仮面ライダーシノビ(ビルド) × 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 ~夢が始まり、虹が咲く場所~   作:ラビラビfom

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1─5話です。 どうぞ


1-5話 ~はじまりのトキメキ~

 

 

 

あれから俺たちは、ダイバーシティを出て、家へ帰るためにバス停へ向かった。

 

夜の街は、昼間とは少し違う顔を見せていた。建物のガラスには無数の明かりが映り込み、行き交う人々の足音や車の走行音が、静かな夜の空気に溶け込んでいる。

 

バスが来るまで、もう少し時間があるらしい。

 

俺たちは並んで立ち、侑と歩夢は、先ほど店で見かけた服について話していた。

 

「あのシャツ、どうしようかなぁ」

 

侑が、少し名残惜しそうに呟く。

 

「明日、また見てみよっか」

 

歩夢は明るい声で答えた。まるで、明日も今日と同じように訪れることを疑っていないかのようだった。

 

歩夢の笑顔は、さっきまで見せていた迷いや不安を、ほんの少しだけ忘れさせてくれるものだった。まだ彼女の中で答えが出たわけではない。それでも、先ほどよりは確かに前を向いている。

 

俺はそんな二人の会話を、小耳に挟みながら黙って立っていた。

 

夜空を見上げる。

雲の切れ間から、いくつかの星が見えていた。街の明かりが強いせいか、星々はどこか遠く、淡く滲んでいる。

 

けれど、それでも綺麗だった。

 

侑と歩夢の声を聞きながら、俺はふと、そんなことを思った。

 

――世の中、平和だなぁ。

 

同好会が廃部になったことも、せつ菜がスクールアイドルを辞めたことも、何も知らない人たちにとっては、いつも通りの夜なんだろうな。

 

誰かが笑い、誰かが帰りを待ち、明日の予定について話している。

 

そんな当たり前の光景が、今は妙に眩しく感じられた。

 

 

 

──俺たちは、このままバスに乗って帰るのだと思っていた。

 

侑と歩夢と一緒に、今日あったことを話しながら。明日のことを考えながら。

 

このまま、何事もなく。

 

平和に帰るのだと。

 

――そう思っていた。

 

けれど、“平和”というものは、思っていたほど長くは続かなかった。

 

※※※

 

 

「きゃああああああっ!!」

 

静寂は、轟音によって無惨に引き裂かれた。

 

 

耳をつんざく悲鳴が、夜の街を駆け抜ける。

 

一度ではない。二度、三度と、あちこちから悲鳴が上がった。何事かと振り返る人々の顔に、瞬く間に恐怖が広がっていく。

 

侑と歩夢も、驚いたように顔を見合わせた。

 

「えっ……なに、今の……?」

 

「悲鳴……だよね?」

 

二人が声のした方へ視線を向けた、その直後だった。

 

「怪物よぉぉぉぉぉっ!!」

 

誰かの絶叫が、夜気を震わせた。

路地の奥から、何かが姿を現す。

 

それは、生き物と呼ぶにはあまりにも異質だった。

 

 

無機質な外殻。禍々しい色彩。人の形を思わせながらも、決して人間ではない巨大な身体。その姿は、まるで特撮映画の画面から抜け出してきた怪物そのものだった。

 

 

だが、映画ではない。

幻でも、フィクションでもない。

 

怪物は、確かにこの街に存在していた。

 

侑と歩夢は、呆然としたまま立ち尽くす。

脳が目の前の光景を現実として受け入れるよりも早く、怪物が腕を振り上げた。

 

次の瞬間。

 

轟音とともに、すぐそばに立っていた信号機が、まるで細い枝のようにへし折られた。

 

「ひっ……!」

 

誰かの短い悲鳴が漏れる。

 

怪物はそれに構うことなく、道路脇に停車していた車へと拳を叩きつけた。

 

ドカァァァンッ!!

 

車体が大きくひしゃげ、火花が散る。

 

直後、燃料に引火したのか、車は爆炎を噴き上げた。炎は隣の車両へと燃え移り、さらにその隣へ、またその隣へと連鎖していく。

 

ドカンッ!

ドォンッ!!

 

夜の街に、鉄の塊が弾け飛ぶ音が連続して響き渡った。

 

炎が闇を赤く染める。

 

 

 

きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ

 

 

逃げ惑う人々の足音が重なり、怒号と泣き声が入り乱れる。平穏だった街の景色は、一瞬にして崩れ落ちていた。

 

誰もが、何が起きたのか理解できないまま走っている。

 

ただ、目の前の恐怖から逃げるために。

 

この場の秩序は一瞬にして崩落した。

 

「なに……これ……」

 

侑は、掠れた声で呟いた。

理解が追いつかない。

 

ついさっきまで、歩夢や直大と一緒に過ごしていた。いつもと変わらない夜だったはずなのに。

 

それなのに今、目の前では怪物が街を壊し、人々が悲鳴を上げて逃げ惑っている。

 

現実感がなかった。

まるで悪い夢を見ているようだった。

 

「も、もしかして……」

 

歩夢の声が震える。

彼女の脳裏に、今朝聞いた噂が蘇っていた。

 

