脱出する時は補助エンジンの出力を80%から100%で抑えて、重力制御による反重力推進を組み合わせる。ヤマトにはこのやり方での上昇が向いてるし、船体にも負荷は掛からないんだ」
「なるほど……ありがとうございます」
島によるちょっとした講習の直後、相原が報告してきた。
「地上との通信回復。艦長。藤堂長官より入電です」
「繋いでくれ」
『艦長。無事出発できたようで何よりだ。しかし、すまないが三箇所ほど寄り道してもらいたいところがある』
「寄り道ですか?」
『まずは月面基地の近くを通過してもらう。その次はガニメデコロニーに寄って欲しい。共に航空隊が待ってるぞ。木星軌道上にアンドロメダがいると思うが、諸君の任務内容は既に伝えてある』
「わかりました」
『それが終わったら、ヤマトにはジャンプゲートでアルファ・ケンタウリ11号星に向かって欲しい』
「アルファ・ケンタウリに?何故ですか?」
『保安部員の補充だけが済んでいないだろう? 現地でその人員を回収して欲しい』
「了解しました」
少し腑に落ちない命令ではあったが、反対する理由もないので従うことにした。
「ヤマト、これより月面基地に接近します」
『うむ。ヤマトの諸君。航海の無事を祈る』
長官からのメッセージが終わると、雪が報告してきた。
「艦長。月の影からドレッドノート級重巡洋艦一隻と戦闘機編隊が現れました」
「スクリーンに映せるか?」
「はい」
雪がそれをスクリーンに出したら、古代は驚いた。
「あれは……サツマだ」
古代がつい1週間前まで指揮をしていたドレッドノート級重巡洋艦E.F.S.
『こちら月面基地所属アルファ中隊。加藤三郎以下12名。ヤマトへの着艦を願う』
「おぉ、加藤たちか!」
『こちら月面基地所属ベータ中隊。山本玲以下12名、同じくヤマトへの着艦を願います』
「何しているんだ、早く着艦口を開けてやれ」
「了解!」
「艦長。サツマから通信です」
「繋いでくれ」
すると数日前とは打って変わり、緑色の艦内服の上から黒いキャプテンジャケットを羽織った長野義男がヤマトのスクリーンに現れた。
「長野、昇進おめでとう」
『古代艦長。私たちもテレザートへの旅に同行いたします』
「長野、テレザートがどれだけ危険な場所か聞いているのか? 無用な危険に晒されるかもしれないぞ?」
『……何言ってんですか。「危険だからやめた」なんて言ってて重巡洋艦のクルーなんて出来ませんよ。それにあれこれ背負い込みすぎないでくださいよ』
古代と長野はガリア4号星でカラクルム級戦艦と対峙して以来のコンビなので、軽口もよく叩き合える仲だった。
ガニメデコロニーへと向かうヤマトへは次々とコスモタイガーが着艦していき、サツマが随行する。
木星空域では、地球連邦防衛軍艦隊第一艦隊による演習が繰り広げられている最中だった。
地球連邦防衛軍艦隊第一艦隊。
その構成は新たな地球軍宇宙戦艦アンドロメダを旗艦とし、他の11隻を色とりどりなドレッドノート級で固めている。
この艦隊の別名は「太陽系連合艦隊」。
11隻のカラーリングがほぼ全て異なっているのは、それぞれの艦が元々所属していた艦隊が異なるためである。
具体的に言うなら、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星という太陽系を構成する9つの惑星にそれぞれ配備されている守備艦隊から一隻ずつ引き抜かれており、残りの2隻は月面基地所属艦隊とカイパーベルト警戒艦隊から引き抜かれている。
今、この艦隊はどこからともなくワープで現れた「敵艦」約30隻に対し、一斉砲火を浴びせていた。
