仮面ライダーシノビ(ビルド) × 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 ~夢が始まり、虹が咲く場所~ 作:ラビラビfom
2─2話 ちょい長めです
「どうやったらスクールアイドルになれるかなって、話してたの」
三人の会話が聞こえてきたのは、決して偶然ではなかった。
同好会を失い、ひとりでも活動を続けようとしていた彼女にとって、スクールアイドルを始めたいという言葉は、まさに願ってもないものだった。
◇
あのあと、少女の話を聞くため、俺たちは先ほどまでいた広場の隅へ移動することになった。
少女はベンチの前に立つと、スカートの裾を軽くつまみ、にっこりと微笑んだ。
「それでは、改めまして自己紹介を! スクールアイドル同好会、二代目部長のかすみんこと、中須かすみで〜す♡」
両手を頬の横に添え、首を傾げる。
完璧な笑顔。完璧なポーズ。そして、完璧に計算された声のトーン。
その自己紹介を受けて、1つ思ったことがある。
ああざとっ!!
チョコレートよりも甘い。いや、もはや砂糖をそのまま煮詰めたような甘さだ。
しかし、俺の隣にいた侑はというと、目を輝かせながら身を乗り出していた。
「スクールアイドル同好会!? 私、高咲侑です!」
「なんかあざとくない? あ、星奈直大だ」
「上原歩夢です。……でも、同好会って廃部になったんじゃ……?」
歩夢が遠慮がちに尋ねる。
その言葉を聞いた瞬間、中須の笑顔がほんの少しだけ揺らいだ。
だが、それも一瞬のことだった。彼女はすぐに胸を張り、力強く言い切る。
「諦めなければ、同好会は永遠に続くのです!」
そして、少女は俺を指差した。
「あと、かすみんは全然あざとくないですぅ!」
もうその動作があざとさを醸し出してるんだよなぁ…
そんなことを考えていると、あざと後輩こと中須かすみは、鞄を開き、中から何かを取り出した。
「それより、皆さんにお近づきのしるしです! どうぞ!」
差し出されたのは、袋に包まれたコッペパンだった。
「もらっていいの?」
侑が嬉しそうに尋ねる。
「もちろんです! 遠慮なくどうぞ♪」
侑が受け取り、歩夢と顔を見合わせる。俺も一つ手に取った。
見た目は普通のコッペパンだった。だが、一口かじった瞬間、想像していた以上の美味しさに思わず目を見開く。
「……美味いな」
「本当だ。すごく美味しい!」
歩夢も頬を緩める。
俺たちの反応を見て、中須は得意げに胸を張った。
「ふふーん。それはそうですよ! どこのお店のパンだと思います?」
「えっと……学校の近くのお店?」
侑が首を傾げる。
「ちっちっち〜。そのパンは、かすみんの手作りなのでーす!」
「えっ、手作り!?」
侑が驚きの声を上げる。
「さすがスクールアイドル! こんなに可愛くて、料理もできちゃうんだ!」
「ふぇっ!?」
予想外の直球を受け、中須の頬が一気に赤くなった。
「か、かわいい……? そ、そうですかぁ?」
「うん。かわいいと思うよ」
侑はあっさりと頷いた。
はぁ…でたよ、無自覚タラシ発言。
昔からこうなんだよなぁ…侑は。
中須は両手を胸の前で握りしめ、体をくねらせ始める。
「そんなぁ〜♡ そりゃ、かすみんはかわいいに決まってますけどぉ〜♡ 侑先輩、見る目ありますねぇ〜♡」
自分で言ったぞ、こいつ
あと、クネクネした動き辞めぃ
侑は俺の方へ顔を向けた。
「誰が見てもかわいいよ。直大もそう思うでしょ?」
ここで俺に振るんかい。
「え? ああ……まあ、可愛いんじゃないか?」
特に深く考えずに答えた。
すると、なぜか歩夢が大きく目を見開いた。
「えっ……直くんまで!?」
「いや、何でそんなに驚くんだよ」
俺が問い返すと、歩夢は慌てたように視線を逸らした。
「だ、だって……」
「ほんとですか〜?」
歩夢の反応など気にも留めず、中須はさらに距離を詰めてくる。近い。やたらと近い。
「じゃあ先輩方! そんなかわいいかすみんと一緒に、スクールアイドルになりませんか〜?」
「……え?」
侑がぽかんと口を開ける。
え?俺もやるん?
ジ⚪︎ニ○ズ入っちゃう?
