心を塞いだ少女と心が焼け墜ちた少年 作:まふゆに狂い始めた少年
残されたチップはこの身一つのみ。
それでも、あの時に躊躇してしまった後悔を晴らさねば。
この後悔晴らさずに死ぬことなど許されてなるものか。
どれだけ死にたいと思っていてもこの忘れ形見の願いだけは。
ニーゴのメンバーとご挨拶をした後に現実に戻って来た後、俺はまふゆに寝てくると言って自分の部屋に戻った。
部屋に戻ればいつもの必要なもの以外が漂白されたように空っぽな部屋が目に映る。
まるで白紙のノート様に薄っぺらく、軽く、無味な部屋だ。
まるで牢屋だな相棒。だが白紙ならいかようにも物語は生み出せるぜ?
……そうだな。
今度何か部屋に装飾を置いてみるの良いかもしれないな、と愕然とまふゆの部屋を思い出しながら思った。
「……寝るか」
もう深夜二時近かったため今日はさっさと眠る様に目を閉じた。
視界に光すらない夜が深く、覆いつくして来る。
暗いのは嫌いだ、嫌なものを思い出すから。
暗闇、それは物理的な暗さでもどんなことであってもマイナスなイメージがあるから。
そもそも夜ってのはろくでもない
ヴァンパイア然り、鬼も然りってことだ。
鼻に激しく主張してくる焦げ付いた臭いで意識が覚める、正しくは夢の中だが。
何時ものように真っ暗、いや黒煙と薄汚れた満月の空の中、黒い泥みたいな沼の表面に俺は横たわっていた。周りを見なくてもあの場所が傍にあることは覚えている、そこにはオレの両親の死体があることも。
最初に見たときは驚き叫んだものだ。
どうしてって。
今回も俺の周りの沼から黒い手の大群が俺を引きずり落としてくる。
大きな波が意志を持ってこの
どうせ夢の中なんだから誰も助けなんて来ないよな、と諦めていつも通り目を閉じようとした。
「
ここには本来決して現れる事のないはずの声。
そしてそれは酷く前から知っている声、されど芯の籠った叫びが俺の前方から聞こえると共に、俺を引きずり落とそうとするそれを天からやって来る無数の矢が叩き落としていく、しかもそれは俺には当たらない軌道で飛来する。
ドスリ、グサリと俺を掴んでくる得体の知れない何かに矢が刺さっていく、次第にその数は加速度的に増えていき銃弾の雨みたいな豪雨だ。
どうやら今日はいつも通りの悪夢ではないらしい。
「なにが起こってるんだ……?」
「今引っ張り上げるから待ってて!」
まるで雨の様だとぼんやりとした意識の中でなんとなく思っていると、その声の主の姿がだんだんと、加速度的に近づいてきてより明白になっていく。
「やっと会えた。ひさしぶりだね、ナツ」
黒煙が晴れ、陰っていた満月が輝きを取り戻し、風になびく彼女の菫色の髪と顔を照らす。
「一体……」
どうやって、と聞く前に彼女は俺をひょいと簡単に持ち上げ
「ぐぎぎぎっ!? 急に飛ぶなぁぁぁ!!」
「高いところが苦手なんだよぉぉ!!!」
そう、俺は結構……いやかなり高いところが苦手だ。
あの浮遊感がホント怖くてしょうがない。
「ふふっ、そういえば小学校の時ジェットコースターで失神してたもんね♪」
「わかってんなら一言言って欲しかったなぁ!?」
ニコニコしながら言ってんじゃないよお前……てか今の
──あれ? どうして俺は
まぁいっか、どっか時間ができた時にでも考えればいいか。
「……私を助けるならまずは貴方自身が生きたいと願ってくれないとね」
「なんか言ったか?」
良く聞こえなかったので俺がそう聞くと彼女は何でもないよ、と言って明るさが増していく満月に向かって飛んでいく。
そこで意識は途切れた。
光がまぶしい、どうやら朝になったようだ。
「……う」
いつもとは変わった不思議な夢を見たおかげか、ぐっすり眠れた。
おかげで身体の感覚がいつもより軽いような気がする、寝起きでぼんやりとした意識で時計を見やると大体朝の六時を回るぐらいだというのが解る。
何はともあれ、起きて準備をしなければ。
むくりとまだ半分覚醒状態の身体を起こしてみると、一人で寝ていたはずの布団にふくらみが見えると同時に、何かが俺のそばにいるのが感覚的に伝わった。
「……まさかな」
そんなはずはないと言い聞かせ、静かに布団を捲るとすぅすぅと静かに眠っているまふゆの姿があった。
もう一度言う。
黙ってりゃ誰よりも可愛いというか綺麗なんだよな……いや、黙ってなくても美人なのはそうなのだけども。
「なにやってんだ……」
それはもう安らかな顔で眠っているが、何を考えてやがりますこの方は?
まふゆのお母さまに見つかったらシャレにならんのだよ、主に俺が。
具体的には家内のカーストがめっちゃ下がるし眼つきと監視が厳しくなる。
「おい、はよ起きい」
ゆさゆさと肩を揺らす。
「ん……おはよう、ナツ」
まふゆは気の抜けるようなぽわぽわした表情で瞼を擦りつつではあるが、目は覚めたらしい。
なんて惚けたツラしてんだかなぁ、多分学校では絶対に見せない一面だよなぁ。
俺にだけ見せる姿……なんてのは都合がよすぎるよな。
十中八九偶然の出来事だろう。
こういうとこが惚れた理由でもある。
「よっ……なんで俺の布団で寝てるのかは知らんけどお前の
「……わかった」
まふゆは渋々という感じのイントネーションでモソモソしながら布団から起き上がった。
おい、なぜぶーたれてんだまふゆよ。顔の表情がほとんど変わんなくても声色で分かんだからな?
「……それじゃあ朝ごはん食べてくるね」
「ん、いてらー」
いささか腑に落ちなさそうな言い方でまふゆは一旦自身の部屋に戻った後、一階に降りて行った。
「それにしても……」
なんでアイツが俺の布団に潜り込んできたんだ?
さっきのもそうだが、感情や味覚が分からないにしては
……さっさと準備するか。
モソリモソリと俺も起き上がって制服に袖を通し、いつも通りに朝ご飯を頂き、俺とまふゆは学校に行った。
最近頭の中のテスカトポリカがずっとFooooooo!!!と叫んでいてどうしたものかと考えています。
という訳でちょっとした回想もとい夢でのお話でした。