『バースト・カース』   作:ゅゅ

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馬刺し

「ガァアアア!!!!! だおらぁああああああ!!!!!」

 

 尻尾で怪物を投げ飛ばし、再度突進してくる刃を槍で受け止める。

 あれから俺と甲冑との死闘は決着が付かぬまま五分ほども経過していた。

 

 たったの五分と思ったか?

 一瞬が命取りのこの殺しあいが300秒も続いてんだぜ?

 

「とっとと死んでくれぇえ!!!」

 

 悪魔の槍で眉間を殴り、ツノを叩き付け、敵の攻撃を翼をはためかせ回避する。

 この戦いで随分と俺は強くなった。敵の刀の細かな初動で次の動作を見切れるようになったし、繊細なステップでギリギリの回避が出来るようにもなった。もちろんそこからのカウンターも。だが、それだけじゃ足りない。

 

「槍が……!」

 

 俺の能力はそのほとんどが応用だ。

 紗雪のAKやマリアの奇跡と違って、時間制限がある。その時間制限も明確にどれくらいとか分からないが、とにかく今の俺は死ぬほどマズい。

 

 朽ちていく槍でなんとか刀を受け止めると、動きの鈍くなった尻尾で敵に巻き付き、俺はこれ以上どうしようもないと翼をはためかせ宙に舞った。

 

『達也! もう槍が持たないぞ! どうする気だ!?』

「飛べるとこまで飛んでコイツを地面に叩き落とす!!!」

『それが出来るなら最初からやれ!!!』

 

 うるせえな!! 今思いついたんだよ!!

 

 俺は甲冑とみっちり抱き合ったままひたすら空へと飛んで行く。

 酸素が薄い、寒い、眼下には既に紅蒼城が豆粒ほどの大きさに見えている。

 

「この高さから落ちたら大体の奴は死ぬだろ!」

 

 俺は尻尾で絡め取った甲冑を全力スイングし、明後日の方向に投げ飛ばした。

 

「死ななかった時のために遠くのほうに飛ばしておくぜ!! これで戻ってこれねえだろ!!」

『達也さん賢い!!』

「まあな!!」

 

 俺はへろへろになった翼でなんとか地面に降り立つと、槍と翼が消滅するのを見届けた。

 翼は槍より後に作ったものだが、どうやらコイツはそんなに長持ちしないらしい。

 

「紅姫!! よかった! 死んじゃうかと思った!!」

「俺は死なないが……でも、アイツはマジで無理ゲーだった……」

 

 もしかしたらあの甲冑はあの高さから落下してもまだ生きているかもしれない。

 だが、最後の審判までに戻ってくることは不可能だろう。俺が奴を投げ飛ばした先には鬱蒼とした木々の生い茂る森林があった。あの甲冑が強いことと、あの深い森の中を迷わずここまで戻って来れるかは全くの別問題だ。

 

『達也、よくやった』

「お前が褒めるたぁ俺、本当に頑張ったんだな……」

『当然だ。あれは私でも手こずる相手だ』

「マジかよ!?」

 

 それはちょっと嬉しいな。

 

「紅姫、左腕! くっつけておいたよ!」

「蒼姫! お前! 滅茶苦茶助かるぜ!!」

「えへへ……紅姫が私を守る。私が紅姫を助ける。でしょ?」

「ああ、二人で乗り越えようぜ……この最後の審判をよ!」

 

 俺は左腕をくっつけ、両腕がしっかりと動くのを確認すると、蒼姫を連れて立ち上がった。

 

「剣術師範はどうにかなった。次は馬術師範だ」

「暴れ馬に襲われそうだね……」

「ああ、馬刺しにして食ってやろうぜ」

 

 それを聞き、蒼姫は笑った。

 

「紅姫なら……あなたなら、本当にそうしちゃいそうな気がしてくる。だって、私に酷いことしようとする人、全員懲らしめちゃうんだもん!」

 

 彼女は俺の腕に抱き寄り、嬉しそうに言った。

 

「あなたは……私の王子様だね……!」

 

 え?

 王子様?

 

 まあ、蒼姫はお姫様のように可愛いし、実際お姫様だし、そのお姫様を守る俺は確かに王子様なのかもしれねえな。えへへ……えへへへへへへ……えへへへへへへへへへへ……。

 

『お前……さっきの戦いで少し見直したのに、やっぱりキモいな』

『……早く敵を倒してください』

『マリアは何を怒っているんだ?』

『紗雪さん、私は何も怒っていませんよ?』

 

 耳元に不穏な空気が漂ってきたので、俺はあまり深いことは考えないようにして、これからの戦いに挑むことにした。

 

「蒼姫、俺から離れるなよ? 美味い馬刺し食わせてやるからな!」

「うん!」

 

 何も俺たちは絶望を目指して歩んでいるわけじゃない。

 いいじゃねえか、なんでも。もう、これから先何が起きるかなんて本当のところは誰にも分かるもんじゃねえ。文学の怪異が何を言ったって、それを実際に見るまでは、俺はそんなもんは知らねえ。

 

 だから、俺は蒼姫に美味い馬刺しを食わせることを直近の目標にする。

 それから先のことは、考えるだけ無駄だ。

 

「その時のことは、その時の俺が解決するさ」

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