スクールアイドル。歌って、踊って、大勢の前に立つ存在。
いやないな、少なくとも、俺が向いているとは思えない。
歩夢も困ったように眉を寄せた。
「大丈夫かなぁ……?」
「さぁな…?」
俺は心の中でため息をついた。
しかし、中須はそんな俺たちの戸惑いなど意に介さず、勢いよく身を乗り出した。
「大丈夫です! かすみんを信じてください!」
その瞳には、先ほどまでのふざけた調子とは違う、まっすぐな光が宿っていた。
「かすみんが、世界で一番かわいいスクールアイドル同好会にしてみせますから!」
その言葉を聞いた歩夢の表情が、わずかに変わる。
不安そうだった瞳に、淡い光が灯った。
「……かわいい」
歩夢は小さく息を吸い、中須を見つめる。
「なら、やってみようかな」
「入部決定ですね!」
中須が両手を叩いて喜ぶ。
その勢いに押されるように、侑も笑顔を浮かべた。
「あ、でも私はアイドルになりたいっていうより、歩夢を応援したくてさ」
「それって!歩夢先輩の専属マネージャーということですかっ!」
「ん〜、そうなのかな?」
「ずるいですー!それなら、かすみんのサポートもお願いします!」
「あははっ、わかった、わかった」
あれよあれよという間に話が進み、気づけば俺たちは、かすみの作った流れに完全に乗せられていた。
「……よかったな」
俺が他人事のように言うと、侑がこちらを振り返った。
「一応言っておくけど、直大もやるんだよ」
「えっ、やっぱり俺もか?」
「当然です!それにセンパイになら色々雑用を─いえ頼りになりそうですしね」
なんか、本音漏れてない?この子について行って大丈夫?俺、こき使われない?
「まあ……一人を見るのも二人を見るのも、そんなに変わらないか」
半ば諦めて呟くと、侑が嬉しそうに微笑んだ。
「よろしくね、中須さん」
「もう、侑先輩!そんなに堅く呼ばないでくださいよぉ。もっと気軽に呼んでください!」
「じゃあ……かすかす?」
歩夢が何気なく口にした瞬間、かすみの笑顔が凍りついた。
次の瞬間、彼女は頭を抱えて叫んだ。
「ギャアァァァァッ! かすかすじゃなくて、かすみんですぅ!」
広場に響き渡る絶叫。
「中須かすみだから、かすかすかなって……」
「二度も言わないでくださいよぉ!かすみんって散々アピールしてるんだからそれでお願いしますよー!」
「アピールだったんだ…」
中須は頬を膨らませ、抗議するように歩夢を見た。
(かすみん、か……)
その呼び名を聞いた瞬間、なぜか脳裏にどこかのドルオタの声が浮かんだ。
――みーたんだぁ♡
「……いや、そっちじゃねぇな」
「何がですか?」
「いや、こっちの話だ」
中須は怪訝そうに首を傾げたが、すぐに俺へと身を寄せてきた。
「それよりセンパイも、かすみんのこと、ちゃんと名前で呼んでくださいよぉ〜」
「何でだよ。中須でいいだろ」
「だってぇ〜、こんなにプリティでキュートな名前、ほかにありませんもん!」
「名前の問題なのか、それは……」
どうにも納得がいかない。
俺が黙り込んでいると、侑が困ったように笑いながら口を挟んだ。
「まあまあ、呼んであげなよ」
「ええ……なんか負けた気がするんだけどなぁ」
「勝ち負けの話じゃありませんよぉ!」
これは呼ばないと話が永遠に進まないやつね。
RPGゲームえぇて。
まるで、断るという選択肢など最初から存在していないようだった。
俺は小さく息を吐き、かすみを見つめる。
「……よろしくな、かすみ」
「はい! よくできました!」
中須──いや、かすみは満足そうに頷くと、すぐに踵を返した。
「では、さっそく同好会の活動を始めますよ! 皆さん、かすみんについてきてください!」
そう言って、彼女は軽やかな足取りで歩き出す。
「……なんだったんだ、今の時間は」
俺はため息をつきながらも、侑と歩夢の後に続いて歩き始めた。
◇◇
スクールアイドル同好会の活動が、いよいよ始まる。
そう思っていた。
「まずは、練習場所を探しましょう!」
かすみの一言を聞くまでは。
「……練習場所?」
「はい! 歌やダンスの練習をするには、まず場所が必要ですから!」
もっともな意見ではある。
もっともな意見ではあるのだが――。
俺たちはそれからしばらく、かすみに連れられて学園の外を出て、さまざまな場所を歩き回ることになった。
しかし、どこも練習には最適じゃないとこばかりだった。
「ここも駄目ですねぇ」
かすみは腕を組み、難しい顔で辺りを見回した。
活動を始めるどころか、場所探しだけで放課後の時間がどんどん過ぎていく。
-- いったいどうなってんだか…
俺は思わず頭を抱えた。
今、辿り着いたのは、近所の公園だった。
広場では多くの子供たちが遊んでいる。走り回る子、砂場で山を作る子、遊具によじ登る子。とてもではないが、歌やダンスの練習ができるような状況ではなかった。
