ピースメーカー 作:月見月 月魅
雄英は二日目から普通に授業が始まる。
というか、マジで普通の授業だった。
人手不足なのか、普通教科もヒーロー科の教師が担当するのだけれど、例えばぶっちぎりで騒々しいプレゼント・マイクの授業が、声量のおかげで居眠り出来ない以外は至ってノーマルな授業である。ヒーローらしい小話の一つもなく、偏差値の高そうなひと時であった。
今日の午前の授業は全て普通教科──いかにも高校生らしい生活を送ったが、ここはあくまでも雄英高校。午後にはヒーロー基礎学なる授業が待ち受けている上に、その前座ともいえる昼休みには、クックヒーロー、ランチラッシュなる、あなた本当にヒーロー? と言いたくなる凄腕料理人が食堂で待ち受けている。
普通教科の普通具合と、それ以外の時間の規格外具合は、変な形でつりあっていた。
「亜弥ちゃんそれほんとにお昼ご飯!?」
「私の体は糖分とカロリーさえ取っておけば平気なんだよ」
「いやそんな、女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている、みたいに言われても」
殺人鬼の右足の影響で――とは続けない。別に隠すようなことじゃないけれど、食事中に話すようなことでもない。
「いや、にしてもそれじゃ、ランチラッシュも怒るんじゃない?」
「うん、キレられた。『貴様ダイエットなめてんじゃねーぞくぉのやろうがぁ!!』って」
「そっち?」
桃肌で角の生えたクラスメイト――三奈ちゃんは私の向かいに座り、意外にも和風の定食を食べている。なんとなくだけど、もっとカラフルな物が好きそうな第一印象。献立を見るに、納豆にオクラとねっばねばしたものを好むらしいけれど、それは彼女の個性――酸の影響だろうか。
対して私の昼食は、チョコミントのアイスクリーム。
殺人鬼の足の数少ないメリットの一つとして、私は糖分とカロリーさえ摂取できれば健康状態を維持できるようになった。……このために、あとスピードに耐えられるように内臓周りをいじった結果、糖分が不足すると死にかねない体になったが。殺人鬼の死因の一つも、糖分不足による脳の機能停止だったし。
だからこれは本当に偶然だけれど、グラントリノとの甘味にまみれた日々は私にとっても好都合なものだった。
……とはいえ、私は殺人鬼とか妖怪たい焼きジジイほどに甘党じゃないし、糖分のバカ多いアイスなりジュースなりに頼らなきゃいけないのだけれど。
「ほら、ほうれん草の胡麻和えあげるから、野菜も食べなって」
「ごめんね。三奈ちゃんのことは大好きでその気持ちも嬉しいけれど、野菜は嫌いなんだ」
美味しくないし、食べる必要もないし。
「食べなきゃいけない――なんて思い込むから、食べずにいると体調崩すんだよ」
「いや、病は気から過ぎるでしょ」
「そう?」」
……そういえば私、病気になったことってないなぁ。
昼休みの終わりを告げるチャイムとともに、それは教室のドアを力強く開けて現れた。
「わーたーしーがーっ! 普通にドアから来たぁ!!!」
筋骨隆々の肉体――髪にまで筋肉が行き届いているんじゃないかと思わされる、立ち上がった二房の前髪――威風堂々とした佇まい――かけらも面白くないギャグ。
ナンバーワンヒーローにして平和の象徴にして、……あれが私の
意気揚々と教壇に上がったオールマイトは、プレートをこれまた力強く提示する――そこには『BATTLE』と書かれている。
「早速だが今日はこれ! 戦闘訓練!!」
あー……。この人、兄弟子だわ、確かに。あのジジイも実戦形式の訓練好きだったもんなぁ。
「そしてそいつに伴ってこちら!! 入学前に送ってもらった、個性届と要望に沿ってあつらえた
どこに需要があっての機構なのか、教室の壁が迫り出し、ロッカーが現れる。なるほど、男子は好きそうな演出。需要はそこだったか。
「着替えたら順次、グラウンドβに集合だ!!」
「「「「はーい!!」」」」
「百ちゃんや、インナーを着忘れてやいないかい?」
「いえ、こうでなくては意味がありませんので──というか、亜弥さんには言われたくありませんわ」
「桃ちゃん透ちゃんよりかは
「荒屋敷さんスタイルやっば」
「亜弥ちゃんと呼びなさい──私は苗字で呼ばれるのが嫌いなんだ」
私のコスチュームは、台無しヒーロー――エクスマキナのコスチュームを私向けにリメイクしたもの。特殊繊維のライダースーツがベースで、音速以上の速度で走っても燃えず破れず伸びない。剥き出しが最高効率である右足だけが付け根から露出しているのと、装飾、デザインが女子向けになっているのがリメイクポイント。体型に沿った造形が個性の射程的にも好都合。