なお、ワープから出て木星空域に飛び込んできたのは老朽化が激しいガミラス艦。
中には酷く損傷したものもあるが、船体はライトグリーンで塗られていて、主砲などはほとんどが撤去されていた。
この標的艦の艦隊の旗艦はガイデロール級であり、その旗艦にアンドロメダの砲撃が刺さった。
51cm砲がガイデロール級の船体に風穴を開け、見事に撃沈した。
その他の標的艦には、これまた色とりどりなコスモタイガー、今回は銃座搭載の複座式である2型が反復攻撃と同行戦で襲いかかり、次々に撃沈していった。
なお、これら標的艦の残骸は木星に吸い寄せられて潰れるか、燃え尽きた。
《現在の演習の総合評価は、約95%、です》
アンドロメダの艦載AIは優しそうな女性の声で第一艦橋にいる幹部士官たちにそう総合評価の結果を告げた。
事実、天井に設置されたスクリーンには艦隊の平均命中率について「95%」と表示されていた。
「95%……まずまずだが、まだ足らんな」
艦長席の肘掛けには超小型のホログラム通信装置が内蔵されていて、その装置は今、白いキャプテンジャケットを羽織った女性と、黒いキャプテンジャケットを羽織った男性の二人を表示している。
女性の方は先日の騒ぎの際、月から火星に向かってる艦隊の旗艦だった「コンゴウ」の艦長、今井早紀中佐である。早紀はアンドロメダのAIの評価に対し、土方に尋ねた。
『では、演習を継続しますか?』
「……いや、もう今日はやめよう」
『提督?』
「アンドロメダ。演習を始めてどれぐらいになる?」
《演習開始から6時間と21分になります》
「6時間ぶっ続けか……やりすぎたな」
『まだやれます』
「君はそうでもこの艦隊に勤めている1300人以上のクルーが全員そうとは限らんぞ。いい加減疲れも出てくる。その状態で最高のパフォーマンスを発揮できるとは君も思わんだろう? 命令だ。休みたまえ」
『……了解しました』
少し言葉を濁したが、早紀はそう答えて通信を切った。男性の艦長も同様だった。
「通信士官。第一艦隊全艦に通達。これより12時間休憩とせよ」
「了解です」
それから矢継ぎ早に第一艦橋で警戒警報が鳴った。
「アンドロメダ、報告せよ」
《土方艦長。地球方向より接近中の2隻の艦船をレーダーで確認しました。認識信号を特定中》
「警戒の必要はない。片方はヤマトだろう……だが、もう一隻は?」
土方の指示を聞くとAIはすぐに警報を解除。識別信号の照合結果を伝えてきた。
《識別信号を照合。地球連邦防衛軍宇宙戦艦BBY-01,E.F.S.ヤマトを確認しました。
艦名が出た途端、報告を持ってきた副長と共に溜め息を吐く土方。
「長野か……」
それに答える様に副長も溜め息を吐く。
「長野ですね……」
呆れたようなホッとしたような、しかし演習での疲れに加えてさらに疲れがのし掛かったような感覚を二人は覚えた。
間も無くヤマトは火星を超えて
木星最大の衛星ガニメデの軌道上では、アンドロメダを含めた地球連邦防衛軍第一艦隊が駐留している。
先ほど演習に参加した艦船をここで内訳するが、まずヤマトに一番近い所にいたのは、ガリア4号星で散ったドミニオンと全く瓜二つの、古代も見慣れた明るいグレーを纏った塗装の艦体。しかし、ドミニオンと異なるのは、主砲が三基とも41cm二連装砲に換装されていて、波動砲のノズルなどがクリーム色で塗られている。
胴体に描かれた地球連邦の国籍マークと共に、アルファベットで「E.F.S.
その横には、アメリカ合衆国宇宙軍所属の「E.F.S.
