宇宙戦艦ヤマト2202リテイク   作:MinorJunction 太華日

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ここで登場するデスタールは旧作ヤマト2において登場したキャラクターがモデル。
あちらではゴーランド提督の部下として登場していたものの、メーザーに対する態度が最近流行りの「パワハラ上司」っぽいと感じたことから、このような配役になりました。

メーザーのキャラクターはヤマト2202本編のような頭が残念な提督にはせず、旧作のヤマト2に寄せました。
問題はナスカ。
彼、旧作でもゲーム版でも2202ですらもいいとこ無しだった。
地球軍(正確にはヤマト)を侮ったことで大敗を喫して、デスラーにも軽くあしらわれて……。
さすがにちょっと可哀想なので、ナスカにちょっとだけ救済を与えてみた。

もちろん、この救済はただの思いつきではありません。
でもある日、自分はこんな疑問を浮かべた。
「何故ガトランティスの軽空母は(公式設定においても)「ナスカ級」と呼ばれているのか?」と。
それを掘り下げてみた結果、「誰お前」とか言われそうなキャラクターになってしまっていますが、どうかお許しくださいませ。


第3章・アルファ・ケンタウリに隠された謎
第7話「ガトランティスの荒鷲」


 白色彗星帝国のある区画へとデスラーは赴いた。

 そこでは、デスラーの新たな乗艦、「デスラー・ガミラシア」(デザインはヤマト2のデスラー艦にほぼ準ずるものとする)が仕上げの段階に入っていた。

 艦は内装が整えられ、外付けとして、瞬間物質移送器が搭載されている最中にあった。

 その作業を指揮しているガミラス人は、ガトランティスの科学奴隷用の作業服を着ていた。

「タラン。首尾はどうだ?」

「そ、総統閣下……」

「敬礼は不要だ。それよりも作業の進捗状況を知りたい」

「は、はい。現在、内装を整える最終段階に入っています。試験航行は成功。ワープ機関にも問題ありません。瞬間物質移送器の搭載と接続もあと3時間で完了いたします」

「デスラー砲は?」

「そのテストはまだです」

「何故だ!?」

「そ、それは、大帝から許可が降りず……。完成してからにしろというお達しを受けまして……」

 デスラーは声を張り上げ、口髭がボサボサに伸びきってるヴェルテ・タランは萎縮するが、逆にタランの弁明でデスラーは平静になった。

 大帝に逆らえばタランの命が危なかったからだ。

「……ならば、仕方ないか」

「完成までにはあと一週間といったところです」

「……よろしい。完成次第、デスラー砲の試射に向かうとしよう」

「ははっ!」

「ところでタラン」

「はい、総統閣下」

「大帝は、君と、我々の部下たちを自由にしたぞ」

「……本当ですか!?」

「お前にもゲーニッツのあの顔を見せてやりたかったよ。タラン、完成を心待ちにしているぞ」

「ご期待に添えるよう万全を尽くします!」

 


 

 所変わって。

 地球から約4.3光年離れた位置にアルファ・ケンタウリ星系はある。

 ヤマトやそのクルーたちとっては、地球からイスカンダルの旅路に比べれば庭の散歩みたいな距離に過ぎなかったが、重武装で戦闘態勢を取りながら臨まなければならない。

 ワープした先に、ガトランティス艦隊が潜んでいるかもしれないからだった。

 

 ヤマトの目の前を、地球軍の次元潜航艇4隻が航行している。

『僚艦「スヴァールバル」、「フェロー」、「フリースラント」、「オガサワラ」が先行します』

 第二艦橋の新見がそう報告してきた。

 地球軍ではガミラスの技術を取り入れた次元潜航艇を開発・建造し、この時点で12隻が既に就航していた。

 この艦級は「スヴァールバル級次元潜航艇」と呼ばれ、命名基準は地球の諸島名に因む。

 偵察を行なうには打ってつけの艦であり、敵艦隊にカラクルム級の姿があるかどうかを調べるならば最適でもあった。

 ヤマトの目の前でスヴァールバル級次元潜航艇4隻がワープに入ると同時に次元潜航を開始する。

 向こうで異常が発生した場合に備え、スヴァールバル級次元潜航艇4隻のジャンプポイントは各々が違う地点に設定されていた。

 あとは報告を待つしかない。

 


 

 同時刻、プロクシマ・ケンタウリ星系第3惑星。

 通称で「プロクシマ3」と呼ばれているこの星は、2180年頃、ガミラスによるテラフォーミングが行なわれ、人間型生命体が居住可能な環境の星になった。

 2190年代後半に起きた地球ーガミラス間の恒星間戦争(いわゆるガミラス戦役)が勃発した際、初期の前線基地として、近隣のアルファ・ケンタウリ11号星と共に利用されたのだが、程なくガミラスは太陽系の外縁から地球人類の影響力を駆逐し、冥王星のテラフォーミングが完了すると、この二つの惑星は補給基地として重要度が低下。

 その後ヤマトが冥王星の前哨基地を壊滅させるも、プロクシマ3とアルファ・ケンタウリ11はヤマトがイスカンダルへ向かう進路上になかったことも相まって、結局両惑星は前線基地に復帰しないまま、ガミラス戦役が終戦を迎えた。

 地球・ガミラス相互協力条約調印後、冥王星は地球連邦政府に返還、プロクシマ3とアルファ・ケンタウリ11は地球連邦へと割譲された。

 

 プロクシマ3は地球圏の食料問題を解決するため、また、今後地球人口が増加した際の入植目的のため、農業開拓星として開発が進んでいた。

 入植地は12あり、その内で中心的な役割を担う総督府は、かつてはガミラスの前哨基地として使用された建物を流用。ガミラスが軌道上に建設した宇宙ステーションとは軌道エレベーターで繋がっていた。

 その軌道エレベーターはガトランティス軍の攻撃によって無惨にもへし折られてしまい、軌道上のステーションも壊滅。

 総督府には軌道エレベーターの破片が降り注ぎ、市街地の一部からは煙が上がっていた。

 そして、ガトランティスの襲撃によって、かつて賑わっていた総督府は見る影もなく荒れ果てて、市街地は瓦礫の山と化していた。

 他の入植地にはプラネタリーシールドという防御システムが存在する。当然総督府にも。

 しかし、総督府では市街地が火事になった影響で安全装置が働いてしまい、プラネタリーシールドは作動出来なかった。

 ガトランティスは地上軍にニードルスレイブという高さ3m前後の機動兵器を多数投入。

 市街地では民間人が大勢虐殺されている惨たらしい光景となっていた。

 しかし、入植者もただ黙ってやられているわけではない。

 巡回中のニードルスレイブに手榴弾を投げつけて破壊した男が一人。

 壮年でいかにも頑固親父という風体の芹沢虎鉄、地球防衛軍元参謀総長がそこにいた。

 

 惑星軌道上では勝利を確信し、高笑いしながら酒の入ったグラスを握っているガトランティス軍の指揮官が、旗艦の艦長席に深く腰掛けていた。

「はっはっは、見たか異教徒どもめ! 総督府陥落は時間の問題だ!」

 プロクシマ3を襲うガトランティスの地球方面攻略艦隊。

 その先陣を切っていたのは、ハドス・デスタール提督だった。

 彼はガトランティスの国教の狂信者とも言える人物であり、彼らの国教を信仰しない者たちを「異教徒」と蔑み罵る。

「敵の他のコロニーは?」

「軌道上からの爆撃を試みていますが、ほとんど効果がないようです」

「ふん、まぁいい。総督府を占領し、敵の通信機能を麻痺させれば惑星陥落は時間の問題だ!」

「提督。ナスカ司令より通信です」

「あの青二才か。ふん。粗方敵の艦隊に弱音でも吐いておるんだろう。繋げ」

「はっ」

 デスタールが命令すると、艦橋のビュースクリーンに青年のガトランティス将校が画面に現れた。

「ナスカ司令。状況は?」

『……提督。セントーリ星系に到達。第11惑星近辺に敵艦隊も確認しました』

 ナスカは明らかに苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、デスタールはそれを気にしないどころか涼しい顔をして聞いていた。

「状況は?」

『敵艦隊をほぼ壊滅させました』

「……まぁ、さすがはナスカ″提督″だな。それで、地上軍の状況は?」

『これより地上軍を投入するところですが、現在、敵の前哨基地に軌道上から爆撃を加えています』

「だが、そう簡単には破れんだろうな。こちらの総督府は陥落させたが、他のコロニーシールドはまだ破れん」

『こちらの場合は敵が軌道エレベーターを有していない分、地上の防御を崩すのは楽ではありません』

「ほう、艦隊戦では一流のナスカ″提督″も地上戦は不得手か。で、増援を寄越せと?」

『はい。地上軍の増強を願います』

「そこまで言うのならば、いいだろう。兵員輸送船を送ってやる。ついでにプラズマ魚雷もくれてやる」

『プラズマ魚雷? あの試作兵器ですか?』

「敵の総督府を落とすのに手間取っていたならば、私が躊躇わず使っていただろうな。だが、そこはもうほぼ陥落。残りは臆病な異教徒共が立て篭もるコロニーだけ。そんなのに試作兵器を使うなど勿体ないからな!はっはっはっは!」

