赤ワカメは平和が恋しい   作:ロシアよ永遠に

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第五話『実技試験』

翌日

昼食を終えて一服している中、千冬の『来い。』の一言で記憶喪失後に初めて外に出ることができたアクセル。何処のマダオだろうかと言わんばかりの言葉少なさだが、外に出られることに変わりなく、狭くはないが、閉鎖的な部屋から出られたことがアクセルにとっては僥倖だった。

 

「ここだ。」

 

部屋から歩くこと十分程。

辿り着いたのは『第8アリーナ ピットエリア』

自動ドアを抜けた先は薄暗く、見えにくくない程度に内部が照らされている。構わず歩いていく千冬に、何がなんやらわからぬ状態でついて行くことしかできいアクセル。

 

「今日はお前の実力を見せてもらう。所謂実技試験だ。」

 

「戦う?俺が?誰と?」

 

「それはその時のお楽しみだ。その方がサプライズで良いだろう?」

 

「……そんなサプライズ、遠慮したいんだが…。無理な話、だよな?」

 

「わかっているじゃないか。では、ソウルゲインとやらを起動してここで待っていろ。その後は追って通信で話す。」

 

返事は聞かぬまま、千冬はピットから出ていってしまった。

呆れるアクセルだが、これ以上はどうしようもない。今は千冬の指示に従う意外に、何の選択肢はないのだから。

 

「やるしかねぇか。…やるぞ、ソウルゲイン。」

 

念じれば、その言葉に呼応するかのように、アクセルの体は蒼い閃光に包まれていく。

次の瞬間には光は収まり、アクセルは自身の体の感覚を確かめる。

その見た目は正に断片的な記憶に焼き付いて離れない、長年の相棒だろうと確信が持てる姿だ。体の各所には丸みを帯びた蒼い装甲による全身装甲(フルスキン)と、ペンダントと同じ翠のクリスタル。右腕は左腕とは非対称で、左は肘のブレードを含めシルバー、右はゴールドだ。極めつけは額と頬から伸びたブレードアンテナのような突起。

普段の体より若干重い感じはある。だがこれがISのパワーアシストからか、見た目ほどの重さは感じられない。

 

『装着完了。これより最適化(フィッティング)を開始しちゃいますのです。』

 

「ん……?」

 

一頻りソウルゲインをまとった実感を味わったあたりで、妙な機械音声が流れた。

 

一次移行(ファーストシフト)まで、しばらくお待ちやがりくださいませ。』

 

「なんだこりゃ?バグってるのか?」

 

『バグっておりませんのことよ。アホですか?』

 

何だコイツは、喧嘩を売っているのか?と、アクセルの怒りのボルテージ(気力)がモリモリ上がっていく。

しばらくして、一次移行(ファーストシフト)完了したあたりで千冬から通信が入る。

 

『準備はできたか?』

 

「お、おう。」

 

『よし、ならばカタパルトに進め。そこからはガイド音声が案内してくれる。』

 

「りょ〜かい。」

 

ガションガションと、いかにもメカメカしい音を鳴らしながら、カタパルトと思しき装置の前に移動する。

懐かしい

そんな感覚が蘇ってくる。

何度も何度も体験したような。

ガイド音声など聞こえないのかとばかりに、体に染み込んだ動きがカタパルトへと誘う。射出装置に脚部を固定。これから射出のための加速に備え、膝を曲げ、やや前傾になり、足を踏ん張る。

 

『進路クリア。発進は、搭乗者の音声認識にて行います。どうぞ。』

 

「よし!アクセル・アルマー。ソウルゲイン!行くぜ!!」

 

瞬間、蒼き拳神は、アリーナ上空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てきたか、アクセル・アルマー。」

 

アリーナに降り立ったアクセル。それをガイナ立ちで待っていたのは、第二世代の打鉄を纏った知った千冬。その佇まいは、もはや一種の芸術と言わんばかりに雄々しかった。

 

「もしかして、千冬ちゃんが対戦相手なのか?」

 

「その通りだ。手加減はいらん。お前の全力を私に見せろ。それだけだ。」

 

そう言うと、打鉄の拡張領域(パススロット)から近接戦用ブレードである『葵』を展開。構える。

その圧たるや、記憶の断片にあるお下げのジジィに親しいものを感じる。思わず身震いするが、さりとてアクセルという男は、それで気圧されて竦み上がるほど、気の小さい男ではなかった。

 

「いいね。シンプルなのは嫌いじゃないんだな、これが。」

 

