ピースメーカー 作:月見月 月魅
戦闘訓練第一戦――出久くん、お茶子ちゃんペアの戦いは泥臭いというべきか、私利私欲の弱いもの虐めというか、健全な大喧嘩というか……どうも訓練らしいものには見えなかった。
そして第二戦が私達――透ちゃんと私のペアがヴィランとなり、轟焦凍、障子目蔵ペアのヒーローを迎え撃つ。
「私の個性、
「私は見ての通り、透明化! 脱ぐとすごいよ!」
そして相手である轟焦凍の個性は、氷で破茶滅茶。障子目蔵の個性は、肩から生えた二対の触手。握力だけ見ても怪物級。二人が技術的にどこまで出来るのかは未だ不明瞭だけれど、……顔的に、あれで弱かったらキャラ作りが上手すぎる。
「……亜弥ちゃんどうする!? なんか作戦とかあるの!?」
透ちゃんも似たようなことを考えていたのか、慌てた様子を身振り手振りで表現してくれている。靴と手袋なかったら分からんって。
「あー、作戦、ねぇ……」
どう考えても近接特化の障子くんだけなら、同じ近接特化である私が十全に対応できる。けど氷……というより冷気か。あれはなぁ……。氷そのものならともかく、熱エネルギーみたいな不定形なものってピース化出来ねぇんだよなぁ。
対処法がないじゃないのだけれど……。
「とりあえず透ちゃん、その脱ぎ散らかした靴と手袋、着けようか」
「え?」
全裸こそ彼女なりの本気モードなのだろうけれど、今回に限りそれは悪手。というかいくら厚着しても足りないくらい。
「……もしかして亜弥ちゃん、私のこと見えてたりする?」
「見えない程度で見失ってらんないだけだよ」
右足と違って、目に細工をしたりはしていない。サーモグラフィー機能みたいなのがついてるわけでもなく、透明人間を黙示可能にする特殊能力を秘めているわけでもない。
これは、目にも写らぬ速度で飛び回る師匠との戦闘訓練で身につけた、方角特化の察知能力と、目を閉じたまま行きたい方向にジャンプし続けるための方向感覚。まぁ、要するに直感なんだけれど。
「なっ、なんかよくわかんないけどかっこいいね!」
「そうだろうともさ、格好つけてるからね!」
もう作戦とかいいんじゃねーかな。このテンションでやってったらきっと勝てるって。ほら、誰かも言ってたし。最後に勝つのはノリのいいやつだって。
「作戦だけど、前衛は私に任せてくれていいよ。最悪、出久くんじゃないけど、自爆覚悟でやれば二人まとめて沈められるし」
「ええ……。私は何したらいい?」
「応援してくれればそれでいいよ。勝った時にハグでもしてくれたらもう最高」
「それ、言ってないだけで何もするなって言ってない!?」
「言ってないから、言ってないよ」
日本語って難しいね!
「まあ、冗談は抜きにしてもね。お互いの呼吸の仕方すら知らないのに作戦なんて立てようがないっつー話だよ」
「じゃあ、どうするの?」
そんなの、いつだって決まってる。
「可愛いは正義だってのを、女をママしか知らずに死にそうな童貞諸君に知らしめてやるのさ」
「作戦じゃない!?」
「だから、作戦は無いんだって」
毒にも薬にも水にもならない、せいぜいが友情の潤滑油程度の雑談を交わしながら、戦闘訓練は開始した。
師匠との戦闘訓練の内容の大概は、サンドバッグだった。四方八方十六方から飛んでくる師匠を直感と全力で察知して、回避なり反撃なりするという、見方によっては最悪の弱いもの虐め。
あれと比べれば、方向が下だと確定している攻撃であれば、どれだけ広範囲だったとしても回避は容易。
「わひゃっ!? 冷たってか痛っ!?」
室温が急激に下がり、霜が降りる。透ちゃんが凍える前に地面から離し抱き抱えるけれど、裸手袋で氷点下は地獄だろう。
ここは五階、最上階であり、ヒーローのスタート地点は地上。開始からほとんどタイムラグ無しでこの部屋が完全に凍ったってことは……。
「うはは、思ってたよりやばいねぇ」
ここまでの範囲攻撃を一人からの出力でやるか。
「うー、亜弥ちゃんに言われた通り靴と手袋着けててよかったよ……もしかしてこうなるの分かってたの?」
「ま、足元凍らせて行動に制限かけてくる、くらいは想定してたけどね――ノーマルモーター、ヒートアクセル」
まさか、部屋ごと凍らせにかかるとは思わなかった。