『……感謝いたします。あと、こちらをご覧ください』

 そう言ってナスカが見せたのは、廃墟と化した建物、いや、遺跡だった。

 そのそばに地球の乗り物が残っていた映像だった。

「これは……!」

『特徴からして、古代ガトラザート文明の遺跡であることは疑いようのない事実です』

「……殺せ」

『提督?』

「一人残らず殺せ!その惑星を穢した者たち全員を皆殺しにしろ!」

『提督、それはいくらなんでも……』

「これは命令だ!」

 そう怒ってデスタールは肘掛けのスイッチを拳で叩きつけるように押して通信を切った。

 デスタールの目の前にはドレッドノート級重巡洋艦E.F.S.ディアナがおり、ガトランティス軍の総攻撃を受けて爆沈したところだった。

 プロクシマ3を守っている地球・ガミラス連合艦隊最後の一隻だった。

 その連合艦隊の内訳は、地球側はドレッドノート級重巡洋艦のディアナを旗艦として他に2隻、キリシマ級軽巡洋艦5隻とプリンツ・オイゲン級軽巡洋艦の司令巡洋艦型が4隻。これが主な戦力であり、他にはヴェールヌイ級宇宙駆逐艦12隻で編成された駆逐艦隊と、デューイ級コルベット12隻で編成された警邏艦隊がいたのみ。

 一方でガミラス側はゼルグート級戦艦一隻の他はガイデロール級重巡洋艦、デストリア級軽巡洋艦、ケルカピア級軽巡洋艦、クリピテラ級駆逐艦とメルトリア級駆逐艦といった辺境防衛艦隊の基本のような構成だった。これはプロクシマ3が地球に割譲されて農業開拓星として開発途上だった影響が大きく、地球側の艦隊の戦力が整い次第ガミラス側の艦隊は撤収、もしくはイプシロン・エリダニ星系の艦隊に合流する手筈であった。

 なお、プロクシマ3の防衛艦隊は地球とガミラス合わせて10個艦隊(120隻)、もしくは3個大艦隊(一個大艦隊辺り40隻)おり、84隻がガミラス側の艦隊だったことになる。

 その120隻が既に宇宙の塵となり、残骸と化していた。

 あとは輸送船を撃沈できれば目撃者はいない。そうなれば、地球人はプロクシマ3が壊滅したことなど知る由もなく、これで何も知らない地球艦隊がプロクシマ星系までノコノコやってきたところを強襲すればいいだけだ。

 ジャンプゲートをあえてデスタールが残していたのも、ゲートから現れた地球軍艦隊を待ち伏せるつもりでいたからだった。

 ついでに、それまでにガトランティス軍の前哨基地をプロクシマ3に作って艦隊を常駐させて仕舞えば、地球軍にとってはもはや絶望するしかないだろう。

 例えその時に生き残った地球軍の艦船がいたとしても、彼らは自分たちの母星の背後にガトランティスの大艦隊が陣取っていることを報告せざるを得ない。

 地球が降伏を拒否するなら(デスタールにとっては癪だがデスラーの言う通り地球人が諦めの悪い種族だというなら降伏はあり得ないだろう。それだと、むしろ彼にとって好都合なことに)、あとはこことアルファ・ケンタウリ星系にいるガトランティス艦隊で太陽系を包囲し、煮るなり焼くなり好きにしていいことになる。

「提督、輸送船一隻がジャンプゲートで逃げようとしています!」

「何!?追え、逃すな!」

 輸送船「荒川丸」。プロクシマ3から地球へ穀物を輸送する定期便であり、今日も3000tの穀物を積んでいた。

 輸送船には波動エンジンはない。イオンインパルスエンジンを搭載しているだけであり、3000tもの積み荷が積載されていれば非常に低速にならざるを得なかった。

 しかし、ここで輸送船に逃げられてはデスタールの言う「鮮やかな計画」が台無しになる上に、ジャンプゲートの出口で待ち伏せするという手段も使えなくなる。そして、地球軍が事態に気付いて、遅かれ早かれここに急行するはずだから、前哨基地を作ることは叶わなくなる。

 デスタールはすぐにも配下のラスコー級巡洋艦一隻、ククルカン級駆逐艦二隻に地球連邦の輸送船を追撃するように命じた。

 すぐにも攻撃が始まり、輸送船の船尾に被弾。煙が上がったように見えたが、

「! 何だあれは!?」

 そもそも宇宙空間で煙が上がるはずなどない。船内で何かに引火したとはいえ、宇宙空間に空気はないので煙が出てもほんの一瞬で消えるものだ。

 そのまま爆発するかと思ったが、ところが輸送船から出ている「煙」は違った。

 追撃中のガトランティスの艦はそれをもろに浴びた。

 その内の一隻であるラスコー級巡洋艦の艦長が音声だけで報告してきた。

『こ、穀物です! 輸送船が穀物を放出しています! 我々への目眩しのつもりでしょう!』

「ぐぬぬ……小癪な! おい、その進路状にいるデスバテーター、輸送船を何としても撃沈しろ!」

『手遅れです! ジャンプゲートが開きました!』

 輸送船はジャンプゲートで人工ワームホールを形成させ、そのまま飛び込んでしまった。

 追撃を命じられた三隻とデスバテーター四機がその後を追ってジャンプゲートを潜っていった。

「クソッ!」

 デスタールは持っていたグラスを床に叩きつけた。

 彼がジャンプゲートを保持していたのは、前述したように地球軍艦隊を釣り出した時に待ち伏せ攻撃を仕掛ける作戦のためだった。

 しかし、輸送船に逃げられてしまってはそれも最早無意味と悟り、

「あの忌々しいゲートを破壊しろ!!」

「し、しかし、提督、あれは未知の技術で作られた人工回廊形成装置ですから……」

「命令が聞こえなかったのか!早く破壊しろ!」

「……はい、提督」

 部下は忠告したが、デスタールは聞く耳を持たなかった。

 デスタールの命令によってガトランティス艦隊はジャンプゲートに集中攻撃を浴びせるが、破壊した瞬間、デスタールたちの目の前で眩い閃光が走った。

 そして、ジャンプゲートから半径50kmにいたガトランティス艦隊の艦が数隻巻き添えになった。

「……地球人め。この恨みは忘れんぞ。コロニーへの攻撃を強化しろ!」

 だが、部下の制止を聞かずにジャンプゲートを破壊したのはデスタール自身だった。部下たちはデスタールに見えないように呆れた顔をしていた。

 


 

 一方、アルファ・ケンタウリ11号星の軌道上。

 地球軍艦隊の残骸の中を進むナスカ司令官の艦隊では。

「た、助けて……」

「お、お願い、やめて……」

 先ほどゴズモダード・ナスカ司令たちが撃破したセントーリ星系=アルファ・ケンタウリ星系防衛艦隊の生き残りたちは、ナスカの前に連れて来られていた。

 

 数時間前。

 アルファ・ケンタウリ星系の外縁部。

 ナスカは艦長室に篭って、ある図面を見ていた。

 ドアフォンが鳴った。

「誰だ?」

【メーザーです】

「入れ」

 ガトランティスの青年士官がナスカの前にやって来た。

「司令官。我が艦隊に与えられた戦力は、ナスカ級軽空母4隻と、ニードルスレイブ揚陸艦30隻のみです」

「……デスタールめ。わざわざご丁寧に私の失脚を狙っていると言わんばかりのふざけた戦力しか寄越してこなかったか」

 怒りを通り越して呆れたような表情を浮かべるナスカ。

 メーザーは、そのナスカが見ていたものを尋ねた。

「それは?」

「これか? ガトランティスの軍事データベースだ」

 すると、ナスカの口元が緩むのを見て、メーザーは口調を崩して言った。

「……何か思いついたんだな?」

「その通りだ」

 実はナスカが見ていたのは……。

「地球の諺だ。敵を知りて己を知れば……」

「百戦危うからず。何と言ったか、ゾンシだったか?」

「ガイレーン局長に頭を下げた甲斐はあった。地球の軍艦の残骸から出てきた兵法書はあくまでもオマケだが、その諺の通りだ」

 ナスカが見ていたのは、ドレッドノート級戦艦の残骸……即ち、ガリア4号星の戦いでガトランティスが破壊したE.F.S.ドミニオンのもの。そのレーダーシステムを調べていたナスカは、地球軍の艦船の弱点に気付いた。

「連中のレーダーは、我がガトランティスの初期の宇宙軍艦に使われていたシステムとそっくりだ」

 考えを察したメーザーが先回りして言った。

「初期に使われていたレーダーはメトリオン粒子が充満する環境下では使い物にならなかったらしいな。しかし、敵の目を潰しても、軽空母4隻対巡洋艦12隻では分が悪いことに変わりがないだろう」