「はぁ……ここも駄目ですねぇ」
かすみは肩を落とした。
「でも、何でわざわざ学園の外に来たの?」
侑が疑問を口にする。
――確かにな。
学園内の空いてる教室とかで練習はできそうである。使用許可が下りればだが。
かすみは、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「それはですね……かすみん、生徒会に睨まれてますから。校内で活動するのは、ちょっと厳しいのです」
「いったい何をしたんだよ」
「何もしてませんよぉ。ちょっと、同好会のために必要なものを取り返しただけです」
「一瞬で矛盾してんじゃないか!」
思わずツッコんだ。
あの生徒会を敵に回すとは...なんて...恐ろしい子なのかしら……
俺は一人、身体を小刻みに震わせた。
そんな俺の様子を見ていたのか、公園で遊んでいた小さな女の子が、こちらへ駆け寄ってくる。
「おにいちゃん、あそぼぉ!」
「おう、いいぞ。何して遊ぶんだ?」
返事をした瞬間、両手を小さな手に掴まれた。
「こっち!」
「待て待て、いっぺんに引っ張るな! 俺は一人しかいないんだからな!」
しかし、子供たちは聞く耳を持たない。
俺はそのまま公園の奥へと連行されていった。
しばらくして、俺たちは完全に子供たちの遊びに巻き込まれていた。
歩夢は女の子たちと一緒にしゃがみ込み、人形遊びをしている。
「牛さんとカエルさんは、仲良しなんだよ〜♪」
「わぁ……!」
女の子たちが目を輝かせる。
その少し離れた場所では、侑とかすみがそれぞれ子供を背負っていた。
「はぁ……ここも練習場所としては厳しいですねぇ」
かすみは子供を背負ったまま、改めて、ため息をつく。
「そうだね。でも、これはこれで楽しいかも」
侑が笑う。
その直後、背中に乗っていた女の子が侑の髪を掴んだ。
「あはは、ビヨーン」
「あっ、ちょっと待って! 髪は引っ張らないでぇ!」
侑のツインテールが、容赦なく左右へ引っ張られていく。
「ほっぺ、びよーん!」
隣で中須も女の子にほっぺ引っ張られる。
「ほっぺをひっぴゃらないでくだしゃい~~」
侑とかすみの悲鳴が、公園中に響き渡った。
俺はその様子を眺めながら、改めて思う。
――本当に、何をしに来たんだ俺たちは。
そのとき、侑がふと顔を上げた。
「あっ!」
「どうした?」
「あそこなら、練習できるかもしれない!」
侑が指差した先にあったのは、海沿いに広がる大きな公園だった。
※※※
潮風公園。
人の姿は少なく、周囲には十分な広さがある。少しくらい声を出しても、周りの迷惑にはならなさそうだ。
俺たちはさっそく、そこへ移動した。
「お〜! 広いですぅ〜!」
潮風公園に着くなり、かすみは両手を広げて辺りを見渡した。
「ここなら人もあまり来ないし、迷惑にもならないでしょ?」
侑が確認する。
「はいっ! バッチリです! ここにしましょう!」
かすみは満面の笑みで頷いた。
「ここを、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の新たな活動拠点とします!」
そう宣言すると、かすみは鞄の中から何かを取り出した。
「では、こちらをどうぞ!」
彼女が取り出したのは、一枚のネームプレートだった。
そこには、堂々とこう書かれている。
『かすみんのスクールアイドル同好会』
「……あれ?」
俺はそのネームプレートを見て、眉をひそめた。
「そのプレートって、たしか……」
「そうです! かすみんが生徒会から取り返してきました!」
かすみは得意げに胸を張る。
そして、少しだけ声を落とした。
「……無断で」
「窃盗かよ!」
思わず叫んでしまった。
侑は困った表情を浮かべる。
歩夢は驚いたように目を見開いた。
「ええっ……」
「だから、生徒会に睨まれてるんだ...」
かすみはそんな俺たちの反応など気にせず、ネームプレートをベンチの近くへ立てかける。
「なにはともあれ、しばらくはここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室ですよ〜!」
どうやら、本人の中ではすでに決定事項らしい。
「ダンスや歌の練習はおいおい始めるとして、まずは部員をゲットです!」
「え? なんで先に部員募集なの?」
侑が首を傾げた。
かすみは当然のように答える。
「人がいっぱいいた方が、かわいいかすみんが引き立つからです!」
「……お、おう」
ここまで来ると、もはや清々しい。
俺は呆れながらも、どこか感心していた。
(自分のかわいさに対する自信だけは、本当にすごいな……)
歩夢は引きつった笑みを浮かべている。
「あはは……」
あの、歩夢さん...顔が笑ってないです...