幸いにも、私の右足には暖房機能が搭載されている。……本来なら全身発熱して触れたもの全て焼き焦がす技なんだけど、私に耐えられる出力はカイロ程度の熱量。
身体の一部でも発熱するおかげで私だけなら、この極寒空間でも活動できる。ほぼ裸の透ちゃんにせめてスーツだけでも貸してあげたいところだけど、それじゃ私の格好が下着だけになってしまい、それは全裸の透ちゃんよりもずっと危うい画になる。せめてカメラがなければなぁ。
「ごめん、透ちゃん。即行で終わらせてくるから、耐えられる――守れるね?」
「――っ! うん! ここは任せて!」
ここは辛いだろうけど、透ちゃんには核爆弾の
三階まで降りたところで、接敵した。いや、この場合ヴィランは私なのだから、接敵したと言えるのは彼の方か。
さて、私はヴィランなのか。
なら、ヴィランになり切らねばなるまい。
「――私はヒーローじゃなくとも悪の敵。殺すべきを殺す執行者」
――俺はヒーローじゃあねえが悪の敵。殺すべきを殺す執行車。
「――この足の銘は最悪の舞台装置。美敵を殺して美談とする最終兵器」
――この身の名は解決の舞台装置。悲劇を正して美談とする殺戮兵器。
演じるは最高に格好いいヴィラン――マキナギア。
背中越しに聞いたセリフに倣い、私は嗤う。
「──挽き殺される覚悟はおーけぃ?」
──轢き殺される覚悟はいーかぁ?
先手は彼の方だった。建物全体を速攻で冷やした速さは凄まじかったが、その速度は接近戦にも十分有用なレベルらしい。
体温を保つために発熱し続けていた右足が、床を通して冷やされた。大気中の水分が関節部分で凍ったのか、動かない。
「うははっ、やるねぇ」
でもこの程度じゃ、殺人鬼の足は止まらない。
「ノーマルモーター、キックアクセル」
「なっ!!?」
一番貧弱なノーマルでも、この程度なら簡単に抜け出せる。……強引に回してるだけだけども。
殺人鬼なら勢いそのままにラリアットでもしてぶちのめすのだろうけど、私がそれをやると後が面倒。
だから打点を狭く、右の突手での刺突を試みた。
「壁に穴──サイコロか? 足だけの個性じゃねぇのか」
「むしろこっちがメインさ」
凍らされた影響か、初速が遅くなり躱された。
右手が壁に突き刺さり、ピースとなった無数の灰色が、まるで返り血のように吹き出て落ちる。
今まで戦ったことのないタイプの攻略に慣れないけれど、人間相手ならこれでいい。
「──
ピース化はある程度自在に連鎖する。壁から床へと抉りとるように伸び、冷気が私まで届くより先に、彼の足元を
「──
彼を先に落としてから、この部屋の床を余すことなく解す。ピースとなった床は、無数の灰色、大量の立方体となり降り注ぐ。当然私も足場を失い落下するが、不意打ちであった彼と意図的である私では天と地程に着地に差が出る。
「……なるほどな。触れたものを壊す個性か」
どれだけ戦い慣れしているのやら、氷で傘を作り防いだらしい彼は、ピースをひとつ摘んで分析しつつ私を睨む。
「不正解。私の個性はそんな器用なものじゃなくってね! ──ノーマルモーター、キックアクセル!」
足の置き場が無い程に散らばったピースを、体制を立て直そうとしている彼めがけて蹴り飛ばす。狂いも丸みも無い無数の立方体が、凶弾となり放たれる。
さすがにトーキックだとショットガン並の殺傷力になるから、扇状に、広範囲に飛来する回し蹴り──だからこそ、跳弾も含めて防ぎにくい。
「この程度!」
だけど一つ一つの弾は軽く小さい。全方位に氷を生成されては、丈夫なだけのコンクリート片では防壁を突破出来ない。
だからこそ、それこそが私の狙い。
「
身を守るために氷で覆われた都合、彼は逃げられない。
この二階の部屋の床も全てピース化し、私は落ちるより先に部屋から出る。
そしてそこには──
「なっ、荒屋敷!!」
「私を名前で呼ぶなっつーの!」
──崩落の音を聞いて、凍てつくビルを上がってくるもう一人のヒーローが居る。
「そろそろ終りて貰わないと透ちゃんが風邪ひいちゃうね。悪いけど出番は無いよ! ──ノーマルモーター、キックアクセル」
二対の翼のように伸びた触手こそ彼の個性にして武器。ゴリラやタコと揶揄されるだけのパワーは恐ろしいけれど、私も心を鬼にしよう。速攻で、抵抗する間も与えずに叩きのめす。