それに「
それらの艦が集まっていた故か、他の艦はもっと派手に見えた。
ウクラルシア宇宙軍所属の「
アフリカ諸国共同体宇宙軍の「
ただし、船体の色が異なるのは、所属している国が違うからではない。太陽系の惑星や準惑星、衛星などの防衛拠点に所属する艦隊によってそれぞれ色が異なるのである。
ヤマトとサツマがガニメデステーションの周回軌道に乗るや否や通信が入った。
「艦長。第一艦隊司令官土方中将より入電です」
「繋げ」
ヤマトのメインスクリーンに土方に姿が映る。
「土方教官……いや、提督。先日は失礼いたしました」
『いや、気にしていない。それよりも、長官から話は聞いているぞ』
土方が通信士官に向き直って頷き、何かを合図した。
すると、先ほどの演習で標的艦を吹き飛ばしたコスモタイガー2型の内、一個中隊がヤマトに向かっていった。雪がすぐさま報告してきた。
「艦長。コスモタイガー12機がこちらに向かってきます」
次に太田はそのコスモタイガーの仔細を報告した。
「12機とも銃座付き複座式の2型のようです」
程なくして通信が来た。
「航空隊から通信です」
「繋げ」
『こちら地球連邦防衛軍第22航空隊、
「長官が言っていた航空隊だな。着艦許可を出してやれ」
「了解。着艦を許可する。第22航空隊」
相原がクリアランスを出すと、まずは緑色のコスモタイガー2型が着艦用のトラクタービームに掛かる。
その次に赤いコスモタイガー2型、オレンジや紫色のコスモタイガーまでもが次々と格納庫に入ってくる。
あまりの状況に加藤や山本たちは目を丸くする。
「なんだこりゃ……」
沢村が思わず口にしたが、
「コスモタイガーに決まってるじゃ無いですか」
そう言ったのは、髪をシニヨンでまとめた黒髪の女性。
なお、制服はヤマトの航空隊と同じく黒地のジャンプスーツに黄色という組み合わせだった。
「そりゃそうだが……ここまで無秩序な航空隊も珍しい」
「本物の愚連隊か……?」
沢村に続いて篠原がそんなことをボソッと呟いたら、金髪の女性が篠原を突然に殴った。
「おい、何するんだ!」
「あたしたちの部隊を馬鹿にすんな優男!」
「やめなさい!」
第22航空隊の面々とヤマトの航空隊員たちの喧嘩騒ぎが大きくなる前に、最後の一機が着艦し、そのパイロットは青いコスモタイガー2型から降りてメットを脱ぎながら喧嘩を止めに入った。
目は細く、その顔にはどこか見覚えがあり、青みを帯びた黒髪をポニーテールでまとめた女性だった。その女性を加藤が出迎えた。
「……申し訳ありませんでした、加藤隊長。第22航空隊隊長の伊東愛子です」
「君の部下はかなり元気なようだな」
「私たちはガニメデ生まれガニメデ育ちなものでして。気性があなたたちより荒いかもしれませんね」
「ガニメデコロニーか……」
木星の衛星ガニメデ。
太陽系に存在する衛星としては最大の大きさを誇るこの星には、およそ80万人が暮らしている地下コロニーがある。
ガニメデの地表にはニューガニメデシティが建設途上ながら存在するが、地下コロニーが総じて「メインコロニー」と呼ばれている。
このメインコロニーはガニメデの地表から地下3kmの空間にある。
なお、戦前にあったガニメデシティはガミラス遠征軍によるガニメデ爆撃で破壊された。
幸い地下コロニーの人々は岩盤が厚かったお陰で犠牲者は少なかったらしいが、地表の都市を失った事から10年近くも孤立状態にあり、コロニーの住民たちは自給自足の生活を余儀なくされたという。
ガミラスもガニメデコロニーの存在に気付いてはいたが、そう遠くない内にコロニーが全滅するだろうと踏んでいたため、無視した。ただし、木星の浮遊大陸に前哨基地を築いていたのは、コロニーに何らかの動きが無いかを監視する目的も含まれていた。
