蒼き拳神は平和が恋しい   作:ロシアよ永遠に

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第二話『女神様?』

「う………ここは…?」

 

妙な浮遊感に包まれていた事に違和感を感じ、目を見開いた。

 

「モニターは………一応、生きているか。」

 

所々ひび割れているものの、外の景色を確認することくらいはできるようだ。

ぼやける視界を修正しながら、モニターに映し出されたそれを見て、彼は息を呑んだ。

周囲に映し出されたもの。

それは青くも暗い宇宙の色とは異なったものだった。

 

「……何なんだ?この景色は…。」

 

それは周りすべてがマーブルに彩られた異様な空間。あの暗がりの宇宙とはまるでかけ離れた色だった。

その異様さに思わず目を見開いてしまうが、すぐに目を閉じて一息吐き出す。

 

「ここがどこだろうが……関係はないか。しかし…●●●●●●、思ったより丈夫だったらしい。」

 

あれだけボロボロの状態で戦って、次元転移の爆発に巻き込まれたにも関わらず、こうしてコクピットのエアーが保てるほどまでに耐えていたのだ。愛機の堅牢さには舌を巻く以外ない。

 

「システムの再起動は……無理か。手動での脱出は……ダメだ。装甲がひしゃげて引っ掛かってるな。………フッ…出られたからと言ってどうなるわけでもないが。」

 

明らかに異様なこの空間。どう考えても普通の空間ではない。恐らくは、次元転移のショックで異空間にでも飛ばされたのだろう。

諦めた彼は、力を抜き、浮遊感に見を預ける。

妙な心地よさだった。

なんのお供しない。ただただ静寂が支配する世界。

 

「静かだ。世界はこれくらい静かな方が良いのかもしれん。………静寂が日常である世界、案外悪くはないようだ。」

 

闘争をかつて望んでいた自分たちだったが、

闘争もない、

戦争もない、

そんな世界をその身で感じ、それは意外にも満たされていた。

これが平和を望み戦うものが得られる特権なのかもしれない。

 

「酸素残量は…後20分前後か。それまでは生きていられるか。………あの部隊は全滅。後は残った俺がいなくなれば、すべて終わる。…終わるときは…まともな死に方をするとは思っていなかったが…フッ、俺は贅沢ものだな。」

 

けたたましい銃声鳴り響く戦場で戦死することもなく、

ただただ静寂の中で一人で、ゆっくりと………

自分がまさかそんな最期を迎えることができようとは、夢に思わなかった。

 

「この訳のわからん空間が俺の墓場っていうのが気に食わんが、それも贅沢、というものか。だが………

 

もっと贅沢を言うなら、

 

平和という甘い世界を………見て、歩いて、感じてみたいというのは、欲張りなのだろうな。」

 

【そんな貴方の願い、私が叶えてあげますの。】

 

「!?!?」

 

独り言に応じるように頭に響く声。閉じていた目を開き、何事にも応じれるように身構える。

 

「…誰だ?」

 

【私は今、巷で流行りの転生の女神ですの。今、貴方が言っていた平和な世界で過ごしてみたい。その願いを叶えられますの。】

 

「女神…?ふざけているのか?」

 

【マジもマジ。大マジですのよ?】

 

…どうにもこのヒトを食ったような声に懐かしさを覚えつつも、警戒を怠ることはない。

 

「仮にお前が女神として、ここはどこだ?あの世、というやつなのか?」

 

【そうでもあって、そうでもないですの。ここは所謂、次元の狭間ですの。】

 

「次元の狭間…だと?」

 

【その名の通り、あまねく世界の間にある場所ですのよ。あの世もこの世もその世もどの世も行けますの。】

 

正直眉唾ものだった。女神だの何だのオカルトを信じる程、彼は信心深くはない。だが、この空間を他に説明できないのも事実だ。

 

「仮に俺を平和な世界へ飛ばすとして…お前に何のメリットが有る?平和な世界で何をさせるつもりだ?」

 

【疑り深いですのねぇ。私、悲しいですの。しくしく。】

 

「取って付けたような泣き真似はやめろ。ばればれだぞ、これがな。」

 

【…ホントに泣きますのよ?…まぁ見返りとして、その壊れかけの機体。その特殊な力を借りたいですの。】

 

「特殊な…?」

 

【正確に言えば、その装甲材質ですの。】

 

用途はわからないが、この機体の装甲にはある程度の自己修復機能が備わっている。それをご所望らしい。

 

「…幾度となく俺を救ってくれた相棒だ。このまま朽ちていくよりも、何らかの役に立てれるなら、それに越したことはないだろう。」

 

【契約、成立ですのね?】

 

「あぁ。貴様の好きにしろ。」

 

【ありがとうですの。………これで私は………私自身になる方法を…。】

 

「………?」

 

何やら後半が聞き取れなかったが、どうせここで切れる縁だ、と彼は気には止めなかった。

兎にも角にも、これで平和な世界へとシフトとなる。不安もないわけではないが、期待もないわけではなかった。

 

【では、これから貴方をかの世界へ誘いますの。準備はいいですの?】

 

「いつでも構わん。好きなときにやれ。」

 

【了解ですの。】

 

そう応じるやいなや、彼の体が淡い光りに包まれる。不可思議な光景だが、考察するより先に、次は体が透け始めた。いよいよ異世界へ飛ぶことが現実味を帯びてきた。

 

【そうそう、言い忘れましたの。】

 

「なんだ?」

 

【これから次元をぬけることになりますの。つまり強いショックに晒されますの。衝撃で記憶がブッ飛ぶかもしれませんので、了承お願いしますの。】

 

「なん……だと……?」

 

以前、彼は一度次元転移を体験し、記憶を失ったことがあった。

その時の自身の性格を思い出し、背筋に薄ら寒いものが走る。

 

「アレが…まだ起きるかもしれないのか!?」

 

【起きるかもしれませんし、起きないかもしれませんの。】

 

「どっちだ!?」

 

【それは神のみぞ知る、というやつですのよ。】

 

「貴様!さっき自分で女神と言っただろう!?」

 

【記憶にございませんの。】

 

体の感覚がなくなってきた。いよいよその時が来たらしい。

 

「くそっ!分の悪い賭けになったもんだ!」

 

【分の悪い賭け……好きではありませんの?】

 

「ここまで嫌な賭けは好まん!」

 

体がもはやここにあるかすらわからない状態へと変わってきた。もう喋ることすらままならない。

 

【時間ですの。】

 

「………!………!」

 

何かを訴えようにも声が出ない。

そんな焦りのさなか、やっぱとんでもないことを最後に口走った。

 

【では、向こうで会いましょうですの。】




転生の女神様………一体何者なんだ(棒)

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