『バースト・カース』   作:ゅゅ

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究極の選択

 俺は文学を斬り付ける。

 だが、文学はその傷を何ともないといった様子で俺に斬られ続ける。

 何度も、何度も俺はコイツのことを斬り続ける。

 

『無駄なことを……』

 

 俺はコイツが気に入らない。

 同じ事を何度も繰り返して、それで全部分かってつもりになってやがるコイツが。

 閉じた世界を観察して、そこに生きる人々を文字の羅列だと馬鹿にしやがるコイツが。

 未来を閉ざし、他者に絶望を押し付け、その絶望の中で藻掻く奴を嘲笑いやがるコイツが。

 

 俺の好きな子を泣かせやがるコイツが……。

 俺は気にくわない。

 

「うぉおおあおおおおおお!!!!!」

 

 俺は知っている。

 こんなことしたって無意味だって。コイツは人を越えた怪異だ。上位存在だ。

 今目の前にあるコイツの身体はコイツの用意した人形で、どれだけ傷付こうが、どれだけ死のうが、コイツには何ら関係がない。

 

「ああああああああ!!!!!!!!」

 

 それでも、俺はコイツをひたすらに斬り刻み続ける。

 

『飽きた』

 

 俺の身体は吹き飛ばされ、木の幹に腹を強打する。

 くらくらする頭で俺は天を仰いだ。

 

「紅姫!!」

 

 遠くからあの子の声が聞こえてくる。

 俺の身体は一ミリも動かない。もう、本当に限界だ。

 

『お前は意味のないことに体力を使いすぎた。そして、私はもうお前から得られるものがないと判断した。だから、この世界はこれで終わりだ。また、世界は一ページ目に戻る』

 

 瞬間、俺は嫌な音を耳にした。

 何かが肉に刺さる音だ。

 

「ぁ、か……ひめ……」

「蒼姫……?」

 

 俺は声のほうを見た。

 

 視界に映ったのは、一振りの剣によって貫かれた彼女の姿だ。

 蒼姫は口から血を吐き、そのまま剣を抜かれ、崩れるようにしてその場に倒れ込んだ。

 

「蒼姫!?」

 

 俺は立ち上がった。

 

 全身の細胞がもう動くなと騒ぐ。黙ってろ。俺は行かなきゃならねえんだ。

 俺は蒼姫の目の前まで走りぶっ倒れる。彼女のもとへと這っていき、その細い手に触れる。

 

「蒼姫……」

「紅、姫……?」

 

 蒼姫は顔を上げ、俺の顔を見て微笑んだ。

 

「分かってた……。私は、最初からこういう運命だって……。でも、それでも戦った。それは、私の意思だから……私の……道だから……」

「蒼姫! もう喋るな! 死んじゃうだろ!!」

「私……あなたに会えたから、ここまで戦えた……。戦って、よかった……」

「よくないだろ!!! 死んだら……終わりじゃねえか!!!!!」

 

 俺は全力で這いずり、蒼姫を抱く。

 冷たい。もうじき蒼姫は死んでしまう。

 

「紅姫……私は、あなたを忘れて生きるより、覚えたまま死にたい……」

「……ッ! クソ……!!」

 

 そんな最悪の二択、俺は認めない!

 

 刹那、俺の目の前に扉が現れた。

 目映いばかりに輝く光の扉が。

 

「なんだ、これは……?」

 

 文学はその扉を見つめ、それから叫んだ。

 

「貴様!! まさかッ!!!!」

『達也さん!! 時間がありません! 蒼姫さんが死ぬ前にこの扉をくぐってください!! これは私たちの最後の手段!!! 非常用の脱出口です!!!!』

 

 文学はその声に絶叫する。

 

「私に……貴様!! 私に……「挿絵」を描いたな……ッ!!!!」

 

 そうか。

 

 マリアたちは外部からこの世界に干渉することが出来ない。だが、一つだけ例外がある。彼女たちは編集権を使い、本に書かれた文章を10文字だけ書き換え、現実を改変することが出来る。

 

「11文字目で死ぬ……。だが、これは文字じゃない……」

 

 本の内容がこの世界のすべてだ。

 だとすれば、次のページに挿絵を描けば……その絵はこの本の中に反映され、現実化する……。

 

『これは切り札です!!! 達也さん!!!!』

「……ッ!!」

 

 文学は俺のほうを見た。

 

『達也さん早く!!』

「マリア……。もしかして、その扉をくぐったら……助かるのは俺だけなんじゃないのか……?」

 

 俺は蒼姫を抱いて問うた。

 

 文学は言っていた。

 

 存在は、自らを規定するルールによって支配される。支配するルールの違う情報は、そこに安定して存在することは出来ない。蒼姫はこの「紅姫蒼姫物語」の登場人物で、文字情報によって構成された存在だ。

 

 文字によって構成されていない世界では、蒼姫は自らの存在を補強出来ない……。俺の名前がこの世界で消滅したのと同じように、蒼姫はあちらの世界では消滅してしまう……。

 

「蒼姫は! この世界を出たら! 消えるんじゃないのか!?」

『達也さん……』

 

『そうだ!! 蒼姫は本の中の文字だ!! 文学の怪異の身体の一部だ!!!』

 

 紗雪は叫ぶ。

 

『蒼姫は諦めろ! そうしたら、もう一度一からやり直せる!! 体勢を立て直して再戦することが出来る!! 蒼姫は、最初からこうなる運命だったろ!! 勝とうが負けようが、この世界はループする!!! だから、達也!!! これは未来を掴むか、捨てるかの選択だ!!! 自分自身が死んだら何もかもが終わりだぞ!!!』

 

 生きるか死ぬかの問い。そんな純粋な問いが俺に死神の鎌のように突き付けられた。

 俺は蒼姫を抱き、紗雪の言葉に、目の前の扉に、奥歯を噛んだ。

 

『選べ!! あるのは二つの悪夢だ!!! お前はどちらを選ぶッ!!!』

 

 この世界が理不尽で不条理なのは分かっているだろう。

 そう、紗雪の声が問うている。

 

『生きるか!!! 死ぬかッッッ!!!!』

 

「俺はッッッ!!!!!」

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