『バースト・カース』   作:ゅゅ

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デッド・ボール

「ところで、なんで廊下にゾンビがいたんだ?」

「さあな」

「ここはそういう場所ですから」

 

 つまり、この二人もこの学園のことはよく分からないということらしい。

 俺は紗雪とマリアがゾンビを蹴散らしていく後ろを飛びながら付いていく。すると、ふと学内掲示番が目に付いた。

 

「おいこれ! なんか色々書いてあるぞ! 有益な情報があるかも……」

 

 校内見取り図に部活案内、校則の数々に……

 

「何だ、これ」

 

 一階……ゾンビの階

 必須単位……文学、化学、芸術

 

「単位って何だ?」

「教室に入って授業……という名の戦闘を乗り越えると取得出来るトロフィーのようなものだ」

「そのトロフィーはゾンビを殺すと手に入るのか?」

「ゾンビは廊下に住む雑魚だ。授業はあれの比じゃない」

「そうなのか?」

 

 俺はマリアのほうに聞き直すと、彼女はにこりと微笑みポケットから「芸術」と書かれたバッジを取り出して見せてくれた。

 

「これがその単位です。私は芸術の単位を取得しています」

「あまり見せびらかすな。どこで誰が見ているか分からないぞ」

「なんだよ紗雪、嫉妬か?」

「違う。……見られてたか」

 

 紗雪とマリアが歩みを止め、俺は廊下の先へと視線を向ける。

 

 立っていたのは俺と同じ学ラン姿の男だ。

 時代錯誤のリーゼントヘアに、劇画と見まごう彫りの深い顔立ち。筋骨隆々とし、背は高く、とても同年代とは思えない学生が一人、俺たちの前に立ちはだかる。

 

「芸術の単位……寄越せ」

「あらあら……」

「こういうことが起きるから見せびらかすなと言ったんだ」

 

 男は何も無い空間から金属バッドを取り出すと、その場で素振りを始めた。

 紗雪は刀を抜き、マリアはロザリオを掲げる。俺は……宙に漂ったまま、トライデントを構えた。たぶん威嚇くらいにはなるだろう。

 

 刹那、二つの金属が爆ぜた。

 紗雪が廊下を蹴り、一瞬にして間合いを詰めたのだ。野球バッドと刀が鍔迫り合い火花を散らす。

 

「うわ……こええ~……」

「神よ……紗雪さんにご加護を……」

 

 紗雪の刃が男のリーゼントヘアを掠め、男のバッドが紗雪の脇腹を抉る。紗雪はそのまま殴り飛ばされ、壁にぶつかって俺たちの足元へと転がってきた。

 

「おい! マジかよ! 大丈夫か!?」

 

 刹那、紗雪の身体から無数のAKが飛び出した。

 

 暴力……としか表現出来ないほどの火花と轟音。火薬の匂いと爆ぜる鉛の閃光。廊下は一瞬にして戦場の最前線へと早変わりし、俺はマリアの横で思わず息を飲んだ。

 

「じゃあ最初から撃てや……!」

 

 暴力的な弾幕が押し付けるのは圧倒的な死の密度。全てが終わったあと、廊下は噎せ返るほど濃密な煙に満たされ、視界は一メートル先も見えないほどの濃厚な霧によって遮られていた。

 

「つまり、あれか。単位ってのは他の生徒から奪え、る──」

 

 霧が晴れ、廊下の向こうにあるはずのないものが見えた。

 

 敵の男はバッドを振りかぶったままのポーズで立ち尽くし、すっとこちらを見据えている。

 金属バッドはべこべこに凹み、無数の銃弾の跡が、その場で何があったのかを物語っている。

 

「嘘だろ!? あの銃弾全部打ち返したってのか……!?」

「俺の誕生日は高校野球記念日だ」

 

 男は跳弾でぼろぼろに破けた学ランを脱ぎ捨て、崩れたリーゼントを掴むと、それもまた脱ぎ捨てる。

 彼は黒衣の不良ではなく、白いユニフォームを身に纏った、坊主頭の高校球児へと変貌した。

 

「高校野球記念日……。つまりは初めて甲子園が行われた日だな……」

「どうやら飛び道具は通用しないようですね。あのバッドで全て打ち返されてしまいます」

「おい紗雪……大丈夫か? 銃はダメらしいぞ?」

 

 紗雪は立ち上がり、廊下の端に血を吐き捨てた。

 彼女は全身のAKを引っ込め、代わりに右腕にバレットM82を生やした。

 

「デッドボールを撃つまでだ!」

「なるほど、試合をさせずに退場させるということですね?」

「なるほどなのか? 意味分かんねえぞ?」

 

 男はバッドを構え、紗雪はバレットを構える。

 世界最悪の甲子園が、今、この廊下で幕を開ける──。

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