ピースメーカー 作:月見月 月魅
ふと、一人の殺人鬼と過ごした数日間を思い出した。
個性が発現したばかりでまだ幼い頃、誘拐犯に連れ去られた私は、機械のような肉体の殺人鬼によって助けられた。警察的には、連れ去られた私を殺人鬼がさらに連れ去ったということになっているらしいけれど、そんなはずはないと、私は確信している。
あの気のいい殺人鬼が、ヴィランとして生きていけなかった哀れな殺人鬼が、誘拐だの人売だのに手を出すとは、到底思えない。
私はあの日、死にかけの殺人鬼に憧れた。
人を殺そうとは思えなかったけど、殺してでも救うような、そんなヒーローになりたいと私は思った。
私はこの右足に誓う。
いつか死ぬその日まで、私は戦い続ける。
私の個性、
動物を
ロボットそれぞれに点数が割り振られており、それらを再起不能にすることで加点されるこの入試試験は、残酷な程に私に有利であった。
接触さえしてしまえば、手でなくても、服越しでも解せる私は、さながら無敵モード。ただ試験会場を歩いているだけで、点数の方から無抵抗にやってくる。
右足を見て義足だと思ったのか、気の毒なものを見たような顔で離れていったライバル達はもう、何処にもいなかった。
入試試験なのにこんな気楽でいいのかとも思いつつ、ただ散歩をしていた私は、突如現れた影の主を見上げる──許容オーバー!!
「ノーマルモーター、キックアクセル」
頭上……というにはまだ随分と距離があったものの、私のとった選択は即刻避難だった。具体的な解せる大きさの限界は試したことがないから分からないけれど、間違いなく許容圏外である巨大ロボを
唯一露出した四肢である、かの殺人鬼の右足を、私の耐えられる限界速度で駆動させ、アスファルトを砕く程の威力で飛び退く。
他の多くの受験生たちも同じ選択を選んだようで、阿鼻叫喚しながら会場入口方面へと走っている。大きな一歩から着地した私も後に続こうとして──
誰も彼もが逃げる中、立ち向かう男がいた。
体格に恵まれている訳ではなく、顔も美形とは言いがたく、それでもヒーローの覇気とも、気配とも、気質とも、素質とも言える──とても、ヒーローらしく見える何かを醸す男が、巨大なロボに向かって飛び出して行った。
「スマァアアッシュ!!!」
端的に言ってしまうならそれは、ただのパンチだった。
あの殺人鬼と比べても遜色ないほどの素早さではあったけれど、それ以上に、隕石が横殴りに飛来したような衝撃が、ロボットを叩き潰した。轟音と共に砂煙が上がり、ロボットの止まらぬ機構が次々壊れていく音が響き続けている。
そんな異常な一撃を放った男は、注目を集めている中、空気抵抗に抵抗することなく自由落下している。
私よりずっと、ロボの近くにいたらしい女子が瓦礫や部品に触れれば、浮遊していく。それらを足場に落下する男を待ち受け――思いっきりビンタをかました。触れれば発動する個性で、素早く当てるならそれが最適なのだろうけれど、……それはどう見てもビンタでしかなかった。
想像通り、男はまるで宇宙空間にでもいるかのように浮遊した。けれど個性の限界だったのか、すぐに解け、女子や瓦礫共々地面に落ちる。
地面に叩きつけられた二人は、どちらもまともな状況ではない。女子は青白い顔で嘔吐していて、男は左手以外の四肢全てがバキバキに砕けている。あれだけの偉業を成し遂げておきながら、あのままじゃ試験終了までに点数は稼げないだろう。
『終了〜!!』
そうでなくとも、あのゼロポイントの巨大ロボが最後の一体だったようで、試験監督であるプレゼント・マイクの声が響き、残ったロボは機能を完全に停止した。
倒れて動かない男を囲うように近寄り、助けるでも労うでもなくザワザワと騒ぎ立てている。
雄英の看護教師、リカバリーガールが誰彼構わず片っ端から治療して、こっちに向かってくるのを確認した私は、何処か嫌な悔しさを覚えながら、会場を出た。
時は少しばかり進み、試験後のこと。雄英高校ヒーロー科用の会議室では、根津校長を始めとするヒーロー科教師全員が出席しての、入試試験の採点が行われていた。
前方のスクリーンに、点数順で受験生の名と成績が並ぶ。それらを吟味する教師達から感嘆の声が上がる。
「実技一位、荒屋敷はよぉ、……あれ、反則じゃね?」
「個性ありきの試験に反則もクソもないだろ。歩くだけってのは確かに好感持ちづらいがな」