応じるようにアクセルも徒手空拳の構え。武器展開しないアクセルに、千冬は怪訝な表情を浮かべる。

 

「武器は使わんのか?」

 

「使わない…というより、拳で戦うのがしっくりくる気がしてな、コイツは。」

 

「確かに、近接戦用の雰囲気ではあるが…まさか素手とはな。やれるのか?」

 

「記憶がなくても武器の威力は変わらんぜ?」

 

「違いないな。…そろそろ始めるか。山田君、ブザーを頼む。」

 

『わかりました!それでは、実技試験……

 

 

 

始め!』

 

開始と同時。

千冬はIS戦闘技能の基本でもある瞬時加速(イグニッションブースト)を発動し、一気に間合いを詰める。ISを起動するのも、動かすのも、ましてや戦うのも初めてのアクセルは面食らう。

だが、身体がとっさに動いた。

上段から振り下ろされるブレードを、ソウルゲインの肘部ブレードを交差し、噛むように受け止める。

 

「お、重っ!」

 

打鉄のパワーアシストだけではない。恐らくは千冬の基礎身体能力を増幅させた一撃。まともに受け止めてしまった事で、思わずアクセルは顔を歪める。

 

「やはり私の動きに反応するか!」

 

「いや、勝手に体が動いたんだな、これが。」

 

「ならば身体に戦い方はが染み付いているのだろうな!」

 

「ぐっ!」

 

脚部による蹴りを脇腹に食らう。シールドエネルギーに加え、装甲越しとは言えども衝撃は多少なりとも響くものだ。蹴りがクリーンヒットした事で、シールドエネルギーが微量だが減少してしまった。初手は譲ってしまったが、アクセルとしてもこのままやられっぱなしというのは性に合わない。

しかし、

 

(えぇっと…どうやって武装を使うんだ?)

 

アクセルは困惑していた。

本による前情報で、ISの操作法や、拡張領域(パススロット)にある量子化された武器はイメージで呼び出せる、という知識はあるものの、自身の機体は武器が量子化格納されたものがない。呼び出せたなら、剣や銃のように扱えるのだろうが、あいにくとそんなものはなかった。

 

『お前も想像力が足りなかったか。』

 

「ちょっ!さっきから何なのお前!?」

 

ちょくちょく茶々を入れるこの声は何なのか。

だが

想像力

そのワードに引っかかったアクセルは、両拳に力を貯めるイメージを浮かべる。

するとどうだろう。手の甲のクリスタルが反応し、両拳に淡い蒼のエネルギーを帯びる。

 

「これは…!よし!こいつで殴れってことだな!」

 

「ほう…!拳を武器にする、というのは強ち間違ってはいないようだな!」

 

「こっからが本番ってね!」

 

開いた距離を互いに踏み込む。

突き出した右拳と振り下ろされたブレードが克ち合い、二人をスパークが包み込んでいく。

弾かれた右拳の勢いそのままに、左でボディブローを打ち込む。右手は弾かれたが、左手はまだある。それは千冬のブレードも同じだが、あいにくと手数はこちらは2倍だ。優位性はこちらにある。

 

(そう思っていた時期が、俺にもありました。)

 

武装の使い方をマスターし、ここから俺のターン!と思っていたアクセルだったが、両拳の手数においてなお、千冬はブレード一本で立ち回り、そして捌いていた。決して遅くも軽い一撃ではない。にもかかわらず、攻めきれていない状態だった。

 

「良い戦いぶりだ。心が躍る!」

 

「涼しい顔して捌いて、よく言うぜ!」

 

「これでもそこそこ本気なんだがな!」

 

「冗談きついっての!」

 

正直、体が覚えている限りの本気なのだが、それを全力ではない状態で捌かれたとあっては、ますます千冬の本気というものが恐ろしい。

 

「そろそろ応酬で体が温まって(気力が上がって)来ただろう?ギアを上げていこうか!」

 

「勘弁してくれ!」

 

更に剣戟の速度を上げた千冬。そのスピードに攻勢に出られず、防戦一方に移っていく。どうにか打開しなければ、このまま押し切られるのが目に見えていた。

ならば、

 

「ウロコ砲!」

 

咄嗟に浮かんだ攻撃法。

拳にまとっていたエネルギーを、振り下ろしてきたブレード目掛けて打ち出した。意表をついた一撃に、千冬は思わず目を見開く。

 

「覇!!」

 

