『バースト・カース』   作:ゅゅ

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分からないからやるんだよ

 それはまさに終わりの来ない戦いだった。

 俺はゾンビの群れを撒き散らし、血飛沫の雨を降らせ、腕やら、足やら、首やら、色々なものを斬ったり投げたりして、俺自身も、斬られたり投げられたりした。

 

 俺はズタ袋かボロ雑巾みたいな身体で立ち上がり、吠える。

 蒼姫に指一本でも触れそうになった奴はみんなサイコロステーキにしてやった。

 

 敵はゾンビだけじゃなかった。

 ミノタウロスが突っ込んできたり、甲冑に串刺しにされたり、俺はそれでも止まらなかった。

 

 血を吐きながら、内臓を溢しながら、頭蓋骨も砕かれた。

 俺の再生は遅い。だから、もう俺はグチャグチャだ。だけど、蒼姫だけはまだ誰にも触れさせていない。

 

 俺は尻尾を振り回して雑魚を薙ぎ払い、ミノタウロスを槍で八つ裂きにする。

 甲冑が俺の腕を引き千切り、俺もツノで甲冑の首を突き刺してやる。

 

 もう何もかもがグチャグチャだった。

 血の海の中で、殺せば殺すだけゾンビが湧いてくる。

 ミノタウロスは殺しても新たに現れるし、どうやらこの甲冑は絶対に死なないらしい。

 

 俺の槍は粉々に砕け、尻尾は千切れた。

 両腕を裂かれ、俺は木の幹に叩き付けられる。

 

 真っ暗な夜。怪物たちが俺の死体に喰らい付こうと詰め寄ってくる。

 だが残念。俺はまだ死んじゃいない。

 

 ツノでゾンビを突き刺し、そのまま伸ばしたツノを振り回して何もかもを薙ぎ倒す。

 敵が蒼姫に手を出そうとしたら俺は目の前にいる敵を無視して全速力で突進する。

 ツノを武器にしてるあたり、もう牛とか鹿みたいなもんだ。

 

 牛か鹿にでもなった俺は、闇の中に奴の「目」を見た。

 

『無様だな、愚かな人の子よ……』

「文学じゃねえか……。久しぶりだなあ。久しぶりってほど時間経ってねえか。でも久しぶりって言っとくぜ。それだけ俺と蒼姫のこの三日間は濃密だったからなあ……」

『醜い姿に成り果ててまで、その無様な姿を彼女に晒し続けるのは何故だ?』

「は! ハハハハハハハ! 面白いこと聞きやがる。守ると決めた女のためなら俺はゴキブリかナメクジにだってなってやるぜ?」

『なるほど。しかし、お前は既に知っているはずだ。この世界が終わりに近いことを。蒼姫が助かることはないということを』

「お前の決めつけに付きあう気はねえよ」

『なんだと?』

 

 俺は闇の中の目に舌を出してやる。

 

「お前は決めつけでものを喋る癖がある。怪異だからな、ルールに厳しく生きてるんだろうな。そんな生き方じゃ面白えもんもつまらなく見えちまうだろな」

『貴様は何を言っている?』

「何も言ってねえさ。口から出てくる言葉をそのまま口から出してるだけだ。だがお前のしみったれた鬱々とした語り口よりかは多少はマシなこと喋ってると思うぜ。どうだ? 説法してやろうか? お前が相手なら俺でも釈迦になれるような気がするぜ」

『血を出しすぎてマトモな思考能力を失っているようだな。私が貴様の前に現れたのは、貴様が今まさに死に絶えようとしているからだ。私はこの閉じた世界の中で、ただ一つ、外部からの異邦者を招き入れ、その者の生き様を見聞きし、自らの糧としている。文学とは、死者の言葉だ。それを記した者はみな死んでいる。死んでいない者も、いずれは死にゆき、記された言の葉はやがて死者の言葉となる。私は死者との対話を通して自らの存在意義を問うている』

 

 俺は闇の中に潜む文学に言ってやる。

 

「だったらもっと沢山の人と話せや。一対一で語り明かすのも悪くはねえが、どうしたって一対一での会話になっちまうだろ。登場人物は多い方が楽しいぜ? あと、同じ本ばかり読んでねえで、外の世界に目を向けたらどうだ? お前、自分の体内のことばかり見過ぎなんだよ。自分の体内で人間がどうなるか確認して、人間ってこういう生き物で~す!って、理解したつもりか? こんな鬱々とした世界じゃあなあ」

 

 俺はツノを文学に叩き付ける。

 

「俺以外の奴は参っちまうだろうがよぉおお!!!!」

 

 だが、叩き付けた先には何もない。

 そのすぐ横で、目が開かれる。

 

「面倒臭え奴だ。姿を現してタイマンで決着付けろよ。俺がそんなに怖いか……? 俺は全身から血を流して腹には穴が開いてるし、両腕はねえし、翼も槍も無くなって、尻尾も千切れてるぜ。こんな俺でも目の前に姿を晒すのは怖いか?」

『よかろう』

 

 闇の中から、闇としか形容出来ない人影が現れる。

 身長は三メートルほどだろうか。巨大だが、その姿はまるで見えない。

 それはそうだ。コイツは俺の前に姿を現すなんてこと、端から出来やしない。

 

『これは私の精神イメージだ。お前がどうしても対面で話したいと言うから出してやったが、お前の知っている通り、私の本体はこの世界そのものだ。ここは私の体内であり、私の体内に私そのものが姿を見せることは出来ない』

「は! 構わねえぜ?」

 

 俺は体重を預けていた木の幹から身体を起こす。

 

 千切れた尻尾を僅かに伸ばし、その先端にナイフのように小さな槍を出現させる。

 

「随分と能力使ったから勝手が分かって来てんだ。全回復とは言わずまでも、これくらいなら用意出来る。これだけあればお前を殺すには充分だぜ……」

『意味のないことを。お前が今から殺りあうのは、私の分体……私の影のようなものだ。だから殺しても意味はない』

「意味がねえか、やってみねえと分かんねえだろ……」

 

 ああ、俺はいつだってそうだ。

 

「分からねえからやるんだよ。心を強く持つためにな!」

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