「ともかく、手っ取り早く部員を集めるなら、これです!」
かすみはスマートフォンを取り出し、カメラアプリを起動した。
「センパイ、これをお願いします」
「ん? ああ……自己紹介動画を撮るんだな」
「正解です! よく分かってますねぇ」
「いや、画面を見れば分かるだろ」
かすみは気にせず、侑へ説明を始めた。
「スクールアイドルには知名度も必要ですからね。それに、運がよければ動画を見た人が入部してくれるかもしれません。まさにウィンウィンです!」
「その言葉の使い方、間違ってないか?」
「細かいことは気にしないでください! さあ、早く始めますよ〜!」
「はいはい……」
俺はスマートフォンを受け取り、録画ボタンを押した。
画面の中に、かすみの笑顔が映る。
「やっほ〜! みんなのアイドル、かすみんだよ♡」
声のトーンが一段高くなる。
「かすみん、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長になったんだけどぉ、そんな大役が務まるか、とっても不安~」
かすみは胸元で手を組み、わざとらしく不安そうな表情を作った。
「でもぉ、応援してくれるみんなのためにぃ、日本一かわいいスクールアイドルを目指して頑張るよ♡」
最後に、カメラへ向けて小さく手を振る。
録画が終わった。
予想以上だった。
あざとい。あまりにもあざとい。
「.....は?」
歩夢なんて、思わず声が漏れてる。
物凄い、低音で。
歩夢さん少しこわいです。
しかし、侑は違った。
「わああああっ!」
侑は目を輝かせ、両手を握りしめている。
「スクールアイドルの自己紹介、生で初めて見た! すごい! かわいい! ときめいたよ、かすみちゃん!」
どうやら、侑の心に何かが刺さったらしい。
かすみは満足そうに胸を張った。
「えっ……」
その直後、照れたように頬を赤くする。
「えへへ〜。さすが侑先輩です! かすみんのかわいさを分かってくれてますねぇ〜!」
そして、すぐに次の標的へ視線を向けた。
「さて、次は歩夢先輩ですよ? 今みたいな感じでお願いしますね!」
「えっ?」
歩夢の顔から血の気が引いた。
「わ、私もやるの!?」
「もちろんです!」
俺はかすみにスマートフォンを返す。
かすみは歩夢を撮影するための位置へ移動した。
「えっ!?ええええええ!無理無理無理だよ!恥ずかしいよ!///」
歩夢は顔を真っ赤にして、首をぶんぶんと横に振る。
「何が恥ずかしいんですか! 自己紹介はスクールアイドルの第一歩ですよ!」
かすみは歩夢の肩を掴み、逃げ道を塞ぐ。
「目が怖いよ、かすみちゃん……」
「大丈夫です。かすみんほどではありませんけど、歩夢先輩も十分かわいいですから。張り切っていきましょう!」
そう言って、かすみは録画ボタンを押した。
小さな電子音が鳴る。
「えっと……虹ヶ咲学園二年の、上原歩夢です……」
歩夢はカメラを見つめようとするが、すぐに視線を落としてしまう。
「あ…えっと…虹ヶ咲学園2年の、上原歩夢です…あっ、あの私…す、すく…///」
歩夢はカメラを見つめようとするが、すぐに視線を落としてしまう。
声は小さく、言葉も途切れ途切れだった。
見ているだけで、こちらまで緊張してくる。
「声が小さいですよ」
「ご、ごめん……!」
「もっと大きな声で、自分の気持ちを伝えてください!」
かすみの指導に、歩夢は一度息を吸った。
「私! スクールアイドルやりたくて!!」
今度は、さっきまでとは比べものにならないほど大きな声が出た。
俺は思わず肩を跳ねさせる。
「大きすぎです。ちゃんとファンのみんなを思い浮かべてください。あなたのことを応援したいと思っている人たちに、話しかけるんです」
「ファン……」
歩夢は呟き、想像しようと目を閉じる。
だが、すぐに顔が真っ赤になった。
「あぅぅ……」
「不合格ですね」
「あちゃー……」
侑が残念そうに声を漏らす。
「いきなりは難しいよぉ!」
「はぁ……仕方ありませんね」