「ところが、大いに効果がありそうだ。私の見立てが正しければ、連中の軍艦は我がガトランティス以上に人工知能や自動システムに頼りっきりだ」

「なら射撃管制がレーダー誘導に依存しているとしても驚かないが……我々が連中の軍艦を調べ抜いていたと知れていればその弱点は通用しないかもしれないぞ?」

「知れていても、連中には改善する時間が無かっただろうな。これだけ自動化されているならば、地球人の人口が思ったより少ないか、もしくは防衛すべき拠点を増やしすぎてクルーが足りないと考えられるからな」

「それなら……お前の言う「ふざけた戦力」でも勝ち目はあるんだな?」

「……当然だ」

 信頼を寄せてくれるメーザーに対し、ナスカはニヤリと笑ってみせた。

 

 一方、アルファ・ケンタウリ11号星。

 この惑星の地上には地球連邦の前哨基地があり、そこに常駐しているのは地球連邦宇宙軍歩兵部隊。ただし、旧称である「空間騎兵隊」の方が人々にはわかりやすいかもしれない。

 基地司令官の部屋の前に、身長が180cmはある大柄な30代の男性がやってきた。緑色の戦闘服とヘルメットが彼を空間騎兵隊の隊員であると表していた。

「司令官、斎藤だ」

【入れ】

 そうして部屋に入ると、

「呼び出すなんて、一体どうしたんだ?」

 礼儀は何処かに置いてきた。そう言わんばかりにこの斎藤という男は司令官を務める中年から壮年に差し掛かりつつある男性に呼び出された理由を不躾ながら問う。

「斎藤。すまないが暫く礼儀正しくして貰えないか?」

「そう言われるのは数ヶ月ぶりだが、とっくに諦めたと思ってたぜ」

「私に対してではない。これから二、三日中にお客さんが来るんでな」

「お客だって?」

「聞いて驚け。ヤマトだ。ヤマトがここに来る」

 司令官は終始真面目だったが、

「……ぷっはははは!司令も冗談が上手くなったなぁ!」

「冗談でこんなこと言うかこのバカ者!」

 そう言われると、斎藤も笑うのをやめた。

「……じゃぁマジなのか?」

「そうだ」

「マジか……モスボール状態になってると聞いてたが」

「私だって驚いて3回も確認したぞ。ただな、ヤマトは出港したはいいが、クルーが足りないそうだ」

「そりゃ1000人は乗れる船だもんな。で?つまり、俺たちの中からヤマトに乗りたい奴を選べってことか?」

「そういうことだ。長官曰く、保安部門と戦術科のクルーが……」

 しかし、ここで基地内に警報とサイレンが鳴り響いた。

『総員、配置につけ。総員、配置につけ。第一警戒体制!』

 そのアナウンスが耳に入るや否や、斎藤と基地司令官は互いに顔を見合わせてから部屋を出て各々の部署に向かった。

 

 司令室へ駆け込んだ司令官は部下たちに何があったのかを問う。

「報告しろ」

「デヴァステーションから緊急連絡です、この星に大型の隕石が向かってきているそうです!」

「何だと!?」

 

 しかし、その隕石だが、実はナスカ艦隊が星系外に存在しているアステロイドベルトからトラクタービームで小惑星を捕捉し、わざと11号星への直撃コースに乗せたことをこの時の地球人たちは誰一人として知る由はなかった。

 

「目標の小惑星、11号星への衝突コースに乗りました」

「揚陸艦、順調に小惑星に定着してます、ガイゼンガン機関シールドも正常に稼働」

 

 直径20kmにも及ぶ小惑星には大きな窪みをしたクレーターが3つあり、それらの中にナスカはニードルスレイブ揚陸艦を一隻ずつ潜り込ませている。

 地球艦の機関といえば波動機関、ガミラスはゲシュタム機関を用いているが、ガトランティスではガイゼンガン機関と呼ばれるものを使用している。

 ガトランティス人はこの機関をほぼほぼ推進力と攻撃のエネルギー強化に使用しているが、ナスカはドレッドノート級のレーダーシステムだけでなく、波動機関についても不完全ながらも復元されたデータ、及びガリア4号星での戦闘時の映像などを元に、地球人が波動機関をどのように用いていたのかをある程度推察していた。

 そして、波動機関が地球軍では主砲のエネルギー、及び、波動防壁と呼ばれているらしき一種の防御シールドのエネルギーとして転用している事実に間も無く気づいた。

 

(攻撃と防御と推進力……地球人はよくまぁ自前の機関をそこまで多様化出来たものだ。悔しいことに我々ガトランティスには攻撃と推進力の増強にしかガイゼンガン機関を用いてこなかった)

 

 ナスカはそんなことを考えつつアルファ・ケンタウリ11号星へと向かう小惑星の映像に目を向けて思わず歯軋りをした。

 

「……だが、今回は違うぞ」

 

 ナスカがそう呟いた直後、部下からの報告が飛ぶ。

 

「敵艦隊、小惑星の迎撃を開始します」

 

 デヴァステーション率いる地球軍艦隊が主砲の一斉射撃を加えて小惑星を破壊しよう試みた、のだが……。

 

 

 

『ダメです、歯が立ちません!』

『一体どうなっているんだ……シールドのようなものがある』

 

 その報告はアルファ・ケンタウリ11の地球軍基地にも齎されていた。

 迎撃に向かった艦隊からの報告で、基地司令官も斎藤もこの小惑星が、何者か(ガトランティス)の手によってアルファ・ケンタウリ11に衝突するように仕向けられたことを悟った。

 

「シールドだと……!?」

「おい、まさか……!」

 

 地球軍の誰もが嫌な汗をかいていたのは言うまでもない。

 地球軍艦隊は砲撃を強化し、魚雷も発射した。

 

 

 

「敵艦隊、波動エネルギーによる主砲斉射に加え、実弾攻撃も開始」

「……不味いな。波動エネルギーの攻撃は跳ね返せるが、実弾攻撃となると……」

 

 ナスカの懸念はすぐに現実のものになる。

 ガイゼンガン機関を調整して10kmの小惑星を覆えるシールドを用意したものの、類似するエネルギー源(波動機関)を攻撃に用いた非実体弾攻撃には耐えられたとしても、それ以外の実弾攻撃はシールドを貫通し、小惑星本体に文字通り突き刺さって爆ぜていた。

 

「やはりか……」

「如何しましょうか?」

「少し脅かしてやろう。全艦、地球軍艦隊への攻撃を開始!」

 

 

 ナスカが率いるガトランティス艦隊が現れたことには地球軍もすぐに気付いた。

『艦長、ガトランティスの艦隊が出現しました!』

『何だと?何故見落とした!?』

『敵は11号星の最外縁の月に隠れていたようです……敵艦発砲!』

 

 

「射程距離外ですが、司令官?」

「構わない、連中の注意さえ引ければいい。敵の駆逐艦を優先的に狙え」

 ナスカは射程距離外にも関わらず全艦隊に砲撃開始を命令したが、単に敵の注意を自分たちに向けさせると同時に、小惑星へ実弾攻撃を行なえる地球軍艦を狙うように命じる。

 とはいえ、これはナスカにとってはハッタリが通用するかどうかの賭けでもあった。

 

 

『敵は駆逐艦を狙ってきます!』

『回避行動、回避行動だ!』

 

 ナスカはドレッドノート級のスペックをある程度把握している。

 しかし、地球軍側は果たしてガトランティス艦の最大射程距離を理解しているだろうか?