――お台場に、怪物が出る。

 

誰かが面白半分に口にしていた、根も葉もない都市伝説。

 

そんなものはただの噂話だと、歩夢は思っていた。信じていたわけではない。けれど、心のどこかでは、そんなことが起こるはずがないと決めつけていた。

 

だからこそ。

 

「……あれが、噂の……?」

 

歩夢の呟きは、燃え上がる車の爆音に呑み込まれた。

怪物が咆哮する。

 

その声を聞いた瞬間、歩夢の身体が大きく震えた。

 

逃げなければならない。

そう思うのに、足が動かない。

 

恐怖が身体を縛りつけ、ただ目の前で暴れる異形を見つめることしかできなかった。

 

しかし。

 

 

隣に立つ直大の反応だけは、侑や歩夢とは明らかに違っていた。

 

 

彼は、怯えているわけではなかった。

いや、恐怖を感じていないわけではない。

 

その瞳に浮かんでいたのは、恐怖よりも深いものだった。

直大は怪物を見つめたまま、ゆっくりと目を細める。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……あれは……」

 

胸の奥が、嫌な音を立てた。

 

 

見覚えがある。

 

忘れるはずもない。

 

視界に映る異形の姿が、遠い記憶の中にある光景と重なっていく。

 

 

崩れ落ちた街。

立ちこめる煙。

焼け焦げた大地。

 

 

そして、何度も何度も命を削りながら戦った、あの世界。

 

旧世界。

 

かつての自分が、時に傷つき、苦しみ、それでも戦い続けた場所。

そこで俺は、あの怪物たちと幾度となく対峙してきた。

 

目の前にいる異形を俺は知っていた。

嫌というほどに。

 

 

ネビュラガス───。

 

 

あのガスを使うことで、人間は怪物へと変貌する。

 

理性を失い、破壊衝動に身を任せ、ただ目の前にあるものを壊し尽くす存在へと。

 

俺の脳裏に、かつての戦場が鮮明に蘇った。

 

何度も聞いた咆哮。何度も破壊されていく街。

 

 

そして、自分のすぐそばで失われていった命。

 

 

あり得ない。

この世界に、あれが存在するはずはなかった。

 

 

すべて終わったはずだ。

 

旧世界とともに、消え去ったはずの脅威だった。

 

それなのに。

 

なぜ、ここにいる?

どうして、この平和な世界で――。

 

怪物が再び腕を振り上げる。

その先には、逃げ遅れた人々がいた。

 

俺の呼吸が止まる。

まるで、過去の悪夢が再び目の前で繰り返されようとしているようだった。

 

 

「……スマッシュ……」

 

その名を口にした瞬間、俺の瞳から迷いが消えた。

 

「どうして、お前が……」

 

かつて消し去ったはずの悪夢が、再び現れた。

今度は、歩夢たちの生きるこの平和な日常を蹂躙するために。

俺は、燃え盛る街の中で静かに拳を握り締める。

 

過去は、終わってなどいなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

秩序は、一瞬にして崩れ落ちた。

人々は我先にと逃げ惑い、時には、他人を突き飛ばしながら走っていく。けれど、それは決して悪意からではなかった。

 

未知の脅威を前に、心は恐怖に支配される。

自分の命が、一番大切だ。

 

そう思ってしまうのは、人間の本能なのかもしれない。自分が助かるためなら、他人を顧みる余裕さえ失ってしまう。誰もが必死に足を動かし、ただ怪物から逃れようとしていた。

 

その人混みの中で、一人の子供が逃げ遅れた。

 

「うっ……!」

 

もつれた足が地面を捉え損ね、小さな身体が路上へ倒れ込む。

だが、誰も振り返らなかった。

 

逃げ惑う人々の波に呑まれ、子供の存在は誰にも気づかれないまま取り残されてしまう。

 

 

※※※※

 

 

「早く、私たちも逃げよ! 侑ちゃん、直くん!」

 

歩夢が鬼気迫る表情で叫んだ。

 

「う、うん!」

 

侑は戸惑いながらも頷き、歩夢とともに走り出そうとする。

 

――だが。

 

直大だけは、その場から動かなかった。

 

「直大!? ……ちょっと、何してるの! 早く逃げな……い……と……」

 

振り返った侑の声が、途中で途切れる。

彼女の視線の先に、小さな影があった。

 

「あそこに……逃げ遅れた子供が……」

「えっ!?」

 

歩夢も侑の指し示す方へ目を向ける。

炎に照らされた路上で、子供が一人、うずくまっていた。

 

「お母さん……どこ……?」

 

頬を涙で濡らしながら、子供は何度も周囲を見回す。

迫り来る怪物への恐怖。そして、逃げ惑う人々の中ではぐれてしまった母親への不安。その小さな身体は、二つの恐怖に押し潰されそうになっていた。

 

その光景を見つめたまま、直大はしばらく黙っていた。

やがて、静かに口を開く。

 

「助けなきゃ」

 

「そんなの危険だよ!」

 

歩夢がすぐさま叫んだ。

けれど、直大の決意は揺らがなかった。

 

