『バースト・カース』 作:ゅゅ
「なるほど……つまりこの人は人外の生徒さんというわけですか」
ベージュの女が呟く。
「どうする? 殺すか?」
黒髪の女が物騒なことを宣う。
「いいえ、殺しても元に戻るのは今見た通りです。つまり、この方はゾンビでありながら意識を保ったままでいられる希有な存在……。戦うことは避けたいですね」
「なるほど、道理だな」
女は刀を鞘に戻し、俺の身体を隅から隅まで見回して言った。
「お前、本当にゾンビなのか?」
俺の頭の上を指さして
「ツノ、生えてるぞ」
「え?」
頭の上を触ると、確かにツノらしきものが生えている。
少し骨っぽくて、ざらざらしていて気持ち悪い。
「羽根が生えてるぞ。こうもりみたいなの」
「ええ?」
背中を撫でると、確かに薄い何かがある。意識して動かすと、視界の端に黒い布のようなものが映った。
「飛べるのか? ちょっと羽ばたいてみろ」
「お、おう……」
俺は羽根を羽ばたかせ、教室の天井に頭をぶつけた。
どう考えても揚力が発生する程大きい翼ではないが、どうやら俺は飛べるらしい。
「その……何かよく分からないやつはなんだ」
「は?」
「手に持ってるそれだ」
「うお!? 槍?」
俺は手に持っている黒い三つ叉の槍をまじまじと見つめる。
「トライデント? ですかねえ? 虫歯菌が持ってるやつです」
「虫歯菌はトライデントなんか使わないだろ」
「歯医者さんのイラストで持っているのを見たことがあります」
「仮に持ってても虫歯菌では例えないだろ。あれは悪魔の槍だ」
「そんなものがあるんですか? 聖槍ロンギヌスなら知っていますが……」
「さあな。とにかく、アイツは悪魔だな」
「ゾンビであり悪魔でもある、ということでしょうか?」
「ハロウィンに関連するもの全部だろ。見ろ、足が透けている」
俺は自分の足が透けているのを見て半笑いを浮かべる。
もう何でもありだな、これ。
「笑った口から八重歯が見えました。可愛いですねえ」
「あれはヴァンパイア要素だな。おいお前、私たちに力を貸すつもりはあるか?」
「力を貸す……?」
天井に張り付きながら首を傾げる俺に、刀の女は腕を組み、説明を始める。
「この学園は普通じゃない。普通な奴はみんな死んでいく。その点お前は筋がいい。全体的にイカれてる。私たちの目的はこの学園を破壊し脱出することだ。お前の目的は私たちのこの目的と合致するか? 合致するなら一緒に来い。でなければ、どこか好きな教室に住むか退学しろ」
「……退学したら脱出出来るんじゃないのか?」
「退学したら死ぬ」
「俺は死なない」
「能力は剥奪される」
「なるほど……」
このワケの分からない学園から無事に脱出する……彼女たちの目的は俺の当面の目標と完全に合致している。
正直、コイツらと一緒にやっていけるかは怪しいが、何も知らないまま一人でこんな変な場所をうろつくのは危険だ。寄生出来るだけ寄生して、ヤバそうだったら縁を切ろう。
「分かった。俺をお前たちの仲間にしてくれ」
「よし、決まりだ」
「そういえば自己紹介がまだでしたね? 私の名前は安部マリア。誕生日は父の日です。奇跡が起こせます」
「父の日……? 奇跡……?」
「私の能力は──」
「その説明は後にしろ。私は紗雪。終戦記念日だ」
「それで刀……」
片方はよく分からないが、もう片方はまあ何となくそんなところだろうと思っていた。
俺は天井から二人を見下ろして自己紹介を始める。見下ろすと言うと偉そうな感じだが、まだ能力を完全に使いこなせていないのだから仕方がない。
「俺の名前は黒木達也だ。誕生日はハロウィン。どうやら化け物になれるらしい」
「達也さん、これからよろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
「ああ、よろしく」
一通り自己紹介を終え、俺はこの二人と共に学園を攻略することになった。
この学園でこの二人を攻略するのではなく、この二人とこの学園を攻略するのだ。
残念だが、これはギャルゲーではない。
ついさっき首を斬ってきた奴らと一緒に旅を出来るかは正直微妙だが、背に腹はかえられない。
それに、見た目だけなら二人とも美少女だ。俺は天井に張り付いたまま訝しんだ。
「眼福だな……。これってもしかしてハーレムか?」
「手を出してきたら斬り刻むぞ……」
「この身は我が主に捧げるものと決めていますので、そういうことはちょっと……」
「アッ、はい……」
俺の学園生活はこれからどうなってしまうのだろうか……。