 答えは否である。

 

 射程外からの攻撃とも知らずに地球軍艦隊は回避行動を命じた時点で、ナスカは賭けに勝ったも同然だった。

 回避行動を命じたら、魚雷による小惑星攻撃も半減せざるを得ず、そのまま小惑星は11号星の引力にも引かれ始め、スピードが増していった。

 

「よし。用意」

 

 ナスカがそう言い、腕を振り上げると、部下はコンソールの大きなボタンに指を乗せる。

 

 そのまま小惑星は地球軍艦隊の防御ラインの手前まで食い込んだのを確認すると、

 

「今だ!」

 

 ナスカが腕を振り下ろすと同時に、部下はボタンを押した。

 

 すると、小惑星が途端に自爆した。

 

『しょ、小惑星が自爆した……!?』

『連中、一体何がしたいんだ……?』

『か、艦長! レーダー使用不能です!! 自動誘導システムも使えません!?』

 

 

 

「メトリオン粒子、敵艦隊の付近で充満。敵艦からの砲撃止みました」

「よし。全部隊前進!」

 

 ニードルスレイブ揚陸艦に積める限り詰め込んだメトリオン粒子。

 それは小惑星の自爆と同時に地球軍艦隊の眼前にばら撒かれた。

 これによって地球軍艦隊はレーダー誘導に頼り切りだった主砲や武器がまるで使い物にならなくなり、混乱している隙を突いて地球軍艦隊を急襲。

 

 あっという間に旗艦デヴァステーションを含む地球軍艦隊は宇宙の藻屑と消えた。

 

 

 

 地上には地球外文明が遺した古代遺跡を調査するために訪れた考古学者たちと、堅牢な前哨基地で籠城する地球連邦宇宙軍歩兵部隊第11連隊が取り残され、ナスカの投入した地上軍により今や猛攻を受けていた。

 

 そして、ナスカの目の前に生き残った捕虜が突き出されてきて、彼はその内の一人である男性に銃口を突きつけるが……引き金を引かなかった。

 もう一人。女性の頭にも銃口を突きつけるが……同じく撃たなかった。

「……メーザー。デスタール提督は「この惑星にいる者を全員皆殺しにしろ」と言っただけで、「すぐに殺せ」とは言ってなかったな?」

 副官のメーザーにナスカは尋ねると、

「えぇ。確かにそうですね」

「では、監房に入れておけ。後で尋問する。連れて行け!」

 そうしてガトランティス兵たちは捕虜二人を監房に連行して行った。

 メーザーは尋ねる。

「……良いのですか?」

「凄まじい屁理屈であることは私もよくわかっているさ。だが、処刑しようにも萎えてしまったんでな」

 ナスカは持っていた銃を自分の腰のホルスターに戻した。

 このナスカ司令官が指揮する「バランタヌクス」はナスカ級軽空母という艦級であるが、そもそもこの艦の基本設計を作ったのはコズモダードの曽祖父だった。

 ナスカの曽祖父は、かつて科学奴隷であり、アンドロメダ銀河系(彼らの母なる大銀河系)においてガトランティスと最期まで戦い滅ぼされた種族の出身だった。

 曽祖父はガトランティスに忠義を尽くした結果、ガトランティス人に「改造」され、科学奴隷から昇格することができたという。

 曽祖父がこの艦を設計したのは500年以上前であったが、基本設計は汎用性に優れており、500年間ガトランティス軍の主力艦船としての地位に留まっており、その年月の間に幾度も改良と量産が繰り返されていた。

 なお、「バランタヌクス」の艦名を名付けたのは、副官のメーザーだった。

 彼曰く、この名前は自分の名付け親から拝借したものだそうだ。

 

 閑話休題。

 

「それでも、勝ったじゃないですか」

「今のところはな」

「……悲観的ですね」

「お前だって、降格させられ、デスタールみたいな横暴な上司の下に付けられたらそうなるさ」

「それは俺も同じでしょう?」

「……それはそうだな」

「では何故悲観的になっているんだ?」

 メーザーがそれを問うと、ナスカは続きを艦長室で話すことにした。

 艦長室で二人きりになると、ナスカは口を開いた。

「……これは、名誉と栄光ある聖戦ではなかったのか?」

 ナスカは、明らかに落胆した様子でメーザーに投げ掛けた。

「お前が助けたガミラスのデスラー。ヤツが譫言の様に口にしていた"ヤマト"という戦艦。
ガミラスの主力艦隊を壊滅させ、デスラーを敗北に追い込んだ。更に、グタバ遠征軍のゴラン・ダガーム。ヤツが乗っていたメダルーサ級戦艦を撃沈し、グタバ遠征軍を壊滅させた地球最強の戦艦。私が最前線を志願したのは、そういう強い相手と戦いたかったからだ。それも、砲撃が命の戦艦を、我が曽祖父の名を冠した艦級である軽空母が倒すという、一見不可能に思えることを、私は可能にしてみたかった」

 コズモダード・ナスカはかつて最年少でガトランティス艦隊提督に上り詰めたこともある猛将でもあった。達成目標が難しいほど情熱を燃やす人物であることもメーザーは長い付き合いだからよく知っていた。

「だが、蓋を開けてみれば、我々がやっていることは何だ?聖戦の名を借りた、ただの大量虐殺ではないか。無抵抗な相手や抵抗できない捕虜を一方的に処刑する行為のどこに名誉がある?」

 そして、ナスカは自分よりも強い相手を自らの戦略や知略で捩じ伏せることを好むが、それ故に無抵抗な者へ銃を向けることは彼のプライドが許さなかった。

 一度は艦隊提督になったほどの猛将であればカラクルム級戦艦を指揮する権利などすぐに握れたのだが、ナスカは自らが指揮する艦は必ずナスカ級と決めており、砲雷撃戦の一番槍は必ず他の者に譲っていた。

 それを謙虚と受け止めるべきか頑固と見るべきかは受け取り手によるが、ほとんどの場合、後者だろう。

「それは父上に面と向かって言って欲しいのだが」

「……流石に私の首が飛ぶ。少なくともヤマトという船と一戦交えるまで死ぬ気はないからな」

「全く。今のお前の階級は司令官なんだぞ? 拘りがすぎるとデスタールの傘下からいつまでも抜けられないぞ?」

「わかっている。捕虜は扱いはともかく、今我々が対峙しているのは間違いなく軍隊だ。ならば、私も手は抜かんよ」

「……そういえば、軌道上の敵は片付いたが、地上の敵はどうする?」

「降伏を促したところで応じるとは思えんな」

「確かに」

 すると、メーザーは地球人が11号星の地上に築いた基地を上空から撮影した映像をホロプロジェクターで出力させた。

「地上の状況を偵察機が確認したが、敵はコロニーシールドで基地を覆い、その外には塹壕が多数あるようだ」

「ニードルスレイブを投入しても苦戦しそうだな」

「兵員輸送船が来るのに早くても2時間は掛かる。……爆撃を加えてみるか?」

「そうしよう」

「了解した」

 すると、ナスカはメーザーの去り際で、思い出したかのように言った。

「……おい、メーザー。マトシュヴァクみたいな無茶はするなよ?」

「……わかってる。俺を誰だと思っているんだ?」

 ドアから出ていくメーザーは一瞬振り向いて頬を吊り上げていた。

「……血筋は争えんな」

 出撃していくメーザーの後ろ姿を見送ってナスカはそう一人零した。

『司令官、地球人のジャンプゲートに動きがあります!』

「わかった」

 ナスカは部屋を出て艦橋に現れたが、ナスカは呟いた。

「まさか、敵か……?」

 それを聞いて、報告を寄越してきた部下の顔は青褪める。ガミラス人ほどではないが。

「そ、そんな、早すぎます……」

「落ち着け。全艦迎撃用意!」

(とはいえ、地球軍の援軍が駆けつけてくると正面から撃ち合うなら軽空母には分が悪い。それにしても、地球軍に事態が伝わるのが早すぎる。まさか、デスタールが失態を演じたのか?)

「ゲートから船が現れます!」

 唾を飲み込みながら考えを巡らせたナスカ。時間はたった数秒だが、ゲートから物体が飛び出してくるまではもっと長く感じた。

 そして、ゲートから現れたのは……。

「し、司令官、あれは敵ではありません!」

「あぁ。見ればわかる。問題は、何故ここに……?」

 ナスカたちの艦隊の前に飛び出してきたのは、艦の前方部分を失ったククルカン級駆逐艦だった。

「すぐにクルーを救助しろ! 一体何がどうなっているのだ……!?」

 ナスカは困惑すると同時に、嫌な予感がした。

 


 

 アルファ・ケンタウリ11のジャンプゲートから、ククルカン級駆逐艦の残りが放出されたのには理由があった。

 まず、入口だったはずのプロクシマ3のジャンプゲートがデスタール艦隊に破壊されたこと。

 その次に、太陽系側のジャンプゲートが強制的にロックダウンされたこと。

 これによってジャンプゲート内を半エネルギー化して移動中だったククルカン級駆逐艦は艦首だけが切り取られる形で太陽系側のジャンプゲートの外に実体化。

 ロックダウンによって実体化出来なかった残りの部分は、入口であるプロクシマ3から一番近隣に設置されていたアルファ・ケンタウリ11のジャンプゲートの外に放り出されたわけである。

 残念ながら、プロクシマ3側のジャンプゲートが破壊されたことなど、現時点では地球軍に知る由は無かったが。

 太陽系側のジャンプゲートのすぐ外にはククルカン級の艦首を含めた前方部分が残骸として宇宙空間に漂っていた。

 

