赤ワカメは平和が恋しい   作:ロシアよ永遠に

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第八話『波乱』

ホームルームが終わり、次が始まるまでのしばしの休み時間。

色めき立つクラスの中で一夏は、早速同性の彼の元へと足を運ぶ。異性ならば意識して躊躇うだろうが、ここは同じ男性操縦者同士問題ない。

 

「アクセル」

 

「よう一夏。流石にさっきの自己紹介は意表を突かれたぜ。まさにシンプルイズベストってやつだな、これが」

 

よもや緊張のあまりあんな自己紹介となろうとは一夏も思ってもみなかったらしく、気恥ずかし気に頬を掻く。

 

「ところでアクセル、記憶喪失って本当なのか?」

 

「おぉ、マジもマジだ。世の中何が起こるかわからんね、これが」

 

「その、大丈夫なのか?普段の生活とか」

 

「そこんとこは問題ないぜ。名前は覚えてたし、服も一人で着れりゃ、トイレだっていける。何ならメカの操縦だって……うっ!?」

 

つらつらと自慢気に日常生活に支障がないことを並べていた矢先、何某かのキーワードに引っかかったらしいアクセルは、突然苦悶の表情を浮かべて頭を抱える。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「なんか今……記憶の手がかりになりそうなキーワードが……くっ、はっきりしやがれ」

 

「保健室、行くか?」

 

「いや、大丈夫だ。だいぶマシになったさ、これが」

 

どうにも頭の中に濃い靄がかかった感覚があるらしく、少しばかり苛立つアクセル。もどかしさだけが後味として残ってしまった。

 

「ところでよ」

 

「ん?」

 

「お前に電子戦……じゃねぇ、熱視線を送ってる後ろの子は知り合いか?」

 

「後ろ?」

 

アクセルに言われるがまま一夏が振り返れば、いつの間にやらなにか言いたげなポニーテールの少女が立っていた。流石に背後に立たれて一夏も目を丸くするが、その少女に幼馴染の面影を感じて思わず尋ねる。

 

「もしかして……箒か?篠ノ乃箒?」

 

「う、うむ。ひ、久しぶりだ一夏。よく、私だとわかったな?数年ぶりだと言うのに」

 

「俺達幼馴染だろ?それくらいわかるって」

 

「う、うむ。そうか!」

 

この箒と呼ばれた少女、一夏に覚えてもらえていた事が余程嬉しいらしく、恐る恐るだった表情が一気に花咲いたように明るくなった。

 

「つ、積もる話もある。その、アルマーさん」

 

「アクセルでいいぜ?さんもいらねぇ」

 

「う、うむ。アクセル、少し一夏を借りても構わないだろうか?」

 

「おう。感動の再会なんだろ?しっかり話し込んでこいよ〜」

 

「恩に着る」

 

そして一礼した箒に連れられて一夏は教室を後にした事で、アクセルに女子からの連続ターゲット補正が掛かり、微妙な居心地の悪さが遅い来る。

一夏がいた事で狙いが分散されていたらしい。その彼が教室を後にした事で、どこか知ってるはずの艦長も満足出来る弾幕が形成されたのである。

流石の三枚目たるアクセルもこの状況は耐え難いものらしく、ひたすらに耐えるしかない。

そんな中、

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「……不屈、ひらめき、鉄壁……ん?最後のは後にも先にも使えない気がするな、こりゃ」

 

「聞いてますの?」

 

「一夏……早く帰ってきてくれぃ!送り出した側としては情けないんだがな、これは」

 

「ちょっと!」

 

「うぉっと!?」

 

精神的に身を固めようとしたり、ターゲット分散の為に一夏の帰還を願ったりしていたアクセルだが、ここに来てようやく自分に話し掛けていた金髪少女が隣に立っていた事に気づいた。

 

「この私が話し掛けているのに無視とはいい度胸ですわね。これだから男は……」

 

「お、おう……えっと、なんかごめん?」

 

「なんで疑問形ですの?」

 

しかしこの話し方、どこかで聞いたことある。あれは確か、ほんの少しだけ話したにも関わらず、何かとても重要な奴の……

 

「まぁ私、セシリア・オルコットは寛大な心の持ち主ですので水に流して差し上げましょう、ありがたく思いなさいな」

 

「は、はぁ、そりゃどうも」

 

だが眼の前にいるセシリアと名乗った少女からは、寛大と宣う割には、どうも上からと言うか見下した物言いが感じられる。

 

