ピースメーカー   作:月見月 月魅

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 書き途中のものを投稿してました。
 申し訳ねぇ……!


怪人──怪死

 

 亜弥の肉体では、ノーマルモーター以上の出力は耐えられない。ノーマルモーターに次ぐ出力の低い、トルクチューンモーターや、アトミックチューンモーターですら、右足の付け根から壊れていくだろう。万が一、鍛錬や装備で補強出来たとて、音速を遥かに超えるスピードで動いてはやはり身体は耐えきれずに崩壊していく。

 

 はずである。亜弥はそう認識していたし、事情を知っていたグラントリノの教えた戦い方は、速さに依存するものでは断じてなかった。

 

 けれど今、脳無と呼ばれた怪人と戦う亜弥の戦闘スタイルは、殺戮的な速さにものを言わせた一方的な暴力。知るものならば連続的に鳴り続ける衝撃の音だけで、一人のヒーロー、或いは殺人鬼を連想するだろう。

 

 ──轢殺の殺人鬼──亜弥の戦い方は、殺し方は、笑い方は、──死した筈の殺人鬼と同一であった。

 

 亜弥の個性はあくまでも欠片作り(ピースメーカー)。飯田天哉のように左足にエンジンを積んでいるわけでも、緑谷出久のように怪力を秘めているわけでもない。それはただ、触れたものを絶対不変の欠片へと解体するだけの個性。

 だというのに亜弥は、長さの異なる足をものともせず、生身の左足でも血を踏みしめ、爆発のように蹴り走る。

 

 今まで試したことがなく、思い切ってやってみたら出来ちゃった──なんて都合のいい展開ではないのは、脳無と亜弥の戦闘範囲の広さが生徒達とヴィランを遮る壁のように働いていて、動くに動けず見ていることしか出来ない相澤から見ても、一目瞭然である。

 咄嗟の即席必殺技でも、秘匿していた裏技という訳でもないだろう。轢殺の殺人鬼がそうであったように、それはただの通常技。平常、日常と言い換えてもいいだろう。轢殺の殺人鬼は日常的に轢殺を繰り広げていたのだから。

 

 亜弥の顔の四倍はある脳無の左拳が、殺人鬼の右足と衝突し破裂した。

 すぐさま再生して再度殴ろうとするも、指が生え揃う前に、手首から先が解されて、地面に黒いピースが血の代わりに散らばる。

 拳が無くなろうと、そもそも生きておらず、痛覚も理性も知性もない脳無には関係なかった。手首の断面はメスでも切れないほど硬く、それは却って脳無の武器となる。亜弥を叩き潰そうとして躱された腕は地面を強烈に破壊する。

 

「おっおおおおおおおおお!!!!」

 

 大ぶりの攻撃を外した隙は大きい。それを亜弥が見逃すはずもなかった──が、地面のひび割れは亜弥の足元にまで深々と広がっており、脳無目掛けて走り出そうと踏み込んだ右足が埋もれ、バランスを崩す。その隙もまた大きい。ヴィランのリーダー──死柄木弔は脳無をサンドバッグと称すが、しかし殴られてばかりの案山子ではない。

 

「殺れっ!! 脳無!!」

 

 死柄木の言葉と同時に、脳無は丸太のように太い足で踏み込み、亜弥程では無いがそれでも十分に凶悪な初速で駆けた。右足で地面を蹴り、左足では空気を蹴るような走りは十メートルに満たない距離を一瞬で詰め、ついに──亜弥を捕らえた。

 

 脳無の指ほどに細い左腕を握り潰して、野菜でも収穫するように亜弥を引っこ抜く。左手を解された恨みを晴らすかのように握られた拳の中からは、骨が砕ける音だけでなく、肉が潰れ、血の溢れる水音が広がる。

 

「ああああああっ!! いってぇぇええええ!!!」

 

 この展開もまた、普段の亜弥であればありえない筈のもの。

 亜弥は義父と(ついでに竹輪の呪いと)戦っていたときには、近づいた物を無差別に解し無力化するバリアのようなもので全身を覆っていた。そのままの状態であれば、亜弥の身体を握りつぶすなんてことは出来ない。

 

 亜弥の左腕を握る拳の、指の隙間から、すり潰されたような肉や血が零れる。

 流石に危機、危険と判断した相澤は脳無の個性を無効化しようとして、躊躇し、結局何も出来ない。

 視界にはどうしても亜弥が入る。亜弥の個性を応用すれば、負傷部位を切り離すことで完璧な応急処置が出来る。それを知ってしまっているがばっかりに、迂闊に手を出せなかった。

 或いは、亜弥がさっさと脳無を全身ピース化してしまえばこの場はなんとかなるとも思ってはいた。ピースを紛失さえしなければ元通りになるとはいえ、それがヒーローとしても現代社会を生きる人間としても悪い部類の発想であったとしても。

 

「はははははっ! いいぞ脳無! そのまま殺しちま……いや、人質にした方がいいか?」

 

 つい数秒前まで一方的に亜弥が有利であった戦況が覆り、死柄木は笑って喜ぶ。しかし思考は冷静らしい。その冷たい視線は、痛みに悶えろくに抵抗出来ていない亜弥を見定め──

