ピースメーカー 作:月見月 月魅
昨日の侵入者は、ヴィランではなくマスメディアだったらしい。……いや、この場合、マスメディアがヴィランになるのだろうか。殆ど報道されず、僅かばかりの情報も噂に毛が生えた程度の信憑性。隠蔽されているだけで、実は凶悪なヴィランの仕業だったんじゃないか──みたいな、いるだけで背中が痒くなるような空気が雄英を満たしていた。
それでも、今日という日には今日の授業がある。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、それからもう一人の三人体制で見ることになった」
午後のヒーロー基礎学。教壇に立った相澤先生は、どこからともかくカードを取り出す。……それ、いる?
無駄に凝った紙切れの存在意義はひとまず置いておいて、そこには『RESCUE』と書かれている。
誰も彼もが口々に、救助活動に対する思いを口にする。私は、怪我の応急処置以外にはあまり自信が無い。倒壊した建物を
私のイチオシはお茶子ちゃん。無重力でなんでも運べるってことは、オールマイト以上に沢山のものを運べるってことだし。性格も可愛いしね。
誰も彼もが救助活動に対する思いを口にして、相澤先生の睨みに黙らされる。……仮にも生徒にやっていい対応じゃねーだろ、それ。
「今回は、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」
そう言いつつ、リモコンを操作して、全員分のコスチュームの収納されたロッカーを壁から出現させる。とことん勿体ぶるってことをしないなこの人は。
雄英の敷地は徒歩で移動するには広く、移動にはバスを使わなくてはならない。コスチュームに着替えた私たちは、飯田くんに整列させられながら、バスの待機場に向かった。
「こういうタイプだったか!?」
飯田くんは小学校の遠足とかで乗るようなバスを想定していたようで、私たちは二列に並ばされたけれど、残念。バスの椅子の配置は、むしろ電車のそれに近かった。両サイドの窓の真下に席があり、通路を挟んで向かい合うタイプだった。並ばされた意味は皆無であり、頭を抱え悶えている。……私が選んでおいてあれだけど、この程度の失態で騒ぐ奴が委員長とか大丈夫なのだろうか。
車内に全員揃っていることを相澤先生が確認すると、すぐにバスは出発する。その間我らが担任は眠りたいだろうけれど、残念ながらここにいるのはうら若き高校生たち。静かに過ごせるわけもなく──
「緑谷ちゃんの個性って、オールマイトに似てるわよね」
「そっ、そそそうかな!? っいや、でもっ、僕はその、えーっと」
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」
梅雨ちゃんを皮切りに、みんな思い想いに話し出す。すぐそこに昼間から眠ろうとしている大の大人がいるにもかかわらず。
「しかし増強型のシンプルな個性はいいよな! 派手で出来ることが多い!」
「うははっ、君は硬くなるだけだもんねぇ。せめて足が早ければ良い経験値になったろうに」
「硬くなるだけって言うな!? あと俺は逃げねえ! メタスラと一緒にすんじゃねえよ!」
「確かに、丸みが足りないか」
「そこじゃねえよ……」
隣に座る切島くんのトゲトゲ頭に触れてみる。……あ、これワックスで固めてるだけか。
「私は百ちゃんの個性なんて羨ましいけどねぇ」
「私なんて、まだまだです。荒屋敷さんこそ実戦的で良い個性だと思いますわ」
「褒められて悪い気はしないけど、私の個性なんて踏むと痛いだけだよ」
「そんな一言で済ませていい個性ではなかったと思いますが……」
なんでも作れるってことは、なんでも出来るってことだから、やっぱり百ちゃんの個性は頭一つ抜けてすごいよ。……まぁ、多分、なんでも作れるってほどになんでもってわけじゃないんだろうけどさ。それでも万能型は羨ましい。
「派手で強いっつーと、やっぱ爆豪だよな!」
切島くんは嫌味ゼロに言ったけれど、通じなかったのか、そういう気質なのか、爆豪くんは「けっ」と、つまらなそうに顔を逸らす。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそう」
「いやいや梅雨ちゃんや。今時はキレキャラにも需要あるんだよ。――見てて面白いじゃん」
「んだとテメェ! 嘗めたこと抜かしてんじゃねえぞ偽足女ぁ!!」
「ほら、こういうとこ」
「今のは怒るところよ、亜弥ちゃん」
「笑ってあげるとこだよ。せっかくのギャグが滑ったみたいになるじゃん」
「ギャグじゃねえよ殺すぞ!!」
「え、マジで言ってたの? 殺すぞ貴様、誰が偽だ」
「……二人とも、沸点がドライアイス並ね」