「危険でも、やるしかない! 今、あの子を助けられるのは俺たちだけだ!」

 

「直大……」

 

直大は二人へ向き直り、真剣な眼差しで続ける。

 

「俺が隙を見てあの子を助ける。そのあと、侑たちに預ける。二人はその子と一緒に走れ!」

 

「直大は?」

 

侑の問いに、直大は怪物へ視線を戻した。

 

「俺が囮になって、あいつを引きつける」

「そんなの……そんなの絶対にだめ!」

 

歩夢が直大の腕を掴む。

 

「直くんも一緒に逃げるの! 一人で残るなんて、絶対にだめだから!」

 

歩夢にとって、侑も直大も、自分のこと以上に大切な存在だった。

 

二人のどちらかを置いて逃げるなど、できるはずがない。もし、二度と戻ってこなかったら。もし、目の前で傷ついたら。

 

そんな想像が、歩夢の胸を締めつける。

直大は、そんな歩夢の不安を感じ取っていた。

 

だからこそ、二人を安心させるように、優しく微笑む。

 

「俺は大丈夫。二人が思ってるより、逃げ足は速いから」

 

「直大……」

 

「直くん……」

 

二人の声が重なる。

 

しかし、その間にも、スマッシュはゆっくりと子供へ近づいていた。

 

直大はそれに気づき、再び怪物へ向き直る。

 

「もう……迷ってる暇はない!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

やがて、スマッシュは逃げ遅れた子供へと狙いを定めた。

唸り声を上げながら、巨大な腕が振り上げられる。

 

「はああああっ!!」

 

その瞬間、俺は地面を強く蹴った。

 

考えるより先に身体が動いていた。

 

(必ず……助ける!)

 

俺は子供とスマッシュの間へ飛び込み、そのまま全身をぶつける。鈍い衝撃が肩を貫き、スマッシュの巨体が大きく後方へ吹き飛んだ。

 

「ふぅ……危なかった」

 

痛みに顔をしかめながらも、すぐに子供へ駆け寄る。

 

「君、怪我はないか?」

 

「う、うん……」

 

「よかった」

 

俺は安堵の息を吐き、立ち上がる。

 

「侑、歩夢。この子を頼む!」

「うん、分かった!」

 

侑はすぐに子供の手を取り、安心させるように優しく声をかけた。

 

その隣で、歩夢はじっと俺を見つめていた。

やがて彼女は、何かを決意したように顔を上げる。

 

「絶対……帰ってきてね」

 

「歩夢……?」

 

「伝えたいことがあるから」

 

その言葉に、俺は一瞬だけ目を丸くした。

 

――それ、死亡フラグみたいじゃん。

まあ、こんなところで死ぬなんて、真っ平ごめんだ。

 

 

俺は小さく笑い、スマッシュへと視線を戻した。

 

「ああ。絶対に帰る」

 

そして、二人へ言い聞かせるように続ける。

 

「だから、絶対に後ろは振り返るなよ」

 

俺はスマッシュの動きを注意深く観察した。

腕の振り。足の運び。次に狙う方向。

 

わずかな隙を見つけたオレは、侑と歩夢へ向けて手を上げる。

 

「走れ!」

 

「歩夢!」

「うん!」

 

二人は子供の手を引き、夢中で走り出した。

 

しかし、スマッシュは逃げていく三人を見逃さない。唸り声を上げ、彼らの後を追おうとする。

 

その前に、立ちはだかるものが一人────

 

「おい、スマッシュさんよぉ!」

 

俺は拳を握り、挑発するように笑う。

 

「お前の獲物は、こっちだ!」

 

スマッシュの頭部が、ゆっくりと俺の方へ向けられた。

 

次の瞬間、怪物は咆哮を上げ、俺目掛けて拳を振り下ろす。

 

「ガァッ!!」

 

「っ……危な!」

 

紙一重で拳をかわした。

地面が激しく砕け、衝撃で身体がよろめく。

 

それでも、俺は距離を取らなかった。

 

近すぎれば攻撃を受ける。離れすぎれば、逃げた三人を追われる。

ならば、この距離を保ち続けるしかない。

 

俺はスマッシュの攻撃をかわし、時には車の陰へ身を滑り込ませながら、必死に時間を稼いでいく。

 

ここで、退くわけにはいかなかった。

侑と歩夢、そしてあの子供が逃げ切るまで。

 

俺はスマッシュの拳を再びかわし、荒い息を吐きながら叫んだ。

 

「さあ、来いよ……! 俺はここだ!」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

それから数分。

俺はスマッシュの攻撃を避け続けながら、侑と歩夢が逃げ切るための時間を稼いでいた。

 

体感でしかない。実際に確認するまでは分からないが――。

 

(そろそろか!)