かすみは深々とため息をついた。
「それでは、両手を頭の上に」
「こう……?」
歩夢が両手を頭の上へ持ち上げる。
「はい。そのまま、語尾に『ぴょん』を付けましょう」
「ぴょん!?」
歩夢の顔がさらに赤くなった。
「あゆぴょんだぁ!」
侑は目を輝かせている。
「ええっ!?」
「さあ、歩夢先輩!」
かすみが急かす。
「…アユム ダ ピョン///」
歩夢は消え入りそうな声で呟いた。
「声が小さいもう一回!!」
「歩夢だぴょん!!」
「もっとうさぴょんになりきって!!」
「うさぴょんだぴょーん!!」
「ぴょんに気持ちがこもってない!!」
「そんな無茶な……!」
未だ侑は、きらきらした目で歩夢を見つめている。
俺も、せめて心の中で応援することにした。
(頑張れ、歩夢。もう少しだ)
歩夢は震える拳を握りしめた。
そして――。
「ぴょーーーーーーーーん!!!」
その叫び声は、潮風公園の空へと響き渡った。
海から吹く風が、三人の髪を揺らす。
録画終了の音が鳴った。
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがて、かすみがスマートフォンの画面を確認する。
「……うーん」
「どう?」
歩夢が恐る恐る尋ねた。
「まだ、かすみんが納得できる内容ではありませんね」
「ええっ!?」
歩夢が悲鳴を上げる。
俺は彼女の肩をぽんと叩いた。
「まあ……最後の方は、かなりヤケクソだったけどな」
「直くんまで!?」
歩夢はますます顔を赤くする。
こうして、スクールアイドル同好会の最初の活動は、練習でも歌でもダンスでもなく――歩夢の「ぴょん」を何度も撮り直すことで終わったのだった。
◇
潮風公園を出る頃には、空はすっかり夕焼け色に染まる。
俺たちは今、デックスにあるベンチに腰をかけていた。
「週末には動画をアップしますから、ちゃんと自主練しておいてくださいね?」
あれから歩夢はと言うと………
「かわいい怖いかわいい怖いかわいい怖いかわいい怖いかわいい怖い」
先ほどから、まるで呪文のように同じ言葉を繰り返している。
「かわいいって、大変なんだね……」
侑が苦笑しながら歩夢を見た。
「アイドルの基本ですから……」
かすみは当然のように答える。
その言葉を聞きながら、侑はふと、別の少女の姿を思い出していた。
「でも、せつ菜ちゃんは、かわいいっていうよりカッコいいって感じだったなぁ~」
「せつ菜先輩を知ってるんですか?」
「一度、遠くから見ただけだけなんだけどね」
あの時のライブは、今でも鮮明に覚えている。
燃えるような情熱。観客を一瞬で引き込む歌声。そして、ステージの上で誰よりも輝いていた姿。
けれど、その裏で、せつ菜がスクールアイドルを辞めるほどの問題を抱えていたことに、俺は気づけなかった。
何があったのか。
どうして、あんな結末になったのか。
いまだに、俺は何も分かっていない。
「気になってたんだけどさ」
ちょうどそんなことを考えていた時、侑がかすみに尋ねた。
「同好会って、どうして廃部になったの?」
かすみの表情から、わずかに笑みが消えた。
「……元はと言えば、せつ菜先輩がいけないんです」
「「え?」」
俺と侑の声が重なる。
かすみは一度だけ視線を落とし、それからぽつぽつと話し始めた。
「最初にグループを結成した時は、けっこういい感じだったんです。みんなで楽しく練習して、お披露目ライブに向けて頑張って……」
そこで、かすみは眉をひそめた。
「でも、目標を決めたあたりから、せつ菜先輩が急にピリピリし始めて……」
そして、かすみは声の調子を変えた。
「こんなパフォーマンスでは、ファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよー!」
せつ菜の声真似だった。
ちょっと似てる……ww
「って…だからかすみんもムッキーってなっちゃって!…そのまま…活動休止に…」
そ最後の言葉だけ、急に小さくなった。