 ヤマトはその残骸を尻目に演習を開始。

『第一主砲、撃ち方始め!』

 冥王星宙域からワープしてくる廃艦予定の無人のガミラス艦を順次砲撃していく。

「カリスト、及びエウロパの影から敵機接近!」

「両舷パルスレーザー銃座、防空射撃用意!」

「第二、第三主砲、射撃用意!」

『こ、こちら第二主砲!ターゲットをロックできません!』

 狙い通りだ。古代はニヤッとした。

「接近中の敵機がジャミング波を出しています……あ。ジャミング機が敵艦を囲みました」

 レーダー主席にいる雪は冷静さを崩さずに報告してきた。

『て、敵艦に照準が合いません!』

『だ、第三主砲も同様です!』

「手動に切り替えて目視で撃て」

『だ、第三主砲、手動に切り替え。ターゲットを目視、砲撃します!』

「撃て!」

 第三主砲はエウロパ方向から飛んでくる敵機の集団に向けて砲撃した。

 命中はしていないが主砲の砲撃の余波で敵機の編成が崩れ、そのままヤマトの左舷側を抜けようとしたが、

『パルスレーザー、手動射撃開始!』

 パルスレーザーの銃座に座る射撃主たち、半分は戦術科のクルーたちであり、手動での射撃は手慣れたものだった。

 ところが、カリストの方向、つまりヤマトのほぼ正面から向かってきている敵艦隊に対して第二主砲は沈黙したままだった。

「第二主砲、桜井、何をやってる!?」

『手動にしたらレーダー誘導が使えません!』

「手動だから当たり前じゃないか!」

『第一主砲次弾装填よし。目標を目視で捉えています』

「第一主砲斉射!」

 第二主砲の代わりに次弾装填が出来た第一主砲の砲撃が仮想敵艦であるガイデロール級の船体に突き刺さり、見事に撃沈できた。

 残存していた演習用ドローン機もパルスレーザーが全て撃墜して終わった。

「訓練終了。戦術科のクルー、全員すぐにCICに集合!」

 声を荒らげながら南部は戦術科のクルー全員を呼びつけた。

「南部、落ち着け」

「艦長、今の訓練成績が散々だったのは見ていたじゃないですか!」

「だが……」

 古代が言わんとすることに、南部は一旦怒りの矛を収めた。

「……そうですね。一体何が原因で彼女があんな判断をしたのか、聞かないと。ですね?」

「そうだ。そのために俺たちは訓練しているんじゃないか」

 


 

 舞台は再びアルファ・ケンタウリ11号星に戻る。

 この星はプロクシマ3と同様にガミラスによるテラフォーミングの結果、地球型の生命体の生存に適した環境となり、ガミラス戦役後に地球へ割譲されたが、こちらでは地球外知的生命体による超古代文明の遺跡がガミラスの前哨基地時代に発見されたことで、宇宙考古学者たちの興味を大いに引いた。

 地球軍もこの遺跡に関心を示したことから、今しばらくは入植者の受け入れが棚上げになっていた。

 

 その判断は、恐らく今のところは正しかったかもしれない。

 11号星の軌道上を守備していたのは一個艦隊12隻程度の戦力であり、これはナスカ艦隊の知略により簡単に撃破されてしまった。

 一方、地上に築かれた地球連邦の前哨基地の外には地球連邦と日本の国旗が掲げられていたが、警報が鳴り響くと旗が下された。

 そして、一個連隊1200人にも及ぶ歩兵たちが大急ぎで戦闘態勢を整えていた。

 基地の司令室へ斎藤が足を運んできた。

「守備艦隊旗艦デヴァステーションからの応答が途絶えました!」

「敵勢力の正体が判明、ガトランティス軍です!」

「やはりか……。何でこんなところに……!」

「司令官。指示をくれ」

「……」

 司令官は基地のモニターに表示された敵艦の姿を見て、現実を受け入れる他なかった。

 その映像を送ってきていた人工衛星は直後に破壊されたらしく、画面はすぐに砂嵐になった。

「斎藤隊長。敵は地上軍を投入してくるだろう。すぐに迎撃準備を整えてくれ」

「元よりそのつもりで迎撃準備は整ってるぜ。だが、いつまで持ち堪えられるかはわからねぇぞ」

「ヤマトが来るのは早くても二日だ」

「二日間なんとか持ち堪えるしかねぇな……助けは早い方がいいんだが?」

 斎藤に言われ、司令官は通信士に命令しようとした。

「……地球への通信は?プロクシマ3でもいい、すぐに警告しなければ」

「通信衛星が破壊される前に果たして地球にメッセージが送信されたかどうか……」

「……つまり、地球からの援軍がいつ来るかはわからねぇってことか」

「そういうことになるな」

「わかった。じゃぁ、基地から出るなよ!」

「斎藤!」

「わかってるさ、無茶はしねぇよ!」

「頼んだぞ」

 斎藤率いる空間騎兵隊は、いつ現れてもおかしくないガトランティスの地上軍に備える。

「敵機、こちらに向かってきます!」

 だが、敵の揚陸艦よりも先に、「バランタヌクス」から発艦したメーザー率いるデスバテーターの艦載機部隊が基地に迫った。

「すぐに撃ち落とせ」

 自動照準式の基地対空砲。宇宙空間のメトリオン粒子も地上には影響しない。

 基地対空砲は迫ってくるデスバテーターに向けて発砲を始めた。

 

 真っ先に一機が撃ち落とされるが、メーザーは冷静だった。

「やはりな。メトリオン粒子の効果があるのは宇宙空間だけか」

 基地対空砲をひらりひらりとかわすメーザー率いるデバステーター編隊。

 それでも一機、また一機と落ちていく。

「ならば、これで五分五分だ!」

 そうしてメーザー機をはじめ、デスバテーター各機が腹部のシャッターを開いて魚雷を放つ。

 

 その魚雷はシールドに阻まれて基地に直接のダメージを与えることはなかった。

 しかし、

「! レーダー使用不能です!」

「何だと!?」

 基地の対空砲はレーダーと連動している。そのレーダーが使い物にならなくなると、対空砲はデタラメに発砲するしかない。

「やめだやめ、砲撃やめ! 手動に切り替えろ!!」

 メーザーたちが基地に魚雷で打ち込んだのはメトリオン粒子だった。

 基地の周りが紫色のモヤのようなものに包まれる。

「何これ……?」

 第1大隊第3狙撃中隊隊長の永倉詩織はその光景に驚いた。

 モヤはすぐに拡散したが、彼女たちがスナイパーライフルを操作してみると、

「……ダメです、自動追尾が使えません」

 空間騎兵隊の隊員たちは体内にトランスポンダーを埋め込んでいる。

 そのトランスポンダーに反応しない生体反応や電波を拾うと、スナイパースコープにその反応や電波の方向を示すインジケーターが表示される。

 ところが、そのインジケーターがあのモヤのせいで明らかに暴走して使い物にならない。

「ということは……敵を見つけるには昔ながらの方法を使うしかないってことね」

 

「いいぞ。連中の対空砲は自動照準が使えなくなったな。その隙に対空砲をできる限り破壊するぞ!」

『了解!』

 自動追尾が使えなくなった、シールド外の対空砲にメーザーたちのミサイルが集中する。

 ほとんどの対空砲は手動に切り替えられる前に沈黙、もしくは敵を捉えられないまま多数が破壊された。

「よし、いいぞ。基地の南側の対空砲は片付けた」

『隊長』

「あぁ、そうだ。忘れるところだったな」

 メーザーは僚機に言われて最後の仕上げに取り掛かる。

 デスバテーターは複数の爆弾のようなものを去り際に落としていった。先ほどの魚雷やミサイルとも違う。

 一先ず、メーザーたちの第一次攻撃は完了した。

 

「連中、何かを落としていきました!」

 狙撃隊の隊員の一人がその方向をスコープで見ていたら、

「ぐあぁ!」

「今度は何なの!?」

 今度は眩い閃光が走り、スコープでそれを覗いていた隊員は一瞬失明してしまった。

 その眩い光が止んだを思えば、今度は灰色の煙が周りを覆う。

「全員持ち場を離れるな!」

 隊員たちを落ち着かせようと斎藤はそう叫ぶ。

 続いて、何かが地上に降りた音がした。

 そして、灰色の煙の中で不気味な光を放ちながら、それは隊員たちの前に現れた。

「……何だ、あれは?」

 その場にいる者たちは知らない。

 それは、ガトランティスの自動化機械歩兵「ニードルスレイブ」だった。

 数えきれないほどのニードルスレイブが、基地の南から迫りつつあった……。

 


 

 ヤマトの第二艦橋、CICを兼ねているこの部屋に戦術科のクルーたちが集められた。

「君たちを呼んだのは他でもない。先ほどの訓練の結果は酷いものだった」

 古代がそう口を開くと、CICの雰囲気は一気に重くなった。

「これが実戦なら、ヤマトは沈んでいたかもしれない」

 南部が追い討ちのような一言を口にした。古代はさらに、

「しかも実戦まであと二日しかない」

 それを聞いた戦術科のクルーたちはさらに騒めく。

「だからこそだ。何がいけなかったのか大きな原因を挙げていこう」

 そうして古代が電子式ブラックボードに書き出したのは、

〔手動への切り替えの遅れ〕

〔目視射撃の習熟不足〕

 という二点。

「こんなところだ。君たちのほとんどは恐らくドレッドノート級、ないしはアンドロメダ級の主砲塔の扱い方を訓練で習ってきたかと思う。当然、ヤマトもドレッドノート級やアンドロメダ級と同様にレーダー射撃による砲撃は可能だ。だが、今回の訓練では突発的にレーダーが使えない状況を作らせた」