 

俺は背後を振り返った。

そこに、二人の姿はもうなかった。

 

「どうやら、無事に逃げ切れたみたいだな」

 

安堵に、思わず口元が緩む。

 

俺はスマッシュから距離を取り、懐へ手を伸ばした。

 

これで、″アレ″が使える。

 

数ヶ月前、宅配便でそれが届いた時は、さすがに驚いた。だが、もしもの時に備え、俺はそれを肌身離さず持ち歩いていた。

 

学校へ行く時も、休日に出かける時も。

まさに、備えあれば憂いなしということだ。

ここまでがラウンド1なら――ここからはラウンド2だ。

 

 

「また戦うことになるなんてな……だが」

 

その言葉とともに、旧世界の記憶が脳裏を駆け抜ける。

 

辛いことも、悲しいこともあった。手を伸ばしても届かなかったもの。必死に手を伸ばした末、届いたもの。そのすべてが、今の俺を形作っている。

 

(もう二度と、誰も失わないために!)

 

俺は静かに目を閉じ、決意を固めた。

 

そして懐から、赤いレバーと銀色の歯車、パイプのような機構を備えた黒いドライバー───ビルドドライバーを取り出す。

 

腰に添えると、起動音が響いた。バックルからベルトが伸び、俺の腰へと巻きついていく。

 

同時に現れたホルダーから、二本のボトルを取り出す。

 

右手には紫色のニンジャフルボトル。

左手には黄色のコミックフルボトル。

 

俺は二本のボトルを振った。

 

カチャ、カチャ。

 

内部の成分が活性化し、やがてボトルキャップを閉める。二本をドライバーのスロットへセット。

 

ニンジャ! コミック!

ベストマッチ!

 

 

待機音が夜の街に鳴り響く。

俺は赤いレバー――ボルテックレバーに手を添え、力強く回した。

 

内部の歯車が回転し、スナップライドビルダーが展開される。紫色のニンジャハーフボディと、黄色のコミックハーフボディが生成され、俺の左右へ迫った。

 

右手で忍者の印を結び、両腕を十字に交差させた変身ポーズを取る。

そして、ドライバーが問いかけた。

 

 

Are you ready?

 

 

 

 

準備は万全。それに答えるように口を開いた。

 

 

 

  「……変身!」

 

 

その掛け声と共に、2色のボディが自身の体を挟み込む。そして、

 

 

忍びのエンターティナー!

 

ニンニンコミック!!

 

 

イェーイ!

 

 

電子音声が響き渡り、紫と黄色の装甲が全身を包み込んでいく。

 

俺――星奈直大は、二色の仮面を持つ戦士。

 

もう一人のビルド、仮面ライダーシノビ・ニンニンコミックフォームへと変身を完了させた。

 

背中の紫色のマフラーが、夜風にたなびく。

俺はスマッシュを見据え、右手で静かに印を結ぶ。

 

「さぁ、ショウ・タイムといきますか!」

 

その言葉を放ち、地面を強く踏み込む。

そして俺は、怪物へ向かって走り出した。

 

 

※※※

 

 

 

 

「グガァァァァッ!」

 

咆哮とともに、スマッシュが地面を蹴った。

 

巨体が一瞬で間合いを詰め、鋭い右腕が振り抜かれる。俺は紙一重で身をひねり、その拳をかわした。風圧が頬を撫で、背後の瓦礫が粉々に砕け散る。

 

「はっ! そんな攻撃じゃ、俺は倒せないぜ!」

 

反撃に転じ、右足を振り抜く。

 

紫と黄色の装甲に覆われた脚がスマッシュの胴体を捉え、巨体が大きくよろめいた。しかし、奴はすぐに体勢を立て直す。効いていないわけではない。だが、あれだけの一撃を受けてもなお、倒れる気配はなかった。

 

俺は素早く後方へ跳び、右手を掲げる。

 

「――はっ!」

 

足元に淡い光が集まり、俺と寸分違わぬ姿を形作っていく。

 

スマッシュは標的を見失うことなく、目の前の幻影へと突進した。巨大な右腕がまっすぐに突き出される。

 

「ガァッ!」

 

拳が幻影の胸部を貫いた。

 

だが、そこに手応えはない。

 

幻影は揺らめき、煙のように霧散した。

 

「残念。それは俺の幻影だ!」

 

声に反応して、スマッシュが振り返る。

 

その一瞬の隙を、俺は逃さなかった。

 

周囲に散らばった鉄片やコンクリート片が紫色の光に包まれ、空中へと舞い上がる。無数の破片は瞬く間に形を変え、鋭利な手裏剣へと再構成された。

 

「手裏剣アタック!」

 

腕を振り抜く。

 

放たれた手裏剣が、夜の闇を切り裂いて飛翔した。紫色の軌跡を描きながら、次々とスマッシュの装甲へ突き刺さっていく。

 

「グォォォッ!」

 

たまらず、スマッシュが腕で顔を覆った。

 

その隙に、俺はスナップライドビルダーを展開する。

 

『ニンコマソードガン!』

 

電子音とともに、銀色の刀が右手に現れた。

 

漫画のコマを思わせる意匠が施された鍔。その近くには角度で見え方が変わる漫画のコマが一つ。

その裏へボトルを刺せるであろうスロットが備えられている。

 

 

あらゆる、属性や忍者っぽい忍術が使え、刀から銃へと変形可能な武器だ。

 

「よし、これで――!」

 

踏み込む。

 

