『バースト・カース』 作:ゅゅ
「なんで……」
そう思った?
いや、どう考えてもそう思ったほうが自然だ。
俺は尻尾を生やしたし、翼を生やしたし、悪魔の槍を出したり消したりしている。
俺は……そう、柚木が言っていた「あやかし」という奴としか思えないようなことを蒼姫の前でずっとしてきた。
そして、蒼姫の記憶の中の紅姫はそんなことはしないだろう。そもそも、正確だって完璧な再現は不可能だ。
俺は紅姫蒼姫物語のあらすじは知っているが、原文は知らない。だから、どうやったって綻びは生まれる。
俺は蒼姫から目を逸らした。
しかし、蒼姫は俺の頬を両手で包み込み、真っ直ぐに視線を合わせてくる。
「尻尾、生えてたよね」
「生えてました……」
「翼、生えてたよね」
「生えてました……」
「槍、出してたよね」
「出してました……」
「紅姫はそういうことしないよ?」
「はい……」
じゃあどうしろってんだよ。
無理だろ。
だって俺は、ここに来てからたったの一日しか経ってねえんだぞ。
世界観とか世界情勢とか、登場人物の把握だって出来てねえ。
何が起きて誰がどうするかとか、全部知らねえ。
俺は全部行き当たりばったりで問題を解決しているだけだ。
問題は全部向こうのほうからやってくる。
柚木も皇后も、全部知らなかった。
……とにかく、これで蒼姫との信頼はゼロになった。
俺はよく分からん「あやかし」だ。だから、蒼姫を影ながら守るしかない。
「なんで私を守ってくれたの?」
「……そういう、ルールなんだよ」
「ルール?」
「俺は紅姫に取り付いたあやかしだ。だから、お前の言うように、俺は紅姫じゃない。俺がお前を助けたいのは、俺自身が元の世界に戻るためだ」
蒼姫はそれを聞くと、俺の頬から手を離した。
暖かかった手が離れていき、頬が寂しく、寒く感じる。
「残念だったろ。大好きな姉妹が守ってくれた、そう思えれば良かったんだが、俺の不手際だな。悪い、嫌な思いをさせちまった」
「なんで?」
「なんでって……嫌だろ、どこの誰だか知らない奴が急に現れて、自分の生きるためにお前を助けるなんて、ワケの分からないこと言ってきたらさ……」
蒼姫はムッとした表情になる。
「私の心を勝手に決めないで」
「それは……ごめん」
「私、あなたのこと好きだよ?」
「は?」
俺は蒼姫の言葉に呆然とする。
「だって、私のこと守ってくれる。命懸けで、色々な方法で、守ってくれる」
「それはさっき言った通り、お前が死ぬと俺が困るからだ」
「それでも、あなたは私の味方なんでしょ? 本来の目的が何かは私は知らないよ」
「そ、それは……そんなの悲しいだろ。心の底から守ってくれてるわけじゃなくて、打算の関係なんて……」
「打算かもしれないけど、それだけじゃないでしょ?」
蒼姫は空を見上げて言った。
「私たちは勝つんでしょ?」
それを聞いて、俺は言葉を失った。
「私の人生は敵だらけ。山あり谷ありどころか、もうヒマラヤ山脈級のジェットコースターなんだって。ヒマラヤ山脈もジェットコースターも私は知らないけど……。だから、私はあなたと力を合わせないといけない。起きてる時も、寝てる時も、ずっと……」
俺が言った言葉だ。
こんな、どうでもいいような言葉をなんでこんなに正確に覚えてるんだ……?
蒼姫は続ける。
「私たちはまだ「白旗」を上げてない。戦力は二人。私とあなた。それだけあれば、こんな宮廷のごたごた、乗り越えられると思う。そう言ってくれたのは、あなただった」
そうだ、確かに俺はそう言った。
蒼姫は俺の瞳を見つめる。その蒼く澄んだ瞳で。
「私が虐められてたらあなたが助けてくれる。あなたが負けそうになったら私が助ける」
俺は皇后を殴った。だけど、蒼姫はその後、俺をフォローしてくれた。
「ね? 打算だけにしては熱い言葉だと思わない?」
「そ、そうだな……」
自分の台詞をそのまま引用されると気恥ずかしいが、まあ、言ったことは全部本当だ。嘘じゃない。
「柚木から守ってくれたのはあなた。お父様と抱き合わせてくれたのもあなた。皇后様に怒ってくれたのもあなた。夜、私が安心してくれるように隣にいてくれたのも、あなた」
蒼姫はにこりと微笑み、俺の隣に座る。
「私と、一緒に人生に勝つって約束してくれたのも、あなた」