「それにしても記憶喪失、でしたか?よくもまあこの世界有数のIS学園に、そんな得体のしれない男を入れるなんて、前代未聞ですわね」

 

「それについては同感だ、これが。多分ハイスクールを卒業して、成人してるだろう男に、また学生生活を。しかも実質女子校で特例で過ごすってんだもんなぁ」

 

皮肉たっぷりのつもりが、天然なのかおどけてやり過ごされたことで、セシリアに苛立ちが走る。ここで突っかかってくるかと思ったが、思惑が外れたようだ。

 

「ま、何にせよ同じクラスになったんだ。宜しくしてほしいね、これが」

 

フレンドリーに行こうと立ち上がったアクセルは、右手を差し出す。

握手……シェイクハンドを以て、友好の証としたいらしい。

 

「あら?私とアナタ、対等だとでもお思いなのかしら?だとしたらお笑い草ですわ」

 

「へぇ……なんならどこかのお偉いさんかい?」

 

「偉いも何も……私はイギリス代表候補生であり、オルコット家当主セシリア・オルコットですのよ?男のアナタなどと同等と思ってもらっては困りますわ」

 

「飽くまでも国の代表『候補生』だろ?そこでふんぞり返ってて『代表』を掠め取られても知らねぇぞ?」

 

「まぁ!何も知らない男風情が口の利き方と言うものを学習してはいかが!?こうして私に話し掛けられているだけでも光栄ですのよ!」

 

「話し掛けてるっつ〜より、突っかかって来てるほうが正しい気がするぜ、これは」

 

「このっ……」

 

「席に着かんか、ひよっこ共!チャイムは鳴ったぞ」

 

「ギャンッ!?」「あづ!?」

 

セシリアがさらなるヒートアップをしようとした矢先、彼女と、そしてその相手であるアクセルの脳天に出席簿が振り下ろされた。アクセルが頭に出席簿をめり込ませ、痛みに耐えながら周囲を見渡せば、すでに他の生徒は着席しており、箒と出ていた一夏ですら席からこちらをハラハラと見ている。副担の山田に至っては、前でアワアワと慌てふためいている。

そして目の前には……呂布。

 

「そもそもここ、IS学園に入学した地点で貴様らはただの一生徒に過ぎん。代表候補生だろうが、男性操縦者だろうが、記憶喪失だろうが、貴族だろうが、ワカメだろうが、ポイズンクッキングだろうが、皆私からすれば生徒の一人だ。そこをわきまえろ」

 

言うだけ言って千冬(呂布)は踵を返して教壇へと戻っていく。セシリアはバツが悪そうに自席へ戻り、アクセルも席に着く。頭から出席簿を引き抜いて、仕返しとばかりに割と本気で千冬へ投げ返しておく事も忘れない。

 

「さて、まず2時限目を始める前にクラス代表生を決めねばならん。これは他校で言う委員長に該当すると思ってもらって構わない。自他推薦は問わん。やりたい者はいるか?」

 

委員長

それ即ちそのクラスの顔を決めるというもの。

本来ならば、真面目だったりリーダーシップのあるやつが選ばれたりして然るべきなものだ。

だがここにいるのは10代半ばの少女達(一部男)。学生のノリで推薦する奴らがいるわけで……

 

「はい!織斑君を推します!」

 

「私も織斑君に!」

 

「じゃあ私は、王道を往く……アクセルさんですね」

 

「ここは年上(恐らく)であるアクセルさんのアドバンテージでしょ!」

 

とまぁIS学園で物珍しく話題性のある男性を代表に!と言う安易な考えで推してくる。

あっという間に一夏とアクセルの二人で票が二分していく様子が、正面のスクリーンに映し出される。

最初は唖然としていた一夏だが、自身の名前に票が積み重なる光景にハッとして挙手する。

 

「異議あり!!俺はこの代表を辞退する!!」

 

「却下!!推薦されたものに拒否権など認められない!!」

 

「それでも!」

 

「諦めろ。袋小路(デッドエンド)だ」

 

絶望に打ちひしがれる一夏が抵抗するが、尽く千冬に却下され、さらなる絶望に染まっていく。

出遅れたが、ここは自分も拒否したほうがいいのかと、アクセルも手を上げようとした時だった。

 

「認めません!認めませんわ!」

 

金切り声に近い声を挙げながら、バチコン!と机を叩いて立ち上がったのは、先程アクセルに突っかかってきた少女、セシリア・オルコットだった。

 

