[短編]服部くんが二科生アンチの理由をちょっと妄想してみた 作:なむさんばがらす
この人の問いかけは、いつも回りくどかった。
「……なぁ、範蔵君。なぜ、この学校に差別があると思う?」
――いや、『差別』というには語弊があるな……本家本元の奴隷階級や「分離すれども平等」を食らった方たちとは比べるのもおこがましい。
ある日の昼休み、その人は、僕(・)にそんなことを言った。
「それは、一科生と二科生の実力が違うからでは?」
この魔法科高校において、一科二科、というのは、純粋に『魔法の才能』で分けられる。故に、一科生は優等生、二科生は劣等生、という認識が一般化している。
「確かに、二科生である私と一科のトップの君では、たとえ私が一年先輩でも、正式な魔法戦では万に一つも勝ち目はないだろう」
――だが、この距離ならどうだ?
そういって、先輩は僕の顔を両手ではさみ、ぐいっと顔を近づけた。あと数センチ近ければ、記念すべきファーストキッスになっていただろう。
生徒会長ほどではないが、整った顔立ちと吊り気味の目元、真紅の双眸に吸い込まれそうになる。
「ちょ、先輩!顔が近いです!」
「私と君の仲じゃないか、これくらい普通だぞ?」
赤面してうろたえる僕を見た先輩は、おどけたように僕の顔から手を放し、くすくすと笑った。
「……からかうのもいい加減にしてください」
「ふふ、そうだな。で、さっきの話に戻るが……手と手が触れ合う距離ならば、私は瞬く間に君の全身の随意筋を攣らせることができる」
――いや、それが精いっぱい、というのが正しいかな。
「……全身の筋肉が攣っても継戦能力のある人間を俺は知りませんよ」
結局、何が言いたいんです?
とでも言いたげな俺の表情を感じ取ったのか、先輩は「やれやれ」と肩をすくめた。
「そういえば、『結論から話してくれ』と知人の理系人間にもよく言われていたっけなぁ……仕方ない、結論から手っ取り早く行こう」
――この学園では、言葉の定義が歪んでいるんだ。
「は?」
これが、『遅れてきた厨二病』なのだろうか。
「こらこら、そんなかわいそうな人を見るような目で見るんじゃない。元はといえば結論を急いだ君のせいでもあるのだぞ?」
「さっきの意趣返しです」
先輩の話は、長いし、難解だ。ちょくちょく小休止を挟まねば、飽きてしまう。
「……ふん。わかってたさ、私と君の仲だからな。では今一度本題に戻ろう」
――君は魔法士における『実力』とはなんと定義する?
「それは……」
自分よりもはるかに強い生徒会の先輩方を思い浮かべる。
「今、七草生徒会長や渡辺風紀委員長を思い浮かべたね?」
――つまり、実力とは、戦いにおいて発揮され、敵として相対した者を倒すために発揮される力。ということで相違ないね?
「……一般論で言えばそうなりますね」
「おや、君は違うみたいな言い草だ。ぜひ聞かせて欲しいな」
人の話を聞くのも自分がしゃべるのも大好きな先輩が揚げ足取り気味に食いつく。
「今僕の意見を言っても仕方ないでしょう。先輩の結論によれば、この学園全体の話なんでしょう?」
なら、一般論の方が有用のはずだ。
「ふむ。察しが良いな範蔵くん。では、もう一つ質問だ」
――そう定義された『実力』とは、どのように決定する?
「それは……」
「そう、戦うしかない。そこで、三つほど前の質問に戻る」
――私と君が戦った場合、どちらが勝つ?
「答えは、『接近戦なら私が勝ち、遠・中距離戦なら君が勝つ』だったな? 魔法の才能は雲泥の差だが……」
「……」
「結局、『魔法の才能』なんてものはその人の『実力』の一部であって全部じゃない。周囲の状況、相手との距離、その他もろもろの要因があって初めて、彼我の実力差が勝敗という形で現れる」
――決して、魔法の才能(一科生か二科生か)=実力の差ではないのだよ。
「何をいまさらそんな当たり前のことを言うのですか?」
「それがわからん生徒が多すぎる、という話だ。一科生にも、二科生にも」
――そして、最初の質問に戻る。
「この学校に、なぜ差別があるのか? でしたっけ」
今先輩が長々としゃべった話によれば、言葉の定義が歪んで、魔法の才能=実力となってしまっているからだということになる。
「だが、先ほどの私の結論では、矛盾が残る」
――仮に、一科生と二科生の『実力』に差があったとして、はたして本当に差別が生まれるのだろうか?