「第一主砲の対応は良かった。次弾装填後の目視による照準合わせも誤差の範囲内で合格点だ」

 それを聞いた第一主砲のクルーたちは安堵の溜め息を漏らした。

「……第三主砲の場合は手動操作への切り替えが遅れたな? だが、それ以外は悪くなかった。あとはレスポンスタイムの短縮が課題だな」

 第三主砲のクルーたちは安堵反面、冷や汗を流す。

「しかし、問題は第二主砲だ。桜井。君は何故手動に切り替えなかった?」

「……この船の主砲だと、手動に切り替えたらレーダー誘導が使えませんでした」

「だがレーダー誘導がなくても目視で狙いを定めて撃てたはずだろう?」

「そんな前時代的な……」

「例え時代遅れに思えても時には必要なことだ」

「しかし、アンドロメダやドレッドノートであれば、あのようなジャミング、ECCMで簡単に破れたはずでは?」

「そのレーダーが破壊されたら?」

「僚艦に任せます」

「僚艦がいなかったら?」

「航空隊が攻撃すれば……」

「航空隊もいなかったら?」

「そ、それは……」

「今回の演習は少し意地悪だったかもしれないが、ヤマトが例えばレーダー誘導が使えない、例えばレーダーがジャミング、ないしは破壊された状態で敵艦に遭遇、航空隊を下ろす暇もなく、単艦で行動しなければならない状況に放り込まれたらどうするか。その時に頼りになるのは主砲と副砲。それを自分の目で見て敵を撃つ。それしかないんだ」

「しかし目視で捉える前に攻撃を受けた場合は?」

「波動防壁がある。仮に波動防壁が展開できなかったとしてもこの船は砲撃を一発受けた程度では沈まない。ドレッドノート級よりも遥かに頑丈な作りをしているからな」

「……」

「……桜井、不満でもあるのか?」

「……僭越ながら申し上げてもよろしいですか?」

 南部の問いかけに桜井がそう具申してくると、南部は古代と顔を合わせて、頷いた。

「……わかった。話せ」

 すると桜井は意を決したように言った。

「何故、ヤマトの装備はこんなに古臭いのですか?」

 それを聞いた途端、南部の額に青筋が浮かんだ。

「古臭い……だと!?」

「えぇ。レーダー誘導を使えないヘンテコな訓練に加えて自動化されていない主砲は扱いにくい……どうしてヤマトの全砲を自動化しないのですか?第三主砲や第二副砲のように」

「第二副砲と第三主砲はその下に機関部や格納庫があるからだ」

「つまり?」

「イスカンダルへの航海時、第三主砲と第二副砲は実体弾を使えなかった。その弾薬を保持するセーフティスペースを用意できなかったせいでもある。だからだ」

「では第一主砲や第二主砲は? あんな扱いづらいならどうせ再就役する時に自動化するべきでした!」

「桜井。言葉が過ぎるぞ」

「ですが事実です。今更目視で目標を捉える時代遅れな方法まで推奨されるなんて……」

「その目視に捉えて撃つということを君はできていないだろ?」

「……」

 そう南部に反論されると桜井は押し黙った。すると、古代が自動化についての難点を述べる。

「それに、自動化ばかりが良いとは限らない」

「……そうですか?」

「あぁ。例えばハードの故障ならば目で見るか使ってみてわかる範囲で済むかもしれない。しかし、ソフトの故障だった場合はどうする? 例えばプログラムの破損や暴走、バグとかだ」

「でも、ドレッドノート級やアンドロメダにはそれに備えた高度な自己診断機能があるじゃないですか」

 そう、ドレッドノート級やアンドロメダは乗員数が少ない一方で船体の規模がそれに対して大きいため、自動化システムに頼ってる部分が多い。しかし、ヤマトでは勝手が違う。南部が言った。

「それを使ってもプログラムの不具合を見つけて修正するまでに時間が掛かってしまう。そんなことをしている暇があったら不具合を起こしたシステムを切って敵艦を狙って砲撃する方が良いだろう。敵もトラブルも待ってはくれないぞ」

 ふと時計を見た古代。時計は午後5時半を指し示していた。

「……今日の訓練はここまでにしよう」

「艦長、あと二日しか無いんですよ?休んでる暇など……」

「桜井、艦長の指示はまだ終わってないぞ、口を慎め」

「……君自身がその理由を良くわかっているはずだ桜井。こんなパフォーマンスで良い結果など期待できるとは思えない。だから、休む時は休め。命令だ。……ただし、各部のチーフは演習レポートを提出のこと。それ以外のクルーは解散だ」

 そうしてCICから桜井ら数人を除いたクルーたちが退室していったのだが……。

 

 ヤマトの居住区のある一室。

「はぁー……クソッ!!」

 訓練後、自室に戻った桜井は食欲も無くベッドに直行、不貞寝し、敷布団を思わず殴りつけた。

 そして枕を自分の顔に押し付けて、

「゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 そんな怒りを込めた呻き声を出す。

 

✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆✕◆

 

 しばらくして。

「桜井さん? いる?」

「……」

 ルームメイトである岬 百合亜が部屋に戻ってきた。

 手には桜井の分の夕食が載ったトレーを持ってる。

(星名くんがたまたま桜井さんが部屋に戻ってくのを見掛けたって言ってたから、きっと夕飯まだだろうし)

 そんなことを思いつつ、それを机の上に置いた。

「CICでのこと聞いたよ?」

「……」

 桜井が起きてるか寝ているかはわからないが、百合亜は話を続けた。

「艦内でさっき噂になってた……艦長と南部さんに食ってかかったって。大丈夫?」

 すると、不貞寝していた桜井がようやく口を開いた。

「……どうせならこの船から降ろされたい」

「やっぱり起きてた……何故そう思っているの?」

「こんな事言ったら怒られるかもですが……私、この船が嫌いなんです」

 意外すぎる意見に百合亜は言葉に詰まる。

「そう……なんだ」

「前時代的で、古臭いと言うか、先進的じゃない……そもそも私、アンドロメダ級への配属を希望していたんです……」

「あー。た、確かにアンドロメダに比べるとヤマトは勝手が違う……かもしれない」

「分かってますよ、地球軍に就航しているアンドロメダ級戦艦なんてまだ三隻しかないけど、次の船にこそは乗りたい、そう思って来る日も来る日も学校で戦闘訓練を重ねて……配属先が希望通りになる事の方が少ないっていうのもわかっていたつもりでした。ぶっちゃけると、最初はヤマトへの配属に希望を持ってました。だって、地球を救ったあのヤマトですよ? アンドロメダの次に偉大な存在だと思っていた。でも……」

「でも?」

「……ここだと学校で習ったことが何一つ役に立たないし、噂を聞けば今回のことがなければヤマトは退役するはずだったと聞いて、それで凄くガッカリしたんです……」

「そっか……」

「……岬准尉」

「百合亜で良いよ」

「そんな気安く……」

「いいの。親しい人たちは私のことをそう呼んでくれるし。何より桜井さん……んーん、美穂ちゃんと私はルームメイトなんだから。これでも一応先輩だけど、悩みがあるなら気軽に話し合えればいいなって思う」

「……では、百合亜さん」

「なーに、美穂ちゃん?」

「百合亜さんは、この船が好きなんですか?」

「うーん……」

 改めてそれを問われると返事に困る質問だったが、

「そうだね……好きかと言えば、私は好きかも。一年近くこの船で暮らしていたから愛着もあるし。イスカンダルへ行って帰ってくる旅は辛くて大変だったけど、そんな航海の中でもみんなと一緒に困難に立ち向かったり、色んな思い出もある」

「……星名さんと、とか?」

「ほ、星名!?///……そ、そう。そうだね……うん。あの人と出会えたのも、このヤマトに乗っていたからだったし!」

 思わぬ名前が出て赤面し、慌てて平静を取り繕う百合亜。言葉の最後は声が心なしか上擦っていた。

「あー。でもね……ヤマトにはアンドロメダ級やドレッドノート級にはないものだってある」

「アンドロメダやドレッドノートには無いもの……?」

 それを聞いて桜井は漸く上体をベッドから起こした。

「やっと起きた。夕飯を食べたら案内するね!」

 


 

 アルファ・ケンタウリ11号星の地上では、地球軍の空間騎兵隊が粘り強く抵抗を続けていた。

 ガトランティスは機械兵であるニードルスレイブを即時に投入したが、地球側は前以て塹壕を用意していたことが功を奏し、ニードルスレイブの弱点を早々に見つけていた。

 その後、ガトランティス軍は陸戦部隊や戦車を開戦から12時間以内に地上へ投入。ガトランティス側の歩兵の数は4800人にも及び、揚陸戦車も200台という規模であった。

