『バースト・カース』   作:ゅゅ

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託す

 剣と槍とが火花を散らす。

 狭い天守閣の中、畳の上、四つの足が小刻みに踊り、それに呼応するかのように悲しい金属音が夜の空にこだまする。

 

 切っ先が頬を掠め、僅かに滲んだ赤い筋に雫が垂れる。

 刃が振り下ろされ、それを避けて飛んだところにさらなる一撃が加えられる。

 

 槍の持ち手で敵の攻撃を防ぐと、尻尾を振って足元を薙ぎ払う。しかし、敵は最小の跳躍でそれを躱し、こちらの突撃を掴みそのまま向こう側へと投げ飛ばす。立ち上がり様に槍を振り払う。

 金属音。

 

 一瞬のうちに五度同じ音色が鳴り、そのどれもが殺意を込めた高音だった。

 

 俺と皇帝は互いの剣の切っ先の向こうに、数日前、抱き合った奴の顔を見る。

 

 俺はこの男が嫌いじゃない。

 幾度となく戦場を乗り越え、戦友の死を乗り越え、残酷なことをしてきた奴だ。そのことの良し悪しを俺は知らない。攻める側が悪いのか、攻められる側が悪かったのか、歴史とか、戦争とか、政治とか、思惑とか、そういうことは俺の知ったことじゃない。

 

 俺が知っているのは、コイツが娘を愛していたということだけなんだ。

 

 突き出された刃を避け、振り払われた刃を躱し、俺は槍でもってその心臓を、首を、奪いに行く。

 

 この戦いって、なんなんだろうな。

 俺たち二人とも、蒼姫が好きなんじゃねえのかよ。

 なんで、蒼姫が好きな俺たちが、蒼姫の生死を賭けて戦ってんだよ。

 

 槍が折れ、敵の刃が俺へと迫る。

 

 俺は死を悟った。

 敵があっと呟いた。

 

 なんだよ、「あっ」って。殺す気なかったってか?

 敵の刃が俺の頭に触れるコンマ数秒、見上げた先、皇帝の顔は悲痛に涙を浮かべていた。

 

「っっぅぅおらあああああああああ!!!!!!!!!」

 

 その刃を、俺は頭部にツノを生やし弾いた。

 

 その瞬間、皇帝は驚愕と共に、どこか安堵を含んだような顔をしていた。

 

 なんだよ、だったら、最初から斬りにくるなよな。

 

「らぁあああッッッい!!!」

 

 俺はそのまま首を叩かれた勢いを活かし、右足を軸にして左足を蹴り上げた。そのままスピンして皇帝の後頭部を薙ぐ。倒れた皇帝の腕を裂き、それからもう一方の腕も裂く。腱を斬って刀を弾いて、窓の外に投げ捨てる。

 

「お見事……」

「お前、なんで俺を斬る瞬間に悲しそうな顔をしたんだよ」

 

 俺の声に皇帝は床に倒れたまま、息を吐いた。

 しばらく天井を見上げ、それから、俺のほうを見た。

 

「お主は紅姫ではない」

「ああ」

「お主は蒼姫を守ると言った」

「そうだ」

「私はあの日、蒼姫と共にお主を抱いた」

「そうだな」

「あれは、お主が蒼姫のためにしたことだ」

「……そうだな」

 

「気付いたのだ。お主が何者なのかに。名は知らぬ。出自も、どのような場所の何者なのかも。だが、私は気付いた。お主は蒼姫を想っている」

 

「そうだ」

 

 皇帝は笑い、俺もつられて笑った。

 

「お前が何者か、もはや問うまい。お前は強く、蒼姫を守るにたる騎士だ。私が知れるのはそこまでだ。それ以上のことを知ろうとは思わぬ。人の世は移りゆく、国はいずれ滅び、権力も次なる権力に取って代わられる。それだのに、何を嘆くことがあろう。男児が生まれない程度、笑い飛ばせば良かったではないか。私には、愛する二人の娘がいたのだ。紅姫、そして蒼姫。私にはなによりも尊い宝が二つもあった……!」

 

 皇帝は俺を見据えて言う。

 

「紅姫がどうなったかは問わない。お主がそういう奴でないことを私は知っているからだ。なれば、会話はここまででいいだろう」

 

 皇帝は懐から一つの包みを取り出した。

 

「受け取れ。傷を癒やす薬だ」

「……自分に使えよ」

「多少治ったところで何をする。花国は滅び、皇帝もまた滅ぶ。私は私の成すべきことをしたつもりだ。失敗もあったが、人の身に生まれた以上はしかたがあるまい。花国の次が、私の次が、世界にはあると、私は信じる。それをお前と蒼姫に託すのだ」

 

 俺はそれを聞くと、包みを開いた。出てきたのは丸薬だ。

 俺はそれを飲み干した。僅かにだが、翼が癒えた。

 

「行け!! これ以上言葉は不要!!」

 

 俺は蒼姫を連れて天守閣の窓に飛び乗る。

 瞬間、扉が開き無数のゾンビの群れが雪崩れ込んできた。

 

「ひ、ひぃい!!!! なぜ!!! なぜ私がこんなことに!!!」

 

 皇后は泣きわめき、自らを喰らおうとするゾンビに恐れおののき、窓から飛び降りた。 

 その先で奴がどうなったかは知らない。ただ、落ちた先には余計に多くのゾンビがいることだけは知っている。

 

 皇帝は立ち上がりゾンビを前に脇差しを抜いた。

 

「お父様!」

「お前は空のように蒼く美しい! どこまでも広く、どこまでも透き通る!」

 

 皇帝は蒼姫と俺に振り返り、微笑んだ。

 

「お父様……愛してくれてありがとう!!」

 

 そして、俺は飛んだ。

 

 蒼姫の泣く声が耳元に聞こえる。

 皇帝がどうなったかは、振り返らなくいい。

 

 奴は、託すと言ったのだ。

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