『バースト・カース』   作:ゅゅ

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えっちな目で見てたでしょ?

 俺は大空を羽ばたく。

 真っ黒な、月の無い夜空を。

 

 でも、よく見ればそんな空も真っ暗なばかりじゃない。

 

「見て紅姫! 星が綺麗!」

「ああ! 手が届きそうだぜ!」

 

 詩的な表現とかじゃなく、本当に、手が届きそうなほどに、綺麗な星だった。

 上層の空気は冷たくて寒いけど、だけど空は澄んでいて星の瞬きがよく見える。

 

「私……紅姫に会えて本当によかった」

「俺も、蒼姫に会えてよかった」

「でも私のほうがきっと、もっともっと、よかったって思ってるよ! だって、引っ込み思案で、自信がなくて、何も出来なくて、弱気で……そんなどうしようもない私を、紅姫との出会いが変えてくれたから!」

 

 蒼姫は俺に掴まりながら満面の笑みで言った。

 

「私、紅姫と一緒にいられたこの三日間が、人生で一番幸せだった!」

 

 蒼姫の言葉を聞き、俺は今までの人生を思い返す。

 

 学校に行ってだらだらと授業を聞いて、休み時間に友達とどうでもいい話をして、放課後は誰かの家に集まってゲームをして、それから家に帰って寝るまでぼんやりと過ごす。

 そんな毎日が楽しくなかったわけじゃない。たぶん、幸せだったと思う。

 

 だけど、今の俺にはそんな毎日が考え付かない。

 俺はゾンビに噛まれて女子高生に首を斬られた。廊下で銃を使った甲子園を観戦して、異世界に転生して蒼姫と出会った。忍者とかミノタウロスとか、色々な化け物と槍や尻尾を使って戦った。

 

 怒濤の数日だった。

 何もかもが滅茶苦茶で、凄く痛くて、何度も泣きそうになった。

 でも、全然嫌じゃなかったな。

 

「俺も、蒼姫との時間が人生で一番幸せだ」

 

 寒い夜空、無数の星々に囲まれて、俺たちはたった二人で、お互いの肌の温もりだけでその寒さを凌いでいる。

 

「俺は蒼姫みたいに強くなかった」

「嘘。柚木のこと倒してたし、最初から強かったよ」

「そうじゃなくて。心の話だよ」

「それも嘘。私、紅姫を見て、真似して強くなったんだよ?」

「……俺の真似はよしたほうがいいと思うが」

 

 少し笑う。

 蒼姫は俺とは全然違う。でも、これは蒼姫なりの俺の真似らしい。

 

「俺はさ、たぶん蒼姫みたいに周りの奴らが全員敵だったら逃げ出してたと思う。まあ、紅姫が助けてくれてたんだろうとは思うけどさ、それでも凄いなって思うよ」

「そんなの、耐えてただけだよ……」

「耐えるのが一番キツかったりするぜ。戦ってる時は、無我夢中で、何も考えてねえし……」

 

 蒼姫が俺の身体に寄り添う。

 

「じゃあさ、私って凄い子かな?」

「凄い子だ。可愛くて綺麗でどうしようもない。手放したくない。ずっと一緒にいたいって思う」

「また見た目のことばっかり……」

「ごめん。俺、こういう奴だからさ……」

 

 なぜだろう。

 全然泣くような会話じゃないのに、目に涙が滲んでくる。

 彼女はその涙を拭ってくれた。

 

「知ってた。最初に出会った時からそうだったもん」

「ああ……」

「お風呂の時、私のことえっちな目で見てたでしょ?」

「バレてたか……」

「バレバレだよ! でも、嫌じゃなかったよ……?」

「お前……そういうのやめろよな……。俺、調子に乗りやすいんだからさ……」

 

 調子に乗りやすいのに、なんでこんなに俺は正直に何でもかんでも言っちまうんだ?

 女の子の前なのに、好きな子の前なのに、何で格好付けた返しが出来ねえんだ?

 

「そういうところも好きだよ。私にはないところだもん」

「隣の芝は青いって言うぜ。でもまあ、そういうことなのかもな……。俺が蒼姫を強いって言ったのも、蒼姫がそう言ってくれるのも……」

 

 翼が徐々に痺れてくる。

 もう、あと少しで俺たちはこの二人きりの空を離れないといけない。

 

「蒼姫……」

「うん」

 

 俺は蒼姫を抱き閉め、翼を閉じた。

 暗い闇の中を俺たちは落ちていく。

 

 満点の空。肌を切る冷たく澄んだ大気。

 胸の中の温もり、本音で話せる友達。好きな女の子との二人の時間。

 二人でした約束。人生。戦い。未来。希望。

 

 俺の中で、全てが加速し、全てが終幕へと突き進んでいく。

 俺は翼を広げ、減速した。

 

 降り立ったのは、小さな川の橋の上だ。

 紅蒼城はもう見えない。皇帝がどうなったのか、皇后がどうなったのか、もう俺たちには分からない。

 

 俺は茂みから現れるゾンビの群れを見据えた。

 

 逃げ切れるとは思っていなかった。

 ここは、どこまで行っても文学の怪異の体内だ。

 俺はただ、蒼姫と二人で飛びたかった。だから、俺の翼は戦うためじゃなく、二人の時間のために使ったんだ。

 

 羽根が朽ちていく。ぼろぼろの炭になって、風に吹かれて消えていく。

 俺は代わりに槍を手元に出現させた。尻尾を生やした。角を伸ばした。

 

「蒼姫、俺は戦う」

「うん」

「お前を助けたいから」

「うん」

「お前を救いたいから」

「うん」

「お前が、大好きだから」

「……私もだよ」

 

 彼女は俺の頬に口付けをした。

 俺は彼女を背に、怪物たちの前に踏み出す。

 

「来いよゴミ共! 何回だって殺してやるからよおぉおお!!!!!!!」

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