そんなことがあったのか。
俺は黙り込む。
せつ菜にも、かすみにも、それぞれ言い分はあったのだろう。だが、互いに譲ることができないまま、同好会は終わってしまった。
「……うーん」
侑が、困ったように首を傾げる。
「かすみちゃんも、せつ菜ちゃんも、ファンに届けたいものがあるんだね」
その言葉に、かすみは勢いよく顔を上げた。
「当たり前ですよ! スクールアイドルにとって、応援してくれるみんなは一番大切なんですから!」
かすみは拳を握りしめる。
「だからこそ、より一層かわいいアイドルであるために――」
「ぅぅぅ……」
隣で、歩夢が頭を抱えた。
「かわいいってなに…かわいいってなに…かわいいって難しい…かわいいってなに…かわいいって…」
先ほどから続いていた自己暗示が、ついに限界を迎えたらしい。
「あ~ こりゃ重症だな 」
「そんなんじゃ、ファンのみんなにかわいいは届きませんよ?」
かすみは、いつもの調子で言い返した。
しかし、その直後。
「あっ……」
かすみの声が止まった。
自分で口にした言葉が、胸の奥に突き刺さったようだった。
「かすみちゃん?」
侑が心配そうに呼びかける。
かすみは、歩夢の姿を見つめていた。
困ったように眉を下げ、すっかり疲れ切った顔で「かわいい」を繰り返している歩夢。
それは、かつての自分によく似ていた。
(もしかして、かすみん……同じことしてる?)
せつ菜に向かって、自分の理想を押しつけたあの日。
自分がかわいいと思うものを、せつ菜が認めてくれなかったことが悔しくて、感情のままにぶつけてしまった。
そして今、自分もまた、歩夢に同じことをしているのではないか。
「……」
かすみは、何かを言おうとして口を閉じた。
けれど、すぐにいつもの笑顔を作る。
「あっ……いや、なんでもないですよ! では、また明日よろしくお願いしまぁす!」
そう言い残すと、かすみは逃げるようにその場を離れていった。
「……かすみちゃん、どうしたんだろう?」
侑が遠ざかる背中を見つめる。
「さあな」
俺はそう答えたが、かすみの表情が頭から離れなかった。
「私たちも帰ろっか」
「ああ」
侑が歩夢の方へ向き直る。
「ほら、歩夢。行くよ」
「かわいい……怖い……」
「まだ言ってる……」
俺たちは、すっかり日が暮れ始めた道を歩き出した。
その日の夜
その日の夜。
俺は、食べた食器の洗い物などをしていた。
そこへ、俺はリビングのソファでくつろいでる侑話しかけた。
「なあ、侑」
「ん?」
スマホ触りながら、返事をする。
俺は気にせず、続けた。
「最後の方のかすみ、なんだか様子がおかしくなかったか?」
その問いかけに、侑はスマホの操作を止めると、こちらへ振り返った。
「あー……うん。私もそう思った」
「何かあったのかな?」
「明日、確認してみるか」
「だね」
短いやり取りを終えた後も、俺の中には妙な引っかかりが残っていた。
かすみは、何かを思い出していた。
それだけは、間違いない。
◇ ◇ ◇
その頃、中須かすみは自宅のベッドの上で、枕に顔を埋めていた。
今日の出来事が、何度も頭の中に蘇る。
歩夢に向かって、かわいく振る舞うように言った。
大きな声を出すように言った。
語尾に「ぴょん」をつけるように言った。
そして最後には、無理やり叫ばせてしまった。
その光景に重なるように、遠い日の記憶が浮かび上がる。
『こんなの、全然かわいくないですぅ!』
あの日の自分の声。
『熱いとかじゃなくて、かすみんはかわいい感じでやりたいんですぅ!』
言い終えた後、せつ菜が息を呑んだ。
その表情を見ても、かすみは意地を張ったままだった。
かすみはベッドの上で足をばたばたさせ、枕に顔を押しつける。
「うぅぅ……」
枕にくぐもった声が、小さく響いた。
やがて、部屋は静寂に包まれる。
残されたのは、かわいくなりたいという願いと、その願いで誰かを傷つけてしまったかもしれないという、かすかな後悔だけだった。
続く …………
本編2話はあと1話で終わりです