『バースト・カース』   作:ゅゅ

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スクール・カース

「あはは! 達也くん凄いなぁ!! ここまで辿り着いた奴は初めて見たよ!!」

 

 片目隠れの生徒は手を叩いて叫んだ。

 

 本の前に立っていたマリアと紗雪は振り返り、眉間に皺を寄せた。

 

「あなたは……神役でないのになぜ本の内容が読めるのですか?」

 

 男は唇の前に人差し指を立て、にっと笑う。

 

「それは秘密」

 

 刹那、紗雪が男の額にAKを突き付けた。

 

「言え。さもなければ……」

「引き金を引く?」

「分かってるのならさっさと──」

「引けばいいじゃん?」

 

 男は何の気もなしにそう言う。

 紗雪はAKの銃口で男を殴り、床に倒れた彼に再度銃口を向ける。

 

「お前……誕生日は何月何日だ?」

「秘密」

「……名は何だ」

「それも秘密」

 

 紗雪がAKの引き金を絞ろうとするところに、マリアがその銃口を掴んだ。

 

「罠の可能性もあります。能力の中には自発的に発動するもの以外にも、攻撃されて初めて発動するものもあります。こちらに実害がないうちは……」

「そうやって日和見しているうちに先手を撃たれたらどうする? 私は撃つぞ。防御はお前の奇跡に任せる」

 

 マリアはそれでも銃を放さない。

 

「達也さんが頑張っているのに、戻って来て私たちがやられていたらどうするんです!? 防御なら言われずともやります。先手を打たれれば、私が必ず守ります! ただ、危険を冒すなと言っているんです!!」

「うわ、滅茶苦茶正論。能力バトルでそういうこと言う人って展開を無駄に長引かせるから読者に嫌われるよ? まあ、頭脳系ってもてはやされることもあるけどさ」

 

 男はニヒルな笑みを浮かべながら、本の中身を覗き見る。

 

「ああ、達也くん頑張ってるね。皇帝相手にいい戦いしてるよ。でも可哀想だな~。蒼姫ちゃん死んじゃうしなぁ~」

 

 刹那、男の額に赤い花が咲いた。

 乾いた音と鉛の弾。そして、どさりと倒れる男子学生。

 

 マリアはAKを掴んだまま、紗雪の胴に目を向ける。

 彼女は掴まれた腕とは別に、胴から生やしたAKで敵の額を撃ち抜いた。

 

「コイツは危険だ。本の中身は怪異によって秘匿されている。その中に土足で踏み入ることが出来る能力を私は知らない。そんな誕生日があるとも知らない」

「それは……どんな誕生日だって、名前から推測出来る能力はたかが知れています。この人の覗き見る能力だって、応用で、本当はもっと凄いものかもしれません」

「まあ、そう考えるのが妥当だよね」

 

 紗雪は背後の声に銃を乱射した。

 

「痛いじゃん。やめてよ」

 

 目の前。向けたAKの銃身を掴み、男は笑う。

 

「別に撃っても何も無かったでしょ? 君たちは死んでない。僕も死んでない。とっても平和的な結末だ……」

「貴様は一体何者だ……」

「その問いは名を聞くのとは違う意図があっての質問かな? 名前ならさっきも聞かれたけど」

「何者だと聞いている」

「怪異」

 

 男がそう言うのを聞き、周囲がざわついた。

 この学園において、怪異とは学生の敵だ。

 

 紗雪は刀を抜き、マリアはロザリオを構える。

 

「まあまあ、みんな落ち着いてよ。と言っても、言い方が悪かったかな。僕は学生だよ。みんなと同じ、生徒だよ」

「さっき怪異と言いましたよね……?」

「うん。学生で、怪異」

 

 男はゆったりと歩きながら話し始める。

 

「この学園における生徒とは何か。それは、みんなの知るように、みんな自身だ。では、この学園における教師とは何だろうか?」

「怪異だ」

「正解! 世の中の理不尽とか不条理とか、そういう、どうしようもないこと。あとはなんだろうな。現実世界では決して起きえない出来事。まあ、君たちが知らない何かを、身をもって教えてくれるのが怪異。つまり、教師なわけだね」

 

 男はそう言うと、にこりと笑って言った。

 

「僕は生徒でありながら、この学園で怪異になった存在。言わば「教育実習生」とでも言えばいいのかな。まあ、言い方は色々あれど、大体そういう認識をしてくれればいいと思うよ」

 

 男の言葉に紗雪とマリアは顔を合せた。

 

 教育実習生……。

 そんなものがこの学園にいるとは露ほどにも考えなかった。

 そして、怪異がこの学園の教師であるという見解も、悪辣な冗談だ。

 

「教育実習生、とあなたは名乗りましたね? では、あなたは私たちに何を教える存在なのですか?」

 

 マリアの問いに男は首を傾げた。

 

「まあ、教えることが目的の先生は少ないんじゃない? 大抵は仕事。お金が欲しくて、安定した生活が欲しくて教師……まあ、公務員になるんじゃないのかなぁ? たぶん」

「一般論の話はしていません。あなたの話を聞いているのです」

「質問ばかりで嫌になるね。まあ、質問は学生の特権でもあるし、いいよ。答えてあげよう」

 

 片目隠れの学生は、マリアの前まで来て答える。

 