 しかし、

「野戦陣地の構築訓練が役立ったな!」

 ガトランティス歩兵に向けてコスモ重機関銃で応戦するのはこの師団の隊長、斎藤始曹長。彼の横にいる狙撃兵の永倉詩織は同意する。

 実はこのアルファ・ケンタウリ11号星での空間騎兵隊の任務は、基地防衛の他には訓練であった。

 その訓練の内容には、野戦陣地の構築や塹壕の掘り方、及びそれらを用いた戦い方の訓練や研究であった。

 元々塹壕があったのだから、彼らはニードルスレイブを塹壕や狭い洞窟などに誘い込んで弱点を突き、各個撃破する戦術をこの一日中続けていた。

 時たまに兵士や戦車も塹壕を超えてくるが、空間騎兵隊の屈強な兵士たちも負けていない。

 基地の重砲や野砲は戦車を破壊できる威力を備えていたし、基地の外にあちこちに築かれた塹壕や地下道を使って、空間騎兵隊の隊員たちはガトランティス軍の後方へ回り込んで不意打ちを加えたり、対戦車用磁力地雷なども十分なストックがあった。

 結果、ガトランティス兵たちや戦車部隊は空間騎兵隊が用意した落とし穴や沼地の罠に掛かる。

 しかも、この穴のほとんどは空間騎兵隊が重機で何百と穴を掘って作った底なし沼であり、塹壕や野戦陣地はこの底なし沼よりも内側に築かれていた。

 これらを超えても、ガトランティス兵をさらに待つのはスナイパーライフルによる狙撃。

 永倉はガトランティス兵をスコープに捕らえて引き金を引き、彼女の銃から放たれたエネルギー弾は敵兵の頭部を撃ち抜いていた。

 しかし、このままでは追い詰められる一方である状況に変わりなかった。

「畜生、援軍はまだか!」

 若い狙撃兵がアサルトライフルのエネルギーパックを交換し終わると、ガトランティス兵に対して半ばヤケクソ気味に発砲し始める。彼を含めて地球からの援軍が到着しないことに苛立ちを見せ始めている兵士は数多かった。

「落ち着け安祥。……ヤマトが来る」

「え?」

「た、隊長?」

「あれ、言ってなかったか?」

「「初耳ですよ!?」」

 突然出てきた「ヤマト」という単語。空間騎兵隊の隊員たちはそれが即座にあの宇宙戦艦である「BBY−01 ヤマト」だと理解した。しかし、安祥と永倉の反応が斎藤以外の空間騎兵隊の隊員たちの総意たる反応だった。

「隊長、それ本当ですよね!?」

「俺がそんな嘘吐くと思うか!?」

「全然」

「いいえ全く」

「そうだ。時間で言えば……あと1日でここに来る!」

「……よし、そうと決まれば……!」

「やるぞ!」

「おうよ、ヤマトが来るってんなら百人力だ!!」

 空間騎兵隊の隊員たちのやる気を引き出すには充分すぎる知らせだった。

 だが永倉は斎藤に鋭い視線を向けて、「あとで詳しく教えろ」と目で訴えてきた。斎藤は目を逸らしつつ、「わかったわかった」と、根負けしたようにそう答えた。

『斎藤、聞こえるか?』

「司令官か?」

『司令室に来てくれ。見て欲しいものがある』

「わかった。安祥、永倉、ここを任せていいか?」

「了解」

「了解、隊長!」

 斎藤は急いで塹壕を下って基地司令室へと向かった。

 

 一方、永倉の守る塹壕のすぐ近くでは、ニードルスレイブを地上に降下中の揚陸艦に向けて、空間騎兵隊の擲弾部隊のとある兵士が地対空ロケット砲で攻撃した。

 ロケット砲は実に簡素な作りをしていて誘導ミサイルのような命中率こそ期待できないが、射手が砲口を目標に向ければ放たれた砲弾は真っ直ぐ向かう。揚陸艦はミサイルジャマーなどの電子戦装備も搭載していたが、そもそも電子戦に頼らない兵器を持ち出されては無意味だった。

 故に、このロケット弾がニードルスレイブを下ろした後に閉まり切っていない格納扉を超えて真っ直ぐに機内に飛び込むと、揚陸艦は爆散した。

 ナスカ艦隊は確かに艦隊を宇宙空間で撃破したが、空間騎兵隊はニードルスレイブ揚陸艦を既にロケット弾で4隻撃墜していた。それも、ニードルスレイブを投下しようとして艦の下部にある発進口を開いたところを軒並み狙われていた。

 4隻という損害は少ないように思えるが、空間騎兵隊はこれ以外にも11隻にロケット弾を命中させていた。

 しかし、先ほど揚陸艦を撃墜した隊員は基地へ戻る途中でガトランティス兵に撃たれてしまった。

 永倉は目の前でそれを見て飛び出し、安祥が永倉を掩護。永倉が兵士を担いで戻ってくると安祥のすぐ横で双眼鏡を見ていた酒井が言った。

「中隊長、敵が迫ってきています!」

「えぇ、わかっているわ。全員退避!」

「了解!!」

 永倉たちが斎藤に任された塹壕にも敵が迫りつつあった。

 そこで安祥に負傷兵を担がせて、彼を先頭に塹壕にいた空間騎兵隊の隊員たちは一斉に塹壕から基地に続く地下道への避難を開始した。

 そして、永倉が一番最後にその出入り口を爆破して塞いだ。

 ついでにガトランティス兵数人とニードルスレイブ数体を巻き添えにした。

 

 再び11号星の軌道上のナスカ艦隊。

 11号星の地球軍艦隊を壊滅させた時は大した戦力を渡されない状態で勝利したが、ナスカは惑星制圧用の戦力の増強をデスタールに願い出たため、現在、アルファ・ケンタウリ11号星は80隻以上のガトランティス艦隊に包囲されていた。

「軌道上の敵艦隊を掃討してから既に36時間経ったが、地上軍は敵基地の防御を未だに破れていない、か……」

 空母「バランタヌクス」の艦橋で指揮を摂るナスカは多少苛立ちを見せていた。

「デスタール提督が思ったよりも早く兵員輸送船を寄越してくれましたが、それが投入されても敵のシールドに穴すら見つけられないとは……」

「敵も中々にしぶとい」

 ナスカは腕を組み、頬を釣り上げた。

「私がお膳立てしたにも関わらずですからね」

「自動追尾システムを無効化して対空砲を使えなくしたつもりだったが、敵はすぐそれを手動に切り替えてきた。歩兵・戦車部隊に先駆けてニードルスレイブを全部投入したにも関わらず、それから33時間か。敵がその間ひたすら防戦しているところを見ると、連中の練度の高さがわかる。デスタールめ。地球人をただの虫けらと侮って大敗してないか心配になってくるよ」

「そのデスタールが寄越した兵員輸送船もたった4隻……。敵に対する戦力差は歩兵の数だけで見ても4対1でニードルスレイブを加えれば我々の戦力は敵の7倍。これで崩せないとは……」

「……いよいよあれを使うべきかもしれんな。メーザー、デスバテーターにプラズマ魚雷を搭載して連中のコロニーシールドに撃ち込んでやれ」

「それは構いませんが、連中のシールドはその程度で破れるでしょうかね?」

「軌道上からの砲撃だけでは埒が開かない。それにこれ以上手間取るとデスタールに変な横槍を入れられかねない。新兵器を試す絶好の機会ではあるだろう?」

「……了解しました。行ってきます」

 

 

 

 メーザーがデスバテーターに新兵器を載せて出撃準備に入った時、地上の基地では斎藤が司令部に呼び出され、司令官があるものを見せていた。

「これを見てくれ」

 隊長が斎藤に見せたのは、

「これはガミラスの……」

「あぁ。かつての前哨基地の位置がここだ」

 それはこの基地の北。かつてガミラスが太陽系侵略の拠点として使用したが、今ではお役御免となって放棄された基地だった。

 その放棄された基地は山を挟んだ反対側にあり、地上こそガトランティス軍の爆撃で破壊されていたが、地下の施設はまだ使えるかもしれない。

 そもそもこの基地もガミラスの前哨基地があった場所であり、その建物を取り壊して地球が新しい基地を建設していた。

 そして、取り壊される前の基地と北側の破棄された基地は連絡用の地下通路で繋がっていた。それは今も残っているはずだ。

 しかも、北側の基地の地下施設はかなり広く、宇宙船用の地下ドックも存在するらしい。

 司令官は斎藤に負傷者や非戦闘員をこの北側の基地の地下に避難させ、ガトランティス軍が去るまで隠れるように命令するが、斎藤はその命令を聞けなかった。

 この基地にはガミラス戦役を共に経験した戦友たちがいて、彼らはまだ戦っている。

 自分も指揮官なのだから、逃げるわけにはいかないと言った。

 