メインコロニーが再発見されたのは2201年の秋になってからであり、地球連邦は地表のガニメデシティを再建、「ニューガニメデシティ」とし、その延長線上に軌道エレベーターを接続したガニメデステーションを建設した。
それに合わせてガニメデシティとメインコロニーが接続されていたエレベーターも修繕・改修され、軌道エレベーターで一本に繋がることになった。
さて、そんなガニメデ生まれガニメデ育ちの人類は総じて目の色が黄色ないしは緑色になりやすい。
緑色の瞳に金髪が特徴的な女性パイロットは吐き捨てるように言った。
「ガミラス戦役で地獄を見たのは地球だけだったとお思いで?」
「どう言う意味だ?」
「そのままの意味。私たちのことを最近まで忘れていた癖に! 偉そうに……」
「ナツメグ。ストップ」
「でも……!」
「言っておくけど、この場にいるのは地球とガニメデ生まれだけじゃないわよ?」
そう言って現れたのは、
「赤い瞳に褐色の肌……もしやあなたは
そう指摘された山本は一も二もなく頷いた。
そんな時だった。
「ミスター加藤。一体何の騒ぎだ?」
その声にヤマトのクルーたちはハッとした。
「こ、古代!?」
「艦長!?」
「加藤、山本、篠原に沢村……みんな、元気そうで良かった」
艦載機格納庫に、何とキャプテンジャケットを羽織った古代本人が現れた。慌てて加藤たちは敬礼する。第22航空隊のパイロットたちも隊長である愛子が敬礼すると他の隊員たちも慌てて敬礼した。
一部は不承不承ながらそれに続く。
「古代……艦長。いえ、何でもありません。大したことはないです。それに、こちらから挨拶に行けなくて申し訳ありませんでした」
加藤は古代相手に慣れない敬語でそう言った。
「……いや、こちらこそ。遅れてすまないな」
そうして古代が敬礼を解いて手を差し出すと、加藤は握手し、そのまま互いに笑いながらハグした。
「よく来てくれた、加藤、山本、みんな!」
格納庫はまるで同窓会の会場のような様相を呈することになったのは言うまでもない。
そして、それを見て疎外感を覚えたのは第22航空隊の面々だけではない。
鶴見、大淀ら他、新人たちも同様だった。
しかし、間も無く古代も彼ら彼女らに注目することになった。大抵、人というのは目立つものに目を奪われがちになる。となれば当然、第22航空隊の機体に古代の目が行ったのは当然の成り行きだったと言えるかもしれない。
「それにしても、凄いな……」
改めて古代は第22航空隊のパイロットたちが乗ってきたコスモタイガー2型を見て感嘆を漏らす。
先ほど第一艦橋で見た太陽系連合艦隊を思わせるような、色とりどりなカラーリングのコスモタイガー2型12機が居並ぶ。統一性の無さが逆に見事な味わいを見せている、そんな矛盾のようなものを感じた。
その派手なコスモタイガーの集団の前に、第22航空隊のパイロットたちが整列した。
「隊長は君か?」
「はい、伊東愛子です」
よく見ると、第22航空隊のパイロットと後席搭乗員は皆女性だった。
「第22航空隊に別名はあるのか?通称名は?」
「ガニュメデス隊……と訓練時代は呼ばれていましたが、変更してもよろしいですか?」
「構わないが、どうしてだ?」
「ガニュメデスってナルシストの美男故に溺れ死んだ人物ですからね。縁起が悪いので」
「それに可愛くないしー」
先ほど鶴見や篠原、沢村たちといざこざを起こした赤いコスモタイガーの女性パイロットが付け足すように言った。
古代は顎に手を当て、何か良い名前はないか考え始める。
すると、古代の視線が不意に加藤へ向いた。
加藤は「(第22航空隊の)中隊名はどうしようか?」と古代がアイコンタクトを求めてきたように思えた。そこで加藤もほんの数秒だったが考えた。古代と異なり、加藤はすぐに思いついたようだ。
「……それなら。ローグ中隊はどうだ?」
「ローグ中隊……か」
「はぐれもの……?」
古代は「悪くない響きだな」と直感したが、山本はボソリと「