本来、『差別』といわれるような行為が横行するためには、警察、国家、経済界といったような権力にその行為が黙認されて、差別される側が社会的にがんじがらめになっていなければ成り立たない。
「誰かが誰かを一方的に虐げるのは、どんな理由があれ犯罪だからな。その点、うちの風紀委員長はよくやってくれていると思うよ」
一科生と二科生の対立が表面化し刃傷沙汰になりかける時も、風紀委員はできるだけ公明正大に解決しようと尽力する。
それは単に、渡辺風紀委員長が、差別的な考えを持たない生徒を選んで風紀委員に加えているからである。
「……学校内の権力である生徒会や風紀委員会で、一科生と二科生の差別を認めておらず、逆に厳しく取り締まっているはずなのに、差別が起こっている?」
「そう、おかしいのはそこさ。客観的に見て差別をする側にメリットがほとんどない。むしろ校則違反のデメリットの方が大きい」
――では何故か……私には、それがわからない。
「こればっかりは差別意識を待っている本人に聞くしかないですが……こればっかりはどうしようもないですね」
「いや、一応さっき君と会う前に尋ねては見たんだ。だが、すげなくあしらわれてしまった」
やはり、先輩はどこか抜けている。それが人として大事な部分かはわからないが、学校生活を送るうえでは重要なところであることは容易に導出できた。
……僕がしっかりせねば!
「そんなことをして先輩は何ともなかったんですか?」
「私の心配をしてくれるのかい? なんとも、女冥利に尽きるな」
「はぐらかさないでください!」
「まぁまぁ落ち着いて。あの時は相手の顰蹙を買ってしまったようだったから、
――自他共に認める優等生(花冠)様が、まさか無抵抗の雑草(ウィード)めに対して暴力など振るいますまい?
と釘さしておいたから、後腐れはなかったよ」
……後腐れ大有りじゃないか。
「……先輩、今日は一緒に帰りましょう」
「おや、いきなりデートの誘いかね? うれしいが、今日は放課後壬生女史と話し込む予定だから帰るのは遅いぞ?」
からかっているのか知らないが、彼女には一科の生徒に喧嘩を売ったという危機意識があるのかはなはだ疑問であった。この際、デートということにしてもいいかもしれない。
長話をしている間に昼休み終了の予冷が鳴り、先輩はとうに終えていた昼食の容器をカウンターに返却しに席を立つ。
「構いません。僕も生徒会の仕事がありますから」
僕も先輩の後を追いかけてさらに話を続けた。
「ほう、今日の君は強引だな。だが、嫌いじゃない」
――では校門の辺りで待ち合わせにしよう。さて、どちらが早いかな?
「きっと僕ですよ。どうせ先輩は剣道部の練習も見てから帰るんでしょ?」
「ふむ、なんせ、彼女の剣は美しいからな」
――迷いのある剣ほど、私には美しく映ってしまうようだ。おかしな話だが
『剣』に『迷い』があるかどうかなど、剣術に心得のない自分にはとんと見当もつかない。
こういう話を聞くと、そういえば彼女の実家が元名家であったのだな、と思い知らされる。
彼女自身は武術はからきしで、代々師事されてきた道場を破門にされた(と同時に、実家からも勘当同然の扱いを受けた)のだと言っていたが、現にこうやって許嫁云々の指示に素直に従っている辺り、いろいろ複雑な事情があるのかもしれない。
「しかし、よく私のことをわかっているな。さすが、暫定我が将来の伴侶よ」
「やめてください。あくまで暫定なんですから、絶対に二十歳までに別の人と結婚してやります」
「ほう、それは興味深い。式には呼んでくれよ? 私は服部家の血筋のために君の実家が用意した安全牌みたいなものだからな。君が私と一緒になりたくないのであれば、頑張って七草生徒会長でも狙うのが得策だよ」
重い話をさらりと言って、ガハハと笑い飛ばす。
言われた方は、まるでそれがなんでもないかのように感じてしまう。
どうでもいいことを長ったらしく語り、自分にかかわる重要なことはさらりと流す。
彼女と話せば話すほどに、まるで掴みどころのない陽炎のような人だという印象が深くなった。
「ではな。また放課後に」
――それ以降、先輩と言葉を交わしたのはずいぶんと……一年ほど後になる。
彼女は大けがをして入院したのだ。おそらく彼女が言い負かした一科生の手によって。
その本人は彼女への暴行は認めたが、容疑を否認し、状況が状況だっただけに直接の関係性はないと判断され、軽い罰で済んだ。
――あの人は、出しゃばったから、目をつけられた。
――二科生は、差別されて縮こまっているぐらいがちょうどいい。
――差別意識は、二科生がそれを共有することによって、一科生から身を守る目に見えない鎧でもあったのだ。
だから――――――――――――
「会長! 私(・)は司馬達也の風紀委員就任に反対です!」
――――――――――私は、二科生を差別する。
これは、「魔法科高校って、一科生が二科生に突っかかってくる以外に差別描写あった? そもそもこの作品自体設定ガバガバなん?」という私の素朴な疑問から生まれたSSです。たぶん続かない(けど、二話ももうほとんどできてるなんて言えない……)
好きな作品のSSを書くのも読むのも好きだけど、嫌いな作品のSSを書くのも好きという、まったく度し難い私の衝動にお付き合いいただき、ありがとうございました。