ピースメーカー 作:月見月 月魅
「私の個性で解したピースは、私にしかくっつけられない。だから透ちゃんが断面同士をくっつけたり、縫ったり貼ったりしても無駄なんだけど、──ほら、私がくっつければこのとおり! 普通に動くでしょ?」
「あ、ああ。凄まじい個性だな……」
「亜弥ちゃんすっごーい!」
「そうだろうそうだろうとも!」
「……なぁ、見間違いじゃなきゃ、障子の腕、左右反対になってないか?」
「あ、やべ。……ミスると基本動かせないんだけど、個性の相性かな。──不便だろうしもっかい解すねー」
「!?!?」
戦闘訓練は戦って終わりではない。私達の戦いを見ていた皆の元へと戻ると、戦闘映像のリプレイと共に講評がされる。
両チームの行動の是々非々や反省点を、オールマイトと百ちゃんが競走でもしているかのように次々とあげていく。その様はまるでプロの早押しクイズが如く。
……なんてことがあったらしい。
気になりすぎるその光景を見たかったけれど、しかしその頃、私は到底人の話を聞いていられる状態ではなかった。
──燃料切れである。
ただでさえ燃費の悪いヒートアクセルを、寒いからと訓練中ほとんど回しっぱなしにしていたのは悪手だった。
生命維持に必要な最低限は残したものの、最低限の量で人並みに活動出来るはずもなく、私は強制的な眠りについた。──ちなみにこの強制睡眠もまた、右足に搭載された機能である。脳に微弱な電気信号を送り、強制的に眠らせる。予備燃料として燃焼させる脂肪が無いマキナを守るための機能らしい。
どれだけ眠っていたのやら。私が目を覚ましたころには、もう既に保健室のベッドの上だった。どうやら点滴を打たれたらしい。
「……なんでもいいから食べるものが欲しい。出来れば油っこい揚げ物と炭水化物」
「目覚めた乙女の第一声がそれかい……」
ベッド脇の椅子に座ったリカバリーガールは言いながら、ハリボーを袋ごと私に寄越す。
「あんたも随分と、難儀な個性……いや、体質と呼ぶべきかねぇ」
「どっちでもいいよ。どっちでもないし、どちらとも言えなくは無い」
「……あの子は確か、機能といっていたかね」
リカバリーガールは何かを懐かしむように言って、深いため息を吐き出した。
「それ食べ終わったら、職員室に寄って帰りな。ランチラッシュがあんたに弁当を作ってから帰ったよ」
「うはは、そりゃありがたいね」
昼はアイスで済ませたけど、みんなの見てて気にはなってたんだよねぇ。
リカバリーガールの拘りなのか、時計が見当たらないけれど、窓の外を見るに、夕方なんて時間はとうに過ぎている。
「何処も痛むところは無いね? 私はもう帰るよ。残業は暫く勘弁さね」
「夜の学校ってさ、アガるよね」
「あんたもさっさと帰りな! 脳を入れ替えた訳でもないのに、どうしてそんなとこばっかそっくりなのやら……」
「なにそれ、マキナの話?」
「昔話は趣味じゃないよ」
愚痴るように言いながら、いくつかの棚の施錠を確認して、保健室から出ていってしまった。ドアは施錠しない方針らしい。きっと、自分がいない時にでも誰かが手当を出来るようにするためだろう。鍵のついてない棚がいくつもある。
私もさっさと出ようと、ベッドから降りて上履きを履こうとして、一枚の書き置きを見つけた。メモ帳から切り離したらしい小さな紙に、女の子らしい丸っこい字で書かれている。
──あんたの身体、特に中身は、私には治せない。痛い目見たくなきゃ、全力で気をつけな。
「……ジジババのツンデレに需要はねーよ」
内心で了解と返し、書き置きはゴミ箱に捨てて私も保健室を出る。
これでババアにエンカウントしちゃったらウケるな。
「ノックしてもしもーし、八木せんせーいますかー」
明かりの無い、真っ暗な廊下をスマホのライトで乗り越え、ドアの隙間から光の覗く職員室へと入る。
「あっ、荒屋敷少女!?」
「……ジジイもだけど、よくそれで隠し通してこれたね」
いや、ジジイは隠し通せなかったのか。私が知っちゃってるわけだし。勝手に覗いただけだけど。
髑髏を思わせる程に肉付きの悪い、金髪の男が、私を見て絶叫している。或いは断末魔かもしれない。血ぃ吐いてるし。
「最初っからその顔で教師やれば良かったのに。名乗らなきゃバレないんだから」
「…………まさかっ──」
そんなに体調が悪いのか、足腰を震わせて、ブレっブレの指先で私を指しながら言った。
「あの方からの手紙にあった、今年入学する家出娘というのは君のことだったのか!!」
気づいて無かったのかよ。つーか名前も知らせてなかったのかよ、あのクソジジイ。
「改めて初めまして、オールマイト。私はあなたの――妹弟子にあたる」
「あー……うん」
うわぁ、めっちゃ目が右往左往してる。顔面の不気味さも相まってもはや異形っつーか、魑魅魍魎って感じ。
「確認したいのだけど、荒屋敷少女──私のことって、どのくらい聞いてる?」
「そりゃあもう、学生時代の出来事をやたらめったらと」
残念ながら何も聞いてはいない。暇つぶしに、あのクソジジイ宛のラブレターだと思って見てみた手紙を勝手に読んだら書いてただけで。