もう言うまでもないだろうけれど、台無しヒーローエクスマキナとは、私の恩人である殺人鬼のヒーロー時代の呼び名である。悲劇を台無しにする舞台装置――デウスエクスマキナを元にした名前らしい。私は彼をマキナと呼んで慕っていたけれどその由来は、轢殺の殺人鬼――マキナギアというヴィランネームの方。
「いいじゃないかみんな! カッコいいぜ!!」
にしても、わかっちゃいたけど、このコスチュームは可愛げがなさ過ぎる。可愛いを正義とするヒーローになるなら、もうちょっとアイドルっぽいデザインにしても良かったかもしれない。
「先生、ここは入試の際にも使用した演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか」
排気孔を足や背に備えた鎧のようなコスチュームを着たメガネくん――飯田天哉くんは挙手してオールマイトに問う。
言っちゃなんだけど、動きにくそうなコスチュームだなぁ。確か、個性はエンジンだったか。個性抜きの私と似た戦闘スタイルになるだろうに、こうも対照的になるか。
「否。今日はもう二歩先に先に踏み込む――屋内での対人戦闘訓練さ!」
勝ったな。私の個性なら完全に逃げ道を塞げるし、接近戦なら私は無敵に近い。
「一般に見られるヴィラン退治は屋外が多いが、統計で言えば屋内の方が、凶悪ヴィランの発生率は高いんだ。監禁、軟禁、裏商売――このヒーロー飽和社会、真に賢いヴィランは
……なるほど確かに、私がされてきたことは大半は屋内でのことだったか。その誰もがヴィランにもならずにのうのうと過ごしているのはやっぱ気に入らないな。
「君らにはこれから『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれ、二対二の屋内戦をしてもらう」
「基礎訓練も無しに?」
「その基礎を知るための実戦さ! ただし今回はただぶっ飛ばせばOKなロボじゃないのがミソだ」
状況設定――ヴィランがアジトに核爆弾を隠して潜んでおり、ヒーローは制限時間内にヴィラン二人を捕らえるか、核兵器を回収することで勝利となる。逆にヴィランは核兵器を守りつつ、制限時間を迎えるか、ヒーローを打倒(この場合は捕縛)することで勝利となる。
ペア、並びに対戦相手はクジで決まる。
私のペアは──素っ裸で靴と手袋を着けただけという、変態的な格好をしている透明な美少女、葉隠透ちゃん。
「ねぇ、透ちゃん。その格好で電車に乗るだけでガッポリ稼げるバイトがあるんだけど興味無い?」
「はっ倒すよ?」
「ごめんなさい」
今のは私が悪かったよ、うん。でもいい身体してるんだよなぁ。
A組女子の身長とかとか。
蛙吹梅雨、150cm
葉隠透、152cm
耳郎響香、154cm
麗日お茶子、156cm
芦戸三奈、159cm
八百万百、173cm
荒屋敷亜弥(右足で片足立ち)、172cm
両足つけているときは、160後半程度。
素で長身細身のモデル体型だが、幼少期より右足が長かった為骨格が歪んでおり、直立が苦手。身体能力、筋肉量はヒーロー科にしては控えめで、胸部装甲も薄い。
エクスマキナ、マキナギア、亜弥のコスチューム。
ノーマルモーターまでの速度であれば燃えず破れず伸びない、単身生身での宇宙活動にも耐えられるレベルで丈夫なライダースーツ。
しかしノーマルモーター以上の速度で動くと破損するため、マキナの戦闘時の格好が全裸であることは珍しくなかった。コスチュームは、そもそもスピードをあまり出せない市街地で活動する時に着るもの。
亜弥にノーマルモーター以上の速度は危険が伴うため、本人に使う気があまりないものの、破かないためにも予め右足だけ付け根から露出させている。
亜弥の装備、サポートアイテム
・大量の強化ビニール袋。
命に関わるレベルの負傷者を全身ピース化し、袋詰めして運ぶためのもの。オールマイトを入れて縛れる程度に大きい。通称、ゴミ袋。縄状にすることで武器や拘束具としても使用可能。軽傷であるば止血にも使える。
・ただの黒手袋
亜弥の個性によるカウンター防御はオンオフのみの
・鉄板仕込みの安全靴(左足のみ)
加速、跳躍などは殺人鬼の右足だけで事足りるが、キックは左足でなきゃいけないこともあるだろう。一見、ただの運動靴だが、この靴で蹴られると鉄塊で叩かれたような鈍痛が響く。
殺人鬼の肉体は全身が球体関節であり、その身に宿った異能はあらゆる間接の高速回転。装備を増やせば増やすほど可動を制限され戦闘能力が低下するため、かの殺人鬼は常に裸足であった。亜弥が常に右足を露出させているのも、殺人鬼の影響が大きい。