右足で地面を全力で蹴り、肩や肘の関節を痛めないよう丸めて突進。
今度は足も凍っておらず、初速から全速力。並の反射神経じゃ回避はできず、大概の人間は受け止めるか受け流そうとする。握力数百キロクラスなら、当然、受け止めて捕縛しようとするだろう。
彼らヒーローの敗因は、私の個性を知らなすぎた。
「
私を受け止めようとした腕、触手が、付け根からポロリと外れる。まるで、初めから外れるような構造であったかのように呆気なく、血の一滴、ピースの一欠片も零さず落ちた。何一つ特異性のない足だけで何をすることも出来ず、新たな触手をピース化している平らな断面から生やすことも出来ず、壁一枚突き破った先の柱に衝突する。
「ガッ、ぐ……、う、腕がっ!」
「へぇ、まだ意識あるんだ」
流石は男の子。だけど残念、この訓練は気絶させられずとも勝負が着くように出来ている。腕の無い身体で立ち上がろうともがく彼の首に、捕縛テープを巻きつければ、残すはあと一人。
「……なぁオールマイト、流石に腕を切ったりしたら中止じゃねぇのか」
氷を足場にしたのか、階段を見つけてきたのか、地面に落ちた腕と触手を見て、インカムでオールマイトに意見しているらしい。その返答は、私のつけているインカムにも聞こえてきた。
『荒屋敷少女に限り、完全な修復が可能な場合に限り、訓練中に限り、手足を外す拘束術は有用であり訓練も続行とする。──しかしそうでない場合、一般生徒への暴行と同等、或いはそれ以上の罰則もありうるので忘れないように』
「だーかーらぁ、名前で呼んでってばさぁ」
『君はまったくブレないな!?』
『亜弥ちゃんオールマイトに何言ったの!?』
透ちゃんにも聞こえてたか。元気そうで何よりだけど、随分小声で早口だった。そりゃ寒いだろうよ。私も寒いし、降参の意なのか、脱力して足元にいる目蔵くんも微かながら震えている。床が冷たいのか、腕が無くなった恐怖か。
分からないけど、これ以上長引かせないに越したことはないだろう。
「さてそれじゃあ、ヴィランらしくこう言おうか──仲間を五臓六腑五体満足に取り戻したくば、降参しやがれ」
攻勢に出ようとした焦凍くんの動きが止まる。
さて、これは一種のトロッコ問題。核爆弾を所有するヴィランを逃がして後に大量の死者を出すか、私を打倒するがために仲間一人の命を失うか。
「君が私をビルごと氷漬けにするよりも、私がビルごと全て
目が泳ぐ。きっとそれ以上の速度で、思考が回転している。だけど残念ながら、もう詰んでいる。
「轟くんかーくほっ!」
「……ナイスタイミング」
手袋も靴も脱いで降りてきた透ちゃんが、轟くんの腰周りに捕縛テープを巻き付ける。格好つけて喋ってたくせに、恥ずかしながらこの展開は想定外。
人質取りつつ透ちゃんが見えないことを加味した口八丁で時間を稼ぐつもりだったけれど、こっそり気配隠して様子を見に来ていたらしい透ちゃんが踏み切ってくれた。
『ヴィランチーム──Win!!!』
「うわっ!? 障子くん腕とれてんじゃん!? 大丈夫!?」
「……ああ、痛みも出血もない。オールマイトの言葉を信じるなら、
「ちゃんとくっつけるから心配はいらないよ。私の足だってそうなんだから」
荒屋敷亜弥の弱点
・エネルギー全般
わかりやすい例が、轟焦凍の冷気。他にも熱や念動力なども苦手。
・液体
水や融解した金属など、液体単体を解すことは、出来なくはないが不得意。本人曰く、イメージの問題。単体でなければ、水を吸ったスポンジや、七割が水分の人間であっても問題なく解せる。
・認識出来ない相手
透明人間の葉隠透など。触れていればその部位をピース化出来るけれど、非接触では解せない。範囲を決めて丸ごと、など巻き込む形であれば可能。
逆に認識さえ出来てしまえば、多少離れた敵も非接触で解せる。今話時点での射程は頑張って15cm程度。自動防御は5cm程度。
・ガス
触れないもんなんざどうしろってんだよ!! ──本人談。
つまり食らったが最後、どうしようもない。
・催眠、洗脳、他精神攻撃
……やられるより先にやれば問題ないし。──本人談。
つまり食らったが最後、どうしようもない。