それはそれとして、学生時代のことはマキナからも多少は聞いている。けど二人とも、殆どが自慢話で、信憑性とか諸々当てにならないのだけど。
「怒ってたよー。ブチ切れてたよー。手紙ばっかじゃなくて」
「申し訳ない!! いつかちゃんと顔を見せると伝えておいてくれるかな!?」
「いや、そうじゃなくて──手紙じゃなくて、メールで寄越せってさ。手書きはいい加減面倒だって」
「あ、そっち? いやでも、メアド知らないし……」
「インテリ眼鏡生徒会長に恋する陰キャモブ属性ヒロインかよ」
「インテリ眼鏡生徒会長に恋する陰キャモブ属性ヒロイン!?!?」
「その金髪じゃ無理があるから、黒く染めて、その触手みたいな前髪も切ろうか」
「私のトレードマークぅぅ!!!」
「筋骨隆々形態は引かれるから当然控えるとして、それはそれとして今の顔もやばいね。控えめに言って妖怪。もっと肉つけていこう」
「いや私、ヒロインじゃないからね!? ヒーロー! ヒーローだから!」
「まさか、血反吐吐きながら言われても説得力ねーよ。ゲロインならともかく」
「ともかかないよ!?」
ま、人気者ではあっても男に抱かれるタイプじゃないか。顔も美形って属性じゃないし。
「確かに、そのポジションはお茶子ちゃんか」
「授業の時から薄々分かっていたけど、きみ私のファンじゃ無さすぎるだろ!」
「別に嫌いじゃないけどね」
私はオールマイトよりもマキナが好きで尊敬してるってだけで。
「そ、それで、こんな時間に、私になにか用かな? あの方からの伝言ならメモを用意するけど……」
「いや、試しに呼んでみただけで用はないけど」
「…………」
本当に万年人気者だったんだな、この人。別にどうとも思えないけど、生きにくそうな人生謳歌しちゃってるなー。
「そんなことより、ランチラッシュが作ってくれたらしい弁当知らない? ハリボーだけじゃ足りなくて帰れないんだけど」
「あ、ああ、……そこの冷蔵庫の中だよ。隣の電子レンジも使うといい」
「さんくー」
カフェイン摂取を目的としているであろう飲料数種と食事を簡略化させるための栄養ゼリーばかり入っている冷蔵庫の中に、使い捨ての弁当箱が二つ、重ねて置いてある。一つには私の名前、もう一つにはオールマイトの名前が書かれている。オールマイトも残業だったか……。そういえば他に教師はいないし、何をしているのやら。
「ふむ、私も一度休憩にしよう。……一緒に食べる? お互いに積もる話もあるだろうし」
意外なお誘い……でもないか。オールマイトからしても、私に聞いておきたいことは山ほどあるだろうし。
「いいね。私も積もらせておきたい話が山のようにあったんだった」
「それはもう積もらせるまでもなく積み上がっていないかい……?」
聞きたい話も聞きたくない話もあるだろうけれど、聞かれたい話も聞かれたくない話もあるだろうけれど、この際全て話してしまおう。面倒だし。……そんな流れで、搾られた英雄と殺人鬼の残骸は言の刃を交える。
「台無しヒーロー、エクスマキナ。嘗ての盟友――嘗ての同胞――嘗ての宿敵。彼のことはよく覚えているよ。……君の足から察するに、もう……」
「だいぶ前のことになるね。……十と何年か前に、マキナは私に右足を託して死んだよ」
「君には悪いが――そこが解せない。嘗てはヒーローであった彼、マキナギアは、全メディアが拒絶反応を示したほどの凶悪犯罪者、轢殺の殺人鬼とも呼ばれたヴィランだ。――殺意の結晶のように塗り変わったあの男が、今更人助けをするとは思えない」
「マキナの殺す理由がヒーローと似たり寄ったりなんだから、ヒーローと似た理由で人を助けたって不思議はないでしょ」
「……可愛いは正義、だったかな」
「そうそれ。私はそれで助けられた」
「……」
「……」
お互い口が重くなり、お茶をすする。話題を変えようと思った途端に──
『私の名は
──ポケットの中のスマホが振動し、無理矢理に録音させられた専用の着信音が鳴る。
『忘れましたか? 私の名は白神彩織というのです』
自分の名前大好き過ぎるだろあの人……。
「ごめん、ちょっと出てくる」
「あ、うん」
ドン引きしてるオールマイトを尻目に廊下に出てから、私は通話ボタンを押す。
聞こえてくるのは、雪のように冷たく、氷のように鋭く、しかし慈愛の滲む少女の声。
『私です。まだ無事ですか? 生きてますね?』
着信音と同じ声。返事を聞く気なんて無いんじゃないかという程に早口で、それも唐突に安否確認されて面食らった私は、ワンテンポ遅れて言葉を返した。
「……なんともないけど」
『ならばよし。今から三十秒、決して外に出ないでくださいね』
「はあ」
似たようなやり取りは前にもあった。……その時に私は彼女の側にいて、電話の相手は私ではない別の誰かだったけれど。
『近いうちにまた会いましょう』
「へーい」
『愛していますよ、亜弥』
胸焼けする程に甘ったるい言葉を最後に通話は切れる。
……あ、そうだ。
「その身体、直してあげようか」
「え?」