「物珍しいからと言って男が代表なんて恥晒しも良いことです!実力からして、このイギリス代表候補生のセシリア・オルコットが適任ですわ!」

 

代表候補生と言う立場に余程のプライドがあるらしい。その自分が他推薦されると踏んでいたようで、予想が外れたことによって癇癪を起こしてるようだった。  

 

「貴女方もわかっていらっしゃるの!?クラス代表と言うことはクラスの顔。それが素人、そこは譲ったとして、女性ならまだしも男にさせるなどあってはならないこと。無様な姿を晒せば、それを推した自分達の首を絞めることになりますのよ!?」

 

言葉に色々問題はあるが、確かに代表を選ぶ意義という部分においては、彼女の発言は正論だった。そこを突かれた大半の女生徒は、バツが悪そうに視線をそらしていく。

 

「だったらアンタは俺やアクセルなんかよりも上って言いたいのかよ?」

 

「あら?言わなければわからないほど理解力が乏しいのかしら?ならば敢えて言いましょう!下であると!!なにせ私、入学試験の実技で唯一相手の教官を倒したくらいですもの!」

 

教師から白星を得たことが余程の自慢らしく、ふんぞり返るセシリア。まさに鼻高々と言った様子だ。

が、そんな彼女のご機嫌をぶち壊す男が一人。

 

「ISで先生と戦うやつか?それ、俺も倒したぞ?」

 

「んなっ!?」

 

「一夏、お前結構強かったりするのか?」

 

「どうだろ?昔剣道してたくらいだけど……」

 

「倒したのは私一人と聞いていましたのに……」

 

「女の子ではって意味じゃねぇか?知らんけど」

 

一つの自慢をへし折られ、ヘタるセシリア。先程までのテンションは何処へやら、である。

ちなみに、

一夏の相手をしたのは、副担たる山田真耶だ。試合開始と同時に一夏に突っ込んだ彼女だが、一夏がそれを避けたことで勢い余って壁に突っ込み気絶。真耶の自爆によって一夏は勝ち得ていたのだが。

 

「あ、貴方はどうですの?」

 

「俺か?ん〜……まあ途中で降参したから負けは負け、だな」

 

「そうでしょうそうでしょう!となれば、織斑さんの勝ち星もまぐれと……」

 

「ふっ、何が負けだ。あそこまで私を昂らせておいて」

 

自信を取り戻しかけたセシリアの言葉を遮り、素敵な笑みを浮かべるのは、アクセルと手合わせした千冬だった。

 

「あのまま続けていたらどうなっていたがわからんだろう?」

 

「いやいや、千冬ちゃんに勝てるビジョンが全く無かったんだぜ、これが。本気で来られたらって思うと、今でも背筋がゾックッ!?」

 

「織斑先生と呼べ、アホワカメ」

 

再びめり込む出席簿。アクセル轟沈。

そしてアクセルの相手を知ったことで青ざめていくセシリア。

 

「ま、ままままさか、この方の試験官は……」

 

「ん、あぁ。それは私だ。何分急を要していてな。手が空いていたのは私だったから手合わせしたのだ。……いやまさか打鉄のアンロックユニットを一枚と、近接ブレード一本を破壊されるとは思ってもみなかった。久しぶりに楽しいひとときだったよ」

 

世界最強(ブリュンヒルデ)の名を冠する織斑千冬。その彼女をこうも言わしめるアクセル。彼のその底知れぬ実力に誰しもが戦慄する。

 

「話を戻すか。織斑とアルマーが他推薦。オルコットが立候補と言うことだったな。ならばこの候補者3人で1週間後に試合を行い決める方法でいこうか」

 

「え?まじ?戦うの?嘘だと言ってよ千冬ちゃズゴック!?」

 

「それまでに各々準備をしおくように。特に織斑。しっかりとISについて熟知しておけ」

 

「う、うっす」

 

途中、アクセルの講義が入るも、千冬は、片手間というように説明しながら出席簿で彼を始末する。記憶喪失の彼の扱いがかなりぞんざいに鳴ってきているのは気のせいだろうか。

 

「よし、クラス代表の話がまとまったところで授業を始める。先ずは教科書6ページを開け」

 

未だ机に沈むアクセルを無視して始まる授業。その間も件の金髪少女からは、鋭い目つきからの敵意が向けられていたことに、気付く由もなかったのは言うまでもない。

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