 

 愉悦に濡れた視線が、天より舞い降りた白銀の翼の天使によって遮られる。

 否、それは天使ではなく人間であり、翼ではなく長い銀髪であった。

 

「緊急事態故に天井の一部を破壊させて頂きました。ご理解頂ければ幸いです、相澤先生。そして初めまして。ヴィラン連合、死柄木弔さん」

 

「……誰だよ、お前。なんで知ってんだよ……!」

 

 白色──相澤が新たな乱入者へと抱いた印象は、彼女の色だった。雄英の白い制服。その上から長い銀髪が降り、スカートから覗く細い脚もまた白い。

 

「たとえあなたが混沌を喰らう魔王であろうとも、私の名は白神彩織。巨大な呪いと、強大な鬼が現れたので押っ取り刀に駆けつけたのですが──異形以上に異形なあなたを、まずは片付けてしまいましょうか」

 

 委員長、白神彩織。雄英高校普通科の推薦入学者にして特待生。教師と同等以上の自由を与えられた、対異形の専門組織のリーダー。

 彼女がそういったオカルトの住人であることを、雄英職員達は半信半疑どころか全く信じていなかったものの、話には聞いていた。だから今のような緊急事態に駆けつける許可を与えられているし、個性の使用許可は別として戦闘行動も認められている。

 

「……普通科が何をしに来た」

 

 差別主義という訳では断じてないが、普通科の生徒という時点で、相澤は白神彩織を戦力として見ることは出来なかった。

 

 白神彩織は端的に答える。

 

「私の名は白神彩織というのです」

 

 全くもって言葉が足りていないが、本人的にはそれで十分なのだろう。相澤に背を向け、砕けて不安定な地面をものともせずに歩く。向かう先にいるのは、脳無と亜弥、そして離れた先に死柄木弔。

 

 彼らに向かって、白神彩織は怒るどころか、微笑んだ。

 

「彼女は私達の愛する友人なんです。その手を離しては頂けませんか?」

 

 脳無は顔こそ向けるものの、亜弥の左腕を掴む左手は決して緩めない。もう中はどんな惨状になっているのか、脳無の足元には、血よりもずっと粘着質な赤い何かが積もっている。

 

 何も答えない脳無に、白神彩織はコテンと、首を傾げる。すると波打つように、長い銀髪も揺れた。

 

「……仕方ありませんね。ショッキングなので、あまり人に見せたくはないのですが、離せないというなら、ええ。仕方ありません」

 

 亜弥と脳無の戦いを見てきて、速さになれた相澤の目にすら、その攻撃は全く見えなかった。

 オールマイトが刀を全力で振るっても、こんな漫画のような有様にはならないだろう。

 不可視の何かが、亜弥には一切も傷をつけず、脳無だけをつま先から脳天まで、螺旋状に切り裂いた。全身トルネードポテトのような有様に変貌した脳無は亜弥を手放し、バネのように跳ね飛んだ。

 血を撒き散らしながら飛んだ肉塊はパンッ! と天井にぶつかり、油汚れのように張り付いた。

 

 彩織と脳無の間には、まだ十メートル以上離れていた。相澤の方がよっぽど近かった。にもかかわらず、白神彩織は歩いていただけで、脳無は無力化されたし、相澤には何も見えなかった。死柄木弔も「人質が殺されたくなければ──」と口上を述べる暇すらなかった。

 

 理不尽が服を着て歩いている──そんな存在が、天井の赤い染みを見つめてぼやく。

 

「……掃除、大変でしょうね」

 

 死柄木弔、ヴィラン連合のことなんてもう忘れてしまったかのような物言いである。

 

「亜弥……或いは轢殺の殺人鬼、マキナでしょうか──立てますか? 髪が汚れるので、おんぶや抱っこは相澤先生にお願いして欲しいのですが……」

 

 思い出したように亜弥の近くへと、駆け足で近づいて言った。

 

「ギャハハッ……。俺は俺だ。クソいてぇけど、これも問題はねーな」

 

 絞られた雑巾のように変わり果てた右腕を肩から指先までピース化した。血溜まりにピースが落ち、解けるように跡形も無くなった。

 

「どうなってんだよ……チートかよ……オールマイトを超えるパワーと再生だぞ……」

 

 死柄木弔は両手で首を掻きむしる。動揺、怒りでその手は勢いを増す。血が滲み始めた頃、傍らに黒いモヤのような異形が現れる。

 

「死柄木弔! ……一人散らし損ね、逃げられました」

 

「そうか。…………は?」

 

 ワープホールの個性を持つヴィラン──黒霧。A組生徒達をUSJの各地に撒き散らすという重要な任を任されていたが、……そんな彼の存在を、死柄木すらもうっかり忘れていた。相澤も、亜弥も、いつの間にか居なくなっていたことには気がついていたものの、その存在を深く意識してはいなかった。

 

「は、……は、は? マジで!?」

 

 黒霧の胸ぐらを掴もうとして、モヤの肉体をつかみ損ねる。それほどまでに、死柄木弔は混乱していた。

 

 事態は着々と、終結へと進んでいく。

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