相澤先生がブチギレて黙らされるまで、爆豪きゅん弄りは続いた。
言葉の刃と弾丸の飛び交う様はさながら、神々の戦争が如くだった……と、いつの間にか飛び火して
巨大なドーム状の建造物の前で、バスは止まった。
先導されて中に入り、視界に広がるのは崩壊したテーマパーク。
「水難事故、土砂災害、火事、エトセトラ――あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です」
先に待っていたのか、待ち受けていた宇宙服姿のヒーロー、13号が説明してくれている。
「その名も、
やっばい名前。許可取ってるのかな。
「えー、始める前にお小言を――」
「あ」
話の途中なんて関係なく、前触れも前兆も予兆も無く、それはついに現れた。私の前に、眼前に。
なるほど災害。なるほど巨大。……なるほど竹輪。
それはどう見ても人でなく、動物でなく、生物でなく。
物体でなく、物質でなく、実態はなく、実体もなく。
「――一つ、二つ。……三つ四つ――」
姿形もない異形は、人の目に写らない。
「一塊になって動くな!」
相澤先生が何か叫んだけれど、私の目に肉壁より先は写らない。
「──
私は触れられないはずのそれに手を翳し、解す。
鮫の時とは違う。恐れは無い。
呪いは巡るもの。呪いは廻るもの。
1立方センチメートルの破片にしたところで、肉片と破片を繰り返し、測れぬ程に細かな粉末にしたところで、呪いは無くならない。
委員長に
かつての鮫の呪いは、私を呪った馬鹿の鮫と無限への恐れが呪いとなった。呪いとは恐れによって形作られる。
この世に竹輪を恐れる奴なんて、この星に一人しかいないに決まっている。
あの顔を思い出せば鳥肌が立つ。
あの腕を思い出せば瞼が震える。
あの夜を思い出せば喉が痛む。
「はっ……うははっ……うははははっ」
「あ、亜弥ちゃん? 相澤先生が避難しろって……」
最悪だけど好都合。このチャンスを見逃しちゃ、私が亜弥である意味が無い。お茶子ちゃんが私の手を取って、連れていこうとしてくれているけれど、ごめんね。
呪われたのは私なんだ。そして、触れてみて直感した。
「うははははははっ! 会いたくなかったぜ、クソ親父」
「亜弥ぁぁあああああ!!!!!」
粉末となった竹輪が吹き飛び、その向こうに来ていたヴィランの一人が私の名を叫んだ。
血の繋がりではなく、肉で繋がった、書面上だけの親子。肉体だけの関係だった最悪の義父。かつて私を犯し、私に解されて、竹輪に付け替えられて、二度と肉の関係を持てなくなった哀れな男。まさかヴィランになってたなんて思わなかった。
下の名前は……なんだっけ。荒屋敷としか呼んだことないし、覚えてねーや。
お茶子ちゃんの手を払い、私は前に出る。
あいつだけは、この場の誰にも任せておけない。
グラントリノなら別によかった。マキナだったら応援だってした。
でもいないなら、自分でやるしかない。
「おい、荒屋敷!!」
相澤先生は怒るだろうけど、つーかもう怒ってるけど、関係ない。
「私のことを苗字で呼ばないでって、何回言えば分かるの? ──クソ親父と被るから嫌いなん──」
ダンッ!!
乾いた破裂音──銃声。
触れる前に解す自動防壁を遅れて展開するも、弾丸は文字通り間一髪、私の髪を数本焦がした。……あっぶねー。幾らか離れた位置にいたからか、流れ弾は誰にも当たっていない。
撃ちやがったのは誰か、ひと目で分かった。そういえば、そういうのが得意な個性だったか。
右手に拳銃、左手にナイフを持った私の義父は、狂ったような笑みを浮かべ叫ぶ。
「お前のせいだ! お前がいたからだ! お前が悪い! この悪魔め! 呪われた邪鬼め!!」
「呪ったのはお前だろ、クソ親父」
荒屋敷 男
亜弥の義母の再婚相手。娘を犯している所を見られて離婚。娘には、寝ている間のうちに性器を竹輪に付け替えられ、家出された。
田舎町に佇むコンビニで店長をしていたが、バイトの女子高生四人に不埒を行なったことを皮切りに、崩れ落ちる砂城のように倒産。万引きで食いつないでいるうちにヴィランとなっていた。
個性を買われヴィラン連合に加わるが、男とはまともにコミュニケーションをとることが出来ず、誰からも信頼をされていない。肉壁や捨て駒としか見られていないが、個性は強力。
個性 収納
体内に物を出し入れ出来る。サイズこそ肉体に制限されるものの、銃やナイフ、爆弾程度であれば何処へでも持ち込める。金属探知機にも察知されないため、飛行機だろうとお構い無し。
服を出し入れすることで瞬時に着替えられるため、警察では追跡が困難だった。
許容限界に近づくと収めた部位が太ったような形状になり、尖った物を入れてると痛む。