スマッシュが手裏剣を振り払い、反撃の腕を振り上げた。だが、俺はその懐へ滑り込み、すれ違いざまにニンコマソードガンを斜めに振り抜いた。

 

銀色の斬撃が装甲を切り裂く。

 

「ギャァァァッ!」

 

スマッシュの身体から火花が噴き上がった。深手を負った巨体が大きく後退し、アスファルトの上に無数の亀裂が走る。

 

それでも、奴は倒れなかった。

 

「……結構、しぶといなぁ」

 

刀を構え直す。

スマッシュもまた、低く身を沈めた。

 

 

 

次の瞬間、互いの姿が弾ける。

 

拳と刀がぶつかり、火花が夜の街を照らす。振り下ろされた腕を受け流し、斬撃を叩き込む。スマッシュの巨体が瓦礫を蹴散らし、俺は何度も跳躍しながら攻撃をかわした。

 

激しい応酬が続く。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

一方 その頃――。

 

「直大、大丈夫かな……?」

 

侑と歩夢は、保護した子供の手を引きながら、必死に走っていた。

 

背後からは、遠くなりつつある爆発音と、何か巨大なものがぶつかり合う轟音が響いている。

 

歩夢が不安そうに振り返った。

 

「……やっぱり、心配だよね」

 

「うん。でも、今はこの子を安全なところへ……!」

 

前方に人影が見えた。

駆け寄ってきた中年の男性が、二人と子供の姿を見て声をかける。

 

「君たち、大丈夫かい?」

 

「はい! あの、この子をお願いします!」

 

侑は男性に子供を託した。

子供が無事に預けられたことに、二人は一瞬だけ安堵する。

 

しかし、足は止まらなかった。

 

「歩夢!」

 

「うん!」

 

侑が振り返る。

 

「やっぱり、直大を置いていけないよ!」

 

歩夢も強くうなずいた。

 

「うん!私も……直くんが心配だから…」

 

「ちょっと、君たち!」

 

男性の制止を背に、二人は再び走り出した。

恐怖で足は震えている。それでも、二人は立ち止まらなかった。

 

やがて、戦闘の現場へと戻ってきた二人の目に、紫と黄色の装甲をまとった戦士の姿が飛び込んでくる。

 

「ねぇ、歩夢。あれ、何?」

 

「私にも分からないよ……。それより、直くんは?」

 

二人は周囲を見回した。

 

「本当だ。直大はどこにいるの?」

 

その声が、戦場に響く。

もちろん、二人の声がシノビの耳へと入っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「ん?」

 

 

(あいつら……! なんで戻ってきたんだ!)

 

一瞬、意識が二人へ向いてしまった。

 

ほんの一瞬だった。

 

だが、スマッシュにとっては十分すぎる隙だった。

 

「しまった!」

 

振り向いた時には、すでに奴の腕が振り上げられていた。

 

標的は俺ではない。

 

侑と歩夢だ。

 

「絶対に、やらせるかッ!」

 

俺は全速力で地面を蹴った。

 

二人との間に割り込むように跳び込み、背中を向けて盾になる。直後、スマッシュの一撃が装甲を打ち据えた。

 

「ぐっ……!」

 

衝撃が全身を駆け抜け、俺の身体が地面を滑る。

 

それでも、倒れなかった。

 

「君たち、早く逃げろ!」

 

突然現れた異形の戦士に、侑と歩夢は恐怖で立ちすくんでいる。

 

だが、侑はすぐに我に返り、震える声で尋ねた。

 

「でも、直大が……! あの、男の子を見ませんでしたか? 高校生くらいの子なんですけど!」

 

「その子なら、もう逃がした!」

 

俺はスマッシュから目を離さずに答えた。

 

「だから君たちも早く行け!」

 

「本当ですか……?」

 

侑の声に、安堵が混じる。

 

「よかった……」

 

歩夢も胸に手を当て、小さく息を吐いた。

 

そして、二人が走り去っていく。

その背中が十分に離れたことを確認してから、俺はゆっくりとスマッシュへ向き直った。

 

「――よし」

 

ニヤリと笑う。

 

「そろそろ終わりだ!」

 

背中から紫色のマフラーが伸び、意思を持つ蛇のように宙を舞った。オンミツマフラーがスマッシュの両腕と胴体へ絡みつき、巨体を強固に拘束する。

 

「グガァッ! グォォォォッ!」

 

スマッシュが力任せに暴れる。

 

だが、逃がさない。

 

俺はボルテックレバーへ手を伸ばし、回転させた。

すると内部(ビルドドライバー)にあるボルテックチャージャーが作動し、エネルギーが右足に集中。紫色の光が装甲を走り、足元のアスファルトが振動した。

 

 

Ready go !!⠀

 

 

オンミツマフラーがスマッシュを空中へ投げ飛ばす。

 

俺も同時に跳躍した。

 

夜空へ舞い上がったスマッシュを追い、高く、高く飛ぶ。右脚に凝縮されたエネルギーが、まばゆい光となって膨れ上がった。

 

 

「はあああぁっ!!」

 

『ボルテックフィニッシュ!イェーイ!』

 