第22中隊のパイロットたちの反応は微妙だったが、
「悪くないですね……」
隊長の愛子がそう言ってしまうと、
「古代艦長。地球連邦防衛軍木星空域防空戦隊所属第22航空隊改め、ローグ中隊。隊長の伊東愛子です。よろしくお願いします」
「「よ、よろしくお願いします!」」
第22航空隊改めローグ中隊の隊員たちは全員が頭を下げて古代に礼を示した。
その後、ヤマト艦内で割り振られた部屋に向かう伊東愛子と、先ほど篠原に掴みかかった女性パイロット、名前を
「愛子、何でローグ中隊なんて名前でOKしちゃったの? 一回決めてしまうと変更できないのに」
「そうかしらナツメグ?私たちにぴったりだと思わない?」
夏目 恵の通称は「ナツメグ」。彼女とは反対の意見を口にしたのが
「そもそもはあなたのせいなのよ?」
「私の? 愚連隊だなんて馬鹿にされて怒ったことのどこが悪いのよ?」
「手が出たのが不味かったって言いたいの。ホントあなたって喧嘩っ早いんだから……」
「それに、あの隊長が艦長にナツメグのやらかした事を話していたら、今頃あなた営倉行きだったかもしれないわよ?」
「わ、悪かったわよ……」
しかし、ヤマトの艦内で警報が鳴り響き、愛子たちは来た道を戻る羽目になった。
古代が数日前、カラクルム級大戦艦を追いかけて潜り抜けたあのジャンプゲートはガニメデの近くにある。
これはかつてヤマトがビーメラ4〜バラン星への横断に使用した亜空間ゲートを、ヤマトが地球に帰還後、解析・開発されたものであり、あちらのいわゆる劣化版に等しいものであった。純正の亜空間ゲートに比べると規模は小さく、全高にしてガミラス軍のゼルグート級戦艦が一隻、全幅はポルメリア級高速空母一隻、それらを一回り大きくした程度の人工ワームホールしか作れず、航続距離は20光年が精々だ。
それでも太陽系を中心とした地球連邦の領内であれば十分に機能できる装置であり、波動エンジンを積んでいない輸送船でも太陽系外惑星に行ける利点があり、波動エネルギーを用いたワープによるエネルギー消費も抑えられ、何より、以前にヤマトが陥ったように次元断層へ迷い込むリスクも軽減されることになる。
ただし、前述のようにゲート同士を繋ぐには互いに20光年以内に配置されていないと開通されない故に、結局のところ、人類未到の地へは相変わらずワープを使わざるを得ないわけである。
また、動力は太陽光と、宇宙に漂う放射線(宇宙線)や星間物質などなどから賄われており、かつて地球人類が送り出したパイオニア11号やガリレオといった探査機を散々痛めつけた激しい荷電粒子環境に由来する高濃度の放射線も、ジャンプゲートの動力源には打ってつけだった。
ジャンプゲートが突然に開くと、ボロボロに傷ついた輸送船が現れた。
『こちら輸送船「荒川丸」! メーデー、メーデー、我々は攻撃を受けている!』
その輸送船を追うように、ガトランティス軍の艦載機であるデスバテーター数機と、ククルカン級駆逐艦一隻、ラスコー級巡洋艦一隻がジャンプゲートから次々に現れた。よく見ると二隻とも粉が掛かったように穀物を被っていた。
「何してる! 早くゲートを閉じろ!!」
土方提督の怒号が飛び、ゲートのシステムを操作しているステーションが慌てて電源供給を切った。
ゲートがスパークを起こしたが、爆発まではいかない。開いていたワームホールはゲートの電力を失ったために消滅。艦首だけゲートから出ていた二隻目のククルカン級駆逐艦はワームホールが消滅したために船体が文字通りの真っ二つになった。
「大変だ。総員戦闘配置!」
サツマの艦橋からも輸送船がガトランティス軍に追われているのが見えた。艦長の長野が戦闘配備を指示すると艦内に警報が鳴る。
ヤマトでも全クルーが戦闘配置に就く。
『第一主砲、発射準備完了』
『第二副砲、発射準備完了』
