『バースト・カース』 作:ゅゅ
あれから何事もなく夕方を迎えた。
というより、何事か起きそうになったら逃げたり、先手を打ったりして対処して、気が付いたら夕方になっていたと言ったほうが正しい。
俺たちはくたくたになりながら城に戻った。
勉強と言っても色々なものがある。俺たちは、といっても俺の中身は男だが、女子二人だ。
皇帝は俺たちに皇帝の座を継がせるつもりでいるから男子のするような武芸も容赦無く勉強のスケジュールに組み込まれている。
読み書きそろばんはもちろんのこと、弓術や剣術や馬術、果ては兵法と、それに絡めて将棋や囲碁の勉強までさせられる。
そんな勉強の最中にも、死の危険は潜んでいる。馬術では蒼姫の馬が暴れて落馬寸前、弓術ではなぜか蒼姫のほうに矢が飛んでくるし、剣術師範は蒼姫との立ち会いだけ大人げないくらいにぶったたきまくる。
「お前、よくこんな環境下で生きて来られたな……」
「紅姫が庇ってくれたし、それに、私虐められるの慣れてるから……」
そう言って、蒼姫は思わず両手を振る。
「あ、違うよ? 別に虐められたままでいいってことじゃなくて、私はこれから戦うから! ただ、どうやって耐えればいいのかは分かってるっていうか、上手い避け方? がある気がしてて……」
「なんかそれ、逆に才能かもな。死なない才能」
「死なない人に死なない才能褒められた! あはは!」
蒼姫が笑った。
俺はそれを見て、心の中でガッツポーズを取る。
「お前、そういう風に笑うんだな」
「え? あ、そういえば面白いって思って心から笑ったのいつぶりだろう……」
過去を思い返す蒼姫に、俺はずっと気になっていることを聞いた。
「紅姫を乗っ取られて、嫌じゃないのか?」
「え?」
蒼姫は予想外の問いと言った様子でこちらを見てくる。
「いや、紅姫とは仲良かったんだろ? それを乗っ取っちまったからさ……」
「紅姫と話せないのは残念だけど、でも、死んじゃったわけじゃないでしょ? あなたが帰ったら、きっとすぐに元の紅姫に戻るよ」
「楽天的だな。死ぬかもしれないのに」
「だってそう思いたいもん。それに、あなたは優しいあやかしでしょ?」
「まあ、そうだな……」
俺たちは部屋に戻ると、疲れを癒やすために床に転がった。
まだ陽は落ちていない。そろそろ落ちそうだが。
「今日は凄い汗搔いたね」
「しかも泥だらけだ。あの馬術教官許せねえよ」
「あはは! あの人ね、いつも私に暴れ馬の相手をさせるの。でも中々私が落ちないし、段々暴れ馬の扱いに上手くなるからイライラしててね! あはは!」
「あれで上手くなったほうなのか!? 滅茶苦茶暴れてたぞ!」
「あれでもまだマシだよ! 最初のほうなんて私本当に投げ出されて、全身むち打ちで何日も寝込んだんだよ!」
「暗殺ほぼ成功じゃねえか!」
「命だけは助かったけどね! 紅姫が夜通しで看病してくれてね? あー、あの時も、今思い返すといい思い出かも……」
蒼姫はそう言って、畳の上を転がって俺の横に並んだ。
「酷いことって、後になって傷跡になって、見た時に嫌な気持ちになるけどさ、こうして好きな人に笑い話として話すのは、私好きかも」
「ああ、意外と笑えたりするよ、な……?」
あれ?
今コイツなんて言った?
あれ?
好き? 好きな人って言った?
「もうそろそろお風呂の時間だね。今日は流石に入らないとダメだね。全身ぐしょぐしょだし」
「あ、ああ……」
え、風呂?
ああ、そうか。そうだよな。こんだけ汗まみれで泥まみれなんだから、ちゃんと洗わないと。
あれ? でも俺たち最初のほうに何か約束したよな?
えっと、えっと……。
『落ち着け。風呂も一緒に入るんだろう?』
あ、そうだった。
紗雪の言葉で大切なことを思い出した。
サンキューな、紗雪!
……。
いや、ちょっと待て。
俺のことを好きって言った子と、一緒にお風呂入るの?
え? え? え?
えええぇええええええええ!!?!?!?!?!?
『変なことしたら、分かってるな?』
分かってます! 死ぬほど分かってます!
『主は見ていますよ。たとえ異世界にいたとしても』
マリア、声怖いって……。
う、ううウウウウウウ!!!!!
大丈夫か俺!? 精神持つか!?
「さ、行こ!」
「お、おう……」
俺は蒼姫に連れられ浴場へと向かう。
見た目だけは女二人。内面は、俺は男だ。