 

必殺の一撃を、真正面から叩き込む。

閃光が夜の街を覆った。

 

次の瞬間、スマッシュの巨体が爆発する。

轟音と共に、装甲が壊れ、その場へ横たわるスマッシュ。

 

やがて、戦場に静寂が戻る。

 

 

「フゥ~ 」

安堵するように息を吐くと空のボトル─エンプティボトルを倒れ込むスマッシュにかざす。

 

「よっと 」

 

成分を回収すると、それにより、スマッシュは完全に消滅した。

人には戻らず消滅したことで中に人間はいなかったことが分かる。

 

「中に人はいなかったか」

 

その後、逃げた人の誰かが通報したであろう、警察のパトカーのサイレンの音が聞こえた。

 

 

「ここは、さっさと退散しますか」

 

面倒なことになる前にな。

 

 

俺はニンコマソードガンを構え、トリガーを引いた。

 

 

「隠れ身の術」 ドロン!

 

忍術を発動。刀身から白い煙が噴き出し、俺の身体を包み込む。

煙が晴れた時、そこに仮面の戦士の姿はなかった。

 

残されたのは、破壊された街と、戦いの痕跡だけ。

そして誰にも知られることなく、俺は夜の闇へと消えていった

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

サイレンの音が、夜の街に近づいていた。

 

 俺は人目につかない路地裏へ駆け込み、変身を解除する。全身を包んでいた装甲が光の粒となって消え、手の中には黒いビルドドライバーだけが残った。

 

 荒い息を整えながら、俺は何度も周囲を確認する。

 

 誰にも見られていない。

 

 それを確かめてから、俺は急いで二人のもとへ戻った。

 

「直くん!」

 

 こちらに気づいた歩夢が、真っ先に駆け寄ってくる。その顔には、安堵と怒り、それから隠しきれない涙が浮かんでいた。

 

「もう! どこに行ってたの? 本当に心配したんだから!」

 

「悪い。ちょっと遠回りしてた」

 

 俺はできるだけ平静を装って答える。

 

 まさか、怪物と戦っていたなどと言えるはずがない。ましてや、自分がその怪物を倒した仮面の戦士だったなどと。

 

「遠回りって……あんな状況で?」

 

 侑も不安そうに俺を見つめている。

 

「それより、あの子は?」

 

「大丈夫だよ。さっき、近くにいた人に預けてきた」

 

 そう答えると、二人の表情からようやく力が抜けた。

 

「そっか……よかった」

 

 歩夢が胸に手を当て、安堵の息を吐く。

 その様子を見て、俺もようやく肩の力を抜いた。

 

 

 子供は助かった。侑も歩夢も無事だった。

 

 それだけで、今は十分だった。

 

「さ、今度こそ帰ろっか!」

 

 侑が努めて明るい声を出す。

 

 その笑顔が、どこか無理をしているように見えた。だが、歩夢も俺も何も言わず、侑の隣を歩き始める。

 

 怪物が現れたことも、街が炎に包まれたことも、俺が仮面ライダーとして戦ったことも。

 

 今はすべてを胸の奥へ押し込めて、三人で帰る道を進んだ。

 

 

~~

 

俺たちは家があるマンションのキャナルコートまで歩いた。

 

 

諸々、凄いことが(2人にとって)あったことで少し混乱していた部分もあるがその帰宅する道中でひとまずは落ち着いたみたいだ。

 

やがて、マンションへ続く階段に差しかかる。

 

「あっ!明日の数学さ ───」

 

会話をしながら、いつものように階段を登ろうとすると、突然、歩夢がその場で立ち止まった。

 

 

 

「歩夢?」

 

「.........。」

 

侑の問いかけに返事はなかった。

 

夜風が吹き抜け、長い髪が静かに揺れる。街灯の淡い光が彼女の横顔を照らしていた。

 

その表情には、迷いが残っていた。

 

けれど、以前のように自分の気持ちから目をそらしているわけではない。

 

 歩夢は一度、ゆっくりと息を吸った。

 

 

「...さ、三人ではじめようよ。スクールアイドル!」

 

その言葉が、夜の静けさの中に落ちる。

 

 

「歩夢……」

 

侑は目を見開いた。

 

「実はね...私も見てたんだ、スクールアイドルの動画。せつ菜さんだけじゃなくていろんな人のも見ててみんなすごかった.....自分の気持ちを真っ直ぐに伝えてて...私もあんな風に伝えられたらって......」

 

 

歩夢の抑えていた気持ちが溢れ出す。

 

 

「本当は私もせつ菜さんに会ってみたかったんだ......でも、会っちゃったら気持ちが止まらなくなりそうで怖かった」

 

歩夢の指先が、制服の裾をぎゅっと握る。

 

「…それでも、動き始めたのなら止めちゃいけない...!我慢しちゃいけないんだって!だから自分に...正直になりたい!」

 

 

その時、歩夢と目が合った。

 

「私、好きなの!ピンクとかかわいい服とか!今でも着てみたいなって思ってる!」」

 

 

俺たちに隠し続けた気持ちを今、解き放つように言葉にした。

これが彼女の大好きのカタチ。

そんな歩夢の目は輝いていた。

 