あろうことか、千冬はブレードの縦一閃にて、ウロコ砲…正式名称『青龍鱗』を真っ二つに引き裂いた。

 

「うっそだろオイ!?そうはならねぇだろ!?」

 

「なっているだろうが、現に。しかし、エネルギーを射出するとは…中々面白い戦い方もあるな。次はどんな引き出しを見せてくれる?」

 

「鬼が悪魔だな、こいつは。」

 

千冬が浮かべる獰猛な笑みに、アクセルの口元が思わず引きつる。だが、気圧されはしない。青龍鱗によって生まれた一瞬の間隙を縫い、間合いを取ることに成功する。

 

(どうする?まだ思い出した武装はある。だが、外せば敗色濃厚。かと言って使わねぇと、それもジリ貧。だったら一瞬の隙を狙っていくしかない。)

 

相手は見るからに達人の域。それこそ、記憶の片隅にある、『連邦の白い悪魔』や『赤い彗星』、それこそ『オサゲの不敗』に及ぶほどの。

 

(ん?何か違う気がするが…気にしないほうがいいな、これは。)

 

『大草原でありんす。』

 

そんな腕前の相手だからこそ、勝負は一瞬。それこそ、針の穴に高速移動しながら糸を通すかのような、至難以前の難易度だ。

だが、やるしかない。

 

「ただの博打なんだな、こいつは!」

 

「ほう?何かしら奇策でもあるのか?」

 

「スマートじゃねぇけどな!」

 

「ならばそれを受けるのみだ!来い!」

 

再び瞬時加速(イグニッションブースト)で間合いを詰めてくる千冬。対しアクセルは、迎え撃つつもりなのか、それとも牽制のつもりなのか、左掌から再び青龍鱗を放つ。

 

「その攻撃、既に見切った!」

 

再度、切り払われる青龍鱗。だが、その一瞬の隙が、アクセルにとっては値千金だった。

千冬はソウルゲインとアクセルの力を試すべく、恐らくはあるはずの射撃武器を使わず、近接戦のみをしかけてきている。それがアクセルにとって付け入る隙であり、好機だ。

切り裂いた青龍鱗は、一瞬とは言えども千冬の視界を遮った。そしてソウルゲインの突き出した左手と胴体、それらが死角となって見えなかった右手。それが本命ということに千冬は遅れて気づいた。

肘のゴールドのブレードが分割し、右の前腕部が空気を渦巻かせる程に高速で回転していたことに。

 

「強化型ロケット・ソウルパンチ!!」

 

振り抜かれた右手。同時にソウルゲインの右肘から先がロケット噴射し、千冬に肉薄した。

 

「なんとぉっ!!」

 

振り抜いたブレードを返し、受け止めんとする。

しかしそれが悪手だった。

ブレード一本でエネルギーを纏った両拳の応酬(白虎咬)、更に青龍鱗を2発受けてしまったのだ。ソウルゲインの出力は正直高い。それこそ打鉄を有に上回る。ブレードも、ある程度の硬度があるとはいえ、量産物。近接戦用にして、重装甲高出力のソウルゲインの打撃を何度もまともに受けてしまえば…

 

「まさかっ!?」

 

摩耗していたブレードに亀裂が入り、瞬く間に刀身が真っ二つに砕け散った。更に、強化型ロケット・ソウルパンチ(玄武金剛弾)は勢いは留まらず、千冬目掛けて突っ込んで来る。

 

「ちいっ!?」

 

思わず半身ずらす。だが避けきれず、左の固定浮遊部位(アンロックユニット)の盾が、突き抜けるそれに巻き込まれ、豪快な音と共に吹き飛んでしまった。

まともに当たっていたら、シールドエネルギーがどれ程削られていたか…。それどころか、どれほどの衝撃に襲われていたかを想像し、嫌な汗が吹き出てくる。

 

「まさか、腕を飛ばすとはな。」

 

「え?飛ばしてナンボだろ?」

 

「知らん、お前の価値観だ。」

 

しかし、と千冬は言葉を繋げる。

 

「右腕は、射出したらこのあとどうするんだ?」

 

「………………。」

 

言葉を無くしたアクセル。

弾道の先に視線をやれば、アリーナの壁。そこに見事に突き刺さった玄武金剛弾の姿。リターン機能はないのだろうか?

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「リタイアで。」

 

「…わかった。」

 

実技試験。アクセル、世界最強に食い下がるも、なんとも拍子抜けな結果で終わってしまった。

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