「別に何かを教えるつもりはない」

 

 両手を広げて、言う。

 

「言ったろ? 僕は教育実習生。学生だよ。だから、僕は学びたくてここにいる。僕は教育実習生だから、他の教師の授業を無条件に観察することが出来る。どう? 僕の言っていることは理解出来るかな? 一応僕も怪異だけど、人間でもあるからね。人間に理解出来るロジックで話したつもりだけど……」

 

 片目隠れの男の言葉にマリアは納得した。

 確かに、この男の言っていることは筋が通っている。

 

「では、何を学びたいのですか?」

「より正確に言うと、僕は学びたいわけでもないんだ」

 

 紗雪が男の眉間にAKを突き付ける。

 

「要点を話せ」

「君はそれしか能が無いのか? まあいい。僕はね、面白いものが見たくて、興味本位で教育実習生になったんだ。人々が理不尽や不条理、残酷や過酷を前にした時どのようになるのか。泣き叫ぶ顔を見たいし、最後まで諦めずに死んでいく姿も見たい。誰かを庇ったり、誰かを守ったり、何かを託したり、そんな中で友情や絆や愛に目覚めるのも悪くないね。はたまた、人間性の悪い部分が目立ってくる人もいたりする。他人の単位を奪おうとしたり、この学園が外部と隔離されていることをいいことに、口に出すのも憚られるような酷い犯罪行為に手を染める輩もいる」

 

 男は二人を交互に見ながら微笑む。

 

「こういうの、外の世界じゃ見れなかったでしょ?」

「見たくもないですけど……」

「そう?」

「趣味の悪い奴だ。気持ちが悪い」

「酷いなあ」

 

 男は二人の前で本題を切り出す。

 

「それでさ、なんでわざわざ僕が口を挟んできたかって話なんだけどさ」

 

 男は二人に微笑みつつ、言った。

 

「この単位、絶対に取得不可能なんだよね。蒼姫ちゃんを助ければ単位取得ってルールだけどさ、相手の戦力の規模とか、この物語がいつ終わるかとか、どこまで助けなくちゃいけないかとか、一切記述がないんだよね」

 

 それを聞き、マリアはルールを確認する。

 

 1.生贄役は異世界に転生し、目的を達成すると共にこちらに戻り、単位を獲得する。

 2.転生先の世界は乱世の中国のような国、「花国」。ここに二人の姫がいるが、生贄役は片方の姫「紅姫」に憑依し人格を乗っ取る。

 3.紅姫はもう片方の姫「蒼姫」を助けなければならない。救助対象の蒼姫が死んだと同時に、紅姫もまた死ぬことになる。この死は「魂の死」であり、復活は不可能。

 4.紅姫はこちらの世界に助っ人を用意出来る。助っ人は紅姫が生きる花国の物語を読みながら、「10文字だけ」記述を編算することが出来る。この編集能力を使って、助っ人は紅姫をサポートし、単位取得を目指す。

 

「ね? だからさ、文学の単位は無限に戦力を増幅して、無限に期間を引き延ばして、蒼姫ちゃんを絶対に殺す」

 

 マリアは揺れる瞳で何度もルールを読み返す。

 蒼姫を襲うのが誰か、何から守らなくてはならないのか、このルールには記載がない。

 

「馬鹿を言え!!! 書かれていないから何でもしていいなんて馬鹿げた理屈、通用するか!!」

「実際、変だと思わない? 滅茶苦茶な怪物がいくらでも湧いてきてさ。あんなのズルでしょ」

「……っ! 怪異はこのルールを破ることは出来ないんだな……?」

「うん。書かれたルールは誰にも破れない。参加者も、怪異も、それ以外も。ただ、書かれていないことなら好きなようにしてもいい、と、この文学の怪異は考えているらしい。元が他と比べて厳密でない学問だからね、よくこんな酷いことをするなと、面白く観察させてもらっているよ」

 

「記述を消します。これは編集ではなく、私個人のこの本に対する感情です!!」

「やめろマリア!!!」

 

 本を破ろうとするマリアを紗雪が押さえつける。

 

「あはは! うん、面白いけどやめたほうがいいと思うよ。中にいる達也くんの魂も千切れて死んじゃうかも」

「では……消しゴムで敵を消します」

「それ、編集だよ? もう10文字使ってるんだから、書き込むことも消すことも出来ないでしょ」

「だったら私たちも中に入って達也さんと一緒に戦います!!」

「どうやって?」

「……っ」

 

 マリアは奥歯を噛む。

 

「マリア……勝てない勝負なんてない。達也を信じろ」

「嘘言っちゃって。絶対に勝てない戦力差の戦争とかってあるじゃん。終戦記念日の紗雪ちゃんが言える言葉かな?」

 

 AKが火を噴く。

 

「あー。こわ。まあ、君たちも僕みたいに観戦するだけの立場だからね。この学園は怪異のルールで出来てる。人間のルールでは出来てない。だから、人間特有の「両方に勝ち目があるルール」みたいな暗黙の了解もないんだよ。達也くんは絶対に死ぬ。それがこの怪異の定めた運命だからね。理不尽で不条理で残酷で過酷……」

 

 男は笑った。

 

「それがこの学園の呪い。スクール・カースだよ」

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