『バースト・カース』 作:ゅゅ
その後、柚木は牢獄に捕らえられた。
柚木は蒼姫を育ててくれた「もりやく」……より分かりやすく言えば「セバスチャン」とか「じいや」みたいなものだったらしい。そりゃ、蒼姫もあんな顔するよなと思いつつ、俺は用を済ませ、自分の寝室へと向かう。
『それにしても先ほどの達也さんは熱演でしたね。演劇の心得でもあるのですか?』
「いや、その場の勢いだ。何もかも必死だからな」
『その演技もハロウィンの能力だろ。ハロウィンは仮装大会だからな』
「いや、ハロウィンはお盆みたいなもんであって、仮装大会なのは日本だけの話だろ……」
紗雪はどうしてこうも俺に対して当たりが強いのか。
まあ、そろそろ俺も慣れてきてはいるが……。
「紅姫、本当にいいの……?」
「ああ、柚木がお前を殺そうとしたんだ。普段の寝室にいたら他の奴が入ってきて何かしてきてもおかしくない」
「でも紅姫の寝室で私が寝たなんて知ったら、みんなが悪い噂をするかも……」
俺は蒼姫のほうを振り返り、それから大きくため息を吐いた。
「俺たちは勝つんだろ」
「え、えっと……何にだっけ……」
「ぶんが……人生の戦いにだ! お前の人生は敵だらけだ。山あり谷ありどころか、もうヒマラヤ山脈級のジェットコースターだ。だから、俺とお前は力を合わせないといけない。起きてる時も、寝てる時も、ずっと」
「だから一緒に寝るの?」
「ああそうだ」
「お風呂の時も?」
おっとぉ~?
ここは現代日本じゃないので毎日お風呂に入る習慣がアリマセ~ン!
俺はここに至るまでの怒涛の展開のせいで、そういう日常的な所作についての考えが完全に抜け落ちてしまっていた。
そうだよ、一緒に暮らすんだからそういうこともあるよ。
風呂もそうだし、トイレもそうだ。四六時中一緒にいないと、いつどこで蒼姫が神隠しされるか分かったものじゃない。
にへへ……、にへへへへへへへ…………。
『オイ! お前!!!』
『達也さん、それはちょっと……』
「いや違うから。下心じゃない! だって必要なことだろ!?」
『……単位のためだから仕方がないか』
『そうですね……』
へへへへへへへへへへ。
『手を出したら起こりますよ?』
「アっ、はい……」
手を出すってなんだよ。今の俺には竿はねえ。
「紅姫? どうしたの? また幽霊さんと話してるの……?」
「え、ああ……。蒼姫、風呂もトイレも当然一緒だ。危険はどこにあるか分からないからな」
俺がそういうと、蒼姫はにこりと笑った。
「えへへ……小さい頃みたいだね! 私たち、なんでも一緒で、まだお父様も呪いのことなんか考えてなくて、とても幸せで……」
「……。ああ、そうだな」
知らねえ記憶だ。
でも、蒼姫が幸せそうに語るのだから、それはきっといい時代だったんだろうな。
俺たちは寝室に入ると、一緒の布団に入った。
明かりは消さない。俺は能力で夜目が利くが、蒼姫が逃げられなくなる。
「紅姫って、本当にすごい。色々なこと考えてて、私なんかじゃ考えもつかないようなことまで考えてる」
「本来考えなくていいことなはずなんだけどな、今だけは辛抱だ」
俺は手元に悪魔の槍を出現させ、それを再度消滅させる。
あれから槍は抜かれ保管庫に移送されそのままになっていた。一応手元に出せることを確認しておきたかった。
明日保管庫から消えたと騒ぎになるだろうが、まあ、全部柚木の一派のせいという話に誘導すればいい。
俺は布団に入り、すぐ隣、息のかかるくらいの近さに蒼姫がいる状況で、瞼を閉じた。
……。
寝れね~!
美少女が真横にいて心臓バクバクなんですけど!
てか、俺の人生でこういうシチュエーションマジで初めて過ぎてドキドキが止まらない。これって絶対そういう流れになるやつじゃん! 男と女が一緒の布団に寝るって、つまりそういうことじゃん!!
『ダメです! 今の達也さんは女の子です!』
『読まされてる私たちの身にもなれ。殺すぞ』
『そもそも蒼姫ちゃんはまだ12ですよ!』
俺のほうではその情報はなかったが、そっちの本の中ではそんな記述までされてるのか。何か情報の齟齬がありそうで怖いが……。
それにしても、12歳か。小学校六年……いや、ギリ中学生かもしれない。
俺は16だから……どうだろう。歳の差は4歳だ。誕生日によっては3歳まで縮まるかもしれない。
そうしたらもうロリコンとかではなく、純粋に許される年齢差では? 3歳差の結婚なんて歳の差婚とも呼ばれないだろう。結婚でそうなのだから、お付き合いでも同じ理屈が通用するはずだ。
つまり、俺と蒼姫はほぼ同年代だからそういうことも全然あり得る。
『オイ! 心の声が本当に疚しいぞ!! マリア! お前からもなにか言え!!!』
『……。はあ。達也さん』
「え、はい……」
『本当に、怒りますよ?』
え、なんかいつも以上にマリアが怖い。声がいつもより低いし。え、やだ。
「ごめんなさい……」
『分かればいいんです』
『単位だ。文学の単位をとっとと取れ』
なんか、逆にブレの少ない紗雪のほうに安心感を感じさえするな。
怒ったマリアは本当に怖い。
「紅姫」
ふと横で、蒼姫が呟く。
「なんだ?」
俺が彼女のほうを向くと、彼女は俺の手をぎゅっとにぎると、にこりと微笑んだ。
「私、紅姫とこうして一緒に眠れるのが嬉しい。すごく安心する。……今日は守ってくれてありがとうね、紅姫」
あ、好き。
「私、このお城で敵ばかりで、みんなに嫌がらせされるけど、紅姫は私を守ってくれる。すごく優しい。私の憧れの人」
蒼姫は俺の頬にそっと口付けした。
は!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
蒼姫は俺の頬にそっと口づけをした!?!?!? なんだそれ!?!?!?!?!?!?
『……』
あ、あ、あ、あ、あ
違うんです。違います。蒼姫が口付けしたのは紅姫であって俺ではありません。蒼姫が褒めているのは全て紅姫という人物の話であり、俺くんとは一切の関係がありません。
「大好きだよ、紅姫……」
う……。
好き。
『……』
待って、違うんだ。
俺は頭の中で必死になって言い訳を考えるが、ふと、隣の少女のほうから聞こえてくる寝息に気が付く。
俺はほっと息を吐き、それから天井に向かって呟いた。
「そういうのじゃなかったろ?」
俺がラブコメなんて百年早いだろ。
変な学園の怪異に取り込まれて、ゾンビに噛まれて、首を落とされて、尻尾とか羽とか生えてさ。
「そんな甘ったるい夢、見れるもんならぜひ見てみたいもんだね……」
「えへへ……紅姫……」
「ああ、お前は良い夢見てな」
俺は寝ない。
夢なんか見てる暇なんかねえ。
『いいんですか? 寝ないと体に支障が……』
「俺はハロウィンだぜ?」
夜のほうが、目が醒めんだよ。