『第三主砲、発射準備完了』
『第一副砲、発射準備完了』
それらの報告が砲雷長席の南部のもとに届くのだが、
「おい、第二は? 第二主砲応答せよ!」
すると、桜井が答えた。
『だ、第二主砲、発射準備完了!』
しかし、準備にもたついている間に第一艦隊がガトランティスの艦を粉砕した。
訓練通りにククルカン級駆逐艦とラスコー級巡洋艦はあっという間に四方から地球艦の砲撃を受けて呆気なく宇宙の塵になった。
また、ガニメデステーションから発進したコスモファルコンの部隊が輸送船にトドメを刺さんとしたデスバテーターを次々に狩った。
デスバテーターのパイロットたちは恐らく不意を突かれたに違いない。これまでガトランティス人が相手にしていたのは遠隔操作型の無人機であり、その動きは鈍かった。
ところが、このコスモファルコンはちゃんと訓練された戦闘機パイロットたちが乗っている。となれば、無人機みたいな無様なやられ方を晒すこともなく、逆にデスバテーターを返り討ちにした。
「……俺たちの出る幕は無かったみたいだな」
仕方ないといえばそうだが、モヤモヤが残る結果になり、古代はそう呟くように言った。
輸送船「荒川丸」の船体は損傷が激しかったが、ガニメデステーションに何とかドッキングを果たせた。
輸送船のクルーたちは煙に撒かれながらガニメデステーションへ逃れるかのようにエアロックを駆けてきた。
ステーションの副司令官が医療班と共に彼らを出迎えつつ問う。
「船長は? 何処だ?」
「俺なら……ここだ……!」
煙を吸い込んだらしい男性がステーションのドッキングエアロックと輸送船との通路の間で胸を押さえて倒れていた。副司令官はすぐに彼を抱き起した。まだ動けるクルーの一人も手を貸してくれた。
「赤城……お前か!」
副司令官と、この輸送船「荒川丸」の船長、
赤城は大急ぎで医療班が持ってきたストレッチャーに乗せられて医務室へと運ばれて行った。
それからあまり時間を置かずに、ガニメデステーションの会議室に第一艦隊の艦長たちと、この場に居合わせたヤマトから艦長の古代と副長の真田、それにオブザーバー兼テレザート訪問を依頼したガミラス大使の代理としてクラウス・キーマンが。さらにサツマからも艦長の長野と副長に昇進した渋谷絵里が集められた。
土方は基地の副司令官に問う。彼が緊急の要件だというのでこのようなことになったのだが、
「副司令官。あの船長が言ってたことは確かなのだな?」
「はい、誓って彼はこんなことで嘘を言う男ではありません」
会議室の中央に設置された大型のホログラム投影装置にはプロクシマ・ケンタウリ星系が表示されている。
その第3惑星に地球連邦のコロニーがあるのだが、その惑星をなんと、ガトランティスの艦隊が取り囲んでいた。
「プロクシマ3が敵軍、ガトランティスの艦隊に襲撃され、第六艦隊の司令官から救援要請を頼まれたと彼は言ってました。その際に敵艦の目を眩ませるために約3000tの穀物を宇宙空間にばら撒いたそうです。“宇宙のトラック野郎”にしては思い切った行動だったと思います」
「“宇宙のトラック野郎”?」
「彼の自称です。受け持った貨物は全て目的地に届けることを信条にしている男です。そんな彼が貨物を捨ててまで……そこまで切羽詰まっていた裏付けになります」
「彼の証言通りだとすれば、今プロクシマ3はガトランティスの艦隊に襲われていることになる」
「すぐにもジャンプゲートでプロクシマ3救援に向かうべきです」
そう主張した長野だったが、
「ジャンプゲートの前でガトランティス軍が待ち伏せしていたらどうする? 波動防壁があっても敵の数が多ければ集中砲火を受けて無防備も同然だ」
長野に対し、土方がそう嗜めた。
そこで真田があることを提案した。
「提督。別のジャンプゲートを経由して、ワープでプロクシマ3に向かうのは如何でしょうか?」