 

「自分に素直になりたい、 だから 見てて欲しい」

 

歩夢はカバンを置いて いつも登っている階段を駆け上がる。

俺たちを見下ろす位置で立ち止まった。

その姿は、まるで小さなステージに立つアイドルのようだった。

 

 

 

「私は! ”スクールアイドル”やってみたい!」

 

 

その宣言と共に、歩夢は胸の前で手を握る。

緊張しているのだろう。何度も深呼吸を繰り返している。

 

 

 

歩夢は目を閉じた。

そして、静かに歌い始める。

 

 

 

 

「飛び立てる Dreaming SKY 1人じゃないから~どこまでも行ける気がするよ 空の向こう~」

 

 

 

 

♬~ Dream with you

 

 

最初の声には、わずかな震えがあった。音程も、振り付けも、まだ完璧とは言えない。途中で足元が揺れ、恥ずかしそうに頬を赤くする場面もあった。

 

それでも、歩夢は歌うことをやめなかった。

 

一度も逃げずに、最後まで自分の気持ちを届けようとしていた。

 

 

「歩きだそう~ Dreaming Way~」

 

 

 

夜の階段に、歩夢の歌声が響いていく。

その歌声は、決して大きくはなかった。

 

けれど、俺の胸には確かに届いた。

 

過去の世界で失ったもの。守れなかった笑顔。もう二度と繰り返したくない後悔。

 

それらを抱えたまま見上げた先で、歩夢は懸命に歌っている。

 

完璧じゃない。

 

まだ始まったばかりだ。

それでも、俺には見えた。

 

街灯の下で歌う彼女の姿が、キラキラと輝くスクールアイドルの姿に。

 

 

 

そんな光景に侑も俺も、疲れなんか吹っ飛ぶくらいに見惚れて立ち尽くしていた。

 

 

「あなたに届いて欲しいよ~ Beating my heart ~」

 

 

~~

 

やがて曲が終わり、歩夢は俺たちの元へ階段を下る。

 

 

「今はまだ勇気も自信もないから..... 」

 

そう言いながら、鞄からピンクと緑と紫のパスケースを取り出す。

それぞれの色は、俺たち三人を示しているようだった。

 

「これが精一杯 .....!」

 

そして 侑に緑のパスケースを、俺に紫のパスケースを差し出した。

 

「私と一緒に夢を見てくれる?」

 

 

侑はパスケースを受け取る。

俺も続くように受け取った。

 

 

手のひらに乗った小さなパスケースが、妙に重く感じられた。

これはただの贈り物ではない。

 

歩夢が自分の夢を、俺たちに預けてくれた証だ。

 

侑は柔らかい笑顔で答える。

 

 

「もちろん ! 私はいつだって歩夢の隣にいるよ!」

「侑ちゃん.....」

 

そして侑は、俺の方へ振り返った。

 

「直大も一緒にね!」

「俺も?」

 

「だって、三人で一緒に始めるんでしょ?」

 

 

歩夢が少しだけ不安そうに俺を見る。

その視線には、期待と恐れが混じっていた。

 

俺は、そんな彼女の隣へ歩み寄る。

 

 

 

「そうだな…俺も…歩夢の夢を応援するよ!」

 

答えなんてとっくのとうに決まっている。

 

「直くん.....」

 

 

今度こそ、誰かの大好きを諦めさせない。

今度こそ、大切な人の輝きを守り抜く。

 

それは、怪物と戦うことだけではない。

誰かが迷ったとき、立ち止まったとき、それでも自分の道を選べるように。

 

 

俺がこの世界で果たすべき役割は、きっとそこにある。

 

 

「………ありがとう !」

歩夢は最高の笑顔で感謝をした。

俺たち三人の声が、夜の街に重なった。

 

その小さな誓いは、まだ誰にも知られていない。

 

けれど確かに、この瞬間から始まった。

 

俺たちのトキメキが──────

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

その日の夜。

 

俺は自室の椅子に腰を下ろし、机の上に置かれたビルドドライバーを見つめていた。

 

「……今日は、いろいろなことがあったな」

 

まさか、この世界でスマッシュと遭遇するとは思わなかった。

 

俺の知る限り、スマッシュは自然に生まれるような存在ではない。ネビュラガスを使い、誰かが意図的に生み出すものだ。

 

ならば、今回のスマッシュを作り出したのは誰なのか。

 

ファウストか。

それとも、ファウストとは別の何者か。

 

「……分からないな」

 

今の段階では情報が少なすぎる。いくら考えたところで、答えにたどり着くことはできないだろう。

 

ただ、一つだけ確かなことがある。

 

あの怪物は、また現れる。

 

そんな予感がしてならなかった。

 

「用心しておかないとな」

 

そう呟いてから、俺は机の隅に置かれたものへ視線を移した。

 

歩夢からもらった、紫色のパスケース。

 

手に取ってみると、柔らかな光沢が部屋の明かりを反射した。

 

「……これ、すごくいいな」

 

三人おそろいみたいで。

 

そう思いかけて、俺は小さく笑う。

 

