『バースト・カース』 作:ゅゅ
「皇帝様……あれを見ましたか!? 紅姫はあやかしに取り憑かれているのですよ!?」
「……しかし、あれは私の娘だ」
「あのあやかしは、蒼姫の差し向けた者です。なぜ紅姫はあやかしとなりながら蒼姫にだけは手を出さないのか。その意味をよくお考えになることです。彼女は魔女です。紅姫を操り人形にし、皇室を我が物とせんとする悪鬼なのです。あの子は産まれた頃からそうなのです。私たちの正統な娘ではないあの娘は、皇室に置いておくには危険すぎます」
皇后は皇帝に告げる。
「あの槍をご覧になられなかったのですか? あの槍は二日前、柚木と共にあった槍です。あれを倉にしまった翌日、倉の鍵は閉まったまま、何故かあの槍だけが消えていたのですよ。それに、彼女たちは最近同じ寝室で眠っているとか……それは何故ですか?」
皇帝は眉間に皺を寄せ、答える。
「あの者たちには互いに互いを助け合う愛があるように私には見える……」
「気を確かに持ってください。城全体が今やあやかしに乗っ取られようとしているのです。皇帝であるあなたが理性的に判断出来ないようでは、花国の未来は危ういものとなってしまいます」
「この城全体があやかしに……」
皇帝は先ほどの甲冑や、柚木の槍、それから紅姫が宙を舞うのを見てしまった。
「私は……何をどう考えればいいのだ……」
「皇帝様、「占い」を行いましょう。国の行く末の吉凶を、神事によって計るのです」
「もはや人の手には負えぬほど、我が血は呪われ、穢れてしまったとでも言うのだろうか……」
「さあ、気を病まないでくださいまし。これから先の事は、「この世界のルール」が決めてくださるのですから……」
皇后は皇帝を奥の間へと連れ、それから、振り返った。
ぎら付く瞳が未来を睨む。
「私は、永遠を望む。あの子が死んで、物語は再度ゼロからリスタートする。そうすれば私はこの最も栄えた時代の花国の皇后として、永遠の若さと共に生き続けることが出来る。進歩など、前進などは不必要。栄枯盛衰という言葉もあります」
祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
「そう、どれだけ栄華を誇る国も、どれだけ美しい姫君も、その最盛期が永遠に続くわけではないのです。未来というものは必ず、衰退していくもの。であれば、私はこの世界のルールを存分に謳歌するまで」
皇后は扇子を開き、にぃっと笑みを含んだ口元を優雅に隠した。
燃えるような髪と、燃えるような瞳で、彼女は宣言する。
「私たちは本の中の住民、書かれた以上の意味を持つことはなく、それより先に進むこともない。ただ読み手の捲る指のリズムに合わせ、世界と共に踊るのみ。それより上も下もありはしませぬ。さあ、これを絶望と読むか安らぎと読むか。私はこれを安らぎと取った。しかし、愚かで悲しい紅姫と蒼姫。あなたたちは、その先の、存在しない未来を望んでしまった」
だから、私はあなたたちに分からせるのです。
「この世界のルールは終わりなき終わり、終わり続ける世界。未来は過去であり、過去は未来である。何度も、何度でも読み返すのです。あなた達は、この本の虜なのです。この本の中に生きればいいのです」
本の登場人物は、所詮は本の中のみにある「情報」にしか過ぎないのですから。
「生き物の真似事はよしなさい。私たちは、「文学の怪異」の一頁にしかすぎません」