真田がガニメデステーションの会議室のホログラフィックプロジェクターを操作すると、プロクシマ・ケンタウリが遠ざかり、近隣の別の恒星系が表示された。
「真田さん。アルファ・ケンタウリですね?」
古代はすぐに真田の作戦の意図を理解した。
「その通りだよ。アルファ・ケンタウリと、プロクシマ3が属するプロクシマ・ケンタウリは0.25光年しか離れていない。そこで、アルファ・ケンタウリに設置されているジャンプゲートを使って一度アルファ・ケンタウリ星系内に飛び、アルファ・ケンタウリ星系を出て、プロクシマ3までワープするわけです」
「玄関の鍵が開いてるというのに、柵を超えて裏庭から家に入るようなものだな」
土方は大まかに「回りくどい」と言いたかったが、
「しかし玄関のドアを開けた先には機関銃を構えた強盗が待ってるような状態です。これしかないでしょうね」
長野は補足するように述べつつ、それ以外に方法が無さそうだと考えた。
しかし、今井早紀は腕を組んで考え事をしていた。土方と目が合い手を上げようとしたところで逆に土方から問われた。
「今井艦長、何かあるのか?」
「……提督。これは例えばの話ですが、プロクシマ3が襲われたのであれば、ガトランティスはアルファ・ケンタウリ11号星にも進出しているのでは?」
「その根拠は?」
「真田技師長の言っていたように、プロクシマとアルファ・ケンタウリの位置が1光年も離れていない場所にあるからです。だからこそ、プロクシマ3が襲われたなら、アルファ・ケンタウリ11も現在襲われている可能性が高いからです」
「つまり、ガトランティスは三正面作戦作戦を展開しているというのか……?」
会議室がざわめいた。
しかし、その意見に土方と、シャルンホルスト、グナイゼナウの両艦の艦長が同意する。
「最前線であるはずのイプシロン・エリダニ星系を飛び越えてガトランティス軍がプロクシマ3を襲撃したことは既に事実ですからね」
「となれば、現在進行形でアルファ・ケンタウリ11が襲われているか、もしくは次の標的になっていてもおかしくないぞ」
「どの道、この二つの惑星は地球から見て背後にあったわけですから、ガトランティスは地球への直接侵略に王手を掛けるのはもはや時間の問題だったと言わざるを得ないでしょうね……」
ガトランティス軍の侵攻を予期していたことから太陽系では冥王星軌道より外縁部や、カイパーベルトの中にガミラス製の恒星間転移妨害フィールドを張り巡らせている。つまり、太陽系内をワープ、もしくは太陽系内にいる波動エンジン搭載艦が太陽系外へワープする分には問題ないが、太陽系外から直接ワープで地球に行くことは出来なくなっているのだ。
キーマンはしれっとこんなことを言った。
「仮にヤマトが行くにしても、クルーは訓練不足で、向かうべきテレザートとは方向性が真逆になるでしょうし」
「……何故ヤマトが行く流れになるんだ?」
問う古代。ヤマトの現状はキーマンの言う通りだからだ。
しかし、キーマンは赤城が辛うじてプロクシマ3から逃げ延びて持ってきた映像を会議室で全員に見せた。
そこに映っていたのは、カラクルム級戦艦が四隻……。
「あのカラクルム級のニュートロニウムの外殻。それを破る決定打を与えられるのは現状ではヤマトの主砲しかない。そうだろう?」
真田と古代は頷く。
だが、ニュージャージーの艦長は異を唱えた。
「しかし、本当にあの硬い装甲を破れるのか?」
「可能です」
その問いに真田はキッパリと答えた。
真田が用意したのは、ヤマトのパワーアップした48cm主砲の試射映像だった。
「あれは?」
「数日前、メガロポリスを直接攻撃しようとしたカラクルム級の残骸です。高さは約2.6m、幅は3m。成分はニュートロニウムです」
「つまり、波動砲を撃ち込んで大気圏に突っ込んでも、あれだけの大きさの残骸が蒸発せずに残ったのか……」