 同じ頃、基地中央部の食堂は野戦病院の体をなしていた。

「先生、こいつを見てください!」

「そこに寝かせて」

 安祥は負傷した擲弾兵を担いできて、桂木透子という女医の指示でテーブルの上に寝かせた。

 透子は元々はここに常駐する考古学者たちの健康管理のために派遣された民間の医者だったが、今や軍人も民間人も、兵士も考古学者も関係なく、目の前に危機への対応に追われていた。

 空間騎兵隊には軍医として六角美沙という正規の医官がいるのだが、彼女も透子も他の医療スタッフも負傷者の救護に走り回っていた。

「大丈夫、致命傷は免れてる。止血剤を!」

 基地はガトランティス軍の攻撃によって天井のパネルが落ちてきたり、揺れたり、照明が消えた場所もあったが、まだ何とか持ち堪えていた。

 

 そんな時だった。

「敵機、こちらに向かってきます!」

 それは「バランタヌクス」から発艦したメーザー率いるデスバテーターの艦載機部隊であった。

「すぐに撃ち落とせ」

 プラネタリーシールドは先ほども言ったように堅牢だった。

 それこそ宇宙空間からの激しい爆撃に何日か耐えられるだけのエネルギーをこの基地は地熱から得ていた。

 だが、メーザー率いるデスバテーター隊は、多少の犠牲こそあっても対空砲火を巧みに掻い潜り、ついには機体腹面のシャッターを開いて大型の魚雷を基地に向けて放った。

 プラネタリーシールドが阻んでくれる……司令官も斎藤もそう思ったが、すぐにそんな考えが甘かったと思い知らされる。

 プラズマ魚雷は実体弾の中に収束したプラズマ粒子が詰まった武器であり、命中すると眩い光とプラズマをばら撒きながら破裂する。

 雷が落ちるような衝撃を与え、強力な磁場と121TWに相当する莫大な電力を目標物にぶつけて、プラネタリーシールドのキャパシターをショートさせてしまう。

 そして、それは司令部の電子機器を悉く破壊し、コンソールも多数破裂させた。

 かつてのガミラスの前哨基地を司令部のウインドウガラスに表示させ、それを操作して目の前のポケット端末にインストール中だった司令官は、目の前でガラスが弾けてその破片を顔面にもろに浴びてしまう。

「司令!しっかりしろ!」

 斎藤は二、三歩離れた位置にいて、ガラスもヘルメットに弾き返される程度で済んでいた。

「お…前が……指揮官だ、さい……とう…………」

 斎藤は司令官に声を掛けるも、司令官は息も絶え絶えに斎藤に指揮権を委譲してそのまま亡くなってしまった。

 司令部で生き延びたのは他に二人。

 その内の一人が言った。

「……隊長。命令をください」

 斎藤は我に返り、司令官が手にしていたポケット端末を操作する。

 司令官が咄嗟にそれをコンピュータから切り離していたお陰でその端末はプラズマ魚雷の影響を受けずに済んでいた。

 それを操作した斎藤は、ポケット端末に北側のガミラスの基地の情報が入っていることを確認する。

「……全員に知らせろ。この基地を放棄する」

「隊長……?」

「みんな北側の地下基地に脱出しろ。ガト公に見つかるなよ?」

「し、しかし、敵が基地に侵入したら遅かれ早かれ……」

「わかっている。東堂。お前は脱出を指揮。第1大隊は俺が指揮する。俺たちはここで敵を食い止める」

「隊長……」

「行け。早くしろ」

「……わかりました」

 斎藤はポケット端末を東堂に託し、東堂は壊滅した司令部を出て、他の隊員たちに司令官が残した作戦を伝え、この基地からの脱出を始めた。

「隊長……食い止めると言ってもどうするんですか?」

 司令部に残ったもう一人の隊員がそんなことを斎藤に尋ねた。

 司令部は壊滅し、状況はさっきよりも悪くなった。しかし、斎藤は不敵に笑ってみせた。

「どうするかだって?」

 それだけ言うと、落ちていたアサルトライフルを拾った。

「……第1大隊の連中を南ウィングに集めろ。お前、暴れ足りないだろ?」

 そう言われて彼も頷くと、斎藤も、

「俺もだ」

 と言った。

 

 再びアルファ・ケンタウリ11号星軌道上。

 地球連邦の前哨基地はプラネタリーシールドを失い、丸裸も同然となっていた。

 軌道上にはガトランティス艦隊が結集し始めており、ナスカの傘下に入り、攻撃命令を待っていた。

「敵基地のシールドは消失したか。地上軍に、一気にたたみ掛けて決着をつけろと伝えろ。我々も軌道上から砲撃を加える」

「了解!」

 ナスカ級は右舷に艦橋があるため、砲塔は左舷に集中している。

 そのため、ナスカは左舷を11号星の地表に向けるが……、

「……ここまでよく粘った褒美だ。空母の砲撃程度では大した打撃にはならないが、せめて苦しまずに逝けるようにしてやろう。砲撃開…」

 しかし、命令を言い終わる前に彼の乗艦が揺れた。

「何事だ?」

「こ、攻撃です! 魚雷が右舷に命中!」

「複数の艦影が惑星に接近中!」

「何だと!? 何故見逃した!?」

「わかりません!」

 さらにもう一度「バランタヌクス」が揺れる。

 不意を突かれたのはナスカだけではない。彼の指揮下にいた他の軽空母も、駆逐艦も、巡洋艦も、兵員輸送船も同様だった。

 兵員輸送船よりも巡洋艦やナスカ級の艦影が大きいことが災いしたのか、「バランタヌクス」のすぐ右舷にいた空母一隻は甚大な被害を受けて、ついには爆発してしまった。

「僚艦「リャスカ」が爆沈!!」

「巡洋艦6隻大破、2隻が轟沈!」

「駆逐艦12隻にも被害……司令官、11号星軌道上にワープ反応です!」

「その方向に艦首を向けろ! 今度は何だ……!?」

 突然のアウトレンジからの魚雷攻撃に続き、11号星の軌道上に何者かがワープしてくる。

 その正体を確かめ、迎撃するために「バランタヌクス」含む艦隊の残存艦3隻の艦首をその方向に向けるように指示したナスカ。

 そして、バランタヌクスが艦首を向けたその時、目の前にそれは現れた。

「あれは……ヤマト……なのか……!?」

 ナスカはデスラーにかつて教えてもらった、その船の外見の特徴をよく覚えていた。

「……! 近場の他の艦隊はどうした!?」

 ナスカは思い出したかのように、セントーリ星系=アルファ・ケンタウリ星系の三箇所に、デスタールに無理を言って配置してもらった警備艦隊のことを通信士に尋ねるが、

「司令官、第18、第25艦隊とは連絡が取れましたが、第22艦隊からの応答がありません!」

「何だと……カラクルム級戦艦もいたのにか!?」

「敵艦、発砲!」

「何!?」

 地球時間にして約2日前の戦闘でナスカ艦隊がばら撒いたメトリオン粒子は、未だに11号星の近辺に滞留していた。少なくとも、11号星には衛星が4つあるのだが、その一番外にある衛星の軌道にまでメトリオン粒子が充満していた。

 これはナスカが万一に備えて、艦載のデスバテーターにメトリオン粒子の詰まった魚雷を搭載、それを宇宙空間で爆発させ、メトリオン粒子が充満するエリアを広げていたためでもあり、それはヤマトがワープしてきた地点にも広がっている。

 ところが、ヤマトは撃てないどころか、主砲でナスカ艦隊の僚艦を砲撃で次々と撃沈してみせた。空母がさらに一隻沈んだ。

「ヤマトめ……なるほど、あのデスラーが執着するわけだ……!」

 ナスカは悔しさと同時に、胸の高鳴りを抑えきれず、悪態を吐きながらも微笑んだ。

「艦載機、全機、ヤマトを狙え! 主砲、副砲、全発射!!」

「……了解、司令官!」

 この場にいる味方艦隊は元々のナスカ率いる機動部隊4隻と援軍の80隻を含めて84隻がいた。

 機動部隊は半分を失い、残る半分もダメージを受けている上、巡洋艦や駆逐艦も多数被弾して行動不能。それでも艦隊の半分は無傷であり、しかも敵は戦艦一隻。

 この司令官ならばもっと不利な状況下でも勝利を諦めたりしなかった。

 だからこそ、彼のクルーたちは上官であるナスカに信頼を寄せてきた。

「第18、第25艦隊をここに集めろ!」

 応答がない第22艦隊を除いても、星系外縁部の2地点にはナスカが配置させた警備艦隊がいた。それらを急いで集めるように言うが、

「第25艦隊、旗艦を失いデスタール艦隊に向かったとのこと!」

「第18艦隊のみがこちらに向かって来ています!」

 直後、その第18艦隊の艦船がナスカ艦隊のすぐ後方にワープしてきた。

 ガトランティスの一個艦隊は100隻にも及ぶ。

「数で押し潰すのは趣味ではないが、こういう時こそやらねばならん……!」

 ナスカ艦隊の反撃は今始まったばかりだった。

 

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