 

「みたいというか、実際におそろいか」

 

 指先でパスケースの表面をなぞる。

 

今日、上原歩夢はスクールアイドルとして歩き始めた。

俺は、彼女の夢を応援すると約束した。

 

それなのに、胸の奥にはまだ引っかかっているものがあった。

 

 優木せつ菜。

 

なぜ、彼女はスクールアイドルをやめたのか。

 

その理由を、俺は何も知らない。

 

何も言わないということは、踏み込んでほしくないということなのかもしれない。いつか、せつ菜の方から事情を話してくれる日が来るのかもしれない。

 

けれど、ただ待っているだけでは、何も変わらない気がした。

 

時には、相手の気持ちを尊重して距離を置くことも必要だ。

 

だが、今回は違う。

 

歩夢は、勇気を出して自分の気持ちを打ち明けてくれた。怖くても、迷っていても、それでも前へ進むことを選んだ。

 

だったら、今度は俺が勇気を出す番だ。

 

 

──そう決意した、そのときだった。

 

机の上から、淡い光が漏れた。

 

「……ん?」

 

視線を向けると、戦闘後に回収したボトルが静かに輝いている。

 

ボトルの中で、濁った成分が渦を巻いていた。やがてそれは、少しずつ淡いライトピンクの光へと変わっていく。

 

表面には、リボンのマークが浮かび上がっていた。

 

「浄化しちまった……なんで?」

 

俺はボトルを手に取り、じっと見つめる。

 

以前のような濁りは、もうどこにも残っていない。そこにあるのは、柔らかく、どこか温かさを感じさせる光だった。

 

「リボンフルボトル……ってところか」

 

ふと、以前聞いたことのある話が脳裏をよぎる。

あくまで都市伝説の類いだ。

 

 

人の想いが、奇跡を起こすことがある。

 

「もしかして……これが、スクールアイドルの起こした奇跡ってやつか?」

 

もちろん、そんな都合のいい話を簡単に信じることはできない。

けれど、今の俺には、それ以外の理由が思いつかなかった。

 

 

 

 

これから何が起こるのかは、誰にも分からない。

 

スマッシュが再び現れるかもしれない。ファウストがこの世界に潜んでいるのかもしれない。せつ菜の過去についても、まだ何一つ分かっていない。

 

それでも、不思議と不安だけではなかった。

 

歩夢と侑がいる。

守りたいと思える日常がある。

 

そして、その先には、まだ誰も知らない未来が待っている。

 

 

 

「面白そうな未来が待ってる……そんな気がするな」

 

俺は、手の中のリボンフルボトルを見つめた。

 

「……そう信じてみるか」

 

ライトピンクの光が、静かな部屋の中で揺らめいていた。

 

 

 

 

♬ NEO SKY , NEO MAP!

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

翌日。

虹ヶ咲学園にある部室棟。その一角にある部室の前で、一人の少女が拳を握りしめていた。

 

小柄な身体を震わせながら、彼女は目の前の扉を睨みつける。

 

「おのれ、生徒会!」

 

怒りに満ちた声が、廊下に響き渡った。

 

「よくも同好会を……!」

 

しかし、その声にはわずかな震えが混じっている。

 

悔しい。

 

腹立たしい。

 

それでも、本当は不安だった。

 

このまま、自分たちの居場所がなくなってしまうのではないか。誰も、自分たちのことを見てくれないのではないか。

 

そんな弱気な考えを、少女は勢いよく振り払った。

 

「……いいえ、諦めません!」

 

拳を胸の前で握り直し、彼女は高らかに宣言する。

 

「やってやります! かすみんが、同好会を復活させるんです!」

 

その声は、先ほどよりもはっきりしていた。

 

誰もいない廊下に響く、自分自身への決意表明。

 

──中須かすみは、決して諦めてなどいなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

その夜。

 

街の明かりさえ届かない、暗い場所。

 

そこには、複数のモニターが並んでいた。画面には、昨夜の戦闘の記録が映し出されている。

 

炎に包まれた街。

 

スマッシュと対峙する紫と黄色の装甲をした何か。

そして、閃光とともに怪物が消滅する瞬間。

 

 

映像を眺めていた男が、楽しそうに口元を歪めた。

 

「ほぉ……僕の作ったスマッシュが倒されたか」

 

男は驚いていなかった。

 

むしろ、待ち望んでいたものを見つけたかのように、愉快そうに笑っている。

 

「やっぱり、この世界にもいるんだね……仮面ライダー」

 

暗闇の奥で、男の瞳だけが不気味に輝いた。

 

いったい、この男は何者なのか。

なぜ、この世界でスマッシュを生み出したのか。

 

その答えは、まだ誰にも分からない。

そして、直大の仮面ライダーとしての戦いが今日、新世界で幕を開けた。

 

 

続く…………

 







これにて本編第1話 終了です。


決めゼリフは
忍びのエンターティナー→エンターティナーショー?→ショウ?→ショーの時間→ショウ・タイム
みたいな感じで決めました。
どこかの魔法使いを思い出しますが…


次回から本編の2話の内容を投稿予定です。
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