『バースト・カース』 作:ゅゅ
朝。
朝が来て夜が来て朝が来て夜が来て朝が来る。
そういうところはこの世界でも同じで、普通だなって感じがする。
俺はそんな、異常の中の正常を気味悪く思う。
その仕組み、どうなってんだ? 地動説なのか? 天動説なのか? それともまた別の考え方で朝と夜を決めてるのか?
頭がイカれそうになるぜ。
怪異怪異怪異、ここに来てから全部が全部、人間以外が決めたルールやロジックばかりだ。
そして、そのほとんどが人間にとって不都合と来たもんだ。
ゾンビとか、刀とか、甲子園とか、文学とか。
なんだよ。これ。
頭おかしいんじゃねえのか?
俺は何も分からない。この学園の何もかもが分からない。
ただ、ひとつだけ決めた。
「蒼姫、俺はお前を死なせない」
「紅姫、あなたも死なない。私が助けるから」
俺たちは寝室の扉を開く。
そこに映るのは紅蒼城の内部。多くの人々が忙しなく働く朝の城内で、今日、何者かによって殺人が遂行される。
俺はその殺人を必ず何とかする。
そして、その先にある最大の問題『謀殺』を、俺が「殺す」。
俺たちが城内を眺めていると、廊下の向こうから皇后が現れた。
彼女は俺たちの目の前で立ち止まると、深紅の髪の中、ぎらつく殺意で嗤った。
「朝から陰気な顔を見て気が滅入ってしまったわ。それに、これは何事かしら?」
奴は寝室を見て、俺たち二人を見比べる。
「まさか、あの穢れた女の娘が、時期皇帝の寝室で眠った、なんてことはありませんよね?」
蒼姫は何も言わない。俺もだ。
何か言って言葉尻を捉えられて、滅茶苦茶に騒ぎ立てられたらたまったもんじゃない。
乾いた音が鳴った。
俺はこの音を昨日聞いたばかりだ。しかも、時刻もちょうど今と同じ。
全く嫌になる。
『達也さん……』
『信じろ。奴は覚悟を決めている』
『その覚悟の方向を私たちは知りません。彼が、もしも負の方向に覚悟を決めていたら……』
『……信じろと言った』
『……そうですね。私も、少し弱気になっていました』
俺は隣で倒れた蒼姫が皇后に足蹴にされるのを黙って見過ごす。
彼女が痛みを耐える声に拳を握り締める。
「随分と生意気な目をするようになったね。あの女とそっくりの目だ。気色の悪い……」
皇后は捨て台詞を吐いて、満足したのか廊下の向こうへと去って行った。
「悪い。これが最善だったんだ」
「分かってるよ。それに、言ったでしょ? 私、耐えるのとか避けるのとかは得意だって」
「ああ。行こう……」
今日のスケジュールは午前中が剣術の稽古。
午後が馬術。それ以外は無しだが、剣術が危ない。
「今日の剣術では真剣を使った稽古が行われる予定だ」
「暗殺には持って来いの環境だね……」
俺はいざとなったらなりふり構わず悪魔の槍を出現させる。
どうせ今日が最後なのだ。ここでどう思われようが構わない。
尻尾も翼も牙もツノも、全部使って蒼姫を助ける。
「紅姫……」
「なんだ?」
「私、紅姫の本当の名前が分からないのが悲しい。でも、紅姫がこの世界から消えちゃっても、私は絶対に、絶対にあなたのことを忘れないから」
蒼姫は覚悟を決めた、青空のような瞳を俺に向けた。
「約束だよ。絶対に……あなたのことを忘れない」
俺はその瞳を見て、視線を床に落とした。
「俺は、馬鹿なのか……?」
ああ、馬鹿なんだよ。最初から分かってたろ。
蒼姫はこの世界に絶望なんかしちゃいない。何の根拠もなく、ただ未来を信じている。自分の信じる、最高の未来をだ。
その未来では蒼姫は俺を忘れない。俺だってそうだ。そういう奇跡がきっと起きる。
根拠?
そんなもんねえよ。信じたいから信じるだけだ。
それでもどうしても信じる理由が欲しいっていうなら、そりゃあ、一つしかねえだろうがよ。
「約束だ。俺もお前を忘れない!」
好きな子とした約束だからだ。