「そもそも、あの足じゃ長距離は走れないんじゃないかしら。これじゃどうしたって左右でバランスが悪いもの」
疑念、呆れ、推測。様々な言葉、視線が飛び交うなかで一人だけ、首を傾げて唸る巨漢がいた。
「あの足は……しかし彼は……それでも、もしや……」
荒屋敷亜弥の願書──特に志望理由の欄と、試験の映像を行ったり来たり見ながら、ゆっくりと口元に笑みが戻ってくる。
「オールマイト、彼女と知り合いですか?」
この入試によって選ばれる四十人のうち半数の担任を務めることが決まっている教師、イレイザーヘッド──相澤が、珍しいものでも見たような目で尋ねた。
オールマイトは大袈裟に首を振ることで否定の意を示しながら答えた。
「いいや。ただ、一人の男、……私の知る限り、最も格好いいヒーローを思い出しただけさ」
「はあ。よく分かりませんが、贔屓は無しでお願いしますよ」
オールマイトは大きく笑って、その忠告に小さく頷いた。
彼にはこれから、計四十回に及ぶビデオレターの撮影が待ち受けている。
主人公のプロフィール
個性
有機物、無機物を問わず、あらゆる物質を解す能力。
部分的に解すことも可能。
人体を切り離されても痛みは生じず、組み直せば元通りになる。
他の物質と組み合わせることもでき、取り付けたものは我が身のように動き、機能する。
ピースは決して消耗せず、摩耗せず、劣化もしないし、素足で踏むと尋常でなく痛い。
性格
自身を助けた殺人鬼への憧れは色褪せ、歪みつつも無くなっている訳ではなく、どころか美化されていて、時折リスペクトしている面が見られる。
ヒーローを目指しているものの、殺人鬼への憧れが混在しているため、道徳倫理の欠落が見られる。
過去に三度苗字が変わっているため、苗字呼びに慣れていない。
外見
亡き殺人鬼の右足を個性で強引に移植している。左右で足の長さが数センチほど違うため、立っていると常に片足に体重を寄せているような姿勢になる。移植したばかりの頃は今以上に足の長さの差が大きかったため、その頃と比べれば幾らかマシになった。とはいえ、今以上の成長は期待できず、既に骨格や歩き方が歪んでいるらしい。
黒い髪を伸ばしているものの、髪型にこだわりはなく、雑誌や漫画から目に付いた髪型を再現するのが朝の日課。
本人的には、顔は整っている方だと思っている。
肌の露出が少ない服装を好み、二の腕まですっぽり覆う黒手袋を常につけている。右足だけは一切覆わずに露出させており、一見、高機能な義足にも見える。
趣味・特技
パズルが得意。家にあるものの大半は一度、個性によって解されてから組み立てられている。
装備、技
建造物や地面を解しピース化する範囲攻撃。
敵の肉体を解しピース化する単体攻撃。一ピースでも紛失すると、代わりのものを嵌めないと機能不全を起こす。そもそも、本人以外の手では組み立てることすら出来ない。
肉体のピースを別のものに取り替えることで、アタッチメントのように扱える。負傷部位に行うことで治療としても有用。ゼロリスクで臓器移植することも、理論上は可能。法律、倫理的には禁忌に近い。
ピースの不壊特性を生かした延命処置。負傷者の全身を解して袋やダンボールに詰め込むことで、安全に治療施設まで運び込める。
ノーマルモーター、キックアクセル
かつて存在した殺人鬼の蹴り技。最低出力による蹴りだが、それでも防弾チョッキごと人間を蹴り割るほどの威力を誇る。
亜弥はこの技を移動にのみ使っているが、殺人鬼にはダッシュアクセルという高速移動と体当たりの為の技が別にあった。
ノーマルモーターとは、ミニ四駆に搭載するモーターのことで、パワーダッシュモーターやプラズマダッシュモーターなどの高出力と、さらにその上にサードパーティ・弾丸モーターなどの、肉体を融解しかねないほどの限界突破技が、一応存在した。
亜弥は右足と技だけを受け継いでいるため、ノーマルモーター以上は肉体が耐えきれず、瞬間機動のキックでないと多大な体力を消耗する。
オリハルコンの足
かつて存在した殺人鬼の肉体はこの世のあらゆる物体よりも頑強な何かで構成されており、その強度が評価され、その時代最強の金属に与えられる称号、オリハルコンの名が冠された。
全ての関節が球体関節になっており、力はモーター抜きでも常人より遥かに強く、駆動域も生物の限界を軽々と超えている。
そのかろうじて肌色と言えるほどに白い足は決して傷つかず、劣化せず、壊れない。