艦長の一人がそう呟くと絶望感のようなものが漂った。
「見てください」
説明するよりは見せたほうが早い。この会議室の空気を払拭するにはそれしかないと判断した真田が映像を再生すると、
ニュートロニウムの塊であるカラクルム級の残骸にヤマトの主砲の砲撃が直撃し、残骸には綺麗に風穴が空いていた。
「おぉ〜……」
「これなら……」
その映像を見て誰かが感嘆の声を上げると、先ほどまでの絶望感の代わりに希望の光が差してきたように思えた。
しかし、土方は即行動というわけにはいかないと悟った。
「……長官からの作戦の許可を得るまで時間があるな。古代。すぐに乗員たちの訓練を開始しろ。2日後、午前8時にアルファ・ケンタウリ星系の外縁へワープだ」
「わかりました。全力を尽くします」
「いや、ベストを尽くしてくれ。ここで全力を尽くしてしまったら戦場はどうする?」
そう言うと、僅かだが会議室内で小さな笑い声が漏れた。
「サツマの長野艦長」
「はい提督。サツマも2日後のワープに備えます」
「よろしい。ただし、第5パトロール小艦隊と第9雷装小艦隊、第1潜航艦隊も同伴しろ」
「パトロール艦隊と雷装艦隊に潜航艦隊ですか?」
「アルファ・ケンタウリの状況が明確に分からない以上は、万一に備えて足の速い船が必要になる。潜航艦隊はちょうど今寄港しているな? すぐ任務に向かってもらおう。第5パトロール小艦隊は明後日寄港するが、後者の編成はプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦が主力だ。星系の外縁から状況を探るには打って付けだろう」
「しかし、仮にカラクルム級戦艦が待ち受けていた場合には?」
「それに備えるための潜航艦隊だ」
ちなみに、プリンツ・オイゲン級にはセンサーやレーダーを目に見えて多く搭載しているパトロール型と、ミサイルや空間魚雷を大量に装備した雷装型。
そして、ドレッドノート級の艦橋をそっくりスケールダウンしたような構造物を持った司令軽巡洋艦の三種類が存在する。
「小艦隊」は、「艦隊」の下位区分であり、同型艦3隻で固められていることが多い。
第5パトロール小艦隊を固める3隻のプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦はパトロール型であり、索敵を得意とする。
第9雷装小艦隊を固める3隻のプリンツ・オイゲン級は雷装型であり、パトロール型とは逆に戦闘と機動力に特化している。かつてのイソカゼ型突撃宇宙駆逐艦をそのまま大型化したような艦種とも言えた。
第1潜航艦隊は、地球軍に配備された次元潜航艇のみで編成された小艦隊だった。
「提督。我々第一艦隊はどうするのですか? ただただヤマトがプロクシマ星系を解放するまで指を咥えて待っていろと言うのですか?」
「問題はカラクルム級に正面から戦いを挑める希望が我々にはヤマトしかいないことと、アンドロメダ級の主砲がカラクルム級に通用するかどうかが未知数なことだ」
「しかし……」
「ドレッドノート級の41cm主砲も当て方次第ではカラクルム級の装甲を破れなかったとなれば、第一艦隊がプロクシマ星系に殴り込んでも無闇に犠牲を増やすだけになる」
徹底抗戦を訴えるのはニュージャージーのジョンソン艦長だったが、事実を突きつけられれば黙るしかなかった。
「第一艦隊はこの場で待機。ヤマト艦隊が楔を打ち込んだら後に続け。解散だ。諸君の健闘を祈る」
今プロクシマ3とアルファ・ケンタウリ11を救える存在はこの場にはもうヤマトしかいないのは明らかだった。
同じ頃。アルファ・ケンタウリ星系では、ガトランティスの艦隊が11号星に迫ろうとしていた……。
一先ずヤマト発進まで描き切ってみました。
一話のストーリーとして長さはどうですか?
-
短い
-
普通
-
長すぎぃ……